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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第20話 イケメン砂漠のハーヒホーヘーヒホー

「ついに『ハーヒホーヘーヒホー』を見つけたぞい!」

 ポカじいが喜色を顔に浮かべてノックもせず部屋に入って来た。

「きゃああっ! “電衝撃インパルス”!」
「“重力弾グラビティバレット”」

 着替えの真っ最中だった俺とアリアナは、あらわになっている下着姿を持っていた服で隠して、じいさんに向けて魔法を放った。

「むっ」

 じいさんは咄嗟に身体強化したのか、“電衝撃インパルス”と“重力弾グラビティバレット”を右手で受け止める。凄まじい破裂音と雷音が室内に響き、ドアが粉々に吹き飛んだ。

「あいたたたた…痺れるのぉ。ってじじいを殺す気かっ!」

 右手にふうふうと息を吹きかけながら抗議するじいさん。しかしその目はパンツ姿のオレとアリアナの尻に釘付けだ。アリアナは狐の尻尾で尻をできるだけ隠している。

「レディの部屋にノックなしで入らないでちょうだい!」
「スケベ、きらい…」
「うっ……いやそんな事よりやっとこさ『ハーヒホーヘーヒホー』を見つけたぞい!」
「ええっ?! ほんとに?」
「もちろんじゃ」
「すごいわねポカじい! じゃあ着替えたら地下に行くわ!」
「いや、ここで待っているから、はよう着替えるんじゃ」
「わかったわ………ってどうしてここで待っているのよ。早く部屋から出てちょうだい」
「うおっほん。弟子の成長をしっかりとこのまぶたに焼き付けておく必要があると思うのじゃ」
「へえ…それはどうしてよ?」

 にっこりと笑って下着姿を隠しながら、じいさんの肩に優しく手を置いた。

「二人とも素晴らしい尻に成長してくれた! エリィはなで回して酒の肴にしたいほど美しく素直でぷりんとした魅力的な尻にっ。アリアナは小さいながらも力強さと意志の強さを感じさせる可愛い尻にっ。わしは尻ニストとして数々の尻を見てきたが、弟子の尻“デシジリ”は最高峰の尻にして最高級品に育――」


―――電打エレキトリック


「育ダダダダダダダダダダダダダダルビッシュYOUッ!!」

 尻じじいは気持ち悪い痙攣をして、実験に失敗した科学者みたいに髪が爆発し、日焼けサロンに行ったかのようにこんがりと焼けて仰向けにぶっ倒れた。
 アリアナが身体強化をして尻じいを担ぎ、窓の外へ放り投げる。

「のぞきは……めっ」
「スケベがなければいい師匠なのに」
「ほんとそう…」
「アリアナ、早く着替えましょう。『ハーヒホーヘーヒホー』の場所がどこなのか気になるわ。ポカじいが嬉しそうにしていたから魔改造施設も同時に見つかったのかもしれないしね」
「ん、そうだね……」


   ○


 着替え終わったあと、鏡で自分の姿を見てしばし時が止まった。
 あまりに可愛くて、自分自身に見惚れてしまう。いや、元々はエリィの体だから別人でもあるんだが…。


 そんなことより―――


「可愛すぎるわね…」

 いや、可愛い、と一言で片付けられるレベルじゃねえ。

 顔は魔力循環と修行の成果ですっかり肉が落ちて、手を広げると楽々隠せるほど小顔になっており、ゴールデン家特有であるはっきり二重の垂れ目が愛らしく瞬きをする。その清く澄んだサファイアのような蒼玉の瞳はどこまでも続く海のようで、見る者を虜にし、神秘的な幻惑にかけられたような気分にさせる。だが、よく見ると両目がほんのちょっぴり、ほんの数ミリ離れていて、どこか親近感を感じさせると同時に、エリィの印象をより魅力あるものに変えている。
 人っていうのは完璧すぎる造形物を見ると近寄りがたくなるものだ。だがエリィの場合はキュートな目のおかげで、上手い具合に完璧さが緩和されている。

 瞳の下についている鼻は、しっかりと鼻筋が通っていて、全体的に女性らしくふんわりと丸みをおびた曲線を描いている。エイミーの鼻先と比べると丸みを帯びているためか、エイミーが正統派美女に見え、エリィは優しさがこぼれ落ちるようなおっとり系の美少女に見える、といったところか。

 唇は桜色で比較的ふっくらとしており、笑うと白い歯が出迎えてくれる。頬は夢から覚めた薔薇のように、ほんのりとピンクに染まっていた。

 おそらく初見でエリィに会った人間は、はじめに瞳へ吸い寄せられてぼおっとした気分になり、次に神秘性を感じ、最後に親近感を感じて優しい気持ちになるだろう。そう、エリィのサファイア色の双眸と綺麗な顔は、神秘性と親近感を感じさせる。
 日本にいた頃、数々の美女やイケメンを見てきた俺だが、エリィは見たことのない種類の顔をしている。唯一無二、と言っていいだろう。

 神がいたずらをしたとしか思えないほど、顔のパーツが絶妙なバランスで配置されている。

 清楚で清廉な顔に反して、胸は結構大きい。数々の女性のカップ数を当ててきた『イケメン小橋川カップ数鑑定』によると、DとEの間ぐらいの大きさだ。これ以上でかくなると動きづらくて困るんだが、これがまだ成長しそうな気配がして怖い。

 腕と足は健康的に引き締まっている。日本基準で十人中九人が細いと回答するだろう。雑誌モデルのように細すぎず、スポーツ選手のように太すぎない。コゼットに作ってもったデニムのショートパンツから伸びる美脚は、脚フェチからしたらまさに垂涎ものだろう。太ももに触るとふにふにしていて気持ちいい。俺がもし、いま男の体だったら膝枕を懇願するレベルだ。

 絹糸のようなさらさらの金髪は、アリアナたっての希望で耳の横で結ぶツインテールになっている。髪をしばる紐にはポカじいがくれた青い魔力結晶の玉がついていた。魔力が枯渇した際に補充できる便利グッズで、アリアナが色違いの赤い魔力結晶の髪留めを持っている。買うと一個一千万ロンほどするらしい。大きさはビー玉ぐらいだ。

 鏡を見ながら、白の半袖シャツのボタンを、両手でしっかりと留めた。
 たったそれだけ、ボタンを締めるだけの所作なのに、洗練されていて美しい。指が真っ直ぐできれいだ。さすがお嬢。俺じゃこんな動きは絶対にできない。

 全身を確かめるように眺める。
 虫も殺せない優しそうなお嬢様。神秘的で親近感の湧く顔に、ダイエットと修行により完璧になった未だ成長中の魅力的な肢体。


 ごちゃごちゃと考えていたが、ビジネスマンらしくはっきりと結論を言おう。


 めっちゃ可愛いいいいいいいいいいいい!!!!!!


 何度言っても足りねえ。俺まじで仕事した! ほんと頑張った! 
 エリィ見てるかーーっ!!
 これが本来のお前なんだぞーーっ!
 グレイフナーに戻ってみんなをびっくりさせてやろうぜ!
 リッキー家のボブ! 縦巻きロールのスカーレット!
 この姿を見てどんな顔をするかな?
 ふふふ……はっはっはっはっはっは!
 楽しみすぎる! 楽しみすぎるっ!
 つーかエリィのショートパンツは反則だな。


「エリィ、背、伸びた…?」

 鏡の前でぼおっと立っていた俺を見て、アリアナがこてんと首をかしげる。
 我に返ってアリアナの方を向いた。

「あらほんと?」
「うん」

 確かに言われてみれば背が伸びてるような気がするな。
 アリアナが巻き尺を部屋の隅から持ってきて、尻尾をふりふりしながら背伸びをして身長を測ってくれる。

「161てん5」
「伸びてるわね」
「そうだね…」

 なんか全身が成長痛っぽいなーと考えて腕を組んでいると、私も計ってよ、といった表情でアリアナがじいっとこちらを見てくる。
 長い睫毛で上目遣いをされると、ほんと断れない。
 もうやだこの生物。可愛すぎ。

 にしてもアリアナもまじで変わったよな。
 グレイフナーに帰っても、みんなアリアナだって気づかないんじゃねえか?

 黒みがかった茶髪が自然とウェーブし、胸のあたりまで伸びている。狐耳の明るい茶色が、黒茶髪とほどよいコントラストになっており、後頭部より上で結んだポニーテールが高貴な可愛らしさを演出していた。

 反則なほど大きい目と、長い睫毛。
 つんとした小ぶりで可愛い鼻。
 おにぎりをぱくぱく食べるリスみたいに小さい口。
 指導の甲斐あって、肉がつき、ストンと真っ直ぐでなく、斜めの線を描くバランスのいい細い脚。

 出会ったときは、げっそりと頬がこけていて、手足も病的なほど細かった。風が吹けば吹き飛ばされそうだった。

 それが今は、モデル級の細さとスタイル、健康さを手に入れ、おまけに最近妙に勉強熱心なメイクのおかげでもはや別人。まじでやばい。全然小さい子の属性がない俺ですら、もうアリアナから目が離せない。
 グレイフナーに帰って学校の連中がどんな反応をするか楽しみすぎる。

「エリィ?」
「ごめんなさいぼーっとしていたわ。背筋を伸ばしてちょうだい」

 しゃがんで巻き尺の先端をつま先で押さえ、巻き尺を右手に持ったまま立ち上がってアリアナを計測する。

「155てん8……あらっ?」
「んんん…」
「こら。ズルは駄目よ」

 懸命に背伸びをしているアリアナの肩を押さえてしっかり直立させ、再度計測する。

「150てん7」
「2ミリしか伸びてない…」
「2ミリも伸びてるじゃない!」
「エリィはずるい…」

 ちなみにアリアナは、デニム地のサロペットスカートを着ていて、インナーには胸元がレース生地になっている黒の半袖シャツを採用している。サロペットスカートってのはオーバーオールとミニスカートを合体させたような服だ。可愛さの中に誘惑する女らしさを追求。短い丈のスカートから惜しげもなく細くて綺麗な両足が伸びている。髪留めは赤い魔力結晶付きの物で、俺と色違いだ。尋常じゃなく可愛い。もはや狂ってる。おかしい。天地がひっくり返って太陽が地面にぶつかって人類が絶滅するぐらい可愛い。いかん、自分でも何言ってるのかわかんねえ。

「あ、そういえばアリアナ。黒魔法中級“魅了せし者(チャーム)”って今使える?」
「なんで?」
「自分の精神力を試したいのよ」

 いまこの状態で黒魔法中級“魅了せし者(チャーム)”を耐えられれば、他の精神系の魔法攻撃にも耐えられる気がする。

「いいよ。いまやる…?」
「やってちょうだい」
「わかった」

 アリアナは魔力を高速循環させ、魅了せし者(チャーム)を詠唱する。
 俺の目をじいっと見つめたまま、ゆっくりと右の人差し指を一回転させた。


―――ほわわわん


 あれ、何だか気持ちいい。そうか、俺はいま天国にいるんだっけ。くそ、なんてことだ、目の前に一人の狐美少女天使がいる。しかもこっちを見ている。ああ、それだけで満たされる。脳髄がしびれる。目を離したくない。瞬きもしたくない。目が痛い。でも絶対目を離さない。んんあああっ。なんて大きくて美しい瞳なんだ。

「エリィ…どう?」

 これは……神様の声?
 そうか。俺はいま神の声をきいたんだ。腰が砕けそうになるほどかわいらし声じゃねえか。アリアナちゃんなんかしゃべって。もっと声をきかせてくれ。でないと発狂しちまいそうだ。早くしゃべって早く早く早く。

「命令する……私の耳を揉んで」
「待ってましたぁぁぁっ!」

 もふもふもふもふもふ。

 はああああああっ。なんて触り心地のよさ。狐耳最高ッ!
 もうやめられない止まらないっ。こんなもふもふどこにもない。
 ずっと一生こうしていたい。
 あーーー異世界最高。狐耳最高。一家に一人アリアナの狐耳っ。

 これが………………KOI…………?
 ちがう……これは………トキメキ。
 そう………TOKIMEKI………。

「解除」
「………………はっ!!」

 頭にかかっていたモヤが急に晴れた。
 無言でアリアナと見つめ合い、しばし沈黙する。

 窓の外に捨てられたポカじいが起き上がったのか「死ぬところだったわい」とぼやく声が外から聞こえ、そして「しかし“デシジリ”は譲れんのお」とスケベな発言をして家に戻った。玄関のドアを閉める音が家に響く。

 アリアナが長い睫毛をぱちぱちさせた。

「思い切り魔法にかかってたよ…」
「ああっ、なんてこと!」

 ジーザス!
 ぜんっぜん耐えるの無理じゃねえか!
 あかん! これ絶対かかっちまう!

「エリィ、今ので何か掴めたかも…」
「あ、オリジナル魔法ね」
「うん…」

 黒魔法下級“誘惑テンプテーション”、黒魔法中級“魅了せし者(チャーム)”は発動条件が厳しい。まず対象者と目を合わせていなければならず、加えて好感度がある程度高くないと魔法にかからない。
 なので、初対面で出会ってすぐ“誘惑テンプテーション”、“魅了せし者(チャーム)”をかけても、成功する確率はかなり低い。しかも戦闘中は使えない。じっと見つめるなんて暇は戦っている最中にあるはずねえからな。そもそも敵対している時点で好感度が低いだろう。
 アリアナはこの誘惑系の魔法をどうにかオリジナル魔法として昇華させ、戦闘で運用できるものにしたいと前々から言っていた。

「アリアナ。オリジナル魔法の名前は、恋と書いてトキメキにしてちょうだい」
「“トキメキ”……?」

 屈強な強者が“トキメキ”というふざけた名前の魔法にかかる姿は滑稽で痛快だろう。見てみたい。それにアリアナっぽいしな。完成するかわからないが、一個ぐらいラブコメみたいなギャグ魔法があってもいいんじゃねえか。
 いやー、俺やっぱ天才だな。イエスマイドリームッ!

「じゃあ完成したら最初はエリィにかけるね…」
「はっ……!」

 ぎゃーーーーーーっ!! しまった!
 “トキメキ”とかいうおふざけネーム魔法の第一犠牲者は俺じゃねえか!
 なんてこったぁーーーーーーい。
 とんでもねえ名前をアリアナに教えちまったっ。
 訂正っ! 訂正を求むっ!

「やっぱり違う名前にしましょう!」
「ううん……気に入った…。できそうな気がする…」

 あかーーーん!
 手遅れ! あとの祭り! 切れたパンツのゴム!

「楽しみにしててね」

 そう言ってアリアナが嬉しそうに口角をあげて、こてんと首をかしげた。
 かわいい。両目がつぶれる。

 よし。俺は俺によってネーミングされたラブコメ魔法を甘んじて受けよう。
 発言者は責任を取るべき。ビジネスマンとしても、責任の所在ははっきりさせるべきじゃねえか。そうだな、そうだろうよ。
 黒魔法“トキメキ”が完成したあかつきには被験者第一号になろうじゃねえか。
 どんな魔法になるかは……アリアナのみぞ知るってところだ。


   ○


 落雷魔法と重力魔法によって破壊されたドアから出て、俺たちはポカじいの待つ地下室へと向かった。
 古ぼけた扉を開けると、復活したポカじいが水晶玉の前で瞑想している。
 俺とアリアナが入ってきたことに気づいたのか、目を開けた。

「きたか――――!!?」

 くわっ、と音が鳴りそうなほどに目を見開いたポカじいは、俺たちの服装を見つめた。

「な、なんじゃその服は?」
「デニムショートパンツとデニムサロペットのミニスカートだけど?」
「足がむき出しじゃぞ……」
「いいでしょ」
「いい具合に尻の形がわかるのぅ」
「あまりじろじろ見ないでね」
「眼福じゃ………わしゃ生きててよかったわい」
「そうでしょうそうでしょう。こういう服をどんどん流行らせていくから、近い将来色んな女の子が着てくれると思うわよ」
「なんということじゃ! こんな砂漠のど田舎に住んでおる場合じゃないのぅ!」

 それから、このショートパンツとミニスカートがどれほど素晴らしいものか力説する。本気のプレゼンばりの説明口調で、抑揚をつけ、どのように流行させていくかをストーリー仕立てで進めると、ポカじいがグレイフナーへの同行を本気で視野に入れ始めた。スケベの力は偉大なり。

 話が落ち着くと、ポカじいが水晶に魔力を込めた。
 中の映像がゆっくりと動いていき、大きな砂丘を滑るように進んで日の当たらない日陰へとズームした。
 映像はひっそりと群生している植物へフォーカスを当てる。

「これが『ハーヒホーヘーヒホー』じゃ」
「なんかあれね……地味ね」
「地味…」

 拳ほどの大きさと予想される茶色いしなびた草が、水晶に映し出されていた。葉の形はその辺に生えているイネっぽい長細い雑草となんら変わりない。ただ、へにゃん、としなだれるやる気のなさが、いかにもハーヒホーヘーヒホーだった。
 ここに生えてるの面倒くさい……そんな僕の名前はハーヒホーヘーヒホー。なんでここにいるんだろう……そんな僕の名前はハーヒホーヘーヒホー。といった感じだ。

 映像が左へと移動する。太陽の熱い陽射しがきらりと光ると、地味なハーヒホーヘーヒホーに似合わない、大きな建造物が現れた。
 丸みを帯びた立方体が砂漠の上へ不自然に鎮座しており、外壁はすべて白。水晶が上昇して俯瞰すると、ロの字型の建物を中心にして、三つの長方形をした白い建造物が並んでいる。真ん中が空洞になったサイコロの周りに豆腐を三つ並べたみたいだ。

 パッと見は美しい幻想的な景色に見えるが、よく観察すると外壁に窓が少なく、変な煙が上がる建物があって何やら不気味な印象を受ける。

「ポカじい、ひょっとしてこの建物が?」
「エリィの言葉を借りるなら“ビンゴ”じゃ。十二歳以下の子どもを魔法使いに仕立て上げる魔改造施設じゃな。『ハーヒホーヘーヒホー』の加工工場も併設しておる」
「まあ! ここからどのぐらいの距離なのかしら」
「ざっと百五十キロぐらいじゃのう」
「身体強化“下の中”で三時間ぐらいね」
「途中、強力な魔物がおるじゃろうから三時間ではつかんじゃろうな。しかも今回は子ども達を救出しなければならんから、護送用の馬車が必要になるじゃろうて。それを考慮して計算すると、片道一週間は見たほうがええじゃろう」
「じゃあ地図に場所を書いてジャンジャンとアグナスちゃんに知らせましょう。ちょうど冒険者協会定期試験でみんな集まっているだろうし」
「そうじゃの」

 ツナおにぎりを食べていたアリアナがジェラ周辺の地図を持ってきて、机に広げてくれる。ポカじいがペンで印をつけてくれたので、地図を折りたたんでポケットにしまった。

「それで、子ども達は何人ぐらい捕まっているのかしら…?」

 聞きたかった事を言葉にすると、エリィのせいなのか、心臓が大きくドクンと一回跳ねた。おそらく、というか間違いなくエリィが心配しているみたいだ。いつになく鼓動が速い。胸に両手を置いて深呼吸をし、心を落ち着ける。
 大丈夫だエリィ。俺が何とかしてやるから。

「魔薬の投与をされていない子どもがざっと三十人ぐらいじゃな」

 ポカじいがその先を言いづらそうに顔をしかめる。

「投与が完了して魔法訓練を受けている子どもが五十人ほどおる。全員、残念なことに黒魔法で洗脳されているようじゃ。最悪なことに使い手の魔法使いは、黒魔法上級“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”を行使しておる」
「なっ………」
「黒魔法上級……」

 驚きのあまりアリアナがおにぎりを取り落としそうになる。
 この前の話で出てきた精神作用系黒魔法の上級版。たしか、魔法を解除されない限り、使用者のいいなりになるんじゃなかったか?

「完全解除するには白魔法上級“万能の光”が必要じゃ。エリィが新しく習得した浄化系・白魔法中級“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”ならば精神の改善が見られるやもしれん。精神作用系黒魔法は対象者の心が強かったり、人との強い繋がりがあったりと、精神を正常に繋ぎとめる命綱のようなものがあればかかりづらく、解除しやすい」
「つまりは子どもたちが、帰りたいと強く願っていたり、待っている家族がいれば、私の魔法でも解除できるってことなのかしら?」
「そうじゃな。人との繋がりは精神に多大な影響を及ぼすからのう」
「そういうこと……孤児を狙っていたのは黒魔法への抵抗力の低さも考慮に入れていたのかもしれないわね。孤児は家族がいなくて人との繋がりが希薄でしょうから…」
「人の心を弄んでる…」

 アリアナがツナおにぎりを口に放り込んで憤った。

 白魔法は基礎魔法以外の魔法がほとんどなく、黒魔法のように何種類にも派生しない。
 というのも、“再生の光”や“加護の光”などの基礎魔法に回復と浄化の効果があるからだ。

 ポカじいにお願いして憶えた浄化系“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”はアンデッド系魔物や精神汚染の浄化に特化していて、習得難易度は全魔法中の最高峰クラス。使える人間は世界でもほんの一握りらしい。

 浄化のイメージが難しいからだろうな。映画好きの俺としては、CGで浄化する映像を見たことがあったからイメージは割と簡単だった。憶えるのはめっちゃ苦労したけど。

 習得しようと決意したのは、子どもたちの精神が黒魔法や魔薬によって汚染されていた場合、即座に浄化できると思ったからだ。魔法で癒されるならてっとり早くていい。つらい気持ちはすぐにでも安らいだほうがいいに決まっている。この鋼の精神を持つ俺だって、悲しい時間、辛い気持ちは短いことを望む。

 ちなみに回復に特化した派生系白魔法は存在しない。
 どうやら浄化系魔法“聖光ホーリー”が特別な位置づけにあるようだ。

 ポカじいの話によると、白魔法中級“加護の光”と“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”に同じ魔力量を込めて、同じアンデッド魔物へ行使した場合、“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”の方が倍ぐらい、効果が出るそうだ。
 なので、黒魔法上級“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”の精神汚染に白魔法中級“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”ならば対抗できる、と言ったのだろう。あとは対象者の精神力次第だろうな。魔法が精神の根っこの部分までかかっているようだと、解除が難しいので白魔法上級を使うしかなく、使用できるポカじい頼りになってしまう。

「こやつらの所業は人の行いではないのぅ」

 ポカじいが目を細めて水晶玉を見つめると、映像がロの字型の建物に寄っていき、四方を囲まれた中庭を映し出す。そこでは八十名ほどの、小学生ぐらいから中学生ぐらいの子ども達が等間隔に並ばされ、壇上に立つ男の話へ耳を傾けていた。

 男は顔の輪郭が真四角でぎょろ目。ほお骨が高く、エラが張っており、ごつごつとした印象を受ける。宣教師のような黒服を着ており、手には不気味なほど曲がった長さ一メートルの樫の杖が握られていた。

「演説みたいね…。何を話しているのかしら」
「演説ではないぞエリィ。あれは黒魔法をかけておるのじゃ」
「え……? じゃあ、あの男が“強制改変する思想家(グレート・ザ・ライ)”を?」
「どうやらあの禍々しい杖で魔力を増幅させておるようじゃ。嫌な波動をあの杖から感じるのう」
「杖ってあんなに長いと魔法が発動しないんじゃない?」
「通常はそうじゃ。しかしあの杖は……かなり古いアーティファクトのようじゃな。失われし技術を使こうておるから、魔法を行使できるのじゃよ。使用している男の実力は黒魔法中級程度であろうが杖の効果で底上げされておる」
「それでポカじい、子ども達は大丈夫なの?」
「みんな洗脳されておるのぅ…。発動条件が揃っておるから子どもでアレを耐えるのはちぃと難しいじゃろうて」
「発動条件…?」

 静かに水晶を見ていたアリアナがポカじいに聞く。

「第一に目を見ている事、第二に声を聞いている事、第三に指定した魔法陣の中に入っている事、じゃ。ほれ、足元を見てみい」

 砂漠の陽射しのせいで目立たないが、よく見るとうっすらと地面が光っている。中庭全体に魔法陣が張り巡らされているようだ。

「救出の前に黒魔法の洗脳を解除しないとまずそうね」
「そうじゃのう。洗脳のせいで最初は我々のことが敵に見えるじゃろうな」
「戦って傷つけるわけにもいかないし、なかなかに救出が難しそうね」
「最悪、眠らせて運ぼう…」

 アリアナが人差し指を回して言う。
 確かにそうだな。抵抗されるようなら動けないようにして、あとでゆっくり洗脳を解除すればいい。

「てっとり早いのはあやつを捕まえ、魔法を解除させるか、殺すか、のどちらかじゃが……」

 俺とアリアナは黙り込んで水晶を見つめる。
 見れば見るほど、宣教師風の男が洗脳の専門家に見える。ぎょろ目には狂気が宿り、子どもを視線で射貫かんばかりにねっとりと見回し、口元は残忍に歪んでいた。

「ひとまずはアグナスちゃんとジャンジャンに報告ね。今すぐにでも助けに行きたいけど……焦ってもいい結果にならないわ。私たちだけでどうにかなるとも思えないし。まずは心を落ち着かせて、冒険者協会定期試験を受けに行きましょ」
「ん…」
「おお、もうこんな時間じゃ。はよういくぞい」


   ○


 軽い準備運動をしてポカじいの家から出た。

 身体強化“下の中”に“下の上”を混ぜながらでランニングをして西門から商店街へと入る。四十キロの距離が三十分とか、もう人間じゃねえな…。景色が高速道路みたいに後ろへ動いていくのは面白い。
 走っている最中もポカじいから「重心がぶれておる」などの厳しい言葉が飛んでくる。
 途中、サンドスコーピオンが出てきたので思い切り蹴ったら、一発でどこかへ吹っ飛んでいった。

「エリィちゃん、アリアナちゃん、賢者様、ハロー」
「門番さん、ハロー」
「ハロー…」
「ハローじゃ」
「あのさエリィちゃん……その……その服は……?」
「コゼットに作ってもらったのよ! いいでしょ」

 ジャンジャンの友人である西門の兵士が聞いてきたので、サービスの意味も込めて、腰に手を当ててモデルポーズを取った。

「う………ッ!!」
「あ、あら…? どうしたの?」
「何でもない何でもない大丈夫気にしないで」

 と言いつつ門番の彼は全力で鼻を押さえている。

「今日は冒険者協会定期試験だろう? もう時間だから早く行った方がいいよ…」
「あらそうね。じゃあ行ってきます」

 門番、大丈夫だろうか…?

 西門を通過してポカじいがバー『グリュック』に入るのを見送り、お隣の『バルジャンの道具屋』に寄ってコゼットとガンばあちゃんに挨拶をし、商店街を進んで『西の治療院』に顔を出し、ついでに『ギランのたこ焼き屋』で三バカトリオのどうぞどうぞを見ておく。


 ガシャーーン
 パパパパパリーン
 は……ほひ……いたたたたっ、ぱぁぁん!
 ドンガラガッシャーン
 ヒヒーーン
 ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!
 うわあああああああああああああっ!
 ヒーホーヒーホー


 なんだろう。どうも今日は商店街が騒がしいな…。
 アリアナもコンブおにぎりをぱくつきながら、首をかしげている。

 まあ気にしていたら試験の時間に間に合わなくなる。冒険者協会へ急ごう。


   ☆


 俺っちは生まれて初めて職務放棄した。
 門番は門に張り付いているのが仕事だ。だが、俺っちは頭のてっぺんからつま先まで魔法をかけられたように、ふらふらと白い二本の何かを追って西門から離れた。

 この世にあんな美しいものが存在するってことを、今日初めて知った。

 すらりと伸びる悩ましげな美脚は、健康的でありながら蠱惑的なフェロモンを放っている。尻しか隠していない短すぎるズボンは、形のいいヒップに押し上げられ、一目でも見れば自然と口元がだらしなく半開きになった。くびれた腰が、たまらなく、いい。

「ああ…エリィちゃん……」

 彼女のあとを追って俺っちは歩く。鼻の両穴からは熱い液体がしたたり落ちているようだが、拭う気になれないほど頭がどうにかなっている。

 ガシャーーン、とどこかでエリィちゃんに見惚れた奴が食器を落とす。
 パパパパパリーン、と西の商店街の雑貨屋店主が、両手で持っていた五枚の皿をじょうろで花壇に水をやるみたいに落として割る。
 デート中だった若い男がエリィちゃんに釘付けになり「は……ほひ……」と鼻を両手で押さえるが「いたたたたっ」と彼女に耳をしこたま引っ張られ、それでもエリィちゃんの胸元から目を離さないので彼女のビンタを食らい、ぱぁぁん! という小気味いい音を商店街に響かせる。
 さらには馬車に荷を積んでいた商人の男がエリィちゃんとアリアナちゃんを見て驚愕し、股間と鼻を押さえるという不格好な姿で、ドンガラガッシャーンと馬車から転げ落ち、その音にびっくりした馬がヒヒーーンと叫ぶ。
 絶賛彼女募集中、と昨夜酒場で管を巻いていた鍛冶屋のおっさんが開店準備中にエリィちゃんの生足を見て、意味不明に「ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!」叫んで手に持っていた看板を地面に叩きつけ、その叫びを聞いて何事かとあわてて外に飛び出した鍛冶屋の親友である宿屋の店主が「うわあああああああああああああっ!」とアリアナちゃんを見て頭を抱えると両穴から鼻血を噴出させて気絶し、近くにいたらしい臆病者のヒーホー鳥が驚いてヒーホーヒーホーと呼吸困難を起こす。

 阿鼻叫喚、地獄絵図、とはこのことを言うんだろう。
 エリィちゃんとアリアナちゃんが道を歩くだけで、破壊された物が散乱し、鼻血によって地面が赤く染まり、気絶者が多数転がる。出血多量で意識が朦朧としている男どもが、アンデッドモンスターのように不気味なうなり声を上げてのたうち回っていた。

 新鮮な生肉に吸い寄せられるデザートスコーピオンのように、まだ動ける商店街の男たちはエリィちゃんとアリアナちゃんの後をふらふらと追う。

 俺っちはエリィちゃんがたこ焼き屋の前でギランの旦那たちの持ちネタ「どうぞどうぞ」を披露され、満面の笑みでころころと笑う姿を見た。

「て、てんし……??」

 心臓と下半身に熱いパルスが駆け抜け、鼻から血まみれのウォーターボールが噴き出ると、俺っちの意識が母ちゃんの子守歌を聴いて眠りにつくときのように、ふっつりと断絶した。


   ○


 冒険者協会についた俺とアリアナはカウンターで受付を済ませた。
 協会内はこれから試験を受ける冒険者数百名と、応援に来ている町民、賭けに興じる客でごった返している。

「あ、ジャンジャーン! クチビールゥ!」

 二人を発見したのでアリアナと手を振って呼んだ。

「エリィちゃんハ―――ロッ!!!?」
「エリィしゃ――――んっっ!!!??」

 先に受付を済ませたらしいジャンジャンとクチビールが、俺の姿を見て股間と鼻を押さえる、という器用な動きをする。
 二人はくるっと踵を返し、人混みの奥へと消えた。

 あかん……。
 ちょっとこの服装は刺激が強すぎるのかもしれない…。

 いや、もともと好感度が高い二人だから、可愛いって思ってくれたんだろうな。他人が見てあんな風にはならないだろうよ。さすがにエリィが超絶可愛いっていっても、なあ?

「これはこれは、何とも刺激的な服装だね」
「あらアグナスちゃん。ハロー」

 竜炎のアグナスが赤いマント、赤い鎧に身を包んで、人混みの合間を縫いながらこちらにやってくる。
 後ろにはパーティーメンバーである、神官服のような服を着た大柄な男『白耳のクリムト』、中肉中背で刀を背負ったターバンの男『裂刺のトマホーク』、背の低いマント姿の男『無刀のドン』の三人が控えていた。なぜか全員、鼻を押さえている。誰か屁でもこいたのだろうか。

「例の件だけどね、僕が知り合いの冒険者達に声をかけておいたよ。ジェラの上位ランカーが軒並み救出部隊に参加してくれることになった」
「まあ! ありがとうアグナスちゃん! さすがトップ冒険者ね!」

 嬉しくなって自分の両手を組み合わせ、胸のあたりへもってきて、にっこりと笑った。

「ふふっ。君はどうやら男泣かせのレディに変貌したようだね」
「ん? 何かしら?」
「いやいや、何でもないさ。あとは魔改造施設が特定できれば作戦開始だ」
「それがね、今日わかったのよ」
「本当かい?」
「ええ!」

 うなずいて、ポケットから地図を取り出すと、アリアナが受け取ってフリーになっているテーブルへ広げた。周囲にいる冒険者たちが遠巻きに俺たちを見ていることが視線でわかる。男はなぜなのか、ほとんどが鼻先を指でつまんでおり、女はアリアナを見て目を輝かせている。

 くんくん。
 別に臭くはないなぁ。

 にしてもアリアナの可愛さは女性にはたまらないだろう。
 お人形さんみたいだもんな。

 ひとまずギャラリーは気にしないことにし、エリィの美しい指で、ポカじいがつけてくれたバッテン印を指さした。

「ここよ」
「ここは…」

 地図の印を見たアグナスが、難しい顔を作る。

「まさか『空房の砂漠』とはね…」
「くうぼうのさばく?」
「砂地獄が多数存在していて、足を踏み入れると帰ってこれない、と言われているんだよ」
「あら……でも行くしかないわよ?」
「敵さんも物資の輸送をしているから安全なルートがあるはずだ。知っている人間がいるかもしれない。クリムト」

 白い神官風の服を着たクリムトがうなずいて、人混みをかき分けながら協会の奥へ続く階段を上がっていく。よぼよぼのジェラ支部長に聞くのかもしれない。たしかに年は取っているし、冒険者協会の支部長になるほどの人物だ。色々と知っているだろう。

「エリィちゃん! エリィちゃんいるぅ!?」

 突然、入り口のスイングドアが勢いよく開いて、コゼットがドクロを揺らしながら冒険者協会に転がりこんできた。
 なんだろう。
 俺とアリアナはコゼットに駆け寄った。

「どうしたのコゼット?」
「大変なの! 原因は不明なんだけど、西の商店街にいた男の人が何人も鼻血を出して倒れちゃったの!」
「なんですって!?」

 えらいこっちゃ!
 新種の疫病とかだったらまずいな。

「アグナスちゃん、またあとで話しましょう」
「わかったよお姫様。試験の時間までには戻ってきなよ」
「もちろん。でも患者さんが優先よ」
「君ならそう言うと思った。僕が協会に口利きしておくから多少なら遅れても大丈夫だよ」
「ありがと! 行きましょアリアナ!」
「うん」

 協会を出て、患者が収容されている西の治療院へ急いで向かう。
 途中でコゼットが豪快に二回転んだので、二回とも“治癒ヒール”で回復し、すぐに走り出す。
 走っていると、なぜか後方から、皿の割れる音や物をひっくり返す音が聞こえてくる。ほんと今日のオアシス・ジェラは騒がしいな。きっと冒険者協会定期試験のせいだろうな。

 西の治療院に到着し、バンと扉を開けた。

「みんな安心してちょうだい! 順番に看るから具合の悪いひとから並んでちょうだいねっ」

 患者を安心させるように、笑顔で院内を見回した。
 エリィの可愛らしく神秘的な笑顔だ。落ち着いてくれるだろう。


 ブーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


 患者数十人の鼻から、ウォーターボールみたいな勢いで鼻血が噴出し、壁、窓、床、ステンドグラス、治療ベッドに吹き付けられ、院内がスプラッタ映画さながら血みどろの惨状になった。

 ひいいいいいいいいっ!!
 なんじゃこりゃあああああっ!!!

「きゃああああああああっ!」

 コゼットが大量の血を見て気絶し、ドクロが頭から転がり落ちて血の海で回転する。

「エリィ…!」
「わかってるわ」

 コゼットに“治癒ヒール”をかけて院内の隅へ運んで寝かせ、身体強化を使ってアリアナと患者達を急いで治療院の中心に集め、魔力を高速循環させる。

「あの灯火を思い出し、汝願えば大きな癒しの光になるだろう……“癒大発光キュアハイライト”!!」

 範囲型回復魔法“癒大発光キュアハイライト”が患者たちを包み込む。
 失った血は戻らないが、体力は回復する。

 数十名は息も絶え絶えだが、何とか一命を取り留め、危機は過ぎ去った。
 あぶねーーっ。てかこれ原因なんなの?
 疫病とかだったら結構やばいよな。

「あら…西門の門番さん?」
「エリィ……ちゃん………ううっ……」
「だいじょうぶ?!」
「ああ、大丈夫だ…」
「無理に起き上がったら駄目よ」

 すぐに駆け寄って、門番の背中に太ももを入れ、頭を右手で支える。

「ううううっ!!!」
「なんてこと!」

 ぶばっ、と門番の鼻からまたしても大量の鼻血が飛び出した。
 いかん、このままだと死んでしまう!
 門番の頭を太ももに乗せ、急いで魔力を練り上げた。

「親愛なる貴方へ贈る、愛を宿して導く一筋の光を、我は永遠に探していた……“加護の光”!」

 白魔法中級“加護の光”が発動すると、光の柱が天井へ突き抜けるようにして直進し、俺と門番を包み込む。魔法の風圧で金髪ツインテールが上方へ持ち上がり、ゆらゆらと揺れた。
 上位中級魔法なら多少の血は取り戻せる。

「う、うつくしい……」
「しゃべっちゃダメよ」
「エ、エリィちゃん……もう………その………ふ…」
「しゃべらないで。安静にしていれば大丈夫だから」

 門番は口をぱくぱくさせて、何かを必死に訴えている。
 只ならぬ雰囲気を察し、彼の口元へ耳を近づけた。

「もう………その服で…………出歩いちゃあ…………いけない……」
「それは…どうして?」
「君が…………あまり、にも……………………かわいい…………から……………みんな……………こんなことに……」
「えっ?」
「おれの…………頭の……下にある………ふとも………ふとも…………」
「ふとも?」
「ふ………ふともも………が………………鼻血の………原因……………だッ」

 言い切ると門番は、がくっ、と力尽きた。
 エリィの太ももに埋もれた門番の顔は、特化商材を見事売り切ったセールスマンのように、満足げで幸せそうだった。

 何だか恥ずかしくなってきて、すぐに太ももを門番の頭から抜いた。ごん、と彼の頭が床にぶつかる。

「あのー、アリアナ……私ってそんなに魅力的かしら……?」

 鞭の柄で門番の顔をぐりぐりやっているアリアナにたまらず尋ねた。
 見ただけで男達が鼻血ブーするぐらい可愛いとか、信じられん。グレイフナーじゃ、ブス、デブ、って言われ続けたんだぞ。そりゃないだろーさすがに。

「かわいい……私ですらおかしくなるぐらい…」
「はははははは…」
「このスケベな人たちは、二度とそういう気持ちにならないようにしておくね…」

 俺の乾いた笑いを聞いて、アリアナが優しげに口角を上げた。

「混沌たる深淵に住む地中の魔獣。我が願いに応え指し示す方角へ己が怒りを発現させよ……ギルティ――」
「ストップストーップ! 重力魔法なんて使ったらトドメの一撃になっちゃうわよ」
「だめ?」
「だーめっ!」
「わかった…」

 アリアナが渋々といった様子で魔法を止めたところで、入り口がバンと開き、ジャンジャンとクチビールが入ってきた。

「うわぁ! これはひどいっ!」
「な、なんでしゅこの血だまりは!」
「ねえねえ二人とも。私ってそんなに可愛いかしら?」


 呆然と院内を見るジャンジャンとクチビールに向かって、ツインテールを両手でふわっと上げて、腰に左手をつき、右手を太ももに乗せ、前屈みになって胸を寄せ、軽くウインクしてみる。


「………………………………うっ」
「………………………………でしゅっ」


―――ブシャア!!!


 二人の鼻から血まみれのウォーターボールが飛び出し、ジャンジャンは前のめりに、クチビールは仰向けにぶっ倒れた。


 あかん……。
 しばらくショートパンツは封印だな……。


「全員、有罪…」


 アリアナがぽつりと呟いて、重力魔法“断罪する重力(ギルティグラビティ)”を詠唱し始めた。

エリィ 身長161㎝・体重53㎏


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いつもお読み頂きありがとうございます!

なんと、読者の方からエリィちゃん完全体の挿絵をいただきました。
前回同様、後書きに載せていいのかわからないので活動報告のほうにURLを掲載致しました。

かなり可愛く描いて頂いておりまして……


―――ブシャア!!!


このページ左下の作者ページ→活動報告
からチェケラっ!


次回からいよいよ魔改造施設攻略編に突入します。
更新は少し遅くなるかもしれません・・・。


完全体エリィちゃんとイケメンの冒険はまだまだ続きます。
次回「第21話」も引き続きよろしくお願い致します~。
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