サンとファルが、酒場で飲み始めて、1時間がたった。
ファルはすっかりサンと打ち解け、
わいわいガヤガヤ、話し込んでいた。
「すると、お前はその伝説の宝ってのを探してるのか」
サンはファルを馬鹿にした様に言う。
するとファルは食って掛かる。
「むっ!お前信じてないな!
本当にあるんだぞ!インデダム山の頂にあると云われてるんだ!」
「…本当にあるとして、お前インデダム山がどこにあるか知ってるのか?
ここからずっと南のアルマイヤ地域を抜けて、
さらに南のインデダム地域の、ど真ん中にあるんだぞ。
その伝説の宝とやらを見つけたいんなら、何でここにいるんだ?」
サンは明らかに馬鹿にしている。
だがファルは、それに怒らずまともに答える。
「宝集めの資金集めだ。
インデダム山は滅茶苦茶遠いからなぁ、金がかかるんだよ」
真剣な面持ちで答えるファルに、サンは気になる事を聞いてみた。
「……それで盗賊するのか?」
すると、
「ま、それだけじゃないんだがな……」
と、ファルが一瞬、遠い眼をした。
サンはファルの意外な反応に少し驚くと共に、
ファルがなにやら訳ありの様だと感じた。
そこにレイナが話しかける
「そういえば、サンさんは『死神』ってよばれてるんですよね。
何で、そうよばれてるんですか?」
するとサンはコップを口に運びながら、ゆっくり答える。
「さあ? いつの間にかそういわれてる。
皆がそう呼ぶから、じきに自称するようになったがな。」
そこへファルが説明し始める。
「サンが『死神』と云われるのは、とても強いからなんだ。
サンと戦った者は、誰一人として生きて帰れない。
そこから、出会ったら最後死ぬと云われる存在、死神に例えられて死神と呼ぶようになったんだ。
死神の名は、裏の世界では知らないものがいないほど知れ渡っていて、
表の世界でも武芸にたずさわる者なら誰もが知っている存在。
ある者は死神を恐れ、ある者は憧れ、ある者は尊敬し、またある者は超えたいと願う。
ただ、死神の名は知れ渡っているけど、その素性は一切不明で、
本名どころか、姿、性別、経歴、一切分からない。
時には、架空の人物だといわれるほどに謎を秘めた人物。
……なんだが…、まさかその正体が、
こんな若い、そこら辺にいそうな女だったとはな……」
ファルがサンの方をチラリと見る。
レイナはいまいち理解が出来なかったが、とりあえず凄い人なんだなと解釈する。
「……なんか良く分かんないですけど、とにかく凄い人なんですね」
ファルはうなづく。
「ま、そういうことだ」
そして今度はサンを向き、気になっていた事を聞いた。
「そういえばサン、お前人探しをやってると言ってたな。
誰を探してるんだ?」
サンは静かに答える。
「……ある兄弟を探している」
レイナは、興味深げだ。
「兄弟ですか……」
ファルが詳細を聞く。
「どんな兄弟なんだ? あんたが探すような奴だから、相当な奴なんだろ?
特徴を言ってくれれば大抵の奴は分かるぜ」
サンは少しうつむき眼をつぶり、静かに答える。
「……私自身、どんな容姿でどんな名前かも知らないんだ。
知っている事は、双子で男と女ということだけだ」
ファルは呆気にとられる。
「それだけか!? それだけでよく人探しをやれるな」
サンがファルと眼を合わせる。
「それと、二人はバラバラでいる事は分かっているんだがな」
「ぐわー! 最悪じゃねえか!
姿も名前も分からない上にバラバラって、情報が全くの皆無って事だぞ!」
ファルが派手にリアクションをする。
サンはそれを気にもせず、続けて答える。
「……心配ない」
「どこが!? 思いっきり心配だぞ、見つけられるわけ無いだろ!」
ファルもレイナも、見つけられる訳ないと思っている。
だがサンは簡単に言う。
「双子の親の顔を知っているから、似ていればそいつだ」
サンの言葉に、ファルとレイナは呆れる。
「……すげーアバウト」
「サンさん、本気で言ってるんですか?」
二人ともサンをまじまじと見るが、顔を見る限り本気で言っているようだった。
ファルはとりあえず親が誰かを聞くことにした。
「……で、親の顔を知ってるんだろ。誰なんだ?」
すると、サンは静かにハッキリと言う。
「蟲殺」
「………え?」
ファルは固まる。
レイナはキョトンとしている。
「むしごろし? また意味の分からない単語が……」
ファルはその名が信じられなかった。
「蟲殺…って、え? あの殺し屋か?」
「そう、かつて大犯罪組織、黒龍のボスの護衛をやっていた、
最強の殺し屋」
「なにい!」
「黒龍のボスを護衛してた人なんですか!?」
黒龍と聞いてファルや裏の世界に疎いレイナも驚く。
それのそのはず、黒龍は世界最大の大犯罪組織で、
その名を知らないものはいないほど、世界に知れ渡っている組織である。
具体的にどのような活動をしているのかは余り周知されていないが、
おもに闇市を取り仕切っていることで有名で、
非常に強力な力で闇市を統治しているため、闇市が行われていると分かっていても
政府も手を出せないでいる。
また、黒龍のボス、「レイ・カンツォ」は全世界に指名手配されており、
犯罪者の危険度が最高ランクのSSSに指定されている。
SSSに指定された犯罪者は、これまでほかに一人しかおらず、
約300年前、超大国アラレマス帝国でクーデターを起こした、
アラルドルク・クリエイトのみである。
レイ・カンツォが実に約300年ぶりにSSSに指定されたため、
全世界が驚愕した。
ファルはとても信じられない話だと思ったが、
死神のサンが言うことを嘘と思う事も出来なかった。
「……マジかよ。まさか蟲殺に子供がいるなんてな……」
「ま、そんなわけだ。あいつの子供なら
それなりに有名になっているかもしれないからな。
有名なやつに片っ端から会えば、いつか会えるとふんでいる」
レイナはサンの口ぶりから蟲殺と親しい仲なのではと思う。
「お知り合いなんですか?」
「…まあな。無口で非常に不器用な奴だった」
サンがどこか寂しそうに言う。
レイナはもしかしたら聞いてはいけない事なのではと思い、
それ以上深くは聞かないことにした。
するとサンはそれ以上話す事は無く、黙り込んだ。
そこへファルが呟くように話し出す。
「……俺さあ、蟲殺に会った事があるんだ」
それを聞いてサンは驚く。
「本当か?! あいつは十六年前に死んだんだぞ」
「それじゃあ、会ったのは死ぬ直前だな」
俺が五歳の時だ。
あの時俺はオーラン王国の王都に住んでいてな、
当時オーラン王国は内戦で荒れていて、あちこちで政府軍と反政府軍が衝突していた。
で、たまたま反政府軍にお世話になる事があってな、
政府軍と最後の決戦をするから逃げろと促されたんだ。
その時やってきた反政府軍の中にいかにも場違いな少女がいたんだ。
とても背が小さくて、見た目は10歳やそこらに見える少女だったんだが、
反政府軍の仲間の少女への振る舞いがまるで腫れ物にでも触るかのようだった。
非常に不思議に思って、反政府軍の会話を聞いていたんだ。
その会話の中で反政府軍の仲間が少女を蟲殺とよんでいた。
その時は知らなかったが、
裏社会に入って蟲殺がどんな奴かを知って、背筋が凍ったよ。
なにしろ、政府軍と反政府軍の決戦は反政府軍が勝利したんだからな。
「表向きは全員の力で勝利したみたいになっているが、
実際は蟲殺の活躍があったからに違いない」
レイナはとても信じられないとばかりに言う。
「そんな小さな少女が蟲殺だなんて、とても思えないけど……」
ファルはレイナへ言い返す。
「確かに、あの少女が最強の殺し屋『蟲殺』とはとても思えない。
けど確かにそう話していたんだ」
サンに問いかける。
「サン、どうなんだ? あの少女は蟲殺か?」
サンはゆっくり答える。
「その少女は蟲殺だ。あいつはとても背が小さかったからな、
よく子供に間違えられていたよ」
だがレイナには信じられなかった。
「けど、十歳くらいの女の子に見えるって、いくらなんでも……」
レイナがサンに言った、その時
「おっ! ファルここにいたのか!」
酒場の外から声がした。
三人とも声のした方を見る。
声のした方を見ると、そこにはアビブがいた。
アビブが、ファルに話しかける。
「ファル、ボスが呼んでるんだ。来てくれ」
ボスが呼んでいるとなれば、行かなくてはならない。
「分かった」
そしてファルは席を立つ。
「それじゃサン、機会があればまた会おう」
「ああ」
ファルがサンに別れを告げて酒場を出ようとすると、レイナが引き止める。
「あっ、ファルさんちょっと待って」
「ん、なんだ?」
レイナは満面の笑みを浮かべると言った。
「お勘定」
「え゛っ」
2009/5/22 一部追記。
2009/6/3 脱字修正
2010/1/10 改稿
2011/4/10 一部加筆修正。
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