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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

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第2話 洋服とイケメンエリート

 朝の六時、うきうきと鼻歌を歌うクラリスに叩き起こされてパジャマ姿のまま、俺はゴールデン家秘密特訓場にやってきた。病院から馬車で三十分ほどの林の中にある空き地にあり、訓練を覗かれないように十メートルの高い塀が設けられている。広さは野球場ほどで、ところどころに木が生えており、三分の二が平らな地面、残りは岩場と水場がある。様々な訓練を想定されて造られているようだ。

「なぜこんなに厳重なの?」

 秘密特訓場といってもこの塀はやりすぎじゃねえか?

「他家に手の内がバレては大変なことになります」

 クラリスはこれでも秘密度が足りないとでも言わんばかりの解答をした。

「バレたら大変なの?」
「もちろんでございます。魔闘会の勝敗に響きます」
「その魔闘会にはクラリスも出るの?」

 俺はまさかと思って聞いた。
 そしたらオバハンメイドはツボに入ったのか、オホホホホ、オホホホホ、オホホッホホ、と笑いはじめた。

「お、お嬢様! わたくしのような弱っちい魔法しかできない人間が出れるわけございません。そりゃわたくしも一般参加の部で若い頃何度か挑戦しましたが一回戦で敗退でございます。若気の至りでございますね。オホホ-」

 そこからクラリスの魔闘会マシンガントークがはじまった。

 魔闘会とやらは年に一回、一般の部と貴族の部、二つが開催される。貴族にとってはとてつもなく大きな意味があるそうだ。

 なんと、貴族の部で勝てば領地が増え、負ければ領地が減る。
 要するにバトル式の陣取り合戦だ。

 花形は一騎打ちの魔法勝負で、勝てば負けた側の領地を奪える。

 「一騎打ち」「団体戦」「個人技」の三種目が魔闘会で競われる。国を挙げての一大興業なので、連日たいへんなお祭り騒ぎになるそうだ。そして毎年、語り継がれる逸話と魔闘会の英雄が誕生するらしい。

 確かに自家の領地がかかるとなると、入る熱も否応なしに高くなるだろう。
 現代風にいったら給与年俸の取り合いみたいなもんだ。
 俺なら間違いなく興奮する。というかどんな手を使っても勝つ。

 ちなみに伝説級美女のエイミー姉さんは「個人技」で十位に入賞したそうだ。伝説級美人で優しくて魔法が使えてスタイルがいい。もはやオーバースペック、チートと言える。

 そんな話をしている間にもクラリスは俺の横に長机を設置し、うきうきした足取りで病室にあった書物を両手に抱えて持ってきた。てきぱきと病室に置いてあった配置を寸分違わず再現し、落として地面で本が汚れないようにシーツを引く細かさと気配り、そして作業の素早さ。ひょっとしてクラリスはめっちゃ優秀なメイドなんじゃねえか?

「どんな研究でもできるようにアシストすることがメイドの務めでございます」
「さ、お嬢様、気兼ねなくやってください」
「うわっ!」

 音もなくクラリスの隣に現れたのは、真っ白のズボンとシャツとエプロンを身に纏ったコック姿の男だった。
 見た目は初老で、頬に深い傷があり、眼光が鋭く、ただ者ではない空気を発している。白いコック姿よりもブラックスーツとグラサンが似合いそうな風体だ。

「お嬢様申し訳ございません。夫がどうしても同行したいと駄々をこねたので仕方なく連れて参りました。お嫌であればすぐに帰らせます」

 旦那かッ。

「何を言うかクラリス。私は駄々なぞこねていないぞ」

 ぎろりとクラリスを睨むコックヤクザ……もとい、クラリスの旦那。

「俺も行く! 連れて行かなければここを動かん! と言って玄関であぐらをかいていたのはどこの誰よ」
「うっ…」
「なぜあんたは魔法のことになると怪盗ゼゼメーリみたいに目端が利くようになるんだよ」
「お前があんなにうきうきして俺に弁当を頼むからだろう! 何かあると誰だって気づく!」
「私はうきうきなんてしていません」
「へたくそな鼻歌まで歌ってどの口がそれを言うんだ」
「行くったら行くぞ! 行くったら行く! とわめいたあんたは子どもみたいだったわよ! 普段は偉そうに俺は世界一のコック、バリー・バミアンとか言って! 世界一でもないくせに!」
「なにを!」
「おやめなさい二人とも」

 俺は言い合いをする二人の間に割って入った。いや、正確に言うならば割って入ったというよりは太い身体をねじ込んで吹き飛ばした。

「これ以上言い争うなら二人とも出て行ってもらうからね」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」

 シュン、と二人は俯いた。
 子どもかッ。

「クラリス、ええっと、バリーに例の話はしたの?」

 クラリスの旦那は会話から察するにバリーという名前みたいだな。
 俺は昔から人の名前を覚えるのが得意だ。名前を瞬時に憶えて呼ぶことは営業マンにとって非常に重要だ。それができなくて嘆いている同僚や後輩が数多くいたのでコツを教えてやったが、できるようになったのはほんの数人だった。

「お嬢様との約束でございますから話しておりません」

 落雷魔法を知っている人間は少ないほうがいい。どこから情報が漏れるか分からない。

 俺が腕を組んで考えていると、強面こわもてのバリーが、ずいと顔を近づけてきた。

「お嬢様。私は料理を作るしか能のない男です。どんな練習をされていようと、秘密は厳守致します。たとえ拷問をされようとも口を割ることはありません。どうか、お気になさらず訓練を行ってください」

 一瞬、仁義を切られたのかと思って驚いたが、バリーの目は真剣そのものだった。
 クラリスを見ると、彼女もそこは信用ができるのか、大丈夫でございますと俺に一礼した。

「わかったわバリー。但し、絶対に他人に言っては駄目よ。クラリスと二人でいるときも落雷魔法のことは話してはいけない。いいわね?」
「かしこまりました」バリーはコック帽を手にとって胸に当て、頭を下げた。「契りの神ディアゴイスに誓って約束をお守り致します」
「よろしい」

 契りの神が何者かは知ったこっちゃないが、俺はそれが違えてはいけない宣言であり、バリーが約束を破るようには見えなかったので、空気を察してうなずいた。

 クラリスの用意した椅子に座り、日記の最終ページを開いて「落雷サンダーボルト」の呪文を確認する。

 朝のやわらかい陽射しが日記を照らす。
 クラリスは素早く日傘を差して、傍らに立った。

落雷サンダーボルト
やがて出逢う二人を分かつ 
空の怒りが天空から舞い降り 
すべての感情を夢へと変え
閃光と共に大地をあるべき姿に戻し 
美しき箱庭に真実をもたらさん」

 またあの感覚に襲われるのかと思うと、どうも緊張してくる。俺は緊張なんてほとんどしない質だが、未知の体験に胸の高鳴りと不安をおぼえた。
 絶妙のタイミングでバリーが紅茶を差し出した。ほんのり温かく温度調整されている。ありがたく飲み干し、俺は立ち上がった。

「いくわよ」

 意を決し、俺はあの全身から力が噴き出そうとする感覚を想像して精神を統一した。

「あの…お嬢様、杖は?」
「いらない」

 さらに集中して、息を、吸って、吐いて、吸って、吐いて、俺は呪文を唱えた。

「やがて出逢う二人を分かつ――」

 昨日とは違う感覚になった。制御が非常に簡単だ。
 へその下から力が湧き出て、全身をゆっくりと覆っていく。これなら詠唱の途中で、魔法を唱えることも可能だろう。

 俺は瞬時に理解して詠唱を途中でやめ、三十メートルぐらい先の地面に雷が落ちるイメージをし、落雷サンダーボルトを一気に放出した。

 バリバリバリッ―
 ドォン!

 轟音と共に落雷サンダーボルトが地面に落ち、衝撃で爆風と砂埃が舞った。

「どうやら呪文は最後まで唱えなくてもいいらしいわ」

 落雷サンダーボルトの落ちた場所まで行くと、エリィが横になって隠れるぐらいの穴が空いていた。かなりの威力だ。
 どうよ、とクラリスを見ると、バリーと一緒にわなわなと体を震わせていた。

「おおおおおお…」

 二人は戦慄した表情から、信仰している神を見たような感動した表情で膝をつき、這いつくばってこっちに来ると、俺のパジャマのズボンをつかんだ。

「お、お、お嬢様……なんと……」クラリスが呟く。
「お嬢様! お嬢様ッ!」バリーが叫ぶ。

 顔を上げた二人は顔面をぐしゃぐしゃにして涙を流していた。

「落雷魔法……なんて神々しい…」
「おどうだば! おどうだば!」

 クラリスとバリーは顔中から出るであろう体液を全部出さん勢いで号泣している。バリーは鼻水とよだれまで垂らしており、抗争に敗れたヤクザが死んだ仲間を思い悔しがっているようにしか見えない。
 そしてふたりとも我を忘れて俺のパジャマズボンを引っ張る。

「しかも…杖なしでぇ!」
「づえなじ!? おどうだば!」
「ズボン! ちょっとズボン!」

 ぐいぐいと引っ張って二人は号泣をやめない。

「杖なし! 落雷! お嬢様あぁぁ!」
「ぶひょうずう゛ぉあ!」
「やめ! ちょ!」

 二人は全体重をパジャマズボンにかけて腕をぴんと伸ばした。

「おじょうざば…わたぐじは……わだぐじは!」
「べじょうぞう゛ぉあぁぁ!」
「こらッ! やめなさい! あっ!」

 ついに俺のパジャマズボンはズリ下ろされ、二人はズボンに顔をうずめるように感極まってうわんうわん泣いた。バリーに至っては何を言っているかわからない。

 デブの少女がパンツ丸出しでオバハンメイドと強面の料理人を這いつくばらせて泣かせている。

 端から見たら恐ろしい光景だ。

「クラリス! バリー! 手を離して!」
「離しませんお嬢様!」
「じゅぼうずびぃ!」

 ズリ下ろされたズボンを取り戻そうと、じたばたもがいていたら、太っているせいか尻餅をついてしまった。それでも二人は両手でしっかりとズボンを握りしめて離そうとしない。

 やめてちょうだい、とふたりの頭をげしげし蹴飛ばすこと五分、ようやくクラリスとバリーは正気に戻ってくれた。

「二人ともそこに座りなさい」

 俺はパンツ丸出しのまま両手を腰に当て、地面に正座をした魔法バカのオバハンメイドと強面コックを叱った。二人は取り乱したことに対して大変反省したが、落雷魔法をその目で見た興奮は醒めないようで、叱られても目を輝かせていた。

 次やったらバリーに落雷サンダーボルトをぶつけてバリバリにする、と宣言する。「是非とも!」と身を乗り出す彼にため息をついた。

 チュンチュン――

 秘密特訓場には爽やかな朝の風がそよぎ、小鳥達が楽しげにパンツの脇を飛んでいく。

 地面に正座するオバハンとおっさんの前で小鳥が求婚のダンスをし、どこかへ去っていく。

「とにかく落雷サンダーボルトは秘密よ! いいわね!」

「イエスマム!」

 正座したままなぜか敬礼する二人。

「で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんでございましょうお嬢様!」
「クラリス顔が近いわ。あと立ち直るのが早いわ。杖なし、と言っていたけど、普通は杖が必要なの?」
「そうでございます。杖があるとないでは十倍ほど威力に差が出ると言われております。一般人は杖なしでは魔法は使えません」

 そう説明しながら、クラリスは俺の太い足についた埃をタオルで拭き、新しいズボンを履かせてくれる。

「じゃあ私はなぜ使えるんでしょう?」
「それはお嬢様が天才だからでございましょう!」
「左様でございます! 杖なしで、しかも落雷魔法を……ううっ…」

 バリーがまた泣き出しそうだったので、こら、と叱ってから話を戻す。

「詠唱の途中で呪文を唱えることはできるの?」
「できます。慣れれば魔法は無詠唱で使えます。さらに付け加えるなら、威力や範囲など様々な応用が利くのでございます。基礎魔法が行使できれば、派生して応用魔法が使えますが、六芒星の魔法才能と個人の得手不得手によってできるできないがあるので練習には注意が必要でございますね。苦手な種類の魔法を頑張っても効率が悪く、時間と魔力の無駄になります」

 俺は先ほどの落雷サンダーボルトを発射する感覚を思い出しつつ、小さな雷が落ちるイメージで、地面に指を差した。

 バガァン、という破壊音と一緒に軽く地面がえぐれる。

 クラリスとバリーがまたしてもひざまづいたので、怖い顔を作って二人に指を向ける。すると二人はあわてて立ち上がった。またズボンをズリ下ろされるのは勘弁だ。

 どのぐらい威力を調整できるのか確認しながら落雷サンダーボルトを放っていると、お腹がすいてきた。
 これまた絶妙なタイミングでバリーが昼ご飯を台車に乗せて持ってきた。それを見たクラリスが、本が山積みになったテーブルの横に食事用の丸テーブルを運んで、脇にパラソルを立て、あっという間に準備を完了させた。

 バリーが満面の笑みで料理を並べていく。

 ストップ。
 この昼ご飯、ちょっと待った。

「少し…いいかしら?」
「なんでございましょうお嬢様」
「クラリス顔が近いわ。私っていつもこんなに食べるっけ?」
「え? ええ、その通りでございます。お嬢様はよく食べる健康的女性でございますから」
「それにしてもこれは…」

 肉の乗った皿が三つ、ポテトサラダのようなものが山盛り、甘ったるそうなお菓子が二皿、パンがバスケットにたくさん入っている。

「あのねバリー。私これ、いつも全部食べてる?」
「はい。お嬢様はいつも美味しそうに食べておいでです」
「あなたにお願いがあるわ」
「お嬢様、なんなりと」

 バリーは旋風が巻き起こらんばかりに顔を寄せてくる。夫婦は似てくると言うが、苦労皺の多いオバハンと頬に傷がある強面のおっさんが瞬間的に移動して眼前にどアップになるのは心臓によくない。

「バリー顔が近いわ。あと怖いわ。顔がカタギじゃないわ。私これからダイエットをするから食事を減らしてちょうだい」
「ああ、ダイエットですね。かしこまりました」
「何その信用していない顔は」
「お嬢様これで三百五十八回目のダイエットでございます」

 エリィ…お前はどんだけダイエットに失敗してるんだよ。

「今回はうまくいくから」
「そうだと良いのですが」
「あの事故で覚醒したからね」

 エリィの行動が変わっておかしく思われないように伏線を張っておく。何かあったら全部あの雷雨のせいにする予定だ。まあこの二人ならそんなことしなくても大丈夫そうではあるが。

「できます。お嬢様は天才ですから」

 クラリスがうなずいて紅茶をティーカップに注ぐ。

「筋肉量を増やすからタンパク質を多めにして、炭水化物を少なめにするわ。お肉は鶏肉を中心にしてちょうだい。魚類ならサバか鮭がいいわね。あとはビタミンのバランスもよく考えて、生野菜と果物のサラダをドレッシング少なめで用意してほしいわ。消費カロリーが摂取カロリーをやや下回るように調整して筋肉をつけながら身体を少しずつ絞っていきたいから、毎日の献立の記録が必要ね。クラリスにお願いしてもいいかしら」

 二人はぽかんと口を開けている。

 あ、そうか。異世界にタンパク質、炭水化物などの概念はないのか。

「鶏肉中心でよろしいのですか? お嬢様はピッグーの肉が何よりお好きですよね?」

 バリーはそう言って豚の生姜焼きみたいな皿をこちらに見せる。
 ピッグーは豚肉と似ているらしいな。もう呼び方、豚でよくねえか?

「いいのよバリー。痩せたいから」
「魚類は高級品になるのでご用意するのは旦那様の許可が必要でございますね。それにサバとシャケという魚は聞いたことがございません」
「あのね…健康にいいらしいってどこかの本で読んだのよ」
「なるほど。後ほど町の商人に聞いてみましょう」
「え? そこまで無理しなくていいんだけど」
「いえいえお嬢様が真剣なことは今回よくわかりました。私もゴールデン家の専属料理人としてできる限りの協力を致します」
「そう。ありがとう」

 一番心配していたダイエット食問題がバリーの出現によって解決したのはよかった。あとゴールデン家が金持ちっぽくて助かる。これが貧乏人に転生していたら健康的なダイエットは難しかっただろう。いい食事は金がかかる。

 そんなこんなでバリーには悪かったが四分の三ほど食事を残して再び訓練を開始した。

 落雷サンダーボルトの威力を調整して放つ練習を繰り返す。
この落雷サンダーボルトで、なんとなく魔法のコツをつかみたかった。体内に循環する力が魔力のようなものなのだろう。完全に掌握できれば、クラリスの言うとおり様々な応用が利きそうだった。

 太陽が傾いてきたところで魔法練習は終わりにして、特訓場をランニングする。正確には身体が重すぎて走ることができないから早歩きだ。

 しっかり汗をかいて、夕日で特訓場がオレンジに染まったところでトレーニングを終わりにした。

「しかしお嬢様の魔力は底なしでございますねぇ」

 シャワーを浴びた後、クラリスが感慨深げに特訓場の更衣室で私服に着替えさせてくれる。

「そうかしら」
「そうでございますよ。なんせ「白魔法」と「空魔法」の混合魔法を何度も放てるんですから」
「クラリスは何か魔法を使える?」
「お嬢様の前であまり使ったことがございませんね。わたくしは風魔法が使えますよ」

 そう言ってクラリスはポケットから鉛筆サイズの杖を取り出すと「ウインド」と呟いて杖を振った。
 そよ風が疲れた体を吹き抜けていく。

「クラリスの適性は「風」なのね」
「そうでございます。洗濯物を乾かすのに便利です」
「へぇー。他には?」
「食器を乾かすのに便利でございます」
「ほぉーあとは?」
「いけすかない貴族のヅラを飛ばすのに便利でございます」
「うんうん。他には何かできるの?」
「そうですねえ…」
「他には魔法使えないの?」
「…」
「ほら何かあるでしょう。竜巻みたいに風を起こしたりとか」
「……」
「あのークラリス?」

 クラリスはエプロンを持ち上げてムキーと噛みついた。

「お嬢様! わたくしにも魔法の才能を分けてくださいまし!」

 これ以上いじめるとクラリスが泣きそうだ。

「ごめんなさい。で、クラリスは他の六芒星魔法は使えないの?」
「残念ながらわたくしはシングルでございます」
「シングル?」
「魔法を一種類しか使えないことございます」
「あ、そういえば」

 たしか日記の中でエリィが、シングルだと散々バカにされて悔しい、と時々書いていたな。待てよ。てことはエリィは適性魔法の「光」しか元々は使えなかったってことじゃねえか?

 いやまずいだろ。急に落雷魔法使えるようになったら、どうやってできるようになったのか、どこで習得したのか、なぜシングルだったのに突然落雷魔法を云々、あらぬ嫌疑をかけられる可能性大だな。

「落雷魔法は絶対に秘密よクラリス」
「ええーっ!」
「ええーじゃないわよ!」
「せめて奥様と旦那様には言うべきかと」
「だーめ。言っちゃ駄目だからね」
「かしこまりました…」

 着替えが終わったので部屋を出る。
 誰かに着替えさせてもらうのがこんなに楽だとは思わなかったなー。楽ちん楽ちん。
 クラリスがドアを開けたので部屋を出ようとする。入り口にあった姿鏡を見て俺は絶句した。

 ――!!!!!!!!!!

 冷や汗が流れ落ちる。

 ありえねえ…これは、絶対にありえねえ。
 まじで。
 MA・JI・DEありえねえ!!!

「クラリス! この服はなに!?」
「何というのは? いつものお嬢様の私服でございますが…」

 なんてことだ。

「これが、あたい……?」

 あまりの混乱に一人称がおかしくなる。

 この私服を見て混乱しない奴がいるのだろうか。

 白地にほんのりとピンク色が混ざった生地が、ワンピースの形に加工してある。まず、デブが膨張色である白とピンクをチョイスしていることが間違っている。それに裾やら腕周りについたフリルはなんだ。なんの冗談なんだ。背中の真っ赤なリボンは何なんだ。これは……いったい……

「何なんだぁ!!」

 俺は怒りのあまりスカートの裾についたフリルを力任せに引きちぎり、背中のリボンをむしり取って、色合い的に意味不明な黄色いヘアバンドを頭から引き抜き、統一感の欠片もないぼてっとした革靴を脱ぎ捨て、全部特訓場に放り投げ、落雷サンダーボルトで粉砕した。


 ピッッッッッシャアアアアアアアアン!!!!!!
 ドズグワァァン!!!!!!
 ギャーギャーバサバサバサ
 ブヒヒーン
 ガラガラガラガシャーン
 ヒーホーヒーホー
 ブシュワーーー


 耳をつんざく雷音が轟き、本日一番強力な落雷サンダーボルトがワンピースのフリル達を黒こげにしながら地面に大穴を開け、近隣の鳥が一斉に飛び立って、驚いた馬が急に走り出し、馬車が倒れ、臆病者のヒーホー鳥が驚きで呼吸困難になり、なぜか特訓場から温泉が噴き出した。



――あかん。やりすぎた。

エリィ 身長160㎝・体重109㎏(-1kg)
+注意+
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