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  太陽の暉 作者:あおやま
序章
序章・第2話 死神
「バカヤロウ!!」
部屋の中に大声と低い打撃音が響く。
そこには耳や鼻にピアスをした色黒の男がソファに座っており、
前に殴られてへたり込んでいる大柄の男がいた。

「女に蹴飛ばされてへこへこと帰ってきただと!?
てめえ、それでも男か!」
ピアスの男は、怒鳴りつける。
大柄の男は頼りなく言い返す。
「だって店の奥から外まで蹴飛ばされたんですよ。
とても勝ち目あるわけないですよ!」

その言葉を聴き、ピアスの男はゆっくり立ち上がると、大柄の男を睨み付けた。
「……てめえ、嘘を付くならもう少しまともな嘘をつきやがれ。
そんなチンケな嘘、赤子でも見破れるわ!」
「本当なんですって!」

必死に答える大柄の男に、ピアスの男は首を掴んで持ち上げた。
「いい加減にしろよ、テメェ。俺にそんな嘘は通用しねえとさっき言ったはずだ。
これ以上馬鹿話を続けるんなら……」
「アビブ、そこらへんにしとけ」
突然後ろから声が掛かる。
アビブは声のした方を見ると、そこには一人の青年が立っていた。
「……ファルか」
「そいつの言ってることは本当だ。だからはなしてやれ」
ファルがそう促すと、アビブは手を放す。

「本当ってのはどういうことだ?」
アビブはファルに問いかける。
するとファルは、
「この町にとんでもない奴が来てるんだ」
そう答え、少し視線を落とす。
アビブはそのファルの様子から、本当に何かあると感じた。
「……とんでもない奴?」
そう聞くとファルは、ゆっくりハッキリと答える。

「死神だ」

「死神?!」
死神と聞いてアビブは驚愕する。
「おい待て、コイツが蹴っ飛ばされたっつってたのは、女だぜ。
お前は死神が女だとでも言うのか?」
「……たしかに奴が男か女か、ましてや姿すら分からない奴だ。
大柄な男を蹴っ飛ばしたからってそいつとは言えない。
だが、こんな田舎の町に、そうそう強い奴が居るわけないだろう」
「だから、女が死神だと?
バカバカしい、そんなの死神以外にもたくさんいる!」
アビブはファルの言い分をそう打ち消すと、
ファルは深刻な顔で呟く。
「……仲間が殺されたんだよ」
「なに!?」
「ちょうど隣町のイマスターンを襲撃してた所に、
たまたま通りがかった女に、全員な」
「全員だと?!確か50人は居たんじゃなかったか?
それを全員やられるってのは……。
ん? ちょっと待て、全員やられたのになんで女だと分かるんだ?」


ファルはフゥッと息を吐くと、ソファに座った。

「俺もその場に居たんだ」
「!」

その場に数秒の沈黙が走る。


「あんな恐ろしい奴見た事ねえ。
あいつは何のためらいも無く殺していた。
しかも殺している時のあいつの眼は、
何も感じられなかった」
「?、何も感じられない?」

「ああ。大概、平気で殺しをやる奴の眼は、
笑っているか殺気立っている。
だが、あいつの眼は何も感じない。喜怒哀楽一切の感情が無い。
まるで、死人の様な……いや、死人とも違う。
眼は生きてた。
『生きた死人の目』そう言った方がいい。
冥途より魂を喰らいに来た……死神の目!」


また数秒の沈黙が走る。


「あの女は、あの後この街に来た。
何のためかは知らないが……。
おそらく酒場に居た女こそ死神だ。」

「……で、どうすんだ?」
「何もしないほうがいい。
絶対にかなう相手じゃない。軍隊一個あっても足りないぞ」
ファルの額には脂汗が吹き出している。
そしてアビブは腕組みをして考え込んだ。
「……その方がいいだろうな………」




――ファルは、アビブとの話をすませると気分転換しようと、
盗賊団のアジトから町へ出た。

死神が町にいると思うと気が気ではないが、
はちあわせする事は、まず無いだろうと思った。

とりあえず酒を飲んで一旦忘れよう。
そう思い、適当に酒場に入る。


結構、雰囲気のある店だ。
昼というのもあってか客は少ない。
ここならゆっくり酒を飲めると、どこに座ろうかあたりを見渡す。

「いらっしゃいませ」
レイナが入ってきたファルに声を掛ける。
ファルはレイナの方を見ると……
「げっ!!!!」
あまりの衝撃的な光景に思わず大声が出た。
目の前に死神が座っている。

「どうしたんですか?」
突然大声を上げたファルに、何かあったのかとレイナが話しかける。

「い…いや……何でもない」
その時サンがファルを横目で見る。
「ん? …お前どっかで……」
「い…いや知らないよよ。おおお俺とお前ははははしょ初対面だだだだ」
「声が震えてますよ、本当に大丈夫ですか?」
「だっだっだー大丈夫っ! 何でもありませんっっっ!!!」


ファルの声や容姿に覚えがある。
サンは一体誰かと数秒考えると、思い出す。

「お前あの時の盗賊か」
「いっ……いやー?だれのことかなー?盗賊ってどこ?」
「しらばっくれるな、思い出したよ。捕って食ったりしないから落ち着け」
「お知り合いですか?」
「ああ、前にちょっとな」

ファルはサンを指差す。
「おっ落ち付けって! お落ち着けられるわけ無いだろ、あんな事があって!
今度は何しに来た! 盗賊団を潰しに来たのか!?」
そう叫ぶと、サンは冷静に答える。
「いや。違う。人探しをやってるだけだ」
だがファルは信用できない。
「嘘をつけ! それじゃあの時、なんで皆を殺したんだ!
殺す必要ないだろ!!!」

そう叫ぶファルに、サンは左手のコップを置き、ファルの方を向く。
そして言った。

「道通るの邪魔したから」

そのサンの返答にファルは憤怒する。
「な…何!? そ…そんな理由で殺したのか!!!」
「言っておくが、私から一方的に殺したんじゃないぞ。
向こうからやってきたんだ。
それに殺したといっても所詮は『盗賊』。
しかも町を襲っている時だ。逆に町の人には感謝されたぞ」


ファルは言い返したかったが、サンの方が正論だった。
ファルは何と言い返そうかと苦慮していると、
サンが机に向き直して話しかける。

「そんなに怯えなくても大丈夫だ。
私はお前や盗賊団に何もする気は無い。
座れ、おごろう」
ファルはサンに促され、渋々サンの目の前の椅子に座った。

「レイナ、何でもいいから酒な」
「はい」

レイナは適当な酒を選び、サンの元へボトルごと持ってきた。
「ボトルごと持ってきたのか」
「この時間帯はお客さんが少なくて暇ですから、私がお酌しますよ。
それにお兄さんの仲間には、いつもお世話になってますからね。
思いっきりお返しします。酒飲まして」


ファルは苦笑いしながらも、酒を飲むどころではなかった。
今でもあの時の光景が眼に焼きついている。
恐ろしくてたまらない。
体の震えが止まらない。
冷や汗が滝のように出てくる。
今にも倒れ込みそうだ。

その時、サンと眼が合った。

「どうした、飲まないのか?」
サンの眼は、あの時と全く違った。
とても優しい、穏やかな眼をしている。

体の緊張が解けていくのを感じる、
恐怖も冷や汗も体の震えも消えていく。

とても不思議な眼。

同一人物とは思えない。

実はとても優しい人なのかもしれない。
ファルはそう思った。
2009/10/29 改稿
2011/4/10 一部加筆修正。


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