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第3話 終わらない仕事
「なんじゃこれ」

翌朝出勤して開口一番の私の言葉。

立ち尽くす従業員入り口からははみ出さんばかりの荷物の山。
終業後に仕事が残らないように、朝の6時に来てみれば。

荷物数を確認すると、400を越えているようだ。

ちょっと貧血。

眉間を手で押さえながら、溜息をついた。

昨日荷物300で夜までかかったのに、400個って何・・・?
100単位であがらなくていいって・・・。

とりあえず中に入って、バッグをロッカーに入れなきゃ・・・。

荷物の山をくずさないようにそろ〜っと身体を隙間に滑り込ませる。

その途端、

「佳苗さん?」
「えっ?」

かけられた声にびっくりして慌てて振り向いた私の肩が、脇にあった荷物の山にぶち当たった。

しまった・・・っ

バランスをくずした荷物が、次々と私めがけて落ちてきた。



_______________________________________


・・・痛い・・・
体のあちこちがきしんでる気がする。
なんか足・・・?変な風に熱いな・・・。
かすかに目を開けると、目の前に黒い影。
もう一度目をつぶって、ゆっくりと大きく目を開けた。

「あ・・・、気がついた・・・。」
目の前の影は、梶くんだった。
「あれ、梶くん。何・・・?どうしたの。」

「ごめんなさい!」
パンッと手のひらを合わせて、頭を下げる。
いきなりで何がなんだか分からずに、横になったまま首をかしげた。
「どうしたの・・・?」

梶くんは心配そうに、でもどうしたらいいのかわからなそうなそんな表情。
「痛いとこないですか?本当にごめんなさい。俺が声かけたから・・・。」

だんだんとはっきりしてきた頭の中を、少しずつ整理する。
え〜と、6時に店来て、荷物がいっぱいで、隙間から店に入ろうとしたら声かけられて、・・・今に至る・・・。

あぁ、そうか。
視線だけぐるっと動かすと、バックヤードの床に横になっているらしかった。
後では、雪崩を起こした荷物の山。押しのけたように細い通路ができている。

そうか、あの声は梶くんで。
私がどじって荷物をくずしちゃったのを、自分のせいだと思ってるわけか。

腕に力を入れて起き上がる。
手首の辺りがズキンズキン言ってるけど、まぁ我慢できないほどじゃない。

「わっ、大丈夫?」
起き上がった私の背中を梶くんが支えた。
「大丈夫大丈夫。」
よっ・・・と右足に力を入れて立ち上がろうとして、その場にへたり込んだ。

右の足首、凄い痛い・・・?
・・・捻挫かな・・・多分。
学生時代、アイススケートで捻挫したときの痛みに近い気がする。

「佳苗さん、足、痛いんじゃないの?」

心配そうに、足を見る梶くんに、にっと笑う。
「全然平気。ちょっとびっくりして腰ぬけてたみたい。それよりどうしたの?こんな早く店に来るなんて。」

「いや・・、その・・・この近くに住んでるもんで・・・。散歩ついでに朝飯食おうかと・・・。」

ちょっと視線をグルグルと動かしながら、梶くんは呟いた。

「そ。」

にこっと笑って立ち上がる。
ん、なんとか大丈夫そうだ。

「ここまで運んでくれてありがとね。助かったわ。」
「助かったなんて、怪我したの俺のせい・・・。」
「いや、怪我なんてしてないって。さっ、帰った帰った!お仕事にはまだ早いですからね。」
そういうと、梶くんの背中をぐいぐいと押し、扉の外に見送った。

「本当に大丈夫?」
なお心配する梶くんに、笑いかけながら頷くと、入り口のドアを閉めた。


・・・・・

思わずそこにしゃがみこむ。

痛いわ・・・、これ。
心臓が足首にもあるみたい。
足首をさする手首もおんなじ感じ。

やばいなぁ・・・

昨日を考えると、スピードアップで頑張らなきゃだったのに。

目の前の荷物が恨めしい。
一気になくなってくれないだろうか。

・・・そんな事あるわけ無いか

溜息をつきながら、更衣室へと歩いていった。




その日、私はきっと変だっただろう。
パートさんたちの挨拶も返事しながらも上の空で、梶くんの再びの謝罪もいいよいいよと流した。
とにかくこの仕事を終わらせなきゃ。
夜残って、また他の店長に言われたくない。

何も言わずに荷物を捌いていく。
昼食もとらなかった。
何度かパートさんや梶くんが言いにきたけれど、頷いて笑うだけで私は頑として検品場を離れなかった。

「店長、店長っ。」
呼びかけられるその声にやっと気がつき、横を向くと、北さんが少し呆れたようにたっていた。

「どうしました?北さん。」

「どうしましたじゃないですよ、店長。」
そういうと、私の手から検品データを取った。
「あっ・・・。」

「もう、閉店です。終わりですよ、店長。」
え・・・、慌てて腕時計を見ると、20時を回っていた。
「あぁ、終わらなかった。」
がっくりと肩を落とす。
小窓から店内を見ると、パートさんたちが閉店作業を終えてバックヤードに向ってくる姿が見える。

「終わらなかったって、これだけでも凄いですって。検品は終わってるじゃないですか。」
北さんはデータを見ながら、溜息をつく。

「すみません店長。もともとあまり売れない店だったから、人員が少なくて、検品に誰も回せないから・・・。店長ばかり大変になってしまって。」
頬に片手を当てて申し訳なさそうに言う北さんから、データを受け取る。

「何いってるんですか、私の段取りが悪いんですよ。忙しいってことはそれだけ売れたから、商品が入ってくるって事で、いいことだから。それより私が皆さんに迷惑かけないように、しっかりした店長にならないと。」
頬に当ててた手を、北さんは思いっきりふった。
「いえこれ以上頑張らなくていいですからもう・・・。今日、本当は具合悪かったんじゃないですか?翔太くん、心配してましたけど・・・。」

あぁ、朝のことがあるから・・・。

「少し荷物に振り回されていただけですよ。ホント、皆優しいんだから。」

そこまで言った時、バックヤードにパートさんが入ってきた。

「わわっ、店長検品終わったんですか。早いなぁ。」
今日はたったの3人しかパートさんはいない。
あと私と梶くん。
梶くんは夕方までのシフトだったから、既に帰っているけれど。

「まだまだですよ〜。明日は皆さんの店だしが大変かもしれません。」
にこっと笑うと、パートさんたちは笑いながら更衣室へ着替えに行った。

「この後、すぐに帰ってくださいね、店長。」
「はい、片付けたらかえります。」

先に出てきていた北さんが私に念を押すと、他のパートさんたちと帰っていった。

「嘘はつきません〜。荷物、片付けたら帰るもん。」
従業員入り口を開けて、皆が帰ったことを確認する。
表の電気をすべて消して、店内のアンダーライトもすべて消す。
駐車場に行って、車を出入り口から一番遠くに移動させた。

「よし。」

これで私がいるとは思うまい。

心置きなく仕事できるわ。
山下さんの知り合いって言う店長さんにもばれないよね。

気になるのは、足首と手首かな。
溜息をつきながら、バックヤードに戻っていった。



_____________________________________________


ビリッ シュッ カタッ

こんな音、どんくらい聞いてるかな。
ビニール破いて腕にかけられるだけ洋服をかけて、ハンガーにかけていく。
さすが400個。終わらねー

後で片付けようと放っていたごみも、一度片付けないとだめだな。
壁にかかっている時計は、10時を指している。
ここから外は見えないけれど、真っ暗だろうなぁ。。。

でも、もう少ししたらアパート戻ろう。
明日は休みだけど、朝6時くらいにきてパートさんが来る前に帰れば何とか・・・。
梶くんも休みだから、パートさん多く出勤するはず。


ガタッ

ん・・・?
今・・・なんか音した?

手を止めて、入り口のほうを伺う。
ここからはダンボールに囲まれて、従業員出入口が見えない。
ただ、向こうからも私の姿は見えないから電気消し忘れただけ・・・って勘違いしてくれるだろうか。


私・・・、鍵閉めたよね・・・。

ガチャッ

・・・鍵開く音・・・

や・・・ば・・・。泥棒・・・?
手元にある商品を両手で抱え込む。

お金は店内に無いし、あるとしたらわたしの鞄くらいか。

息を殺してじっとしていると、足音が更衣室の方に消えていった。

今のうちに携帯で警察・・・

商品を床に置こうとしたその時、足音が更衣室から戻ってきてダンボールの向こう側で止まった。
壁のようになっていたダンボールが、侵入者の手で横に押しのけられた。

「このっ。」
持っていた商品を思いっきり投げつける。
相手は驚いたように両腕で商品から身を庇った。

足りないか!?

慌てて横のダンボールを持ち上げようとした途端、
「痛っ。」
手首に激痛が走り、ダンボールを取り落とした。

「佳苗さん!」

えっ、佳苗さん?

右手首を左手で押さえながら立ち尽くす私のそばに、侵入者が慌てて駆け寄った。
「佳苗さん、何でまだいるの?!手首、怪我した?」
「えっえっ・・・梶くん?」

侵入者は、真っ黒なパーカーを着込んだ梶くんだった。
「なんで・・・えーーー・・・、泥棒かと・・・。」

へなへなと座り込む。
これこそホントに腰ぬけた・・・だ。

梶くんは周りに散らかってるゴミをよけると、私のそばにしゃがみこんだ。

「だって、店に電気ついてないのに佳苗さんの車があるから。もしかして朝の怪我のせいで動けないんじゃないかって・・・・。」
その額には、汗が浮かんでいる。
そういえば梶くんと北さんは、店の鍵をもっていたっけ。
「そっ・・・か・・・・。あぁ、びっくりした・・・。」
にへら・・・と笑うと、梶くんはちょっと顔をそらして在庫室の中を見渡した。

「これ全部やったの?佳苗さん。」
辺りに散乱するゴミとダンボール。
片付けてなかったから・・・
「でも終わってないのよ、まだ。」
「これで充分だよ。パートさんたちが明日やるから。もう、帰ろうよ。」
そういいながら、ダンボールを片付け始めた。

「あっ、いいよ私やるから。梶くんこそもう帰って・・・。」
「座ってて!・・・多分、佳苗さん熱あるよ。早く帰って、怪我治して。」

見下ろすように私を見る梶くんは、少し怒っているようだった。

ばれたかー、怪我。
熱があるとは思わなかったけど・・・。

梶くんは慣れた手つきでダンボールを片付けると、ゴミをまとめて振り返る。
「さ、帰ろう。」
「いや・・・えと・・・、もう少し・・・。」
明日のシフト・・・

言いよどむ私の腕を、梶くんは引き上げた。
「だめ。絶対だめ。帰ろう。」

うぅ、なんだこの押しの強い梶くんは。
いつもへら〜ってしてるのに。

どうにかならないものかと梶くんを見上げたけれど、がんとしてきかなそうな雰囲気に諦めて溜息をついた。

いいか・・・、明日朝来れば。

「うん、わかった。じゃあ、鞄持ってくるから・・・。」
そういって歩き出した私の右足は、何か柔らかいものでも踏んでいるような変な感覚がした。
・・・あれ・・・・?

「佳苗さん!?」

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