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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第21話 イケメン砂漠の冒険者協会定期試験

お待たせ致しました!

スマホの方は試験結果表のところで画面を横にすると見やすくなりますYO!
 鼻血被害が拡大する一方なので、コゼット部屋まで行ってギャザースカートを借りてショートパンツの上から履いた。これで大丈夫だろう。

 アリアナにはデニムサロペットのミニスカートのままでいてもらう事にした。彼女に見惚れる男女は数多くいるが、鼻血ブシャアする奴はごく一部しかいないので問題ない。まあ、ブシャアする奴は、背の低い女子が好きな奴か狐人好きのどちらかで、放っておいたらアリアナにどこまでもついてきそうだったから、鼻血を出してフラフラになってもらうぐらいがちょうどいいだろ。
 それにね、可愛いから着替えるのはもったいないよね。こんなプリチーな女子、日本で見たことないからな。イケメンエリート女の子スカウターでアリアナを見ると、数値がマックスで振り切れる。ほんと。

 身体強化“下の上”で屋根の上を忍者のように駆け抜けて冒険者協会へ行くと、ちょうど一次試験がスタートしたところだった。協会内のカウンターから試験会場へ行く際、受付嬢の猫娘に「かっこいいアグナス様からお話はきいてるニャ」と言われ、遅刻にも関わらず特別待遇で試験を受けることができた。あとでアグナスちゃんにお礼を言わなきゃな。
 治療院で“加護の光”をかけて回復してあげたジャンジャンとクチビールも間に合っている。

 あぶねー。
 自分が可愛すぎて周囲が鼻血ブーで試験間に合いませんでした、とかギャグ以外の何ものでもない。くぅー美少女はつらいぜ。

「一次試験って障害物競走?」

 試験会場にいるジャンジャンに聞いた。
 四百メートルトラックぐらいの大きさでコースが作られており、第一関門は三十メートルの泥沼、第二関門は火炎放射、第三関門は的当て、第四関門は水晶破壊、第五関門は鉄球運びだ。

「そうだよ。あんな風に五つの障害を越えて早くゴールに辿り着けばオッケーなんだ」
「簡単そうね」

 ジャンジャンの指さした先では、クチビールが膝まで浸かる泥沼を根性で渡りきろうとしている。微量の魔力だが身体強化をしているみたいだ。
 ん? なんかよく見るとぶつぶつ呟いてるな。

「アリアナ、クチビールがなんて言ってるか聞こえる?」
「ん…」

 狐耳をぴくぴくさせてアリアナが目を閉じる。三十メートルぐらい離れているが、聞こえるのだろうか。
 少し眉間に皺を寄せてアリアナが目を開き、小さな声で言った。

「エリィしゃんのふともも……って言ってる」

 クチビールにエリィの美脚は相当な衝撃だったのかもしれない。

 重力魔法をクチビールに放とうとするアリアナを宥めている間に、クチビールは火炎放射を越え、的当てをクリアし、水晶を破壊して、鉄球を運んだ。

「記録。クチビール、五分三十二秒!」

 おおっ。なかなかいい記録なんじゃないか?
 同じレースの走者でクチビールが一番速い。
 記録を聞いたジャンジャンがうなり声を上げて腕を組んだ。

「んー、Cランクぎりぎりってところだなぁ…」
「あら、そうなのね」
「三分を切ればBランクってとこかな」
「へえ」
「がんばろう…」

 障害物レースを面白そうに見ているアリアナが、おにぎりを食べながら言う。

「そうね。あ、でも私、ポカじいから落雷魔法は禁止されているのよ」
「そのほうがいい。あの魔法は目立ちすぎるから…」
「それにね、二次試験は魔法なしで身体強化のみって言われてるの。どのぐらいまで点数が出るかしら」

 ポカじいには『落雷魔法禁止』『二次試験は魔法禁止』を言い渡されている。なんでも、二次試験は十二元素拳のいい訓練になるとのことで、別に点数にこだわってないから修行も兼ねちゃおうぜ、という作戦だ。
 落雷魔法以外の攻撃系魔法が非常に少ないので、障害物競走の的当てが不安だ。最近憶えた『空魔法』は詠唱に時間がかかって使い物にならないので、使えそうな攻撃魔法は風魔法の“ウインドソード”“エアハンマー”ぐらいだな。

 アリアナはしっかり全力で試験を受けて、父親の仇であるガブガブと自分の実力差を確認するとのこと。ガブリエル・ガブルの四年前の点数は887点だ。
 ちなみにアリアナの父親『漆黒のグランティーノ』の点数は923点。点数からも分かるようにかなり強かったらしく、魔闘会では負けなしで、一代で相当の領地を稼いだそうだ。そのため、二つ名が名前ではなく名字についたんだとか。
 ガブガブが卑怯な人質作戦を決行した理由がよくわかるな。

 にしてもガブガブってどんな奴だろうか。狼人っていうぐらいだから、耳と尻尾はついてるんだろうな。牙もありそうだ。勝手なイメージだけど、身長がでかそう。
 まあどんな奴であろうと、グレイフナーに帰って見かけたら、出会い頭の挨拶でビンタ&“電打エレキトリック”は確定している。あら手が滑りましたわ、おほほほほ、とか言って、バチン、バリバリ、あひぃ、って感じだ。


   ○


 最終レース、俺とアリアナは同じ組になり、スタート位置につく。横にはアグナスと、クリムト、トマホーク、ドン、というジェラで最強のアグナスパーティー、さらにその横にはバーバラと呼ばれる、身軽そうな踊り子っぽい服装をした女がいた。

 ちなみに踊り子っぽい、といっても露出度はそんなに高くなく、頭からかぶったヴェールに巻きつけてある宝石類や濃いめのメイクが踊り子を彷彿とさせる。

 アグナスが“間にあってよかったね”という意味を込めたであろうウインクしてくるので、ウインクをお返しし、お淑やかにスカートの裾をつまんでレディの礼を取った。冒険者協会に口利きしてくれ、ウインクが爽やかなアグナス。うっとうしいキザ野郎、亜麻クソと比べたら月とすっぽん、極上フカヒレと馬糞ぐらいの差があるな。

「エリィーー! アリアナーーッ! アグナスさまぁー! 頑張って~!」

 観戦禁止のはずなのに領主権限なのか、冒険者協会の二階の窓からルイボンが落ちそうなほど身を乗り出して手を振っている。
 俺とアリアナ、アグナスはにこやかに笑って彼女に手を振り返した。
 メイクがナチュラルになって髪型も変わって、ルイボンも随分可愛くなったな。

「では、位置について……」

 スターターが拡声魔法を使って準備を促す。
 全員が腰を落として、一気に身体強化をかける。ここにいるメンバーは相当の実力者だ。魔力の波動が通常の冒険者よりも数段上で、力強い。

――ボンッ

 スタートの合図である“ファイヤーボール”が打ち上がった。
 それと同時に身体強化“下の上”をかけていた足に力を込めて、第一関門の泥沼を一気に跳び越える。地球じゃ考えられない、少女の三十メートルジャンプ。向こうでこんなの見せたらスターになるか化け物扱いかのどちらかだろうな。

 てかアグナスはやっ!
 誰よりも先に着地して火炎放射ゾーンに突入している。

 他のメンバーがアグナスを追いかける格好で、猛然と進む。
 アリアナとほぼ並んだ状態で、髪の毛が燃えないように毛先まで身体強化をかけて、一気に火炎放射へ飛び込む。ジャンジャンの話だとこの火炎放射は威力が下位中級程度。“下の上”なら楽々突破できる。

 神官風のクリムト、ターバンを被ったトマホーク、マント姿のドン、俺、アリアナ、踊り子っぽいバーバラはほぼ横並びで火炎放射ゾーンに突っ込んでいく。

「うおおーーーーーっ!」
「はえええっ!」
「上位ランカーが集まってやがる!」
「エリィちゃん…俺っちより速い…」
「アリアナちゃんがっ! アリアナちゃんが可愛い!」
「アリアナちゃんのスカートの中が見えそうで見えない!」

 試験が終わって観戦している冒険者たちから興奮した声が上がる。
 目の前が火炎放射で真っ赤に染まり、呼吸ができないが、すぐにゾーンを抜けた。
 続けて第三関門の的当てだ。

 指定された円の中に入ると、百メートルほど先にゴーレムの的が十個現れる。柵越しに魔法で破壊すればいいだけだ。

「己が怒りを発現させよ……“断罪する重力(ギルティグラビティ)棺桶コフィン”」

 横で自分の的を狙うアリアナが、水平にした人差し指を重ね合わせて重力魔法を放つ。
 ゴーレム十体の上に黒く染まる一つ目の重力場が現れ、続いて現れた二つ目の地面の重力場と激しく引き合い、間にいたゴーレムが紙細工のようにあっけなく潰れた。

 …いつ見てもとんでもねえ威力だな。

 アリアナは身体強化よりも黒魔法の発動に重点を置いて訓練をしていたので、魔法の発動が早くなっている。
 黒魔法下級“重力弾グラビティバレット”は無詠唱で三連続撃てる。
 黒魔法中級“断罪する重力(ギルティグラビティ)”は形状を変え、状況に合わせて放つことができ、その気になれば省略詠唱で、発動までタイムラグは二秒ほどだ。

 “断罪する重力(ギルティグラビティ)”の形状変形バージョンは様々で、例えば“断罪する重力(ギルティグラビティ)棺桶コフィン”は中空に重力場を一層作り、さらに地面にも重力場を発生させ、二つを引き合わせ、文字通り物体を棺桶のように閉じ込め、押しつぶす広範囲型。

 “断罪する重力(ギルティグラビティ)マルトー”は圧縮した重力を叩きつけ、さらにその上からもう一層の重力をぶつけて二重攻撃する、打撃型。一度、アリアナが魔物に使ったとき、魔法を受けた敵はバラバラになりながら百メートルぐらい吹っ飛んでどこかへ消えた。リアルグロだったな…アレ…。

 “断罪する重力(ギルティグラビティ)スィクル”は“断罪する重力(ギルティグラビティ)”を移動させる、遠隔型魔法。形状が鎌のように狭まるが、単体を狙う場合や近距離の敵に有効で、端から見ていると柄のついていない黒い鎌が唸りながら空中で動いているように見える。ただこの魔法、二層の重力を圧縮し、斥力を強引に維持するため異常なほど魔力を使う。アリアナいわくあまり使いたくない、とのこと。

「ウインドソード!」

 負けじと魔力を練りこんで、下位上級、風魔法の“ウインドソード”を五連射する。
 不可視の刃が百メートル先の的へ何とかあたり、三個を破壊し、一個は当たらずに消えた。
 だあーーっ!
 落雷魔法使えないのめっちゃ不便!

「エリィ頑張って…」

 アリアナが申し訳なさそうに呟いて、走り去っていく。
 ちらっと横を見ると、クリムト、トマホーク、ドン、バーバラも的を一撃で破壊して走り出す。そのタイミングで拡声魔法を使った審判から「記録。アグナス・アキーム、四十五秒!」という声が聞こえてきた。まじで速すぎ。

「ウインドソード!」

 どうせ精度が低いならと魔力を一気に練り込んで息が切れるまで連射する。
 十三発撃ったところで的をすべて破壊した。

 すぐに身体強化“下の上”を全身にかけ、水晶に魔力を流して割り、百キロの鉄球を持ち上げて指定の場所へ転がし、ゴールした。

「記録。エリィ・ゴールデン、三分一秒!」

 あー、結構かかっちまったな。
 やっぱ落雷魔法以外の攻撃魔法を習得しないとダメだな。
 ウインド系は魔力消費が少なくて使い勝手がいいけど、長距離にある物体を一気に破壊するのには不向きだ。離れれば離れるほど、目に見えて威力と精度が減少していく。

「エリィすごいわー! 三分一秒よー!」

 ルイボンが嬉しそうにバタバタと二階の窓から両手を振っている。せっかくなので、一回転して腰に手を当て、ガッツポーズを作った。
 ルイボンはえらく興奮したのか、部屋の中に戻ってなぜかくるくる回った。
 その様子を見上げていたアリアナが、微笑ましいのか、くすっと笑いつつこちらにやってくる。

「エリィお疲れ様…」
「アリアナの記録は?」
「一分四十七秒」
「すごいわね!」
「ん……でもエリィが落雷魔法を使っていれば負けていたと思う」
「そうかもねえ。もっと攻撃魔法を覚えなきゃ」

 第三関門の的当てに時間をかけすぎたな。
 もし来年受けることがあれば、泥沼三秒、火炎放射三秒、的当て五秒、水晶割り五秒、鉄球十秒、合計二十六秒でクリアしたい。ふっ、この高すぎるように見えて身体強化“上の中”までマスターすればいける、という目標設定。やはり天才…。

「エリィは“上の下”まで使えるもんね…」

 身体強化は一瞬だけなら“上の下”まで使えるようになった。
 魔力効率がまだまだ未熟だから、使用するとだいぶ魔力を使う。慣れればポカじいのように十二元素拳の型をやりながら“上の下”の身体強化をかけつつ修行できるだろう。

 ポカじいに言わせると習得が異様なほど早いらしく「わしより天才かもしれんのぉ」とのこと。エリィの体は身体強化が得意みたいだ。いや、俺に素質があったのかもしれない。まあどっちなのかは確認する方法がないが。

 にしてもアリアナは鞭術も相当上手くなったよなー。召喚したサキュバスの教えが上手いのか、俺の尻を触ろうとするポカじいを幾度となく鞭で妨害している。ポカじいによると、尻に集中しているとよけられない、らしい。
 じいさんはまじで懲りねえ。むしろ“電打エレキトリック”を受け始めてから腰痛がなくなったとか言っている始末だ。あれか。“電打エレキトリック”が接骨院とかでやってる電気治療法になってるのか?
 なんにせよ、これ以上エリィの尻を触らせるわけにはいかねえ。


    ○


 圧巻だ。東京ドームがライブ会場になったとき人がわんさか集まる。それと同じぐらいの数のゴーレムが会場を占拠している。そのすべてが制止しているから何とも不気味だ。運営大変だろうな。
 相当金がかかってるよな、この試験。ゴーレム作成費、それを動かす魔法使いの賃金、運営の日程調整や採点者。時間と労力が半端じゃねえ。ま、それだけ意義と意味がある試験なんだろう。聞いた話じゃ全世界に散らばった冒険者協会で同じ試験をするって言うんだから驚きだ。
 冒険者協会の力と資金力が垣間見える。

 場所はオアシス・ジェラのはずれにある闘技場だ。近年ほとんど使われないので、開放されるのはこの冒険者協会定期試験のときぐらいらしい。

 二次試験はゴーレムをどれだけ破壊するか、という至極簡単な内容。
 量と質、両方をカウントの魔法で計測される。

 東西南北にある各門へ受験者が割り振られ、好き勝手に仲のいい連中同士で集まってリラックスしていた。俺とアリアナの周りには偶然一緒になったジャンジャン、クチビール、護衛隊長のチェンバニーことバニーちゃん、それから顔見知りになっているスコーピオン討伐に参加していた冒険者数名が集まってきている。

「クチビール、Cランクに入れるかどうかの瀬戸際だ。気合い入れていけよ」

 杖の点検をしながら、いつになく男らしい言葉で発破をかけるジャンジャン。

「がんばるでしゅ」
「Cランクになれなかったらクチビルって呼ぶからね」
「エリィしゃんっ! しょれは嫌でしゅ!」
「頑張ってね」

 クチビールを茶化してみんなの緊張をほぐしてやる。俺が笑いかけるととクチビールはめくれ上がった唇をだらんと半開きにし、熱に浮かされたような陶然とした表情になった。
 ただの笑顔でこの破壊力。美少女、おそろしいな。

 よし、そろそろ準備運動するか。
 開始まであと五分ほどだ。

 気合いを入れてストレッチをし、十二元素拳の型を確認する。十二種類ある型の内、俺が使えるのは下位の「火」「水」「風」「土」の四種類だ。

 というのも、上位の名前がつく「炎」「氷」「空」「木」「白」「黒」は、身体強化しながら魔法が使用できないと習得が不可能という超高難易度体術だ。

 身体強化しながら魔法を使うとか、正直言って相当にやばい。以前に魔法を二発同時に撃てないか、という実験をしたアレよりもむずい。簡単に例えるなら、バットを振りながらボールを投げる、みたいな離れ技だ。

 身体強化は常に魔法を発動させる事と同じで、仮に、右手に身体強化“下の下”をかけるとすると、下位下級の魔法を右手へ放出し続けていることになる。魔力はヘソのあたりから湧き上がってくるので、イメージでいうとヘソから右手にどんどん魔力が流れ込んでいく。

 十二元素拳「炎」「氷」「空」「木」「白」「黒」の型は、流れ込む魔力を制御しながら、別の魔法を唱え、さらに使用部位へ纏わせなければならない。身体強化“下の下”プラス下位下級魔法ですら今の俺にはできないのに、纏わせる魔法がすべて上位魔法という鬼畜難易度。そんな鬼畜難易度の体術をポカじいは呼吸するようにできるから、本気ですげえと思う。やっぱ砂漠の賢者と呼ばれているだけあるよな。スケベだけど。

 ちなみに、下位の「光」「闇」と上位の「白」「黒」の型は秘術なので教えてもらっていない。どんなカンフーが飛び出すのか楽しみだが、とりあえず今は「火」「水」「風」「土」四つをマスターすることが目標だ。

「動きづらいわね」

 コゼットに借りたギャザースカートは走ったりする分には問題ないものの、カンフーをやると腰を落としたとき膝がひっかかる。

「切っちゃう?」
 アリアナが大胆な提案をする。
「コゼットがやぶれてもいいって言ってたよ…」

「あらそう。ちょっと申し訳ないけどあとで新しいスカートを買って返しましょ」
「うん。なるべく綺麗に切るから…」

 そう言ってアリアナが「ウインドカッター」と小さくつぶやくと、右の太もものあたりから、スカートだけが縦にすっぱりと切断された。チャイナドレスの要領だな。

 試しにかかと落としを素振りしてみる。
 ぶん、と垂直に上がった右足が鼻にくっつき、振り下ろされた。邪魔っちゃ邪魔だけど、まあ問題はねえ。

「やっ、はっ」

 十二元素拳「土」の型をつないでいく。
 腰をおとした状態から右腕を九十度に曲げて振り上げ、腰にためていた左拳を正面へ突く。身体を反転させ、両手の掌を捻るように打ちだし、打撃力が最大になるよう両腕を真っ直ぐ伸ばす。
 思いっきり右の太ももがむき出しになってるけど、仕方ないか。

「えい、たあっ」

 エリィの可愛らしい声が、辺りに響く。
 よし、調子は悪くない。むしろ絶好調だ。やっぱ痩せてる身体はまじで動きやすいな。

 にしても――
 なんかあれだな…。どうも周囲からの視線が痛い。

 型をやめて見まわしてみると、屈強な男どもがだらしない顔で、ばっくり割れたギャザースカートから覗くエリィの太ももを見ていた。
 反射的に腰を落とした姿勢を崩して立ち上がり、スカートの切れ目を閉じた。

「もうっ!」

 いや、俺的には「見ないでくれる?」って言ったつもりなんだ。補正が入って「もうっ!」という可愛い女の子らしいセリフに変わった。当然のように顔が赤くなるおまけつき。

 エリィ、どんだけ恥ずかしがり屋なんだよ。つーかイケメンの俺が「もうっ!」とかまじありえねー。やめてーほんと。

「いや~、ああー、いいてんきだなぁ~」
「ごーれむおおいなぁたおせるかなぁ」
「ぴゅーーーほんじつもくちぶえのちょうし、さいこうっ」
「でしゅね~ごーれむおおいでしゅね~」
「こぜっとげんきかなぁぁっ」

 なんとかごまかそうとする男達。
 しかし、守護神アリアナの目はごまかせるはずがなかった。

――パァン!

 アリアナの鞭が地面を一筋えぐりとる。

――パァン! パァン! パァン!

 誰しもが可愛いと思うキュートな顔を能面のようにし、鞭の素振りを続けるアリアナ。
 その長い睫毛を持った綺麗な瞳が、だらしない顔をしている男達の両目を射貫く。

――パァン! パァン! パァン! パァン! パァン!

 えぐられた地面にはいつしか文字ができあがっていた。


『スケベキライ』


 アリアナやめてあげて!
 そんなつぶらな瞳で見られたら男が罪悪感で死んじゃう!

「うおっしゃ! うおっしゃ!」
「ふん! ふん!」
「でしゅ! でしゅ!」
「そりゃ! そりゃ!」
「コゼット! みてろよ!」

 沈黙に耐えきれずウエポンを抜き放ち、急に素振りをし始める屈強な男たち十名弱。
 幾重の修羅場をくぐり抜けてきたであろう鍛え抜かれた肉体が揺れ、むさくるしい鎧がこすれる音が一斉に響き、アリアナを見ないように目を逸らした顔には気まずい笑みが張り付いていた。


――では受験者の皆さまは会場へお入りください


 素振りが二百回に届くか、というところで拡声魔法の場内アナウンスが流れた。
 助かった、といった安堵の表情で男達は素振りをやめ、いよいよ冗談抜きの引き締まった顔つきへと変化していく。年に一度しかない冒険者協会定期試験。この試験結果は冒険者として、男としての“箔”や“格”に関わってくる。適当に流してやろう、なんて輩は一人としていない。

 全員が闘技場へ出る。
 地面に引かれている白線の外側が安全地帯のようだ。

「エリィちゃん、勝負だね。治療魔法は君のほうが遙かに上だけど、実戦は負けないよ」
「いいわよジャンジャン。私が勝ったらコゼットに告白しなさいよ」
「うっ………わ、わかった。望むところだ」
「今日中によ?」
「ええっ! それはちょっと……ははは」
「目指せCランク維持でしゅ」


――これより二次試験を開始致します。5、4、3…


 タイミングがいいんだか悪いんだかアナウンスが入り、ジャンジャンとクチビールが杖を取り出し、魔力を練り始めた。なるほど、開始早々に魔法を使うわけか。

 開始の合図に使うのか、両手を広げても到底端から端まで届かないほどのドでかい銅鑼の前で、筋肉隆々のスキンヘッドがばちを構える。銅鑼には砂漠の町によくある魔法陣を模した幾何学模様が刻まれており、魔法が付与されているみたいだ。

「アリアナ、頑張りましょう」
「狙うは高得点…」
「私はカンフーでどれだけ破壊できるかね」


――2


「カンフー?」
「十二元素拳の略称よ」
「へえ…」


――1


「いくわよ」
「ん…」


――ゴワァァァ~~ン!!!


 開始の銅鑼が鳴り響く。
 ジャンジャンとクチビールが下位上級魔法“鮫牙シャークファング”“エアハンマー”をぶっ放す。
 闘技場中が音楽ライブのスタートみたいに、色とりどりの閃光と轟音に包まれた。ライブって例えるには殺伐とした危険な演出だが、闘技場全体が軽い振動を起こしていて似ていなくもない。もーなんか日本が遙か遠くに感じるな。

 身体強化“下の上”で腰を落として地面を蹴り、近場のゴーレムへ肉薄。そのまま右の拳で殴りつける。

 バゴッ、と鈍い音が鳴って、ゴーレムの胴体に大穴が空いた。

 アリアナはゆっくりと散策をするように歩いている。しかし利き手である右腕のみ身体強化“下の上”をかけており、鞭を目で追えないほどのスピードで縦横無尽に振り下ろし、進行方向にいるゴーレムをことごとく粉砕する。

 巻き込まれると痛いし邪魔になるので、距離を取るように進みながらゴーレムを破壊していく。
 修行によって全身へ叩き込まれた十二元素拳が苛烈にゴーレムを責め立て、舞うようにして破壊の限りを尽くす。今までポカじいとの組み手のみだったので、一対多数は初めての経験だ。それでも、十二元素拳は多人数をものともしない。

 どうやら中心へ行くにつれてゴーレムが強くなっていくらしい。

 百メートルほど進むと、ゴーレムの硬さに殴った手が痺れた。
 おそらくこの辺が今の俺の実力なんだろう。魔法が使えればもう少し奥へと進めるが、今はポカじいとの約束がある。拳だけでいくぜ。

――おりゃ!

「えいっ!」

――せりゃ!

「やあっ!」

 倒しても倒しも奥から雪崩のようにゴーレムがやってくる。殴りかかってきたゴーレムの腕をかわし、そのまま掴んでこちらへ引き寄せ、肘打ちをお見舞いする。
 身体強化をし、尚且つ修行で幾度となく練習した重心のブレない強烈な肘打ちが、体勢を崩したゴーレムの顔面にクリーンヒットして粉々に粉砕する。さらに頭のないゴーレムの腕を離さず一回転して遠心力をつけ、数が多い前方へ投げ飛ばした。

 走ってくるゴーレムとぶん投げたゴーレムが交錯して、岩同士がぶつかり合う嫌な破壊音を奏でながら五、六体が派手に地面へ倒れ込む。そこへ十二元素拳「火」の型で攻勢をかける。
 足底に魔力を注ぎ込んで地面を掘るように蹴り、一気に距離をつめ、硬そうなゴーレムへ側宙から右足を振り下ろす。足の先がめり込み、衝撃が膝まで伝わったところで岩の身体にビキッとひびが入り、ゴーレムが真っ二つに割れた。

「いったーい!」

 いってえ!
 身体強化“下の上”でギリ倒せるレベルのゴーレムかよ。めちゃめちゃかてえ。魔力をもっと込めたほうがいいな。てか鉱物で作られたゴーレムか? これ以上硬いやつが出てくると厄介だ。

 逡巡した後、拳打で正面にいる鉱物系のゴーレムを破壊し、前蹴りでもう一体を吹っ飛ばしつつ、足を下げずに立ち上がったゴーレムへ蹴りを一発。足を引き戻して後方のゴーレムへもう一発。横に回って軽く跳び、反動を利用して両足を開脚し、左右から来ていた二体に蹴りをめり込ませる。

 左右別の方向へ弾け飛んだゴーレムが数体を巻き込んで地面とお友達になる。
 五体のゴーレムがものの三秒で瓦礫と化し、余波で十数体が地面に転がった。

 ちらっと前を見ると、ここより二十メートルほど進んだ場所で、アリアナがゴーレムと戦っていた。闘技場の中心を陣取っている超合金で作られたような五メートル級のゴーレムへ“断罪する重力(ギルティグラビティ)マルトー”を使用し、吹き飛ばした。

 うお、アリアナすごっ!
 でもゴーレムまだピンピンしてやがる。上位中級で破壊できないとかどんだけ硬いんだよ。
 あいつが一番の強敵で、破壊できれば相当高い点数が加算されるだろうな。

 視線を元に戻して、十二元素拳「風」の型、基本姿勢である左手を前、右手をその後ろ、手の形は手刀、というポーズを取り、一息つく。「風」「水」の型は詠春拳に似ており、短い連打と細やかな足捌きが特徴で、防御に適している。乱戦にはもってこいだろう。

「きなさい!」

――こいや!

 伊達にカンフー映画観まくってないってところを見せてやる。
 異世界版ジャッ○ー・チェンとは俺のことだ。

 と、息巻いたところで一回り大きい二メートルほどあるゴーレムがこちらに突進してきたので、あわててステップしてかわす。
 近くにいた鉱物系ゴーレムが巻き込まれ、十体ほどが破壊され、破片が周囲にまき散らされた。

 あ、このゴーレムやばい強いやつじゃね?


   ○


 そろそろ得点表を持った係員が来る頃だ。冒険者協会のカウンター前は、受験者、賭けに興じる観戦者、身内を応援する者達でごった返している。
 三次試験に呼ばれたのはアグナスちゃんだけだった。この時点でアグナスの一位が確定したので、賭けをやってる連中は二位が誰なのかを声高に話し合っている。

 二次試験も領主権限で観戦していたらしいルイボンが興奮した様子だ。

「エリィってばすごかったのよ! こうやって、腕を動かして、空中でくるっと回ってキックが見えないの! ゴーレムがバラバラになっちゃうのよ! なんだかよくわからなかったけど、格好良かったわ!」

 最後に出てきたゴーレムはやばかったな。
 足の関節部分を狙って連打を浴びせ、動きが鈍ったところで身体強化を“下の上から“上の下”に引き上げ、掌打で何とか破壊した。
 あれ一体で魔力がかなり減ったな。まだまだ修行が足りねえ。

 そうこうしているうちに冒険者協会の係員がポスターサイズの用紙を持ってきて、見えやすいように脚立にのぼってカウンターの上に貼り付けた。
 騒がしかった周囲が静まり、全員が食い入るように試験結果を見つめる。

「エリィ…」

 アリアナが真剣な顔で言うので、狐耳をもふもふしてから両目に身体強化“下の中”をかけた。
 倍とまではいかないが、視力が向上し、結果が鮮明に映る。



=============================
冒険者協会定期試験
(砂漠の国サンディ、オアシス・ジェラ・第192回)
参加人数172名

Aランク(979~750点)
―――――――――――――――――――――――――――――
 1位 アグナス・アキーム(竜炎のアグナス)880点
 2位 トマホーク・ガルシア(裂刺のトマホーク)766点
 3位 クリムト・フォルテシモ(白耳のクリムト)758点

Bランク(749~650点)
―――――――――――――――――――――――――――――
 4位 ドン・アルデリア(無刀のドン)740点
 5位 アリアナ・グランティーノ 735点
 6位 バーバラ・ストレイサンド(撃踏のバーバラ)722点
 7位 サルジュレイ・ホーチミン(苦拍のサルジュレイ)698点
 8位 ポー・サーム(一音のポー)677点
 9位 ラッキョ・イデオン(炎鍋のラッキョ)670点
10位 チェンバニー・ジョーンズ(ジェラ護衛隊隊長)666点

Cランク(649~500点)
―――――――――――――――――――――――――――――
11位 エリィ・ゴールデン(白の女神エリィちゃん)640点
 ・
 ・
 ・

20位 ジャン・バルジャン 520点
21位 ・・・・・・・・・・・・・・・
22位 ビール・アレクサンドロ(クチビール)503点

Dランク(499~400点)
―――――――――――――――――――――――――――――
23位 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24位 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・
 ・
 ・
=============================



 うわーあとちょいだったーBランク!
 すんげえ悔しいーこれ!

「エリィしゃんが640点でしゅっ?!」
「負けた……惨敗だ……」

 クチビールとジャンジャンががっくりとうなだれる。

「アリアナちゃん強すぎでしゅ」
「ななひゃくさんじゅうごてん……?!」

 さらにアリアナの点数を見て、二人は驚愕して小さい彼女の顔と得点表を見比べた。信じられないのは無理がねえ。こんな可愛らしい狐美少女がオアシス・ジェラで五番目に強い魔法使いとかどこのファンタジーだよ。
 ってココだよココ! ヒアーだよ! 異世界だよ! 久々のノリツッコミだよ!

「一番強いゴーレムに魔法を使いすぎた……失敗」
「見ていたわ。“断罪する重力(ギルティグラビティ)マルトー”が効かなかったでしょ?」
「うん…。何度か当てれば倒せたと思うけど……。アレを一撃で破壊するには上位上級の魔法が必要」
「無駄玉を使っちゃったわけね」
「そう。もっと勉強が必要だね…」
「私もよ。もっともっと身体強化と十二元素拳を練習しないと」
「アリアナがBランク! エリィがCランク! んまあでも私のアグナス様はAランクよ!」
「ルイボン応援ありがとね」

 会話に顔を突っ込んできたルイボンへ礼を言うと、顔を赤くして俺とアリアナから目を逸らした。

「ふ、ふん! 別に応援してたわけじゃないのよ! ただ暇だったから声をかけていたのっ! そこのところを勘違いしないでほしいわ!」
「うふふ。はいはい、そうよね。そうだと思ったわ」
「わかればいいのよ、わかれば」
「でもどうしてあんなに大きな声で名前を呼んでくれたの?」
「そ、それは……何となくよ! 何となくっ!」

 いつも通りのやりとりをしている所に、知り合いの冒険者や護衛隊の面々、隊長のチェンバニーが人混みをかき分けてこっちにやってきた。

「おれぁアリアナちゃんに負けたぜ!」
「白の女神! まさかあんなに強いなんて…」
「白状しよう。エリィちゃんの足がちらちらスカートからのぞいて集中できなかった」
「あの体術はどこで?!」
「白魔法が使えて身体強化も上手いなんてすごいよ!」
「俺と付き合ってくれッ」
「きゃっ!」

 男たちからお褒めの声が立て続けに浴びせられる。
 最後どさくさに紛れて俺の手を強引に握った兵士は、他の連中によってタコ殴りにされる。効果音をつけるならば「どかん、ばきん、ぼこん、ゆるひてー」だ。鼻血出てるし髪ぼさぼさだし顔に痣できてるし、やめてあげてほんと。
 急に手を握られてびっくりしたけど、そんな気にしてねえよ。
 むしろこんだけエリィが可愛いんだから仕方ない。可愛くて優しくて芯が強くて、おまけに胸もでかい。エリィを見ているだけで心臓がビートを刻むのは男の性ってやつじゃねえか。
 くぅー美少女って大変だなぁおい!

「エリィちゃん」

 堂々一位のアグナスが周囲に声をかけられ、それに答えつつこちらへやってくる。
 へえー。やっぱアグナスはオアシス・ジェラの英雄で、みんなから憧れられる人気者なんだな。

「素晴らしい点数だね。とても魔法学校三年生の成績とは思えないよ」

 彼は爽やかに笑うと、表情を緊張感のあるものへと一変させた。

「クリムトが『空房の砂漠』を抜けるルートを支部長から入手したんだ。今後の動きについて打ち合わせをしたい。上位ランカーたちには声を今掛けているところだから、落ち着いたら二階の会議室に集合だ」
「ありがとうアグナスちゃん。ではみんな、早速行きましょう」

 周囲にいる面々へ目線を投げる。
 アリアナ、ルイボン、ジャンジャン、クチビールはもちろん、護衛隊長のチェンバニー、Cランクの冒険者達がうなずいた。


 俺たちは話もそこそこに、冒険者協会の奥へと向かい、二階へと上がって会議室の扉を開いた。
エリィ 身長161㎝・体重53㎏
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