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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第15話 イケメン砂漠の身体強化

「これから“身体強化”を使った訓練を本格的にやっていくぞい」

 ポカじいの家から出てすぐのところで、俺とアリアナはポカじいに向き合っていた。雲一つない砂漠の陽射しが暑い。日焼けしないようにヴェールをしっかりと羽織った。

「エリィは“身体強化”の才能があるようじゃから、落雷魔法を組み込んだ体術を憶えてもらう。中距離攻撃、遠距離攻撃は落雷魔法の十八番じゃ。逆に言うと接近戦には弱い。そこで、近接攻撃が得意な敵に間合いを詰められた際、距離を取れる役割になるのがこの“体術”じゃ」
「ポカじいの戦闘スタイルもウエポンを持たずに“体術”って話だけど、普通の魔法使いはどういうスタイルが多いの?」
「片手剣やレイピアが多いのう。空いた手で杖を持って、魔法と物理で攻撃する魔剣士スタイルが近年の主流じゃ。身体強化が苦手な魔法使いは相手との距離が取れる戦法、風属性の扇子で相手を吹き飛ばしたり、逆に武器を持たずすべて魔法で対応したりと、十人十色じゃな。両手剣やハンマー系はめずらしいのぅ」

 スルメとガルガインはバスタードソードとアイアンハンマーだから、かなりレアってことか。あいつらは完全に“身体強化”を視野に入れた武器選びをしているみたいだな。中距離系の魔法で相手を釘付けにして、一発が強力な武器で敵を粉砕するスタイル、って感じか。
 それとも……両手持ち武器を選んだ理由が他にあるのかもしれない。

「ついでに言うと、体術と鞭も相当めずらしい。特に体術は無杖でないと無理なスタイルじゃからな」
「なるほどね」
「私は鞭がいい…」

 アリアナが腰につけた鞭をなでた。
 気に入っているらしく、空いている時間に練習してる姿をよく見る。

「変える必要はないと思うぞい。むしろ黒魔法の鞭使いとはなかなかに面白い。ちょっと鞭を貸してみぃ」

 アリアナから鞭を受け取ると、ポカじいは魔法を呟いて、砂丘に向かって一振りした。
 ドパァン、という破裂音が響き、高さ二メートルほどの砂丘が弾け飛んで、直径十メートルほどえぐられた。

 すごっ! 何その威力! 人間に使ったら跡形もなくなるんじゃねーの?
 アリアナが驚愕して目を見開いている。
 鞭を返してもらい、彼女が思い切り砂を叩いた。パァンと鋭い音がするものの、砂漠に鞭の跡ができるだけだ。細身の女の子が鞭を叩きつける威力はそんなもんだろう。

「今のは右腕を“下の上”のパワーで“身体強化”し、鞭の先が砂に当たる瞬間、タイミングを合わせて“重力グラビトン”をかけたもんじゃ。一瞬、砂が引き寄せられるような変な動きをしたじゃろ?」
「全然見えなかったけど…」
「よくわからない…」
「“身体強化”はどれぐらい魔力を込めるのかを魔法のランクに合わせて言われることが多い。下位魔法の下級レベルなら“下の下”、上位魔法中級レベルなら“上の中”みたいにの」
「下の下でどのぐらい強くなるの?」
「下位下級魔法なら全く効かなくなるぞい。あとは身体能力が上がるのぅ。エリィ、右手に魔力を集中してみぃ」

 ポカじいに言われた通り、魔力循環をして、下位下級“ウインド”を撃つぐらいの魔力を右手に集めた。
 だが、集めた先から魔力が霧散していく。
 むずっ!
 めっちゃむずい。

「ほっほっほっほ。魔力循環をしっかりコントロールして魔力を右手に集中させるのじゃ」

 これはあれだな。磁石で遊んでいるのと似ているな。小さい磁石を人差し指と親指に置き、反発する面を向けてくっつけ、指で押さえつける。小学生のとき、勝手に離れようと暴れる磁石を押さえつけて、反発する感覚を楽しんだもんだ。懐かしい。
 指へ入れる力具合が悪いと、磁石がずれて、すぐに両者がくっついてしまう。

 “身体強化”は磁石遊びと似ている。しかもこっちのほうが遙かに難易度が高い。
 無理に右手へ魔力を留めておこうとすると、勝手に霧散してしまう。力が強くてもダメ、弱くてもダメ、絶妙な力加減が必要だ。魔力循環をうまくコントロールできないと、一秒も魔力を留めておけない。

「いつぞやにやっていた“電打エレキトリック”を右手に纏わせる技と同じ要領じゃぞ」

 ああ、エリィちゃんパンチね。
 どれ、落雷魔法を右手に纏わせる感じで…。

 お、さっきよりはましになったような気がする。五秒ぐらいは魔力が霧散しないように耐えられるぞ。

「やはりスジがいいのぅ。落雷魔法のおかげなのかはわからんが…。お、そうじゃ、ちぃとわしの手のひらを殴ってみぃ」

 ポカじいは何を思ったのか右手を広げてこちらにかざす。
 まあ所詮“下の下”のパワーだ、たいした反動はこないだろう。
 言われた通り、もう一度右手を“身体強化”し、じいさんの手のひらを殴った。

「えいっ!」
「むっ」

 じいさんが仁王立ちの姿勢のまま足元の砂ごと、二メートル後方へ滑った。二本の砂の軌跡が足元に描かれる。

 え………?
 やばくね、これ?

 女の子がパンチして成人男性が二メートル地滑りするとか、どんだけだよ…。
 地球の格闘家が助走つけて殴るのと同じぐらいの威力が出てるんじゃね?

「ふー、さすがに“身体強化”なしで受けると痛いのぉ。“治癒ヒール”」
「すごいわね“身体強化”って…」
「これができなければ強くなれんよ」
「どうして魔法学校は教えてくれないのかしら」
「たしかに…」

 アリアナに尋ねると、彼女も疑問に思っていたのか首をかしげた。

「難易度が高い、ということじゃろうな。この世界で一、二を争うグレイフナー魔法学校ですら身体強化までは面倒がみきれんのじゃろうて。それに冒険者や魔闘会の出場者にでもならぬのなら、そこまで“身体強化”は重要視されんからの。魔法の知識と豊富さが重視されるもんじゃ」
「“身体強化”ってそんなに難しいことなの?」
「そうじゃのぅ……今おぬしたちはわしの言いつけを守って魔力循環しているじゃろ?」
「ええ、常に魔力循環しているわ」
「うん。近頃は会話中もできるようになった…」
「そのレベルにならんと“身体強化”は無理じゃ。そこまで魔力循環ができる魔法使いは一握りじゃろう。冒険者で言うとCランク以上、おぬしらの王国基準で表すと騎士団の『シールド』入団レベル、といったところか」
「私たち、何気にすごいことやってたのね」

 グレイフナー王国最強魔法騎士団『シールド』は“身体強化”が入団必須条件だと言っていた。魔法学校ですら“身体強化”できる生徒はごく一部って聞いたし、飛び抜けて優秀な魔法使いじゃないと『シールド』に入団できない。才能がある優秀な受験者に対しては、入団試験中、強引に“身体強化”を憶えさせて合格にするって話だが……果たしてどんな訓練なのだろうか。

「では話を戻そうかの。エリィの場合“身体強化”を極限までマスターすれば、近接で殴打してもよし、中、長距離で落雷魔法をしてもよしの、万能型魔法使いになれるぞぃ。当面は、護衛と距離を取るための護身術の役割じゃがな。アリアナは黒魔法を中心とした中距離型を目指すべきじゃろ。相手を近づけさせない鞭の手数で牽制し、一発が強力な黒魔法重力系で相手を屠る、というスタイルじゃな」

 おお、万能型かっこいいな。
 つーか落雷魔法が強すぎんだよ。
落雷サンダーボルト”は中、長距離攻撃。
電衝撃インパルス”は中距離拡散系。
電打エレキトリック”は近距離攻撃。
 当たったら感電&超高温だ。まあ強力すぎてどこでもぶっ放せるわけじゃないから、近接戦闘を憶えるにあたってのデメリットは一切ない。
 それに、落雷魔法があるから、という慢心は二度としない。そんな慢心がペスカトーレ盗賊団に誘拐される、という最低の結果を生み出したんだ。あのときの俺は、何かあれば“落雷サンダーボルト”で解決するという安易な考えで行動し、簡単な連携に負けた。

 妥協せず、憶えられることは全部やるぜ。
 砂漠でポカじいと出逢えたことは、まさに僥倖といっていい。
 弟子にしてくれてありがとうポカじい! スケベだけど!
 たまに風呂を覗いてるのには心の底から呆れているけど、ありがとう!

 相棒であるアリアナの黒魔法もめちゃめちゃ強い。
 中級の“断罪する重力(ギルティグラビティ)”は、背筋が凍るほどの威力だ。指定した場所に二つの重力場を作り、互いの斥力を利用して物体を切断する魔法で、三階建ての建物ぐらいなら真っ二つにできる。
 ちっちゃくて人形みたいに可愛い狐娘が、ここまで強いって誰が信じるよ。やっぱ異世界すげえな。

 アリアナのお気に入りは“重力弾グラビティバレット”だ。黒い重力弾を飛ばす魔法で、飛んでいくスピードは速くないが、一メートルまで近づくと、抗えない引力で引き寄せられてぶつかった物体がぐしゃぐしゃに潰される。
 連射できるように頑張る…ニコッって笑ってたな。いや、怖いよ!

「それじゃアリアナ、“重力弾グラビティバレット”をわしに撃ってみい」
「え…いいの?」
「問題ない。思い切りやってみぃ」

 俺のときと同じようにポカじいが右手を広げて突きだした。
 アリアナが“重力弾グラビティバレット”を唱える。
大型機械が発するような低音を響かせ、こぶし大の“重力弾グラビティバレット”が飛んでいき、ポカじいの右手にぶつかった。

「むん」

 “重力弾グラビティバレット”はポカじいの右手にぶつかり、激しく揺れると、溶けるように空中へ消えた。

「え……?」

 驚いたのはアリアナだ。そりゃそうだ。“重力弾グラビティバレット”は鉄板を引き潰して貫通するほどの威力がある。

「右腕を“上の下”まで“身体強化”したんじゃよ」
「すごい……」
「“重力弾グラビティバレット”は上位下級魔法よね。ということは同等レベルの“身体強化”をすれば、魔法が無効になるってこと?」
「平たく言うとそうじゃな。ただ、込める魔力が攻撃魔法を下回ると相応のダメージを負うから注意が必要じゃ。今の攻撃を“下の上”のパワーで防御したら、右腕がぼろぼろになっとるわい。あくまでも緊急の場合だけ“身体強化”でガードするのがいいじゃろう」
「そんなに都合がいいってわけでもないのね」
「むしろ使いどころが難しいぞい。魔力の消費も多い。だが自衛と攻撃、両面から鑑みて非常に有用じゃ。さらに言うと、“身体強化”なしで強い敵には勝てん。『旧街道』を通過するのは、何度も言うが、無理じゃな」


   ○


 その日は、ひたすら“身体強化”の訓練をした。

 アリアナは五時間かけて、なんとか右手に“身体強化”を発現させることに成功し、俺は時間をかければ“下の下”ではあるが、全身への強化が十秒ほど可能になった。じいさんに言わせると、相当に早い習得で自分の若い頃と同等の飲み込みのよさ、だそうだ。
 じいさんの若い頃か。ちょっと気になるな。

 夕飯を食べて風呂に入る。
 もうアリアナと入ることに何の抵抗もない。彼女の素っ裸を見てもムラムラしないのは俺が女だからだろうな。
 アリアナは俺の頭と体を洗ってくれ、風呂上がりにつける化粧水も塗ってくれる。最初は断っていたけど、どうしてもと言われて、最近じゃ、なすがままだ。

「ルイボンに感謝ね」
「これすごくいい。お肌がぴちぴちになる…」

 この化粧水、ルイボンにもらった『星泥の化粧水』というもので、一瓶三十万ロンする。
 星屑が落ちた沼地でしか取れず、グレイフナーと冒険者同盟のさらに南方『恐喝の森』でしか採取できない超高級化粧品だ。ニキビにすんげえ効くとのことで、ルイボンが自分のお小遣いでわざわざ取り寄せてくれた。なんだかんだ優しい、というか友達思いだよな、ルイボン。そしてお小遣いが日本円にして三十万円…羨ましいぜ、ルイボン。

 昨日から使い始めたんだが、まだ効果は出ていない。まあね、そんなにすぐ頑固なニキビたちが消えるはずがないよな。

「エリィ…どうしたの?」

 タオルで頭を拭いているアリアナがこてんと首を顔かしげて、肌着姿で鏡を見ている俺に尋ねてくる。

「お昼にジャンジャンが、結構鍛えてるよねって言ってたけど、あれってヴェールとギャザースカートで肌を出してないからそう見えたのよ。お腹まわりはちょっと引き締まっているけど、そこまで筋トレはしていないもの」

 エリィが成長期なので、本格的な筋トレはせず軽い運動程度のメニューにしている。毎日やっているのは腹筋だけだ。あまりやりすぎてムキムキになっても俺の理想体型じゃないし、筋トレに時間を割くより魔力循環に時間を割り振ってきた。魔力循環をしながら筋トレできれば最高なんだろうが、筋トレをやり出した瞬間に魔力循環ができなくなる。せいぜい今の実力だと、会話しながら魔力循環するのが限界だ。他の動作が入ると集中が切れてしまう。

「まだ脂肪が多いのよね」

 太ももの肉をつまんでため息をついた。外人のぽっちゃり系って感じだな。ショートパンツが似合うぐらいまで細くなりたい。
 そんなことを思っていると、アリアナが両手で二の腕を掴んで揉んできた。

「柔らかい…」
「くすぐったいからやめてちょうだい」
「もうちょっと」

 ぶんぶん揺れる狐の尻尾を見ながら、体重計に乗る。
 五十九キロ。

「やっぱり減ってないか…。ジャンジャンが鍛えてるって言ったのは腕とか足が太いのにくびれがあるから、冒険者によくいる女戦士っぽく見えたんでしょうね。ほら、女性冒険者って太くてガタイのいい人が多いから」

 男に言われた言葉がこんなに後を引くもんだとはな…。
 ちょっと言われただけで傷つく女子の気持ちが今なら痛いほどわかる。女性に「太ったね!」とか安易に言うべきじゃねえ。友達でもダメ。絶対だ。

「増えてる…」
「何キロ?」

 交替して体重計に乗ったアリアナが真顔で言う。

「三十四キロ」
「一キロ増えたわね」

 百五十センチで三十四キロは細い。
 日本の若者向け女性雑誌モデルがこういう小さくて細い体型だ。あとは若いアイドルなんかもこれぐらい細い。一回アイドルの卵と合コンしたけど、片手で二人抱えられるぐらい細かったな。
 まあ、細い細い言ってるけど、思い返すとアリアナの体調がやばかったとき、体重二十キロ台だったからな。あのときに比べたら健康的になったもんだ。ほんと良かったよ。

 あとは砂漠に来てから軽くやってるスクワットがいい感じに効いているみたいで、細い真っ直ぐな太ももには、ほんのりと肉がついている。常に食べているおにぎりも痩せやすい彼女には絶妙なカロリーになっているのだろう。うむ、計算通り!

「あと五キロは欲しいわね」

 腕を組んで、彼女のスレンダーな生足を凝視しながらプロデューサー風に独りごちる。

「太ってから疲れにくくなった…」
「健康になったからよ。もう少しお肉つけましょ」
「エリィはむちむちのほうが好きなの?」
「どうだろ? 私がむちむちだからね」
「たしかに…」
「そこは否定して欲しいところよ!」
「むちむちも……いい」
「二の腕を触らない!」
「あと胸がむちむち…」

 そう言ってアリアナがじっとりした目で俺の胸を見つめてくる。
 いや、ここは遺伝だからどうしようもないよな。だからデザートスコーピオンを見るような目で俺の乳を見ないでほしい。

 あとは顔だ。顔の肉が取れない。あごのあたりにまだ脂肪がある。
 エリィは相当顔に肉がつきやすいタイプなのだろう。それを考えると、もっと痩せるのは確定だ。痩せない限り小顔になれず、ゴールデン家の真価が発揮されない。

 痩せるには今以上に魔力循環が得意にならないとダメだ、というのがポカじいの見解で、エリィの体にはまだまだ脂肪に魔力溜まりが起こっているらしい。原因は常人の十倍以上の膨大な魔力を保有していることにある。そいつらを制御できるぐらい繊細な魔力循環が可能になれば、身体が求める理想の体型になるんだとか。

 今後、どういう筋力トレーニングにするかは、ポカじいの“体術”の訓練もあるし、魔力循環との兼ね合いを見つつ考えていくか。とりあえず腹筋は、ジムでのトレーニングでも必ず最後にやれ、というのが一般常識になっているほど大事な部位なので、引き続き毎日やろうと思う。今現状のちょいぽちゃ体型でも気持ちくびれるぐらいの効果はあるし、なにより贅肉が取れたときにくびれが現れるのは嬉しい。

 エリィの大事な体だ。この身体が求める理想体型を目指しつつ、色々な洋服が似合う体型にし、尚且つ戦いでも有用なものにしたい。
 欲張りかもしれないが、俺、天才だし、いけるだろ。


   ○


 朝六時に起きて、ポカじいの家からジェラまで四十キロのランニング。
しかも“身体強化”をしながら、だ。

 初日は、俺もアリアナも全身への“身体強化”がすぐに消えてしまい、ポカじいの容赦ない魔法攻撃を受けた。

 “身体強化”が切れると下位中級魔法“サンドボール”“ファイヤーボール”“ウォーターボール”の攻撃が飛んでくるルールだ。俺たちのレベルだと必ず“身体強化”は数十メートル進んだところで切れてしまうので、二人で防御の連携しながらランニングを行った。

 ランニングというより、亀の行進だ。

 “身体強化”があまりに難しいので、全身に張り巡らせると、ゆっくりした動きしかできない。数十メートル進むと、集中が切れて“身体強化”が解除されてしまう。するとすぐに波状攻撃のような魔法が飛んでくる。
 片方がポカじいの魔法をガードし、片方が“身体強化”を“下の中”のパワーで完成させたところで防御を交替。“身体強化・下の中”で魔法を弾き飛ばし、二人の“身体強化”が完成したところで、行進を再開する。

 十時間使って、一キロしか進めなかった。

 原因は二つ。
 一つは“身体強化”の発動が遅いこと。
 一つは防御魔法の発動が遅いこと。

 防御魔法の発動が遅いというのは、ポカじいがマシンガンのように下位中級魔法を連射できるのに対し、俺とアリアナはせいぜいポカじいが撃つ五発に一発の連射速度しかない。となると一ランク上の上級魔法で防御する必要が出てくる。“サンドボール”や“ファイヤーボール”を、下位上級の“ウインドストーム”や“ファイヤーウォール”などで防御壁にすれば弾き返せる。ただし、魔力を込め続けて維持するため、必然的に魔力消費が激しくなる。

 余裕を持って防御するには、同等レベルの魔法を同等レベル連射速度で発射して打ち落とすか、もっと防御効率のいい魔法を習得するか、だ。“サンドウォール”を習得するべきだろうな。“ファイヤーウォール”や“ウォーターウォール”とは違い、“サンドウォール”は一回唱えれば土壁が破壊されるまで攻撃に耐えられる。


 結局、この日は町にたどり着くことができず、ポカじいの家に引き返した。


   ○


 家に戻り、休憩をしてから俺はポカじいと体術の訓練。
 俺よりも上達が遅いアリアナは家で“身体強化”の自主トレだ。

 周囲はすっかり暗くなっている。

「疲れておるかの?」
「“加護の光”を唱えてくれたから回復したわ」
「ほっほっほ。それでも精神疲労と蓄積した肉体疲労は消えんもんじゃぞ。相変わらず気丈な娘じゃな」
「ゴールデン家の娘だからね」

 とは言ったものの、いますぐベッドに飛び込みたいほど疲れている。

「“加護の光”には、その日に浴びた日焼けを戻す効果もあるからの。これから二人には毎日唱えてやるわい」
「その情報、早く欲しかったわ」

 エリィは色白なので、長時間日を浴びると肌が赤くなって痛い。焼けないのはいいが、お肌が荒れちまう。これからは日を浴びても自分で“加護の光”を唱えればいいわけだ。ヴェールでいちいち肌を隠さなくていい。魔法まじ便利ーっ。

「わしが開発した体術をエリィに伝授する。型をすべて記憶し、淀みなく舞うことが第一段階。第二段階が組み手。最終段階が魔法と組み合わせた混合攻撃として昇華させることじゃ」
「わかったわ」
「全部で十二の型がある。便宜上、魔法の元素と同じ呼び方をしておるぞ」
「へえ~。風の型、火の型、みたいに?」
「そうじゃ。型には特徴があるのじゃが、説明よりも実際に見たほうが早いの。いくぞい」

 実演、と言ってポカじいが見せてくれた型を見て、張り裂けんばかりに胸が高鳴った。

 やべえええええええーーーッッ!
 めっちゃかっこいい!

 食い入るように、ポカじいの流麗な型を見つめてしまう。

 その動きは俺がカンフー映画で何度も観た、中国拳法の“洪拳”と“詠春拳”に酷似していた。しかも二つが上手く混ざり合っている。その上、予想のできない動きも組み込まれ、かっこよさが倍増していた。
 てっきり体術っていうからボクシングとか総合格闘技とか、そっち系をイメージしていた。異世界でカンフーができるなんて思わなかった。いつか習おうと思ってるぐらい好きだからくっそテンション上がる。やべえ。

「どうしたんじゃエリィ?」
「早く! 早くやりましょう!」
「おお、そんなに体術が気に入る魔法使いは珍しいのう」
「だってかっこいいもの!」
「ほう、かっこいいと…?」
「ええ! “風の型”をもう一度お願い! いえ、お願いします!」

 ポカじいは俺がやる気になったことが相当不思議みたいだ。
 でも嬉しいのは間違いないらしく、笑顔でうなずいて構えを取る。

 腰を落とし、左手を手刀の形にして顔前に持ち上げ、右手も同じ形で左手の後ろに持ってくる。
 カンフーじじいだ。リアルカンフーじじいだよ!

「ふん」

 かけ声と一緒に腕を動かしていく。横へ、縦へ、クロスさせて前へ突き出し、拳を返し、流れるように、一つ一つ丁寧に“風の型”をつないでいく。その場から動かない足捌き、コンパクトでありながら力強く、素人目に見ても合理性を求めたのだと思わせる形で、ポカじいが舞う。

「攻・防がバランス良く組み合わさった型じゃ。相手の得物が両手剣じゃろうがレイピアじゃろうがすべてに対応できる。さらに“風の型”は“空の型”へ、どの形からでも移行可能。このように…ッ」

 ポカじいの体がワイヤーアクションのように不自然な横滑りをし、足を交差させて踏ん張った勢いで手刀を放った。手刀を振った先に風が巻き起こる。

 やべえやべえなんだこれすげえ超かっこいいよ、やべえよこれ!

「ポカじい! 早く教えてッ!」

 あまりに興奮してポカじいに駆け寄り、顔がくっつくぐらいの距離で懇願した。
 格好良さのために武術を習うことは不謹慎だと、カンフー映画を観まくった俺は痛いほどわかっている。でも、かっこいいもんはかっこいい。しょうがねえじゃん!

「む? やる気があるのは大変いいことじゃな」
「それで! この体術の名前は何なの?!」
「名前なんぞないのぅ」
「つけましょうよ! 何とか拳、何とか流、みたいに!」
「ふむ……もしつけるなら“十二元素拳”じゃな」
「まあっ! すごくかっこいいわね!」
「そ、そうかの?」
「ええ、とっても!」
「エリィ…今までで一番目が輝いてるぞい」
「ポカじい、私はいま猛烈に感動しているのッ。素晴らしい体術だわ! 合理性の中に柔らかさ、優しさ、剛健さが同居し、洗練された動きが芸術性まで感じさせる! こんなに素敵な武術に出逢えるなんて私ってほんと運がいい!」
「そう褒めるでない」

 ポカじいはにまにまと嬉しさをかみ殺しながら、師の威厳を保とうと胸を張る。自分が開発し、作った物を褒められて嬉しくない男はいない。俺だってそうだ。普段なら、あらポカじい嬉しいのね、なんて軽口を叩くところだが、興奮しすぎてそんなジョークを言う余裕はなかった。

 その後、興が乗ったポカじいが熱く体術について語り出したので、一言一句逃さないように聞き入った。
 アリアナが夕飯だよ、と呼びに来るまで時間を忘れて、ポカじいの高説をたまわった。


   ○


 朝起きて、身体強化ランニング、家に帰って十二元素拳。次の日も、身体強化ランニング、十二元素拳、という流れで修行の時間は過ぎていく。

 俺とアリアナは身体強化ランニングで町に辿り着けるようになるまで一ヶ月かかった。二人で協力しなければ不可能だっただろう。おかげでアリアナとの連携はほぼ打ち合わせなしでできるようになり、“身体強化・下の上”の力のまま五分ほど動くことも可能になった。
 何かと使い勝手のいい土魔法上級“サンドウォール”もばっちりできるようになったぜ。

 そして、魔力循環が見ちがえるほど上手くなった。
 スポーツでも勉強でも、コツをつかむ瞬間ってあると思う。修行開始から二週間経った日、魔力は小さな原子のようなもので構成されており、その一つひとつが生きているみたいだなと直感的に感じた。すると、魔力循環の様相が、がらりと変わった。

 今までの魔力循環は、勢いのある川で流れに逆らって泳ぐような、困難なものに思えていた。しかし、コツを掴んでからは、魔力がどう動くかを先回りして読み、自在に動かせる簡単なものになった。拳法風に言うなら、流れに逆らうな、流れを読め、ってやつだな。

 アリアナにコツを説明すると、何かピンとくるものがあったらしく、めきめきと魔力循環を上達させ、魔法の発動が以前より三倍ほど速くなった。さらに彼女はポカじいが、空魔法・超級“空理空論召集令状(エアレター)”で呼び寄せた、すんげえエロい体つきのサキュバスに鞭術を教わり、そっちもいい感じで上達している。
 召喚してから毎晩、ポカじいの部屋から悲鳴のような声が聞こえるのがちょっとアレだが…。
 アリアナが「覗きに行く…?」と聞いてきたけど、目に毒な行為が行われていたら嫌なので覗かずにいる。

「ハロー」
「ハロー、エリィちゃん、アリアナちゃん……?」

 ジェラに戻ってきた俺たちは、西門の兵士と挨拶をして門をくぐった。そんなに見なくてもいいじゃん、とツッコミを入れたくなるほど、兵士が俺とアリアナを見てくる。町に来るのが一ヶ月ぶりだからな。

 久々にやってきたオアシス・ジェラの町並みが、なんだか懐かしく思える。
 顔見知りと挨拶をしつつ、商店街を進む。みんなが俺とアリアナを見て、ちょっと驚いた顔をするのはなぜだろう。

 『バルジャンの道具屋』に入ろうとしたところで、ポカじいが口を開いた。

「例の魔薬の正体が昨日わかったぞい」
「え? 本当に?」

 ポカじいは俺たちに稽古をつけた後、夜な夜な過去の文献を分析してくれていた。考えてみれば、ポカじいは超人的な働きをしている。

 俺たちに稽古をつけ、ご飯を作り、サキュバスの相手をし、水晶で異常な魔力がないかチェックしつつ、魔薬文献の分析までやっているポカじいは、やっぱ砂漠の賢者って呼ばれるほどあるよなー。スケベだけど。

 一つ咳払いをして、ポカじいが口を開いた。

「魔薬は『ハーヒホーヘーヒホー』という砂漠に生える草からできておる。『ハーヒホーヘーヒホー』を一定量採取して毒素を抽出し、『ハーヒホーヘーヒホー』の新芽に混ぜてから液状にするようじゃの」


 どうしよう…………。
 真面目な話なのに名前のせいで集中できない……。
エリィ 身長160㎝・体重54㎏(-5kg)



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いつもご愛読、ご感想書き込みありがとうございます。
四日に一度更新、守れず申し訳ありません。
これが・・・これが最速です・・・。

出したかったカンフーのくだりまでやっと来れました。
そして体重が54キロ!
いやー長かった。ほんとよかった痩せてくれて。

体型に関するお言葉、とても参考になりました。
フィギュアのマオちゃんみたいな体型がいい、という感想を見て、芸能人の体重を調べたりもしましたよ。
彼女は163センチ48キロだそうです。
さすがアスリート。細いですねー。

せっかくなので、アリアナの身長体重も今回載せました。
完全にモデル体型ですね。
今後、もっと詳しい描写を入れる予定です。
どうでもいい話なんですが、最近、小さい女性にとてつもなく萌えるんですよね・・・。この小説を書き始めてから特に。アリアナを書きすぎたせいかもしれません。もふもふもふもふ。

作者の考えているエリィ完全体まであと少しです。
あとは17号と18号を吸収させてベジータにファイナルフラッシュを使わせるだけです。

更新頑張りますッ!
ウソジャナイ! ウソジャナイヨ!
ボク、ガンバッテルヨ!!

あ、ちなみに、みんなが知りたくて仕方ない
あけぼのの身長体重は204センチ233キロです。


ということでまた次回更新もよろしくお願いします~!
+注意+
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