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第9話 騙されて夕ご飯
「この度は大変申し訳ございませんでした。」
頭を下げながら玄関のドアを閉める。
お客様はかえってすみません・・と恐縮していた。

表に止めた車に戻り、2人で乗り込むと同時に息を吐いた。

「お客さん、怒ってなくてよかったですね。反対に、なんだか恐縮させた感じ。」
梶くんが笑う。
つられて笑顔を見せながら、頷く。
「本当、安心したわ。」

シートベルトをつけて、車を出す。
意外と分かり辛い場所に家があったので、土地勘のある梶くんに運転してもらえてよかった。
なんとなく悔しいので、本人には伝えないけれど。

「佳苗さん、お腹すいてない?」
前を向きながら梶くんがわたしに言う。

お腹?まぁすいてるけど。。。

一緒に・・・とかなると、なんかちょっと・・・

「佳苗さん?」
その声にどう答えようか一瞬迷った瞬間。

〜♪

鞄の携帯がなりだした。

この着信音、和弘だ・・・。
とろうかどうしようか固まると、梶くんが一言「電話ですよ」と促した。

まぁ・・・、付き合ってるんだから・・・をアピールしといた方が、梶くんもあきらめてくれるような気もしないような・・・

そんないやな事を考えながら、携帯に出る。

「はい・・・?」
いつもより、抑え目の声。

{佳苗?仕事終わったの?}
和弘の、少し陽気な声。
後がうるさい事を考えると、また飲みに来ているようだ。
「どうしたの?」
後ろめたいような気持ちを抑えながら、勤めて明るい声を出す。

{また・・・その・・・由梨・・・が、お前は大丈夫だって言ってるのに本当かってうるさくて。ちょっと出てくれない?}
山下さんの手前、いつもの呼び名じゃないとおかしいと思ったのか、すこし逡巡した声。

「えっ?」
{佐々田さん!?}
よくわからない展開に聞き返そうとした瞬間に、山下さんの声が飛び込んできた。

{本当に大丈夫なの?和弘君が、面倒がって適当に言ってるんじゃなくて?}
なんじゃそれ

電話の向こうでも、ひでぇなぁ・・・と和弘の声がもれ聞える。

「うん、私は大丈夫。たまたま忙しい日が続いたけど、落ち着いてきたし。」
{そっちは相談する同期なんかいないし、佐々田さん、1人なんでしょ?彼氏が相談に乗らなくて、どうするのって思うわよね}

山下さんは、同意を求めるようにわたしに言う。

それ、私に同意を求めることか?

「あぁ、まあ・・・。和弘も忙しいだろうし、迷惑かけたくないし・・・。」

なんとなくどもりがちになる私の声。
梶くんは、何も言わずに聞いている。
こんな展開なら、出なきゃよかったな・・・
内心後悔している私に、山下さんは楽しそうに続ける。

{怒っていいんだよ、佐々田さん。和弘君、飲み歩いてばっかりなんだよ。今日もたまたまうちの店の近くにきたからって挨拶に来て、そのまま飲みに突入なんだから}
お酒がまわっているのか、饒舌で明るい声。

「あはは、楽しそうでいいじゃない。同期が多いのって、楽しくていいよね。」

あぁ、どうやって切ろう。
和弘、携帯を山下さんから取り上げてくれないかなぁ。

{いつもはうるさすぎるくらいだけど、今日は2人だからしっかりとお説教するつもりよ♪任せといて、佐々田さん}

2人・・・?

あ・・・、黙ってたらおかしいか・・・
「そう・・・、あぁ、じゃぁよろしくね。」
切ろうとすると、慌てた声の和弘が出てきた。
{いや、こいつと話すと仕事のこととかいろいろ為になるから・・・}
小さな声でまくし立てようとする和弘の言葉を遮った。
「うん、分かった。じゃぁね。」

静かに携帯を切る。
そのままゆっくりと鞄に入れると、小さく息を吐き出す。

とにかく、切りたかった。
どんなに聞いても、和弘が墓穴を掘るだけの気がする。
だって、わざわざ山下さんに会いに行ったってことだよね。
仕事の事を相談したいっていう、理由があったとしても。

他意はないって言う、和弘の言葉が脳裏に浮かぶけれど。

急に車が角を曲がった。
遠心力に振られるように、助手席側のドアに押し付けられる。
「なっなに?!」

考え事をしていていきなりのことに対応できず、助手席のドアにもたれたまま、梶くんを見た。

梶くんは何も言わずに、前方を見ている。

「梶くん?」

その姿に不安になる。
もしかして、事故った?

最悪の事態を想像して、慌ててシートベルトをはずして外に出ると辺りを見渡した。

何の変哲も無い、洋食屋の駐車場。
数台、車が留まってる。
何?何にあてたの?
状況が飲み込めないまま、私は車の前に立った。

後では、車のドアを閉める音。
「梶くん・・・?」
振り向くと、私と自分の鞄をもって歩いてくる梶くんの姿。
「今日は洋食にしてみました。」
「・・・は?」

当てが外れたような、私の間抜けな声。
「ご飯行きましょ。」
彼は私の横を通り抜けると、そのままお店へと歩いていった。
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