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第三話


ハースバルド伯爵家令嬢ルーシア・セアライン・ファル・デ・ハースバルドは、目の前で起こった光景を消化しきれずにいた。



乙女の純潔の危機に颯爽と現れた少年………ナカオカミマヒトと言っていた……彼の強さは想像を遥かに超えていた。

どんな術を使ったのかしらないが鋼の刃を通さぬ皮膚

カウンタースペルや物質変換といった超高難易度の魔法

そして最後に見せた超絶の剣技



いったいどこの騎士だろう。彼ほどの腕なら大陸中に名が知れていてもおかしくないが……こんな若い腕利きがいただろうか?





「………………大丈夫?今すぐ直すからね………」



少年の黄金の瞳に至近距離で覗き込まれてルーシアは首筋まで朱に染まった。



………やだ……!なんて綺麗………!



少年の武力に目を奪われていたから気がつかなかったが絶世の美形だった。

白金の髪はまるで雪の結晶のように光り輝き

肌は極上の磁器のように白く滑らかな光沢を放っている。

女性のように繊細で柔らかな顔の造作のなかで

黄金の瞳だけが男らしい強い意志の光を宿していた。



「土行を以って豊穣の力と為す癒えよ」



少年の掌から暖かい気が注がれるのを感じる。

温泉にでもつかったかのように身体が熱くなったかと思うと、傷は跡形もなく消えていた。



「なななななな…………!」



ルーシアから驚愕の悲鳴があがる。

傷跡の欠片も見当たらないなんて……高僧並の治癒力だ。



「………もう大丈夫……」



少年…マヒトの微笑を至近距離で目の当たりにしたルーシアの脳内で桃色の台風が吹き荒れた。



こんな……綺麗すぎる!はぅぅぅぅぅぅぅっ////!



「僕の名は中御神真人……君は……?」



「ル、ルーシア!ルーシア・セアライン・ファル・デ・ハースバルドよ。助けてくれてありがとう」



鼓動の音が頭の先まで響いている気がする。

信じられない……これってもしかして一目ぼれ……?うわあ!どうしよう!

初めての感覚にとまどうルーシアの脳は少年の次の一言に完全に停止した。



「ところでここは天国でないならどこなのだろう?」





………せっかくの初恋の相手がイタい人だったら悲しすぎる………





マヒトのしごく不思議そうな顔は決して嘘をついているものとは思えない。

……っていうか天国ってなによ!



「ここはオルパシア王国の首都ヴァンガードよ……知らなかったの?」



「オルパシア王国……?それじゃ日本の岩手県なんて知らないよね?………はあ………」



「ちょっとそんなに落ち込んでどうしたのよ?もしかして……迷子?」



ルーシアは真人が深いため息とともにガックリとうなだれるのを見て、咄嗟にそう思ったのだが真人の答えは予想の斜め上を行くものだった。



「迷子といえば迷子かもしれない。異世界から来たというのを迷子と呼んでいいならね……はあ……神でもないのに世界を渡るなんて……」



「異世界ぃぃぃ??」





ルーシアは悲鳴をあげた。

理性ではなく本能が真人のいうことが正しいと告げていた。



なんだってせっかくの初恋なのに難易度高そうなのよ!



つっこみどころが間違っている気もするが………恐るべきは恋する乙女の情念ということだろうか………













「………つまりマヒトは異界から渡ってきた神様と戦って気がついたらここにいたというわけね………」



マヒトの口から紡ぎだされた事実は恐るべきものだった。

人の身でありながら神と戦える武量もさることながら、そのためにマヒトが払った狂気の犠牲がルーシアの胸を締め付ける。

にもかかわらずこのマヒトの涼やかさはどうだろう。

それが諦念なのだとするなら哀しい………ルーシアはそう思う。未来は諦めるためにあるものではないはずだ。





「行くあてもないでしょう?私の家にいらっしゃい……命の恩人を異郷に放り投げてなんておけないわ」



とりあえずマヒトには重石が必要だ。

放っておけばマヒトはどんどん他人のために自分の命をすり減らしていってしまう……そんな気がする。



………恋でもすれば………真剣に欲しいと思えるものがあればマヒトも変わるだろうか?



「ありがとうルーシア…………」



マヒトの形の良い指先がルーシアの燃えるような赤毛を梳いたかと思うと………



チュッ!



頬に口づけられていた。





………

…………………

とりあえずマヒトには恋人が必要よね。

それも腕がたって権力もそれなりにあって気立てのいい………具体的にいうと私のような

というかそれ以外は認めない、認める気もない。

マヒトは私の獲物なのよ………!!







どうみてもマヒトに狩られた獲物にしか見えないルーシアは顔面を朱に染めながら将来の恋人の獲得を心に誓っていた。





高見梁川の心象世界


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