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第8話 クレームのお供に
あれからもう5日。
和弘からの連絡は、ない。


「おはよう、佳苗さん。」

珍しく入荷荷物も少なくて、15時には全て終わった。
1人お昼をつまんでいると、夜番の梶くんが出勤して来た。
「おはよ、梶くん。」

私の手にはファーストフードのハンバーガー。
テーブルにはシフト表と勤務計画表。

梶くんは鞄をロッカーにしまいながら、苦笑い。
「ご飯の時は、仕事やめなよ。疲れ取れないよ?」

Yシャツにスラックス、そしてエプロンをつける梶くん。
「ふふ・・。」
ついつい笑ってしまう。

いつも思うけど、スーツ(上着無いけど)に紺エプロンってどうなんだろ。
いい歳の男なんだけど、学生に見えるわ。
梶くんは笑われてるのに気がついて、わたしの頬を引っ張った。

「心配してるのに、何笑ってるのかな??」
「いひゃいいひゃいっ。」

まるでどこまで伸びるのかを実験されているような手つきに、左手でその腕を軽く叩く。

「だってスーツにエプロンって、高校生アルバイトみたいなんだもの。そんな人に心配されてもねぇ。」
私の頬を離した梶くんは、その言葉を聞いてがしっ・・・と私の肩を持った。

「何いってるの。俺、佳苗さんより年上なんだけど。」

・・・

「え、年上?同年か年下じゃないの??」

「なんで、そんな思い込み。」

なんで・・・?
いや、確かに何でだろう。

はて、と小首をかしげる。
「なんとなく、まぁそんなに離れてるとは思ってなかったけど・・・だって大学卒業してすぐこの店に入ったんじゃなかったっけ?」
確かそんなことを聞いた気が・・・

彼は頷く。

「俺、だぶってるもん。佳苗さんより2つ上。」
あ・・・、浪人か。
なるほどなるほど。

「大学を浪人してるんだ。あらま、お兄さんだったわけですか。」
「高校だよ、2年留年してるの。」



「何で?」

身体も丈夫そうだし、留学って訳じゃない気がするけど・・・。
梶くんはそんな私を見下ろすと、にやって笑った。

「知りたい?」

・・・なんか嫌な予感・・

返答に躊躇してると、ぐいっ・・・と人差し指でブラウスの襟をさげられた。
「ここ、跡、消えてきちゃったしね。」
「なっ!」

あわてて梶くんの手を払いのける。

ここここいつは、仕事場で!!

「今度教えてあげる。」
「教えてもらわなくて結構です!!」

慌てふためく私を横目に、彼は笑いながら休憩室から出て行った。


あの男はぁぁぁ

沸騰しそうな脳みそを、サイダーを一気飲みして落ち着けてみる。
喉痛い・・。

持っていたハンバーガーを置いて、額に手を当てた。

和弘に、あの半分くらいの気遣いがあったらな。
比べちゃいけないと思うけど。
あ〜、私も嫌な奴だな。

梶くんと和弘を、二股かけてる気分。

いや、私断ったけど、だから二股してるわけじゃないんだけど。
生真面目なんですかねぇ

「店長、お客さんから電話なんですけれど・・・。」

休憩室のドアが少し開く。
そこから、一番若いパートさんが顔を出した。
「泉さん、どうかしました?」

困ったような表情に、嫌な予感。

「あの・・・、クレームです。買った商品が袋に入っていないって。」

入っていない、てことは

「入れ忘れ?レジにその商品あるの?」
泉さんは、申し訳なさそうに頷いた。
「すみません、レジ下の籠に入ってました。」

あぁ、袋詰め途中に落ちちゃったか。

「電話は、繋がったまま?」
いいながら立ち上がると、手早くお昼をしまって休憩室をでる。

「いえ、折り返しお電話致しますって、一応切りました。」

泣きそうな声が横からついてくる。

バックヤードの検品台には、商品と梶くんの姿。

「梶くんが見つけてくれたんです、すみません店長。」

振り向くと、つつけば泣き出しそうな表情の泉さん。

かわいい・・・

まだ二十歳の泉さんは、唯一私より年下の子。
私より身長も低くて、妹のような感じ。

ぎゅっ・・・として、背中を優しくたたく。
「大丈夫。こんな時のための店長ですから。」

「あっいいなー、泉さん。おれもなんかミスしようかなー。」

泉さんから体を離して、梶くんを見る。

「梶くんがミスったら、拳をお見舞い。」

「贔屓だー。」

そんなやり取りに落ち着いたのか、泉さんが笑う。

「以後気をつけます。あの、連絡私しましょうか?」

おずおずという彼女に、首を横に降る。

「ここからは、私の仕事だから気にしないで、泉さんの仕事に戻って。大丈夫だからね。」

でも・・・と言いよどむ彼女に、にこっと笑って手を振った。
彼女は、こちらを気にしながら店内に出て行った。

「さて。」

横にいる梶くんを見上げる。
身長高いな・・、可愛くない。

泉さんの可愛さのかけらの、ひとつでもほしいね。

「梶くんも店内行って?ありがとね、商品探してくれて。」

「なに、お供しますよ。クレーム処理。」

しっしっ・・・と手で追いやる。
「1人で行けますよ、心配しないで。」
「優しく断りつつ、態度は凄い偉そうだなぁ。」

彼はまったく・・・と言いながら、電話の受話器を渡す。
「とりあえず電話でしょ。俺番号聞いてるから、かけますよ。」
「あら、ありがと。」

断ることに面倒になってきて、大人しく番号を押してもらう。

3コール後、お客様が出た。

「先ほどご連絡いただいた商品の件で、ご連絡させていただいたのですが・・。」

店名を名乗り用件を言うと、若い夫婦なのか旦那さんの後にお嫁さんが出た。

{どうでした?商品、ありましたか?}

おっとりした声に、ちょっとホッとする。
怒ってるわけじゃなさそうだ。

「はい、こちらの社員のミスで、レジにて商品をお預かりしております。大変申し訳ございません。」
電話の向こうで、よかった〜という声が聞える。
「お客様がよろしければお届けしたいと思いますので、ご住所をお教え願えますでしょうか。」

いいながら受話器を耳と肩で挟むと、梶くんが勝ち誇ったようにペンと紙を両手で持ち上げた。

書いてくれるのね、はいはい。

苦笑いしながらお客様の住所と連絡先をうかがう。

{でもね、これから出かけるので、帰りが遅くなってしまいそうなんだけど・・・}
「何時頃御帰宅のご予定でしょうか、その後うかがわせて頂きますので。」

向こうで何か話している声が聞える。

{9時には戻ってると思うけれど、そんなに遅く大丈夫です?}
「はい、9時ですね。伺わせていただきます。この度は本当に申し訳ございませんでした。」

いいえ、よろしくお願いします〜とかわいらしい声が聞えて、電話が切れた。


受話器を置いて梶くんからペンと紙を受け取る。

梶くんがメモってくれた横に、9時、と付け足した。

「9時に行くの?お客さんち。」

「仕方ないでしょ、その時間にいるっていうんだから・・・。」
そういうと、梶くんに一言ありがとと呟くと、わたしは休憩室に帰った。
さてさて。

昼ご飯を再開して、一気に流し込む。
冷めてしまったハンバーガーって、おいしくないなぁ。

そんなことを思いながら手早く食べ尽くすと、残りの休憩時間でシフトを書き終えた。

_____________________




「なぜ、君がここにいる。」

閉店し片付けを終えて店から出ると、先程パートさんたちと一緒に帰ったはずの梶くんが立っていた。

「お供しますって。」

屈託なく笑う彼は、意識して見れば確かに年上の雰囲気だ。

「いいから、帰って休んで?」

バッグから鍵を取り出して車を開錠する。
梶くんは何も言わずに私が車に乗り込むのをみていた。
諦めたかと内心ほっとしていた私が運転席に座ると、運転席と助手席がフラットになっているのをいいことに、私を強引に助手席に押し出した。

「なっなっ・・・何するの!!」

無理やり押された格好の私は、助手席側の窓に背中をつけて梶くんを見る。
彼は慣れた手つきでドアを閉めると、シートベルトをつけた。

「佳苗さん、シートベルト。」

にっこりと笑う彼を、唖然として見返す。

「だから1人でいくって・・・・。」
なおも食いかかろうとする私に、梶くんは表情を変えず口を開いた。

「シートベルト。」

有無を言わさない、笑顔。
こいつは、こんな特技を持っていたのかと内心舌打ちをする。

「でますよ。」
シートベルトをつけると同時に、車が動き出した。



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