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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第23話 イケメン砂漠の誘拐調査団・準備

 感電から復活したポカじいが、『空房の砂漠』のルートが安全かの確認をしてほしいとアグナスに頼まれ、まあ仕方ないのう、といった様子で引き受けた。スケベじじいは尻を触ったことなど忘れたような顔をし、何食わぬ様子で会議の輪に加わる。

 一方で俺は、白魔法を使え、640点というBランクに近い強さを持つので、特別なポジションに据えられることになった。

 今作戦で白魔法を使えるメンバーは俺、白耳のクリムト、北東の治療院から名乗りを上げた有志一名、計三名だ。
 この三名のうち、白魔法中級“加護の光”を使用できるのは俺のみ。さらに浄化魔法“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”を行使でき、子ども達の治癒と怪我人の看護など治療の要となるため、最優先で護衛され、魔改造施設での戦闘を極力避けるようにと厳命された。
 ただ後方支援は嫌だったので、主要メンバーに入れてくれとおねだりして何とか潜入班に入った。だってさ、むかつく敵さんを十二元素拳でぶん殴りたいじゃん。
 ちなみに、ポカじいは本当に困ったときのみ助けを乞う予定なのでカウントしていない。

 調査団は魔改造施設に到着後「潜入班」と「待機班」に別れる。

 「潜入班」は子ども達を見つけ、抵抗された場合無力化して脱走させる。交戦する可能性が非常に高い。
 「待機班」は保護した子どもを搬送する馬車の護衛と退路の確保だ。

 『空房の砂漠』の攻略ルートは砂漠地帯のため、物資の現地補給ができない。食える魔物も砂漠にはそんなにいないらしいので、現地で肉をゲットして参加者全員に配給する、というのはいささか厳しい。
 生命線である物資を載せて子どもたちを搬送する馬車の護衛は重要なので、統率の取れたジェラの兵士達が中心になって行ってくれ、「潜入班」は冒険者中心、「待機班」はジェラの兵士中心、という割り振りになった。
 馬車は合計で十台、ジェラ領主とジェラ一番の豪商から出資される。


   ○


 会議の翌日、俺とルイボン、アリアナ、護衛隊長バニーちゃんの四人はオアシス・ジェラの商店を回って物資発注をした。

 白の女神エリィの俺、狐美少女アリアナ、髪型を変えて劇的イメチェンに成功し、可愛くなった領主の娘ルイボン、信頼の厚い護衛隊長チェンバニー、この四人は物資調達にうってつけのメンバーだ。事情を話すと商店の旦那達は、ほぼ無料で物資を回してくれる。

 これはプレゼンするまでもない完全なイージーモード。

 まあ商人からしたら謎の盗賊団なんて潰してくれたほうがいいに決まってる。それに、五年前の事件でかなりの痛手を被った店は多く、腹に据えかねている面もあるだろう。利害と感情が一致した投資だな。

 ポカじいの水晶によると八十名の子どもが施設に捕らわれているので、帰路一週間の食糧、衣類、武器など人数分。プラスして冒険者、ジェラ兵士たちの物資を往復二週間分。合計すると、八十人分の片道分物資、冒険者六十六名と兵士五十名の往復分物資が必要になるので、結構な量になる。というか、見ているだけでわくわくするような量の荷物が馬車へと搬送されていくので、めっちゃ楽しい。

 地球と違うところは、魔法属性を考慮に入れて部隊が編成されることだ。
 今回、熱中症や脱水を回避するため水魔法を使える人間を必ず各班に一人配属しており、水魔法適性の人間は重宝される。
 水を馬車に積まないだけでもだいぶ楽できるよな。

 これがもし地球だったら、八十人プラス百十六人の水を馬車に積み込むことになる。しかも途中補給はできない。成人男性が一日に必要な水は二リットルと言われているから、それを元に計算すると……やばっ。とてつもない積載量になるな。考えるだけでおそろしい。砂漠を横断するのに水を載せないってのは異世界ならではだな。やっぱ魔法便利すぎんだろ。

 あと面白いのは馬ね。馬っていうか、ラクダ?
 馬とラクダが合体したような謎の生物が砂漠の旅にはかかせないらしく、ラクダよりも歩行速度が速く、燃費がいいので、町のいたるところで見かける。見た目は、胴体がラクダで、顔が馬って感じ。でもところどころラクダに馬のパーツを貼り付けたような、日本人の俺からしたら不可解極まりない見てくれをしている。簡単に言うと、こぶつきラクダが馬の顔をし、太もも部分が馬の太ももになっている。

「こいつァ、パンチンピョンテ・パラピャンチャパパレ・ポラポンチンパリロっていう名前だ」

 商人から手に入れたウマラクダを引きながら、無精髭をさすりつつバニーちゃんが言った。

 ながっ!
 憶えらんねえよさすがの俺でも。
 …どうして砂漠のネーミングってこうも変なんだ?

 不思議なのは、異世界なのに地球と酷似している生物が多々存在していて、しかも呼び方が同じってところだ。まあ転生してから脳内で言葉が都合良く変換されているので、これに関してはあまり深く考えないほうがいいだろう。便利であれば、なんでもよしっ。

 どうせこっちの世界でも、馬って呼ばれている地球とまったく変わらない馬の生物と、ラクダって言われているまんまラクダみたいな生物はいるんだし、ウマラクダって命名でよくねえ?

「名前が長いからほとんどの連中がウマラクダって言ってるがな」

 結局、ウマラクダじゃねーか…。

「あらぁそんな変な名前があったのね。知らなかったわ」
「ルイス様、ウマラクダはお好きですか?」
「好きでも嫌いでもないわね」

 ルイボンが競走馬ほどあるウマラクダの身体を眺めながら、興味なく答える。

「そうでございますか……。エリィちゃん、ウマラクダの顔を見てみな」
「どうして?」

 そう言いつつ、ウマラクダの前に回り込んで、長いウマヅラを見つめた。

「すきっ歯だろ?」
「ほんとね」

 ウマラクダが「ふっ。俺のことを呼んだかい」といった表情でにかりと笑いかけてきた。
 子どもの拳ほどある二本の前歯が、見事なまでのすきっ歯で口から生えている。おまけに出っ歯、しかも鼻の穴がやけに大きく、思わず吹き出してしまいそうなひょうきんな顔をしていた。端的に言うならば、すっげぇブサイクだ。

「すきっ歯であればあるほど優秀って言われているんだよ。こいつァなかなかのすきっ歯ぶり。いいウマラクダだ」

 良馬を見つけた野武士のように、バニーちゃんが満足そうにウマラクダの腹を叩いた。ウマラクダは仕方ねえ奴だな、と今にも言いそうな顔で、ぶひんといななく。

「エリィ…旅の途中おにぎり食べれる?」

 アリアナがブサイクなウマラクダなんてどうでもいいのか、話をぶった切って、捨てられた子犬のように上目遣いで覗き込んできた。
 あ、そういやおにぎり問題のことを忘れてたな。
 砂漠で米か…。釜と火があれば大丈夫か。水は“ウォーター”で出せば問題ないだろうし。あとでポカじいに言ってもらっておこう。

「大丈夫よ。ポカじいにお米を貰っておきましょう」
「うん」

 アリアナが狐尻尾を扇風機みたいに振って口角を上げたので、耳をもふもふしておく。

 砂漠の暑い陽射しを受けながら、ウマラクダを引いて北の商店街へ向かい、大きな商家や武器屋を回って物資を次々と発注し、途中ケバーブで腹ごしらえをしつつお出かけでテンションマックスなルイボンのマシンガントークが炸裂する。ある程度、調達が終わったところで冒険者協会へ足を向けた。

 アグナスら冒険者達はポカじいから水晶で見た地形を聞いて魔改造施設へのルートを明確にし、馬車の確保や武器の調達、商人から輸送される物資の分配、誘拐にあった家族から子どもの情報を吸い上げなど、なかなかに忙しい様子だ。

 俺たちが部屋に入ると、みんな顔を綻ばせる。
 鎧を着たむさ苦しい男達にとって、俺とアリアナとルイボンは、爽やかな清涼剤のようなもんだろう。

 アグナスが手伝いで会議室に来ている受付嬢の猫娘に水を人数分頼み、こちらに向き直って笑いかける。

「エリィちゃん、物資の調達は順調みたいだね」
「ええ、おかげさまで順調よ」
「出資を渋っていた商会からもオーケーはもらえたかい?」
「もちろん」
「ははは、やっぱりね。あそこの大旦那は女性にとことん弱い」
「あらやだわ」
「君がいけば首を縦に振るだろうと思ってね。もちろん、ルイスも」

 突然、アグナスにウインクをされたルイボンは、瞬間湯沸かし器ばりに一瞬で顔を真っ赤にした。

「も、もちろんですわアグナス様! 領主の娘に恥じないお願いをしてきたつもりですわよ!」
「ルイスは髪型を変えてぐっと可愛くなったからね」
「はぅ………あの…ありがとう…ございますアグナスさま…」

 ルイボンは恥ずかしさのあまり言葉尻が小さくなった。

「遠征中は町のことを頼んだよ」
「お任せ下さい! わたくしがお父様と一緒に、しっかりとジェラをお守りしますからね! 安心してご出立くださいまし!」
「後顧の憂いなしだね」
「当然ですわ!」

 自信ありげに胸を張るルイボンは、近頃勉強を頑張っているらしく、毎日が充実しているそうだ。優秀な補佐がいれば、なんだかんだいい領主になりそうだな。


  ○


 出発の前日。
 早朝、冒険者協会に集まり、誘拐調査の最終確認を行った。持ち場と役割の確認を済ませ、各自準備に余念がない。熟練冒険者らは魔物や報酬の取り分をしっかりと決め、後々もめ事にならない配慮までしているようだ。

 俺とアリアナ、ジャンジャンが冒険者協会を出ると、コゼットが砂漠の陽射しを避けるようにして果実ジュースを売る屋台の陰で待っていた。
 コゼットは俺たちを見つけると、腕がちぎれんばかりにぶんぶんと振って駆け寄ってくる。案の定コケそうになったので、両足に“下の上”身体強化をかけて飛び出し、彼女の体を抱きとめた

「セーフ」
「きゃっ…あれ? 転んでない」
「急いで走っちゃだめじゃない」
「ごめーんエリィちゃん」
「いいわよ。それよりどうしたの?」

 抱きとめた手を離し、コゼットをしっかり立たせる。

「エリィちゃんが言っていたズボンと上着ができたの! 間にあってよかった~」
「まあ! お家に置いてあるの?」
「ジャンの家に置いてあるよ」
「それは嬉しいわね。いきましょ」

 俺、アリアナ、コゼット、ジャンジャンは連れだって冒険者協会から西の商店街へ向かい、獣人三バカトリオのどうぞどうぞを見て、知り合いと挨拶をしつつ足を進める。フライパンに卵を落とせば目玉焼きができそうなぐらい、照りつける陽射しが強い。

 西の商店街は七日間戦争以降、非常にいい賑わいを見せている。ポイントカード交換所には暑い陽射しの下で列ができていた。

 商店街の奥へと進み、置物のカエルが吐く謎の液体をよけ『バルジャンの道具屋』に入る。
 店内ではガンばあちゃんが頑張って店番をしていた。

「ハローガンばあちゃん」
「はろぉ。わしゃがんばってるよぉ」
「うふふ。知ってるわ」
「もうすぐお昼ご飯にするからねぇ」
「ありがと。すぐ手伝いに行くからね」

 店から家の中へ入って二階に行き、ジャンジャンの部屋に入る。窓枠にハンガーが掛けられ、そこには日本で何度も着た、ジーンズとデニムシャツがぶら下がっていた。

 うおーっ、めっちゃ懐かしい!

「エリィちゃんの言ったとおりに作ったんだけどどうかな?」
「ありがとうコゼット! 試着してもいいかしら?」
「早く着てみて!」
「デニムシャツはアリアナ用よ」
「わたしの?」
「そうそう。絶対似合うと思ってね」

 そう言いつつ、デニムシャツを手にとってアリアナに合わせてみる。

「丈も袖もちょうどいい。生地も薄手のものを使っていて砂漠の旅でも使えるわね」
「着てみていい…?」
「いいわよ。じゃあ私も履くわね」

 ハンガーから細身のジーンズを取ってギャザースカートを脱ごうとする。するとアリアナが俺の手を取って入り口へと目を向けた。

「ジャン…あなたは男…」
「え?」
「このまま着替えを見るつもり…?」
「あ、ああ! いや別にエリィちゃんの着替えを覗こうとしていたわけじゃないんだ! ただ何となく流れで部屋から出て行きにくかったというか…!」
「退出と黒魔法、どっち…?」
「出ます! 出ます! 今すぐに、はいっ!」

 ジャンジャンがどたんばたん音を立てながら大慌てで部屋から出ていった。

「ギルティ…」
「ジャン…やっぱりエリィちゃんのことが…」
「コゼットそれは違うわよ。ジャンジャンは断じて私のことなんか好きじゃないわ」
「えーでもでもエリィちゃんって可愛いし…可愛すぎるし…」
「何言っているのよ。ジャンジャンとコゼットは昔からの仲でしょ? 私にはない絆がたくさんあるじゃない」
「絆なんて……」

 途端にコゼットは表情が暗くなり、スカートを両手で握りしめると、目の端から涙を流した。

「あらあら…何も泣くことないじゃない」
「ううん…違うのエリィちゃん……違うの」
「何が違うの?」

 俺とアリアナは左右から、そっとコゼットの手を取る。
 彼女の細い指は、肉食獣に睨まれ耐え難い恐怖と戦わなければならない小動物のように、小刻みに震えていた。

「私……もうどうしたらいいのか……みんなが盗賊団の根城に行くって聞いて……」

 しゃくりあげるコゼットはドクロのかぶり物を揺らし、様々な思いがせめぎ合う心の震えをどうにかして押さえようと下唇を噛む。だがその努力も空しく、震えは収まるどころか大きくなり、ドクロが床に転がり落ちた。
 俺とアリアナが必死になって強く手を握ると、コゼットはどこにそんな力があるのかわからないほどに、強く握り返してくる。

 そう。俺とアリアナ、ジャンジャンが魔改造施設の調査に行くと伝えてから、コゼットの様子がおかしくなった。表面上では平静を装っているが、心ここにあらずといった風体で、急に泣き出したりする。突然泣くのは、これが初めてじゃない。

 コゼットの心には不安と期待が入り交じり、自分でもどうしていいかわからず、桶に貯まった水が溢れるように感情の制御が効かなくなっている。昔、俺が感じたことのある絶望に近い気持ちを彼女も感じているのかもしれない。

 もしジャンジャンの弟、フェスティが死んでいたら?
 見つかったとしても五年も経っている。自分のことを憶えていてくれているのか?
 会いたい。でも怖い。生きている? 死んでいたら?
 生きていたとしてどんな状態になっている?
 あのとき自分が助けを呼んでいたら? それをフェスティに言われたら?
 知りたい。でも知りたくない。
 様々な葛藤、強い想い、愛する男の愛する弟への気持ち。

 コゼットは五年も自分を責め続け、それでもフェスティが帰ってきたときのことを思って彼が笑ったという変なファッションを一日もやめず、ずっとこのオアシス・ジェラの商店街で奇跡が起きることを待っていた。五年分の想いだ。どんな心情でどのくらいの嵐が彼女の中で吹き荒れているのか、想像はできても正確に言い表すことはできない。彼女が今どんなことを考え、どのような気持ちで待っているのか、俺にはわからない。ここで「わかる」と言ってしまうほど、自分は思い上がりではない。

 コゼットは誰もが認めるいい女の子だ。
 ちょっと思い込みの激しいところはあるが、真面目で思いやりがあって、誰にでも親切で、どこに出しても恥ずかしくない可愛らしい女の子だ。
 この遠征がどんな結果になっても、事を重く受け止めてしまう彼女には、誰かの助けが必要だろう。もちろんフォローの筆頭はジャンジャンであり、次に俺とアリアナの役目だ。この誘拐調査の結果は、コゼットのフェスティに対する思いへの最終通告になる。

 どんな結果であろうと、コゼットに結果を伝えるつもりだ。
 そうしないと彼女は前に進めねえ。ジャンジャンもだ。

「ごめんねエリィちゃんアリアナちゃん…いつもごめんね……」
「いいのよ」
「コゼット好き…。泣かないで?」
「うん…うん…」
「黒き道を白き道標に変え、汝ついにかの安住の地を見つけたり。愛しき我が子に聖なる祝福と脈尽く命の熱き鼓動を与えたまえ……“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”」

 白魔法中級、派生系レア魔法“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”が発動した。
 足元に幾何学模様の魔法陣が現れ、星屑みたいに輝く光の粒子が俺の体から溢れ出でゆったりと放出される。端から見ると、エリィの体のいたるところからわき水のように星屑が流れ出ているように見えるだろう。相変わらず白魔法はド派手だ。

 優しく念じると、星屑の群れがコゼットの全身を包みこんで、淡く点滅し、最後に瞬いた。

「ああ…」

 安堵のため息がコゼットから漏れる。
 “純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”を解除し、ゆっくりと手を離した。

 彼女の精神錯乱は魔法によるものではないので、根本的な解決にはならないが、一時的に心を落ち着かせることができる。この魔法は、アンデッドや不浄な対象を浄化する他に、感情の高ぶりを平静にしてくれる効果があった。浄化魔法がすげえと言われる由縁かもしれない。

「ごめんねエリィちゃん…こんな貴重な魔法を私なんかのために……」
「友達に使わないでいつ使うのよ」
「ありがとう」
「綺麗な魔法…」
「ちょっと派手すぎるのよねえ。こっそり使ったりするのは無理よ」
「私はエリィっぽくていいと思う…」
「あ、私もそう思う」

 アリアナとコゼットがお互いに顔を見合わせて笑う。
 エリィっぽいってどういうこと?

 しっかし隠密行動には完全に不向きな魔法だよな。何度か改良しようとしたが、どうやっても星屑がばらばら出てくるから無理だった。足元に思いっきり魔法陣が出ることも、どう頑張っても消せない。改良は不可能だ。


   ○


 コゼットがやっと落ち着いたので、ジーンズを試着して満足し、アリアナにデニムシャツを着せてもふもふしつつ、ガンばあちゃんとジャンジャン二人の手伝いをして昼ご飯を食べた。
 ジャンジャンはまだ冒険者協会に用事があるとのことだったので、俺たち三人は、ポカじいが戻ってくるまでコゼットの部屋で服を選んで待つことにした。

 ジーンズを手に取り、しげしげと眺めてみる。
 見事なブルーのスキニージーンズに仕上げたコゼットは縫製の才能があるのかもしれない。引っ張ってみても、ちょっとやそっとでほつれたりしなそうだ。
 うきうきしながら履いてみると、何だか懐かしさが心に去来した。
 尻がちょっときついがデニムートンの皮は伸縮性があるので、慣れると全く問題ない。ただ、ぷりんとした尻の形がこうも全面に出ると確実にスケベじじいが狙ってくるだろう。さらなる警戒をせねばならん。
 上はシンプルに白シャツでいい。
 にしても、尻、胸、足、全部のバランスが神がかってるな。何度見ても飽きない。しかも成長痛で膝がぎしぎしいってるから、まだ足が長くなる気がするぞ。スタイルよすぎだろこれ…。

 アリアナはコゼット特製の通気性のいい魔物の革を使った黒いミニスカートを履き、肌が透けないようにインナーの上から白い薄手のノーカラーシャツ。その上からデニムシャツを羽織って時計が見えるように軽く袖まくりしてもらった。腕にはアリアナファンの紳士からもらった一本百万ロンする、細工の美しいオシャレ腕時計をしている。スケベはきらい…でも時計に罪はない…とのこと。可愛らしさにどことなく高貴さを漂わせるアリアナの、カジュアルでありつつ女の子らしいフェロモンを放つ、デニムシャツコーディネートの完成だ。メイクはちょっぴり濃いめを要望し、靴は動きやすい脛まであるブーツを履いてもらった。
 いかん…。地面が割れてそこから石油がどばどば出て、速攻で石油王になって、左右からでっかい葉っぱみたいなやつでぴらっぴらの服を着たエロい姉ちゃんに扇がれ、わしが狐王国狐耳の王様フォックス・ザ・モッファーだ、ぐっはっはっは、と笑っちまうぐらい可愛い。俺に電流、走るっ。くそ、自分でも何言ってるかわかんねえぜよ。

 時間はあっという間に過ぎ、夕方になった。

「やれやれじゃわい。全くあのアグナスとかいう小僧はしつこくて敵わん…」

 ポカじいがぶつくさと文句を言いながらやっと戻ってきたので、ガンばあちゃんとアリアナ、コゼットで夕飯を作り、ジャンジャンが帰ってきたところで食卓を囲んだ。
 コゼットは健気にも「明日いよいよ出発だね」と言って楽しい雰囲気にしようとしている。

 ポカじいがアグナスに一勝負しようと散々持ちかけられ辟易した、という話をし、ジャンジャンが話題を変えて誘拐事件解決への意気込みを皆に伝える。アリアナがおにぎりを無心で頬張り、コゼットがジャンジャンに寄り添って野菜炒めを取り分けた。
 のんびりとした夕食の時間がゆっくりと過ぎていく。

「しかしエリィ。そのズボンはいかんともしがたい魔力を秘めておるのぉ」
「あら? デニムートンの皮って魔力付与されているの?」
「そうじゃ。尻ニストの心を呼び覚ます魔の力が込められておる」
「わかったわポカじい。もう二度と私に話しかけないでちょうだい」
「冗談じゃ! 冗談じゃぞい!」
「ギルティ…」
「賢者様、スケベさえなければ心から尊敬できるのに…」
「ポカじい、エリィちゃんに嫌われちゃいましたね!」
「わしゃがんばっとるよぉ」
「若い娘の考えていることはわしにはちぃとも理解できん! どうしてそんなにも尻を強調する服を着るんじゃい」
「オシャレでしょ?」
「斬新…」
「これでは生殺し! いや、生尻殺しじゃぞい!」
「意味のわからない下ネタを食事中に言わないでちょうだい」

 いつも通りのやりとりをして、夕食を終わらせ、食器の後片付けをしてからジャンジャンの家を出た。砂漠の夜空には地球の倍ほどある大きな月が、煌々と西の商店街を照らしている。

「エリィちゃん、気をつけてね! アリアナちゃん、エリィちゃんが無茶しないようにちゃんと見張っておいてね!」
「無茶なんかしないわよ」
「ん、まかせといて…」
「それからジャンのこともお願いね!」
「おいおいコゼット。俺が二人を守るよ」
「ジャンジャン、頼りにしてるわよ」
「ジャンは頑張る男…」

 アリアナがコゼットとジャンジャンに向かってびしっと親指を立てた。

「二人が無事に帰ってくることを祈ってる。本当はお見送りしたいんだけど…」
「領主が見送りは不要、ってお達しを出しているからね。仕方ないわよ」
「コゼット、元気で…」
「うん! 私は大丈夫。だから二人とも思いっきり盗賊団をこらしめてきてねっ」
「待たせたのう」

 お隣のバー『グリュック』で酒を買い込んだポカじいが、ほくほく顔で俺たちに合流したので、外まで見送りに来てくれたコゼット、ジャンジャンに手を振り、身体強化を全身にかける。

「じゃあまたねコゼット!」
「ちゃんとご飯食べるんだよ…」
「しばしの別れじゃ」

 両手を胸に当て、コゼットはこちらを見つめている。
 その横でジャンジャンが心配そうにコゼットの様子を見ながら、俺たちにうなずきかけた。

「エリィちゃん、アリアナちゃん、ポカじい…。必ず帰ってきてね…」
「大丈夫よ。私は由緒正しきゴールデン家の四女、エリィ・ゴールデン。約束は必ず守るわ」
「私も…」
「わしゃ酒が飲みたいから帰ってこざるを得ないのう」

 もう一度コゼットに手を振り、“下の上”の身体強化で一気に駆けだした。


   ○


 俺とアリアナはポカじいの家まで戻ってきて、風呂に入り、寝る準備万端でベッドに入った。ルイボンにもらった化粧水をしっかりと顔につけ、ストレッチも済ませてある。

 明日は五時にジェラの北門に集合なので、早めに寝ておかないとつらい。
 アリアナはルイボンの専属メイドからもらった化粧品の確認が終わったらしく、当然のように俺のベッドへ潜り込んできた。
 月明かりが窓から差し込み、布団からはみ出た狐の尻尾を照らす。

「エリィ…」

 アリアナが狐耳をぴこぴこさせ、何か言いたげに袖を引っ張ってくる。彼女特有の甘い香りが心地よく鼻孔をくすぐった。

「魔法の確認しておこう…」
「いいわよ」
「念のため」
「明日出発だもんね」
「うん」
「……コゼットのこと心配なの?」
「……うん」
「平気よ。フェスティは生きているわ」

 ここぞ、とポジティブシンキングを前面に押し出す。
 ネガティブイメージを持って成功した人間はいない。とにかくいいイメージを持つことが重要だ。
 プラス思考が成功を引き寄せ、運もタイミングも引き寄せる、と俺は勝手に思っている。

「なんたって私が助けに行くんだからね。私ほど幸運な女子はいないわよ」
「ふふっ」
「世界の幸運が私に降り注いでいるんだから」
「…そうだね」
「あ、ちょっと。その顔は信じてないでしょう?」
「そんなことないよ…。エリィのことはいつでも信じてる」

 そう言って胸に顔をこすりつけてくるアリアナの狐耳を、これでもかともふもふした。

「そういえば魔法の確認だったわよね」

 狐耳から手を離してアリアナの長い睫毛を見つめ、枕元に置いてあるノートに手を伸ばして取り、再び寝っ転がって広げた。
 ポカじいの教えや、憶えきれない詠唱を書き込んである魔法ノートだ。


―――――――――――――――――――――
      炎
白     |     木
  \   火   /
   光     土
      ○
   風     闇
  /   水   \
空     |     黒
      氷

下位魔法・「光」
下級・「ライト」
中級・「ライトアロー」
   「幻光迷彩ミラージュフェイク
   「治癒ヒール
上級・「ライトニング」
   「癒発光キュアライト

上級魔法・「白」
下級・「再生の光」
   「聖光ホーリー
中級・「加護の光」
   「純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)

下位魔法・「風」
下級・「ウインド」
中級・「ウインドブレイク」
   「ウインドカッター」
上級・「ウインドストーム」
   「ウインドソード」
   「エアハンマー」

上級魔法・「空」
下級・「空間把握」

下位魔法・「水」
下級・「ウォーター」
中級・「ウォーターボール」
上級・「ウォーターウォール」

下位魔法・「土」
下級・「サンド」
中級・「サンドボール」
上級・「サンドウォール」


複合魔法・「雷」
落雷サンダーボルト
電打エレキトリック
電衝撃インパルス
極落雷ライトニングボルト
雷雨サンダーストーム
「自分の周囲に放電する落雷魔法(開発中)」
「エリアを指定して感電させる落雷魔法(開発中)」

下位魔法「光」「風」「水」「土」
上位魔法「白」「空」
―――――――――――――――――――――


 ノートに書かれた魔法を見て、アリアナは複合魔法のところで首をかしげた。

「自分の周囲に放電……これは何となくわかる。自衛のための落雷魔法。でも…エリアを指定して感電させる…?」
「ああ、これは地面にスタンガンを置いたような……ええっと、地面から電気を放射して対象者を感電させられないかと思って。電気の絨毯を想像してくれればいいと思うわ。“落雷サンダーボルト”とか“電衝撃インパルス”って威力が強すぎるじゃない? 痺れさせて相手を無力化させることが狙いの、落雷魔法の出力を抑えた感電魔法よ」
「エリィは面白いことばかり考えるね…」
「そうでしょ」
「できそう?」
「どうかしら。かれこれ三週間ぐらいチャレンジしているんだけど、ネーミングとイメージが合わなくて魔法が発動しないのよ」
「オリジナル魔法って難しいんだよ? Aランクの冒険者でも開発に成功した人は一割ぐらいってポカじいが言ってた…。それに、高ランクの冒険者にしかオリジナル魔法の情報は伝えないらしいよ…存在とか作り方とか…」
「へえ、そうだったの。てっきり強い魔法使いならみんな知っていると思ったわ」
「ん…そうでもないみたい」
「なるほどね。何とか出発までには完成させたかったんだけど、厳しいかもしれないわ」
「ノート貸して…私の魔法も書くね」
「前にアリアナにもらったメモを写しておいたわ。四ページ前よ」

 ぱらぱらと前のページに戻り、アリアナは俺が書いた使用可能魔法の写しを見ると、枕元からペンを取って、新しく覚えた魔法をつけたしていった。


―――――――――――――――――――――――

      炎
白     |     木
  \   火   /
   光     土
      ○
   風     闇
  /   水   \
空     |     黒
      氷

下位魔法・「闇」
下級・「ダーク」
中級・「ダークネス」
上級・「ダークフィアー」
   「睡眠霧スリープ
   「混乱粉コンフュージョン
   「狂戦士バーサク
   「視覚低下ロスヴィジョン
   「聴覚低下ロスヒアリング
   「食欲減退アノレクシア
   「腹痛アブドミナルペイン

上位魔法・「黒」
下級・「黒の波動」
   「重力グラビトン
   「重力弾グラビティバレット
   「重力軽減グラビティリリーフ
   「重力壁グラビティウォール
   「憂鬱メランコリー
   「誘惑テンプテーション
   「殺伐サァヴィジュ
   「熟睡霧ディープスリープ
中級・「黒の衝動」
   「二重・重力(ダブルグラビトン)
   「断罪する重力(ギルティグラビティ)
   「断罪する重力(ギルティグラビティ)棺桶コフィン
   「断罪する重力(ギルティグラビティ)マルトー
   「断罪する重力(ギルティグラビティ)スィクル
   「断罪する重力(ギルティグラビティ)首輪カラー
   「魅了チャーム
   「トキメキ(開発中)」

下位魔法・「風」
下級・「ウインド」
中級・「ウインドブレイク」
   「ウインドカッター」
上級・「ウインドストーム」
   「ウインドソード」
   「エアハンマー」

下位魔法・「火」
下級・「ファイア」
中級・「ファイアボール」
上級・「ファイアウォール」

下位魔法・「水」
下級・「ウォーター」
中級・「ウォーターボール」

下位魔法・「土」
下級・「サンド」
中級・「サンドボール」
上級・「サンドウォール」

下位魔法・「闇」「風」「火」「水」「土」
上位魔法・「黒」
―――――――――――――――――――――――


 初めて見る魔法は“熟睡霧ディープスリープ”だな。
 おそらく闇魔法“睡眠霧スリープ”の強力なバージョンなんだろう。

 “断罪する重力(ギルティグラビティ)首輪カラー”は重力場を輪状にして相手を縛り付け、二つ目の重力場で引き寄せたり、さらに拘束を強めたりする、拘束系の魔法だ。

「エリィこっちを見て…」
「なあに?」
「“トキメキ”」

 ノートから目線をアリアナへずらすと、彼女は何を思ったのか突然ウインクしながら人差し指をほっぺたに当てた。

 何コレ超かわいい…。
 ああなんだろうこの気持ち……熱に浮かされ全裸になって、ハワイのビーチでリンボーダンス。胸が締め付けられて、今にもハートがファイヤーボール。この世に生を受けた喜びを噛みしめて、海辺で絶叫エターナル。

「エリィ、エリィ…」
「はっ! わたしったら何を…?!」
「うーん、これじゃまだ“魅了チャーム”と変わらない…」
「急に実験台にしないでちょうだいッ」
「もうちょっとで完成しそう…」
「あら。可愛いから許すわ」
「可愛いって言ってくれるのエリィだけだよ」
「そんなことないわよ。東西南北の商店街合同でアリアナファンクラブができてるんだから」
「え……ほんとに?」
「あら、知らなかったの?」
「やだっ……」

 そう言いながら頬を染め、口を尖らせながらうつむくアリアナがあまりにも――

「う゛っ!」
「…エリィ?」
「な、なんでもないわ」

 なんか今、心臓を鷲づかみにされたような気がした。
 これはまさか…。

「アリアナ、今の気持ちでもう一度“トキメキ”を使ってみてちょうだい」
「え……? うん、わかった」
「さあきなさい!」

 ベッドから出て仁王立ちし、へその下に力を入れて構えた。
 ついでに軽く身体強化もしておく。これで準備万端。
 よしこいや!

「じゃあいくよ…」
「いいわよ」

 そう言うのが早いか、アリアナが無造作に両手を頬に当て、にっこりと笑った。
 普段あまり表情が変わらないアリアナの笑顔は、手榴弾を投げたようにその辺で爆発して、アルティメットな可愛さをまき散らし、俺を刺し貫いた。

「“トキメキ”」
「う゛っ!」

 咄嗟に胸を押さえてうずくまる。

 ぎゃああああああっ!
 心臓止まるわ! これまじであかん!
 これが………これがトキめいて心臓が止まるってやつなのか…?
 これが本当の………“TOKIMEKI”………?!

「今の…私がイメージしてる魔法に近い…」
「そ、そうなの?」
「“魅了せし者(チャーム)”は恋の虜にする魔法。でも、発動条件が厳しいから戦闘中は使えない…。対するオリジナル魔法は低い発動条件で相手を恋の虜にして、一瞬だけ行動を阻害することを目的にしている。発動条件は見ていること。あとは……私のことを少しでも……少しでも……」
「少しでも?」
「ん……」
「恥ずかしがらないで言ってちょうだい」
「少しでも………可愛いって思うことっ…」

 語尾が消えそうになっているウブなところが、たまらなくきゃわいい。

「これぐらいの発動時間なら戦闘中に使えそうね」
「タメを入れて三、四秒ぐらいかな…」
「やられた相手はたまらないわねこの魔法…。心臓がギュっとなって、グッって握られる感覚よ。心臓が止まるから魔法も使えないし、行動が大幅に制限されるわ」
「効果は五秒ぐらいかな?」
「相手がどれぐらいアリアナに好意を抱いているかね。私は好感度マックスだから十秒ぐらい魔法が使えないと思うわ」

 いやまじで。

「なんとなくコツが掴めた…ありがとうエリィ」
「どういたしまして」
「でも……恥ずかしいからあんまり使いたくないな…」
「な、何を言っているの! せっかくのオリジナル魔法なんだらバンバン使わなきゃ意味ないわよ! バンバン使って! バンバン!」
「ん…がんばる」
「そうよそうよ。それがいいわ」

 あの笑顔が見られるなら、心臓が止まることも辞さない覚悟だ。


   ○


 その夜、何度か“トキメキ”を試してことごとく心臓が止まり、満足感とほどよい疲労感を感じた俺たちは寝ることにした。
 アリアナがぐっすり眠ったあと、狐耳をもふもふし、次第に睡魔に襲われ意識が飛んだ。


 かなり時間が経ったと思われる頃、はっきりとした夢を見た。


 その夢は、夢を夢だとわかる、いわゆる明晰夢というやつで、俺が乗りうつる前のエリィが登場し、孤児院で朗読をしている最中だった。

 エリィはまだデブで、ニキビが顔にたくさんあり、両目が脂肪で細く見えるようなブスだったが、俺の目には可愛らしい少女に見える。性格を知っているからなのか、今の自分が可愛いからなのかはわからない。ただ、デブスのくせにやたらと可愛く見える。

 もはやこれはブスじゃねえよな、と夢の中で独りごちていると、彼女が本棚から一冊の古ぼけた本を手に取り、絨毯の上に女の子座りをした。
エリィ 身長161㎝・体重53㎏(体型は変わっておりません)


熟睡霧ハイスリープ熟睡霧ディープスリープに変更致しました。
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