挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

7/129

第1話 魔法とイケメンエリート

 ぷりんぷりん。
 瑞々しく跳ねる、おしりと乳。

 「はははっ。まーてーよー」

 俺は女の子達の水着を笑顔で追いかけていた。
 それはもう絶景であった。きわどいデザインの水着が何着も若い女の子に貼りつき、これでもかと肉体を強調している。鷲づかみにしたくなる豊満な乳を持つ女子が、わざとらしく転び、砂浜に素晴らしき肢体を放り出す。これまたわざとらしく、いたーい、と呟きながらずれた水着に指を入れて、ゆっくりと直す。エロ仙人がいたら、空中から鼻血を垂らし「ここが桃源郷ぞ! 男共、我につづけ!」と号令をかけることだろう。

 俺はただひとりで女人の群れを追いかけていた。

 捕まえた女子をやさしく海に放り込み、押し倒して乳繰り合い、あるいはお姫様抱っこをして胸の谷間をのぞき込む。一人だけにかまうと、私もかまってよぉと言って逃げていく。俺はまただらしなく笑って走り出す。あまりの楽しさに何度か我を忘れてしまう。

 俺はひときわ目立つ女の子を見つけた。
とびきり可愛くてスタイル抜群の金髪女子。身長は約百六十センチ、腰が最高にくびれ、きめ細かく搾りたての牛乳のように白い肌、甘く垂れた瞳が庇護欲をかき立てる。
 俺は全力疾走で彼女を捕まえた。

「天使めッ。ついに捕まえたぞ」

 俺は誰が聞いても引くであろうセリフを吐き、女の子の肩をうしろから抱いた。

「捕まっちゃいました」

 その子は、どこかで聞いたことのある可愛らしい鈴の鳴るような声で言うと、ゆっくりと振り返った。俺は瞬間に恋の予感を憶えた。高鳴る鼓動、高まる感情と体温。女の子の柔らかさと匂い。
 俺はもったいぶって、目を閉じた。視界が開けた瞬間に美少女が目の前いっぱいに広がる幸福を思った。

 目を開くと、そこにはデブでブスでニキビ面の金髪少女がいた。


  ○


「エリィッッ!!?」

 俺は布団をはねのけて起き上がった。

「お嬢様! 大丈夫でございますか!?」

 メイドのクラリスが、心配そうな顔で覗き込んでくる。

「み、水着は…?」
「水着でございますか?」
「……ごめんなさいクラリス。なんでもない」
「よほど怖い夢を見たんでしょう、おいたわしや…」

 クラリスはまめまめしく俺の額を濡れタオルで拭き、冷たい水の入ったコップを差し出した。
 ありがたく水を飲み干して、あれが夢だったことにがっかりする。エロ仙人、残念だが桃源郷はただの夢だったよ。俺の作り出した妄想に過ぎなかった。あの水着群はこの世界のどこを探しても存在しない。

 しばらく何も考えずにいると、クラリスが何事かを言いたそうに、上目遣いで俺を見てきた。

「あのお嬢様。大変聞きづらいことなのですが」

 彼女は絨毯を見て、こちらを見て、また絨毯を見て、という動きを繰り返す。

「お伺いしてもよろしいでしょうか」
「なに?」

 水着の余韻に浸っていたかったがそういうわけにもいかないな。
 居住まいを正してクラリスを見た。

「あの木は、まさかお嬢様が?」

 そう言って、病院の庭で雷に打たれ横倒しになっている大木を彼女は見た。

「どうして、そう思うの?」
「お嬢様が倒れた横にこちらが…」

 彼女の手には日記が握られており、最終ページの落雷呪文をしっかりと広げていた。
 俺はどう答えて良いのか分からなかった。あれをやったとバレたら怒られて弁償になるだろうか。営業時代にも、やったやってないのいざこざはしょっちゅうあったが、責任をどこに持っていき、どちらが非をどのくらい被ればいいのか、経験と相対する人間の人と成りを観察分析し、リスクを考えればすぐさま答えをはじき出すことができた。だが、この異世界ではできない。圧倒的に情報が足りない。どこにリスクが転がっているかわからない。

 思案顔でいると、クラリスがさめざめと泣き出した。
 苦労皺の彼女が悲しそうに泣くと、それはもう世界の悲しみをかき集め、丸めて粘土にして飲まされた気分になる。
 俺はあわてて両手を広げた。

「お願いだから泣かないでちょうだい」
「わたしくは……わたくしは……陰ながらお嬢様を見守っておりました。お嬢様が夜更けまで魔法書を読み、何度も呪文を唱えるお姿を見ておりました…。もし、落雷魔法がお嬢様のものであったならば、こんなに嬉しいことはありません。お嬢様は誰にも負けないほどの努力をしておりました。落雷魔法をマスターしたならば、それはゴールデン家の快挙。そして大冒険者ユキムラ・セキノ、砂漠の賢者ポカホンタスが使ったとされる伝説の魔導です。それを、それを…ううっ」

 クラリスはついに絨毯に突っ伏して号泣し出した。
 俺は重い身体をベッドから引きはがして、彼女の脇にひざまずいた。いや正確にはひざまずこうとしたところ、贅肉でふくらはぎが押し返されて尻餅をついた。気にせず彼女の肩に手を置いた。

「顔を上げてクラリス。そうよ、私がやったの。だからもう泣かないで」
「お嬢様……」

 クラリスは涙でぼろぼろになった顔を上げてこちらを見つめると、感無量とばかりにとびついた。

「よかったですお嬢様!」
「ありがとう」
「ということは白魔法と空魔法までマスターされたのですね!」
「え、ええ。そうよ」
「おおお……エリィお嬢様…」

 俺がわけもわからず相づちを打つと、ついにクラリスは俺から飛び退いて、神を崇めるかのように両手を組んだ。

「ちょっとちょーっと! やめてクラリス!」

 組んだ腕を解こうとすると、思いのほか強い力で抵抗する。このまま放っておけば、会う度に土下座して合掌されそうだ。いい加減やめてほしいと、十回お願いしたところで、ようやくクラリスは平常運転に戻った。

「もうほんと勘弁してよね」
「申し訳ありませんお嬢様。あまりの嬉しさについ」
「これからは何があってもいつも通りにしていてちょうだい」
「かしこまりました」
「ところで聞きたいことがあるんだけど――」

 さっきから意味不明な単語が多々登場してきた。白魔法だ、空魔法だ、大冒険者なんちゃらセキノ、日本人かよッ、それに砂漠の魔法使いアンポンタン?
 うまいこと誘導して一つずつ説明を求めた。

「それぐらいのことはゴールデン家に代々メイドとして仕えるバミアン家の端くれ、もちろん存じております。まず魔法には六芒星の頂点を結ぶ基本魔法がございます。「光」「闇」「火」「水」「風」「土」の六系統。さらには上位魔法「白」「黒」「炎」「氷」「空」「木」を合わせて十二系統の魔法がこの世には存在しており、すべてをマスターせし者にグランドマスターの称号が与えられます。称号を受けた者はただ一人。あの伝説の大冒険者ユキムラ・セキノただ一人なのです!」

 なんだろう。だんだんクラリスの口調が熱くなっていく。

「砂漠の賢者ポカホンタス、南の魔導士イカレリウス、この両者もグランドマスターではという噂がありますが、かれこれ三十年も姿を見た者がおりませんし、生きているかどうかも怪しいです。ですが賢者と魔導士の争ったといわれるヨンガチン渓谷には絶大なる魔力の傷跡が残っており、少し危険な観光名所として有名でございます。その傷跡を作った魔法が、賢者ポカホンタスの放った落雷魔法ではないのか、と言い伝えられております」
「クラリスはこういう話好きなの?」
「大っ好きでございます!」

 イメージ崩れるッ!
 つーか苦労皺の多いおばさんメイドが魔法と魔法使いについて力説しているのはかなり笑える。日本で置き換えると、普通のオバハン主婦がラノベ片手に主人公について井戸端会議で熱く語っている、そんな感じだな。

「お嬢様だって小さい頃、大冒険者ユキムラの話をしてくれと、何度もわたくしにせがんだではないですか。一人だけずるいです。お好きなくせに」

 どうやらクラリスは夢中になると親戚のおばさんのようになるらしい。堅苦しいよりは、俺はこっちのほうがいい。お堅いのは好きじゃない。

「じゃあもう一度、大冒険者ユキムラの話をしてちょうだい」
「まあお懐かしいですね。よろしゅうございますよ」

 クラリスは俺の手を取って立ち上がらせると、ベッドに誘導し、自分は立ったまま話を始めようとした。俺はベッドの隣をぽんぽんと手で叩く。恐縮した様子で彼女はベッドに音もなく座った。

 彼女から物語が語られた。それは何度も話したであろうと思わせるに充分な、完璧な語り口調と抑揚、盛り上がるところでは効果音までついてくる。きっとエリィが幼い頃、何度も話をせがんだのだろう。

 話をまとめると、大冒険者ユキムラは仲間と共に世界の果てを目指して旅に出て、すったもんだの末に目的地にたどり着くというストーリーだ。この世界が一体どこまで続いているのか、何のために存在しているのか、彼は謎を解き明かしてこのグレイフナー王国に帰還する、という冒険譚だ。炎龍と氷龍との死闘は、悔しいが手に汗握ってしまった。中でも興味を引かれたのは、世界の果てには、何もない虚無空間が広がっており、この世の終わりを思わせるような絶景が広がっている、という話だ。まあ四百年も前の話なのでもはや伝説と化して、童話に近い扱いになっているようだった。
 日本で四百年前といったら、江戸時代ぐらいの話だろ。そんだけ昔だと信憑性に欠けるなあ。それにこの世界は文明があまり発達していないみたいだから、余計そう感じる。
それに世界に果てなんてものはない。星が丸いことを理解していないだけだろう。
まあ、色々と突っ込みどころが満載だが、ひとまずは気にしないでおくか。

 俺は話を魔法に戻した。

「私が落雷魔法を使えるってあまり世間に知られないほうがいいんじゃない?」
「どうしてでございます?」
「だっているかいないか分からない砂漠のバカボンと南の帝王イカレルしか使えないんでしょ?」
「砂漠の賢者ポカホンタスですお嬢様! 南の魔導士イカレリウスですお嬢様!」
「ごめんなさい。で、そのふたりしか使えないような魔法が私に使えたら、なんだか色々な面倒事に巻き込まれるような気がするんだけど」

 仕事ができすぎる奴、特殊ソフトを使える奴、事務処理がやたらと速い奴、どこの世界でも業界でも大体こういう奴らには面倒事がふりかかる。無理な仕事を押しつけられる可能性が高い。

「これでゴールデン家は向こう五十年は安泰でございますよ。魔闘会で、ばばーんと他の家に見せつけてやればよいのです」
「どうもあなたは魔法の事になると見境がなくなるようね」
「申し訳ございません。ですがお嬢様、ご自分のお力を隠すなんてとんでもない。力は示してこそでございます。貴族はそうして繁栄を許されているのですから」
「そうね…」

 俺は適当に相づちを打った。
 エリィのゴールデン家は貴族なのか。なるほどね。

「大きな声では言えませんが旦那様はここ五年、体調がすぐれず魔闘会で負けっぱなしです。どれほど領地を獲られてしまったか…。ああなんということでしょう! ゴールデン家が五年連続で負けるなどあってはならないことでございます! わたくしは悔しいです! 去年のリッキー家との一騎打ち! 勝負は五分五分というところで最後に旦那様が放ったウインドブレイク、あれは悪手でございました!」
「落ち着きなさいクラリス!」

 布団のはしを拳でずんずん殴りつけるオバハンメイドを俺は止めた。

「これは失礼を致しました」
「とにかく、落雷魔法のことはしばらく公表しません!」
「ええーっ!」
「だって砂漠の申し子ピラチンタスと南の覇者イカリャクが―」
「砂漠の賢者ポカホンタスですお嬢様! 南の魔導士イカレリウスですお嬢様!」

 これ以上からかうとクラリス血管が弾けそうだ。

「ごめんなさい。で、その伝説の二人ぐらいすごい魔法なんでしょ? 私だって次にできるかわからないのよ」
「できます。お嬢様なら絶対にできます」

 クラリスは目をらんらんとさせて俺の分厚い手を握った。力強く。手が白くなるぐらいに。
 こわい! このオバハンこわい!

 それから言う言わないの押し問答をしたあと、不満を隠そうともせずにクラリスは昼食を置いて退室した。すでにだいぶ陽が高くなっている。まったく、やれやれだ。

 ほっとしたのもつかの間、俺とは反対にやる気を出したクラリスが、エリィの部屋にあった魔法書をありったけ持ってきた。でかいリュックと子どもが入るぐらいの手提げ袋を両手に持つほどの量だ。ベッドの横に積み上げて、頑張って下さいと三十回ほど言って、今度こそ屋敷に戻った。
 魔法根性が凄まじいな。

 ちょうどよかったので彼女が持ってきた魔法書の『初心者でもわかる魔法大全』を開いて落雷魔法について調べた。

『超級複合魔法・落雷
 「光」の上級にあたる「白」
 「風」の上級にあたる「空」
 この二種を掛け合わせてできる雷を落とす魔法。天変地異、厄災、とも言われるほどの超強力な魔法で、「魔導」と呼称する。呪文すら紛失しており、今のところ使える魔法使いはいない』

 なるほどね。うん。説明がざっくりすぎてぜんっぜんわからん。

『上位魔法・「白」
 「光」の上級にあたる。
 全十二種の中でも最強の補助魔法であり、使用者は非常に少なくどの国でも重宝される。回復に特化し、「水」「木」の回復魔法よりも強力で、上級を極めし者は切れた腕や足を再生することが可能。
 基礎構成は下記の四つ。
 下級・「再生の光」
 中級・「加護の光」
 上級・「万能の光」
 超級・「神秘の光」
 基礎構成の中級まで習得すれば、相当数の魔法を使いこなすことができ、優秀な後衛としてパーティーの要になるであろう』

 すごっ! 腕とか再生できるとか外科医いらねーな。
 白魔法すげー。

『下位魔法・「光」
 六芒星の内の一つである魔法。補助系の色が強く、中級の幻光迷彩ミラージュフェイク、上級の癒発光キュアライトなどが有名な魔法。探知、索敵には向かないが、癒しの光が使えることから冒険者には必須の魔法と言われている。
 基礎構成は下記三つ。
 下級・「ライト」
 中級・「ライトアロー」
 上級・「ライトニング」
 世界の魔法学校では卒業基準の一つを上級魔法の使用としている』

 どうやらこの本は題名通り、魔法の種類を簡単に記している初心者向けの本らしい。まったく知識ゼロ、生粋のジャパニーズの俺にとっては非常にありがたい内容で、読み終わる頃には魔法の種類によってどのような効果があるのか何となく把握できた。
 そしてさっき俺が放った落雷魔法がどれだけ難易度が高いのかも理解できた。超簡単に、日記に魔法とはなんぞやをメモっていく。日記に書いたのは、近くに紙がなかったからだ。

 まとめた魔法の六芒星を俺は見つめた。


――――――――――――――――――――

      炎
白     |     木
  \   火   /
   光     土
      ○
   風     闇
  /   水   \
空     |     黒
      氷

下位魔法「光」「闇」「火」「水」「風」「土」
 下級→初歩
 中級→ふつう
 上級→けっこーすごい
上位魔法「白」「黒」「炎」「氷」「空」「木」
 下級→かなりすごい
 中級→やべえ
 上級→できたら天才
 超級→崇められるレベル
上位複合魔法
 下級・中級・上級・超級複合→神クラス

――――――――――――――――――――


 すなわち俺は神クラスの魔法をこの世界に来て早々ぶっぱなしたわけだ。確実に色んな工程を飛ばしているような気がする。それにクラリスが「白」と「空」をマスターしたんですね、と言って、驚喜したのも無理はない。まあ気に病んでもしょうがないことだし、できてラッキーぐらいに思っておこう。

 ひとつ疑問なのは呪文すら紛失したと記されていたが、エリィは落雷魔法の呪文をどっかのじじいからもらったと日記で書いていた。そいつを捜すことも、やる事リストに追加しておこう。だって明らかに怪しいだろ。伝説級の魔法の呪文を持ってて、ピンポイントでエリィに授ける理由が、俺がこの世界に転生してしまったこと以外に考えられない。何か知っているはずだ。

 よし、やることが見えてきてやる気が出てきた。まずはこの世界に慣れないと日本に帰る方法も見つけられないしな。

 気づけば夕方になっていた。
 病院の庭では、フード付きのロングコートを着た集団が、いかにも調査してるという風貌でノートを取りながらなにやら話し込んでいる。日本の事件現場のようにロープがされ、どこから噂をかぎつけたのか見物人が集まり、串焼きを売る出店まで出でいた。
 窓枠に寄りかかって呆れながら見ていると、クラリスが満面の笑みで夕食を持ってきた。

「クラリス。明日退院するわ」

 配膳する手を止めて、彼女はこちらを心配そうに見つめた。

「お体は大丈夫でございますか?」
「平気。エイミー姉様にもこれ以上心配はかけられないし」
「それはそうでございますね。エイミーお嬢様は毎日わたくしにエリィお嬢様の体調をおたずねになられます」
「そうでしょう。なので退院するわ」

 伝説級美女に心配かけたくないというのは半分で、もう半分は退院しないとこの世界に馴染めないからだ。まず情報が必要だ。何度も言うが圧倒的に情報が足りねえ。

「それからクラリス、誰にも見られずに魔法の練習をする場所はある?」
「あります! ありますともお嬢様!」

 真空を巻き起こさん勢いでこちらに顔を寄せるクラリス。
 近いっ! 顔近い!

「ゴールデン家の秘密特訓場がございます! 小さい頃はよく旦那様の練習をのぞきに行きましたねぇ!」

 テンションがうなぎのぼりのクラリス。

「かしこまりましてございますお嬢様。三年生の始業式は三日後でございますから二日間落雷魔法の練習ですね! お昼のお弁当はわたくしがお持ち致します。なあに大丈夫でございますよ。家のほうの仕事は他のメイドにうっちゃってきますのでご心配なさらないでくださいまし」
「そ、そう。ありがとうクラリス」
「伝説の魔導が明日……しかもエリィお嬢様が……」
「クラリス?」
「ああ、夢のようでございます…」
「あのーちょっと?」
「まさかお嬢様が伝説の……伝説のユキムラ・セキノと同じ………くふふ」
「クラリース」

 肩を叩いてようやく彼女は我に返った。

「はっ! 失礼を致しました。では明日お迎えにあがります。退院の手続きは今からしておきますので、家に帰らずそのまま秘密特訓場にまいりましょう」
「そうね」
「ではしっかり食べて、早く寝てくださいね」

 うきうきした足取りでクラリスは部屋から出て行った。

 どんだけ魔法好きなんだよ。
 苦笑いをして、また窓の外を見た。

 魔法か…。小さい頃ゲームで魔法にあこがれていたけど、いざ現実で使うとなると、どうなんだろうか。今後、必要になりそうだし色々できるようになっておいたほうがいいだろうが、未知すぎてこええ。
 日本に帰る方法を探すにせよ、「力」と「金」はどの世界でもアドバンテージになる。当面はそのふたつを手に入れる行動をしつつ、情報収集ってところだな。あと、ダイエットは絶対な。この体型は本気で許せん。

 俺は部屋の奥にある鏡付きクローゼットを開けて、大きなため息をついた。

 鏡に映るエリィは自分の理想を遙かに下回る、というか日本でもこれだけ太った女子はいない、そんな女の子だった。
 ふとクローゼットの中にある、四角い平べったい木製の物を見つけた。右側に数字が1から120まで書いてあり、可動式の矢印が0を差していた。

 体重計だなこれ。間違いない。

 俺は現状を知ろうと軽い気持ちで体重計に乗った。そう、自分がどこにいて、どれくらいの能力があるのかを知るのはビジネスマンとして大切なこと――

「クラリィィィィス!!!!!!!!」

 俺は病室のドアを開け放って叫んだ。

「クラリィィィィィスッ!!!!!!!!」

 本気の叫びを聞いてクラリスが短距離選手ばりの速さで走ってきた。

「ど、どうされましたお嬢様ぁ!」
「きなさい!」
「どちらに!」
「いいから早く!」

 クラリスを病室に押し込んで、体重計を指さした。

「乗りなさい」
「え………なぜでございます?」
「いいから乗りなさい」
「でもお嬢様……それはいくらなんでも…」
「の・り・な・さ・い」
「かしこまりましてございます!」

 彼女の乗った体重計の矢印は50で止まった。
 俺はがっくりと膝をついた。いや正確には膝をつこうとしたところ贅肉が邪魔をして尻餅をついた。
 間違いない、日本と同じ「キログラム」単位だ。

「どうされたのです…?」
「ひゃく…」
「ひゃく?」
「百十キロ!」
「へ?」
「私の体重よ!」
「ほ?」
「ほじゃないわよほじゃ! なんでこんなに太ってんの!?」
「それはお嬢様…まああれでございますよ。がりがりにやせているよりいいではないですか」
「よくない!」

 クラリスが背中を撫でてなぐさめてくれる温もりを感じながら、俺はやることリストの一番を頭の中でしっかりと書き換えた。

 最優先、ダイエットする。
 その1、ボブに復讐する。
 その2、孤児院の子どもを捜す。
 その3、クリフを捜す。
 その4、怪しげなじじいを捜す。
 その5、日本に帰る方法を探す。(元の姿で)
エリィ 身長160㎝・体重110㎏
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ