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黒翼 〜精霊の物語〜 作者:神月きのこ
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13話 其の意

 鋭い刃鳴りが響く。
 何十号も打ち合い鳴らされる剣は未だにどちらにも傷をつけていない。
 二人の顔には既に笑みなど欠片も残ってはいない。きつい眼差しは刃を、そして互いを睨みつける。
 リオンの剣がハーデスの髪を一筋散らす。
 ハーデスの剣がリオンの肩当てに傷を刻む。
 両者の剣技は拮抗しているように思われた。
 だが、剣を専門に取扱う者と魔術を行うものの差か、それとも実戦経験の差か。
 僅かにリオンが優位に立った。
 ハーデスが受けに回り始め、そしてついに、決定的な一打が打ち下ろされようとしていた。
 だが。
「!?」
 ふいにリオンが身を引いた。十分に間合いをあけてから、自身の目に触れる。
 今、ハーデスが歪んで。
「視界が揺らぎ始めましたか?」
「何を」
「腹部からそれだけの血を流したまま戦い続ければ仕方ないことでしょう」
 確かに、傷口は開き、止まりかけていた血液は再び流れている。
 眩暈がしてもおかしくはない。
(いや、違う!)
 揺らいで見えたのはハーデスだけ。今は既に収まっているし、剣も景色も何一つ不自然には映らない。
 何かがおかしい。そうは思うものの、何がおかしいのか分からなかった。
 考える間もなく、ハーデスが間合いを詰め下段から斬り上げてくる。
 縦に構えた剣でそれを防ぐと、即座に離れて斬り返す。
 分からないのならば、分かるまで試せばいいのだ。先程のが間違いだったのならそれでも構わない。
 再び斬りつける斬撃は甘く、一歩後ろに下がるだけで簡単にかわせるもの。
 反撃しやすいようにとハーデスが受けずに避ける、それにつけ入る。
 それを追って一歩踏み込んで刃を返す。
 今度は鋭く、早い。
 突然の緩急についていけず、ハーデスは僅かに体勢を崩した。
 その隙を見逃さず、更に斬り込む。
(やっぱり、また……!)
 先程と同じように、やはりハーデスの姿がぶれ、霞んで見える。
 それにも構わず、リオンは感覚に従って剣を振り下ろした。
 だが。
 ハーデスの姿が突然に消え、手に伝わるのは空気を切り裂く感覚のみ。
 まずい、と本能が告げる。
 その声に従い、体を捻りながら左へと飛ぶ。
「くっ」
 体勢を崩して地に倒れるが、反動を利用してすぐに起き上がる。
 かわしきれずに斬りつけられた右肩から腕へと血が伝う。
「その状態でよくもちますね。今度こそ終わりと思ったのですが」
「ご冗談を。せっかく仕掛けが分かったのに、こんな所で終われませんよ」
 立ち上がり、肩の状態を確かめる。
 防具のお陰もあって、傷はそんなに深くはない。万全の状態で、というわけには行かないが、まだ剣を扱える。
「仕掛けなど、作った覚えはありませんけれどね」
「次で、証明して見せますよ」
 言葉と、剣戟は同時だった。
 刃と刃のぶつかり合う際、肩が激痛を訴える。動きが自然と鈍くなる、その瞬間顔面を狙って突きが襲ってくる。
 背を反らして避け、リオンは太腿に巻いてあるバンドからナイフを取り出しハーデスに投げつけた。
 ハーデスがかわしたところに二度目の投擲。
 その間にリオンは体勢を立て直し、切りつける。
 それは防がれたが、三度目、最後のナイフを投げることによってハーデスの体勢を崩す。
 その時に、やはりまたハーデスの姿が歪み、途切れ途切れにしか見えなくなる。
 リオンは大きく腕を伸ばし、自身を中心に円を描くように剣を凪ぐ、
 剣は歪んで見えるハーデスを通り過ぎ、リオンの隣で硬質な音を立てた。
 そのまますぐに剣を引いて蹴りを足元に繰り出し、再び斬りつける。
 そして切っ先に確かに伝わる手応え。
 ハーデスの胸部に一文字に傷が刻まれる。
 しかし、それはまだ随分と浅い。追い討ちをかけるべく、更にリオンは踏み込む。
 だが、多すぎる出血は確実にリオンの手足の感覚を奪っていた。
 もし万全であったのなら、ここで確実にハーデスを討ち取ることができただろうが、ハーデスが離れる方が幾分早かった。
「……証明の続きの、答え合わせを致しましょうか」
 十分にお互いの距離を空けてから、自身の傷を一瞥しハーデスは口を開いた。
 淡々とした口調ではあるが、傷を負わされたことに対し驚いているのは確かだ。
 リオンは乱れた息を整え、ハーデスを見据える。
「思い出したんです。貴方が、いかにして皇帝陛下の側近にまで成り上がったかを」
 家柄も勿論ある。代々優秀な魔術師を輩出し城に仕えてきた名家だ。
 だが、地位に見合うだけの能力のない者を国のトップにおくはずがない。
「貴方の守るものは、未だかつて全て一筋の傷もつけられたことがない。私は今までそれを、それだけ強い方だからだと解釈しておりました」
「今は違うと?」
「誰も傷つけることができないようにすることができるから、でしょう。――魔法で光を捻じ曲げて、本来存在するのとはずれた位置に対象物を映し出して」
 虚を突かれたように目を見開いたハーデスだったが、すぐににぃっと唇を釣り上げた。
「さすがは、剣士隊長殿」
「なっ……」
 ハーデスが言い終わるよりも先に、リオンの胸は背後から光の槍に貫かれていた。
「ぐ、ぁ……」
 ズシャ、と重い音を立ててリオンの体が地に崩れ落ちる。
「紹介しましょう。金光のサンライズ。最高位の翼の一族です」
 倒れ伏すリオンの前に、ハーデスと精霊が立つ。気力だけでリオンはそれを見上げた。
 緩やかに波打つ金の髪、他のどの精霊よりも白く輝く翼。
「貴女の回答は殆んど正解ですよ。ただし、致命的な間違いが一つ。術が私の魔法だと思い込んだこと……」
 ハーデスは常に赤い精霊イブニングを連れている。
 他の精霊を従えている姿は、誰も見たことがない。
 それこそが罠だったのだ。
 ハーデスほどの魔術師ならば複数の精霊を連れていない方が不自然だというのに。
 常に連れている一人が翼の一族だということが、それを不自然に思わせなかった。
「この私に傷をつけることができた褒美に。私の魔法で終わらせて上げましょう」
 ハーデスが掌にエネルギーを集めるのを、リオンは自分でも意外なほどに冷静に見つめていた。
(無意味なものなど、何もないのだよ)
 一昨日、弟子にそう語った。
 その弟子は、今後どうするのだろうか。現在本当に謀反を起こしているとは思えないけれど。
 そして。
(アズベル、イリヤ……。イライアス様……)
 ハーデスの掌から放たれた光が、城の裏門を包み込んだ。






「そろそろリオン先生にも話がいってるのかなー」
 黒い翼の精霊が、傍らの主人に話しかける。
「そうだな、『貴女の弟子が謀反をおこしましたよ』とか?」
「なんか間抜けな報告だね」
 砂地を踏む主人の声は存外に軽い。
 精霊は主人が普段と何も変わらずにいることに安堵する。
「まあ、許せなかったらその時は直接殴り飛ばしに来てくれるだろうし」
 話なんかいつでもできるよ、と。白い髪を揺らしてウォルトは笑った。
「だから、先生が来るまで生きて逃げ延びないとね」

短いですが、ここで2章終了です。
この回が今後意味あるものとなるよう、今後も鋭意努力していきたいと思います。
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