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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第22話 イケメン再び学校へゆく③〜わたしはエリィ・ゴールデン〜


 静まり返った廊下に学校指定のローファーの音が響く。

 四年生、光適性クラスの教室が見えてくると、エリィの手が少し震えた。

 光魔法はレア適性だけあって各学年一クラスのみとなっている。
 そのため、生徒の入れ替えがなくメンバーはずっと同じだ。

 エリィは自分の見た目が変わったから、クラスメイトにどんな反応をされるのか不安なのかもしれない。

 廊下の途中で立ち止まった。

「大丈夫、私がついてるわ。もうあなたはデブでブスとは言われない。言われたって大したことない。あなたはいつだって真っ直ぐな気持ちでいたでしょう? あれだけ酷い目にあったのに、正しい自分でいたことを自信に変えましょう。あなたのように強い女はそういないわ。だから大丈夫。安心して」

 声に出してエリィに話しかけるのは初めてだ。ちょっと変な感じがする。

 俺としては「大丈夫、俺がついている。もうエリィはデブでブスなんて言われない。言われても気にするな。エリィはいつだって真っ直ぐだっただろ? 酷いいじめを受けて、卑屈にならなかった自分に自信を持て。おまえは強い女だ。おまえみたいな子はいないよ。だから大丈夫、安心しろ」

 と声に出して言ったつもりだ。

 口に出した言葉はだいぶ変わっていたものの、こちらの気持ちは伝わったのか、エリィの震えが綺麗に止まった。
 よし。それでこそ俺のエリィだ。

「行くわよ」

 教室内はホームルーム中なのか副担任の話す声がドア越しに聞こえる。
 軽くノックをすると、教室内がぴたりと静かになった。

「どうぞ」
「失礼します」

 ドアをスライドさせ、教室内に一歩入った。
 約四十名が一斉にこちらを見つめてくる。

 右側の中ほどにいるくるくる縦巻きロールのスカーレット。
 左奥一番後ろの席にはオレンジ色の髪をしたボブ。
 エリィのいじめに加担したスカーレット取巻き連中や、ボブの子分三人もいる。

 なんだかこうして見るとめっちゃ懐かしい気分になるな。
 かれこれ半年以上学校にいなかったからなぁ。

 そんなことを考えつつ優雅に一礼し、話を中断した非礼をわびて、教卓前の最前席に腰を下ろした。

 生徒達はぽかんと口を開け、餌を目で追う犬のように俺の姿を追いかけた。

 くっくっく、いいぞいいぞ。度肝を抜かれただろう?!
 見たかエリィの可愛さを! 可憐さを!
 デブだブスだと言いたければ言ってみろってんだよ!

「あ………ごほん」

 ハルシューゲ先生の副担任である女性教師は呆け顔をあわてて真面目な顔へ戻し、わざとらしく咳払いをした。年齢は二十代後半。そばかすのある垢抜けない雰囲気の人だ。

「進級試験は無事に終わったのね?」
「はい」
「ハルシューゲ先生は?」
「校長先生のところへ。そのあとすぐ戻られると思います」

 にっこりと笑顔で先生に言葉を返す。
 女教師は生気を抜かれた顔を一瞬し、すぐさま首を左右に振った。

「そう……ありがとう」

 彼女は礼を言うと、またぼーっとした表情で俺の顔を見つめてくる。
 どうやら美少女への免疫が皆無らしい。だからって放心しすぎだと思うが。

 先生が何も言わないもんだから、生徒達が途端にひそひそ話を始める。

「誰? むちゃ可愛い」「転校生じゃ?」「四年生の光クラスに転入?」「そんな珍しいことあるかしら」「いやあの子はやばい可愛いって」「あとでお前話しかけろよ」「ムリムリ。緊張してチビりそう」「ふつくしぃぃぃ」「誰なんですの?」「転校生ではなくって?」

 ざわつく教室内。呆けたままの副担任女教師。

 なるほど。全員がエリィをエリィだとは思っていないらしい。
 確かに別人だよなぁ。110キロの体重がいまや48キロだからな。

 62キロの減量、そう考えると半端ない。
 62キロって言ったら2リットルのペットボトル三十一個分だぞ?
 米俵一つ分。10キロの鉄アレイが六個。小学生女子二人分。

 それがエリィの身体から消滅したら、そりゃあ見た目だって分からないぐらい変わるわけだ。

 一番良かったのは急激に痩せると皮膚が伸びたりするらしいけど、それがないってとこだな。魔力太りが関係しているのかもしれない。

 まぁそれはいいとして、現在163.5センチ48キロ。

 最近、身長が伸びて体重がちょっと落ちた。
 しかもまだ身長伸びそうだし。

 さあ下民どもよ!
 エリィの美しさの前にひれ伏すがいい!
 はーっはははははは!

 教室内のざわつきがさらにひどくなってきて、いよいよ俺に話しかけようとクラスのお調子者担当の男子がこちらに向かってきたときだった。

「遅れてしまって申し訳ない。ホームルームは終わったかね?」

 ガラリとドアを開けてハルシューゲ先生が笑顔で入ってきた。
 室内の様子がおかしいことにすぐに気づいた先生は、副担任の肩を叩く。

「フリン先生? どうしたんだい?」
「はっ! ハハハ、ハルシューゲ先生!? いえ、なんでもありませんわ!」

 我に返った副担任はあわてて姿勢を正すと、ぱんと手を叩いた。

「では全員が揃ったところで自己紹介を始めましょう! 立っている人は席に戻ってちょうだい!」
「ちぇっ」

 猿っぽい見た目のお調子者男子生徒が席に戻ると、席から離れていた生徒達が自席へと戻っていく。

 生徒達は自己紹介があるならいいか、と納得して静かになった。
 それでも背後からは痛いぐらいに視線を感じた。
 まあ気持ちは分かる。前触れもなく遅れて現れたスーパー美少女。誰だって気になるよな。

「うむ、毎年恒例だ。いいだろう」

 ハルシューゲ先生が教師らしく重々しくうなずくと、最前列の一番右側を指名した。
 今年の自己紹介は席順ではなく、先生が指名するという手法のようだ。

 四回目の自己紹介ということもあり、三年生のときよりも砕けた雰囲気だった。自己紹介なのに自分の友人を茶化したりする生徒もいる。和気あいあいとした空気で自己紹介が進み、ボブの番になった。

「リッキー家長男、ボブ・リッキーだ。三年の最後に水魔法を習得してスクウェアになった。目標は上位白魔法の習得。よろしく」

 憎たらしい声が背後から響くと、わっと子分達が拍手をして頭の悪そうな女子生徒がきゃあきゃあと黄色い声を上げる。相変わらずクラスに一人はいる不良系のモテる男子って感じだな。

 顔を見たくなかったのでずっとハルシューゲ先生の頭を見ていた。

 去年はトリプルで今年はスクウェア。いちお魔法の練習はしているみたいだ。
 だがな、おまえみたいな奴に白魔法の習得は無理だ。白魔法は愛が必要なんだよ。見てみろよ俺とエリィを。身体を構成している物質の九割九分が愛のかたまりだ。

 いや……エリィはそうかもしれないが、俺は九割九分が愛と金とエロスの混合物だった。すまんエリィ。嘘はよくないな。

「ちなみに恋人はいない。金髪でツインテールなんか結構好みだぞ」

 ボブが自信たっぷりの声色で言った。

 はぁ? 金髪ツインテールが結構好み?
 おまえ俺がエリィだって分かってたら絶対そんなこと言わねえだろ。
 いちいち癇に障る奴だな。

 ボブファンらしい女子は明らかに落胆した声を上げ、こちらの様子をうかがう。

「おい聞いてんのか、教卓前に座ってるツインテールの転校生。その席はデブでブス専用の席だから他の席に移動したほうがいいぞ」
「ぎゃはははははっ」

 ボブの言葉を受け、即座に子分と周囲の連中が笑う。
 スカーレットと取り巻き連中の笑い声も聞こえてくる。

 ボブには顔を向けず、ちらりと背後を見ると、数名の生徒が不快そうにしていた。彼らとは仲良くなれるかもしれない。今のうちに記憶しておくか。

 ハルシューゲ先生はやれやれと言った様子でため息をつき、次の生徒を指名する。

 十名ほどが終わり、スカーレットの番になった。

 彼女の姿を観察しておこうと俺は堂々と振り返った。

「……っ!?」「ほわっ……」「ひゅ……っ?!」

 急に後ろを向いたもんだから、数名の生徒がエリィの顔を見て息を飲んだ。

 気にせずにスカーレットを見る。
 彼女は以前と比べて大した変化もなく、まっ金金の髪を耳元から縦巻きのロールにしており、口元は皮肉たっぷりに曲がっている。目と鼻と口のバランスは良く、美少女といっても差し支えないが、見え隠れする自尊心と憎たらしさがすべてを台無しにしていた。

「サークレット家次女、スカーレット・サークレットですわ。皆さんもご存知の通り、わたくしの家ではいま新しい洋服屋を開いておりますの。4月20日にはファッション誌も創刊される予定で、目玉商品は防御力の高いミスリル製のスプリングコートですわ。ご来店した際、クラスメイトと言っていただければサービスいたしますわよ。よろしくお願いしますわ」

 自己紹介なのに店の紹介を自慢げにするスカーレット。
 さも自分が流行の最先端をいっていると言いたげだ。

 当然のごとく取り巻き連中が「きゃぁー!」と言って力強く拍手をし始める。

 時代遅れのミスリル製品が一押しとね。
 これはとんだ笑い話だな。
 サークレット家の手がけるバイマル服飾だって完全にミラーズの“後追い”だ。どっちが本物だっつー話だよ。

 まぁいい。雑誌が発売されれば化けの皮はすぐに剥がれる。

 スカーレットは女優気取りでやけにゆっくりレディの礼を取ると、席についた。途中で俺と目が合い、ほんの少し嫉妬したような顔を作って目を逸らした。エリィがボブに気に入られたのが悔しいのかもしれない。

「では、次は君だ」

 ハルシューゲ先生はスカーレットの次に俺を指名した。
 目を合わせると、先生の瞳は「大丈夫だから自信を持ってやりなさい」と言っているように見えた。
 思えば先生にも散々心配かけた。今学期は一発逆転してやるぜ。


 返事をして立ち上がる。
 くるりと反転してクラスメイトを見た。


 スカートがふわりと舞うと、クラスがしんと静まり返った。
 今までのふざけた自己紹介とはわけが違う。
 スカーレットは身を乗り出し、ボブは品定めをするかのように睨みつけ、他の生徒は唾を飲み込んだり息を止めたりしている。

 俺とエリィは、はっきりした口調でこう告げた。


「ごきげんよう。ゴールデン家四女、エリィ・ゴールデンですわ」


 ————!!!!?


 ————!!!!!!?


 ————ッ??!!!!!!


 教室の空気が凍りついた。


 誰しもが顔中に疑問を浮かべ、突きつけられた事柄が受け入れられないのか、狐につままれたような表情を作った。

 スカーレットはレディであることを忘れたのか、口をあんぐり開けて完全に放心している。

 ボブなんかは驚愕で茶化すこともできずに両目をかっ開いていた。
 子分達はあうあうとバカみたいに口を動かしている。


「訳あって休学しておりましたが、先ほど進級試験を受けて無事に合格できましたわ。今期もよろしくお願いします」


 有無を言わせぬ口調で言い切り、お淑やかに裾をつまんでレディの礼を取る。
 そしてさっさと席に座った。

 教室内にはエリィの制服が衣擦れする音だけが響く。
 誰も声を発さず、何も言えない。

 スカーレットの姿を盗み見ると、彼女はカチンコチンに固まった氷塊のごとく動きが停止していた。


 ぶーーーーっ!
 まじで傑作だぜ!


 スカーレットの顔といったらマヌケを天元突破しておバカ丸出しだ。
 ボブなんかは信じられないものを見たって顔をしていたぜ。

 さあお二人さん、どんな心境だよ?
 散々ブスだデブだといじめてきた女の子が太刀打ちできないレベルの美少女になっていた気分は?

 もうこれ以上エリィをいじめる口実がないなぁ〜。
 残念だなぁ〜。

 エリィはもともと性格がいいし、勉強もできるからなぁ〜。

 あとは集団で取り囲んで手篭めにするぐらいしかないぁ〜。
 でもできないんですよねぇ。
 なぜなら、お前らの百倍エリィが強いから!

 はいもう何もできましぇぇぇん!
 詰みだ、詰み。

 あーまっじで気分いいわ。
 最高の営業成績を叩き出して酒飲んでるときぐらい気分いいわ。
 エリィを自殺にまで追い込んだあいつらのあの顔を見るだけで胸のつかえが取れるぜ。

 あの顔を酒の肴にしてビールでも飲みたいところだ。

 へい! とりあえず生!
 今日は俺のおごりで!
 じゃんじゃんいっちゃって!

 ……と、酒を飲むのは男の身体をゲットしてからにするとして——俺ってホントいい性格してるよな。

 くっくっく……いいじゃねえか。これが俺だ。
 味方にはとことん優しくして、嫌いになった奴はコテンパンにする。
 完璧主義で徹底的にやる男だ。

 いい。これでいい。
 エリィという優しい女の子をいじめてきた罪は果てしなく重い。

「はいみんな! こちらに注目!」

 収集がつかないので、ハルシューゲ先生が空気を断ち切るために声を張り上げた。

「エリィ君はとある事件に巻き込まれていたが、無事に生還してこのグレイフナー魔法学校に戻ってきた。彼女は一生懸命勉強してきた君達と同じように様々な経験をして復学したんだ。見た目は変わっていても、彼女の優しさは変わらないよ。半年以上いなかったため、必修科目に遅れが出ている。出来る限り全員でフォローするんだ。いいね!」

 先生の言葉を聞き、ようやく思考停止状態から回復した生徒達から悲鳴が上がった。
 そこかしこから椅子の擦れる音がし、数名が床へ転落した。

「えええええええええええええええっ?!?!」
「エ、エ、エ、エ、エリィ・ゴールデン?!」
「べ、別人ですわ!」
「うそだろぉぉぉおぉぉぉぉっ!!!」
「変わりすぎぃ! 変わりすぎぃ!」
「好みど真ん中すぎてイケイケドンドンファイアボールゥゥゥっ!」
「奇跡だ! 奇跡は本当にあったんだ!」
「俺をビンタしてくれぇぇええぇぇ!」
「心の中でデブと言ってごめんあそばせ! だからお友達になって!」
「しゅ、しゅごいいいいっ」
「ちょっとお漏らしいたしましたわオホホホ……」

 さぁ驚くがいい!
 俺だって鏡見たとき信じられなくて腰が抜けたからな!

「う、うそですわ………あれが………あの………?」

 スカーレットはまさに驚愕の極みといった表情で口元を手で押さえ、どうにかこの現実から逃げようとしている。いや、逃げられねえから。

 エリィ、人類の至宝。
 おまえ、性格ブス。
 これ、世界の理。

 オーケー?

「うそ……うそよ………なんであんなに………」

 スカーレットは追い詰められたときの癖なのか、右手の親指を唇に当て、ガリガリと噛み始めた。
 お、早くも精神ダメージを受けているらしい。いいね。

 一方、ボブは忌々しげにこちらを見つめ、粘着質な視線をエリィの身体に這わせている。
 あいつ……あれだけブスといった女子を狙うってのか?
 身体強化したビンタをされたいらしいな。

「諸君! 静粛に!」

 バンバンと教卓をハルシューゲ先生が叩いた。
 どうにか喧騒が収束し、先生の方向へと視線が集まる。

「彼女の話を聞きたいならホームルームが終わってからにしなさい。では自己紹介の続きだ」



      ◯



 ———リーンリーン


 予鈴が鳴ってホームルームが終了した。
 教室内は異様な空気になっていた。

 俺が立ち上がって鞄を手に取ると、誰しもが距離を測りかねて互いの顔を確認する。話しかけたくても話しかけられない。そんな感じだ。

 そんな空気を簡単に壊したのはスカーレットだった。
 お供を背後に五人引き連れ、俺の前で腕を組んでふんぞり返った。

「ちょっとあなた。少し見ないうちにずいぶん変わったじゃない」

 おっ。スカーレットとの久々の会話だ。
 まずはエリィが見た目も中身も変わったことを印象づけるか。

「……そうかしら?」
「少し可愛くなったぐらいで調子に乗らないでちょうだい」

 そうよそうよ、と取り巻き連中が合いの手を入れる。
 それに気を良くしたスカーレットはうふふ、と不敵な笑みを浮かべた。

「ごめんなさい。調子に乗っている、の意味が分からないわ。今後の参考にしたいから、どこでどういうふうに乗ったのか教えてもらえないかしら?」
「なんですって……?」

 これはちょうどいい。スカーレットが訳の分からないことで突っかかってきた。
 正論とトーク術で精神攻撃をしてやろう。

 エリィ・ゴールデンはお前が敵う相手じゃない。
 それを少しずつスカーレットの脳裏に擦り付けていく。
 ゆくゆくはエリィの姿を見たら条件反射でスカーレットの身体が縮こまるぐらいまでやり込めたいところだ。

「調子に乗るっていうのは、普通あれよね? 今までしていなかったことを急にしたりすると言われることよね? 私、そんなことしたかしら」
「し、したわよ」
「具体的にどこでしたのかしら」
「例えば……ホームルームの途中で入ってきたじゃない。あれは調子に乗っていたわ!」
「進級試験があったから仕方ないわよ。誰だって途中入室するしかないわ」
「っ……」
「どこか、どういうふうに、調子に乗っていたのか教えてほしいの。あなた、人に教えるのが得意でしょう?」

 適当に褒めておく。
 スカーレットは悔しそうに歯噛みして次の言葉を考える。
 そして思いついたのか、ニヤリと笑って俺を指差した。

「そうですわ! あなたのそういった態度が図に乗っているといっているのよ! そんなこともわからないの?! 本当にあなたは一年生のときから鈍くさいわね!」
「それだとさっきの主張が間違いになるわよ? この会話をする前から、あなたは私が『調子に乗っている』と言ったんだから。その説明だと間違いよね?」

 矛盾点を指摘する。
 スカーレットはぐっと押し黙って顔を赤くし始めた。

 このお嬢様、あまり頭は良くない。
 切れるビジネスマンならまずこんな会話に乗ってこず、別の話にすり替えるだろうよ。

 取り巻き連中は憎々しげにこちらを睨み、おさげのゾーイは顔を歪ませた。

「とにかく! 少しばかり痩せたからっていい気になるんじゃないわよエリィ・ゴールデンッ! あなたはいつだってグズでノロマでブスなんだから!」
「困ったときに大きな声を出すと学がない人だと思われるわよ、スカーレット」
「なな、なんですってぇ!」
「だから、そういう大声をおよしなさいと言っているのよ。ほら、みんなが見ているわ」

 クラスメイト達は興味深げに俺達を見ていた。

 スカーレットはその視線を受け、下唇を噛んでポケットから杖を取り出し、俺の顔に突きつけた。

 周囲からは驚きで息を飲む音が聞こえる。
 スカーレットの瞳には嫉妬や羞恥が浮かんでいた。

「エリィ・ゴールデンの分際でわたくしに意見しないでちょうだい」
「意見じゃないわ、忠告よ。まがりなりにもクラスメイトなんだし、おかしなところがあったら伝えるのがレディというものでしょう」
「いちいちうるさい女ね! どうしてこうも減らず口を叩くのかしら」
「正論を指摘され、追い詰められて暴力を振るうのは動物と同じね」
「動物! 動物ですって!? その言葉はあなたにお似合いよ!」
「私のどこが動物なのかしら」
「どこがって……」

 ここで究極ウエポン発動!
 エリィスマイル!

 スカーレットはエリィの顔を見ると驚いたような表情を作り、頭から爪先まで眺め、非の打ち所がなかったのか悔しげに奥歯を噛んで杖を握りしめた。

「………っ」

 何も言い返さない親分を見て、取り巻き連中が悔しげにじろじろと俺を睨む。
 おさげのゾーイは相当腹に据えかねるのか、目だけギョロギョロと動かして俺のダメなところを探している。

 そんなものあるわけない。
 制服も靴もシャツもすべてピシッと綺麗にしている。
 俺を誰だと思ってる。
 意識高い系ビジネスマンだぞ。

「ふ、ふん。あなたごときの小言に付き合っているほどわたくしは暇ではないのよ。皆さん、いきましょう」

 スカーレットは苦虫を噛み潰したような顔でポケットに杖をしまい、屈辱を隠そうともせず顔中に浮かべてスタスタと教室から出ていく。

 取り巻き連中が困った表情で追いかけた。
 おさげのゾーイは鬼の形相で俺を一睨みして去っていった。相変わらず見た目とのギャップがすごい。

 教室に残っていたクラスメイト達は、俺がスカーレットをやり込めたことに驚いて誰も言葉を発しない。ボブだけはニタニタと嫌な笑みを浮かべており、教室の一番後ろの席からこちらに向かってくる素振りをした。

 話しかけられるのは不快だ。
 素早く教室のドアから出る。

「おいエリィ・ゴールデン」

 背後からボブの呼び止めるこえが聞こえるが無視し、軽く身体強化して一気に廊下を走り、階段を下りて昇降口で通常の歩調に変えた。

「ふう」

 まずはスカーレット。そのあとにボブだ。
 どちらかというと、犯罪集団と手を組んでいるボブのリッキー家のほうが厄介なことになりそうだ。情報も足りない。ひとまず学校では付かず離れずの距離を保つべきだろう。

 さぁ、適性試験を受けに行こうか。
 去年までは適性試験のあとに各クラスのホームルームだったが、適性の変化はほぼないため非効率という話になり、順番が入れ替わったらしい。


     ◯


 試験会場へと歩きながらスカーレットとのやり取りを思い出す。


 さっきのやり取りで、言い知れぬ達成感のようなものをひしひしと感じた。
 別にあの会話が楽しかったわけじゃない。
 あんなものはただの挨拶代わり。ボクシングでいうならゴングの前の睨み合いみたいなものだ。

 自分の気分がなぜここまで高揚するのか。
 答えは簡単だ。

 今まで準備に準備を重ね、ついにそれを爆発させることができるからだ。
 それこそ、プレゼン準備を完璧終えた前夜のような、言いようのない興奮が身体を包む。脳内で巡らせた計画を実行し、相手がどんなリアクションをするのか楽しみで仕方ない。

 思い返せば、俺は運が良いのか悪いのか、交通事故直後に異世界へ転移した。
 エリィに乗り移り、最初は絶望した。

 しかしエリィの優しさに触れ、目標を見つけて立ち直り、その後はネガティブ思考に陥ることもなく前進してきた。

 まずダイエットして美人になり、ニキビを消してスタイルを整える。
 次に魔法の修業をして強くなる。
 さらにオシャレ。
 連動させてビジネスにし、金も稼ぐ。

 ダイエット、魔法、オシャレ、金。

 ほとんどゼロの状態から一年間でスカーレットが太刀打ちできないレベルにまで達した。唯一向こうが対抗できるのは「金」ぐらいだろう。
 グレイフナー王国国王、サウザンド家という最強の後ろ盾も手に入れ、金でサークレット家を凌駕するのは時間の問題だ。洋服に関しては今後徹底的に潰す。

 すべてを鑑みて計算すると、スカーレットへの復讐の準備が完全に整ったといえる。


「長かったわ……」


 思わず声が漏れた。

 今まで本当に色々なことがあった。
 この一年間で俺自身も人間的に成長できたような気がする。

 人間は向上心がなくなった時点で成長が止まるものだ。帰宅時間ばかりチェックする営業マンなんかはその典型だろう。

 俺は自分の信念に従ってここまでやってきた。
 異世界に来ても精神的に成長することができた。
 だから反撃の準備が整ったのだと思う。

 この考え方やスタイルは変えない。
 俺は成長する。
 エリィも成長する。

 絶対に諦めない。
 成功を信じ、常に前向きであろうとする。

 ここからだ。
 ここから小橋川によるスカーレットへの罰を執行する。
 題して小橋川プレゼンツ「楽しいワルツを躍るスカーレットお嬢様」という喜劇の幕開けだ。

 脚本、小橋川。
 出演、ミラクル美少女エリィ。スカーレット。

 脳内では大体の道筋ができあがっている。これがすべてハマれば、スカーレットには立ち直れないぐらいの精神的負荷がかかるだろうよ。

 容赦はしないし許容もない。
 幕が開けた今、スカーレットは転がるようにして結末に向かうしかない。

 さあて、一風変わったワルツの世界へとご招待だ!
 どんな反応をしてくれるのか楽しみだな!
+注意+
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