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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第17話 オシャレ戦争・その11

敬愛する読者皆さま。作者でございます。
第17話をオシャレ戦争に統合いたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。
 浄化魔法“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”による魔力切れで意識が飛び、目が覚めるとゴールデン家の自室だった。

 ベッドから起き上がる。
 シックな雰囲気に改造した、見慣れたエリィの部屋だ。

「エリィ、大丈夫…?」

 ベッドの脇に椅子を置き、ちょこんと腰掛けているアリアナが顔を覗き込んでくる。

「ええ、大丈夫。あのあと……どうなったのかしら」
「エリィのお母さんは“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”でどうにか鎮静して、今はエリィのお父さんと寝室。パンジーは客間にいる。エイミー達はエドウィーナさんの部屋に集まって何か話してるよ。サウザンドのじいさんは…」
「あら、どうしたの?」

 アリアナがめずらしく苦い顔をしてうつむいた。
 あのあとグレンフィディックのじいさんがどうなったのかは気になるところだ。

「外にいる…」

 アリアナが部屋のドアを指差した。

「ゴールデン家の門前で座ってる。どうしてもエリィと話したいんだって…」

 どうする?
 と、アリアナが小首をかしげる。

「お母様はなんて?」

 母の許可なしでじいさんと会話するのは少しばかり気が引ける。

 母アメリアの怒りと、母親に対する愛情は本物だった。じいさんのことを憎んでいるが、自分の愛した母親が好きになった人なので憎みきれないと言っていた。
 あの言葉は心の奥底でずっと溜め込んでいた気持ちだろう。

「エリィは優しすぎる。あんなクソじじい一生地面に座らせておけばいい。そう言ってた…」
「……そうよねぇ」
「とりあえずエイミー達を呼んでくる。さっきまでここにいたんだけどね…」

 アリアナはそう言って、尻尾を振りながらドアから出ていった。

 しばらくすると、エイミー、エリザベス、エドウィーナの三人が部屋に入ってきた。何度も見ているが、美人三姉妹が並んでいる光景は目の保養になるな。

 最後にアリアナが入ってきてドアを閉めた。
 エリィの部屋に甘い香りが充満する。

「エリィ! あんな一気に魔力を使ったらダメじゃない。私、ぷんぷん丸だよ」

 エイミーが頬を膨らませ、可愛らしく睨んできた。

「こらエイミー。魔力切れで起きたばかりなのよ。あまりエリィに大きな声をかけちゃいけないわ」
「まあ……。ごめんなさい姉様。私ったらつい」

 エリザベスがしとやかにエイミーを叱り、俺の目を見た。

「あのときあなたが浄化魔法を唱えていなければ、どうなっていたか分からなかったわ。エリィ、偉かったわよ」

 エリザベスが吊り目の端をいくぶんか下げて頭を撫でてくる。

「そうね」

 長女エドウィーナが長い金髪をさらりと揺らして腕を組んだ。
 エイミーよりは大きくないが、それでも標準よりずいぶん大きい胸がむにゅりと形を変えた。

「あのまま放っておいたらお母様は泣き続けたでしょうね。爆発した感情を浄化魔法で抑え込んだからあの場が収まったと考えるのが妥当ね」

 冷静なエドウィーナがそこまで言って軽いため息をつく。

「起きてすぐにこんなこというのもアレだけどね、エリィは優しすぎるわ。私はあのグレンフィディック・サウザンドを自分の祖父だとは認めないわよ。何度思い返しても、お母様の負った心の傷はあの男のせいだもの。あれだけ意気地がない男もめずらしいわ。あの男が魔物に喰われて死んでも、私は涙の一つも出ないわね」
「お姉様、いくらなんでもそれは言い過ぎではございません?」
「約束を破る男は信用できない。守れないなら最初から約束なんてするものじゃないのよ」

 エリザベスの軽い否定にエドウィーナが厳しい言葉を返す。

 長女エドウィーナは使用人達に、若かりしアメリア奥様に似ていると言われており、芯が太くて思ったことはズバズバ言うタイプだ。ついでに言うと、かなりの変わり者らしく、魔導研究所では生物を使役させる方法や、魔物召喚などのニッチな研究をしている。

 魔導研究所の地下二階から白衣を血まみれにして食堂へ現れるのは所内で有名な話らしい。それでも強気な性格と、高身長でグラマラスな美貌が異性を寄せ付けてやまないそうで、告白された回数は三桁をこえるとのこと。確かにエドウィーナのエロくてアブノーマルな雰囲気はたまらんね。

「いいことエリィ。お母様の許可なくサウザンドに話しかけてはだめよ」

 エドウィーナが真面目な顔をしてずいとこちらに顔を寄せた。

「分かりましたわ」

 長女の言うことはもっともなので、素直にうなずいておいた。

「ところでお姉様、グレンフィディック様はどちらに?」
「はぁ……。あなた言ってるそばから」
「どこにいるかだけでも確認しておきたいの。ダメかしら?」
「まあ隠しておいても目立つ場所にいるしね。いいでしょう。アリアナちゃんと見てきなさい。私は見たくないから部屋に戻るわ」

 そう言ってエドウィーナは部屋から出ていった。

 エイミーとエリザベスも明日は雑誌の撮影が入っているため、早く寝ると言って自室に戻った。
 時計を見ると、短針がてっぺんを回っていた。

 アリアナは無言で廊下を歩き、階段を下りてエントランスに出た。

「あ、エリィさん」

 エントランスの窓から外を見ていたらしい寝間着姿のパンジーが足音でこちらに気づき、顔を向ける。
 俺を見ると安堵したのか、彼女のくりくりした瞳がふにゃりと垂れた。

「よかったぁ〜。あれだけ難しい魔法を一気に唱えたから心配していたの」
「心配かけてごめんなさいね」
「ううん」
「パンジー。じいさんは…?」

 アリアナは狐耳を動かしつつ窓の外をちらりと見た。

「まだ門の前で正座してるよ。顔も腫れたままだし、魔法で回復するつもりがないみたい」
「まあ……」

 パンジーの隣に立ち、カーテンをそっと押しのけると、門の前、道の真ん中に正座するグレンフィディックがいた。髪は乱れ、左頬がぼっこり腫れている。お供らしき人間はおらず、一人でじっと正座している。

 ドラマみたいだな、とか思っちゃう俺はやはり地球感覚なのだろうか。この熱い行動もグレイフナー流って感じ? まあ何にせよ誠意を見せている姿は認めてやらんでもない。

「パンジー、そろそろ寝よう…。私も今日はエリィの家に泊まるから」
「ええ……でも……」
「ここにいてもじいさんが許されるわけじゃない…」
「それは……分かっているんだけど……」
「あとはエリィのお母さんがどうするか決めるだけだよ。いい子だから…ね?」

 アリアナが本物のお姉さんのようにパンジーを抱きしめる。

「うん……。分かった」

 自分に言い聞かせるように返答し、パンジーはどうにか窓の外から視線を外して歩き出した。

 いやさ、話がデリケートすぎて、あまりどうこう言えない。

 人様のお家事情に首を突っ込んでも仕方ないしな。
 あれ? 俺にはその権利、あるのか?
 もうかれこれ一年も俺はエリィになってるわけだし、ありそうっちゃありそうか。

 しばらくはエリィの行動に身を任せてみてもいいかもしれない。決定的な事態や、感情が高ぶった際はエリィが独りでに行動してくれる。ひとまずはそれ待ちって感じにするか。

 まぁ、個人的には、グレンフィディックに“電打エレキトリック”の一発でもぶち込みたいところだ。
 あいつのせいでどんだけ困らさせれたか分からねえよ。

 “妖精柄”、“ヒマワリ柄”、“青地ストライプ”、“スミレ柄”、“シンプルボーダー”。
 最低でも五種類の生地がおじゃんになってるわけだし、本来しなくてもよかった無駄な営業に労力をつぎ込んだしな。あれで結束がより強くなった取引先も多々あるが、このくそ忙しいときに睡眠時間削られたのは事実だ。エリィの可愛い顔にニキビできたらどうすんだよって話だ。

 女子のニキビまじで消えねえんだよ?
 知ってる?
 俺はこっちに来て初めて知ったわ。

 ニキビはさておき、俺としてはグレンフィディックと話すことに異論はない。
 いや、むしろ話したい。
 話してタダ同然で色々援助してほしい。今ならいけるだろ。
 この流れ、ビジネス的には当然だよな。

 エリィの感情がどう動くか様子を見つつ、俺は俺の目的で動くぜ。
 もちろんエリィがグレンフィディックとの和解を嫌がるなら突き放すし、許すならとことんコバシガワ商会の有利になる働きをしてもらう。ま、エリィのことだからきっと許すと思うが、グレンフィディックは“おじい様”って呼ばれたのにエリィを人質に取る蛮行に及んでいるからな。さすがのエリィもどう行動するか先読みできない。

 窓の外を見ると、微動だにせず門前で正座するじいさんの姿が見えた。
 じいさんの顔は苦悩で歪んでいるかと思ったがそうでもなく、何だか吹っ切れたような表情だった。


     ◯


 翌朝、全員で朝食を取った。

 母アメリアは普段と変わらぬ顔で席に座り、俺達を安心させた。
 テーブルマナーが悪いとお小言を飛ばすのもいつも通りだ。

 パンとスープ、野菜サラダ、フルーツなどゴールデン家で定番の朝食が終わり、俺はアメリアに話しかけた。

 さっき外を見たら、グレンフィディックのじいさんはまだ地面に正座したままで、小鳥が三羽ほど頭にとまっていた。完全に風景と同化していたな。

 それはさておき、このままじゃ全員がもやもやした状態だ。
 早いとこ話をつけたほうがコバシガワ商会の今後の動きを決めれる。サウザンド家が味方になるならないでかなり営業方針が変わるため、じいさんの処遇が早く決まるにこしたことはない。

「あの、お母様」
「ダメよ」

 否定が早い。

「……どうしても?」
「ええ。放っておきなさい」
「話すだけですわ」
「ダメ。絶対にダメよ」

 にべもなくアメリアがこちらの申し出をシャットアウトし、さっさとダイニングルームから出ていった。

 エドウィーナとエリザベスは俺を見て複雑な表情をし、エイミーは「私からも頼んでみる」と言ってくれる。アリアナはパンジーを慰めつつ、部屋から出ていった。
 父ハワードが優しげな垂れ目に力を込めてうなずいて見せ、妻の後を追った。
大丈夫だ、何も心配ない、と言いたいようだ。

 しばらくじじいはあのままでいさせるしかないか。
 マザーに“爆発エクスプロージョン”されないだけでも良しとしておこう。

 倒れられても困るし、水分補給するようジャックに伝えておくかね。

 昨日から通行人が来ると「修業の一環です」と言ってやんわりサポートしてるからなぁ。警邏隊にも事情を説明していたし。

 執事辞めてるのにグレンフィディックのことを放っておけないジャック、いい奴すぎて涙出てくるわ。

「お嬢様、わたくしに考えがございます」

 部屋に戻ろうとすると、クラリスが話しかけてきた。
 何やらドヤ顔を浮かべている。

「あら本当?」
「はい。こちらで手配をしておきますので、お嬢様はどうぞ気兼ねなく撮影へ向かって下さい。わたくしは後ほどまいりますので」
「分かったわ。クラリスがそこまでいうならお願いするわね」
「おまかせください」

 クラリスは完璧なメイドの一礼をし、急いで外へと出ていった。


     ◯


 エイミーとエリザベスの撮影が終わり、夕方になった。
 アリアナはアルバイトがあるので途中で抜け、俺とエイミー、エリザベス、パンジーは馬車に揺られて三番街からゴールデン家へ向かう。

「まだいるかな」

 対面に座るパンジーが不安げな目をこちらに向けた。

「いるでしょう。中途半端に反省をやめたらそれこそ本物の意気地なしよ。あの行動こそ、あの人が許される最後のチャンスでしょうね」
「そうだよね。うん。……おじい様、どうにかエリィさんとの会話だけでも許してもらえると……いいな」
「私は早く話したいわ。何を言うのか気になるしね」
「ありがとう、エリィさん」
「どうしてありがとうなの?」
「だって、エリィさんが話したいって言ってくれるだけでおじい様はだいぶ救われると思うの。あんなことまでしたのに、やっぱりエリィさんは優しいよ」
「そうね。私って優しいわよね」

 そうだよな、エリィは優しいよな。

「あ、自分で言ってる〜」
「うふふ、いいでしょ」
「もーエリィさんったら!」

 俺が冗談で笑うと、ようやくパンジーが笑顔になった。

 パンジー、エイミー、エリザベスと話していると馬車がゴールデン家の門前で停まった。

 じいさんは……まだ門前で正座している。

 通行人が怪訝な目を向けると、どこからともなくジャックが現れる。
 顔が腫れているせいで、誰もサウザンドだと気づいていないらしい。

「おかえりなさいませ、お嬢様方」

 タイミングを見計らっていたらしいクラリスが近づいてきて一礼する。

「エリィお嬢様。件の秘策、手配ができておりますのでどうぞ中庭に」
「朝に言っていたことね」
「さようでございます」

 中庭へ行くと、上半身裸の男衆が虚空へ正拳突きをし、腰を振りまくって踊っていた。
 セイヤソイヤ叫ぶ汗だくな男衆は場違いにもほどがあった。

「クーラーリースー」
「お、お嬢様?」
「これ……前に言ってた雨乞いの?」
「はい。嫉妬の神ティランシル・雨乞い音頭隊でございます」
「お母様に見つかってないでしょうね」
「もちろんでございます。抜かりはございません」

 誰にも見つかってないのが唯一の救いだ。お引き取り願うとしよう。
 どうやらクラリスはグレンフィディックのじいさんに雨を降らせたかったらしい。

 このデリケートなときに裸の男はいらねえよ。いやほんとに。

「サウザンドのじじいは昨晩から座ったままでございます。あの様子では奥様のお心に気持ちが届かないでしょう。そこで、雨に濡れた様子を見せるのです。そうすれば今より悲痛な雰囲気が演出され、アメリア奥様のお心にも憐憫の光が灯るかと存じます。いかがだったでしょう?!」
「いかがだったでしょう、じゃないわよ!」

 意味分からんし、とりあえず顔が近い。

 この状況をどうにかしたいというクラリスなりの行動だろう。優しさと行動力は認めるが、いかんせん筋肉脳は治らない。

 出演料を払い、男衆を追い返して一息つくと、夕食の時間になっていた。

 ゴールデン家の家族が全員集合してそこにパンジーが加わる。
 楽しげな談笑がダイニングに響き、バリーの美味しい料理が運ばれる。

 窓の外を見ても雨は降っていない。
 そらそうだ。ちょっと安心したわ。

「エリィ、来なさい」

 食事が終わるとアメリアが俺を呼び出した。
 返事をして彼女の席へと移動する。
 隣では父ハワードが垂れ目を細め、優しげに見守っている。

「あの男と話をしてきていいわよ。ただし、三十分間だけね」
「まあ! ありがとう、お母様!」
「……なに? そんなにあいつと話すのが嬉しいの?」
「そういうわけではありませんわ。ただ、ずっとあそこにいても何も解決しませんもの」
「……そう」

 アメリアは眉間にしわを寄せ、ため息をつく。

「コバシガワ商会へグレンフィディック様をお連れしますわ。さすがに路上で話す内容ではございませんから」
「……まったくあなたって子は……本当………誰に似たんだか………」

 アメリアはちらりと隣に座る夫のハワード見て、またため息をついた。

「クラリス、ハイジ、馬車を用意なさい! それからあなた達、行くなら行くといいなさい! そんなところでこっちを見ていればすぐに分かるわ! グレイフナーのレディなら堂々としなさいといつも言っているでしょう」

 事の成り行きを見ていた三姉妹が、ダイニングルームの奥から出てきて母へレディの礼を取った。

「私も行く。言いたいことがあるの」
「私もよ」
「当然、エリィについていくわ」

 エイミー、エリザベス、エドウィーナが決意の固い顔で言った。

 どうやらハワードが全員を説得したみたいだな。
 俺のところに父が来なかったのは、エリィが信用されているからに違いない。

 彼としては、アメリアとグレンフィディックの直接的な和解は無理だと判断し、コバシガワ商会との抗争を決着させ、間接的な融和の道を選ぶつもりだろう。妻アメリアの気持ちを痛いほど理解しつつ、グレンフィディックの吐露した思いと謝罪を聞いて情状酌量の余地ありと評価を下した、ってところか。

 一家を預かる同じ立場同士の男として、グレンフィディックの気持ちを一番汲めるのはハワードかもしれないな。

 その後、正座するグレンフィディックにコバシガワ商会へ来るよう伝言をクラリスに頼む。顔はそのままでいいから、服を新しくし、風呂に入ってこいとも伝えた。汚いままじゃエリィが会話の最中に絶対悲しむ。

 俺達は馬車に乗り込んで先に二番街へと向かった。

 途中でミラーズへ寄り、すべての従業員にコバシガワ商会へ集まるようお願いする。

 仕事が終わった面々が続々とコバシガワ商会へと集合し、メインフロアはミラーズのオシャレで若い女性陣と、商会の血気盛んな従業員でいっぱいになった。

「みんないいかしら! このあと、グレンフィディック・サウザンドが来るわ!
 どうしても私と話をしたいらしいのよ! 全員、彼が何を言い、どういう顔をするのかよく観察し、自分の考えをまとめなさい!」

 またしてもグレンフィディックが来る。そう宣言をすると、一斉にメインフロアがざわめき出した。
 血の気の多い商会の営業陣は杖を取り出してぶんぶんと素振りをし、ミラーズの女子らは不安げに顔を寄せ合い小声で話す。

 ジョーとミサは昨夜起きた騒動の顛末を知っているので、顔を引き締めた。

 バイト帰りのアリアナと一緒に弟フランクが商会に入ってきて、パンジーと俺の近くに陣取る。

 ボインちゃん、おすぎ、黒ブライアンが並び、ウサックスは執務机で事務作業をしながら熱い視線をドアの向こうへ送る。

 テンメイは最高の一枚を撮影しようと脚立を持ち出してカメラを構える。

 美人三姉妹は照明の光でプラチナブロンドを輝かせ、優雅な佇まいでじっとグレンフィディックを待ち構えている。

 商会の壁には否が応でもグレンフィディックが俺達に負けたと分かるよう、攻略した店舗の一覧表がでかでかと飾られている。

―――――――――――――――――――――――――
◯離反あやふや重要大型店
(◎)『ヒーホーぬいもの専門店』
(◎)『バグロック縫製』
(◎)『グレン・マイスター』

◯サウザンド家によって離反の可能性
 中型縫製・十店舗
(◎)『シャーリー縫製』
(◎)『六芒星縫製』
(◎)『エブリデイホリデイ』
(✖)『ビッグダンディ』
(◎)『愛妻縫製』
(◎)『シューベーン』
(◎)『靴下工房』
(✖)『アイズワイズ』
(◎)『テラパラダイス』
(◎)『魔物び〜とる』
―――――――――――――――――――――――――

 やがて階段をのぼる音がし、ノックが響いたあと、ゆっくりと商会の扉が開いた。


    ◯


 まずはじめに入ってきたのはジャックだった。
 彼は執事服ではなく、一般男性が着るごわごわした普段着姿だ。

 ジャック……執事服じゃないと違和感あるな。

 パンジーが隣でため息のような悲鳴のような吐息を漏らし、彼の名前を小さく呼んだ。彼女が執事服でない彼を見るのは初めてなのかもしれない。ショックが大きいだろう。

 ただ、彼の所作は執事そのもので、丁寧にドアを開いてグレンフィディックを招き入れ、静かに閉めた。

 入ってきたグレンフィディックを見たミラーズ、コバシガワ商会両陣営から息を飲む音が聞こえた。

 彼の左頬はいまだに真っ赤に腫れあがり、左目は青あざで半分ほどしか開いておらず、不眠で正座していたため目の下には濃い隈ができていた。見るからにやつれて覇気がまったくない。服装と髪型だけはどうにか整えられている。

「ごきげんよう、グレンフィディック・サウザンド様。お母様の許可が下りましたのでお話をいたしましょう」
「……エリィ」

 わざと馬鹿丁寧に挨拶をする。

 グレンフィディックは悲しげにうつむくと、何かを逡巡し、ゆっくりと顔を上げた。

「エリィ嬢。本日はわざわざこのような席を設けていただき感謝する。ミラーズ、コバシガワ商会の皆様もこのように集まっていただき、誠にかたじけない」

 じいさんは頭を深々と下げた。

 グレンフィディックの言葉に誰も声を発さず、じっと耳を傾ける。
 いつの間にか商会の入り口を取り囲むようにして輪ができており、これ以上グレンフィディックが入ってくるのを全員が拒んでいるようだった。

 じいさんもその空気を察したのか、奥に案内しろとは言ってこない。
 顔を上げて全員の顔を見回す。
 グレンフィディックは苦しげに口元を歪ませると、声を震わせてしゃべり始めた。

「この度の騒動は……サウザンド家の完敗だ……。綿の流通にまで手を出せば王国が黙っておらず……結局のところ……サウザンドの負けは営業合戦で半数を取られた時点で……確定だった………」

 グレンフィディックの敗北宣言に、コバシガワ商会の面々が色めきだつ。
 ほぼ全員が、攻略店舗の書かれた布を見やる。

「聞くところによれば……隣国メソッドから生地を輸入しており……雑誌掲載分の商品材料の確保もできておると………」

 頬が腫れてしゃべりづらいのか、グレンフィディックは時折苦しげな顔を作る。

「此度のサウザンド家………わしが独断で引き起こしたコバシガワ商会とミラーズに敵対する行動だが……まったくもって意味のない行動であったことをここに表明………する………。単なるわし個人のわがままと、過去の記憶に捕らわれていた……わしの弱さが引き起こした行動だった……」

 歯切れ悪くグレンフィディックは言葉をつなげると、膝に両手を置き、ゆっくりと頭を下げた。錆びた機械が関節部を軋ませて角度を変えていくような、のろのろとした低頭だった。

「申し訳………なかった………」

 切れた口元を歪ませ、謝罪を捻り出すグレンフィディック。

 六大貴族サウザンド家当主は明らかに謝罪慣れしていなかった。ひょっとすると今まで人に謝ったことがないのかもしれない。アメリアには謝罪しているものの、今回みたいに冷静な状態ではなかった。

 しかも謝るのは新しい会社の従業員達、普通の王国民だ。

 彼は自分が常に高い地位と有利な立場にあったため、未知の屈辱を味わい、心中穏やかではないだろう。

 グレンフィディックはしたことのない一般王国民への謝罪に、屈辱が胸の中で膨れ上がっているのか、思い切り顔をしかめて目をつぶる。

 商会内は静まり返った。

 腰を折るグレンフィディックを見つめ、誰しもが声を発さず、皆の息遣いだけが部屋に充満していく。

 やがて、コバシガワ商会の営業陣の一人が声を上げた。

「……それで謝ったつもりか」

 彼はコバシガワ商会の立ち上げからずっといる中年の男だ。

「俺達がどれほど窮地に立たされたか分かっているのか? エリィお嬢様がどれほど胸を痛めたか知っているのか? お嬢様は洋服とコバシガワ商会が大好きなのだ。それをお前のわがまま一つでぶち壊されそうになったのだぞ」

 彼は右手に持った杖をギリギリと握りしめ、グレンフィディックを睨みつける。

「そうだそうだ!」「何がすまなかっただ!」「誠意を見せろ!」「それでもグレイフナー男児か!」「恥を知れ!」「お嬢様と俺達に謝れ!」

 コバシガワ商会の営業陣から次々に声が上がる。

 他の従業員は物言わず、じっとグレンフィディックを見つめている。ミラーズの女性陣はどうしたらいいのか分からず、じいさんと商会のメンバーを交互に見る。

 グレンフィディックは血気盛んな営業陣の罵声を浴び、身を固くした。

 ここまですれば許されると思っていた。
 どこかにそういった甘えが見え隠れしている。

 彼はしばらく両手を膝についた姿勢で震えていたが、やがて観念したのか力なく膝をつき、当主としての威厳、男のプライドをかなぐり捨て、両手と頭を商会の床につけた。


 ——ごつん


 グレンフィディックの額が床に当たり、渇いた音を鳴らした。

「………大変………申し訳………ございませんでした………」

 サウザンド家当主の謝罪が商会内に響いた。

 魔闘会無敗のグレンフィディックとして王国内でも有名人の彼が、床に地面をこすりつけて謝罪する姿を見て、コバシガワ商会とミラーズの面々は目の前で起きている出来事を見逃すまいと両目を開いた。

「一時でもエリィを人質に取るなどバカな行動を起こし……本当に申し訳なかった……」

 頭を床につけた状態で、じいさんが唸るように声を上げる。

「多大なる迷惑をかけ……どう詫びればいいのか分からない………」

 輪の中心で身を縮こまらせるグレンフィディックの背中は小さく見えた。

 ジョー、ミサは怒りと呆れを含んだ顔をで見下ろし、ミラーズの女性陣は不安な顔を隠そうともせずに周囲を見渡す。

 商会のメンバーはさらなる彼の言葉を聞き、憤怒したり、今にも魔法を放ちそうになったり、侮蔑や憐憫を見せたりと十人十色だ。

 エイミー、エリザベス、エドウィーナの三人はあらかじめ相談していたのか、じいさんの近くまで歩み寄るとお互いに目配せをした。

 悲しくて寂しいのかエイミーが下唇を噛み、頬を膨らませる。
 エリザベスは無表情を作ってじいさんを見下ろす。
 エドウィーナは明らかな侮蔑の目で彼を見ていた。

 しばらくして、エイミーが口を開いた。

「グレンフィディック様……。一生懸命考えましたが、私はあなたを祖父とは思えません。ごめんなさい。エリィのために協力してくれるなら、私は止めません」

 エイミーは律儀にレディの礼を取り、一歩下がった。

「グレンフィディック様。わたくしもエイミーと同じ考えでございますわ。どれほどエリィがあなたを許そうとも、わたくしにはお母様の泣き叫ぶお顔が浮かんで頭から消えませんの……。せっかく出逢えた血のつながる親類だというのに……本当に……本当に残念ですわ……」

 エリザベスもレディの礼をし、しとやかに一歩下がる。

「グレンフィディック様。私はあなたのような無責任な男が大嫌いですの。事情はどうあれ、女手ひとつでお母様を育てたおばあ様はさぞ寂しくて辛かったでしょう。こうして私達とコバシガワ商会の皆様、ミラーズの皆様に謝罪したことだけはエリィの優しさに免じて仕方なく認めます。あなたを祖父と呼ぶことは一生ないと思いますが、エリィの後方支援ぐらいなら……目をつぶって差し上げますわ」

 エドウィーナはレディの礼は取らず、つんと顔を背け、ヒールを鳴らして輪の一番後ろまで下がった。もうグレンフィディックを視界に入れたくないらしい。

 気づけばグレンフィディックは泣いていた。
 美しい孫達の心の声を直接浴び、昨日受けた悲しみがえぐられているようだ。

「グレンフィディック様」

 エリィが独りでに前へ出た。
 すらりとした美脚がスカートからのぞき、カツカツと新作のパンプスを鳴らしてグレンフィディックへ近づいていく。

 彼女の愛らしい声を聞き、全員がハッとして息を飲む。

 七十名を超える人間が輪の中へ入るエリィを食い入るように見つめたため、商会内の空気が緊迫で破裂しそうになる。


「私は……」


 エリィは感情が高ぶったのか喉をつまらせる。
 両手を胸元へ持ってきて、ぎゅっと握った。


「私は……あなたを………おじい様と呼びたいですわ………」


 その言葉にパンジーがああっと声を漏らし、今まで直立不動だったジャックが瞳に涙をぶわりと溢れさせ、あわててポケットからハンカチを出して目を押さえた。

 グレンフィディックは不意打ちのエアハンマーを受けたような呆けた表情を作り、四つん這いのまま涙でぐずぐずに濡れた顔を上げた。

「エ、エリィ……」

 俺はグレンフィディックを見てひどい顔だな、と思った。

「あなたがいなければ……お母様は生まれなかったし……私達姉妹もここにはいなかったでしょう……? だから、私だけでもあなたのことを……。それに、パンジーとジャックが……悲しむ顔は見たくないし……ね?」

 あーもう……。

 本当にエリィってやつは最後の最後まで優しいな。
 まったくよぉ。

 それがエリィの答えならしょうがねえな。

 にしてもさ、何回泣けばいいのよ俺。
 まーた涙が止まらない。もういいよ泣くのは。明るくて楽しいのが好きなんだけどなぁ。

 じっと待っていたが、これ以上エリィはしゃべるつもりがないのか黙ったままだ。

 グレンフィディックは救いを求める信者のようにこちらを見つめ、膝をついた姿勢になった。

「エリィ……ありがとう……。そして……大変すまなかった……。わしは此度の責任を取って、家督を息子に譲ろうと思う。他家との関係を悪化させ、家の財政に一ロンも得にならんことをする者など当主失格だ」
「おじい様!」

 パンジーが驚いて走り寄ってくる。

「パンジー、すまなかった……。意気地なしの祖父で悪かった」
「そんなことない! こうしてちゃんと謝った! エリィさんも許してくれた!」
「グレイハウンドにはすでに手紙を出している。四月の頭には家督を譲り、隠居するつもりだ」
「そ、そんな……」
「旦那様……」

 ジャックがぽつりとつぶやく。
 長年連れ添った二人は視線を合わせると、言わんとしていることが分かったのかうなずき合った。

「グレンフィディック・サウザンド様。私は一身上の都合により前職を辞めたばかりでございます。補佐の経験は豊富ですので、秘書の空きがあれば雇っていただけませんでしょうか?」
「……ああ。……ああ、もちろんだ、ジャック」
「かしこまりました。その代わり、給料はしっかりといただきますので後ほど金額を提示いたします。また、エリィお嬢様に呼ばれた際はそちらを優先する場合がございますので、それに関してもご容赦いただければ幸いです」
「……いいだろう」

 ジャックが執事の最敬礼をすると、グレンフィディックの腕を取って立たせた。
 じいさんは涙で濡れた顔をハンカチで拭き取り、はっきりした声を上げた。

「今後、わしは全力でエリィとコバシガワ商会、ミラーズを支援したい。隠居するといえど様々な権限はわしにあり、かなりの支援が可能だ。資金調達、綿の優先的入荷、人材雇用、武器防具開発の技術提供、サウザンドの商会を通じて他国への輸出もできる。もちろん、ミスリルに関する値段交渉なども可能だ。サークレット家がその気であれば、今後もエリィとコバシガワ商会への邪魔が入るだろう。そのときはわしがいくらでも矢面に立とう」

 グレンフィディックは徐々に瞳へと光が戻ってきて、声色が真剣味を帯びてくる。
 俺は六大貴族の膨大な資金と人脈が、じいさんの背中からにょきにょき生えているように見え、思わず笑みがこぼれそうになった。

「どうだろう、エリィ。……支援させてもらえないだろうか?」
「出会ってすぐにその言葉を聞きたかったですわ」
「それに関しては……すまぬ……」
「でも、私の答えは決まっているわ。いいですわよ。お母様を説得し、サウザンドのバックアップを受けましょう!」

 大きな声で宣言すると、商会内から「おおっ!」とか「ついに」など感嘆の声が上がる。
 じいさんは渋面で周囲を見回し、従業員一人づつに礼をしていく。

 場が静まると、グレンフィディックがおもむろにこちらへ目を向けた。

「エリィは……わしを祖父と……おじい様と呼んでくれるのだな……?」

 絶望の中に見つけた小さな希望にすがりつく憐れな男は、期待と不安を瞳に浮かべながらエリィを見つめる。


 エリィは何も言わない。
 身体も動かない。


 ということは……俺のターンだ。

「もちろんですわ。でも、私の気分次第になると思います。お姉様達はあなたを認めず、私だけがあなたを祖父と思い接することに後ろめたさを感じないわけではございません」
「……そうか。そうだな」
「はい。ですので、自然に呼べるその日までお待ちくださいね、グレンフィディック様」
「……分かった」
「良い行いをされたときはお呼びするかもしれませんわね。うふふ」
「そ……そうか……」

 これぞ“頑張ったらご褒美としておじい様と呼んであげますわ作戦”!
 別名、じじい・飴と鞭で一喜一憂の巻!!

 ふっ。俺の手のひらで楽しく躍るがいいさ、じいさんよ。
 踊り続ける限り楽しくて甘い思いをさせてやろう。

 俺が笑ったことで場の空気が柔らかくなり、コバシガワ商会陣営から声が上がり始めた。

「お嬢様、素晴らしきご判断!」「サウザンドの謝罪で胸がスッとした!」「さぁてこれから忙しくなるぞぉう」「俺は許せん!」「お嬢様が優しすぎる」「一生ついていきます!」「腹パンさせろやサウザンドォ」「今後の働きで許すかどうか決める」「これでさらなる展開ができるな……」「複雑な気持ちですっ」

 各々が思い思いのことを叫ぶ。
 コバシガワ商会はこれでいい。どの会社でも全員が全員イエスと言える環境を作るのは難しく、様々な思いを抱いてみんな働いている。今は言いたいことを言って、鬱憤を溜まらずにしてほしい。
 今後、少しでもいい環境を作る努力は怠らないつもりだ。

 不満が高まればサウザンド家と縁を切る。そのパターンも想定しておく。
 ま、そうならないようにうまくコントロールするのが俺の役目だな。

 一方、ミラーズの女性陣は控えめな拍手でもって“肯定”する姿勢を示した。

 彼女達もこの一ヶ月は大変だったはずだ。
 枯渇しつつある在庫をうまいこと見せながら販売をし、次々に入荷される最先端の洋服のコーディネートを研究して客に提案する必要があった。入ってくる予定の商品が入らず、別の商品に切り替わったりそのまま在庫切れになったりと、かなり頭を悩ませたことだろう。

 ジョーとミサは、エリィがサウザンドと手を組むなら認めよう、といった様子でこちらに微笑を向けてくれた。

「ありがとう……皆さん……ありがとう……」

 グレンフィディックはどうにかこうにか“ある程度”許され、エリィとの関わりを断たれる悲劇を回避して安堵した。すっかり謝罪が板についたのか、何のためらいもなく頭を下げる。

「ところでエリィ」

 じいさんは思いついたように顔を上げた。
 言いづらそうに腫れた頬に触れ、一歩こちらに近づいてくる。

「なぁに?」
「一件落着、ということで、わしの頬を……その……治してはくれんだろうか……? サウザンド家の当主としてエリィの治癒魔法がどれほどのものか興味があってな」
「あら……あらあら……」

 図々しい!
 このじじい図々しいぞ!

 エイミー、エリザベス、エドウィーナがすぐさま「ダメよ!」と後ろで叫び、振り返るとアリアナとパンジーが呆れた顔でじじいを見ていた。
 周囲からは複雑なため息が漏れ、バキボキと指を鳴らしたり、杖をぶんぶん振るう不穏な音も聞こえてくる。

「どうであろう? わしなら、エリィの治癒魔法がどれほどの精度か確認することもできるぞ」

 じいさんが得意げに歩み寄る。

 その言葉を聞いて、美人三姉妹も「それなら、まぁいいかもね〜」「あのサウザンドに光魔法の手ほどきをしてもらえるチャンスは中々ないわね」「サウザンドの指導は一年待ちだと聞くわ」と、渋々メリットを理解して了承を示す。

 アリアナとパンジーは深い溜息をつき、アリアナが俺にだけ分かるよう目配せで合図を送った。

「分かりましたわ」

 俺がうなずくと、周囲から一斉に黄色い歓声が上がる。

 グレイフナー王国民のほとんどが魔法バカで、誰しもが貴重な魔法を見るためなら虎穴にも飛び込む勢いを見せる。そんなこんなで、エリィの治癒魔法はいつでも従業員に大人気だ。

「おお、そうかそうか!」

 じいさん嬉しそうだなぁ〜。
 めっちゃ腹立ってきたなぁ〜。

「ではいきますわ」

 そう言って、ゆっくりと手を伸ばしてグレンフィディックの左頬に触れた。
 じいさんはとてつもなく嬉しそうに破顔し、目を細めている。

「いつでもいいぞ、エリィ」
「はい。いきますわね………お・じ・い・さ・ま」
「………っ?!」

 にっこりと笑ってグレンフィディックをおじい様と呼び、俺は顔を一気に怒らせた。


 ——“電打エレキトリック”!!!!!!!!!!!


「エリィわしをおじじジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジッジジィィィィイッッッ!!」

 けたたましい電撃音がバチバチと鳴り、グレンフィディックのじじいが激しく痙攣しながらアフロヘアーになって、口から煙を出して床にぶっ倒れた。

 しゅう〜という物が焦げたあとの不気味な音を漏らし、じいさんはびくびくと二度ほど痙攣して動かなくなった。なぜかじいさんの倒れる姿は非常口の看板と同じポーズだった。


「まだ反省が足りないようねッ!? そこで寝ていなさい!!!」


 俺とエリィが激昂すると、周囲が静まり返った。


 カリカリカリ……。
 ウサックスの事務作業の音だけが細々と部屋に伸びていく。


 パンジー、ジャックが唖然として顔を引き攣らせ、エイミーがあちゃ〜と額に手を乗せ、エリザベスとエドウィーナがあんぐりと口を開けた。

 ジョーとミサも驚きで声が出ず、ミラーズ、コバシガワ商会の面々はエリィの怒った顔を見て一歩後ずさり、クラリスが久々の落雷魔法に感激してひざまづく。

 アリアナがトコトコと近づいきて、狐耳を動かしながら杖でじいさんをつつくと、すぐに興味をなくして元の位置へと戻った。

「“癒発光キュアライト”」

 パアッと非常口じじいが光りに包まれ、みるみるうちに頬の腫れが引いていく。

「ぶはぁっ!」

 じいさんは蘇生した患者のごとく跳ね起き、両目をかっ開いた。

「エエエエエ、エリィ? ささ、さっきの魔法は?」
「乙女の秘密ですわ、グレンフィディック様」
「あのような……感覚は……初めてだ」
「乙女の秘密ですわ、グレンフィディック様」
「あの魔力の動きは六芒星魔法の中に存在しない。上位魔法で似たような波動を出す魔法はあるが……あれとも少し違う……まさか……いや、しかし!」

 グレンフィディックがぶつぶつと分析をし、勝手に興奮し始めた。

「しつこい男は嫌われますわよ、グレンフィディック様」
「しかし! エリィ!」

 なおも食い下がってこようとするグレンフィディック。
 この場で落雷魔法が知れ渡るのは得策じゃない。

 これは“頑張ったらご褒美としておじい様と呼んであげますわ作戦”、さっそく発動!

「ねえ、おじい様」
「エリィ、あれは……おぅん?」

 グレンフィディックは突然のおじい様フレーズに目を点にし、すぐさま嬉しげに頬を上げた。

「なんだ?! なんだエリィ?!!」
「私のお願い、ちゃんと聞いてくれる?」
「もちろんじゃないか! なあジャックよ!」

 急に話を振られたジャックはすぐさま背筋を伸ばし、一礼して肯定する。

「うふふ、ありがとう。これからもよろしくお願いね。お・じ・い・さ・ま」
「おう! おうともさ! よろしくお願いされた!」


 こうしてじいさんをまんまと煙に巻き、謝罪劇は終決した。


 高位の魔法使いに“電打エレキトリック”を使うと落雷魔法の存在がバレるかもしれない。
 これからは拳にしよう。
 そう心に誓いつつ、グレンフィディックのじいさんに笑顔を向けた。




     ◯




 その後、グレンフィディックとコバシガワ商会は和解し、援助を得ることになった。

 母アメリアはサウザンド家との関わりを最後まで反対していたが、ハワードが説得してエリィの手助けをするならばと、渋々といった様子で認めた。

 グレンフィディックは四月一日に息子のグレイハウンド・サウザンドが帰国すると、当主を下りて家督を譲ることを表明し、全面的にコバシガワ商会のバックアップをする体勢になった。

 ジャックは自分の言った言葉通り執事を辞職し、グレンフィディックの秘書として再雇用された。けじめをしっかり付けたかったとのこと。見習えよ、グレンフィディックのじいさん。

「エリィさん。三週間だけだったけどゴールデン家の子になれてすごく楽しかった」
「私もよ」
「はぁ……皆さんとディナーを食べるの……楽しかったな」

 パンジーは、自分がいないとじいさんが悲しむだろうからという理由で、サウザンド家に帰ることにした。さすがに父親のグレイハウンド・サウザンドと母親が迎えに来たので、決心したようだ。

「あの、エリィさん!」
「なぁに?」
「また……遊びに来てもいいかな?」

 パンジーからは、おどおどした態度や前髪の隙間から相手の顔色をうかがう様子は消えていた。
 俺の目の前にいるのは、前髪を切り、可愛らしくはにかんで頬を染める、桃色の頭髪をした天使みたいな少女だった。

「もちろんよ!」

 その姿に嬉しくなり、つい笑顔でうなずいた。

「わぁ〜っ」

 両手を顔の横でぽんと合わせ、嬉しそうにパンジーが微笑んだ。

「明日来ようかな〜」
「それは早すぎるわよ……」
「そうかなぁ?」
「ええ。ちょっと我慢したほうが喜びは大きくなるものよ」
「なるほど。さすがエリィさん」
「それに雑誌の撮影で毎日会えるわ。あと、お母様の許可が下りたら私もサウザンド家に遊びに行く予定よ。もちろんアリアナも一緒にね」
「うん! うん! 是非そうしてほしい!」
「じゃあまたね。コバシガワ商会で会いましょう」
「はいっ!」

 そう言ってパンジーは馬車に乗り込み、見えなくなるまで手を振っていた。
 俺とアリアナは手を振り返し、馬車が見えなくなると顔を見合わせてどちらからともなく微笑みを交わした。

 俺達の姿をエイミー、エリザベス、エドウィーナの美人姉妹が微笑ましく見ており、父ハワードと、そして母アメリアが見守っている。クラリスとバリーはさらにその後ろで、相変わらず涙腺がゆるいのか泣いていた。


 ゴールデン家の門前に春の風が吹き抜けた。


「さぁ、お勉強しましょうか」
「そうだね…」


 新しい何かが始まる予感がし、いよいよ始まる新学期に向けて、俺とアリアナは進級試験の勉強をするため自室へと戻った。






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◯離反確実
(△)『ウォーカー商会』
(△)『サナガーラ』
  (30%の商品が損失)
  (サウザンドが味方についたことで、今後格安で仕事を投げることになりました。コバシガワ商会とのしこりは残っておりますが、大型店のため小橋川が感情より利益優先で懐柔。取引のほとんどがグレンフィディックの私費で、コバシガワ商会とミラーズの懐は痛みません。ミラーズの定番商品などの重要でない部分を取り扱う予定です。春のEimyに関連した商品には間に合いません)

◯離反あやふや重要大型店
(◎)『ヒーホーぬいもの専門店』
(◎)『バグロック縫製』
(◎)『グレン・マイスター』

◯サウザンド家によって離反の可能性
 中型縫製・十店舗
(◎)『シャーリー縫製』
(◎)『六芒星縫製』
(◎)『エブリデイホリデイ』
(✖)『ビッグダンディ』
(◎)『愛妻縫製』
(◎)『シューベーン』
(◎)『靴下工房』
(✖)『アイズワイズ』
(◎)『テラパラダイス』
(◎)『魔物び〜とる』

◯サークレット家によって離反の可能性
 その他・七店舗
(☠)『ビビアンプライス(鞄)』
(◎)『天使の息吹ジュエリー
(◎)『ソネェット(ジュエリー)
(◎)『KITSUNENE(帽子)』
(◎)『麦ワラ編み物(帽子)』
(◎)『レッグノーズ(靴)』
(◎)『オフトジェリコ(靴)』

 契約継続→(◎)離反→(✖)未確定→(−)おしおき確定→(☠)格安取引→(△)
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前回のエリィちゃんが言った言葉クイズですが、
◯「まあ、そんな約束まで? だからお祖母様は毎日窓の外を見て、グレンフィディック様を待っていたのね」
◯「パンジーを大切に想っている、あなたのことが私は好きよ」
が正解です。
簡単過ぎましたかね?
ちなみに、ジャックの手を途中で撫でたのもエリィです。

また機会があればエリィちゃんクイズをやりますね。

これにてオシャレ戦争は終了です!
後日談を挟んで学校編に突入!
+注意+
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