第一話
雪がしんしんと降り積もっていた……
純白に染められた世界のなかに、ポツリ、ポツリと真紅の華が咲く。
全身の感覚が麻痺して指先ひとつも動かすことができない。大腿部の動脈をやってしまったらしい。
左腕も根元から消えている。
血が急速に足りなくなっていくのが自分でもわかった。
あと3分ってとこかな………
自分が出血死するまでの時間を冷静に分析してから思わず苦笑してしまう。
どちらにしろ死ぬことはわかっていたじゃないか………
この、古の怨念を引き継ぐ中御神家の守護司を引き受けたときから………
物心ついたときから……いや、おそらくはそれよりもずっと以前からオレは復活を予言されていた渡り神を倒すための道具だった。
あらゆる外法が試され、全身には細胞の超回復を行わせるために24時間身体を傷つけ続けるための呪法が施されていた。
細胞の再生回数は無限ではない。
渡り神との戦いのあとは細胞が自己崩壊することは承知のうえの修行法だった。
約束の日の前に死なないのが不思議なほどの修行が繰り返され、オレは超絶の戦闘力を身につけた。
もちろん逃げることも出来たのだが……
オレが死んだり使い物にならなくなった場合にはスペアが……オレの妹が戦わされることになっている以上逃げることは論外だった。
妹はオレと違って体術に素養がないせいか絶大な呪力を誇っていたから、オレのように消耗品にならずに生きていける。
オレが渡り神を殺しさえすれば………
………もう、目が霞んで思考もままならなくなってきた。
思いかえすのは滅多に笑わない妹の笑顔
一見無表情だが、本当は照れ屋で甘えん坊で……だけどすぐに別れるのがわかってるからいつも眉をしかめて我慢してばかりで……
なかなか本当の笑顔をみせてはくれなかったけれど…………
もうこの地に荒ぶる渡り神はいない。
中御神家の呪縛は解けたんだ。
籠から出て自由な空へ羽ばたいてお行き…………オレはもう見送ることしかできないけど、心はいつもお前の元にある。
さようなら………真砂……………
少年の意志と力が世界の歪みを修正した。
古に封印された世界を渡る外なる神である神奈備−カムナビ−は神代の刃に浄化されて……あるべき世界に再構成を果たすだろう。
己の神性を取り戻したカムナビにとって、哀しき少年の無惨な死は到底容認できるものではなかった。
ただ戦って死ぬために生まれてきた少年
妹以外にぬくもりを知らずに死んだ少年
一片の後悔もなく兄妹愛に殉じた少年
彼は幸せになるべきだ。
せめて、幸せがなんであるのか知らずに死ぬべきではない。
だがもはやこの世界で行使しうる力はごくわずかだ……………
しかしあのなつかしいアヌビアの世界に還れば私は神の力を存分に揮うことができる………
カムナビは弱弱しく輝く少年の純白の魂を、そっと懐に抱え込んだ。
高見梁川の心象世界
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