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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第34話 スルメの冒険・その5

 グレイフナーの国境を越えて、オレ達は『青湖せいこ』と呼ばれる有名な観光地へと足を踏み入れた。
 でも観光するわけじゃねえ。
 一刻も早く『砂漠の国サンディ』へ行くのがオレ達の目的だ。

 アメリアさんが手配していたゴールデン家の船を見つけ、ミスしたらタダじゃおかねえぞ、と言わんばかりの空恐ろしい眼力を下っ端へ飛ばしまくる。
てきぱきと対岸へと向かう準備が完了すると、バカでかい『青湖』を渡航するため、船に乗り込んだ。
 船はまあまあの大きさで、帆も立派。
 乗組員は風属性の魔法使いが順繰りに帆へ風を送る。
 風魔法の繊細な操作と、持久力が重要だ。

 オレには無理。
 細けえことは苦手だ。

 そんなことを考えつつ海を眺めていたら、横でテンメイが三脚にカメラを置いて大声を上げた。

「ああ、何て美しいんだろうスルメ君! 見てくれあの水辺を飛び跳ねるサンショウトビウオの群れを! 水面が恋慕の神ベビールビルの口づけのように揺れて、水しぶきが甘い誘惑を撒き散らすグーデンモールのサキュバスのようじゃないか!」
「ああ? 魚がぴちぴち跳ねてんな。食えんのかアレ?」
「ウォォタァプルゥゥゥゥフ!」
「うるせ! おめえ耳元で叫ぶんじゃねえよ!」

 オレの言葉なんて全く聞かず、写真家のテンメイが水面に向かってシャッターを切った。そしてカメラを三脚でおっ立てたまま素早い動作でデッキの手すりに両手をつけ、ずんぐりむっくりした身体を伸ばし、頭を水面へと下げた。

「オロロロロロロロロロロロロロ」
「ぎゃあああ! また吐きやがった!」
「ロロロロロロロロ」
「まじ汚ねえクッソ汚ねえ! 顔にちょっとかかっちまったじゃねえか!」

 船酔いしまくるテンメイが吐くこと十数回。
 叫び声を聞いて、ぱたぱたと甲板をエイミーが走ってくる。でけえ胸がそりゃもうこれでもかってほどに揺れる。やべえなアレ。

「大丈夫テンメイ君?」
「ああ…申し訳ない…。どうにもすぐに酔ってしまう体質で…」
「船の錨をおろし、ヨーソレヨーソレ俺たちゃ唄う…“船妖精の釣床(シーシックハンモック)”」

 エイミーが杖を取り出して流れるように詠唱する。
 垂れ目が真剣に閉じて杖が掲げられると、緑色のツタがテンメイに絡みつき、ハンモックの形に変形して宙に浮いた。テンメイの頭と足から生えるツタが甲板にしっかりと根を生やし、支柱になっている。

 これもう五回目だからな。
 まじクッソいい加減にしてくれ。

 つーかエイミーの木魔法、なにげに中級だから。
 どんだけ才能あんだよ。
 状態異常回復の魔法はリアルに習得がむずい。『酒酔い』『船酔い』『魔力酔い』の三大酔いを完全除去できるのはいずれも木魔法中級“酒嫌いの清脈妖精(クリアウォーター)”、“船妖精の釣床(シーシックハンモック)”、“微笑みの七色妖精(レインボースマイル)”の三種類だ。

 どれか一つでもできりゃ、一生食いっぱぐれることはねえ。
 なんたって完全除去だからな。グレイフナーの大貴族なら三大酔いの除去魔法が使える魔法使いを必ず雇用している。うちの家でもオヤジがクソ酒飲みだから、たけえ金払って“酒嫌いの清脈妖精(クリアウォーター)”を使える魔法使いを雇ってるぐれえだ。
 状態緩和の魔法なら下位上級、上位下級にもいくつかあるが、習得難易度がちげえんだよな。
 この魔法、冒険者ランクでいうならAランク級の難しさだ。
 ちなみに、“船妖精の釣床(シーシックハンモック)”は船酔いだけじゃなく乗り物酔い全般に効果があるため、様々な場所で重宝される。まあ一番酔いがキツイ船酔いに効きゃあ他の馬車酔いとかにも効くわな。

 あとヤベエのは白魔法。
 白魔法中級“加護の光”でも完全除去までいかないにしろ、相当の状態緩和が見込める。つーか白魔法の汎用性の高さが異常。出来たら一生食いっぱぐれないどころか豪邸が建つぜ。まじで。光魔法クラスの担任のハルシューゲ先生でも白魔法の下級が限度らしいからな。
 同行してくれているシールドのジョン・ボーンさん、しょぼい顔してんのに白魔法下級が使えるからやべえ。身体強化も得意らしいし。いやーやっぱシールド尊敬するぜ。

 テンメイが露骨に顔を赤くして、ツタのハンモックに揺られながらエイミーに礼を言っている。誰がどう見ても惚れてやがる。
 惚れる気持ちは分かる。美人でちょいとヌケてるところがあるが、そこをひっくるめて可愛いし、スタイルいいし、めっちゃいい匂いするし。まあオレはサツキの方が断然好みだけどな。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 船尾から叫び声が聞こえた。
 なんだ?
 オレとエイミーは顔を見合わせ、“船妖精の釣床(シーシックハンモック)”に揺られるテンメイを置いてそちらへ向かう。

「魔力を循環させないと死ぬわよ!」
「だばばばばばばばっ」

 おおう。これはひでえ。

 亜麻クソが両手を縛られて船尾から伸びるロープにくくりつけられ、水面を疾走している。
 ロープの長さが十メートルほどあるのと、船体が相当なスピードで走っているため、亜麻クソは湖の水面で尻を跳ねさせ、市中引き回しの刑みてえに引っ張られていた。うっとおしい前髪が水しぶきで顔に張りつき、顔にはいつもの余裕がない。そらそうだ。

「弱音を吐いたらその時点で放り出すわ!」
「吐いてまぜぇん!」
「よろしい!」
「この……ぶぉくが…これしきのことで………弱音を吐くだばばばばばば」

 カッコつけようとして亜麻クソが沈んだ。

「“爆発エクスプロージョン”!」

 水中で小規模の爆発が起こり、ドグワッという音がして亜麻クソが浮上する。

「両足で水面を捕まえるのよ! すかさず魔力循環!」
「だばぁっ!」

 この訓練、オレ達のときよりもキツイんじゃね?

「死ぬか魔力循環させるかどっちかよ!」
「だばぁっ!」

 船の針路にサンショウトビウオの群れがいたのか、足を使えと言われているのに尻で水面を滑る亜麻クソの周囲を小馬鹿にするように、跳ねては潜り、跳ねては潜りを繰り返す。体長約二十センチ、ヒレが翼の形になっているサンショウトビウオが海から飛び出し、亜麻クソをわざと跳び越えるように空中で弧を描く姿は、笑っちゃいけねえと思うが腹の底から込み上げてくるもんがあった。

「あら二人とも、課題は終わったの?」
「ええお母様。それより…」

 バルコニーで茶を飲んでいるかのような優雅な仕草でアメリアさんがこちらを振り返る。
 現に、甲板の上にソファー持ってこさせて紅茶飲んでるんだけどな。
 しかもシールドのジョン・ボーンさんに給仕させてるし。

 エイミーがさすがにやりすぎでは、という目線を亜麻クソに向けていることに気づき、アメリアさんはこくりと頷いた。

「これはシールドでも伝統的な魔力循環法『水面滑走』よ。落第騎士に施す強制訓練で、この方法で身体強化が上達しなければシールドを除隊になるわ」
「そ、そうなんですね」
「物騒なことを言っているけど死んだりはしないから安心なさい」
「ああ…よかったぁ」

 誰にでも分け隔てなく優しさをみせるエイミーを、愛おしそうにアメリアさんは目を細めて眺めた。
 その後ろでは亜麻クソが「だばぁ!」と叫びながら身体を丸め、器用に尻でくるくると水面を弾きながら滑走している。いい雰囲気がぶち壊しだ。

「亜麻クソ君、根性みせなさーい!」
「ひでえなこりゃ!」

 いつの間にか様子を見に来ていたサツキが右腕を振って声援を送り、サツキと一緒に来たらしいガルガインがこの訓練法を恐ろしげな顔で見て叫ぶ。

「がんばって~!」

 エイミーが船尾の手すりに手を掛けて大きな声を上げる。

 美人な女子二人の声援を受け、女好きの亜麻クソは気合いを入れたのか、猛スピードで走る水面へ両足をつける。
 両足から水しぶきが舞い、亜麻クソを押し戻そうとする。
 何度も水の抵抗を受けた亜麻クソだが、ぷるぷると両足を震わせながらロープにしがみつき、ゆっくりと立ち上がった。

 思わずオレ達は「おおっ!」という歓声を上げた。

 それに気をよくした亜麻クソは、ロープから片手を放して、濡れた髪をうっとうしい仕草でかき上げ、ズビシィという音が鳴りそうな気障ったらしい動作で天空を指さした。

「魔力を循環させなさい!」
「カッコいいよ亜麻クソ君!」
「いいわよその調子!」

 アメリアさんの檄が飛び、エイミーが嬉しそうに叫び、サツキが楽しそうに笑いながら両手を叩く。
 オレとガルガインもいいぞいいぞ、と囃し立てた。
 根性みせながらふざける奴は嫌いじゃねえ。

 だが、船と同じ進行方向に向かって跳ねていたサンショウトビウオが、亜麻クソの腰に当たった。
 軽く触れる程度だったが水面でバランスを取っていた両足を崩すには十分だったらしい。

「みたまえ諸君ッ! このぶぉくの華麗なるウォーターダンスぱびゃらぶばっば!」

 盛大に亜麻クソがコケた。
 水しぶきを上げて水面に何度も叩きつけられる。
 何度か変なポーズを空中で取ると、亜麻クソは初期状態の水面を尻でくるくる回る走法に戻った。

「ぎゃーっはっはっはっはっはっはっは!」
「ぶわーっはっはっはっはっはっはっは!」
「バカだ! あそこにバカがいる!」
「調子こいてコケてやがる!」

 悔しいが、オレとガルガインは腹をかかえて笑った。

「センチメンタルジャァニィィィィッ!」

 そこをカメラを抱えたテンメイがスライディングの要領で滑り込んでシャッターを切った。なぜこのタイミングなのか、さっぱりわからねえ。
 つーかいきなり叫ぶのやめてくれ。普通にビビる。
 船酔いが治ったらしいテンメイは満足げにカメラを持って起き上がり、現像される写真へ目を落とした。

「見てみるかい?」

 そう言われ、オレ、ガルガイン、エイミー、サツキは顔を寄せ、写真用紙を覗き込んだ。そういやエリィ・ゴールデンはこの用紙の大きさをA4サイズと呼んでいたな。

 だんだんと写真に映像が浮かび上がってくる。
 写真用紙に鮮やかな色がついた。

 写真の右端にはソファに座って紅茶を飲むアメリアさんと、その後ろに控える色黒のジョン・ボーンさん。船尾の手すりで亜麻クソに声援を送る金髪のエイミーと黒髪のサツキ。その脇で腹を抱えているオレとガルガイン。青空の下で水しぶきを上げながら飛び跳ねるサンショウトビウオの群れが太陽の光できらめき、その真ん中には尻で滑走している亜麻クソのドヤ顔があった。
 写真のことはさっぱりわかんねえけど、何かやたらと楽しげな光景だと思った。

 そしてテンメイがでかい声で何やらしゃべり出した。

「素晴らしい写真だ! そう、まるでライラックの木の下で再会の誓いをした妖精王バイクリマ・クリスティンとジプシー族の姫シャーライカ・ホライズンの美しくも青い春を彷彿とさせるプラトニックな清涼感あふれる思ひでの一ページ! 僕らがこの湖で刻む青春の一ペ―――」

 そこまでまくし立てると、テンメイは船尾まで走って手すりにつかまり、上半身を乗り出して――

「オロロロロロロロロロロロロロロ!」

 またしても吐いた。
 全員が悲鳴を上げ、大海原に撒き散らされた物体をサンショウトビウオが軽々とよけていく。亜麻クソも水面尻滑走で緊急回避していた。


 いや、酔うならじっとしてろよ、まじで。


   ○


 青湖を三日で抜けたオレ達は、湖の国と言われる『メソッド』に入った。

 メソッドはグレイフナー王国の四分の一程度の国土を保有している。
 北側が自由国境に面しているため、魔物の侵入を防ぐ防衛ラインが構築されており、必然的に優秀で実戦に長けた魔法使いが多数いるらしい。四年に一度『大モミジ狩り』と銘打った魔物狩りをグレイフナーと共同で行うのは有名な話だ。

 グレイフナーとメソッドは四百年前から同盟関係にあり、結束は固い。

 お国柄なのか歴史的なのかは不明だが、身体強化よりも魔法技術に重きを置く傾向があるみてえだ。
 数年前、恋人をめぐって行われたパリオポテスの決闘では、数々の著書を残したメソッドの大魔法使いグレモン・グレゴリウスとグレイフナーの拳闘士ガッツ・レベリオンが戦い、魔法の手数でグレモン・グレゴリウスが勝利した。
 この決闘のせいで“身体強化重視”と“魔法技術重視”のどちらが強ええのか、という昔からの議論が再熱したのはオレ達でも知っている。つーかオヤジが暑苦しく語ってきてまじでウザかった。

「不思議な町並みね」
「ああ、そうだな」

 オレとサツキは旅館のベランダからメソッド一番の観光都市『ロロ』を見下ろしていた。

 等間隔に大木が植えられ、木と木にはロープが張られており、提灯ランタンとかいう色とりどりの照明器具がいくつもぶら下がっていた。
 大通りには商売熱心な食い物屋が並んでいて、誰でもすぐ物が食えるように屋台形式になっている。この国の連中はひらひらした布を身につけていて、腰に帯を巻いてずり落ちないようにしていた。水辺に町があるからそういった服装をすれば湿度がうんぬんとテンメイが言っていた気がする。すんげえどうでもいい。

 それよりおもしれえのが、ここの商人は金を貰う際に、くるりと一回転することだ。
 回るとひらひらした服が広がって踊り子みてえになるんだよな。

「あ、また買ったわ」

 サツキが嬉しそうに眼下に見える肉屋を指さした。
 太った男の商人が「まいど!」と言いながら華麗に一回転する。どうしてあんなエリィ・ゴールデンぐらいのデブが軸をぶらさず回れるのかがオレには不思議だった。
 ってこんなことあいつに言ったらビンタされるな。こええこええ。

「みんなが戻ってきたら私たちも買いに行きましょう」

 ちょっとばかし遠くを見れば、湖に浮かぶ小舟の光が蛍火みてえにふらふらと浮かんでいる様子が見える。

「スルメ、聞いてるの?」
「聞いてる。つーかおめえ食い意地張りすぎだろ」
「そ、そんなことないわよ!」

 そう言ってサツキはむっとした顔を作った。
 きりりと引き締まった眉がへの字に曲がっている。ぬめるような艶のある黒髪が提灯ランタンの光をうっすらと反射させていた。

「それから――誰がスルメだよ誰がっ。呼び方が浸透しすぎだろまじで」
「本名を忘れたわ」
「うぉい!」
「冗談っ」

 ふふふ、と笑うサツキは結構ジョークが好きらしい。
 道中でエイミーをからかっている姿を見かけるしな。

「ったくよ…。エリィ・ゴールデンに会ったらぜってー文句言ってやろ」
「エリィちゃん、あまり話したことがないんだけど、面白い子なんでしょう?」
「おもしれえ、っていうかぶっ飛んでるな」
「どの辺が?」
「訳わかんねえあだ名つけるし、気づいたら意味不明な雑誌とかいう本作ってるし。あいつに振り回されてる奴は結構多いぞ」

 まあ振り回される連中はみんな嬉しそうなんだけどな。
 うちの弟、黒ブライアンとかいうふざけたあだ名つけられて、今じゃ満更でもねえ顔してっから。

「あのファッション雑誌、革新的だよね」
「さあ、オレにはさっぱりわかんねえ」
「防御力以外にも大事なものがあるんだって言っている女の子は多いのよ。エイミーの特大ポスターを見てそれに気づかされたって人は新しい服を受け入れているみたいね」
「ふぅん。まあ、おめえ美人だから何でも似合うだろ」
「……そうでしょう」

 一瞬驚いた顔をしてうつむいてから、サツキは胸を張って腰に手を当てた。
 なんか顔がニヤついてやがる。

「エリィ・ゴールデンに会ったら何か頼んで作ってもらえばいいんじゃね? エイミーとアメリアさんは作ってもらったらしいぞ」
「それいいわね! スルメにしてはいいアイデア! スルメにしては!」
「うるせっ」
「どんな服がいいと思う?」
「はあ? どんなって言われてもな」

 そう言われてオレはサツキをまじまじと眺める。
 ベランダの手すりに寄りかかったこいつは、黒髪を撫でながらオレに向き直った。

 思わず触りたくなるような美しい黒髪と、意志の強そうな眉。大きめの口は自信ありげで、口角が上がっている。茶色の瞳はテンメイいわく、宝石クレレシオンのようだ、という話だがよくわからねえ。とりあえずオレの目にはやたらと綺麗に映る。

 どう? と聞いてくるようにサツキが首を傾げた。
 なんでもいいんじゃね、と言ったら怒りそうだ。

「この国の服とか似合いそうだな」

 あのひらひらした布を合わせている服とサツキの黒髪は合いそうだった。

「そうかな?」

 そういってくるりと一回転して、サツキは楽しげに笑った。

「まいど」

 商人の真似らしい。
 腰まで伸びた艶のある直毛が、扇子を広げたようにゆったりと宙を舞った。
 サツキの黒髪が提灯ランタンの光を浴びると、ここがさながら別世界みてえに見え、あまりの美しさに一瞬、見惚ちまった。
 あわててオレは湖の方向を見つめて誤魔化す。

「へいへい、まいどまいど」
「ちょっとー、もう少しいい反応してよー」
「しねえよ」
「いい男なら、妖精のようだよサツキさんは、って言うのよ」
「誰言うかよそんなこと、誰が」

 まあな。


―――ぶっちゃけ、今ので惚れたわ。


 オレの反応が芳しくないせいかため息を漏らし、サツキは再び眼下に顔を向けた。
 そして買い出しをしている旅のメンバーを見つけて手を振っている。

 ったく、年上なんだか年下なんだかわかんねえ奴だな。
 仕方ねえから、なんかあったらオレが守ってやるか。

 本人にはそんなクセぇセリフ言えねえけど。
 小っ恥ずかしいから。

 それからあれだ。エリィ・ゴールデンに会ったらモテる方法と女を口説くコツを教えてもらうか。サツキに惚れたってことは…あいつになら言っても問題ないだろう。何だかんだ義理堅い奴だし。
 やっぱ当面の目標はサツキより強くなることだなァ。
 惚れた女より弱いとかワイルド家の名折れだろ。
 あいつは才能があるからな、引き締めてかからねえと追いつけねえ。


   ○


 メソッド一番の観光都市ロロを出たオレ達は、予定通りに旅の行程を進み、ついに問題の『旧街道』に辿り着いた。
 喜んだのは亜麻クソだ。
 奴は旧街道に着くまでランニングしながら寝ずの魔力循環を行っていた。ついた途端にぶっ倒れてグースカ寝始めた。四徹してっから無理もねえ。
 正直、ここまで弱音を吐かない根性があることにオレとガルガインは驚いていた。

 『旧街道』の入り口は物々しい雰囲気だ。
 百五十年前までは街道の機能を発揮していた『旧街道』はじわじわ広がる魔物の活動範囲に浸食され、今では危険度がめっちゃ高い街道になっている。レンガが敷き詰められた道は長年管理していないせいで風化しているみてえだ。
 入り口には三重に渡って木魔法下級“樹木の城壁(ティンバーウォール)”が張り巡らされていた。メソッドの兵士が街道から魔物が入ってこないように目を光らせている。

「ごきげんよう。わたくしグレイフナー王国、ゴールデン家当主ハワードの妻、アメリア・ゴールデンと申します」

 そう言って門番に向かって流麗なレディの礼を取るアメリアさん。
 無骨な皮の鎧を着た兵士が一瞬怪訝な表情をしたが、アメリアさんの尋常でない雰囲気を察して敬礼した。

「はっ! お疲れ様でございます!」
「通達があったはずです。ご確認を」
「かしこまりました。おい!」

 迅速にやれよ、という圧力を込めたアメリアさんの視線が走る。
 近くにいた魔法防御力の高いシルバープレートを付けた隊長らしき兵士が冷や汗を垂らして大声でよばわると、すぐさま兵士二人が詰め所へ駆けていく。一分も経たないうちに戻ってきた。

「確かに通行通知書がグレイフナーから届いております!」
「良し。門を開けろ!」

 “樹木の城壁(ティンバーウォール)”に折り重なるようにして作られた巨大な鉄門がギシギシと音を立てながら上へと持ち上がっていく。三つの門が開くと、だだっ広い草原に真っ直ぐ伸びる一筋の街道が全貌をあらわにした。
 延々と草原の向こうへ街道が続いている。

「アメリア殿……失礼とは存じますが、メンバーはこれだけですか?」

 隊長らしいシルバープレートが念のため、といった口調で声を掛ける。

「ええ」
「しかしだいぶ若いようですが…」
「問題ありません。私とジョンは冒険者協会定期試験Aランク。黒髪の女の子はBランク。他の子達は全員Cランクです」

 ぴしゃりとそう言い、時間が惜しいといった様子でアメリアさんはジョン・ボーンさんに馬車を出すように促す。
 てめえ余計なこと言ってんじゃねえよ、とアメリアさんが今にもエクスプロージョンしそうな眼力をシルバープレートへ向けた。

 正直、玉が縮み上がった。まじで。

 ガルガインのスカタンは何がおもしれえのかニヤリと笑ってアイアンハンマーを担ぎ直し、その横でエイミーはあわあわと狼狽えている。サツキはさすが名門ヤナギハラ家の娘といった堂々とした佇まいで興味深げに鉄門を見ており、馬車の後ろでテンメイが今か今かとシャッターチャンスを狙っていた。亜麻クソは馬車で爆睡だ。
 オレはとりあえず兵士達に舐められねえようにガンを飛ばしておいた。

「し、失礼致しました!」

 シルバープレートとその場にいた兵士達が即座に敬礼した。

「ご苦労様」

 アメリアさんが優雅にねぎらいの言葉をかけ、馬車がゴトゴトと進みはじめた。
 いよいよ旧街道か。そう思うといやおうにも気持ちか高ぶってくる。

「来たな、ここまで。ペッ」
「ああ」

 ガルガインの言葉にうなずいて、オレは生唾を飲み込んで鉄門をくぐった。


   ○


 足を踏み入れた『旧街道』はCランクの魔物が頻繁に出現した。
 逆をいえば、Cランクより下の魔物は現れねえ。

 というのも、街道に使用されているレンガには、魔物除け効果のある“魔頁岩石”と、魔物が嫌う臭いを発する樹木“金木犀キンモクセイ”が練り込まれており、低ランクの魔物は近づいてこれねえ。
 メソッドとサンディの交易が盛んだった時代に相当の金をかけてこの街道が作られた、とアメリアさんが教えてくれた。また、“魔頁岩石”と“金木犀キンモクセイ”は冒険者や旅をする者には絶対に必要な知識のため、見分け方も伝授してくれる。いざというとき自分たちで採取して、即席の魔物除けを作れるからだ。何でも知ってるアメリアさんカッケー。

 低ランクの魔物は現れないため出現種類が限られ、対処しやすいといえばしやすい。

 オレ達はジョン・ボーンさん、サツキをメインにした陣形で街道を進んでいく。
 アメリアさんは監督役、ということで一切戦闘には参加してくれない。本当にやべえ――死ぬレベルのときだけ手助けしてくれるそうだ。

 ジョン・ボーンさんが戦いに参加してくれるから、死ぬレベルってAランクの魔物ぐらいじゃね?
 つーかAランクの魔物といわれたら真っ先にボーンリザードを思い出す。
 まあ、Aランクモンスターなんて滅多に出て来ないから大丈夫だろう。

 無口なジョン・ボーンさんが「アメリアさんなら一人で旧街道、歩けマス」と言っていた。やべえ。

 『旧街道』に入って四日間で、Cランクの魔物、トリニティドッグ、ガノガ猿、蛇モグラ、魔式コウモリ、ジャコウオオカミ、魔火鳥、の六種の魔物が現れた。Bランクは、ガノガ猿・長牙種が一度だけ。
 アメリアさんの訓練前のオレ達だったら、一匹にも勝てなかっただろう。
つーかBランクを全員で協力して倒せるようになっててまじ感動した。オレ達めっちゃ強くなったよなー。思えば身体強化もできなかったし、火魔法の上級を連射でぶっ放すなんてありえなかった。
 なんかさっきAランク無理、とか思ったけど相性がよけりゃ倒せる気がすんな。

 あと重要なのは野営だ。
 この『旧街道』には休憩地点が五つ存在している。
 人々の往来が激しかった時代に作られた、魔除けの“金木犀キンモクセイ”を大量に植林したキャンプ場が風化しているものの、まだ使用できる状態で残っている。さすがの魔物も、レンガに練り込まれて効力が弱くなった“金木犀キンモクセイ”ではなく、モノホンの“金木犀キンモクセイ”がビンビンに香りをばらまく場所へは侵入してこない。魔物にとって“金木犀キンモクセイ”の匂いは相当キツく感じる、というのが通説だ。全部、テンメイ談。

 問題は休憩地点以外で野営をする場合な。
 なんの対策もせずにテントを張ったら魔物に襲われちまう。

 そこでめっちゃ役に立つのがエイミーの木魔法だ。
 正直、木魔法は地味、と思っていたが、この旅で大いにオレは意見を変えざるを得なかった。木魔法便利すぎ。オヤジが冒険すんなら白魔法使いと木魔法使いはぜってぇパーティーに欲しい、と言っていた理由がよくわかる。

 野営では木魔法中級“精霊の鎮魂歌(シルキーレクイエム)”って魔法が非常に有用で、見た目には、ただ白っぽい木がにょきっと生えて葉っぱを揺らすだけなんだが、コレ、持続系の魔法で魔物の耳にだけ聞こえる嫌な音を出す効果がある。
 この木が生えている限りは大概の魔物は近づいてこない。
 下級にも同じ効果のある魔法があって、そっちでも効果は十分らしい。

 加えてアメリアさんの炎魔法下級“罠炎フレアトラップ”。
 遠隔操作系の魔法で、発動条件を術者が指定できる。今回は地中に魔法を隠しておき、魔物が通ったら襲いかかる設定にしたらしい。弱点は詠唱に時間がかかることと、微弱な魔力を常に流しこまねえと魔法が消えることだ。
それをアメリアさんは半径二十メートルの円形に張り巡らし、八時間持続させるんだから空恐ろしい。どんだけ魔力効率がいいんだよ。やべえぜ。


   ○


 野営の問題も魔法で解消し、旅は順調に進んでいた。
 旅の途中でアメリアさんに言われて上位の炎魔法の詠唱にチャレンジしたら、見事に成功した。
 クッソ嬉しい。ガルガインのボケナスの悔しそうな顔といったらねえな。無駄にペッペペッペとツバを吐いてやがった。
 まあ、あいつならすぐ出来るようになるだろう。

 旧街道に入って十日目、何度目になるかわからねえCランクのガノガ猿が三匹現れた。よだれを垂らし、長い腕で胸を叩くドラミングってのをしてこっちを威嚇してくる。素早い動きと腕の攻撃が強力なので注意が必要だ。

 すぐさま迎撃態勢を取る。
 ジョン・ボーンさんとサツキが左右のガノガ猿を相手取り、エイミーが迷いなく対象者に疲労軽減と体力回復の効果を付与する“精霊の樹木賛歌(シルキーアンセム)”を発動させた。

 エイミーの魔法のおかげで思いっきり走っても全然息が切れねえ。オレとガルガインは真ん中のガノガ猿に攻撃を仕掛けた。

「スルメ!」
「おうよ!」

 ガノガ猿が長い腕を振り回してこちらに突進してくる。
 オレ達をごちそうだと思っているらしい。ふざけんなよ。

 目くらましに下位下級“ファイア”を最大火力で連発させると、ガノガ猿が素早い動きを少しばかり遅くさせる。
 そこへ“ファイアボール”三連射。
二発は外れたが、一発がガノガ猿の顔面にぶち当たった。視界を潰された大型の猿は、ぎょわわ、という汚ねえ悲鳴を上げて顔面を両手で覆った。

「どらぁ!」

 身体強化したガルガインのアイアンハンマーがガノガ猿の土手っ腹にめり込み、敵がたまらずに身をくの字に折り曲げて悶絶する。
 すかさずオレは火魔法上級“ファイアランス”を発動させ、一気に放出した。
 ゴオオッと音を立てながら弓矢ばりのスピードで“火槍ファイアランス”が飛んでいき、ガノガ猿にぶち当たって上半身を丸焦げにした。

 ジョン・ボーンさんが身体強化“下の上”であっさりガノガ猿を切り飛ばし、サツキは得意の風魔法“ウインドソード”の連射でガノガ猿を真っ二つにした。やっぱつええな二人とも。

「諸君っ! 素晴らしい活躍じゃあないか! リーダーとしてぼくは鼻が高いよ!」

 馬車の中で逆さ吊りになっている亜麻クソが叫ぶ。
 いつも通りぴゃあぴゃあと何か言う亜麻クソは全員でフルシカト。エイミーだけが律儀にうなずいている。

 にしても逆さ吊り魔力循環……あれオレ達もやったわー。

「まだ余裕があるみたいね」

 アメリアさんがちらりと見て、わざと身体を押した。
 ぶらんぶらんと亜麻クソが振り子のように左右に揺れる。

「まだまぁだ、余裕ですよ! アッメリア奥様! はっははははっ」
「それは頼もしいことね」

 とか笑ってる亜麻クソの顔は逆さ吊りのせいで真っ赤だ。

「エイミー、あの相手なら木魔法の下級でいいんじゃない? “精霊の樹木賛歌(シルキーアンセム)”はかなり魔力を消費するでしょ。もっと強い敵が出てきたときに使えない、なんてことになるとまずいわ」
「まだまだ大丈夫。でもサツキちゃんがそう言うならそうする」
「そのほうがいいわ。ありがとう」
「あまり木魔法の補助に慣れすぎるのはよくないデス」

 サツキとエイミーの会話にジョン・ボーンさんが忠告を入れてくる。
 まあ言われてみりゃたしかにそうだな。ここ最近はずっと木魔法の補助ありで戦ってきたから、これが当たり前みてえになると補助がないときに動きが鈍るかもしれねえ。

「そんなら次はなしでやってみようぜ」
「いいわね、そうしましょう」

 オレの提案にサツキが乗ってきた。

「エイミーは後ろから全体を見てウォール系で敵の攻撃を妨害したり、拘束系の魔法を使ってくれよ。おめえは連携の練習。オレ達の木魔法補助なしの練習になるぜ」
「スルメにしてはいい提案ね! スルメにしては!」
「うるせえ」
「オッケ~」

 サツキに文句を言って、エイミーが垂れ目でウインクして了解する。

「エェェェクセレンッッ!」

 今まで何もせずカメラを覗き込んでいたテンメイが、また意味のわかんねえタイミングでシャッターを切った。

「いやぁいい絵が撮れた! 契りの神ディアゴイスに特大の感謝をっ!」
「おめえは写真ばっか撮ってねえで仕事しろよまじで!」
「まあまあスルメ君。旅は道連れこの世はファンタスティックベイベーっていうだろう?」
「いわねえよボケ!」
「おや? エリィ嬢が、旅は道連れでこの世はファンタスティックなベイベェ~と鼻歌を歌っていたんだが…」
「しるか!」

 さて、写真バカの相手をして時間を潰すわけにもいかねえ。
そろそろ移動しねえとガノガ猿の血の臭いで他の魔物がやってくるだろう。ガルガインも同じ事を思っていたのか、無言で馬車を進めようと御者席へ上がろうとしている。

 ガルガインが御者席に片足をかけた状態でぴたりと止まってツバを吐く。
なにやら耳をすましている。

「どうした?」
「ペッ。どうにも嫌な感じがするぞ」

 ドワーフの種族特性なのかは知らねえが、こいつの勘は結構当たる。

 と思ったそのときだった。
 アメリアさんが大声で叫んだ。

「その場に伏せなさい!」

 全員、訓練のたまものなのか、間髪入れずにしゃがみこんだ。
 オレとテンメイの頭上を、ぶぉんと何かが通りすぎる。

「――なんだ!?」
「わからない!」
「スルメ、テンメイ、陣形を!」
「おうよ!」
「了解!」

 サツキの声でオレとテンメイは身体強化をかけて駆け寄る。
連携を取ろうとしたところで、先頭にいたジョン・ボーンさんが何の前触れもなく吹っ飛ばされた。

「なっ……?!」

 魔法じゃねえ!
何もねえのに、ジョン・ボーンさんがボールみたいに上空へ吹っ飛びやがった!

「くっ……!」

 サツキが飛び出し、腰に差していた小太刀を抜いて構え、身体強化“下の上”を一気にかける。


―――ドゴッ!!!!


「きゃっ!」

 サツキの足元で街道のレンガが弾け飛び、衝撃を受けて細身の身体が後方へ横滑りしてきた。
 身体強化のおかげでダメージはないようだ。オレはがっちりとサツキを受け止めた。

「“ファイアウォール”!」

 どっから攻撃されてんのかわかんねえ!
杖をポケットから引き抜いて火の壁を前方へ二十メートル展開させる。
 オレ達はあわてて後方へと下がった。

「ありがと」
「気にすんな。それより…」
「相手の姿が見えないわ」
「“サンドウォール”!」

 ガルガインが馬車とオレ達を守るように土壁を張り巡らせた。強度より範囲重視だ。
 続いてエイミーがあわあわしながら合流する。
 オレはサツキから手を離して地面へ下ろし、テンメイをちらりと見た。
 テンメイはカメラを両手で抱えたまま、ごくりと唾を飲み込んで口を開く。

「図鑑の情報が正しいならカブラカメレオンだろう。皮膚で光を屈折させ透明化するAランク指定の危険な魔物だ。皮膚が硬く、獰猛、おまけに雑食だ」
「Aランクかよ!」

 この旅で初めてAランクの魔物が現れやがった。

「パワーや素早さはBランクなんだけどね、周囲へ消える能力があるため最近Aランクの認定をうけたんだ」

 しかも透明化するだと?
 反則もいいとこじゃね?

 そうこうしているうちに“ファイアウォール”がかき消されて“サンドウォール”がでかい音と共に破壊された。

「“火蛇ファイアスネーク”!」
「“土槍サンドニードル”!」
「“ウインドソード”!」
「エネミィィィィッ!」

 当てずっぽうで“火蛇ファイアスネーク”を飛ばし、ガルガインが土壁の破壊された付近を狙って“土槍サンドニードル”を行使、サツキが横長の“ウインドソード”を空中へ叩きつけ、テンメイがシャッターを切る。

 しかし手応えはない。


―――!!!?


 左前方、地面のレンガが何かに踏まれてみしりと音を立てる。
 オレは最近できるようになった身体強化“下の上”で全員の前へ飛び出して、背中からバスタードソードを引き抜いた。

 ガァン、と岩で殴られたような衝撃がバスタードソードに伝わる。

「ぐっ……!」

 ってえ!
 あまりの衝撃にたたらを踏んだ。

「スルメ!」
「“サンドウォール”!!」

 サツキが叫ぶと、エイミーがオレの周囲に土壁を出現させた。
 が、すぐに不可視の攻撃で土壁が破壊され、残骸が飛び散ってオレにぶつかる。

「があっ!」

 バスタードソードで顔を覆って何とか踏みとどまる。
 そして、何かがこちらに向かって勢いよく振り回されたのか、風が空を切る音が聞こえてきた。
 勘にまかせ、思いっきりバスタードソードを振り下ろした。


―――ガイィィン!


 鉄塊をぶん殴ったような音が響き、オレのバスタードソードと見えない何かがぶち当たった。手がじんじんと痺れる。

「スルメ! 後退よ!」

 サツキに言われ、足に力を込めて一気に飛び退る。

 高出力の身体強化のせいで肩で息をしてしまう。
 くそ、鍛え方が足りねえぞ!

「“発光サンセット爆発(プロ-ジョン)”!!!」

 突如として目がくらむほどの発光が目の前で起こり、空中で爆発した。
 両目をつぶり、爆風で身体が後ろへ吹っ飛ばされる。
 おそらく敵も向こうへ吹っ飛んだだろう。

「全員下がりなさい! それ以上は危険よ! 」

 アメリアさんの凛とした声が旧街道に響く。
 相当負傷しているようだが、気づけばジョン・ボーンさんが馬車の側にいた。

「諸君ッ! リィダァのこのぶぉくがアシル家に伝わる伝説の魔法を――」
「はやく!」

 そうアメリアさんが指示を出した。
 オレ達だけじゃ、この魔物を倒せねえってことか!
 くそ! まだ負けたわけじゃねえぞ!
 連携すりゃギリ勝てるだろ?!

「アメリアさん! 限界までやらせて下さい!」

 オレの気持ちを代弁するかのように、サツキが鋭い目でアメリアさんに直談判する。
 気づきゃ、ガルガイン、エイミー、テンメイも同じ目をして真っ直ぐ前を見ていた。

「オレも同じこと思ってたッス」

 一歩前にでたオレを見て、サツキが「スルメにしてはいいこと言うわね」という視線を送ってくる。
 黙ってうなずいて「ったりめえだろ」という思いを込めた視線を返した。
 何となく理解したのか、サツキがほんの少し嬉しそうに口角を上げた。

 目で人を殺せるんじゃねえかと思うほどの強烈な眼力でアメリアさんがオレ達を睨みつける。一人一人を斬り捨てるみてえに、鋭く視線を走らせた。
 だが、この中に目を逸らすような臆病者はいねえ。
 オレ達はあの訓練を全員で乗り越えたんだ。目に見えねえ絆がある。そいつを思えば全然怖くねえ。

「………仕方のない子達ね」

 早く倒しなさい、といった表情でアメリアさんが肩をすくめた。

 サツキが綺麗な動作で一礼し、情熱と冷静さを兼ね備えたリーダーらしく指示を飛ばし始める。

「私とスルメが前衛! エイミーはすぐに補助魔法! ガルガインは“サンドウォール”で相手の位置を探って! テンメイはエイミーの補助!」

 まずエイミーが“精霊の樹木賛歌(シルキーアンセム)”でオレ達に補助をかける。続いてガルガインが前方へと薄い土壁を百八十度展開。テンメイがいつでもエイミーを守れるように杖を構える。

 すぐに土壁の一部が破壊され、そこにカメレオンがいることが判明した。

「“火槍ファイアランス”!」
「“ウインドソード”!」
「いま唱えようアシル家に伝わる伝説の奥――」

 真っ赤な槍と不可視の刃が飛んでいき、何かにぶち当たると、グエエと気味の悪い音を発した。馬車からバカの声が聞こえるが気にしねえ。
 当たったみてえだが、血が流れていないところを見ていると敵にダメージは与えられていねえらしい。厄介だな。

 ガルガインとエイミーが交互に“サンドウォール”を唱えて障壁を作り、穴が空いたところへオレとサツキが魔法をぶっ放す。
 土壁の破壊される大きさから鑑みるに、敵の何ちゃらカメレオンの大きさは七、八メートルってとこだろう。
 どうやら尻尾を振り回して壁を破壊することもあれば、腕で破壊することもあるみてえだ。尻尾を振ると土壁が真横にえぐれ、腕の場合は地面も一緒にえぐれる。

 土壁を作る、壊される、魔法をぶっ放す。
 それが六回繰り返され、ダメージを与えているのかいないのか分からないまま、じわじわと敵に距離を詰められた。距離は十メートルもない。

「サツキちゃん! 時間を!」

 エイミーが叫んで杖を顔の前へ掲げて目を閉じ、詠唱を開始する。
 サツキはすぐに理解して“サンドウォール”を唱え、それに続いてガルガインも“サンドウォール”を唱えた。

 が、二枚出現した土壁はあっさりと破壊される。

「諸君! 時間を稼いでくれたまへっ! ぶぉくの究極水魔法――」

 オレはありったけの魔力を込めた“火槍ファイアランス”を穴の空いた場所へ撃ち込む。
 着弾したらしいが、手応えがねえ!
 下位魔法じゃ倒せねえってことか!?

「我の眼は獲物を逃さず追い詰める……“鷲の眼(イーグルアイ)”!」

 エイミーが、くわっと目を見開いた。
 “鷹の眼(ホークアイ)”が遠くを見る探索魔法とすれば、“鷲の眼(イーグルアイ)”は中距離から近距離を鮮明に映し出す戦闘補助魔法だ。不可視のゴーストやこういった透明化する敵に有効。実体までは見えないものの、空気中にただよう塵の動きまで見通せるため敵の居場所を把握できる。

 “鷲の眼(イーグルアイ)”の効果でエイミーの瞳が猛禽類のようにぎょろりと右に動いた。

「スルメ君! 右前方だよ!」
「うおっしゃあ!」

 素早く杖をポケットにねじ込み、地面にぶっ刺しておいたバスタードソードを引き抜いて振り下ろした。
 身体強化した渾身の斬撃。
 カメレオンの身体と剣が衝突し、ガン、という硬い手応えが両手を伝って肩まで這い上がってくる。

「そのまま突き!」
「だらぁっ!」

 言われるがまま、バスタードソードを思い切り前方へ突き出す。
 今度は柔らかい手応えと剣がめり込む感触。
 目玉ぶっ刺したんじゃね?!
 わっかんねえけど柔らかいってそこしかねえだろ!

「ゲギャアアアアアアアア」
「みんな後ろに跳んで!」

 エイミーの指示通り、全員が飛び退る。
 今まで立っていた地面がカメレオンの攻撃で陥没した。

「時間を! 時間を稼いでくれたまへっ! アシル家の――」
「時間を稼いで!」

 今度はサツキが大声を上げる。
 あいつ、上位の空魔法を使うつもりだ。

「ガルガイン君の左! 尻尾攻撃!」

 待ってましたと言わんばかりにガルガインがツバを吐いてアイアンハンマーを横殴りにする。
 どでかい金属音が響いてガルガインが反動でのけぞった。

 オレはカメレオンの場所に当たりをつけ、二歩駆けて上段からバスタードソードを振り下ろした。
 硬い皮膚のようなもんがこそげ落ちる感触と、カメレオンの薄い悲鳴が響く。

「“土槍サンドニードル”!」
「奥義ぃ! “ウォータースプラッシュ”!」

 ガルガインがズボンのサイドポケットから杖を引き抜いて詠唱すると、“土槍サンドニードル”が地面から突き上がった。
 そして亜麻クソが馬車から唱えたであろう“ウォータースプラッシュ”が“土槍サンドニードル”にぶち当たって、そこら中が泥水まみれになった。

「あのボケ! 何やって……?」

 まじか。
 泥水をかぶってカメレオンの姿があらわになった。

「そこね! “空刃斬撃エアスラッシュソード”!!」

 詠唱を終えたサツキが空魔法中級をぶっ放すと、目で追うのがやっとの速度で白濁色をした刃が飛んでいき、泥まみれのカメレオンにぶち当たった。
 強力無比な空魔法中級“空刃斬撃エアスラッシュソード”はカメレオンの首筋にぶつかって、硬い皮膚を切り裂いて三分の一ほどめり込んでかき消えた。

「ゲギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 首から大量の血を出してカメレオンが暴れ回る。

「“樹木の魔蔦(ティンバーアイビー)”!」

 エイミーが制御の難しい木魔法下級“樹木の魔蔦(ティンバーアイビー)”でカメレオンの後ろ足二本を絡め取る。うめえぞ!

「うおらぁぁぁっ!」

 ガルガインが数十秒だけ使える身体強化“下の上”で飛び上がり、アイアンハンマーを渾身の力でカメレオンの頭に叩きつけた。

「スルメェ!」
「おうよぉ!」

 オレは動きの止まったカメレオンの首筋に杖を向け、憶えたての炎魔法をめくれあがった傷跡へぶっ放した。

「己が心は熱く燃える弓となる……“炎矢フレアアロー”!!!」

 くらえこらああああああああっ!

 ゴオオオオッ、と周囲を焦がしながら火魔法の比にならねえ特大の炎が飛んでいき、カメレオンの傷口にぶち当たった。
 自慢の皮膚でガードできず、カメレオンは首を真っ赤に燃やして悶絶し、周囲を転げ回る。

 やがて、敵は動かなくなった。
 全員がカメレオンがどうなったのか見つめ、三秒ほど静止した。

 しん、と静まり返る旧街道。


「バイオレンスゥゥゥゥゥパフューーム!」


 テンメイが全身を投げ出して、ズザザザザ、と埃を上げながらシャッターを切る。

「………」
「………」
「………」
「………」

 しばしの沈黙。
 ぐったりと横たわる全長七メートルのカメレオン。
 戦闘のあった周囲は土壁の破片が散乱し、泥水で水浸しになっていた。

 オレは勝利を確信してバスタードソードを突き上げた。

「……よっしゃあああ!」

 全員でAランクの魔物を倒したぜええええええ!
 やべえええええ、オレ達つええええっ!!

「うおっしゃあああ! ペッ!」
「やったわ!」
「怖かった~」
「いい絵が…最高の絵が撮れたぞ!」
「さ、さ、作戦どおりだよ諸君っ! こうなることはまあ分かっていたんだよこのぶぅおくはね!」

 ガルガインと拳を合わせ、サツキとエイミーとハイタッチをし、何もしてねえテンメイととりあえずハグをし、全員で馬車まで歩いて行くと、やたらオレ達と絡みたそうにしている逆さ吊りの亜麻クソの手を仕方なく叩いてやった。まあ役に立ったしな。
 自らの白魔法で回復したジョン・ボーンさんがこくりとうなずいて、アメリアさんがおもむろに口を開いた。

「……合格ということにしておきましょう」

 そう言われ、オレ達はまた喜びを交換した。

「ですがここはまだ旧街道。旅は目的地に到着してはじめて終了するものです。一時の勝ちに酔いしれて驕り、死んでいった冒険者を私は何人も見てきました。これを教訓とし、次からは目的が達成してから勝利の喜びを味わいなさい。いいわね」

 そう言ってオレ達を最後まで指導するアメリアさんが、少しばかり微笑んだ。

「では怪我の治療をしたのち、すぐに出発します。他の魔物が血のにおいにつられてやって――!?」


 アメリアさんの表情が一瞬だけ固くなり、全員の前から煙のごとく消えた。


   ○


「なっ………?!」

 思わず息を飲んだ。
 いや、消えたんじゃねえ。何かの攻撃を受けたらしい。
 ジョン・ボーンさんが即座に身体強化をかけてアメリアさんの飛んでいったらしい方向へ猛スピードで駆けていく。

 嫌な予感がして振り返ると……ちろちろと長い舌を出し、もたげるようにして首をこっちへ向けている大蛇がいた。

 オレ、ガルガイン、エイミー、サツキ、テンメイ、全員が顔を強ばらせて後ずさりした。

 その大蛇はただの蛇じゃねえ。
 五人全員を一気に丸呑みできるほど口が裂け、獰猛な目が金色に輝き、腫れ物みてえなグロテスクな黒い皮膚がテラテラと光っており、頭から尻尾まで二十メートルはありそうな体躯が波のようにうねっている。顔の横には昆虫の羽に似た気味のわりい透明な耳がついており、右へ左へとせわしなく動いていた。
 やべえ。ぜってえやべえヤツだコレ。
 音もなく近づき、長い尻尾で攻撃したのか?
 だとしても、あのアメリアさんが気づかないなんてヤバすぎる。

AAダブルエーランクの危険種……邪竜蛇じゃりゅうへび……?!」

 テンメイが独り言のように呟いた。

「なぜこんな……ところに…」

 シャアアア、と邪竜蛇がうなり声を上げると口元から唾液がぼとぼと落ち、レンガが嫌な音を立てて溶けていく。
 そして目にも止まらぬ速さでオレ達を丸呑みにしようと首を振ってきた。

 呆けているエイミーにテンメイが飛び付いて右方向へ転がり、オレ、サツキ、ガルガインは思い切り後ろへ跳ぶ。
 邪竜蛇は首の軌道を人数の多いこっちへ切り替えた。

 すげえ速さ!
 よけきれねえ!

 吞み込まれる、と思ったそのとき、邪竜蛇がのけぞった。

「逃げなさい!」

 オレ達の目の前に飛び込んできたアメリアさんが両手で邪竜蛇の下あごを掴んで押し上げている。
 あんな細腕で邪竜蛇つかんでんのすげええええ!
 身体強化“上の中”をかけているみてえだ!
 だがアメリアさんでも身体強化“上の中”はもって数十秒だろう。

「ふん!」

 心配したのも束の間、ジョン・ボーンさんが邪竜蛇の目を狙い、ショートソードで斬りつける。
 敵はたまらず首をさらに上へ曲げて刃を回避した。
 動きがはええ!

「“爆発エクスプロージョン”!」

 手を離したアメリアさんが素早い動きで杖を抜き、得意魔法を唱えると、邪竜蛇のどてっ腹が爆発した。余波で街道のレンガがえぐれて飛び散る。
 すかさずジョン・ボーンさんががら空きの邪竜蛇の顔面へ蹴りを叩き込んだ。身体強化は“上の下”だろう。あまり効いてねえ!

「“銃弾バレットプ爆発(ロ-ジョン)”!」

 さらにアメリアさんが杖を両手持ちにし、前方へ突き出して魔法を行使する。
 やべええええええええええ!
炎魔法中級派生の中で屈指の攻撃力を誇る“銃弾バレットプ爆発(ロ-ジョン)”!

 反動でアメリアさんの腕が真上にかち上がった。

――ドドドドドドドドドドバァァン!!

 アメリアさんを起点にし、直径十メートルの大爆発が数珠つなぎに発生した。爆発が串団子みてえに奥へ続いていく。
 高威力の爆発は巻き込んだ物体を容赦なく破壊し、炎と力の暴力によって焦がして引きちぎり、跡形もなく塵にしようと進路上の空間を飲み込んでいく。

「まじか………」

 邪竜蛇は“銃弾バレットプ爆発(ロ-ジョン)”を食らったはずなのに、平気な顔で佇んでいた。軽く表皮が焼けた程度のダメージしか負っていない。

 何が面白いのか、ニタリと口を広げやがる。
 クソっ! どんだけ皮膚の防御力が高えんだよ!

 オレとサツキとガルガインは戦いの邪魔になると思い、さらに距離を取った。
 サツキはさっき撃った空魔法中級のせいで魔力枯渇を起こしているらしい。顔色がかなり青く、動きが鈍い。
 オレとガルガインはまだ何とか動ける。

 アメリアさんの爆発系を中心とした攻撃と、ジョン・ボーンさんの身体強化による巧みな物理攻撃が、目にも止まらない速さで連携され、交差し、幾通りもの組み合わせを生み出す。
 邪竜蛇はそこまで知能が高くないのか己の身体能力だけを利用してしつこくアメリアさんを狙う。
 ジョン・ボーンさんが爆発の中から現れるという、玉が縮みあがる連携技で、邪竜蛇の舌を切り飛ばした。

 その隙に、アメリアさんがとんでもない魔力を練って魔法の詠唱を開始した。

 まじかまじかまじか……やべえぞ!

「全員さがれぇ!」

 オレはあまりのやばさに叫ぶ。
 それを察したのか、サツキ、ガルガイン、テンメイ、エイミーが吹っ飛ばされた馬車のほうまで必死に足を動かして距離を取る。亜麻クソは転倒した馬車の中で失神していた。

 ジョン・ボーンさんが負傷覚悟で邪竜蛇を引きつける。
 胸がつまるような焦燥感と共に時間が約六十秒経過したところで、ジョン・ボーンさんが死角からの尻尾攻撃で吹っ飛んだ。

「ぐぅ……っ!」

 その瞬間、詠唱の終わったアメリアさんが炎魔法上級を解き放った。

「“怒れる愛妻(セブンアンガー)の七爆発(プロ-ジョン)”!!!」
 瞬間的に空気が収縮し、わずかな静寂が周囲を包む。

 そして鼓膜がちぎれるほどの爆音が巻き起こって空気を殴りつけ、大量発生した熱が強引に周囲を膨張させてすべてを燃やし尽くし、見上げるほどの大爆発が直径約四十メートル発生した。しかもそれが七発。とんでもねえ爆発に全員が軽々と吹っ飛ばされて目の前が炎の閃光で真っ赤に染まる。

 レンガやら土やら樹木が爆散してあられもない形になり、縦横無尽に飛び散った。
 爆発が収縮し、もくもくと爆発による煙の雲が現れる。

 範囲外であってもこの威力。
 食らったほうはひとたまりもねえ。

 風が吹いて、爆心地がゆっくりと見えてくる。
 あれじゃ邪竜蛇は木っ端微塵――


―――!!!!?


 おいおいまじかよ……。
 今日何度驚けばいいのかわかんねえ……。

 邪竜蛇が生きてやがる。
 ヤツはうまいこと自分の尻尾を巻いて頭を守ったらしい。その代わり二十メートルあった胴体は半分以下のサイズになっている。
 怒りのあまり、ジャアアアアアッと雄叫びを上げていた。

 アメリアさんは炎魔法上級・特大殲滅魔法で魔力枯渇を起こし、地面へ片膝を付いた。
 ジョン・ボーンさんも、尻尾攻撃を受けて倒れたまま動かない。

 邪竜蛇はメインディシュにしたいのかわざとアメリアさんを迂回し、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。ずりずりと這い寄る気味の悪い大蛇に思わず吐き気が込み上がってきた。悪趣味にもほどがある。

 このまま全滅…?!
 ばかいうな。惚れた女ぐらい守れず何が男だよ!
 くそったれ!

 オレは恐怖で動けないサツキの前に立ってバスタードソードを構えた。

「サツキ! てめえだけでも逃げろ!」
「…………スルメ?」
「エイミーはテンメイが逃がす! だからおめえは動けるなら自分の足で逃げろ!」
「何を言って……」
「早くしろボケがぁ!」

 オレの叫び声を聞いたガルガインが横に並んでアイアンハンマーを構える。

「いけ。ペッ」
「女は逃げろってんだよ!」

 そうこうしているうちに邪竜蛇が近づいてくる。
 くそ! くそっ!

「私も戦う……」
「おめえはもう魔力がねえだろうが!」
「いやっ! 私がリーダーよ……!」
「るせえええええ!」

 オレは魔力を振り絞って身体強化し、ふらついた足取りのサツキを後方へと放り投げた。
 二十メートルほど飛んだサツキが地面を滑って倒れ込む。
いてえだろうが我慢しろ。

 がぱぁ、と口を開けた邪竜蛇がオレとガルガインの目の前でぴたりと止まる。

「おめえは右だ」
「てめえは左。ペッ」

 ガルガインと目配せし、邪竜蛇の目を狙う。
 どうせ死ぬなら一矢報いてやるぜ。

「隣は美女がよかったぜ」
「まあな」

 オレの言葉にガルガインが、ふんと鼻で笑って答える。
 邪竜蛇の唾液が音を立てて地面を溶かす。ぬらぬらと濡れた口内は暗く奥まで続いている。
 …あれに食われたら絶対いてえ。

「すぐにおっ死ぬなよ」
「てめえもな」
「いくぜ!」
「うおおおおおおおおおお!」

 最後に視線を交わし、死を覚悟したオレとガルガインが両手両足に力を込めたそのときだった。


 目の前の邪竜蛇が、黒と赤に染まり、まばゆい閃光に包まれた。
+注意+
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