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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第一章 エリィとイケメンエリート

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第6話 エリィの日記その3

『○○年×月△日

 クリフ様がいなくなってしまった。
 図書室の奥にある歓談室には書き置きがあった。走り書きで「エリィごめんね」とだけ書かれていた。くずれた字体はクリフ様が書いた物に間違いなかった。私は混乱した。学校中を探し回った。グラウンド、屋上、食堂、演習場、職員室、魔法実験室。クリフ様のいた四年生のライトレイズの教室に行ったときは、なんだこのデブはという目で見られたけどそんなの関係ない。
 いない。クリフ様も執事もいない。
 私は昼休みが終わって始業時間になっても、歓談室にあった置き手紙を見て、学校中をうろうろとした。
 嫌な予感がしていた。本当はわかっていた。
 クリフ様はセラー教皇の孫だ。次男だとしても、地位は私より遙かに高い。あの方の祖国でなにかあったのかもしれない。
 私は心配でどうしていいかわからず、書き置きを胸に抱いて何度も泣いた。
 泣いたってクリフ様は戻ってこない。そんなことはわかっている。

 放課後になって校長室のドアを叩き、校長に行方を聞いた。校長は白いひげをいじっているだけで何も教えてくれない。
 私はクリフ様が住んでいる、町で一番大きな教会に行って神父に聞いた。笑うだけで何も答えてくれない。
 とにかく教会の店や民家に入って、所在を聞いて回った。誰も知らない。クリフ様の存在を知っている人も少ない。あんなに目立つ人だから、誰か知っていてもいいのに。
 夜になると教会騎士が私を捕まえて、不敬な行動を慎むようにと、その区域から放り出されてしまった。

 あの笑顔をこんなに簡単に失ってしまうとは思っていなかった。いつかはお別れが来るとはわかっていたけど、突然すぎて心がついていかない。胸が張り裂けそうだ。
 クリフ様がいなくなるなんて私には耐えられない。

 私は誰かになぐさめて欲しくて孤児院に行った。

 孤児院はなくなっていた。

 戦争でもあったかのように、建物が全壊し、燃え尽きていた。消火活動をしている警備団しかいない。
 跡形もなくなっている。
見間違いかと思って来た道を引き返した。間違っていなかった。そこには孤児院があったはずだった。
 私はその辺にいた警備団のひとを捕まえて事情を聞いた。
 盗賊の襲撃があって子どもは全員さらわれた、と言った。
 もうなにがなんだかわからない。
 いない。誰もいない。
 私は走った。
 町の外へと走った。
 デブだから何度も転んだ。
 起き上がって走った。
 誰もいなくなっていた。
 途中、見廻りをしている警邏隊につかまった。事情を話すと、家に帰れと言われた。
 帰れないと言ったら、馬車に乗せられて、家に無理矢理護送された。
 お父様とお母様は私の泥だらけになった姿をみてカンカンに怒っていた。そんなことはどうでもいいのに。

 頭の中がぐるぐるしている。なんでこんなときに日記を書いているのかわからない。
 クリフ様と子ども達がいないのに、私はなんで自分の部屋にいるんだろう。
 わからない。つらい。かなしい。
 クリフ様。クリフ様。誰か助けて』


 走り書き、というよりは殴り書きだった。
 最後の一行は彼女の几帳面さからほど遠い、書いた文章の上から書かれたものだった。
 俺はその先が気になり、動悸が激しくなっていることも気にせずに太い指でページをめくった。

 次のページは、前のページの比ではないほどに、荒れていた。なんとか字の体裁を保ってはいたが、長時間彼女の字を読んでいなければ判別は難しい。それほどの殴り書きだった。


『○○年×月△日

 リッキー家の長男ボブ!
 許せない!
 孤児院がなくなったのはあいつのせいだ!

 檻つきの馬車に乗せられていく子ども達を見た!
 私は見たんだ!

 あいつは燃えた孤児院を見て笑っていた!
 あいつの父親は孤児院の管轄だ!

 絶対に何かやったに決まっている!
 許せない!』


 なんてことだ!
 あの大人しくて優しいエリィが、他人のことを「あいつ」と書くなんて信じられない。どんなにいじめられても、ひどい言葉は今まで一言も出てこなかった。ここまでエリィが言うなんて、リッキー家の長男ボブは何をしたんだ。
 しかも子ども達が、檻つきの馬車に乗せられていた?
檻つき、ということは護送車のようなもので、もちろん逃げられないようにするためだろう。
 これは俺としても許せないな。事実関係を確認した後、立ち直れないほどの罰を与えるべきだ。

 俺はさらにページをめくる。

『町の裏路地でローブを着た老人にあった。
必要な物を召喚する魔法陣の書き方と、落雷魔法の呪文を教えてもらった。
どのみちもう私には何もない。
魔法が成功すれば、クリフ様が召喚できるかもしれない。
落雷魔法はボブに使おう。
なんてね。
こんな複合超級魔法が私にできるはずはないのはわかってる。
ダメだっていいんだ。
もう、いいんだ…。
エイミー姉様ごめんなさい。
クリフ様ごめんなさい。
ああクリフ様。最期に会いたかった。
また図書室で一緒に本を読みたかった。
あなたの包み込むような笑顔を見たかった。
クリフ様に、あいたい…』


 エリィ! なんて可哀想な子なんだ。
 日記がここで終わっている、ということはエリィはこの後、雷に打たれてしまうのだろう。雷雨の日、この世のすべてを掻きむしるかのように泣き叫んでいた彼女の悲痛さが、日記を通して俺の心に突き刺さった。

 次のページを開くと、茶色の羊皮紙が日記からはらりと落ちた。俺は椅子からはみ出たぜい肉を手すりから引き抜いて、転びそうになりながら拾い上げる。紙には、円を基調とした複雑な文様が描かれていた。

 青いインクでまず円が描かれ、その内側に均等な大きさの円が四つ並んで描かれている。四つの円の内側にはびっしりと文字が、メビウスの輪のような形で浮かび上がっていた。文字なのか模様なのかは判断がつかない。
 これが日記に書いてあった「召喚する魔法陣」というやつだろうか。
 裏面には何も描かれていない。

 そういえば、なーんか視界が悪いと思ったら、自分の目から涙が流れていたことに気づいた。
 あれ、なんでだ。
 寝間着の袖でぬぐっても、すぐにあふれ出てくる。俺の意志とは無関係じゃねえか。ひょっとし……エリィが泣いてるのか?

 深呼吸すると、ようやくおさまった。
 窓の外は明るくなっていて、小鳥が鳴き、淡い朝の太陽が部屋に差し込んでいた。俺は日記の後半に他の魔法陣が挟まっていないか窓枠に寄りかかってぱらぱらとページをめくり、今後の計画について考えていた。寝不足の体に淡い太陽の光があたって心地良い。

 とりあえずやることは決まった。

 その1、ボブに復讐する。
 その2、孤児院の子どもを捜す。
 その3、クリフを捜す。
 その4、ダイエットをする。
 その5、日本に帰る方法を探す。(元の姿で)

 エリィの無念を晴らしつつ、日本に帰る方法をダメもとで探そう。
 ここまできたらもはやエリィは他人じゃない。彼女のやりたかったことをやりながら、自由に生きてみるか。まあ、デブでブスだけど、それはイケメンエリート営業の俺にとってちょうど良いハンデだろうよ。いやあ、やっぱり俺って超プラス思考ーっ。

 日記にはさっきの魔法陣しか挟まっていなかったが、最後のページに走り書きで、落雷魔法の呪文が書いてあった。
 おお、魔法本当に存在するんだな。すげー。

落雷サンダーボルト
 やがて出逢う二人を分かつ 
 空の怒りが天空から舞い降り 
 すべての感情を夢へと変え
 閃光と共に大地をあるべき姿に戻し 
 美しき箱庭に真実をもたらさん』

 めっちゃ恥ずかしいんだけど、大丈夫かこれ?
 魔法ってこんなにめんどくさいもんなの?
 うわーこれ絶対に人前で言うの嫌だわー。

 まあでも誰もいないし、試しに読んでみるか。

 俺は咳払いをして、落雷の呪文を読み上げた。

「やがて出逢う二人を分かつ…」

 俺は読んだ瞬間に、これは「やばい!」と思った。
 やべえ! まずいぞこれまじでやべえ!
 今まで感じたことのない力が、へその下辺りから体中を駆け巡って、今にも全身から弾け出そうになる。飲み過ぎてゲロを吐きそうなときに、必死にこらえる感覚と少し似ているが、あれの何倍も暴発力がある。しかもそれが全身だ。指の先、胸、頭、のど、すね、肘、どこか出口を見つけて、力が飛び出そうとする。
 俺は日記を握りしめながら、耐える。
 呪文の詠唱をやめる、という選択肢が頭をよぎるがすぐにかき消す。
 途中でやめたら、たぶん全身がばらばらになる。

 最後まで読めるかこれ?
 早口で終わらそうにも、一文字発するごとに、口が粘土になったみたいに鈍く、動かなくなってくる。
 やべえぞ。これが魔法ってやつか。
 落ち着け、落ち着け!
 やれる。スーパー営業で天才でイケメンの俺にできないはずがない。
 気合いで文字を読む。
 言葉を口に出すと体内の力が増大していく。爆発しそうになる熱い「何か」を強烈な意志で食い止め、抑えつける。

 なんとかして最後の一文字を吐き出すと、体が嘘のように楽になって、凝縮された力がピンボールのように全身を跳ねていた。
 直感で理解した。

「落ちろッ」

 空気を切り裂く轟音が響き、空から叩きつけるようにして落ちた雷が、病院の庭にあった十メートルほどの木を真っ二つにした。
 近くの木にいた鳥がギャーギャーとわめきながら一斉に飛び立っていく。
 何事か、と病院の職員と警備員、近所の人が、真っ二つになった木の周りに集まってきた。

 すみませーん。魔法練習してたら、まぐれでできちゃったんですぅ。ごめんなさーい。
 デブの俺が言っても絶対に許してくれないな。

 これは…
 洒落になんねーな…

 どういう言い訳をしようか考えていると、体が急にダルくなり、その場にへたりこんだ。
 猛烈な睡魔に襲われて、落雷魔法がとんでもない魔法、いや、魔法とすら呼ばれていないことを知らないまま、俺は絨毯の感触を頬で感じたところで意識を失った。

序章終了です。

これからスーパーイケメンエリート営業小橋川ことエリィの本格的な活動がはじまります。
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