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2-第9話
「お前にいつもくっついている犬っころはお前をさらった時に匂いでやられただろうな」
「犬っころ……!!?」
 小鳥はハッと思いだす。
「そういえば、おばばさまのところへ行く途中で激臭がして……」
「動物は大概匂いに敏感だからな。獣避けにも使う薬瓶を使った」
「それに後遺症とかないんですよね!?」
「ああ、大丈夫じゃねえか」
「じゃねえかって……そんな無責任な!」
「まあ責任とるつもりもねえしな。殺さなかっただけましだろ」
 一瞬垣間見えた男の冷酷な瞳に小鳥は戦慄する。
 男の目を見ればその言葉本気だとわかる。
 男があまりにも飄々としているのが忘れてしまいがちだが、彼は小鳥を攫った張本人なのだ。
「……じゃあカインさんが皇子ってほんとですか?」
「ああ、カイン・アルフォードは確かにアルフォード皇国の第三皇子だ。血濡れの皇子っていうのはカイン・アルフォードの異名みたいなもんだな」
 なんだか小さい子にあやすように魔族の男は小鳥の頭をぽんぽんと叩きながら呟く。
 小鳥は内心不服だったが縛られている関係上大人しくされるがままだ。
「どうして血濡れなんて言われているんですか?」
「まあ、あれだな。それだけの人を斬っているからだ」
「……」
「カイン・アルフォードは皇子だが、母親の身分が低い。そのせいもあってか国境沿いの小競り合いかなんかに駆り出されることが多かったようだな。本人も剣術の才能も指揮官としての才覚もあったから余計にそうなのかもしれないな」
「随分と詳しいですね」
「まあ、その国境の小競り合いって奴で俺とアイツは何度かやりあったことがあるしな」
「……それで、カインさんに恨みが?」
「恨みねえ~」
 男は頬を掻きながら考えるように天を向く。
「どっちかっていうと、アイツがこんなことで死んだらつまんねえからかな」
男は小鳥に話すというより宙を見てまるで自分に言い聞かせるように呟いた。
「つまらない?」
 わけがわからないという顔の小鳥を見て、男はにやりと不敵に笑った。 

「アイツには何度もひやりとさせられた男だ。そんな男が今回みたいなつまんねえ権力争いで暗殺されるのはつまんねえってことだよ」
「つまらない?」
 戦う意味を考えるのではなく、戦うこと自体を楽しむ男の表情だった。
 小鳥はその雰囲気に気圧されたが、内心の動揺を隠すように出来るだけ冷静な声で尋ねた。
「権力争いでカインさんは追われることになったんですか?」
「俺も詳しいことは知らねえがな。何でも血濡れの皇子様はどう血迷ったのか謀反を起こそうとしたらしい……つまり自分の親父、皇帝を殺そうとしたらしいっていうのが平民には緘口令が敷かれているが宮廷じゃ専らの噂だ」
 小鳥の脳裏に穏やかに微笑むカインがよぎる。
「カインさんが……そんなことするとは思えません」
 男は面白そうに片眉を器用に上げた。
「お前はあの皇子様のことわかるほど知っちゃいないだろ」
「……確かに、カインさんのこと私は全然知りません。それでも……私はお父さんを殺そうとしたなんて信じられません……少なくとも自分で本人から聞くまでは私はカインさんを信じたいです」
「信じたい……ねえ」
 男は小鳥の本心を見定めるような眼を向ける。
 数秒見つめあった後、視線を苦笑したのは男だった。
「ほんとお前、もう少し出るとこ出ていたらイイ女だったのになあ。まあ、揉めば大きくなるらしいぞ」
 そう言って小鳥の頭をぐしゃっと撫でる。
「ちょっとやめてください!女の子になんてこと言うんですか!?」
「ハハハハ!もうチョイ遊んでやりたがったがお客さんが到着しちまったから行くか」
 と言うや否や小鳥をひょいと荷物のように肩に担ぎあげると小屋の外に向かう。
「ちょっと!!何するんですか!!!」
 小鳥の抗議の声も無視してずんずんと進む。
 ちょうど頭が後ろに向いているので、どちらに向かっているのかわからない。

 外に出ると聞き覚えのある声が聞こえた。

「コトリ殿を離せ」

 静かだが威圧的な声。小鳥は押し黙った。
「よお、お姫さまを救いに来た王子さまってとこか?」
 揶揄するような男の言葉に見えない殺気のようなものがびりびりと走るのが小鳥にもわかる。
(この雰囲気……カインさんに剣を突き付けられたときと同じだ)
 小鳥は背筋がぞわりとするようなあの時の感覚を思い出す。
「お前の目的は私だろう?彼女は関係ない」
「だが、お前はこいつを助けに来た」
 小鳥は男の肩から降ろされる。
 ようやくカインの姿が見えた。
 見たことのない厳しい顔をして手には剣を携えている。

――――――自分の父親、皇帝を殺そうとしていた……

 小鳥は縛られた格好のまま地面にへたり込んだ。


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