第2話 遠く離れた彼氏の現状
つっかれた・・・
駐車場に車を止め溜息を付く。
買ってきたペットボトルの蓋を開け、一口飲み込む。
乾ききった喉が、少しひりひりと痛む。
結局昼食後も働きづめで、ゆっくりする暇なかった。
終業20時だけど、すでにもう23時。
店出し終わらなかった分、閉店してから片付けてきた。
だって、終わらなかったら明日が大変だもの。
どうせ同じくらいの荷物がきてる。
ぽたぽたとボトルに付いた水滴が膝に落ちるのをぼんやりと見ていたけれど、一息ついてアパートの階段へと向った。
安普請な鉄の扉。
ワンルームの部屋には、ほとんど荷物がない。
引っ越した時に、業者さんに笑われたくらいだ。
「女の子なのに、荷物なさ過ぎるよ」って。
小さめのテーブルとノートパソコン。
冷蔵庫と洗濯機。
窓には青の遮光カーテン。
唯一家具らしい三段BOXには、少しの食器と本が詰まってる。
それだけの、私の部屋。
このアパート自体も、入ってるのは2階の右端に私。1階の左端と1部屋あけてその隣に一家族ずつ。
各階に10部屋はあるワンルームアパートだけど、できたばっかりだしもともとどこかの寮だったらしく見た目があまりよくないので、人が入らないみたいで。
こんなところに女の1人暮らしってどうよって思ったけれど、アパートを決めてくれたこっちの上司にそんな考えは思いつかなかったらしい。
まぁ、誰もいなくて、楽だけどね。
仕事ばっかで、休みも少ないし。
一日中立ち尽くしていた足に、フローリングの冷たさが気持ちいい。
鞄をおいて、買って来たコンビニ弁当をテーブルに置いた。
味気ないなぁ・・・
昼のご飯を思い出す。
誰かと一緒にご飯を食べるのって、楽しいよな。。。
久しぶりの感覚で、なんだか嬉しかった。
なんだか、気を使わせすぎてるけどまぁいっか。
今度おいしいお店でも教えてもらおう。そうしたらこんなに気を使わせなくていいし・・・。
もくもくと弁当を食べてシャワーを浴びる。
一息つくころには、既に0時をまわっていた。
〜♪
「ん?」
ノートパソコンを開けようと手を伸ばしたとき、テーブルの上においてあった携帯から着信音が響く。
「めずらし・・・。」
画面には和弘の文字。
心とは裏腹にゆっくりとした動作で通話ボタンを押した。
「はい。」
{あ、まだ起きてたんだ。遅いな〜、今日も仕事時間かかったの?}
電話の向こうは、何か騒がしい。
「和弘こそ、どこにいるのよ。もう深夜回ってるのに。ていうか、久しぶりなんだけど何かないの?」
和弘の態度にも言葉にも少しひっかかりながら、落ち着いた声で話す。
{えー、今、同期と飲んでる。お前も近かったらこれるのにな。北海道は同期いないだろ。}
「別にいいわよ、それより明日も仕事でしょうが。そろそろお開きにして休みなさいよ。」
{お前は俺の保護者かって。九州は同期ばっかりで、飲み会マジ多いんだよ。金なくなるって・・・・あっ}
「えっ?和弘?」
小さい叫び声の後、突然声が変わった。
{佐々田さん久しぶり〜、元気?}
九州地区の同期の声。
これは、・・・菊池くんかな?
「元気よ、菊池くんも元気?」
{よくわかったね〜、元気元気。今4人で飲んでんだ〜、次変わるね}
いや、別に変わらなくても・・・
心の中で突っ込みを入れつつ、仕方なく次の人を相手する。
{佐々田さん、和弘ってよく飲むな。金がもったいないよこの飲み方。}
・・・
「あぁ、黒田くんね? そうね、和弘はお酒強いから・・・なんかウォッカとかそこらへん飲ませとけば少しは酔うのかしらね。」
{な〜っ、さてとほら}
あぁ、もう好きにしてくれ。
{もしもし・・・。}
・・・・・女の声・・・
和弘の店の近くで女性の同期といえば・・・
「山下さんだ、元気?」
電話の向こうで、軽やかな笑い声が聞えてくる。
{さすが、佐々田さん。久しぶりだよね、元気?そっちはどう?}
「うん、お店の人もいい人ばかりだし、仕事しやすくていいよ。」
そっか〜と笑いながら、同じ内容を携帯の向こう側で皆に話してる。
{佐々田さんお人よしだから、みんなの分仕事したりとかしてるんじゃない?大変だし、無理しちゃだめだよ〜}
その言葉に、向こう側で笑いがおこる。
和弘の「まったくだ」という声が、やけに響いた。
{皆で心配してたのよ、で、和弘君に携帯をかけてもらったの。最近帰りが遅いらしいって聞いたから。}
・・・誰に。
心うちの声が聞えたのか、山下さんは続ける。
{そっちの店舗に、新人の頃お世話になった店長さんがいてね。帰りがけに店の前通るらしいんだけど、遅くまで佐々田さんの車があるって言うから。}
・・・
「そっか〜、私要領悪いから、ホントパートさんたちにも迷惑かけてて。」
{そういう意味じゃないって}
言葉を遮られる。
{佐々田さんがいい人だからだよ。パートさんたちも甘えてるんだよ〜。佐々田さんいなくなったら、大変になるのにね。}
・・・
「あはは、ありがとう。皆みたいになれる様に私も頑張らないと。」
{何いってるの、佐々田さんはそのままでいいんだよ}
「ありがとう。皆にもお礼伝えておいて貰っていい?そしてそろそろお開きにね〜って。」
山下さんの声が、皆に私の言葉を伝える。
和弘の保護者〜と、男2人の笑い声が聞える。
{私が責任もってお開きにさせるから、心配しないでね。和弘君はちっとも酔ってないし}
「うん、よろしくね。じゃ、おやすみ。」
携帯をきって床に放り投げる。
・・・半月ぶりの電話だったと思う。
前回は1人で電話かけてきたけど。
今日は皆に押し切られたのかな。
・・・・押し切られなきゃ、電話して来なかったってことか。。。
溜息をついて、寝転がる。
和弘とは学生時代からの恋人。
たまたま同じ会社に入社して、1年過ぎた辺りで付き合ってることを同期に打ち明けた。
いや、お酒の席で和弘が口を滑らしただけなんだけど。
3年目の春、和弘は九州へ転勤となり、私は北海道へと転勤した。
北海道は比較的ベテラン勢が多く、私のような若い期はほとんどいない。
九州は新規店舗ができているせいで、店長をたくさん必要とする。
そんな理由で同期が多いのだ。
夜は同期との付き合いが多いようで、最初の頃こそ毎日かかってきていた電話が、3日に一度になり1週間に一度になり、3ヵ月後の今はほとんどかかってこなくなっていた。
「・・・懸命なんだろうな。」
あいつの性格は分かってる。
和弘も今の生活に慣れることに精一杯なんだろう。
同期との繋がりを強くしていた方が、仕事にもいいし楽しい。
・・・仕方ないことだ。
でも、なんだかな・・・。
{私が責任もってお開きにさせるから、心配しないでね。和弘君はちっとも酔ってないし}
なんか他の女から、こんな言葉聞きたくなかったなんて思う私は嫉妬深いのだろうか。
しかも和弘君て・・・
黒田君や菊池君も、下の名前で読んでるのだろうか。山下さんは。
同期うちの女性の中で、一番仕事ができて上からの信頼も厚い山下さん。
明るく気さくだけれど、少しおせっかいなところが玉に瑕・・・かな。
私って・・・、嫌な奴かなぁ・・・
溜息が止まらない。
手元においてある日本地図を指でなぞる。
北海道から九州。
・・・考えたって、どうにもならないしね。
テーブルのそばに横になったまま、畳んであったタオルケットに手を伸ばすとそのまま目を閉じた。
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