「僕の負け? 言ってる意味が分からないんだけど」
テラは、サンに嘲笑うかのように言った。
だがサンは表情を変えず、
「…オロクィスメートは、武術や魔法の心得の無い者が、
容易に戦闘を行えるように使う物だ。
それを使っているという時点で、お前が弱いと言っているようなもの」
と言い放つ。そしてもう一言加えた。
「背後には誰が居る?」
「……何?!」
テラ達は驚いた。この襲撃の裏に誰か居る事に、何故気づいたのか。
テラの表情から余裕が消える。
「……何故…背後に誰か居ると?」
その問いかけにサンは淡々と答える。
「簡単な話だ。オロクィスメートなど、この共和国で、首都圏ならともかく
地方で手に入るわけがない。
それを持っているという事は、誰かの協力を得ているという事になる。
いくら赤き鷹が共和国最大の組織と言っても、
盗賊団である赤き鷹が集落を潰すような事はしない」
「……中々の賢者なようで。
だけど、居たからどうだと言うんだい?」
「………」
サンは黙り込む。
そこへ突然大声が走った。
「――お前等か、この集落を襲撃したのはぁ!」
声のした方を皆が振り向く。
すると、テラ達の右後方に生えている十五メートル位は有る木の天辺に、
赤い鉢巻をした男が居た。
男は金髪で、真っ黒の身体に密着した服を着て、
手には黒い手袋、靴も真っ黒と全身黒の黒装束の姿をしている。見た目は二十代前半くらい。
「演劇の公演許可を取りに遥々(はるばる)タルキルから来たのに、
宿屋ではぼったくられ、夜には魔物共に叩き起こされ、
満身創痍で財布も空っぽ、おまけに寝不足と物凄い疲労感。
お前ら俺様がぶっ倒れたらどうするつもりだぁ!」
男は握り拳を掲げて訴える。
(何だこの男は)
皆が心の中で呟いた。
「……何者です」
テラは男を鋭く見つめる。
すると男は両手を腰に当てて、胸を張って見得を切る
「俺様を知らないとは、お前もぐりだな。
俺様は世界を股に掛けるタイルマ劇団団長!
世界のスーパースター!(自称)シバ・ディアス・グライアス様だぁぁぁぁ!!」
(……タイルマ劇団……、タイルマ一族が運営する世界を旅する劇団か……)
テラは鋭く見つめたままだ。
そこへミランダが突然、
「師匠!」
と叫んだ。
ミランダに視線が集まる。
「おおっ! お前は我が愛しの愛弟子、ミランダじゃないかぁ!」
ミランダの呼びかけにシバは木から飛び降りた。
「華麗に着地☆」
ペネムがミランダに話しかける。
「あの変な男が、姉さんの師匠?」
「そ。いつも妙にハイテンションなんよね…」
ミランダは頭を抱えるように言う。
そこへシバがペネムを指差した。
「ちょっと待てぃ! 聞き捨てならねぇなミランダの弟とやら。誰が変人だ!
俺様が変人ならば、この世の中の人は全員変人だ!」
「じゃ、奇人」
「誰が奇じ…ハッ、そうか!
奇人という事はレアな人という事か! だが違うぜ、それは。
俺様はレアじゃなくて、この世にたった一人のスーパー・ウルトラ・ハイパーレアな、
スーパースターなんだぜ!」
決めポーズを決めるシバに、冷ややかな視線が集中する。
だが、シバは気づかない。
「隣の君ィ!」
シバはペネムの隣に居るファルを指差した。
「え!? お…俺?!」
「そう君だ! 突然だが、俺様が何故スーパー・ウルトラ・ハイパーなのかを答えろ!」
「え……え~……、………ス……スター……だから?」
「ちっがーーーーーーーーーーう!!!!!!!
俺様がスーパー・ウルトラ・ハイパーなのは!
スーパー強くて、ウルトラかっこ良くて、ハイパー面白いからだ!!
カッコ良い事言った俺! お前等メモっとけよ!
あと、サインは今のうちにな! 後でくれっつったって暇無いからな~」
「……確かに、ある意味面白い」
サンの呟きに、皆がうなづく。
そこにテラがシバに話しかける。
「シバ・ディアス・グライアス。名前は知っているよ。
世界に轟くアラレマス帝国の三人の最強の拳法家、御三家が一人」
「それが何だ!? 俺様は世界を旅する劇団の、空前絶後のスーパースター!
それ以上でもそれ以下でも無いぃぃ!!
ハッ、そーか分かったぞ! 俺様のサインが欲しいんだな!?
イエス! ファンの為ならエンコラサッサ!
何百万枚でも書いてあげようじゃないか!」
「……人の話を聞いてるのか?」
テラは呆れはてる。
ジャイロはテラに言う。
「コイツのくだらん話に付き合っている暇は無い。
さっさと殺してしまえ」
この提言にテラも同意する。
「そうだね、死んでもらおうか。みんな、行きなよ」
テラは魔物たちに呼びかける。
シバの周りに魔物たちが集まってくる。
「師匠、気をつけて下さい!」
ミランダが呼びかける。
するとシバは魔物たちが寄って来たのを見て、
「ん? 何だお前達。サインが欲しいのか」
「違いますよ! 師匠を殺そうとしているんです!」
すかさずミランダは突っ込む。
そこへ魔物の群集の中から一体の魔物が出てきた。
その魔物は、骸骨に軽装具を着た剣士の姿をしている。
「貴様如き、余が切り捨ててくれよう。皆の者、手を出してくれるな」
魔物たちに下がるよう呼びかけると、周りの魔物達は下がった。
「では参るぞ」
骸骨が構える。
すると、シバは少し考え込み…
「……わざわざ一人で来る……という事は、
俺様のファンクラブ入会希望者か!」
「どんな勘違いですか!
師匠! ふざけないできちんとやって下さい!」
「何言ってるんだ、俺はいつも真面目……うわっと!」
骸骨がシバに斬り込んできた。
それを間一髪シバは避けた。
「貴様の首、頂戴する」
骸骨は幾多も剣を振るっていく。
だが、シバはそれを擦れ擦れで全てかわす。
「悪かった! サインが欲しかったんだな!?
いくらでも書いてやるぞ!」
「そのような物、いらぬ!」
骸骨の剣の動きが激しくなる。
「師匠! ふざけてないで、いい加減戦って下さいよ!」
ミランダが呼びかける。
「何! まさかこのガイコツ剣士は敵だったのか!?」
驚きの声を上げた。
「今気づいたんですか!?」
ミランダはあきれ返る。
サン達も苦笑いをしている。
するとシバは骸骨と間を取り、構えた。
「心配するなミランダ!
俺様がやる気になったからには、どんな奴もイチコロだぜ☆」
そして骸骨に指差し、叫ぶ。
「覚悟しやがれ! 俺様のこぶしは流れ星の如く素早く、
拳銃のように風穴を開けるせ!」
「…いいだろう、かかってくるが良い」
骸骨は剣をナナメに構えた。
刹那、シバが骸骨に突っ込んでいく。
骸骨はシバを傍まで引き寄せると真上から縦斬ると、シバはそれを右に避けた。
「隙見っけ☆ スーパースターの拳を受けろぉ!」
骸骨の上体が下がった隙に右手で殴りかかった。
が、骸骨は下半身をしゃがませて体を更に下げて避け、
シバが空振りした隙に左肘で勢い良く肘打ちをして、突き飛ばす。
シバは木に激しく叩きつけられる。
だが、すぐ起き上がり、骸骨に向かって指差して叫ぶ。
「おい待てぃ! 剣士のくせに剣を使わずに攻撃するのは卑怯だろぉぉ!
正々堂々と剣だけを使って勝負しろ!」
異質な注文に骸骨は少し困惑するも、きっぱりと断る。
「……奇妙な文句を言う奴だ。武器を使うな等と言う奴は居るが……。
……戦場では戦いに正当な手段はない。
余がどの様な手法を用いようと、誰も咎められる物ではない。
貴様も手段を選ばずとも良いのだからな」
するとシバは笑って構える。
「言っとくが俺様はこれでも拳法家だ。戦闘手段は両手両足の四股のみ!
武器は使わねえ主義だ!」
すると骸骨は剣を上に振り上げて構える。
「……良いだろう。貴様のその姿勢に敬意を表し、余の剣の真髄を見せてやろう!」
骸骨はシバに突っ込んで行く。
骸骨はシバの傍まで来ると、右手に持っている剣を勢い良く振り下ろした。
シバはそれを素早く右に避け、反撃に移ろうとすると、
突如、骸骨の右ひじ関節から先が左回りに45度回り、
そのまま身体を左方向に回転させながらラリアットするように斬りつけた。
シバは辛くもしゃがんで避けたが、
骸骨の腕は元に戻って更に上から剣を振り下ろし、
シバはそれを左に転がるように避けた。
シバは体勢を立て直して、構えると、
「なんだよありゃあ……」
思わず呟いたシバの声に、骸骨は不敵な笑いを出す。
「…クク、これこそ自在角折剣。
余の身体は骨のみなゆえ、関節を自在に動かす事が出来る」
だがシバは怯まない。
「…ヘッ、どんな技も見切れれば関係ねぇ。
行・く・ぜ☆」
シバは殴りかかっていく。
「…愚かな……」
骸骨は左上から右下に向かって斬りつけると、
シバはそれを骸骨から見て左方向にしゃがんで避ける。
「どんなに関節が曲がろうと、剣の持ち手から遠い場所へは攻撃できねぇだろ?」
シバは余裕の表情を見せる。
だが、骸骨は右ひじ関節を曲げて剣をシバに向かって投げた。
シバはそれを後ろに飛び退いて避けると、骸骨は投げた剣を左手で取り、
そのままシバに向かって突く。
シバはそれを右に転がって避ける。
だが骸骨は次々と突いてゆく。
「逃げ切れはせぬ。秘技、百連突破剣」
とても素早く物凄い手数の突きをくりだす。
シバは転がりながら、突いてくる剣擦れ擦れを避けていく。
そして一瞬速度が落ちた突きを見切り、左手で剣の右側面を押さえて
剣が身体に当たらないよう軌道をずらしながら、右手で骸骨の左手首を取った。
「捕まえた。これで攻勢逆転、一斉猛打で再起不能にしてやるぜ!」
「……この程度で勝った気になるとは、愚か者が」
骸骨は右手で殴りかかる。
シバはそれを左手で受け止めるが、今度は右足で蹴り飛ばした。
「ぐあっ!」
シバは地面を転がった。
ゆっくり起き上がると、服に突いた砂を払い落とす。
「ちっ、スーパースターをここまでコテンパンにするたぁ、中々やるな」
そこへミランダが叫ぶ。
「師匠! 何故萬鑁蟷螂拳を使わないのですか!?
それを使えば一発でしょう!」
確かにこれまで一度も萬鑁蟷螂拳を使っていない。
サン達も不思議に思っていた。
それを聞いたシバは…、
「…そうか、その手が有ったか!!」
「今気づいたんですか!」
ミランダたちは驚くと共に呆れる。
「いやぁ、寝不足で頭が回らねぇもんで、俺様とした事がすっかり忘れてたぜ」
シバは照れたように話す。
「あの……拳法家ですよね?」
ミランダも呆れる。
シバはゆっくり立ち上がると、身体を骸骨に向かって少し斜め右に向け、
左腕を骸骨の方向に、右腕を右方向に向けて、肘を曲げ手首を下に曲げて向け構える。
まるでカマキリのような構え。
「よし、それじゃあ……あっ、しまった!」
突然驚いたような様子を見せるシバに、ミランダが問いかける。
「どうしたんですか!?」
すると、叫ぶ。
「サンドイッチ食ってねぇ!!」
「……は?」
その場に居る全員がキョトンとする。
「くそぉぉぉぉぉ、俺の馬鹿! 何で忘れてたんだぁぁぁぁぁ!!」
頭を抱えて叫ぶシバに、ミランダはそーっと話しかける。
「……あの……どうしたん…ですか?」
するとシバはミランダを向いて少し手を挙げ、真顔で、
「ゴメン、ちょっとコンビニ行ってくる!」
「何言ってるんですか、こんな時に!」
ミランダは憤慨する。
「いや実はさー、サンドイッチを食べないと萬鑁蟷螂拳を使っちゃいけないっていう
自分なりのルールがあるんだよねー」
「何でそんな滅茶苦茶なルール作るんですか!
良いじゃないですかこんな時は破ったって!」
するとシバは怒鳴りつける。
「駄目だ! 神様が自分が作ったルールを破れないのと同じように破れないんだ!!」
「神様と同レベルで言わないで下さい!」
「何を言うか! 俺はスーパースターだぞ!
スーパースターが決まりを破れるわけ無いだろ!」
シバの態度に、ミランダは激しい憤りを覚える。
(……ぶっ飛ばしてやりたい……)
その時、シバに向かって何かが飛んできた。
両手に収まるほどの物体。シバはそれに気づき、左手でキャッチする。
そしてキャッチした物をまじまじと見つめると、
飛んできたのは紙で包装されたサンドイッチだった。
「これは……」
そこへ集落の方に居る魔物たちが騒がしくなる。
「何だ?」
シバやサン達はそちらを凝視すると、人がこちらに歩いてきていた。
身長は百八十センチほどある長身で、
頭はカジキのように顔の部分が尖った黄色の兜を被っており、
前面から後頭部に向かって幾つもの金属が流線状に突起していて、
耳の部分には胸ビレのような飾りがついている。
そして赤黒いマントを羽織り、鳥の羽や禁などで装飾し黄緑で塗装された
パレードアーマー※を着ていた。
魔物達はこの鎧兜を着た人に必死に攻撃しているが、
全てすり抜けて全く当たっていない。
それどころか、魔物自体をすり抜けて、まるでそこには何も存在しないが如く歩いている。
その奇妙な光景に、テラ達やサン達も動揺する。
ジャイロは思わず呟く。
「…あいつは人間か?」
テラも表情を硬くしている。
「……分からないけど……、とんでもない奴だっていうのは分かるね」
シバは鎧兜の者に恐る恐る話しかけた。
「……あんたが…これを……?」
するとゆっくりと口を開いた。
「……それを食って、さっさと片付けろ」
魔法で声を変えているのか、やけに共鳴した声をしている。
骸骨は鎧兜の者に向かって剣を構えた。
だが、鎧兜の者は全く無反応で、そのまま別荘に向かって歩く。
そこへシバが話しかける。
「……アンタは………?」
鎧兜の者は、無視するように数歩歩くと立ち止まり、少しシバの方へ顔を向けた。
「………教えてやっても良いが……、聞いたら、身体の震えが止まらなくなるぞ?」
何故かとてつもない重圧感を感じた。
シバだけでなく、その場の全員が一歩も身体を動かす事が出来ない。
『コイツはヤバい』と本能が呼びかけているようだ。
そして、これ以上は誰も聞けない。
この者が、場の空気をとても重苦しい物に一変させていた。
だがそんな中、サンだけは全く動じることなく、別荘の屋根の上から見下ろしていた。
その顔には恐れも恐怖も無い。堂々たる姿勢で立っている。
「………」
サンは只黙って見つめていた。
鎧兜の者はサンに気づいたのか見上げると、数秒サンを見つめ、
そのまま視線を前に向けて別荘の玄関に向かって歩き出す。
玄関にはペネムとファルが居る。
歩み寄って来る鎧兜の者を避けたいが、その存在感と圧迫感に圧倒され、
とてもではないが体を動かす事が出来ない。
だが、鎧兜の者は気にすることなく歩みを進める。
そしてペネムとファルの前まで来るが、歩みを止めることは無く、
そのまますり抜けた。
「……っ…」
二人は絶句する。
まるで存在が感じられなかったのだ。
とてつもない存在感と圧迫感を発しながらも、
全く何かがすり抜けたかのような感覚が無かった。
本当にそこに存在しているのかと疑いたくなる程に。
そして鎧兜の者は、ゆっくりと玄関の扉を開き、中へ入っていった。
「い……一体あいつは……」
ファルは搾り出したように言葉を出す。
皆、顔を見合す。顔には安堵の表情が見受けられる。
そこへ、
「シャーーッ!」
大声が響き渡る。
声のした方を見ると、シバが準備運動していた。
「よーっし! サンドイッチ食ったし、全力全開でぶっとばすせ!」
すると、すぐさま骸骨はシバに向かって構えた。
「いいだろう。奇音と共に全てを切り裂く萬鑁蟷螂拳、見せてみよ!」
骸骨は一気に突っ込み、無数の突きを繰り出す。
「百連突裂剣!」
シバは全て紙一重でかわしていく。
「先ほどは油断して速度が落ちてしまったが、今度は全て最高速度。
また骨の身体ゆえ疲れは生じぬ。ゆえに永劫フルスピードの突きを維持する。
果たして、何時まで避けられるかな?」
目にも留まらぬ速さの突きを雨霰と放つ。
シバはそれを直撃まで数ミリという擦れ擦れでかわしていく。
「クク……そんな避け方では、一分と持つかな?」
だがシバは笑みを浮かべる。
「そうかな……?」
そして、右手で骸骨の剣を持っている左手を捕らえた。
「なに! クッ……」
骸骨は驚くが、すぐさま右手で殴りかかる、
が、そのパンチもシバは左手で掴んだ。
「そ…そんな馬鹿な……、手を捕まえる余裕など……」
シバは余裕の表情で答える。
「あ~あ、ちょっと本気を出してこれじゃあ、
俺様のウルトラかっこ良い所を見せる引き立て役には不十分だなぁ」
「何……!? さっきまでのは本気ではなかったのか!?」
「あれ、気づかなかったの?
お前みたいは弱っちいのに、この俺様が本気を出すなんてありえないだろ。
今までのはお遊びだよ。お・あ・そ・び」
骸骨は驚きを隠せない。
「なん……だと……」
するとシバの両手から青い光がこぼれる。
そして高音と低音が入り混じった奇音と共に、骸骨の両手が吹き飛んだ。
「ぬぁぁぁ!」
骸骨は悲鳴を上げて後ろへ下がった。
そしてシバを見ると、両手の五指から青い光のような物が、奇音と共に長く伸びて発していた。
「な……なんだその光は!?」
「これか? 闘気に決まってるだろ」
「闘気……だと?! 闘気は基本、全身から発する物。
技として一点に集中させる事はあるが、手ならともかく指先に集中させるなど、ありえぬ!」
するとシバはカマキリの構えをする。
「それをするのが、萬鑁蟷螂拳だ。
萬鑁蟷螂拳は力を持って相手を切り裂くのではなく、
全身の闘気を指先に極限まで集中させた闘気で切り裂く。
指先に集中させた闘気は、強烈な光を発するほど凝縮され、
気の揺らぎが空気を音速で裂く事によって、萬鑁蟷螂拳独特の奇音を発する」
シバの堂々たる姿勢に、骸骨は思わず呟く。
「……萬鑁蟷螂拳が何故三大拳に数えられるのか、分かった気がするな」
するとシバは右手を振り上げる。
「それじゃ、俺様のスーパー強い所を見せる引き立て役として散ってもらうぜ☆」
そして、一気に振り下ろした。
「無念……」
骸骨は奇音と共に縦に切り裂け、散り散りに砕けた。
シバはそれを見届けると、今度はテラを指差した。
「どーよ、俺様のスーパーな強さは!
サインを貰うなら今しかないぜ。サインはお早めに!」
テラは憤りを表情を浮かべる。
「あんなチャラい奴に、デカい顔されるなんてね……」
そして魔物たちに指示を出す。
「殺れ」
魔物達が地と空、両方からシバに襲い掛かってくる。
するとシバは後ろの魔物達の方を向き、カマキリの構えになる。
「お前等、俺様のファンか?
それにしては随分と殺気立ってるな」
そして身をかがめた。
「萬鑁蟷螂拳はその名の通り蟷螂の拳。
だがそんな物にはこだわらないのが俺様流!」
勢い良く飛び上がった。
「守破離※こそ俺の真髄! カマキリなんか関係ねぇ!
無関係な技も使うぜ!」
そして空を飛ぶ魔物たちに向かって蹴りつける。
「萬鑁蟷螂拳秘奥義 飛翔膺爪斬襲脚!」
シバの足先から青い光の筋が四方八方と広がっていき、
奇音と共に上空の魔物が全て切り裂かれていく。
サンはこの技を見て、目を見張る。
「……あの技は、爪牙無元拳の技。
威力、攻撃範囲共に爪牙無元拳のそれより遥かに上回っているが、確かに爪牙無元拳……」
そしてシバは魔物の集団のど真ん中に着地すると、秘奥義を放つ。
「萬鑁蟷螂拳奥義 千手萬鑁突裂拳!」
周りの魔物に次々無数の突きを繰り出して行く。
「乱打乱撃雨霰! 俺様の手の動きが見切れるか!?」
魔物という魔物全てに突きを繰り出し、奇音と共に切り裂けていく。
気が付いてみれば、魔物は全て倒されそこにはシバのみが立っていた。
テラたちを指差し、胸を張って見得を切る。
「どうよ、俺様の最強っぷりは! スーパーだろ!?
ファンクラブ入会するなら今だぜ!」
ファルは、シバの圧倒的な強さに驚愕する。
「……まさかこれ程の強さなんてな……」
ペネムの方を見ると、ペネムも非常に驚いている様子だ。
だがミランダは、険しい表情で言った。
「師匠の強さはこんなもんやない。あれでもまだ一割くらいや」
「あれで一割……」
テラは歯を軋る。
「……魔物を全滅させるなんて中々やるみたいだね」
そしてシバの方を向き、
「まあいいさ、魔物の力を借りずとも目的は果たす」
と言って背中に差している剣を抜いた。
そこへジャイロが割り込む。
「こいつは俺が相手しよう。御三家だかなんだか知らないが、
ちゃらけた戦いをするような奴など、取るに足らん」
「そうか…それじゃあ、僕は玄関を塞いでいる奴らを相手にしようかな」
テラはファルとペネムに向かって、剣を抱えて突き出すように構える。
そしてディランは、屋根の上まで一気に飛び上がった。
「では屋根の上の女性は私が相手をしましょうか」
サン達はディランの跳躍力に驚く。
三階の屋根の上まで一気に飛び上がったのだ。
人間技ではない。
サンはディランに向かって剣を構えると、鋭くディランを見つめる。
「……何者だ貴様。跳躍力を見ると人間ではないようだが……?」
するとディランは微笑んだ。
「そんな怖い顔をしないで下さいよ。
生まれは違いますが、貴女と私は同胞でしょう?」
注訳
『パレードアーマー』
儀礼用に装飾されたプレートアーマー。
『守破離』
武芸の鍛錬に関することわざ。
「守」とは、師や各流派の教えを忠実に守り、それからはずれることのないように精進
して身につけよ、という意味。
「破」とは、今まで学んで身につけた教えから一歩進めて他流の教え、技を取り入れることを心がけ、師から教えられたものにこだわらず、さらに心と技を発展させよ、という意
味。
「離」とは、破からさらに修行して、守にとらわれず破も意識せず、新しい世界を拓き、独自のものを生みだせ、という意味。
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