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第6話 すれ違う彼氏 気を使う従業員
「店長、お電話ですよ。」
翌日、お昼のまだまだ検品の忙しい時間帯。
いつもの如く1人荷物と格闘していた私に、婦人服担当の角田さんが子機をもって声をかけた。

「あ、はい。誰ですか?」
間違えないように検品の終わっていない商品だけダンボールに戻しながら、角田さんに聞く。
彼女はぷぷっと笑いながら、子機を渡した。

「九州の方の店長さんみたいですけど。」
・・・あぁ、たぶん和弘。珍しいな。
子機を受け取りながら角田さんを見る。
「何笑ってるんです?変な電話?」
彼女はいえね・・・と笑い続ける。

「ホントはね、翔太くんが電話取ったんですよ。声聞いた途端嫌な顔して・・・。もう素直なんですよ、あの子。」
・・・
「あはは・・・。」
何を言わんとしているか見当が付いて、苦笑い気味に子機を耳に当てた。
なんとなく、首筋をシャツの襟で隠しつつ。

「はい、佐々田です。」
電話に出た途端、和弘の声が返ってきた。
{もしかして、まだ検品中?}
「うん、そうだけど。なに?」

和弘は少し間を空けると、あのさ・・・と続けた。
{何か手伝えることあるか?こっからでも。}
珍しいな〜、気を使ってる。
「ありがとう、でも頑張ってみるよ。一応私も店長だしね。」

ちょっと嬉しくなって笑ってみた。
心配かけないようにしなくちゃ。
和弘だって大変なんだし。

和弘は少し言いよどんで、でも・・・と呟く。
{お前、仕事追いついてないんだろ?由梨が、心配してうるさいんだよ}
「・・・由梨・・・?」

昨日起き抜けに見た夢が、脳裏に浮かぶ。
私の声に少しまずいと思ったのか、和弘は慌てて続ける。
{こっちの同期は、皆、名前で呼んでるんだ、別に他意はないよ。}
「・・・。」

心配されていると思って喜んだ気持ちが、一瞬にして冷める。
{大変そうだから励ませとか、手伝えることは無いか聞けとか、ちょっとあいつもおせっかいだよな。}
「・・・大丈夫だから、心配しないように言っておいて。」
{でも・・・}
「忙しいから。」

そのまま電話を切った。
和弘の返答を待たずに。


子機を傍らにおいて、検品台に両手を付く。
頭を何かで殴られた気分。

和弘は、私の性格を分かってる。
心配されると反対に燃えるタイプだ。
大丈夫といい続ける。

だから、山下さんの言葉を借りたのかもしれない。

・・・

手元を見つめる。

そう思いたいだけ・・・かな。
ただ単に、山下さんに言われたから仕方ないで電話してきた?
仕事の合間に、店の電話で。

しばらくそのまま止まっていたけれど、ふと横を見ると未検品箱の山。
手を止めている場合じゃない。

現実って、・・・厳しいよね。
ちょっと苦笑い。

子機、返しにいかなきゃ。

パチンッと両手で頬を叩くと、子機を持って店内に出る。
カウンターに向って歩くと、そこにいた梶くんと目があった。

「佳苗さん、どうぞ。」
その長い手を伸ばして、私から子機を受け取る。
「ありがとう。」
そう笑って見上げる私を、梶くんは首をかしげながら見下ろす。
「どうかした?佳苗さん。顔色悪いよ。」

・・・?
「別にどうもしないけど。なんだろう、やっぱりバックヤードに籠もりきりって、身体によくないのかしらね。」

そういって笑うと、何か言いたげな梶くんを残して、わたしはバックヤードに戻った。


___________________________

ピッピッピッ・・・

検品機の無機質な音が、バックヤードに響く。
単純作業って、いい時と悪い時とあるよな〜。
検品機見てるだけで、頭の中は他の事考えてていいんだから。

忙しい時とか考え事したい時なんかには、とてもいい時間なんだけど。

考えたくないことがあるときは、最悪だな。
思い出したくもないこと、ずっと頭に浮かんでる。

{九州の同期は、皆、名前で呼んでるよ。}

和弘の言葉が、頭の中を廻ってる。

私が嫉妬深いだけなんだろうか。

他意が無いっていわれると、余計勘繰ってしまうわけで。
ていうか、なぜ山下さんは私をそんなに心配するんだろう。
放って置いてくれればいいのに・・・

そこまで考えて、頭をふる。

いや、山下さんはイイヒト。
多分、大変そうな同期をほうっておけないんだろうな。

ひたすら検品をこなしながら考えることは、嫌な方向にしか向っていかない。

もし、山下さんと和弘が、想い合ってしまったら。
こんな遠い場所にいる私には、太刀打ちできない。

いや本当にただの同期で、私の杞憂なのかもしれない。

学生から付き合ってる和弘の事、山下さんより分かっているつもりだけど。

「遠くの親戚より近くの他人か・・・。いや、使い方全然違うか。」

溜息と共に出た言葉に、自分で突っ込んでふと横を見る。

「うわっ!」

のぼっ・・・と梶くんが立っていた。

「ななな、何?!びっくりしたぁっ。」

梶くんは大きなビニールを持ち上げて、にこっと笑った。
「佳苗さん、ご飯食べよう。」
「え?」

ふと腕時計を見ると、15時過ぎ。
荷物もほぼなくなっていて、確かにお昼に行くチャンスかもしれないけど・・・

「うん・・・、もう少しやったらお昼はいるから、梶くん先にいってくれる?」
「香苗さんのお昼も買ってきたんだよ。」

そうだと思ったから・・・

ぐっ・・・とこぶしを握って、梶くんに向き直る。

「あのね、私、そんなに器用じゃないの。付き合っている人がいるのに、自分の事を好きっていってくれた人と仲良くするのって、梶くんに悪いし自分にも嘘ついてるみたいでできない。」

「俺は、そんな佳苗さんだから好きなんだ。」

間髪いれずに彼はいうと、私の手を引っ張って休憩室に入る。

「ちょっと梶くん、私の話聞いてる?」
休憩室のドアのところで立ち止まって困ったように話しかけると、梶くんはテーブルにご飯を広げながら笑って頷く。

「聞いてるよ。佳苗さんが俺に対してそういう気持ちを持ってくれたことが、ちょっとうれしい。」

「・・・は・・・?」

見当はずれの答えに、一瞬頭が真っ白になる。
でも、彼は本当に嬉しそうに微笑んでいて、どうしたらいいのかわからずそのまま立ち尽くしていた。

梶くんはそんな私を尻目に、さっさとお茶を入れると席に促す。
諦めて椅子に腰掛けると、彼はじっ・・・と私を見た。

「俺は、佳苗さんが辛そうな顔をしてるのに見ないふりなんてできない。」

それだけは譲れない、と呟く。

「辛そうな・・・?」
その問いに、彼は頷く。


辛そう・・・なのか。私

ずん・・・と胃が重くなる。

嫌だな。自分の辛さを前面に押し出してるのか、私。
それって店長失格だよね。

溜息つくと、梶くんを見て笑った。
「別に私、何も辛くないよ。荷物にうんざりしてるのが、顔に出ちゃったのかな。」
その言葉に、梶くんは本当に?と聞き返す。
「さっきの電話とってからだと思うけど、そんな表情してるの。」
また、勘がいいなぁ・・・。

「忙しいときに電話なんかしてくるからよ、同期って遠慮が無いところは嫌ね。」

「・・・カズヒロさんだったんじゃないの?」

うるさい・・・

「・・・そうね。でもこっちの忙しさも分からないで電話してくるのは、彼氏だからって黙ってられないわよ、もう。」

ファイティングポーズを取りながら、梶くんの買って来てくれたお昼を見た。
「今日はパスタなんだね。凄いなぁ、さすが長年ここに勤めてるわけじゃないね。いろんなお店知ってらっしゃる。」

テーブルの上には、パスタと鶏のトマト煮込み、スパニッシュオムレツが並んでる。
「食べていいの?今日もおごりなんていわないでよ?あとで払うからね。」

梶くんは腑に落ちない顔をしていたけれど、溜息をついて顔を上げた。
いつもの笑顔だ。

「おごりおごり。今度豪勢になんかおごってくださいよ〜、佳苗さん〜♪」
「図にのったわね、まったく。」
梶くんはもうそれ以上、何も聞かなかった。
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