挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

99/129

第25話 イケメン再び学校へゆく⑥〜姑息な真似は無駄ですわよ〜


 登校したら机がなかった。
 俺の席だけぽっかりと穴が空いている。

「困ったわ」

 スカーレットを見ると、さもわたくしは何も知りませんわよ、と言いたげな顔で縦巻きロールをピンピンと指で弾いている。

 やっぱおまえか。
 ビンタ&“電打エレキトリック”してやろうか?
 それとも十二元素拳の練習台がいいか? んん?

 ……っとやりもしない妄想は脳内から追い出してと。

 ま、ここは何事もなかったように着席してホームルームを待とうか。
 くだらない悪戯でちょっと笑えるな。


 ——リーンリーン


 始業の鐘が鳴ると同時にハルシューゲ先生と副担任が入ってきた。
 するとすぐに気づいたのか、ハルシューゲ先生が「またか」と小声で言ってため息をつく。

「エリィ君、机がないね」
「はい。困りました」
「諸君! エリィ君の机を知らないか?!」

 ハルシューゲ先生は教壇に立ち、教室内を端から端まで見回していく。
 彼の目は真剣そのもので、微かに怒っている空気を発しているため誰も冗談を言わない。

 クラスメイト達はハルシューゲ先生の視線に耐えきれなくなり、犯人だと思われるスカーレットとボブへその視線を向けた。

 ボブは身に覚えがないのか自分を見てくるクラスメイトを睨み返し、スカーレットと取り巻き連中は関係がないふうを装っている。やがて先生は肩の力を抜き、軽いため息をついた。

「空いている机もない……困ったね」

 俺を見て申し訳なさそうに額に手を当てた。

「あ、大丈夫ですよ先生。こうすれば」

 ハルシューゲ先生のせいではないのに、そんな顔をされるとこちらとしてもエリィが悲しい気分になってしまう。
 つとめて明るく言い、鞄から教科書『魔物データベース第34版』を取り出して“ウインド”を唱えて空中に浮かせた。

「エ、エリィ君?! 本が宙に浮いているね?!」
「はい先生。こうやって風魔法“ウインド”を四角く発生させれば、少し不安定ですけど机変わりになります。魔力制御の練習にもなってちょうどいいですね」
「……できるのは君ぐらいだよ」

 ハルシューゲ先生が「分かっていたけど驚くなぁこれは」と自分の額をピシャリと叩き、そばかす顔の副担任が「すごいわ」としきりに感心している。

「ということでどうぞ授業を進めてください。皆さん、机が見つかったら教えてもらえると嬉しいですわ」

 振り返ってクラスメイト全員に告げる。
 彼らはぽかんとした顔で俺を見て、うなずいたり、“ウインド”で揺らめくエリィのスカートの端を見たり、浮いている教科書を見たりしている。

 時間が経つと、風魔法を習得している生徒達が教科書を浮かそうと試し始めた。

 これ、下位下級の“ウインド”を継続して唱えないといけないからなぁ。
 魔力循環が上手くないとすぐ息切れするんだよな。

 しかも風魔法下級“ウインド”の形を変形させるっていう高等テクニックね。これは六年生でもできない生徒がいるレベルの技術だ。優秀な六年生でも、机の形を維持できるのは三十分ぐらいじゃないか?

 ポカじいはこういった変形を上位黒魔法でやるからすごい。

 ちなみにアリアナ、スルメ、ガルガインなんかもこれぐらいの魔力操作なら余裕でできる。だが、杖なしでできるのは学校で俺とアリアナぐらいだ。

「ふん。それぐらいで何を……」

 スカーレットが対抗心をむき出しにしてぼそりと呟く。

 取り巻き連中が「おできになるんですね!」と目を輝かせ、「やっぱりスカーレット様はすごいですわ」と囃し立てる。
 スカーレット、自ら墓穴掘ってないか?

「と、当然ですわ」
「ではお願いします!」

 取り巻き連中の女子で一人ネジの抜けてる子がいるらしい。
 彼女は何も分かっていないのか教科書を鞄から出してスカーレットの前に掲げた。
 スカーレット、めっちゃ顔が引きつってるぞ。

「……朝に魔法練習をしすぎて魔力が少ないんですの。また今度の機会にいたしますわ」
「それは残念です!」

 おマヌケ女子は心底がっかりした顔で教科書を引っ込めた。

「スカーレット様がやる必要ございません。だって机がありますもの」

 おさげのゾーイが勝ち誇った顔でこちらを見て、すぐにスカーレットへ視線を戻した。相変わらず特徴のない顔つきだ。目が丸くて鼻と口が小さい。

「そうね。ゾーイの言う通りよ」

 スカーレットは強がっているが、どうにも俺が“ウインド”を変形させて机変わりにしているのが気になるらしい。チラチラと盗み見て時折悔しげな顔をした。

 デブ、ブス、と下に見ていた女子が自分より遥かに魔法が上手くなっている。
 どんな気分よ?
 お前も頑張って練習しないとエリィには追いつけないぞ。

「まあ! スカーレットは“ウインド”を机代わりにできるのね!」

 しめしめと思いつつ、満面のエリィスマイルを輝かせ、顔の前でぽんと両手を叩いた。
 急に大きな声を出した俺に、クラスメイトが驚き注目が集まる。

「それじゃあ魔力息切れしそうになったら席を交換してくれないかしら? あなたにしかお願いできないわ! ああよかった。さすがにずっと“ウインド”を唱え続けるのは辛いもの。さすがはサークレット家ね。素敵だわ」

 あなたは“できる”と強調して、畳み掛けるようにスカーレットに言う。

 ちなみに俺は下位下級魔法なら連続二時間の発動が可能。授業の間ぐらいなら余裕だ。

「な、なにを言っているのかしら。あなたにそんなことしてあげる義理なんてないわよ」
「スカーレットは優しいクラスメイトじゃないの? 悲しいわね……」
「うっ……」

 俺が営業で培った迫真の演技でうつむくと、スカーレットは頬をぴくりと上げて言葉を詰まらせた。周囲の体裁を気にするスカーレットには効果てきめんだ。それに、スカーレットが恋心を寄せているらしいボブも興味深げにこのやりとりを聞いている。
 彼女はエリィを散々いじめてきているので、ここで優しくて頼りになるレディを演じ、全員からの点数を稼ぎたいはず。

 クラスメイトからも、助けないのか、というため息が漏れると、スカーレットはますますバツの悪い顔になった。

 よし。もうひと押し。

「でも……無理ならいいわ。魔法の早朝練習で魔力がないなら仕方ないものね。魔力が回復したら教えてくれないかしら?」
「だ、だからやるとは一言も言っていないわよ」
「交代してくれないの? これができるのはスカーレットしかいないんでしょう? 他に誰かいるかしら?」

 俺が振り返ってクラスメイトを見回すと、ボブは憎々しげに顔を背け、子分は下を向き、スカーレットの取り巻き連中も目を逸らした。エリィのことを悪く思っていないであろう数名のクラスメイトはすまなそうに首を横に振る。ゾーイだけが燃えるような瞳で睨んできた。

「私からもお願いできないかな? スカーレット君さえよければね」

 ハルシューゲ先生が試すような目をスカーレットへ向けた。
 さすがハゲ神。神がかったアシスト。

「クラスメイトが困っているんだ。もしできないなら、できないと正直に言いなさい」

 分かっているような口調でハルシューゲ先生が見つめる。
 スカーレットはぐしゃりと顔の中心に皺を寄せた。

「できますわ! 今は魔力がないからできないと言っているんですの!」
「そうか。では、明日も机がなかったらエリィ君と交代してあげなさい」
「そんな魔力の無駄遣いできませんわ!」
「無駄遣いなんかじゃないよ。魔力操作の練習になるし、クラスメイトを助けることもできる。一石二鳥じゃないか」
「そ……それはそうですけど……」

 先生、うまい。
 明日交代しろと言っておけば、“ウインド”の変形をできないスカーレットは隠した机を元に戻すだろう。
 しかも、もう二度とこんな悪戯はしないはず。
 二段構えだ。

「話は終了だ。エリィ君、すまないがしばらくそのまま授業を受けてくれたまえ。予備の机を持ってくるにも申請が必要だ。いいね?」
「分かりましたわ」

 先生は少し含み笑いをしている。
 なるほど。あの顔は替えの机を持ってくることができるけど、このままでいいよね、という確認だ。
 もちろんですよ先生。

「途中、疲れたら隣のハーベスト君の机を借りたまえ。いいかな、ハーベスト君」
「はい。大丈夫です」

 隣の席に座っている女子生徒は嬉しそうに笑い、あわててスカーレットの様子を窺う。彼女はスカーレットが自分を見ずに俺を見ていることに安堵し、一瞬だけこちらを見て力強く首肯した。

「お願いね」

 ハーベストというふっくら体型の女子生徒に笑いかけた。
 彼女は茶色のゆるふわなショートボブヘアーをしており、ほっぺたがお饅頭のように丸い、優しげな女の子だ。

 彼女はやけに熱い視線を送ってくるも、やはりスカーレットが気になるのかすぐに黒板の方向へ首を戻した。

 エリィと話したいがスカーレットが黙っていない。
 そんなところか。

 この子はエリィがひどいことを言われても不快な顔をしていたし、友達になってくれるかもしれない。

 ハルシューゲ先生に向かって優雅に一礼して、“ウインド”で風の机を作った。
 空気が四角い板の中を循環するイメージで魔法を発動する。こうすれば無駄な風も発生しない。

 先生が魔力操作の巧さに目を見張ったが、すぐに表情を切り替えた。

「では授業を始めよう。フリン先生、交代だ。少し時間を使ってしまったので、後半を短めに」
「分かりました」

 副担任のフリン先生は緊張した面持ちでうなずいた。
 グレイフナー魔法学校では四年生から副担任が付くことが通例らしい。正規担任と生徒の評価が得られれば昇格するそうだ。

「では皆さん、『魔物データベース第34版』の3ページを開いてください。この授業の概要から話しましょう」

 副担任の張り切った声が響いた。

 後ろを見ると、スカーレットが苦々しげに教科書を開いて準備をしている。
 その顔ったら……なんともまあ不細工ですこと。オホホッ。

 お前には、身から出た錆、ってことわざがぴったりだ。



     ◯



 授業の途中で三度ほどハーベストちゃんの机を半分借りた。
 これ以上能力が高いところを見せても、あとで災いの種になりそうだ。

 クラスメイトから見て、自分も頑張ればできそうだな、ってぐらいの優秀さがちょうどいい。延々と教科書を浮かせていたら魔法技術を嫉妬される。

 机半分を貸してくれたハーベストちゃんは見た目通り優しい女子生徒だった。
 授業中、ノートに『ごめんなさい』と書いて、自分が置かれている状況まで事細かに説明してくれた。

 彼女は一年生の頃からエリィがいじめられているのを見て、どうにかできないかとずっと考えていたらしい。それに、果敢に抗議するエリィに好感を持っていたそうだ。そして勇気のない自分と、家の保身で正義を貫けない自分自身を恥ずかしいと嘆いていた。

 ハーベストちゃんはグリーン家という領地数7個の小貴族で、サークレット家のミスリルを運搬する仕事でどうにか食いつないでいる。父親はサークレット家に頭が上がらず、ついでにうだつも上がらない。

 そんなところで、ハーベストちゃんが光適性ということが分かり、一家の命運を背負ってグレイフナー魔法学校に入学。しかもサークレット家の次女と同じクラスになると聞いて、父はどうにかしてスカーレットのご機嫌を取るようにとハーベストちゃんに言い含めた。

 だが、蓋を開けたらスカーレットはあの性格だ。

 ハーベストちゃんは一年生の頃一度だけエリィを助けたが、すぐにスカーレットが「自分の立場が分かっているのでしょうね」と釘を刺したため、それ以降付かず離れずの距離を保つことしかできなかったらしい。

 仕方のないことだと思う。自分のせいで親の仕事がなくなったら一家離散の危機だからな。俺が彼女の立場でも、そうするだろう。
 ま、俺なら何年かかってでも外堀を埋めて反攻に打って出るがね。

 その後、ハーベストちゃんは何度か父親に相談した。
 しかし、父親がわびしげな哀愁を背中に漂わせ、どうにか卒業まで我慢してくれと言ってきたので、ハーベストちゃんは泣く泣くそれを了承せざるを得なかった。

 そんなことを女の子っぽい文字でつらつらと授業中に書いてくれたので、彼女のノートは文字でびっしりと埋まってしまった。

 途中、心臓がドキドキしてエリィが喜んでいるのが分かって、俺も嬉しい気持ちになった。

 エリィを助けようとしたクラスメイトがいた。
 それだけでも精神的に救われるものがある。
 あー顔が熱いぜ。

 彼女とは普段アイコンタクトを取るだけの取り決めにし、机が戻ったあとでも教科書を忘れた振りをして授業中に筆談することになった。なんだかエリィがめっちゃ喜んでいる気がする。

『魔物学・4』『魔力運用学』『光魔法効果学』の三つが終わる頃には、俺とハーベストちゃんの距離はぐっと縮まった。


 ——リーンリーン


 お昼休憩の鐘が鳴り、彼女は名残惜しそうに別のクラスメイトと教室を出ていった。
 俺も食堂に行こうかなと思っていたら、見慣れた狐耳のお嬢さんが現れた。

「エリィ…お昼ごはん」

 アリアナがわざわざ教室まで来てくれた。超うれぴー。

 おお。クラスメイトがアリアナの可愛さに絶句しているぞ。
 ボブと子分なんかは完全に固まっており、机の上に広げた教科書をバラバラと落としていた。あまりのアルティメットプリティぶりに思考が追いつかないらしい。

「パンジーも誘いましょう」
「さすがエリィ…名案」

 そんな彼らは無視し、アリアナと二人で階段を上り、一つ上の三年生の教室へ向かった。
 校舎は下の階にいくほど学年が大きくなる。
 一階が六年生、二階が五年生、三階が四年生、といった具合だ。
 教室は六芒星になぞらえた場所になっているため、パンジーのいる光クラスは四年生光クラスのすぐ真上にある。

 懐かしき三年生の教室をガラリと開け、パンジーを探した。

「………ほひ?」
「だ、誰……!?」
「美人が二人もっ!」
「お、おい。俺のこと見たぜ」
「バカちがう。俺だ」
「あのお姉様方は……?!」

 これから食堂に行こうとしていた三年生達は騒然となった。

 あーこれなんとなく分かるかも。
 高学年の美人が急に自分の教室に来たらびっくりするパターンね。

 ピンク色の髪をしたパンジーは教室の中ほどにおり、俺達を見つけると咲き誇る薔薇ような笑顔で駆け寄ってきた。

「エリィさんアリアナさん! どうしたの?!」
「学食を食べに行くから一緒に行きましょう」
「行こう…」
「はいっ! あ、でも……」

 パンジーは一気に表情を曇らせ、後ろを振り返った。
 二人の女子生徒がパンジーと俺達を交互に見ている。
 一人は青髪の女子生徒。もう一人は魔女っぽいとんがり帽をかぶっている。

「あの子達と一緒に食べに行くことになって……」
「まあ! それは素敵ね!」

 うおっ、エリィが勝手にしゃべった。
 パンジーに友達ができて嬉しいんだな。俺も嬉しいぞ。

「ん…!」

 アリアナも無表情を崩してちょっぴり笑っている。

「あ、あのぅエリィさん? ちょっと待っててもらえる?」
「あら? いいわよ」

 パンジーは何やら決断した顔を作ると、約束していた青髪ちゃんととんがり帽ちゃんのところへいって事情を説明している。彼女らは俺とアリアナを見てめちゃめちゃ嬉しそうに首を縦に振り、パンジーと一緒にやってきた。

「エリィさんアリアナさん、二人も一緒でいいかな?!」

 パンジーがかなり真剣な様子で聞いてくる。

「いいわよ! アリアナは?」
「いいよ」

 そんなこんなで唖然とする三年生たちを尻目に、五人で食堂に向かうことになった。
 パンジーも嬉しそうだが、後ろにいる二人も感激しているのか「素敵なお姉様方ですわっ」と興奮している。



      ◯



 食堂は古めかしくもどこか格式高い木製のテーブルが等間隔に並び、「光」「闇」「火」「水」「土」「風」の六適性すべての学生が入り乱れている。三千四百人いる学生のほとんどが集まるため、食堂はとにかく広い。

 大食堂、テラス席、予約個室、カフェ、コース料理席など学校とは思えないほど食堂施設は充実していた。

 ちなみにグレイフナー魔法学校の食堂は基本無料で、追加注文をすると有料になる。学校の方針なのか、どんな貴族でも自分で注文して自分で運ぶのがルールだ。

 今日の献立はバランスとカロリーを考えてサラダ、パン、果物、根菜スープ、鳥肉を少々。
 アリアナは自分で作ったおにぎり、サラダ、クリームシチュー。
 パンジーと友人二人はリゾット的なものを頼んだ。

 俺達は三十人のコックがずらりと待ち構えるランチ配膳の列に並び、銀のトレーに乗った昼食を受け取ってテラス席を確保した。今学期からなのか分からないが羽付きマルチーズが放し飼いにされていて、生徒が餌をあげたり、わしゃわしゃなでたりしている。

 簡単な自己紹介をしてガールズトークに花が咲いた。
 やはり女子達の感心は洋服だ。

「ええっ?! お姉様があの『Eimy』の編集長ですって?!」
「ほわぁっ!」
「しかもミラーズの総合デザイナー?!」
「ほわわぁっ!?」

 事実を伝えると、青髪ちゃん、とんがり帽ちゃんが驚いてスプーンを取り落とした。
 ほわわぁ、って。驚きすぎだろ。

 そこでパンジーの熱烈な雑誌紹介タイムがスタートした。
 二人はしきりに感心しており、パンジーが次の『Eimy』のモデルになったことに天地がひっくり返るほど仰天していた。

 女子生徒の間で雑誌『Eimy』の話題が上がらないことはないそうで、中でも高級ランクの『エリィモデル・シリーズ』は着ているだけで羨望の的になるらしく、ふたりとも欲しくて欲しくて仕方ないそうだ。しかし値段が高く、薄給貴族にはなかなか手が出せないとのこと。

 ふっ、わずか一年間でここまでの影響力を持つとはね。
 異世界の洋服界を牛耳る日もそう遠くないな。

 そんなこんなでパンジーと友人はかなり盛り上がり、サウザンド家で遊ぶ約束を交わしていた。よかったよかった。パンジー頑張った。偉い!

 アリアナいわく、二人とも大きくはないが古くからあるしっかりした家柄の息女なので、パンジーはいい友人を捕まえたとのこと。

「お姉様! 次のエリィモデルはどんな服ですの?!」

 リゾット的な昼食を食べ終わったパンジーの友人が身を乗り出して聞いてくる。

「次はパーティードレスよ。舞踏会や立食パーティーのときに着る可愛くて素敵な服ね」
「はぁ〜パーティー用の……。でも、お高いんでしょう?」
「そうね。どうしても縫製に時間がかかってしまうのよ。本当はコストダウンして一般市民でも買えるぐらいの金額設定にしたいんだけれど、現状難しいわ。あとはブランド化を根付かせるためにも、今のところあの料金設定を変えるのは戦略的にナンセンスだと思うの」
「え? あ、あの……」
「あらごめんなさい。私ったらついね、オホホホ」

 お子様には難しい話だった。

 それにしても、やっぱり周囲からの視線が熱いな。
 可愛すぎるってのも問題だ。
 エイミーはいつもこれを感じていたのだろうか。

 ……いや、エイミーは天然だからあまり気にしなかったに違いない。

 まぁそれより気になるのはテラス席の後方に陣取っているスカーレットグループだ。
 相変わらず、スカーレット、ゾーイ、他四人、という六人構成。
 何やらさっきからこっちを窺っており、誰かが魔力を練っているのが分かる。

「エリィ…」
「お願いしても?」
「ん…」

 気づいたアリアナが狐耳をぴくぴくさせていたので、対処をお願いした。

 ブレザーから手鏡を出して髪型を直し、後方を確認する。
 思っていた通り、ゾーイが見つからないようにポケットから杖の先端だけをこちらに向けていた。
 スカーレットと取り巻き連中は笑いをこらえている。

 十二元素拳でみぞおちパンチして、アヘアヘ言わせてもええんやで?

 ミラーズ特注の手鏡をしまい、アリアナに目配せを送る。
 俺とアリアナはわざと気づかない振りをして会話を続けた。

 すると、ゾーイの杖から地面を這うようにして魔法が飛んでくる波動が感知できた。多分、水魔法中級“ウォーターボール”だ。

 ゾーイの魔法が俺のスカートめがけて直進する。

「んん…」

 アリアナがおにぎりをかじりながら人差し指をくいっと上げると、風魔法中級“ウインドブレイク”らしき魔法が背後で発動し、ゾーイの放った魔法を地面に叩き落とした。


 バシャッ、と水音が響いく。


 やはり“ウォーターボール”!
 水をぶっかけて困らせるっていじめの定番じゃねえか!

 水音を聞いて、パンジー、青髪ちゃん、とんがり帽ちゃんの三人が地面を見て首を傾げた。俺とアリアナも便乗して振り返ると、スカーレットとゾーイの二人と目が合った。

「なんですの? こっちを見ないでくれます?!」

 スカーレットは己の企みが不発に終わって苛立っているのか、きぃきぃ声でわめいて睨んできた。

「地面が濡れているけど、まさか校内で人に向かって魔法を使ったりしてないわよね?」
「当たり前だ。こっちを見るな、ブス」

 今度はゾーイが大人しそうな外見からは想像もできない言葉遣いで言ってくる。
 これにはパンジーも眉をひそめた。

「エリィさんがブス? あの人、白魔法師協会で眼の治療を受けたほうがいいんじゃないかな……?」
「いいのよパンジー。あの子達は他人を貶めることでしか自分を認められない悲しい女子なの。あんなことを言う暇があるなら自分をもっと磨けばいいのにね」
「ひょっとしてエリィさんのクラスの……?」
「あらパンジー、その顔。ひょっとしてグレンフィディック様に聞いたわね?」
「……ちょっとだけ。ごめんなさい」
「いいのよ。すぐに解決するわ」

 パンジーは気遣ってくれているのか、笑顔で首を縦に振る。
 なんとなく事情が分かってしまった友人二人も真剣な面持ちだ。

「よし。殺ろう…」

 アリアナが口の横にご飯粒をつけたまま、目を細くして鋭い視線を作った。

 ちょっと、可愛いのか怖いのかどっちかにしてくれない?!

「怖いこと言わないでちょうだい」

 アリアナの口元からご飯粒を取ってぱくりと食べる。
 彼女はそれが恥ずかしかったのか、頬を染めてうつむいた。

「あーああっ。いや〜な金髪のツインテールがいるからせっかくのランチが興ざめですわね。行きましょう皆さん」

 何がいや〜な金髪ツインテールだ。おまえの金髪アホ縦巻きロールのほうがよっぽどお下品でいやだぞ。

 スカーレットがわざとらしく大きな声を出して銀のトレーに手を掛けた。
 それに続いて取り巻き連中とゾーイも銀トレーを持ち上げようとする。

 だが、食器の乗ったトレーは磁石で張り付いたみたいに持ち上がらなかった。

「な、なんですの? ちょっと、トレーがくっついておりますわ! ゾーイ、なんとかなさい!」
「持ち上がらない……!?」

 スカーレット、ゾーイ、取り巻き連中は立ち上がって中腰のまま、トレーを持ち上げようと格闘する。
 尻を突き出してまぬけな光景だ。
 ポカじいがいたら喜びそうだな。

 よく観察すると、アリアナがテラス席のテーブルに重力魔法下級“重力グラビトン”を展開していた。
 テーブルの裏側に形を合わせて変形させ、見えないようにしている。さっそくポカじいに言われた練習を実践しているようだ。

 それにしても……アリアナ、相当怒ってるな。
 米粒がほっぺたについていた恥ずかしさから復活し、冷徹な顔でスカーレット達を見ている。

 パンジーと友人二名は、何が起きているのか分からず不思議そうな顔をしていた。

「何なんですのこれは!」
「お、重い……」
「わたくしに貸しなさい!」

 人任せにしていたスカーレットがゾーイの隣に滑り込んで、銀のトレーをつかむ。
 取り巻き連中もきゃあきゃあ言いながらトレーを持ち上げようと騒ぐ。

 全員の腕がトレーを上げようとさらに力を入れたそのときだった。

「ん」

 アリアナが“重力グラビトン”を切った。

「きゃあぁぁっ!」
「あっ!」
「ひいっ」
「きゃぴぃ」
「ああっ!」
「ひゃわっ!」

 突然トレーが軽くなったせいで、スカーレット、ゾーイ、取り巻き連中、六人全員がトレーを握ったまま後ろにひっくり返った。

 絶妙!
 アリアナの魔力制御が絶妙すぎるっ!

 テラス席の芝生に尻もちをつき、両手に持ったトレーがぶんと大きく頭上で振られ、食器が空中を飛ぶ。

 ガチャガチャガチャンとフォーク、スプーン、グラス、皿などが盛大な音を立てて周囲に散らばった。残さず食べていたらしいので中身が誰かにかかることはなかったものの、滑稽さは天井知らずだ。

 ちゃんと魔力循環の練習をしていればアリアナの魔法を感知できたのにな。
 んー残念っ。


 テラス席が静かになり、スカーレット達の席へ一斉に視線が集まった。


 スカーレット、ゾーイ、取り巻き連中が地面に座って目を白黒させている。スカーレットは悲しいことに、パスタの皿が頭の上に乗っていた。


「なんだあれ?」「喜劇の練習?」「全員尻もちついてるけど」「見ろよ。金髪ロールの女子」「頭に皿が乗ってるよ」「なんで食器投げてるの?」「ずっこけ六人組?」


 くすくす、と周囲から失笑が起きた。


 たちまち顔を真っ赤にさせたスカーレットが立ち上がった。

「何なんですのこのトレーは! 不良品ですわ!」

 誤魔化すように叫んでスカーレットが素早くパスタの皿を頭から弾き飛ばし、トレーを踏みつけた。

「悪さをするとああなる」

 アリアナが無表情にぼそりと言った。
 大して面白そうじゃないのは、全然納得していないからだろうな。

 いやさ、アリアナがいるときに魔法撃ったらそりゃ反撃されるでしょ。スカーレットは合宿でアリアナと一緒だったんだから、実力や性格は分かっているはずだ。もっと周囲を見て、状況を把握してからやれよ。そこもアホなポイントだ。

 やがてテラス席の生徒達は興味を失ったのか、それぞれのランチへと目を戻した。

「こっちを見ないでちょうだいエリィ・ゴールデン! 気分が悪いわ!」

 スカーレットが取り巻き連中にハンカチで頭を拭かせながら指を差してくる。
 自分で片付ける気はないんだな。

「おまえ、何かしたのか?」

 ゾーイが憤慨した様子で眉間に皺を寄せ、こちらの席に向かってきた。
 パンジーと友人二人が驚いて身を固くした。

「急に転んだからびっくりしたわ」
「おまえが何かしたんだろう」
「してないわよ? 何かしたのはあなたじゃないかしら?」

 アリアナは彼女に興味がないのかもりもりとおにぎりを食べている。

「足元には気をつけないとね」

 俺が笑顔で言うと、おさげ頭のゾーイは眉間の皺をさらに寄せ、射殺すように睨んできた。

 いや、怖い怖い。
 図書委員みたいなキャラでその顔、怖いって。
 あんたスカーレットへの入れ込み方がおかしいよ。

 しばらく睨むと、ゾーイはふんと鼻を鳴らして踵を返し、スカーレット達はテラス席からそそくさと退散した。

「まったく。姑息な悪戯はやめてほしいわね」
「矮小…」

 アリアナがこくりとうなずく。

「アリアナが反撃する分にはいいけどね」
「さっきみたいなことはあまりしないでおく…」
「ありがとね、怒ってくれて」
「エリィのことブスって言ったからね…。あっ、思い出したら許せなくなってきた。やっぱり殺ろう…」
「また怖い顔になってるわよ」

 手を伸ばし、アリアナの狐耳をもふもふして落ち着かせる。

「いいのよ、全然気にしてないわ」
「それならいいけど…」

 だってねぇ。どう考えてもエリィ可愛いじゃん。

「あのぉエリィさん? いったいどういうことなの?」

 パンジーがおずおずと状況を確認してくる。

「あの子達が、私に向かって“ウォーターボール”を撃ってきたのよ」
「えっ?! それって校則違反じゃ……」
「アリアナが“ウインドブレイク”で阻止して、そのあと彼女達の座っていたテーブルの裏側に黒魔法“重力グラビトン”をかけてトレーを持ち上げられないようにしたの」
「えええっ?! ぜ……全然気づかなかった。しかも重力魔法……」
「パンジーはもっと魔力循環の練習をしたほうがいいわ。今のやりとりが分からないようだと白魔法の習得は難しいわね」
「が、頑張ります!」

 パンジーが両手をぐっと握ったので、彼女の頭を撫でてあげる。
 青髪ちゃんととんがり帽ちゃんも頭を撫でてほしそうだったので仕方なく撫でる。

 それを見たアリアナが不服そうな顔をしたので、これでもかと狐耳をもふもふした。

 まぁ、スカーレット達がやるいじめの方法は日記にあった通りだな。
 概ね計算通りだ。

 それにしても呆れるほどに陰湿だな。
 授業初日から“机を隠す”、“水魔法を撃つ”ってねぇ。どうなのよ?

 これは俄然おしおきに気合いが入るぜ。



      ☆



「何なんですのあの金髪ツインテール! 頭にくるわっ!」

 食堂から退散したスカーレットが廊下を歩きながら喚いた。
 取り巻き連中が「そうですわ」と憤慨し、ゾーイも苛々した様子でスカーレットの横を歩く。

「他人からあんな目を向けられた経験はわたくし生まれてから一度もございませんのよ!」

 自分の怒りをぶつけようと、ゾーイを睨みつけた。

「それを何ですの?! ちょっと転んだだけでバカにしたような目を向けて! 許せませんわ!」

 スカーレットはエリィをデブというだけで冷笑していた過去を棚に上げ、自分の思い通りにならない事態に激怒する。

「正義感をこねて貼り付けたようなあの顔! 憎たらしいったらないわ! あの女は大人しくわたくし達のおもちゃになっていればいいんですのよ!」
「スカーレット様。仰る通りです」
「あなたもそう思うでしょう? なぜわたくしがエリィ・ゴールデンごときで腹を立てないといけなんですの?」
「ここはあいつに分からせないといけません」
「あら、どういうこと?」

 ゾーイの言葉でいくぶんか溜飲を下げたスカーレットは人差し指を顎に添えて、立ち止まった。

 食堂の出入り口から近い廊下は行き交う生徒達で溢れている。
 彼女らと同じようにして立ち話をする生徒が多数いるため、スカーレット達に特別目を向ける生徒はいない。

「来週、白魔法師協会の実習訓練がございます。そこで私達がエリィ・ゴールデンよりいかに優秀か見せつければいいんです」
「あら、それはいい考えね」

 スカーレットはゾーイの言うことはもっともだと思ったが、すぐに自分が光魔法の中級までしか使用できないことに思い当たって姉の顔が脳裏をよぎった。

「あいつは小癪なことに光魔法上級まで使えるみたいですが、実習前までに魔力を減らしておけばいいんですよ。魔力がなくて魔法が唱えられなければハルシューゲ先生はがっかりして、クラスメイトもあいつの魔法は大したことがないと思います」

 ゾーイが親分の不安を見抜いたのか、優しく諭す。
 スカーレットは迷いが晴れた表情になっていつもの得意げな笑顔を作った。

「そうね。それで、どうやって実習前にあいつの魔力を減らしておくの?」
「知り合いの黒魔法師に頼んで魔力減退の魔法をかけさせます」
「それは名案ね!」
「まかせてください。登校時にでもやらせますよ」
「腕は確かなんでしょうね?」
「その手の仕事を生業にしている黒魔法師です」

 ゾーイは暗い笑顔をスカーレットに向けた。

「さすがはゾーイ、わたくしの一番の親友ですわ!」

 スカーレットは満足げにうなずいて、早くも困るエリィの顔を思い浮かべたのか、高らかに笑った。取り巻き連中が「オホホホ」とあとに続く。

 ゾーイはそんな友人たちの様子を見て特に合わせることもなく、変わらぬ微笑をスカーレットに向けていた。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
2017年、今年もよろしくお願い致します!
感想の返信ができず申し訳ございません。
すべて目を通させていただき、参考にしております。いつもありがとうございます。生きる糧になっております。

また、ピクシブにイラストをくださる方、本当にありがとうございます。土下座三回転ひねりしたいです。

さらに、イラスト冬のコミケでエリィとアリアナのコスをしてくれた方、脳汁でました・・・
狐耳、ちゃんともふもふしてました。生で見れなくて残念です・・・まじで・・・!(ツイッターで探すと画像出てきます)

そしていつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
少しでも多く更新して楽しんでいただけるよう頑張ります。

今年も敬愛する読者皆様の健康とハッピーを心から祈っております!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ