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黒翼 〜精霊の物語〜 作者:神月きのこ
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27話 氷雪の要塞

 白一面の山の中を、ウォルトは歩いていた。
 そこは晴天の下でなら、さぞ美しく光を反射するだろう。
 しかし、このアイゼリアは冬には常時雲に覆われ雪が降り続けるのだ。
 むき出しの頬を冷気が刺し、感覚を麻痺させてくる。それが気になり手で強く擦るが雪に濡れて冷えた手では気休めにもならなかった。

「ウォルト、卿」
 背後から風に掻き消されそうな声が耳に届き、ウォルトは振り返った。
 コートで着膨れした兵士が1人、雪に足をとられながら側に来る。
 レンもヨシュアも共にいないとなれば、他の誰かを連れて行かなければ、とヨシュアが選んだ兵である。
「アイゼリア城は、こんな、山の中に、あるんですか……?」
 すっかり息を切らした兵士は、うんざりした様子で問いかける。
「山の中、というより、山に囲まれていると言ったほうが、正しいかな」
 答えるウォルトの声も途切れがちである。
 雪深い山を越えようとすれば、いかに体力がある人間でも平然と、とはいかない。

「帝都方面なら山を迂回する道があるけど、それ以外は山の中を通るしかない。これが北の要塞と呼ばれる所以だよ」
 地理的に厳しい場所に位置し、攻め込むのに手間取れば即冬の猛威に襲われる。
 北方守備の要。
 この地が陥落するのは国の滅亡の時のみ、と言われている。

「それに、しても……こんな、山の中で夜が、更けたら……」
 兵士の声には不安が色濃い。
 リディア城を出立して2週間。
 疲労が蓄積した中での雪山越え。
 精神的にも限界が近いのだろう。
「大丈夫、今日中には到着する予定だよ」
 安心させるべく笑いながら告げるが、疲労が猜疑心を刺激しているのだろう。兵士は疑わしそうな目でウォルトを見ていた。
「ウォルト卿は、アイゼリアに来たことがおありで?」
「いや、来たことはないけど」
 なら何故、と兵士が続けるより先にウォルトは進路を外れて崖に近付き、兵士に手招きをした。
 恐る恐る近付く兵士に眼下を示してみせる。
「あそこに見えるのがアイゼリア城。そんなに時間はかからないはずだよ」
 冷たい風の吹き上げてくる谷底に町並みが広がっている。
 小さな点にしか見えない建物と少々離れて、遠目にも分かる装飾過多な建造物がそびえ立っていた。

「安全なルートを通ると目に見えるほど近くってわけにはいかないけど」
「ああいえ、目的地が分かって、気力が湧いてきました」
「それならよかった」
 ウォルトは兵士に背を向け、元の進路に戻る。心の中でこっそり舌を出しながら。
 目に見える、というのは確かにすぐ近くだと錯覚させる。事実、直線距離はこれ程までに近い。
 その実、崖を下らずに山道を迂回した場合、それ程楽観視できる距離ではないのだが。
「ま、今日中に着くには着くだろうし嘘はついてない」
「何か言いました?」
「いや、別に?」

 結局アイゼリアに到着したのは、夜が雪山を包み始めた頃で、領主を訪ねるのは翌日に持ち越された。





 北の要塞。
 氷雪の町。

 それらの呼び名からは想像もつかないほどに、アイゼリアという都市は華やかで活気付いている。
 町のいたるところに掲げられたランプの中では、色とりどりの炎が踊る。揺らめきながらも決して絶えることなく、白銀の町を暖かく彩っていた。
 雪の重みに耐える建物は堅牢なだけでなく、町を飾りつけるのに一役買っている。

 その代表ともいえるのが、アイゼリア城。
 石造りの概観はそれだけで雪化粧と相まって風情をかもし出すが、町中と同様にランプの飾りが華やかさを加えている。
 少々派手ではあるが、雪に閉ざされている町に活気をもたらすにはこれくらいで丁度いい。
 もっとも、単に領主一族の趣味という可能性も否定しきれないが。

 あっさりと許可された領主との面会。部屋へと向かう廊下で、ウォルトはそのようにアイゼリア城の考察をしていた。
 目的の部屋にたどり着き、案内人が声をかければすぐに扉が開く。
 初めに見えたのは、数人の兵士。そして。
「よく来たな」
 開け放たれた扉の正面にいる、まだ若い男。部屋の奥に座している姿は優美と呼ぶにふさわしいだろう。
 机に肘をついて座っている姿からは判断しづらいが、それでも肩や腕などからは細身の長身が見て取れる。
 しかし、部屋に足を踏み入れ男に近づくと貴公子然としたなよやかさよりも、気の強さが勝つ鋭い瞳に射抜かれた。
 いささか凶悪にも見える人相を前に進み出て、ウォルトは微笑んだ。

「我々に協力してくださるとの表明、大変有り難く思います、ローズウェル候」
 恭しく頭を下げると、男の眉がぴくりと上がる。
「力ある国に迎合しない貴公の誠意、心強い限り、それがアイゼリアならばなおのこと」
 丁寧なウォルトの口上を前に、男の瞳は徐々に不機嫌に細められていった。
「どうかお力添えのほど、よろしくお願いいたします」

「おい」
 ウォルトの口上が終わるなり、男は低い声でウォルトを呼んだ。
「貴様、他に何か言うことはないか?」
「……なんのことでしょう?」
 暫く首を傾げ、考え込む素振りを見せてから問い返す。すると、男は苛立たしさを隠そうともせずに溜息をついた。
「……いや、なんでもない」

「ああ、それと」
 苦々しげに吐き捨てるアイゼリア領主。
 顔をそらした彼を見て、ウォルトはわざとらしく明るい声を出した。

「久しぶりだね、ナリアス」

 名を呼ばれた途端その男、ナリアスは目を大きく見開いた。
 にこにこと笑うウォルトの顔を凝視する。
 穴があくほど見つめられ、ウォルトは再び首を傾げた。
「何?」
「……順番が間違っていないか?」
「お礼に来たのにいきなり馴れ馴れしい口きくのもどうかと思ってさ」
 そうは言いながらも、ウォルトの笑顔はその口上がわざとであったことを物語っていた。
 頭痛をこらえるように、ナリアスがこめかみに手を当てる。

「俺がナリアスのこと忘れるわけないじゃないか」
「貴様は相変わらずの性悪だな」
「失礼な。ナリアス見てるとなんとなくからかいたくなるだけだよ」
「失礼なのは貴様だ!」
 ナリアスの拳が机を叩く。
 重い音に、ウォルトの隣に立っていた兵士が身を竦めるが、当のウォルト、そしてナリアスに仕える兵たちは全く気にする様子がない。
 机の悲鳴が収まり、際立った静寂にナリアスは平静を取り戻したようで、深く息を吐いた。

「まあいい。貴様がそういう男だということは重々承知しているからな」
 ナリアスは机に片手をつき、立ち上がった。
 襟足の長い髪が微かに揺れる。
「もっとも、考えてみれば当然か。この俺を忘れる奴などこの世にいる筈がないからな」
「いやー、ナリアスも相変わらずなようで何よりだよ」
 自信たっぷりに言うナリアスに、ウォルトの口からは思わずといったように乾いた笑いが漏れた。

 脱力感に肩を落とすが、すぐに旧友との邂逅の嬉しさが勝ったようだ。
 少年のような明るい笑顔を浮かべている。
「卒業以来だから、もう5年も経つのか。時が過ぎるのは早いね」
「ああ、お互いに慌ただしかったからな。だが、せっかく久方ぶりに旧友と会えたのがこの状況とはな……」
 ナリアスの声から色が失われる。
 室内にいたアイゼリアの兵士たちが、ウォルトを取り囲み始める。

「残念な限りだ」
 周囲から幾刃もの剣と槍が、ウォルトに突きつけられていた。
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