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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第37話 スルメの冒険・その6

 突然、空から落ちてきた閃光の眩しさに目を閉じ、身の危険を感じて身体強化をかけた。
 凄まじい魔法の余波に、オレとガルガインのボケナスは土やら岩の破片と共に吹っ飛ばされ、胃を鷲掴みにされて引っ張られるような浮遊感を味わった。轟音で耳が痛み、何が起きたのかさっぱり理解できず、一瞬頭が白くなる。

 邪竜蛇は?!

 したたかに打ちつけられた頭を振り、バスタードソードを地面について起き上がる。あれほどの衝撃でも剣を手放さなかったのは訓練のたまものだ。
 シャツの袖で目を何度か擦り、クソ蛇のいた場所を確認する。
 邪竜蛇の不気味な身体は消えていた。
 アメリアさんの爆発魔法によるってできた大穴と、謎の超弩級魔法でできた円形の穴の間に、ぽつんと、クソ蛇の生首だけが鎮座していた。

「はあああああああああああああああああああああっ?!?!」

 ありえねえええええええ!
 クソ蛇がうねっていた場所は、大地ごとごっそり抉り取られている。さすがの邪竜蛇も生首だけじゃ死ぬらしい。ってあたりめえか。

「やべえな…」

 それしか言葉が出てこねえ。
 どんだけ強力な魔法なんだよ。しかも見たことねえやつだ。白魔法の光線魔法か?
 白魔法に唯一存在している攻撃魔法で、光を収束させてぶっ放す、子どもに大人気のど派手なものだ。

 あれ? 光線魔法って門外不出で、使えんのグレイフナー六大貴族のサウザント家だけじゃなかったか? しかも魔力効率がクッソ悪いって話だ。あれほどの威力でんのかよ?

 左を見ると、ガルガインのスカタンが頭を打ったのか完全にノビていた。
 ま、生きてっから大丈夫だろ。

 右を見れば、長い黒髪で顔が隠れているサツキが、ぐったりと横たわっている。胸が上下に動いてっから生きてんな。オッケー。

「スルメーーーーーーーッ!」

 前方の小高い丘からやたら可愛らしい声が聞こえてきた。
 すぐに顔を上げると、金髪ツインテールの女子がこっちに飛び降りて、手を振りながら駆け寄ってくる。

 うおっ、クッソかわいい。

 碧眼の垂れ目が嬉しげに細められ、小ぶりな口はエイミーみてえにピンク色でちょっと肉厚な感じだ。見たことのねえやけにぴっちりしているズボンを履いていて、美脚をこれでもかと主張してやがる。襟んとこが丸い白シャツがでけえ乳に押し出され、上下にばいんばいん揺れていた。やべえ。

「スールーメーーーーーッ!!!」

 つーかオレのあだ名呼んでるけど、誰?
 あんなカワイ子ちゃん知らねえんだけど?

 ちょっと待てちょっと待て、ここまま飛び付いてくる気じゃねえだろうなって――

 うおおっ!
 カワイ子ちゃん抱きついてきやがったッッ!

 やっべ。意味わかんね。いい匂いするし乳当たってるし、やっべっ。これやっべぇぞ。

 金髪ツインテールのカワイ子ちゃんが、オレの顔を見上げて嬉しそうに笑った。

「久しぶりっ! もうほんとに危ないところだったじゃないの。私達が来てなかったらどうするつもりだったの?」
「はっ……?」

 久しぶり?
 いや、ぜってー会ったことねえけど?
 てめえみたいな美人忘れるはずがねえよまじで。

 事態が飲み込めねえ。カワイ子ちゃんの美しい顔と、ハーフプレートに押しつけられて形の変わっている乳と、邪竜蛇の生首へ何度も目を走らせちまう。

「今回のことは貸しにしておいてあげるわ。いいわね、スルメ」
「……あれ、おめえがやったのか?」

 いやまじで誰?
 すんげえ知り合いっぽく話してくるけど。

「ええそうよ」
「てか…………おめえ、誰よ?」
「エリィよ。エリィ・ゴールデン」
「エリィ………………ゴールデン?」
「そうよ」

 はっ?
 何の冗談だ?
 エリィ・ゴールデンっつったら九十キロはあるおデブお嬢様だろ。
 ドヤ顔でウインクを寄越すカワイ子ちゃん。

「エリィ………………………………ゴールデン????」

 嘘だとわかっていても何となく聞き返してしまった。

「ええ、そうよ」

 抱きついていたオレから離れると、彼女はブラウスの裾をつまんで一礼した。

「……はあっ?」

 お淑やかで洗練された身のこなしはどっかのお嬢様だな。
 しっかし意味がわかんねえ。オレ、こんなカワイ子ちゃんとどっかで会ったことあるか?

「………………はああっ?」

 混乱の極致。
 もはや「はあ」しか言葉が出ねえ。
 自分がエリィ・ゴールデンっていうギャグを使ってくるってことは、魔法学校の生徒か? にしても全然似てないから、ギャグにすらなってねえんだけど。

 放心しているオレを余所に、カワイ子ちゃんは当然といった顔で、近くに転がっているガルガインのタコナスに“癒発光キュアライト”をかけ、素早く移動し、サツキにも“癒発光キュアライト”を使用する。
 やや離れた場所にいるアメリアさんには、白魔法下級“再生の光”をかけた。

 白魔法?!
 しかも杖なし?!
 やっべえ、まじ意味わかんね。パネェ。

「“再生の光”は魔力枯渇にも効くわよ。意識を取り戻す程度の効果だから、あまり無理させちゃいけないけどね。スルメはそっちの人、エイミー姉様の友達のサツキさん? の方をお願い」

 そう言いつつ、カワイ子ちゃんは身体強化でアメリアさんを丁寧に運び、ガルガインの隣に寝かせた。
 オレは言われるがまま、サツキの頭と膝下に左手を右手を差し入れ、なるべく柔らかそうな草の生えている地面へ横たえる。
 サツキの二の腕はやけに柔らかかったが、今はそれどころじゃねえ。

「ジョン・ボーンさん……向こうに色黒でスキンヘッドの人がいると思う。ちょっと見てきてくれねえか?」
「いいわよ」

 そう言うと同時に、カワイ子ちゃんは身体強化で目の前から消え、三分ほどで戻ってきた。
 小脇にジョン・ボーンさんを抱えている。

「かなり危なかったけど、“加護の光”を唱えておいたから大丈夫」
「ああ、助かるぜ。なんてお礼していいかわかんねえぐらいだ」
「いいのよお礼なんて」
「って“加護の光”?! 白魔法中級じゃねえかよ!」
「そうだけど?」
「………まじパネェな」
「みんなじきに目を覚ますわ」

 ジョン・ボーンさんを横たえ、懐かしげな視線をガルガインとアメリアさんに送り、満足げに腕を組むカワイ子ちゃん。

 見れば見るほど疑問しか浮かばねえ。
 超弩級の光線魔法をぶっ放し、白魔法を無詠唱で使用できる。しかも驚くほどにスムーズに身体強化から上位魔法へ魔力の切り替えを行い、すべての魔法は杖なし。冒険者協会でも滅多にお目にかかれない優秀な魔法使いだ。
 あの雰囲気からして身体強化の使用は“上の下”までいけそうだな。冒険者協会定期試験を受けたら、何点ぐらいだ?

 アメリアさんが、身体強化“上の中”を数十秒使え、炎魔法中級を無詠唱で行使でき、数々の修羅場を潜った経験があるトップクラスの魔法使い。得点は879点。現役時代は900点オーバー。
 ジョン・ボーンさんは身体強化“上の下”で数十分動け、“上の中”は使えない。攻撃魔法は得意じゃねえから、ゴーレムを倒しまくる試験では不利だ。それで、756点。
 カワイ子ちゃんが、身体強化“上の下”まで使用できると仮定しよう。あの超弩級殲滅魔法が使用できるってことは、攻撃魔法が結構得意なのかもしれねえ。だが、あの魔法が光線魔法なら、燃費がわりいから連発はできない。詠唱にも時間がかかりそうだ。それを加味しても、700点代後半から800点の得点になるはず。下手すりゃ800点中盤までいけるかもしれねえ。
 と考えると、シールド所属のジョン・ボーンさんより格上の、Aランクってことになるぞ。

 そんな、強くて、可愛くて、やたら美人な、オレのことを親しげにスルメと呼ぶ、同年代の女子か……。


 いや、まじで誰ッ!?


「あら、あなたも怪我してるわね。“癒発光キュアライト”」

 カワイ子ちゃんは透き通るブルーの瞳でこちらを見ると、指先をオレの肩に当てた。
 温かな光がオレの身体を優しく包み込み、肩や腕にできていた切り傷がみるみるうちに塞がっていく。
 ああ、めっちゃ気持ちいい……。
 こんなに癒される“癒発光キュアライト”は初めてだ。

「まじで助かる。ありがとよ。んで、おめえ誰よ?」
「え? だから、エリィ・ゴールデンよ」
「いやいや、そういうのはいいから」
「どういうのよ?」

 あ、わかった。
 このカワイ子ちゃんが誰かわかった。
 そういうことか。

「はっはぁん、同姓同名か」
「違うわよ!」
「じゃあ誰だよ」
「グレイフナー魔法学校三年生で、あなたと合宿に行ったエリィ・ゴールデンよ!」
「んな馬鹿な!」

 だってエリィ・ゴールデンってこんなに目ぇでかくねえし、もっとデブだったし、顔中ニキビだらけだったし全然ちがうだろ。髪の毛さらっさらでむっちゃいい匂いすんし、すっげえ可愛いし、ずぇんずぇんちげえ。

「バカはあなたでしょう!」

 なんかカワイ子ちゃん、ぷんぷん怒り出した。

「スルメってあだ名であなたを呼ぶの、親しい友人ぐらいでしょ」
「………」

 確かに言われてみりゃそうだけど、スルメとかいう不名誉なあだ名はエリィ・ゴールデンがアホみてえに連呼していたから、知ってる奴はグレイフナーに結構いるぞ。このカワイ子ちゃんが、誰かからあだ名のことを聞いて、オレをスルメって呼ぶんだろうな。つーかそれしか考えられねえ。

 まあいいや。これ以上考えるのめんどくせ。
 細けえことは苦手だ。
 まずは礼だな。

「ま、冗談はさておき。あぶねえところ助けてくれてまじでサンキュー。助かったぜ」
「どういたしまして、って冗談じゃないからね?!」
「おめえみたいな美人がエリィ・ゴールデンって名乗ったら本物がびっくりすんぞ。あんまエリィ・ゴールデンいじめんなよ。あいつ、めっちゃいい奴なんだ」
「んまぁ………って違う違う。私が、エリィ・ゴールデンなの! 本物! モノホン!」
「はいはい。にしてもさっきの魔法すげえな。あれ白魔法の光線魔法か?」
「華麗にスルーしないでくれる!? ほら、よく見なさいよ! こうして、こうすれば」

 そう言いつつ、カワイ子ちゃんは両手で自分の目を細くして、頬をぷくっと膨らませた。
 いや、可愛いだけなんだが。

「似てる似てる。にしても白魔法中級まで使えるってすげえな。練習大変だっただろ?」
「ちゃんと見てよぉぉぉっ!」

 カワイ子ちゃん、悔しくて内股でバシバシ地面を踏んづけるの巻。
 ツインテールがひょこひょこ揺れてかわいいったらありゃしねえ。
 いい加減その冗談終わりにしようぜ。

「つーかおめえサウザント家の親戚か? さっきの光線魔法だろ?」
「だから! さっきからエリィ・ゴールデンって言ってるでしょ!」
「はいはい。んで、おめえ一人? よく一人で旧街道に入ったな」
「え? 一人じゃないわよ」

 そう言うと、彼女は後ろを振り返った。
 酒瓶持ったじいさんと狐人の女子が、丘から飛び降りて、こちらに歩いてくる。

 じいさんの両目は魔法の効果で変色しており、白目が金色、黒目んとこが真っ白だ。
 えっ? これって噂に名高い木魔法の魔眼シリーズじゃね? 使えんのシールドでも二、三人って聞いたけど?

 つーか隣にいる狐人の女子、むちゃんこカワイイじゃねえか……。
 睫毛クッソなげえ。口ちっちぇえ。鼻がつんとしてほっぺたぷにぷに。
 弟のスピード、黒ブライアンが土下座して交際を申し込みそうだな。あいつはこういう女が好みだったはず。

「スルメ、元気してた…?」

 はっ?
 狐美少女もオレのことスルメって呼ぶのかよ。オレってそんな有名人だっけ?

「おめえ誰だよ」
「忘れたの……?」
「ん? おめえ誰かに似てんな……どっかで会ったことあるか?」
「ほほう。淡いブルーか。うむ、やはり美尻には薄色の下着じゃのぅ」

 木魔法魔眼シリーズを使っているじいさんが、オレ達の会話に割り込み、カワイ子ちゃんの尻を見ながら仰々しくうなずいた。

「ポ・カ・じ・い? まさか透視でパンツ見たんじゃないでしょうね」
「しまっ―――あまりの美尻に口が滑ってしもうたっ」

 じいさんの魔眼は透視能力“暗霊王の眼(クレアボヤンス)”か。
 透視能力でパンツ覗くとか、アホほどに魔法の無駄遣いだな。気持ちはわからんでもないが。

「アリアナ、お願い」
「“トキメキ”…!」

 狐美少女が人差し指を下唇に当て、右頬だけぷくっと膨らませ、左目でウインクをした。
 やっべ、クッソかわいい、と思ったら目の前が桃色に染まって心臓がキュウゥゥっと締め付けられ、あまりの激痛に胸を押さえてうずくまった。

「う゛っ!」
「う゛っ!」
「う゛っ!」

 いてえええええええっ! 死ぬ! 死ぬわこれ! なんかの魔法か?!
 スケベ魔眼じじいもうずくまってるし! つーかカワイ子ちゃんも!?

 狐美少女がじいさんを捕まえると、カワイ子ちゃんが立ち上がって腕をつかみ「“電打エレキトリック”!」と叫ぶ。

「おししししししししししししししりぃぃぃぃっ!」

 魔眼じいさんが残念なほど痙攣し、黒こげになってぶっ倒れた。
 なんだこいつら? よくわかんねえけどまじやべえぞ。
 オレがしらねえ魔法ばっか使ってやがる。

 心臓いてえのはすぐおさまった。ひやひやしたぜ。

「透視の魔眼は禁止! 私の許可なく使ったらおしおきだからね。わかったポカじい?!」
「………………ふぁい」

 ぷすぷすと黒い煙を上げたじいさんは口だけを動かして答えると、魔眼を解除した。
 おい、じじい死ぬぞ。

「まったく。油断も隙もないわね」
「スケベ……めっ!」

 それにしても、むちゃクソ可愛いなこいつら。
 カワイ子ちゃんのほうがぴちぴちのズボン。狐っ子のほうがエプロンにスカートがくっついてるみてえな変な服。どちらも見たことのない青い素材だ。防御力が低そうだが平気なのか?

 いや、どう考えてもこのカワイ子ちゃんは、エリィ・ゴールデンじゃねえだろ。毛が生えてねえガキだってもうちょっとマシな嘘つけるぜ。

「ス、ス、スルメ君。へ……蛇は?」

 振り返ると、後方に下がっていたエイミーが、恐る恐るこちらに向かってきた。彼女は特大の魔法でできた大穴を見つめている。その横にテンメイが並び、杖を構えながら油断ない視線を周囲へ送っていた。

 エイミーは二つの特大魔法で空いた地面をじっくり見たあと、邪竜蛇の生首を見つけ、「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。まだ動くと思っているのか、ポケットから杖を引く抜く。腰が引けているのがちょっとまぬけだ。
 テンメイは「エェェェクセレンッ」と叫んで生首を激写しに走っていく。写真バカは放っておこう。

「死んでるよ。こいつが倒してくれた」
「よかった……」

 オレが伝えると、強ばっていた全身を弛緩させ、緊張で肺にたまっていた空気を「ほぅ」と吐き出す。
 安堵し、いつものエイミーらしい笑顔が戻った。

「旅のお方、危ないところを助けて頂き――」

 彼女はそう言いながらこちらへ近づいてくる。
 だが、言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 エイミーはカワイ子ちゃんの姿を捉えた途端、垂れ目をぐわっと開き、右手に持っていた杖を落とした。魔遊病にかかった魔法使いみてえに、口元を力なく開閉させ、小刻みに身体を震わせる。

「…………エリィ?」

 エイミーは消え入りそうな弱々しい声で、カワイ子ちゃんに尋ねる。
 すると、カワイ子ちゃんも、オレとしゃべっていた威勢はどこへやら。か細い声色で、そこにエイミーがいる、存在している、と確認するみてえにゆっくりと呟いた。

「姉様……」

 二人はため息とも嗚咽とも取れない嘆息を漏らしてふらふらと近づき、やがてどちらからともなく駆けよって、もう離さない、といわんばかりに抱きついた。

「エリィィィィィッ!!!!!」
「ねえさまぁぁーーーッ!!!!!」

 おうおう感動させるじゃねえか。美人が抱き合うのは、悪くねえな。

「エリィエリィエリィ!」
「会いたかったぁぁ!」
「よかった! 無事でよかったよぉ! 私、心配したんだからね! 手紙が届くまで、生きた心地がしなかったんだからね!」

 背の高いエイミーがカワイ子ちゃんの肩に頬ずりする。

「ごめんなさい姉様」
「ううん、謝らないで。むしろ謝るのはエリィを誘拐から守れなかった私たちなんだから」
「それでも謝りたいの。みんなに心配かけちゃったから」
「これからはずっと一緒よ? もう勝手にいなくなったり、危ないことしちゃダメだからね?」
「うんっ」

 嬉しそうにカワイ子ちゃんがうなずくと、二人は両手を取り合ったまま、身体を離してお互いを見つめる。

「エリィってばこんなに痩せちゃって……身体は大丈夫なの?」
「鍛えてるから大丈夫」
「そう……それにしても……」

 エイミーは握っていた手を離し、カワイ子ちゃんをつま先から頭のてっぺんまで眺め、そしてぺたぺたと顔を触った。

「ああっ……かわいい……物凄く……」
「姉様、くすぐったいわ」
「お肌もすべすべ。綺麗になったね」
「ジェラの友達がニキビに効く化粧水をプレゼントしてくれたの」
「いいなぁ~」
「あとで姉様も使う?」
「え、いいの?」
「もちろん。でも、姉様あまり必要ないと思うけど」
「そんなことないよぉ。旅のせいでちょっとお肌荒れちゃったの」

 やっべ、ガールズトーク始まりやがった。こうなると長い。うちのメイドと母ちゃんは日が暮れるまでくっちゃべってるからな。

 ………って何か大事なこと忘れてねえ?

「あーちょっと待て」

 オレはいいようのない不安と焦燥、邪竜蛇と対峙した緊張感でかいた冷や汗とも違う、気持ちの悪い汗が背中から流れ出るのを感じた。粘っこくオレの心臓を包み込んでいく、奇妙な感覚が全身をのったりと走る。

「エイミー、カワイ子ちゃん。ちょっとこっち向いてくれ」
「なに?」
「カワイ子……って私?」

 素直に身体をこちらに向け、肩をくっつけて並ぶ二人。

 左側には透き通るもち肌に金髪ツインテールのカワイ子ちゃん。
 右側には陶器みてえな肌に金髪セミロングのエイミー。

 カワイ子ちゃんは大きな瞳がほどよく垂れ、よく見るとほんの少しだけ両目が離れている。だが、目と鼻と口の並びが絶妙で、何とも例えられねえ神々しさと、清廉潔白な美しさを醸し出していた。優しげな眼差しに、過去の過ちを懺悔したい衝動に駆られ、思わず歩み寄りそうになる。だが同時に愛嬌とユーモアを感じ、それを自身で理解していて相手に押しつけない、心の余裕や場慣れした経験が見て取れ、オレは出しかけた足を戻した。こんなところで、出発前にじぶん家の女風呂を覗いたことを懺悔したってしょうがねえ。

 一方、エイミーはカワイ子ちゃんとよく似た大きな垂れ目を、のんびりと瞬かせている。真っ直ぐ伸びた眉に、高く整った鼻梁。ピンク色をした唇はカワイ子ちゃんと瓜二つだ。全身から溢れんばかりの優しさが発せられ、その雰囲気に似つかわしくないでけえ胸が、旅のマントからでも分かるほど張り出しており、二つのアンバランスさがエイミーの魅力を底上げしていた。さらには、完璧に見えてどこかヌケている顔つきが、守ってやらなければ、という男心をくすぐる。

「どうしたのスルメ君?」
「あまりじろじろ見ないでほしいんだけど」

 いや、なんつーんだろ。
 似てるんだよな。それこそ家族、とか、姉妹レベルで似てるんだよ。二人が姉妹です、って言ってもなんら違和感がねえ。

「似てんな……」
「似てる?」
「あたりまえよ。姉妹なんだから」


―――ッッ!!!!!!!??


 その瞬間、まさか、という三文字がオレの脳裏で弾けた。

 頭の中で盛大に“爆発エクスプロージョン”をぶっ放されているような衝撃が走り、思わず足がガクガクと震える。人間は己の信じられないものを無理矢理受けれようとすると、精神と身体が分離して、思ってもいない反応をしちまうらしい。やべえ。まじでやべえ。

「おま……おま………」
「おま?」
「……??」

 エイミーとカワイ子ちゃんが、同時に首をかしげる。
 その仕草が確信めいていて、オレは吐いた息と一緒に全身の力が抜けていき、さっきの、嘘だ冗談だと言っていたそれが間違いだったという事実が強引に喉元へ突っ込まれ、口がぱくぱくと空気を探して勝手に動いた。

「おまえ………まさか…………まじで……………」

 ありえねえ、と思いながらも、もう一度カワイ子ちゃんを上から下まで確認する。

 すらりと伸びた脚。くびれた腰。大きな胸。吹き出物の一つもない、つるっとした顔。錦糸みてえな金髪。
 それは野菜のダーダイコンみてえな脚じゃなく、突き出た三段腹でもなく、ニキビ面でもなく、しなびた髪の毛でもねえ。
 いやいやいやいや、同一人物とかありえねえ。ありえねえけどエイミーと似ている。似すぎている。

 オレは呼吸の足りていない口から、言葉をひねり出した。

「おま………まじで…………………エリィ・ゴールデン?」

 まぬけヅラをしているであろうオレの質問を聞いて、カワイ子ちゃんは胸を張り、両手を腰に当てる。ふふん、と嬉しそうに笑うだけで、何人もの男が惚れそうだ。

「そうよ。私はエリィ・ゴールデンよ。ダイエットして修行して痩せた、エリィ・ゴールデンよ」
「…………」

 そう言って、カワイ子ちゃんはこちらに近づき、耳元でそっと呟いた。

「手紙に書いた『スルメおでかけチェックシート』は役に立ったかしら?」
「なっ……!?」

 オレは思わず後ずさりした。
 あれを知っているのは、エリィ・ゴールデンとオレだけだ。

「おま、おま、おま、おまえっ! おま、おま……おまぁっ!」

 もう、自分でも何を言ってるかわからねえ。
 腰砕けになり、地面に尻餅をついて、カワイ子ちゃんの顔を指さし、乳を見て、エイミーを指さし、エイミーの乳を見て、二人の垂れ目を交互に見やる。

 二人、姉妹、垂れ目、唇、金髪、でけえ乳、二人、姉妹、エイミー、エリィ・ゴールデン、嘘、冗談、本物―――


――――本物ッッ!!!?


「ハアァアアァァァァァァァァアアァァアアアアッァアアアァァァァァァアアアァァァァァァアアアァァッァァアアアアアアアァァァァアアアアアアアッッ!!?」


――――まじでッッ!!!?


「ありえねえええええええええええええええええぇえぇえええぇえぇぇぇええええええええぇぇぇええええええぇぇぇえぇええぇえぇっぇええええぇぇっっ!!!!!」


――――ホンモノッッ!!!?


「ウソだろおおおぉぉぉおおぉおぉぉおおおおおおおおぉおぉおおぉおおおおおおぉおおおおぉおぉおぉおぉおおぉおおおおおおぉおおおおおおおっっ!!!!!!?」


 喉仏がぶっ壊れるほどオレは絶叫した。


     ○


 ありえねえ。まじでありえねえ。
 別人とかそういうレベルじゃねえよ。まじパネェ。
 すっげえ悔しい。クッソ可愛い。すっげえ悔しい。

「やっと信じてくれたの?」
「あ……ああ、まあ」

 叫びすぎて力が抜けたオレを見て、エリィ・ゴールデンは呆れ口調で手を差し伸べてくる。それを取り、立ち上がった。

「あなた合宿のとき私に散々おデブって言ったから、頼まれてもデートしないわよ。と、思っていたけど、さっき私のこと、いい奴だからイジめるなって言ってくれて……すごく嬉しかった」
「ああ……まあ」
「だから一回ぐらいならいいわよ」
「ああ……そう」
「でもアリアナは誘っちゃダメだから」
「ああ……リアナ?」

 放心ぎみの意識のまま、エリィ・ゴールデンの向けた視線の方向を見ると、狐美少女がエイミーに耳をなでられていた。

「まあっ! まあっ! なんってプリティーなのぉ! 可愛すぎて死んじゃう~!」
「エイミー、久しぶり……」
「うん! うん! 会いたかった! ふたりに会いたかった!」
「んっ……」

 そういや狐美少女、さっきからずっと楽しそうにオレとエリィ・ゴールデンのやりとりみてたけど……ってまさかっ。

「おま、おま、おま、おま………!」

 オレの様子がおかしいと思ったのか、狐美少女はくるりと振り返り、こてんと首をかしげる。エイミーが頬を緩ませ、大切な人形を抱く子どもを彷彿とさせる姿で、狐美少女を後ろから抱いた。 

 誘拐、エリィ・ゴールデン、一緒に、アリアナ、狐人、無口、無表情――


―――ひいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!


「おめえアリアナァァァーーーーーーーーッ?!!」

 オレは喉がちぎれるほど叫んだ。
 叫びすぎて声帯が悲鳴を上げている。

「うん」
「どんだけ可愛くなってんだよ?! いや意味わかんねえよ?!」
「……」
「お前らどんな魔法使ったんだよ!?」

 ぷい、っとアリアナは後ろを向いてエイミーの胸に顔をうずめた。
 羨ましいなあおい! ってそうじゃねえ。

「スルメ、アリアナが恥ずかしがってるわよ。堂々と可愛いなんていうから」
「え? ああ、まあ、事実だしな」
「そうやってはっきり褒めるのは、すごくいいと思うわ」
「まじ?」
「まじよ、まじ。女は褒めて欲しい生き物なのよ」

 ニヤリと指摘するエリィ・ゴールデンは、見た目こそ変わったが、仕草や言動はあのおデブだった頃のエリィ・ゴールデンと同じだった。

 まじか……まじなのか………。まだ信じられねえ。

 オレが、衝撃の事実、驚愕の真実を受け入れるため気持ちの整理をしていると、魔力枯渇ではなく脳しんとうで気絶していたガルガインのアホチンが、むっくりと起き上がった。
 髭面できょろきょろと周囲を見まわし、オレを見て、カワイ子ちゃんを眺め、狐っ子を観察し、生首の邪竜蛇を見つけて両目をかっぴらいた。大体の状況を把握したらしい。

「あの魔法はあんたが?」

 ガルガインはあぐらをかいて顔を上げ、カワイ子ちゃんに化けたエリィ・ゴールデンを視界に入れて目を細める。

「ええそうよ」
「すげえな。あれ、白魔法か?」
「さっきスルメが言ってた光線魔法じゃないわ。落雷魔法よ」
「………………は?」

 ガルガインが固まった。

 え? ちょっとまて。今なんて言った?

「落雷魔法よ」
「だはははっ。あんた、サウザント家の親族か? 礼はそっちに言えばいいか?」

 ガルガインが自分の膝を叩いて笑うと、エリィ・ゴールデンが説明をしようと口を開く。そのタイミングで、アメリアさんとサツキが目を覚ました。

「お母様」

 エリィ・ゴールデンが跪いてアメリアさんの手を取った。エイミーがサツキに近づき、肩を抱く。

「邪竜蛇は……?」

 ナイフみてえな鋭い眼光を即座に走らせ、アメリアさんはポケットから予備の杖を引き抜いた。

「私が倒しました」
「あなたが……?」
「はい」

 アメリアさんは、こいつは誰だ、という疑問符を顔中に浮かべたが、それも一瞬の出来事で、すぐに何かに気づいたのか両目を見開いた。

「……エリィ? エリィなの?」
「はい、お母様。ご心配おかけして申し訳ございませんでした」
「ああ……なんて……なんて……」

 アメリアさんは力なく杖を地面に落とし、娘の頬を愛おしげに撫で、自分の胸に掻き抱いた。
 エリィ・ゴールデンはアメリアさんの胸に顔をうずめ、両手を背中に回した。

「どれだけ心配したと思っているの?」
「ごめんなさい……」
「まったく、あなたって子はいつもみんなに心配かけて……本当に手のかかる子ね」
「はい……」

 アメリアさんは優しげな手つきでエリィ・ゴールデンの頬を両手で包み込み、目が合うよう自分の顔の前へ移動させた。

「グレイフナーに帰ったらお説教よ。いいわね」
「わかりました」

 エリィ・ゴールデンは素直にうなずいて、細い手をアメリアさんの両手に添えた。
 やはり、誘拐されて家族と離ればなれになったことが結構堪えていたみてえだ。涙が溢れている。

 しばらく見つめ合うと、アメリアさんが感慨深げにため息を漏らした。

「目はあの人そっくり。鼻は私に似ているかしら。口元はエイミーと一緒ね。痩せるとこんなにも変わるのね。それに相当訓練しているでしょう? 三年生とは思えない魔力の循環よ」
「素晴らしい師匠にご指導していただいております」
「お礼をしなければなりませんね」
「あそこにいるじいさんが師匠です、お母様」
「あら、ご一緒下さっているのね」

 そう言ってエリィ・ゴールデンは、白魚のように長く綺麗な指をエイミーの背後へ向けた。
 じいさんが、エイミーの尻へ熱い視線を注いでいた。いつの間に復活?!

「凄い魔法使いなんですけど……スケベです」
「……それは」
「お礼はしなくていいです。どうせ誰かのお尻を触りますから」

 残念なものを見る目で、エリィ・ゴールデンとアメリアさんがじいさんを見つめる。
 エイミーは尻をガン見されていることに気づいていないのか、こちらの視線に合わせて、人懐っこく目を開いて口元をすぼめた。

「うむ。いい尻じゃ。うむっ」

 あのじいさんがエリィ・ゴールデンの師匠?
 強そうには見えねえけど。

「そんなに強いのか?」
「そうね。全員で挑んでも勝てないわね」
「ま、まじか?!」
「スルメなんか一瞬で干物にされるわよ」
「てめっ、うるせえよ! すでに名前が干物じゃねえかよ!」
「すっかり浸透しているようで名付け親としても嬉しいわ」
「誰が名付け親だよ誰がッ!」
「私よ、わたし」
「そうか、おめえか」

 確かに名付けた奴はエリィ・ゴールデンだった。
 ってちげえ。

「って何かそれっぽい雰囲気にしてっけどオレは認めてねえからな!」
「スルメ。いいじゃないスルメ。憶えやすいじゃないスルメ」
「連呼すんなボケ!」
「レディにボケとは頂けないわね」
「頂けっ! 頂いちまえ!」
「エリィちゃん、きちんと話すのは初めてだよね。私、エイミーの親友、サツキ・ヤナギハラです」

 オレ達のやりとりが終わらないと思ったのか、サツキが割って入ってきて、エリィの両手を握った。

「いつも姉がお世話になっています」
「か、かわいい………くっ………!」

 サツキ。なんでおめえは悔しげな顔してんだよ。
 つーかオレを睨むな。意味がわからん。

「あー、ちょっといいか?」

 あぐらをかいて会話を聞いていたガルガインが、彫りの深い顔に困惑を貼りつけ、右手を挙げた。

「会話のやりとりから察するに……そこのツインテールの美人が、エリィ・ゴールデンか?」
「美人なんて……まあ」
「おいスルメ。これは冗談じゃないんだよな?」
「あん? オレだって信じられねえよ」
「ま、まじなのか?」
「マジらしい」
「ほ、ほんとうに?」
「ああ」

 ガルガインは柄にもなく狼狽えて、ずりずりと地面を擦りつつ後ずさりした。

「し、信じられねえ……」

 愕然とし、ガルガインはエリィ・ゴールデンの姿を穴が開くほど見つめる。

「別人じゃねえか………ペッ」

 自身の許容量をオーバーしたのか、ガルガインが前方へ目を向けたまま完全に停止した。
 顔の前で手を振ってもなんの反応もしねえ。

 すると、邪竜蛇の生首を撮り終えたテンメイが猛ダッシュで合流し、何か知らんけどエリィ・ゴールデンの前に跪いた。

「んああああっ! なんんんということだ! 婉美の神クノーレリルが霞んでしまうほど神々しく、そして戦いの神パリオポテスの如く真っ直ぐな瞳っ! あなたはまさか?!」
「あらテンメイ。私よ」

 テンメイは、神託を受けて大げさな振る舞いをするアホな神官みてえに、呆けた顔を作って、両手を広げた。

「その声は…………我が愛する内なる妖精、エリィ嬢っ!」
「さすがテンメイ。よくわかったわね」
「この私が敬愛するエリィ嬢を見分けられないとでも? ああっ。数多の男達が海の藻屑になった魔海の如く深い瞳! その瞳はもはやチューベンハイムに集まる狂乱者が、手斧を一心不乱に振るい、生と死をわかつ黄泉の世界へ旅立たんがための饗宴と同義!」

 テンメイがピーチクパーチクやり始めた。クッソうるせえ。

「嫉妬の神ティランシルが妬むことすら忘れ、恋慕の神ベビールビルが恋に落とせずフォーリンラブ。偽りの神ワシャシールがエリィ嬢の前では真実を語り、契りの神ディアゴイスが最愛の妻との約束を破ってあなたを逢瀬に誘う。なんということだ! なんんんんんんんということだっ!」
「あ、あの、テンメイ……?」

 困惑するエリィ・ゴールデンを余所に、テンメイはそっと彼女の手を握り、押し頂いた。

「会いたかった! 会いたかった! どれほどエリィ嬢に会いたかったか! 俺の一生に彩りを与えてくれた我が運命の女神よ! よかった! 無事でよかった! しかもこんなに美しくなって! うおおおおおおおおおおおおおっ!」

 テンメイ、号泣。
 顔中から色んな汁が噴き出ている。

「ちょ、ちょっと。あなたって本当に大げさね」
「これが大げさなものか! エリィ嬢に会わなければ俺の青春は灰色のままだった! 己の臓物を偽りの神ワシャシールに差し出してでも、あなたに会いたかった!」
「テンメイ……」

 テンメイ興奮しすぎだろ。

「さあエリィ嬢、グレイフナーへ帰ろうじゃないか! そしてまた新しい青春の一ページを共に刻もう!」
「ええ、そうね! 青春一直線よ!」
「えいえいおーっ!」

 テンメイが空に向かって指をさし、エリィ・ゴールデンが拳を上げ、エイミーが変なかけ声を嬉しそうに叫んだ。
 サツキとアメリアさん、やけに可愛くなったアリアナが微笑ましく三人を見ている。
 エリィ・ゴールデンの師匠らしきじいさんは、ひたすらエイミーの尻を見ていた。

「いよっしゃあああああっ!」

 とりあえずやけっぱちでオレも叫んでおいた。
 まあ、無事にエリィ・ゴールデンとアリアナ・グランティーノに合流できたし、良しとしておこうじゃねえか。こいつが目玉の飛び出るぐらいの美人になったのは、慣れるっきゃねえ。
 もうどうにでもなれ。まじで。

 その声で、ジョン・ボーンさんが目を覚ましたのか、むくりと起き上がった。
 特徴のない顔で全員を見ると、神妙な顔つきになり、エリィ・ゴールデンを見つめた。

「あなたは、女神デスカ……?」

 エリィ・ゴールデンがちょっと困った顔をすると、ジョン・ボーンさんが神妙な面持ちで三度うなずき、居住まい正す。

「白魔法中級を杖なし詠唱とは……脱帽デス」
「白魔法中級ですって?!」
「うそ……!!」
「へえ~」
「やばぁっ!」

 アメリアさんが驚愕し、サツキが衝撃を受け、エイミーがすっとぼけている。
 ガルガインのボケチンは放心したままだ。

 まじか。まじなのか。
 白魔法を中級まで使えるって、だいぶ先越されてるじゃねえか。

「頑張って憶えたのよ。あと、浄化魔法も使えるわ」

 エリィ・ゴールデンは胸を張って、笑顔になる。アリアナが無表情を幾分か誇らしげにし、こちらを見た。

「じょ、浄化魔法?!」
「ええええっ!」
「すごいねぇ」
「うそぉっ!?」

 うそだろ?!
 さすがのアメリアさんも信じられないのか、普段からは考えられない大声を上げた。サツキはさらに驚き、エイミーは嬉しそうにエリィ・ゴールデンに飛び付いた。
 いやいや、浄化魔法はやべぇよ。
 グレイフナーの白魔法使いでも使用できる人間はほんの一握りだ。それが使えるってだけで、休みがねえぐらい引っ張りだこになる。冠婚葬祭で浄化魔法があると箔が付くからな。何人いても浄化魔法使用者は足りねえ。

「それから、邪竜蛇を倒した魔法は光線魔法じゃないからね?」

 エリィ・ゴールデンは抱きついたエイミーと離れ、手を握ったまま囁いた。

「姉様、アレよ、アレ」
「アレ?」

 きょとん、としたエイミーは、合点がいったのかすぐに「ああ~」と大きくうなずいて、ぽんと手を叩いた。

「落雷魔法ね! すごい音だったもん!」
「そうそう。ということで、さっき使ったのは落雷魔法です」
「エリィ、冗談はおよしなさい。伝説の複合魔法を使えるはずがないわ。白魔法中級、しかも浄化魔法まで唱えられると聞いて、お母さんは充分鼻が高いのよ。よく頑張ったわ。お説教をなしにしてもいいぐらいよ」
「ありがとうございますお母様。でも、本当に使えるんです。……今まで黙っていてごめんなさい」
「何を――」

 アメリアさんが口を開こうとしたところで、エリィ・ゴールデンは魔力を練り、「“落雷サンダーボルト”」と呟いた。

 バリバリバリッ―――
 ズドォン!

 一筋の閃光が雷音を響かせ、地面を破壊した。

「………」
「………」
「………」
「………」
「やっぱりカッコいいねぇ」

 アメリアさん、サツキ、ジョン・ボーンさん、オレは、あまりの驚きで完全に思考が停止し、ひとりエイミーが気の抜けた声を発する。
 シャッターチャンスを伺っていたテンメイが「サンダァァァボルッ!」と叫んで、無駄に写真を撮った。
 ガルガインはそれを見て、顎が外れるぐらい口を開いた。
 アリアナは無表情でエリィ・ゴールデンにぴたりとくっつき、師匠らしきじいさんはエイミーとサツキの尻を交互に見ている。
 遠くのほうから「見たまへ諸君っ! このぶぉくが邪竜蛇をっ!」と、バカの声がうっすら聞こえる。

「これが“落雷サンダーボルト”ね。邪竜蛇を倒した魔法は落雷魔法を改良したオリジナル、“極落雷ライトニングボルト”よ」

 カワイ子ちゃんになったエリィ・ゴールデンが薔薇が咲くみてえに、にっこりと笑みを浮かべた。

 知らねえうちにカワイくなり、白魔法中級を唱えられ、しかも伝説の落雷魔法まで唱えられる、元おデブお嬢様。
 いや、まじで意味わかんねえよ……。

 よく分からないまま、腰砕けになり、オレは淡い敗北感を抱いて、地面に膝をついた。
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以下、ご報告と近況になります。


エリィ&小橋川とスルメ、やっと合流できました・・・。
長かったぁ。無事に合流まで書けてほっとしております。
皆さまも見たいシーンだったと思うので、楽しんで頂けたならば幸いです。

ストーリーとしても節目になりますね。
そんなところで、皆さまにご報告がございます。

なんと「エリィ・ゴールデン」書籍化決定です!!!!!

ネット小説大賞の受賞作品として書籍化が決まりました。
ガセじゃないですよ! 皆さん、ガセじゃないです!
あのおデブ時代のエリィちゃんが絵師様の手によって挿絵になります!
ハラハラ、ドキドキのむっちむちですよ皆さん!
大丈夫なのか?! 大丈夫なのかっ?!

これもひとえに、本作品を読んで下さっている読者皆様のお力添えのおかげでございます。
思えば学生時代に小説を好きになり、書き始めてからかなりの時間が経ちました。とある小説と、とある映画の影響を受け、自分も誰かに元気や楽しさを提供できるようになりたい、と思ったことが書くきっかけです。SF(少し不思議)系が好きで、ずっと学園ものを書いていた日々が懐かしいです。

ご意見やメッセ、挿絵などを頂き、皆さまにパワーを頂いてここまでこれました。深く御礼申し上げます。
誠にありがとうございます!
どれくらい感謝申し上げているかといいますと、上半身裸にジャケットを着込んで、足元は素足の純一スタイル。前宙しながらあるある探検隊、そのあとゲッツしてからのスライディング土下座。それほどに感謝しております!

エリィ「あなたってホント、シリアスになりきれないわね」
アリアナ「早く続き書いて……」

あいすいません。申し訳ございません。

スルメ「書籍化やべえええええ」
亜麻クソ「このぶぉくのおかげさっ(ズビシィッ)」

現在、急ピッチで書籍化作業が進んでおります。
内容も若干の変更がある予定ですので、詳細は追って報告致しますね。
お暇な方は、六月からコメントできる、ネット小説大賞応援コメントなるものがございますので、メッセージを頂けると幸いです。

まだまだエリィ&小橋川の冒険は続きます。
ファンタジー5・ギャグ3・イケメン1・可愛いエリィちゃん1の割合でお送りする本作ですが、ネット上でのダイジェスト等はない予定ですのでご安心下さい。
長文にて失礼致しました。
今後ともご愛読の程、何卒よろしくお願い申し上げます!
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