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菊池くんの恋愛事情-29
「あれ? どうしたの、野上さん」
もう皆帰ったと思っていたら、まだいたのか。
レジアルバイトの野上さんが、少し離れたところでこっちを見ていた。
「あの、少しいいですか?」
「どうぞー? あ、なんか飲む?」
自販機に小銭を入れながら、野上さんを見ると俯いたまま返事がない。

んー
……これって……、あれかな?
って、自意識過剰だったらどうしようかなぁ。

何も答えないので、とりあえず温かい紅茶を買う。

「はい」
ぽんっ、と放り投げると、彼女は慌てて両手で受け取った。
「座る?」
立ったまま都筑さんの座るベンチの横を指差すと、彼女は首をぶんぶんと振った。
「あの、店長」
「ん?」
自販機の横に立ったまま、野上さんを見る。

俺より少し小さい、細身の女の子。
確か、今年大学三年生。
顔真っ赤にして可愛いよなぁ。
奏なんて、会った瞬間殴られたもんな。

そこまで考えて、はたと思考が止まる。

だから、奏は関係ないんだってば。

紅茶の缶を握り締めている野上さんの両手が、遠目でも震えているのが分かる。
「店長」
「はい」
口をつけていた烏龍茶の缶を、ベンチに置く。
それでも困ったように俯いたままだった野上さんは、意を決したように顔を上げた。
「店長のこと、その……好き、です」
叫ぶように、言い切る。
それで勇気を使い果たしたのか、また下を向いてしまった。
そんな野上さんを、思わず見返す。

うっわー、本当に告白だった……。
さすがに心臓がドキドキいってらー。

何年ぶりだろ、そんな事いわれたの。
って、そんな事考えている場合じゃないや。


「――野上さん、ありがと」
「……」
俺の声に、少しだけ顔を上げてこちらを見る。
その顔は、自販機と外灯の光の下、真っ赤になっているのが分かる。
「野上さんの気持ち、本当にうれしい。……でも、ごめんね」
「……好きな人、いるんですか?」
「え?」

好きな人?

ふと、奏の顔が脳裏に浮かぶ。
って、いやいやいや。
それはないだろう。
慌てて、それを打ち消す。

「それは……いないけど。でも、本当に、ごめん」
がばっと、頭を下げる。
野上さんは、そんな事やめてくださいと慌てて両手を振った。
「あのっ、店長の下で働けて、楽しかったです。長野に行っても頑張ってくださいっ!」
一気に言い切ると、後ろを向いて自分の車に歩き出した。

「あっ野上さん! ……ありがとう」
「……っ」
野上さんは一度振り向いて頭を下げると、そのまま走り去っていった。
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