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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第24話 イケメン再び学校へゆく⑤〜登校前に新しい稽古をするかのぅ〜


 始業式翌日、4月4日。
 雑誌発売まで二週間ちょい。

 雑誌制作の進捗率は65%と予定のボーターにオンライン。
 洋服縫製もデニムの出現により一気に計画が進み、効率よく作業計画を立てれたので順調だ。

 あとは新デザイナーと新モデル募集の噂を流し、4月20日の雑誌発売で大々的に告知する。
 新刊がの準備が終わったら魔闘会でファッションショー&新人発掘オーディションの計画に移る。さらに新しい雑誌にも着手。

 ああ忙しい!
 そんでもって超楽しい。
 グレイフナー最高、都会最高!
 売るぞー稼ぐぞーっ。

「エリィお嬢様。アリアナお嬢様がお見えになりました」

 時刻は七時きっかり。
 さすがアリアナだ。

「おはよ…」
「おはよう」

 い、いかん! アリアナ、俺に会えてめっちゃ嬉しそう!
 なんか膝をもじもじ擦り合わせて顔赤くしてるし、喜びのあまり狐耳と狐尻尾がせわしなく動いている。

 きゃわいい。
 鉄棒で大車輪をキメながら「あーーーかわいいいいいっ!」と叫んで空中三回転ひねりで着地したいぐらい可愛い。

 俺とアリアナは砂漠にいるときずっと一緒だったからな。それこそ食事も風呂も寝るのも全部一緒だった。こうしてグレイフナーに帰ってきて別々の家に帰るのが新鮮っていうか、まあぶっちゃけ寂しいっていうかね。

 もういっそアリアナの弟妹全員ここに住んだらいいんじゃないか、とも思うがそういうわけにもいかない。

「ポカじいは…?」

 気を取り直したアリアナが小首をかしげる。

「中庭よ。行きましょう」
「ん…」

 俺もどうにか平常運転に戻り、アリアナとゴールデン家の中庭へ向かう。
 今日は登校前に稽古だ。

 どうやらポカじいもグレイフナー王国でやることがあるらしく、忙しいとのことで、稽古のとき以外はゴールデン家にいない。それでも稽古は必ずつけてくれるから、やっぱいい師匠なんだろうな。そんでもってどこで寝泊まりしているのか謎だ。

 中庭で、座禅をして精神統一しているポカじいがいた。
 おお、カンフーの達人っぽくてカッコいい……と思ったら薄目開けてめっちゃメイドの尻を見てやがる。感動を返してくれ。

「来たか」
「おはようポカじい」
「おはよ…」
「うむ」

 ポカじいがうなずくと同時に眼前から消えた。

 瞬時に身体強化を“下の上”まで一気にかけ、右腕を後ろ手に払う。
 ビシッと人の手を弾く音がし、続いてポカじいの声が聞こえた。

「ほっほっほ、ガードが固いわい。尻は柔らかいのにのぅ」
「そう簡単に触らせないわよ」
「身体強化の発動もまぁまぁの出来じゃ。よかろう」
「本当!?」
「まぁまぁじゃぞ。満点はやれん」
「それでも大きな進歩よ! 今までは“ダメじゃな”の一言だったもの」
「そうだったかのぅ」

 ポカじいは常に優しいが、魔法関連だけはめちゃくちゃ厳しい。ここ一ヶ月はなかなか褒めてもらえなかった。
 アリアナがよかったね、と嬉しそうに口角を上げる。

 にしてもさっきの移動、全然見えなかった。
 どんな技術使ってるんだよ……。

 ポカじいは俺とアリアナの正面に回り込み、中庭の真ん中へと誘導する。
 中庭は稽古のためにテラス席などをすべて脇に寄せてあり、かなりの広さを確保してある。 

「エリィとアリアナの修業内容を一段階上げる。これからその説明をするぞい」
「はい!」
「ん…!」

 ついに奥義か?!

「エリィ、そんな顔をしてもまだ奥義の伝授はできんぞ」

 だよなぁ。
 十二元素拳を始めてからまだ一年も経ってないもんなぁ。

「まずエリィに教えている十二元素拳じゃが、大まかに分けると四つの段階別になっておる。便宜上名付けるならば『一・型』『二・流』『三・双』『四・内』という感じかの」
「な、なにそれ! カッコいいわねぇ〜!」
「……おぬしも変わったおなごじゃな。まあよい。ちなみに十二元素拳奥義は『四・内』にあたる。エリィは『一・型』を終えたところじゃな」
「なんですって!? 私まだ第一段階目だったの?」
「当たり前じゃ。わしが何年かかったと思うておる。おぬし、これでも人の五倍は習得が早いからの?」
「……よかった。それを聞いて安心したわ」
「エリィは五倍…すごい」

 アリアナが目を輝かせて見てくる。
 そんな目で見ないでくれ。抱きしめたくなる。

「それでじゃ。簡単に説明すると、『一・型』は十二元素拳の型を覚えて組み手をし、実践レベルにまで技術を高める。『二・流』は身体強化で十二元素拳を使いつつ、身体強化を切って魔法を発動させる流れを淀みなく行う。『三・双』は身体強化しながら魔法を発動させ、十二元素拳に魔法の要素を取り込む。『四・内』は魔力内功という究極の身体強化を行う。これが十二元素拳の段階分けになっておる。エリィは『一・型』を習得し、『二・流』の中ほどまで来ておる」
「まぁ! 『二・流』の折り返し地点まできているのね!」
「異様な成長スピードじゃ。十二元素拳「火」「水」「土」「風」「光」「闇」の六種類の型を覚えてしまうんじゃからの」
「そしてポカじいはその先を伝授してくれると……」

 まとめるとこんな感じか。

『一・型』十二元素拳
『二・流』十二元素拳+身体強化⇔魔法
『三・双』十二元素拳+身体強化+魔法
『四・内』十二元素拳+究極身体強化(魔力内功)

 一、十二元素拳の型を覚える。
 二、身体強化から魔法発動へ移行するタイムラグを限りなくゼロに近くする。
 三、身体強化しつつ魔法を発動させる。
 四、究極の身体強化を身につける。
 なるほど、確かに四段階だな。

 てかポカじいに『三・双』を見せてもらったときは、あまりの威力に冷や汗が出た。

 身体強化“上の中”をかけながら、足裏から空魔法中級“拡散空弾ショットエアバレット”を噴射してロケットスタートし、その勢いを利用した拳打。四階建てのビルぐらいあるでかい岩がパンチ一発で弾け飛んだ。しかも本気じゃないとのこと。

 それを考えると、奥義どんだけやべえんだって話だよな。

「ふむ、理解したようじゃな。そこでこれじゃ」

 ポカじいはポストに投函された朝刊を取るような何気ない動作で、黒魔法下級“重力グラビトン”を発動させる。ポカじいの正確無比な魔力操作で “重力グラビトン”が黒い糸状に変化し、中庭の端に置いてある麻袋を断続的に引っ張った。

 麻袋は宙に浮かび、まるで意思があるかのようにこちらに向かってくる。黒い糸はついでにと、掃除をしているメイドのスカートを重力でまくり上げた。

「きゃあ!」

 大人しそうなメイドさんはとてつもなくエロい黒のガーターベルトだった。

「うむ! うむっ!」

 こらスケベじじい。

「スケベ…めっ」

 アリアナはスケベを叱るが、ポカじいの魔力操作に度肝を抜かれているのか驚きのほうが大きいみたいだ。
 黒魔法“重力グラビトン”を簡単に変形させる。あんなことできるのはスケベじじいぐらいだ。アリアナの話だと、発動場所を指定するだけでもかなりの集中力を要するらしい。
 糸状にするなんてのはまず無理で、できてせいぜい“重力グラビトン”を平べったくするぐらい、とのこと。

 枕と同じ形をした麻袋をひょいとつかんで魔法を霧散させ、ポカじいは何事もなかったように簡易ベンチも黒魔法で引き寄せた。

 麻袋を簡易ベンチの上に置き、懐かしいのぅと言いながら俺を見た。

「エリィには今日からこれを叩いてもらう」
「この麻袋を?」

 触るとガシャガシャと石がこすれる音がする。

「そうじゃ。この中には丸石と魔力結晶が入っておる。それをこうして……」

 ポカじいは両足を広げて腰を沈めると、両手で軽く麻袋を押した。
 次に腕を引き、手首を返して今度は手の甲で麻袋を押す。

 ガシャ、ガシャ、ガシャ、とリズミカルな音が響き、ポカじいの手のひらが、ひっくり返る、戻る、ひっくり返るを繰り返す。

「ただやっておるわけではないぞぃ。手を離したときに身体強化し、触れた瞬間身体強化を切って魔力を循環させ、麻袋へ己の魔力を移動させておる。一万回ほどやると、麻袋に入っている魔力結晶に魔力が満たされ、袋全体が淡い光を放つ」
「……まさにカンフー」

 これはカンフー映画に出てくる修行法と同じだ。まさか異世界でおめにかかれるとは思えなかったぜ。どうしよ。テンションがうなぎ登りだ。

「込める魔力が多すぎると一万回の手前で麻袋が発光する。少ないと魔力は蓄積されない。どうじゃ、難しそうじゃろ?」
「ええ! でも魔力操作が上達しそうね」
「これができるようになれば、三段階目『三・双』の練習へと移行できるぞい」
「やるわ。今すぐやるわ」
「うむ。やる気があるのはいいことじゃ。じゃがその前にアリアナの訓練指示も出すぞい」
「あらごめんなさい。ちょっと興奮しちゃったわ」
「いいよ。エリィがカンフー? 好きなの知ってるから…」

 アリアナが優しげに微笑む。
 もふもふもふもふ。

「アリアナの修業法はこれじゃ」

 そう言ってポカじいは“重力グラビトン”で中庭の端から箱を引き寄せる。
 もちろん掃除するメイドへのスカートめくりは忘れない。

 手のひらより少し大きいサイズの箱をキャッチし、ポカじいは鼻の下を伸ばして満足気にうなずく。
 アリアナは尊敬二割、軽蔑八割といった厳しい評価の視線をポカじいへ送る。

「うむ! アリアナ、箱を持つんじゃ」
「持つの?」

 箱は一面だけガラスになっており、あとは灰色の木の板で覆われている。
 真ん中に仕切りがあるようで、ガラスから中を覗くと仕切りに遮られて奥が見えない。

「横にゼンマイがついておるじゃろう。それを回してみい」

 アリアナは言われた通り箱の横にくっついているゼンマイを回した。
 ゼンマイを離すと、ジィィィと音がして、真ん中の仕切りが上がる。

 どういう仕掛けなのか、仕切りの向こう側で小さな鎧の騎士人形がメリーゴーランドみたいにくるくると回っていた。

 仕切りは二秒ほど経つと、何の前触れもなく下がった。
 アリアナと俺はそれを見て首をかしげた。これが何の修業になるんだ?

「中で回っとる騎士が三体いたじゃろう? そやつらは上位魔法を当てると倒れる仕組みになっておる。どれ、貸してみい」

 アリアナから小箱を受け取ると、ポカじいがゼンマイを回し、ガラスに空いている丸穴に人差し指を入れた。

 仕切りが上がり、躍る騎士が見えると同時にポカじいは魔力を循環させ、極小の黒魔法下級“重力弾グラビティバレット”を三発撃ち込んだした。
 ビー玉くらいの黒い球が吸い込まれるようにして騎士人形すべてに当たった。

 こてん、と騎士人形が三体は倒れ、箱の下から『負けたぁ〜』とアニメキャラっぽい声が響く。
 なるほど。騎士人形全部に魔法を当てれば勝ち、という遊具か。

「アリアナは身体強化よりも魔力操作と魔法発動スピードを伸ばしていくべきじゃ。黒魔法は強力であるが故、空魔法や炎魔法に比べると一撃が重く、発動までに時間がかかる。わしが見せた“重力グラビトン”の変形などは、黒魔法の真髄といえるの」

 そう言いながらポカじいは糸状の“重力グラビトン”を空中に作り出し、メイドのスカートをまためくり上げた。

「きゃああっ! もう、さっきから何なのぉ?」

 またしてもエッロいガーターベルトパンティが露わになり、メイドが悲鳴を上げ、ポカじいが嬉しそうに鼻をふくらませる。
 じいさん、メイドのパンツ見たいだけだろ。

「と、このようにして好きな場所から重力に方向性を持たせ、引っ張ることが可能じゃ。一般的な“重力グラビトン”といったら地面に発動させて相手を拘束する使い方が多いがの、あれは初歩の初歩じゃ」
「ふんふん…」
「ということで、アリアナの課題は『黒魔法発動スピードのアップ』『魔力操作』の二点じゃ。この箱をクリアするには両方が必要になる。二つを意識して練習せい」
「分かった…」
「二点の課題をクリアすれば、おのずと身体強化も上達し、魔法発動の切り替えをスムーズに行えるようになるじゃろう。身体強化と魔法の同時発動の取っ掛かりが見えるじゃろうて」
「うん。やる…!」
「いい返事じゃ。普段の稽古に追加してこれを行ってもらう。エリィは学校と商会が終わってからやるんじゃ。やりすぎると疲労が溜まるので一日二時間以上はやってはならぬ。アリアナに関しては暇な時にやるとええじゃろ。ほれ、裏蓋を引っ張ると折りたためるからの。学校にも持っていけるじゃろ」

 騎士人形の小箱が半分のサイズになった。これなら学校指定の鞄にも入る。
 ポカじいがいい師匠すぎて泣けてくるな。おい。

「ありがと…!」

 アリアナがめずらしくポカじいへ満面の笑みを向けた。
 ポカじいは「尻がむずむずするぞい」とおちゃらけて恥ずかしさを誤魔化している。

 俺が渡されたカンフー麻袋は学校に持っていけない。とりあえず部屋に置いておくか。自室で気軽に練習できるのはいいね。


      ◯


 で、登校まで時間があるから早速やっているんだが……。

「難しいわ!」

 まじでむずい!
 ポカじいどんだけすげえんだよ!

 まず、手を離して身体強化するだろ。
 腕を下ろして麻袋に触れると同時に身体強化を切り、魔力を込める。

 一回の動作に三秒ぐらいかかるんですけど……。

 ポカじいの実演だと、ガシャ、ガシャってな感じで非常にリズミカルだった。
 一回一秒もかかっていない。

 俺がやると、ガシャ………ガシャ……………ガガシャ………。
 リズムなんて全然取れない。

 腕を下ろす動作が入ること。
 連続で身体強化→魔力を込める→身体強化、と繰り返さなければいけないこと。
 しかも麻袋へ魔力を込めるのが意外と難しい。
 このせいで三秒以上かかってしまう。

 身体強化を切って、一発だけ魔法を打つなら三秒もかからない。二秒ぐらいでいける。
 しかし、よくよく考えれば戦闘になった場合、何度も切り替えることになるだろう。身体強化で攻撃し、相手に距離を取られたら身体強化をすぐさま切って落雷魔法へ移行。そしてまた身体強化。
 身体強化と魔法を同時に使えないので、身体強化から魔法発動へのスムーズな移行は戦いにおいて生命線になる。

 この訓練が完全に実戦を視野に入れたものだと改めて実感した。
 しばらくはこの麻袋のお世話になりそうだな。

「一発も当たらない……!」

 アリアナも苦戦しているらしい。
 というより、まず黒魔法“重力弾グラビティバレット”をビー玉の大きさで発射することができないらしい。
 魔力を込めすぎると、騎士人形の破壊を防ぐためか仕切りがすぐに下りてしまうようだ。

「まずは魔力操作…」

 アリアナはベンチに腰掛け、尻尾をゆらゆら揺らしながら黒魔法“重力弾グラビティバレット”を発動させる。球体の大きさは野球ボールほど。全然御せていない。

「お互い時間がかかりそうね」
「一緒にがんばろ…?」
「そうね!」
「ん!」
「仲良きことは美しきかな。仲良く並ぶは美尻かな。ほっほっほっほ」

 さらっと下ネタを織り交ぜるじいさんを無視し、俺達は時間ぎりぎりまで新しい課題をやった。



     ☆



 エリィとアリアナがゴールデン家の中庭で稽古をしているそのとき。

 スカーレットはゾーイと取り巻き連中を連れ、始業一時間前の教室に来ていた。

「いいことゾーイ。見つからないようにね」
「分かっております、スカーレット様」

 二人は黒い笑みを浮かべる。
 ゾーイと取り巻き連中の女子三人は教卓の最前列にあるエリィの机を持ち上げた。机は木製でがっしりした作りをしており、グレイフナー魔法学校創立時から使われている年代物だ。どうにか四人で空き教室へと運び、用意しておいた古布で隠した。

 程度は低いが、思春期真っ盛りの彼女らにとって机を隠されるといういじめはかなり精神的にくる、と思っている。現に一度エリィはこれをやられ、泣きそうになった。

 重い机を見つけても一人では動かせず、先生達の力を借りるしかない。
 何より、登校時に自分の机がないという衝撃はなかなかのものだ。

「エリィ・ゴールデンは今日一日机なしで授業を受けなければいけないわ。困ったわね」

 スカーレットは規則正しく並んだ机がエリィの場所だけぽっかり空いた様子を見て満足したのか、オホホホと高らかに笑った。
 取り巻き連中も、そうですわそうですわ、と賛同して笑う。

 スカーレットは姉のヴァイオレットにお小言を言われて溜まった鬱憤が少し晴れたような気がした。

 エリィ・ゴールデンが登校してどんな顔をするのか楽しみだ。
 スカーレットはニマニマと口の端が上がっていく自分を止められなかった。
+注意+
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