挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

61/129

第30話 イケメン砂漠の誘拐調査団・闘争

 “ファイアボール”を二発。
 別働隊の救援信号だ。

 調査団六十名はパーティーごとに別れ、敵との距離はおよそ三十メートル。

 対する敵さんは、洗脳した子どもの魔法使いを盾にするかのように約十メートルおきに一人ずつ立たせ、こちらを牽制する。
 洗脳された子どもは三人。
 子どもを最前線に立たせることにより、こちらが攻撃しづらくなるという姑息な作戦だ。

 子どもの背中にこそこそと隠れている敵魔法使いが二十名。
 その後ろに敵大将みたいな面持ちで、親玉の宣教師とフェスティが並んでいる。

 アグナスが咄嗟にジェラ兵士を統率するバニーちゃんへと目配せをすると、彼の意図を読み取ったバニーちゃんは「着いてこい!」と叫び、身体強化をして駆けだした。約十五名の兵士達がそのあとを追い、救援信号の上がった場所へと向かう。

「アイゼンバーグ様!」
「……」

 青い神父服のおっさんが声を掛けると、敵の魔法使い達の後ろにいるアイゼンバーグと呼ばれた親玉の宣教師は首を横に振り、詠唱を続けながらこちらを指さした。

「白いワンピースを着た金髪の娘を狙え!」

 俺かよ!

「“ウインドストーム”」
「“鮫刃シャークナイフ”」
「“火槍ファイアランス”」
「“土槍サンドニードル”」

 またしても下位上級魔法が十数発飛んでくる。
 さらに遅れて高威力の上位魔法が唱えられた。

「サンドウォール!」

 俺を守るための“サンドウォール”が冒険者たちによって張り巡らされる。

 敵の下位魔法が構築した“サンドウォール”に激突し、壁が破壊された。

 さらに上位魔法が迫る。
 炎の弓矢が地面を焦がし、地中から巨大な木の拳が突き上がり、剣山のような氷の天井が上空に現れて、爆発魔法が容赦なく指定された範囲を木っ端微塵に粉砕する。

「“ウインドストーム”!」
「“鮫牙シャークファング”」
「“樹木の城壁(ティンバーウォール)”!」
「“掌炎フレアハンド”!!」
「“空弾エアバレット”!」

 黙って見ている高ランク冒険者たちではない。
 アグナスパーティーが上位魔法で敵の上位魔法を相殺し、他のパーティーが魔法をよけながら下位魔法を防御に使って被害を最小限に食い止める。

 さすがに残っている敵の魔法使いは精鋭揃いだ。
 一方、こちらは三人残っている子どもの魔法使いがいるために迂闊に攻撃魔法を使えず、後手に回ってしまう。
 現に、“治癒ヒール”の光がそこかしこで輝いている。こちら側が傷を負っている証拠だ。こちらに数の利があるため、まだ戦線は崩壊していない。

 やべえぞ。
 そうこうしているうちにアイゼンバーグとかいう親玉の魔法が完成しそうだ。
 いま落雷魔法を使ったら、確実にフェスティにも当たっちまう。

 よっしゃ。ぐだぐだ考えててもしょうがねえ。
 後手に回るが、アリアナの重力魔法が完成するまで、いつでも魔法が撃てるように魔力循環をして準備をしておくぞ。強力な攻撃と上位中級の回復ができるのはこの中でも俺だけだ。迂闊に動かず状況を冷静に分析しろ。
 味方がやられたら回復魔法で治癒し、隙ができたら落雷魔法をぶっ放す。

「“二重・重力(ダブルグラビトン)”…」

 ナイスタイミング!
 アリアナが上位中級黒魔法を完成させ、敵の中心部へと重力場を発生させた。
 どす黒い波打つ重力場が水紋のように現れ、周囲の砂が蟻地獄みたいに沈み込んでいく。
 右手を敵へ向けているアリアナの表情は真剣そのもの。ぴくぴくと狐耳が動く。

「ぐぅ……」
「なん…」
「ぎぃ……」

 敵の十数名から苦悶の声が漏れた。
 突然自分の体重が四倍から五倍にふくれあがり、立っていることすらできずに跪く。
 “二重・重力(ダブルグラビトン)”の威力がやべえ。
 さすがは行動阻害系の魔法だ。物理的な攻撃を加えるわけではないので、子どもを殺してしまうこともない。まあ、長時間重力魔法を受け続けるとまずいことにはなるが、数分程度なら大丈夫だろう。

 好機とみてアグナスパーティーの、アグナス、ドン、クリムト、トマホークの四人が身体強化を瞬時に行使し、猛アタックをかけた。トマホークは木魔法を何度も使っているせいかスタートが遅れたが、それでも他の冒険者より速い。
 それに続けと、他のパーティー三十余名も走り出す。

「行きやす、アニキ」

 マント姿の無刀のドンがアグナスの前に出て、刃がない刀を抜く。

「“無刀ノートソード”…!」

 上位中級クラスの魔力が唸る。
 子どもの間を縫うようにして空気の刃が生き物のように走り抜け、敵陣をえぐり、魔法使いを五名ほど吹っ飛ばした。
 魔法の発動が早い! ほぼゼロ距離なら子どもへの誤爆もない!

 続いてアグナスが子どもを奪おうと、まさに手を伸ばしそのときだった。


「“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”……」


 突撃した全員の動きが停止した。
 動画再生ソフトの停止ボタンを押したように、ピタっと全員が足を止める。

 足元に紫色をした不気味な魔法陣が浮かび上がり、うねうねと無脊椎動物のように蠢く紫の光が足に絡みついてくる。
 きもっ! これ気持ちわるっ!
 アイゼンバーグとかいう親玉が杖を掲げながら口元を残忍に歪め、侮蔑の目をこちらへ向けた。

 背中に氷水をぶちまけられたような感覚が全身を駆け抜けた。不安が脳内を突き抜けて、自分が存在している意味や理由が全部否定されていく理不尽な圧力を感じる。さらに、一人で真っ暗な夜の帰り道を歩いている際に、狂った奴が哄笑しながら追いかけてくる。そんな戦慄する恐怖感に全方向から襲われ、焦燥と絶望が身体中を舐めるように這う。
 これが洗脳系上級黒魔法“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”か。
 こんな魔法を子どもに使うとか、一発本気で殴らないと気が済まねえな。

 ――って、俺、どんだけ冷静なんだよ。

 冒険者で立っているのは前方にいるアグナスと俺の隣にいるアリアナだけだ。
 他のメンバーは苦悶の表情で頭を抱えてうずくまっている。
 しかも二人ですら頭を押さえ、立っているのがやっとの様子だ。

 アリアナの重力魔法は“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”のせいで完全に封殺され、霧散した。

 上位上級の洗脳魔法が平気な俺。さすが天才、アイアンハート。
 って言ってる場合じゃねえか!

「黒き道を白き道標に変え、汝ついにかの安住の地を見つけたり……」
「…浄化魔法ですか。この“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の前では無力。あなた達はセラーの教えを乞い、セラーの慈悲にすがるのです」

 三十メートルほど離れているにも関わらず、その声はこっちまでよく響いた。

 数秒して、敵の魔法使い約二十名が息を吹き返し、魔法をぶっ放してくる。

「ぎゃあ!」
「ぐっ!」
「ぐあっ……」

 無防備な冒険者たちが距離を詰めた順にやられていく。
 ドンとトマホークも“サンドボール”と“エアハンマー”を食らって後方へと 吹っ飛んでいった。下位魔法といえど、身体強化なしの生身で受ければ相当に危険だ。
 アグナスはかろうじて身体強化で防いでいる。

 いそげいそげ!
 超集中!

「愛しき我が子に聖なる祝福と脈尽く命の熱き鼓動を与えたまえ…」

 黒魔法“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”を白魔法中級“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”で押さえ込むっきゃねえぞ。

 さもないと全滅だ――

 やけに張っているほお骨を釣り上げ、アイゼンバーグが目を見開く。
 その顔は妄執に捕らわれた狂信者のようにただれた笑顔を張り付かせ、見る者を不快にさせた。
 あんなバカ無視だ無視。

「“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”!!!」

 全身から光り輝く星屑がばらまかれ、足元に白光した魔法陣が広がっていく。
 魔法陣は“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の黒い魔法陣を押しのけるようにしてじわじわと広がっていく。
 いけ! いけえぇっ!

「ッ―――!!」

 思い切り下っ腹に力を込めると膨大な魔力が魔法陣へと溶け込み、満員電車で人間を奥へ押し込んで前に進むように“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”が円状に広がっていく。

 中庭に構築された紫色の魔法陣の中に、直径二十メートルの白い魔法陣による安全地帯が現れた。

 “純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”の範囲内にいる冒険者は胸を押さえていた腕を広げて立ち上がり、「おおおおっ」と歓声を上げる。

「エリィちゃんの魔法陣の中へ入れ!」

 アグナスがすぐさま叫んで魔法陣に転がり込むと、“エアハンマー”で魔法陣の外にいる冒険者を強引にこちらへ叩き込んだ。それに倣ってパーティーメンバーが次々と陣地へ味方を引き入れる。
 敵はアイゼンバーグ、フェスティを入れて十五名ほど。調査団は約二十名。魔力切れとさっきの攻撃でかなり減っちまった。

「なんだと……?」

 アイゼンバーグが驚愕の表情で目を見張り、杖を高々と掲げた。

 奴の持っている樫の杖が禍々しく光ると、今度は向こうからの浸食が始まる。
 頭上に次々と重りを乗せられているみたいに、“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の重圧が強くなっていく。
 気を抜くとダメだ……、魔法が霧散する……。

 それに続けと敵魔法使いが魔法を乱射する。
 紫色の魔法陣と白色の魔法陣の陣地に分かれた魔法合戦が再度始まった。

 俺が押し負けたら全滅だ……。
 こんなときこそハッピーな記憶!

 田中の……

 田中の…………

「ファイヤーダンス!!!」

 思わず叫んでしまった。
 腰ミノ、上半身裸の田中が、炎にびびりながらファイヤーダンスする、滑稽で哀愁すらただようシーンを思い出して思わず笑みがこぼれる。何度思い返してもオモシロすぎるだろ。現地人のオバハンから熱烈なキッス攻撃を食らって呼吸困難になる田中は、最高にウケる国宝級のネタだ。

 なんてことを考えて魔力を“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”へつぎ込むと、身体から溢れ出る星屑が踊るように跳ねてキラキラと輝き、“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の浸食を拒んで、逆に押し返していく。

「ファイヤーダンス……?」
「エリィちゃんの新しい魔法か?!」
「浄化魔法にそんな名称のものあったか?」
「神々しい! 俺達も負けてらんねえ。反撃だ!」
「美しい! なんて綺麗なんだい!」

 冒険者が口々に叫びつつ、各自得意な魔法を敵陣へ撃ち込む。

「……エリィ、前に行くね」

 アリアナがかつてないほどの魔力を循環させながら、俺の隣から離れて前線へと駆けていく。
 アリアナへと“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”を集中させると、星屑が彼女の周囲へと集まっていき、まぶしく輝き、スポットライトみたいに浮き立たせた。

 絶え間なく魔法のやりとりをしている敵陣と調査団。
 様々な魔法の光が輝き、爆発し、穿ち、切り裂き、時たま土の壁が現れてはすぐさま破壊される。

 アグナスとフェスティの魔法がほぼ互角のようで、打開策が見いだせない。ってフェスティ強すぎだろ! 上位魔法をバンバン撃っているからジャンジャンより圧倒的に強いぞ!

 調査団はアリアナの姿を見て、何か秘策があるのだろうと、彼女を援護する作戦へ切り替えた。

 アリアナは魔法陣の効果範囲限界まで進み、敵の魔法使いとわずか三メートルの距離になると、注目を集めるように両手を大きく広げた。デニムのサロペットスカートから覗くすらりとした足をつま先立ちにしている。

「狐人の娘を狙え!」

 向こうの指揮官らしき神父姿の男が彼女の練っている膨大な魔力を見て絶叫した。
 が、アリアナはそれと同時に行動を起こした。

 まるでその行動が俺にはスローモーションのように見え、口が半開きになり、どうしようもなく胸が熱くなって、何も考えられなくなった。

 アリアナはつま先立ちしていた足を戻し、可愛い尻尾をピンと真上へ立て、片足立ちになってくるりと一回転する。両腕を真下へ向け、両手首を地面と水平に伸ばし、可愛らしく笑顔でピタリと止まると、両手を胸のあたりにもってきてハートの形を作った。


「“トキメキ”」


――――!!!!??


 巻き起こるアリアナのトキメキ旋風。
 その小さい姿は星屑と相まってキラキラと輝き、可愛さの中に美しさを内包させる女神のごとく全員を魅了し、見る者を完全に釘付けにした。

「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」「う゛っ!」

 瞬間最大トキメキ風速三億五千万トキメートル(当社調べ)を記録っ!

 アリアナのオリジナル魔法を受けた全員が、敵味方問わず心臓を押さえてうずくまる。
 アイゼンバーグとフェスティですら心臓を押さえてるじゃねえか!
 すごっ!
 つーか心臓がまじでいてえ!
 これがトキメキ……そう……TOKIMEKI………。

 “強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”と“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”が地面からあっという間に消えた。

 てかね、多分だけどね、この場にいる全員が思ったと思うんだよ。
 なんでパンツが見えなかったんだろうって。
 結構な勢いでくるっと回ったからミニスカートの中が見えそうだったんだ。
 いやちがうぜ!
 俺は別にスカートの中を覗いてうっしっし、とか言うタイプじゃねえよ?
 むしろ口説いて脱がすタイプだぞ?
 でもさっきのは、何かそういうこととは別次元の問題なんだよ。見たら絶対にイケない物を人間って見てみたいって思うじゃん。鶴の恩返しみたいに! そうお鶴さんの恩返しのパンティみたいに!

 って自分で何言ってんのか全然わかんねえぐらい心臓いたああああああい!

「えい」

 アリアナは全員が動けない隙を突いて身体強化“下の上”をかけ、前方にいた少年の魔法使いを掴んで後方へと放り投げる。さらに右へ素早く移動し、うずくまるエルフの少女を放り投げ、投げた反動を利用して一回転し、鞭で間近にいた敵魔法使いをしこたまぶっ叩いた。
 もう一人いるドワーフの少年の所へは距離があるため、“トキメキ”の効果が切れることを考えて攻撃に転じたようだ。

 パパパパパパパァン! という鞭音が響き、ものの数秒で五人の魔法使いがアヘ顔と共に後方へ弾け飛んでいく。うわぁ……身体強化した高速鞭術で叩かれたから、一瞬で服がボロボロになって血まみれだよ。アリアナ絶対に怒ってるな。

「い、いかん! あのキツネ娘を殺れ!」

 ようやく復帰した敵魔法使いから焦りの声が上がる。
 だが、こちらのほうがアリアナの魔法を見たことがある分、心構えが多少なりとも出来ていたため初動が早い。

「ごめんな」

 アグナスが最後の一人であるドワーフの少年に当て身を食らわせ、後方へと投げ飛ばした。
 後衛のメンバーがすぐさま子ども三人に駆け寄り回復魔法をかけ、睡眠煙をしみこませたハンカチで身柄を確保する。いいぞいいぞ!

「“落雷サンダーボルト”!」

 バリバリバリィ!
 けたたましい落雷音が鳴り、敵魔法使いの真ん中に“落雷サンダーボルト”が突き刺さる。砂の地面が爆発したみたいに吹っ飛び、近くにいた三人が運悪く感電して、高圧電流により一瞬で髪型がアフロヘアーに早変わりした。例外なく口から煙を吐いてぶっ倒れる。

 もはや人質という盾をなくした敵魔法使いに気を回す必要はない。
 魔力が底を尽きそうなので精度がイマイチだが、この好機を逃す俺じゃねえぞ。

 向こうに残るのは、アイゼンバーグ、フェスティ、指揮官らしき神父風の魔法使い、そのとりまき五名、計八名。
 対するこちらは、俺、アリアナ、アグナス、トマホーク、ドン、クリムト、バーバラ、女盗賊、ジャンジャン、上位ランカーのポー、その他八名、計十八名。内、四名が魔力切れ寸前のため、子ども三人を連れて後方の陣地へと下がっていく。

「“電衝撃インパルス”!!」

 ギャギャギャギャギャ!
 指揮官を狙った稲妻の奔流が前方へと駆け抜け、守っていた取り巻きの魔法使いにぶつかって放射状にその強烈な電流をまき散らした。
 直撃を食らった魔法使いは感電しながら後方へ吹っ飛び、放射状に広がる電流を受けた三人の魔法使いは「アババババババビバァ!」とパソコン教室の名前っぽい悲鳴を上げて白目を向き、仰向けに倒れて砂の大地とお友達になった。
 これで向こうの残りは五人だ。

「はぁ…はぁ…」

 ダメだ、息が上がってきた。
 浄化魔法の連続使用と落雷魔法の連発で魔力切れ寸前だ。
 ふらついて、片膝をついてしまう。

 “純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”は練習不足で魔力効率が相当に悪い。無事帰ったら練習しねえとな。

「落雷魔法ですか……」

 アイゼンバーグは未だに余裕しゃくしゃくの表情で杖を握りしめている。

「あなたはセラー教への信仰を持つべきですね」
「フェスティ! 目を覚ませ!」

 ジャンジャンが魔力切れ寸前で顔を真っ青にしながら、アイゼンバーグの言葉を無視して声を張り上げる。

「この子はセラー教の熱心な信者です。以前の記憶が戻ることはないでしょう」
「なっ……!」
「それをあなたが見届ける術はありません。なぜならあなたはここで――」

 そこまで言って、アイゼンバーグはにぃと口元を上げ、杖を振りかざした。

「死ぬからです。“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”!」

 ぶわっと地面に紫色の禍々しい魔法陣が浮かび上がる。

「なにっ!」
「くっ……?!」
「なんだと?!」
「詠唱なしだと!」

 再び“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”が俺たちの心をかき乱し、アイゼンバーグへと気持ちが引き寄せられる。アグナス、アリアナ以外のメンバーが頭を抱え、あまりの激痛で地面に倒れた。

「くくく…。誰も詠唱が必要とは言っていませんよ?」

 そう言ってアイゼンバーグはもっている樫の杖に頬を擦りつけ、べろりと舌を這わせる。
 きもっ! リアルにきもいんですけど!

 フェスティが攻撃を封じられた俺たちを何の感情も籠もっていない目で見つめながら、黒のローブを揺らしてこちらへ向かってくる。

「“落雷サンダーボルト”!」

 アイゼンバーグとフェスティが離れた隙を逃さず、魔力を振り絞って“落雷サンダーボルト”を撃った。

 だが敵の魔法使いの一人がそれを予期していたのか、アイゼンバーグを突き飛ばして庇う。
 ピシャアアンという雷音と共に、その魔法使いは感電して地面に倒れた。

「敬虔なるセラーの子に慈悲を」

 アイゼンバーグは魔法を発動させたまま起き上がり、身を犠牲にした魔法使いへ呟く。
 間髪入れずに、残った魔法使い、指揮官らしき男、フェスティの三名がこちらへ魔法をぶっ放してくる。

「“エアハンマー”」
「“ファイアボール”」
「“鮫刃シャークナイフ”」

 不可視の風の拳がポーを吹っ飛ばし、炎の玉が冒険者にぶちあたり、水の刃が女盗賊を切る。
 三人が声にならない声を上げて意識を手放した。

 次々に魔法が撃ち込まれ、冒険者たちが戦闘不能に陥っていく。

「ぐわ!」
「ちっ」
「ぐ……」

 頼りにしていたアグナスパーティーの三人、トマホーク、ドン、クリムトまでもが無防備の状態で魔法を食らって意識を失った。さらに、バーバラ、ジャンジャンも魔法の攻撃をモロに受けた。

「きゃあ!」
「うぐぅ…」
「バーバラ! ジャンジャン!」

 “エアハンマー”でバーバラはかなり後方まで吹き飛ばされ、“サンドボール”をもろに受けたジャンジャンがうめき声を上げて、地面に転がった。

「“落雷サンダーボルト”!」

 雷鳴を轟かせ、一筋の稲妻がアイゼンバーグの五メートル横に着弾する。砂が弾け飛んでアイゼンバーグの黒服にパラパラと力なくぶつかった。

 くそ! 魔力切れで落雷魔法の照準が合わない。
 ジャンジャンは腹部を押さえて身もだえながらも、アイゼンバーグを睨んでいる。
 あの様子だと魔法の一発も撃てないだろう。魔力切れ寸前と魔法直撃で意識があるのが不思議なぐらいだ。

 待ってろ、あとで絶対に回復してやるからな。

 アグナスとアリアナは何とか魔法を凌いで、じりじりとこちらに後退してくる。“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の影響下にあるいま、自己防衛で手一杯になっているようだ。
 向こうに身体強化を使われたら一瞬で距離を詰められてしまうが、とにかく散開するよりも合流したほうがいい。

「“落雷サンダーボルト”!」

 ドパァン!

 魔力不足と“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”のせいで精度が最悪。アイゼンバーグに当たらず、砂が弾け飛ぶ。

「“落雷サンダーボルト”!」

 今度は指揮官らしい神父男を狙う。
 フェスティに当たらないよう調整しているため狙いが逸れてしまい、“落雷サンダーボルト”が雷光をきらめかせて砂をえぐった。

 こういうときこそ冷静になれ。

 “落雷サンダーボルト”は見た目の派手さと威力のおかげで牽制になる。
 みんな死んではいない。白魔法を唱えれば治癒できる。

「エリィちゃん、これを!」

 アグナスが“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”に浸食される頭を押さえながら、手のひらサイズの小瓶を投げた。
 弧を描いて飛んでくる瓶を片手でキャッチする。
 魔力ポーションか! さすがアグナス!

 その間に飛んできた魔法をアリアナが身体強化し、鞭で弾き飛ばす。
 かなりきついのか、彼女の額から汗がだらだらと流れている。

「我が家に代々伝わる秘伝の魔力ポーションだ! それを――」

 アグナスの言葉を待たずに蓋を開けて一気飲みした。

「一口……って全部?!」

 うおおおおおおおおおおおおおおおっ!
 これ酒じゃねえかよ!
 焼ける! 喉が焼ける!

「こほっ! けほっ、こほっ!」

 口から勝手に可愛らしい咳が出るけどまじ何十度ある酒だよ!
 ぜんぜん可愛げねえよ!?
 飲み込んじまったから腹も熱いっ!

「あああああああああっ」

 焼ける。身体が焼けるように熱い。
 思わず身もだえる。

「だ、大丈夫かい?!」
「エリィ…!」
「……っ」

 アグナスが心配した声を上げ、アリアナが飛び付いてくる。
 喉が焼けるみたいに熱くて何もしゃべれない。

「魔力の回復はすごいがキツイ酒なんだ! 気持ち悪いなら吐いたほうがいい!」
「私のポーションを…」
「……」

 アグナスは叫びながらどうにか敵の“ファイアボール”を身体強化した片手剣で切り裂き、アリアナがポケットから魔力ポーションを出そうとする。

「このままじゃやられる! アリアナちゃん、魔力ポーションを飲むんだ!」
「でもエリィが…」
「……」

 アグナスは飛んできた“サンドボール”を片手剣の腹でいなして進路を変え、“ウインドソード”を上段から振りかぶって迎撃する。
 ギィン、という鉄と鉄がぶつかる甲高い音が響き、アグナスがよろめく。

 アリアナは喉を押さえている俺を見て、魔力ポーションを握りしめた。

 それを飲んで“トキメキ”を使ってくれ、と言いたいのに、アグナスから貰った魔力ポーションのせいで声が出ない。

「くくくく……セラーの教えを乞わない愚か者ども。我が前にひれ伏し、セラーの慈悲にすがりなさい」

 アイゼンバーグがそう呟くと、より一層“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の禍々しい輝きが増し、紫色の光が生物のように纏わり付いてくる。

 かろうじて残っていた冒険者もあっという間にやられてしまい、立っている冒険者はついに俺とアグナスとアリアナだけになってしまった。

「ぐっ……なんて強力な……洗脳魔法…」
「エリィ…」
「………」
「さあフェスティ。セラーの教えをあの者たちへ伝えるのです」
「はい」

 無機質な声色でフェスティが“下の上”の身体強化でこちらに突進してきた。
 援護射撃の“ウインドカッター”と“ファイアボール”を、下っ端っぽい魔法使いと指揮官の神父が撃ってくる。

「ちぃっ!」
「ダメ……!」
「………」

 アグナスとアリアナがなんとか二つの魔法を迎撃したが、フェスティへの攻撃が間に合わない。
 フェスティが目の前へきて、ぼんやりした表情のまま、ショートソードを上段から振り下ろした。

「エリィちゃん!!!」
「エリィよけてっ!!!!」
「………」

 鋭い刃が当たる。
 そう思ったそのときだった。

 フェスティのショートソードが、俺の目の前でぴたりと停止した。

「な……?!」
「エ、エリィ……?!」

 自分の両手が、フェスティの握っているショートソードをがっちりと真剣白刃取りしていた。

 ふっふっふっふっふっふ…。
 はっはっはっはっはっはっはっはっは!
 この天才小橋川、伊達に時代劇ドラマを毎週かかさずチェックしてねえぜ。

 わずかばかり驚いたのか、フェスティの幼さが残る顔がぴくりと反応する。
 これにはアイゼンバーグも驚いたらしく、眉間に皺を寄せている。

 まあ、別にこんなのね、この天才にかかれば造作もないことなんだよ。



「白の女神エリィちゅあん! 悪を討つため、砂漠の大地に降ーーーー臨ッ!」



 エリィが絶叫した。
 そりゃもう喉がはち切れんばかりに叫んだ。


「えっ……??」
「え……??」


 アグナスとアリアナが心底驚いて、口をあんぐりと開けた。


 ええええええええええええええええええっ!?


 ここにきて勝手に叫ぶのまじやめようねエリィちゃん!
 一番びっくりしたの俺だわ俺っ!!
 何よ「悪を討つため」って?!
 何よ「降ーーーー臨ッ!」って?!
 お兄さん恥ずかしくてもうお嫁にいけない!


―――ッ!!!!?


 ボグッ、という嫌な音がしてエリィの蹴りを受けたフェスティが後ろへ吹っ飛んでいく。

 うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!
 ちょっと待て!!
 勝手に足が動いてフェスティに蹴り入れてる?! 
 思いっきりフェスティ蹴り飛ばしちゃったよーーい!

 まじもーこれ何なの?!
 酒癖悪い?! まさかのエリィお嬢さん酒癖めっちゃ悪いパティーン?!

 オッケーオッケー落ち着いて考えよう。
 ビークール。BE・COOL。クールビズ。半袖短パンノーネクタイ。

 じょぶじょぶ大丈夫。向こうも身体強化してるから。
 きっと、たぶん。

 ともあれ魔力は回復したし、いくぜ。
 おりゃああああ!

 さらに飛び出す天才小橋川アンド宇宙一優しき美少女エリィ。
 あーなんかめっちゃ気分いいかも。

 これ完全に酔ってる? 酔ってるよなぁ?
 最高のきぶぅん。
 絶好調ナリ! 魔力満タン!

 フェスティが素早く後退するの、いい判断。
 でも俺は突撃だぜっ。
 おしおきだ!

「おしおきよーーーーーっ!」
「な、なんだあの娘! 急にっ!」
「バカ、魔法を撃て!」

 下っ端魔法使いと指揮官神父が慌てて杖を構えるけど無駄無駄。

「“ファイアボール”!」
「“エアハンマー”!」
「それっ。えいっ」

 炎の玉を最小限のステップでかわし、空気の拳にこちらの拳打を合わせて相殺する。

「な……!」

 指揮官神父の右横へ回り込み、右拳打をわき腹へ一発ぅ。

「う゛ッッ!」

 さらに左拳打を腹の中心へぶち込んで内臓をかき回すぅ。

「ぐほわぁっ!」

 そんでもって身体がくの字に折れたところへ脳天狙ってかかと落としぃ。

「ひぎいっ!」

 見たか、十二元素拳「火の型」!
 かかと落としで見えたであろうパンツは敗北への選別だ。

「それそれそれそれそれそれぇ!」
「はひはひはひはひはへはひぃ!」

 ちょちょちょちょちょちょーーーーーーっとエリィお嬢さぁぁん?!?!
 どんだけ攻撃的になってんのまじでぇ?!
 勝手に他人の背中を踏みつけるのやめようね!
 もー本気でびっくりだよお兄さん!

 つーかエリィ酒癖わりいぞこれ!
 手に負えねえって!

 ってこいつむかつくから別にいいか。
 じゃあ俺もエリィに便乗してと。

「リピートアフターミィ」
「はひ?」
「それそれそれそれそれそれそれそれそれそれぇ!」
「はひはひはひはひはひはひはひはひはへはひぃ!」

 どうだ乙女に踏みつけられる気分はぁ!
 散々子ども達を苦しい目に合わせた罰だ!

 ふぅーーー、いい感じに指揮官神父がボロボロになった。
 ブーツの足形がおっさんのローブに無数に残って、死ぬ寸前のゴキブリみたいにぴくぴくしてる。
 グッジョブ、俺とエリィ!

 まさにほろ酔いまっただ中って感じだな。
 もーちょっと飲めばテンションマックスになるんだが、エリィは完全に酔っ払っているらしい。リアルに手癖が悪いぞこのお嬢さま。

 だが……もっと酒をよこせ。
 異世界に来て色々なぁ、俺だって辛かったんだよ。久々に酒を飲んで、このほろ酔いの気持ちいい感覚を思い出したぜ。

 むっ!
 それにしてもあの下っ端、かかと落としのときに絶対パンツ見たな…。
 エリィのパンツを見るなんて万死に値する!
 よし! おしおきだ!

「おしおきしりゃうんだかりゃっ」

 酔いが回って呂律が回らねえっ。
 にっこりと笑顔のまま砂の地面を思い切り右足で蹴り、一気に下っ端魔法使いへと肉薄する。

「なぜ? なぜ“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”が効かない…?」
「ア、アイゼンバーグ様っ!」
「逃がしゃないわよおっ」
「エリィちゃん酔ってる?」
「みたい……」

 アグナスとアリアナが心配半分、驚き半分といった声が聞こえてきたような気がする。
 うむ、あとで酒盛りじゃ。くるしゅうない。
 もっと酒をよこせ。

「捕まえたっ、アハ」
「ひいいいいいいいいいいっ」

 なんて酒のことを考えつつ、下っ端魔法使いの肩をがっちりと掴んだ。
 そこにフェスティが無表情のまま身体強化で突っ込んでくるが、下っ端を盾にしてガードする。
 バックステップでフェスティがアイゼンバーグの元へと下がった。

 では、異世界初公開。
 新たに考案したオシオキを下っ端くんにプレゼントしようじゃあないか。

「魔法のおべんきょ楽しいなぁ~」
「放せ! 放せええぇぇぇぇっ!」
「じたばたしてもダ~メッ。身体強化してるかりゃね」
「酒くさっ!」
「はい、ご一緒に♪」

 身体強化を切って、一気に魔力を練り、落雷魔法へ変換。
 そして開放“電打エレキトリック”!

「エ♪」

――バチィッ!

「ペッ!」

「レ♪」

――バチィッ!

「ペッ!」

「キ♪」

――バチィッ!

「ペッ!」

「トリィィィィィィィィィィック♪」

――バババババババババババチィッ!

「ポペエエエエエエエエエエエエエッ!」

 お勉強を頑張る下っ端がいい感じに電撃を浴びてアヘアヘしている。
 うんうん、やっぱ何事も努力が大事だよな。
 俺がさぁ、日本にいたときもさぁ、みんなちゃーんとやってたよ。
 一生懸命勉強して仕事がんばったもんなぁ。でもオンとオフも大事だぜ!

 そっかー。そうだよなー。
 これじゃ足りないか……。

「それりゃもう一度。アハッ」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「りぴーとあふりゃーみぃ」
「ひい!」

「エ♪」
「ペッ!」

「レ♪」
「ペッ!」

「キ♪」
「ペッ!」

「トリィィィィィィィィィィィィィィィック♪」
「パペエエエエエエエエエエエエエエエエエップ!」

 ババババババババババババババチバチィッ!
 電撃音が静まりかえる魔改造施設の中庭に響く。

 下っ端の髪型がアフロヘアーに変わって皮膚がこんがりと焼けたので手を放すと、建造物が倒れるように、ゆっくりとぶっ倒れた。

「いい子いい子。お勉強はたのしゅいわねぇ~」
「セラーの威光に跪け! セラアァァァァァァァァァル!」

 アイゼンバーグが額に青筋を浮かべて杖を掲げ、訳の分からない叫び声で魔力を増大させた。
 うっとおしい紫色の光が足元に絡みつき、得体の知れない異物が頭の中へ勝手に入ってこようとする。
 そんなもんは今のほろ酔いのハッピーさで塗りつぶす。
 全員を守るんだ。
 ここでやらないで、誰が男だ。

「それそれそれそれそれそれそれっ!」
「ほげふげほげふげほげふげほげぇ!」

 ちょっと待ってーちょっと待ってーお嬢さぁぁぁんん!!!?
 足が勝手に動いて思いっきり相手の背中踏んづけてるんですけどパート2!

「それそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれっ!」
「ほげふげほげふげほげふげほげふげほげふげほげふげほげぇ!」

 だぁーーーーーーーーーーーーやめんかこの酔っ払いぃっ!
 横! 横からフェスティが斬り込んできてんだよぉい!

「むむっ」
「ほげぇぃ………」

 よし、やめてくれた。いい子だエリィ。
 でも下っ端の背中の上に、さも当然ですって感じで乗るのやめようね。

「セラーの教えです」
「―――ッ?!」

 眼前に迫っていたフェスティの袈裟懸けを軽いステップで躱し、斬り上げをひねってよけ、スピード重視の打ち下ろしを、右足、左足、とツーステップで華麗に回避しつつ、懐へ飛び込む。

 頭が冴える、視界はクリア、オールグリーン発射オーケー!

 剣士との戦いは懐に入ればこちらの勝ち。中距離で攻撃され続ければこちらの負け。ポカじいの教えのとおりに動く。
 でも残念。フェスティは攻撃しねえんだよーい。

「“電衝撃インパりゅしゅ”!」

 フェスティの懐へ滑り込み、安全地帯を確保して身体強化を切ってアイゼンバーグへ“電衝撃インパルス”を撃ち込んだ。
 それと同時に再度身体強化をかけ、攻撃される前にフェスティの懐から飛び退いた。
 ふっ、見たか。この蝶のように舞う俺とエリィの姿を。

「なんだと…!」

 アイゼンバーグはあわてて“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の行使をやめて身体強化に切り替え、ごろごろと砂の大地を転がった。
 “電衝撃インパルス”が奴の身体をかすめて後方の壁に激突し、稲妻を放射線状に撒き散らして施設に無数のヒビを入れた。

 アイゼンバーグの魔力供給が絶たれたため、紫色の禍々しい魔法陣が足元から消える。
 フェスティはアイゼンバーグの元へ戻り、安否を確認した。

 にしてもアイゼンバーグめ。
 “電衝撃インパルス”を躱すとは妙に勘のいい野郎だ。

「アリアニゃ! アグネスぅ! いみゃのうちに魔力ぽーちょんを飲みなさぁい!」
「お、オーケーだ!」
「うん…!」

 アリアナとアグナスに指示を飛ばした。
 “強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”のくびきから解放された二人が、持っていた魔力ポーションを開けて一気にあおる。

 ちぃっ、アグナスちゃん、もうあの魔力ポーション持ってねえじゃねえか!
 あとで酒盛りしようと思ったのにYO。
 セイ、ホーオオゥ。

「アグニャスちん、にゃんでさっきの魔力ぽーちょん持ってにゃいのよ」
「え……? あ、あれはね、秘伝のポーションなんだよエリィちゃん」
「あるのかにゃいのか聞いてりゅんだけろ」
「ごめん、もうないよ!」
「にゃんでよ~ぷんぷん」

 い、いかん。
 ほろ酔いでつい「ぷんぷん」とかふざけたことを言ってしまう。

「“落雷さんだぁぼりゅと”!」

 ピカッ、と雷光がきらめいてアグナスの真横に突き刺さり、砂の地面を爆散させた。

「うわ!」

 ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとエリィお嬢さまぁぁぁぁぁっっ?!?!
 酒がねえからってアグナスちゃんに“落雷サンダーボルト”撃っちゃダメ!
 まじでダメ! ダメダメダメダメ!
 謝らなければ! 一刻も早く!

「ごめんにゃさい!」
「ははは……いいよ、うん」

 思い切り頭を下げると金髪ツインテールが勢いよく一緒についてくる。

 そんで顔を上げたときに視界へ飛び込んできた、アグナスのすべてを諦めたあの遠い目ね……。
 心に突き刺さるんですけど……。

 もうどんだけー。
 どんだけエリィ酒癖悪いのー。
 禁酒! 禁酒令発動!
 これ以上飲んだら何するかわからん!

「酔ったエリィかわいい」

 アリアナがそんなことを呟いている。
 エリィが酔っ払っているせいでめちゃくちゃじゃねえか。

 そして勝手に頬を膨らませないでくれますエリィさん。
 お酒はもうないんです。それは事実なのです、はい。

 頬を膨らませたまま、アイゼンバーグを睨みつけた。
 続いてフェスティ、後方で倒れているジャンジャンを見つめる。

 アリアナとアグナスが魔力ポーションを飲みながら身体強化で駆けつけ、俺の両隣に並ぶ。

 気を取り直したらしいアイゼンバーグが杖を構え、フェスティがショートソードを鞘へ収めて杖を引き抜いた。

 しばらくの沈黙。

 が、その短い沈黙はすぐに破られた。
 大きな悲鳴が聞こえて大地が揺れる。
 施設の壁が粉々に吹き飛んで、雪崩のように崩落しながら魔改造施設の内部をむき出しにし、もうもうと上がる煙と砂に包まれた“何か”が現れた。

 全員、その異形なモノへと視線が釘付けになった。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
お久しぶりです!
何度か書き直していたら更新に二週間もかかってしまいました・・・・。
お待ち頂いていた読者の皆さま、申し訳ありません。

第三章も残すところあとわずかです。

今後ともご愛読の程、何卒よろしくお願い申し上げます♪
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ