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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第12話 スルメの冒険・その1

スルメの冒険です。
 オレはグレイフナー通り一番街を早足で歩き、冒険者協会兼魔導研究所の壁面に飾られたエリィ・ゴールデンの美人な姉ちゃん、エイミー・ゴールデンのポスターを眺めながら二番街を目指していた。

 よくわかんねえけどエリィ・ゴールデンが発案者である『ファッション雑誌』とやらの第二弾が今日発売らしい。一番街と二番街をつなぐ『出逢いの橋』の目の前にある『オハナ書店』には長蛇の列ができていた。並んでいるポニーテールのカワイ子ちゃんに声をかけて聞いたら、一冊六千ロンの本を買うために朝五時に起きたらしい。バカバカしい、と笑ったらめっちゃ睨まれた。
 んだよ…別に睨むこたねえだろ。

 なんでも、斬新で素晴らしいデザインの服を買うには、この雑誌が必要不可欠らしく、お洒落女子のあいだで『Eimy』はバイブルとなっているそうだ。
そこまで言うんならあとで買ってやらぁ。どんなもんかオレがチェックしてやろうじゃねえか。

 そういや最近、グレイフナー王国の女子が、妙に防御力の低いぴらっぴらの服を着ている姿を見かける。目の保養にはなるが、あんなもんゴブリンに襲われたら一撃でやられちまうぞ。大丈夫なのか?
 まあ首都グレイフナーに魔物なんて出るはずがねえけどな。仮に出てきたとしてもオレが全部“ファイヤーボール”で黒こげにしてやる。

 そんな本屋に並ぶ行列を尻目に、イチャつくカップルへガンを飛ばしながら『出逢いの橋』を渡り、十分ぐらい進んでから右へ曲がった。
 しばらく歩くと、がっしりした門構えの屋敷が見えてくる。
 エリィ・ゴールデンの家だ。

 オレはあのぶっ飛んだお嬢様からもらった手紙の返事を書き、懐に忍ばせていた。いやーあれな、あの手紙、もらったときはすげえ有用だと思ったんだけどよ、エリィ・ゴールデンがわざわざ書いてくれた“スルメおでかけチェックシート”は全く役に立たなかった。

 いやほら考えてもみろよ。
 あのチェックシートってデートに行くことが前提で書かれてるじゃん。

 あれから意気揚々と色んな女の子をデートに誘いまくった。それこそ食堂にいるメイドにまで声をかけた。
 それなのに。それなのにだ……。


 どうして誰もデートしてくれねえッッ!!!??


 これは由々しき事態だ。
 事は急を要する。

 すぐさまこの手紙をあのおデブ…おっと怒られちまうな。あのおてんばお嬢様に返信して、どうやったら女子をデートに誘うことができるかのアドバイスをもらわなきゃいけねえ。一刻も早くだ。もう手紙を受け取ってから三週間近い時間が経っている。

 で、どうせたけえ金を払って郵便配達員に頼むのなら、ゴールデン家と合同で送っちまえと考えた。我ながら名案。戦争のせいで砂漠の国サンディへの郵送料がとんでもねえぐらい高騰してやがる。通常の十倍、十二万ロンだ。
 命がけで運んでくれるからしゃーないと言えばしゃーない。

 別に十二万ロンぐらい大したことねえ。ま、でもいっぺんに送ったほうが効率はいいからな。

 ゴールデン家の門前で、鎧を着た門番と背の低いドワーフが何かしゃべっている姿が見えた。

「よう」
「おう」

 ガルガインだ。
 太くて短けえ腕を上げて挨拶をよこしてくる。
 こいつはエリィ・ゴールデンに手紙を送るのではなく、雑誌とやらに掲載されているデザインに興味があるようで、デザイナーと話がしたいらしい。どうやら『ミラーズ』に行ったところ、門前払いを食らったみてえだ。エリィ・ゴールデンと友人だというツテを使えばなんとかなんじゃねーの、という発想で、実家のゴールデン家に押しかけている。ついでだから家の前で待ち合わせすることにした。デザインを気にするあたり、さすがは鍛冶屋の息子といったところか。
 聞けばこいつの実家、相当やべえ鍛冶屋だ。王国最強魔法騎士団『シールド』の武器防具を下ろしている超有名店で、名だたる魔法使いが個別で杖や防具を注文していると自慢された。

「で、新しい魔法は?」

 オレはガルガインに習得しようとしている魔法について聞いた。

「できねえ。おめえは?」
「まだだ。上位の炎やってんだけど無理だわ、あれ」
「おめえの実力で上位は早いだろ。ペッ」

 ガルガインはツバを吐いた。が、人ん家の前だったので門番に「すまん」と言って靴底でもみ消した。

「詠唱に失敗すると魔力消費が半端じゃねえ。一日に何度も試せねえよ」
「まあそこが上位習得の難しさってやつだろ」
「つーか魔力操作がむずい」
「おめえは適性が火だから試せるだけ充分だろ。俺はまだ詠唱が反応しない」
「てめえの適性は土だろうが。先に木を試せよ」

 魔法の才能がなかったり実力不足だった場合、魔法は詠唱しても何の反応も示さねえ。魔力が消費されるということは習得の余地があるってことだ。ガルガインはやたらと火と炎にこだわっているが、これも家が鍛冶屋だからだろうか。まあこいつはこう見えて結構才能あると思うから、そのうちできるようになりそうなもんだが。

「木は練習すりゃいつかできるようになる。それよりも炎だ。ここぞってときに自身の魔力を込めた炎魔法を鍛冶で使うと、よりいい仕上がりになる。おめえしらねえのか」
「しらねぇよそんな細けえこと。ま、そんなこったろうと思ってたわ」
「町中でぶっ放すわけにいかねえからあとでおめえん家の庭使わしてくれ。今日学校は休校で入れねえだろ?」
「ああ、別にいいぜ」

 しばらくオレとガルガインは魔法についてしゃべり、話題がエリィ・ゴールデンの話になった。

「あいつ今頃何してんだろうな」

 ガルガインが太え腕を組んで誰しもが思っている疑問を口にする。

「どうせ誰かに変なあだ名でもつけてんだろ」
「ぶはっ、そうかもしれねえ。どうする? あいつが俺たちより先に上位魔法を習得してたら」
「いや、あいつの適性は光だからありえねえだろ。白と黒魔法は別格だって聞くぜ」
「まあな。そう考えるとハルシューゲ先生ってけっこうすごいんだな」
「頭はつるつるでも白魔法使いで光適性クラスの担任だからな」
「あんまでけえ声で言うなよ。おめえの声はただでさえでけえんだから。女と話してるとき会話丸聞こえだぞ」
「まじか?! だからオレと話すときあいつらイヤそうな顔すんのか?」
「そういう訳じゃねえと思うがよ。まあどうでもいいよそんなことは」
「よくねえよ」
「いやどうでもいい。じゃあおめえさ、もしエリィ・ゴールデンが白魔法習得していたら何してくれるんだよ」

 ガルガインが彫りの深い顔でニヤッと笑った。

「何してくれるってどういうことだよ」
「ありえねえんだろ? 習得してることがよ」
「ああ、ないな。もし習得してたらフルチンで一番街を疾走してやるよ」
「ぶっ。まあ俺もないとは思うが約束だ」
「ああ、別にいいぜ。あんなクソ難しい魔法習得は無理だ。オレなんて光の下級だってできねえんだぜ?」
「俺もだ。下級で詠唱が反応しないって光と闇はどんだけ適性重視なんだよ…。他の魔法のほうがよっぽど簡単だぞ」
「ちげえねえ。つーかそろそろ行こうぜ」
「だな」

 ガルガインはオレの言葉にうなずき、鎧姿の門番に声をかけた。

「わるいがメイドか誰か呼んできてくれ。俺たちはエリィ・ゴールデンの友人だ」

 仰々しく門番がうなずいて家に入ろうとしたところで、勢いよく玄関の扉が開き、「私は一人でも行きますからねーっ!」と叫びながら、妖精かと見間違えるような年頃の美女が荷物を抱えて出てきた。
 それを追うように美人で気の強そうな中年の女と、このあいだ手紙を持ってきた可愛いメイドが玄関から飛び出してくる。

「エイミー! バカを言うんじゃありません!」
「お嬢様! お戻り下さい!」
「もうこれ以上待っていられないの! エリィの居場所がわかってるんだから私は迎えにいきます!」
「あなた一人で何ができるっていうの! 戻りなさいッ!」
「赤い街道は封鎖されているのですよお嬢様! お迎えに行くのは無理でございますッ」
「やってみないとわからないでしょ?!」

 雑誌の表紙になってるクッソ美人の姉ちゃんが目の前に出てきてなんか得した気分になった。つーかめっちゃいい匂いするし。
 エリィ・ゴールデンの姉ちゃん、エイミー・ゴールデンはお洒落っぽい旅装に身を包み、オレとガルガインの間をすり抜けて走り去ろうとする。

 母親らしき中年の女がため息をついて杖を取り出し、瞬間的に魔力を練ると、無詠唱で杖を振り下ろした。

爆発エクスプロージョン

 ドグワーン、という炸裂音と共に、爆風だけがうまくあたるように微調整された“爆発エクスプロージョン”が行使された。

 やべえええええええええええええ!
 なんなんだよこのおばさんはッ!?
 “爆発エクスプロージョン”っつったら上位の中級だぞ?!?!
 それを無詠唱?!
 しかも詠唱時間がほぼノータイム?!
 ありえねえ! うちのオヤジよりぜってえつええ!

 突然空中に現れた炎の爆発と爆風に驚き、エイミー・ゴールデンは「きゃあ」と言って引っくり返った。その足元へ顔面に青筋を立てながらゆっくりと歩み寄る母親らしき中年の女。まさに怒りが爆発によって体現されたみてえに、顔を引き攣らせている。

「エイミーーーーーッ」
「は、はいお母様」
「あなたって子はどうしてそういつも思いつきで行動するの!」
「だってお母様! エリィがサンディにいることはわかってるのですよ?! どうして迎えに行かないのですか?!」
「おだまりなさいッ! あなた一人でどうこうできるレベルではないのよ? あなた封鎖線をどうやって越えるつもりなの?」
「現地でどうにかします!」
「バカおっしゃい! あなたみたいな可愛い子が一人で行ったら手込めにされるのがオチよ!」
「私は木魔法が使えます。そう簡単に負けはしません!」

 そういうと美人な姉ちゃんは杖を取り出して「精霊よ樹木の歌を聴け」と省略した詠唱で魔法を唱えた。
 すると地面からぶってえ木がせり上がってきて枝を四方八方へと伸ばすと、青々した葉っぱが一斉に広がった。

 やばっ! やべえっ!
 木魔法の中級派生系“精霊の樹木賛歌(シルキーアンセム)”!?
 本でしか見た事ねえよ! 初めて見たぜ!
 使用者が指定した対象者に疲労軽減と体力回復だったか?
 しかも樹が消滅するまで有効とかいうやばい効果だった気がする。

 隣にいるガルガインのアホもでけえ口をあんぐり開けて驚いてやがる。

「どうですお母様!」
「まだ分からないようね……。“双炎ツヴァイフレア”」

 母親らしき女が杖を振りあげると、絡み合った巨大な炎が地面から噴出し、“精霊の樹木賛歌(シルキーアンセム)”を丸呑みにした。
 一瞬で“精霊の樹木賛歌(シルキーアンセム)”がかき消えやがった。

 うおおおおおおおおお!
 すげええええええええ!
 マジ誰だよこいつ!?
 “双炎ツヴァイフレア”っつたら中級の派生系でクッソ強力な炎魔法じゃねえか。炎魔法士の切り札みてえな魔法だぜ!?
 それを無詠唱?!
 しかもわずか三秒ほどで?!

「お母様ひどいっ! 私のアンセムちゃんを丸焦げに!」

 そこで怒るのかよ…。
 エリィの姉ちゃん怒るポイントがちげえ気がする。
 普通なら、一瞬で私の魔法が消えるなんて…、とか言うとこじゃね?

「何度も言っているけど木魔法は補助がメインなのよ? あなた一人で行動するのは危険だわ」
「ですがお母様! エリィはきっと私たちに会いたがっています!」
「それはそうでしょう…知らない国で辛い思いもしているはずです」
「じゃあ行かせて下さい!」
「ダメだと言っているでしょう。一人で行くのは絶対にダメよ」
「それなら一人でなければいいんでしょう!?」
「実力者が揃えば考えなくもないわ」
「それなら…」

 エリィの姉ちゃんはきょろきょろと周囲を見回し、オレとガルガインを見つけると、こちらへ走ってきて、オレたち二人に向かって指を差した。

「初めて会ったけどこの二人も行きます!」
「………はっ?」
「………ん??」

 どうしよ、開いた口がふさがらねえ。
 ガルガインのスカタンも同様だ。

「あら、あなた確か…」

 そこでようやく母親らしきおばさんがオレに気づいたのか、ゆっくり近づいてきて上から下までオレのことをしげしげと眺めた。

「あなたワイルド家の?」
「ワンズ・ワイルドだ」
「エリィから個別に手紙をもらったスルメ君ね……いいでしょう。ちょっと来てちょうだい」


   ○


 なぜかオレとガルガインは、実力を見るとかでエリィの母ちゃんと戦う羽目になった。
 裏庭で対峙したエリィの母ちゃんとオレとガルガインは睨み合っている。

 細けえことは苦手だ。
 小細工なしにすぐさま魔法の詠唱を開始する。

「“火蛇ファイアスネーク”!!」

 あれだけすげえ魔法使いだ、出し惜しみなく得意な魔法を唱えた。
 火魔法の上級“火蛇ファイアスネーク”が五個、火の大蛇になって前方へ突進していく。

「“サンドウォール”!」

 すぐさまガルガインがエリィの母ちゃんの背後に、縦三メートル横十メートルの巨大な土壁を出現させ、退路を塞いだ。やるじゃねえか。

 オレはゴールデン家から借りたバスタードソードをひっつかんで前に突っ込む。
 十五メートルある距離を詰めようと全力で走った。

 人一人なら簡単に丸焦げにできる“火蛇ファイアスネーク”がエリィの母ちゃんにぶち当たろうとするが、よけようともしねえ。まじか? 丸焦げだぞ?

 だがオレの予想に反して、エリィの母ちゃんが持っていた杖をくいっと上げると、“火蛇ファイアスネーク”が四匹消滅し、残りの一匹が裏拳一発で粉微塵に霧散した。

 なんだあ?!
 何したんだ?!

「うらあああ!」

 かまわずオレはバスタードソードを振り下ろした。
 だがその攻撃も、いとも簡単に風をまとわせた杖で受け止められ、がら空きになった脇腹へ前蹴りをお見舞いされた。女の蹴りぐれえ平気だ、と思ったが、巨大ハンマーでぶっ叩かれたみてえな衝撃が腹から背中へ突き抜け、気づいたら二十メートルぐらい吹っ飛ばされた。

 オレと同タイミングで突っ込んだガルガインもやられたのか、空中を飛んでいるドワーフの姿を目の端で捉えた。

 したたかに地面へ体を打ちつけ、しばらく息ができねえ。
 くっそ。なんだよあのオバさん。めっちゃつええじゃねえか。
 おそらく、というか確実に“身体強化”してやがる。しかも半端じゃねえ強さだ。

「もういいわ」

 エリィの母ちゃんは“火蛇ファイアスネーク”を裏拳した左手を見つめながら、オレとガルガインに近づいた。

「エイミー」

 そう言うか言われないかのタイミングでエリィの美人な姉ちゃんが走ってきて“癒発光キュアライト”を唱えてくれた。

「あなたたちの実力はわかったわ。冒険者でいうとEとDの間ぐらい。冒険者協会定期試験の点数でいうと400点前後でしょうね。三年生でこの実力は大したものよ」
「いや、全然うれしくねえんだけど…」

 オレは蹴られた腹をさすりながら言った。

「私たちゴールデン家はエリィを迎えにいくことにするわ。あなたたちも来たいなら来なさい」
「お母様!? いまなんて?」
「エリィを迎えに行くと言ったのよ。何度も言わせないでちょうだい」
「でもさっきまであれほど反対を…」
「私も同行します。今決めました」
「お母様!」

 エリィの姉ちゃんがオバさんに抱きついた。

「ただし準備期間中、あなたたちにはみっちりと訓練をしてもらいます」
「あの、お母様それって…」
「私が『シールド』に在籍していた時のものと同等の訓練をやってもらうわ」
「え? ちょっと待て。『シールド』? あんた元シールドなのか?」

 オレはたまらず確認した。
 だってなあ、『シールド』って言ったら国中の魔法使いが憧れる王国最強魔法騎士団だぜ?

「ええ。あなたのお父様とも交友があるわよ。同じ炎使いとしてね」
「オヤジと? オヤジは別に『シールド』じゃねえけど…」
「爆炎のアメリア、と言ってくれればわかると思うわ」
「え…ええええええええええええッ!? あ、あ、あんたがあの、爆炎の?!」

 やべええええええええええええええええええええええええ。
 爆炎のアメリアといえば王国内でも超有名人。
 その美しさから婉美の神クノーレリルの化身、容赦のなさから戦いの神パリオポテスの申し子とまで言われた、炎魔法の爆発系を得意とした猛者中の猛者。討伐ランクAのグレートフルサーベルタイガーを一人で退治した逸話まであり、グレイフナー歌劇の舞台にまでなっている人物じゃねえか。若くして結婚し、引退したって聞いたけど……まじかよ。エリィの母ちゃんかよ…。
 なんか上手く説明できねえけど、すげえ納得した。

 隣を見るとガルガインのアホチンも愕然とした様子で彼女を見ている。

「すぐにでも出発したいところだけど人員の確保、通過国への根回し、領地経営の件もあるから早くても一ヶ月半はかかるわね」
「戦争で赤い街道は封鎖してっけどどうすんだ……するんすか?」
「旧街道を行きましょう。戦力を確保すれば問題ないでしょう」
「まじすか? 旧街道っつったら魔物がバンバン出てくる廃道じゃないっすか」
「ええ。ですので、エイミー、スルメ君、あと…」
「ガルガインだ」
「ガルガイン君には強くなってもらうわよ」
「わかりましたお母様! 私、強くなります!」

 エイミー・ゴールデンは小顔にくっついているでけえ垂れ目をぱちぱちさせて、むん、と両手で拳を作った。
 …大丈夫かよ。
 つーか成り行きでオレとガルガインも行くことになってるけど……まあいいか。あの爆炎のアメリアに修行してもらえると思えばラッキーだ。細けえこと考えるのはやめやめ、めんどくせえから。エリィ・ゴールデンに会って一刻も早くデートの誘い方を伝授してもらわなきゃいけねえしな。
 ガルガインも満更でもなさそうだし、いいじゃん。よし決めた。
 いっちょやってやらあ!

 エイミー・ゴールデンが満面の笑みで握手を求めてきたので、オレとガルガインはしっかりとその綺麗な手を取った。

「スルメ君、ガルガイン君、よろしくね!」
「誰がスルメだよ誰がッ!!」
「え、違うの? だってエリィの手紙にはスルメって…」
「ワンズ・ワイルド! スルメは不本意にも勝手につけられたあだ名ッ!」
「そうだったの…気をつけなきゃ。よろしくね、スルメ君! あっ…」

 間違えちゃった、と可愛らしく両手で口を押さえるエイミー・ゴールデン。
 これは…。わざとじゃなさそうだ。
 この人に訂正してもらうのめんどくさそうだな。

「できれば名前で呼んでくれ」
「わかった! 頑張るね、スルメ君! あっ…」
「ぶーっ」
「ガルガインてめえ笑ってんじゃねえよ!」
「わりい、ついな、つい。まあよろしく頼むわ、ス・ル・メ・く・ん」
「だぁれがスルメだよ誰がッ!!」
「ハイジ」

 アメリアさんが今まで空気のように控えていた可愛いメイドを呼んだ。メイドはすでにわかっていたのか、紙とペンを持っている。アメリアさんは素早く書状をしたためると、オレとガルガインに手渡した。

「ご両親に許可をもらってきなさい」
「了解っス」
「俺は下宿してるんで別に大丈夫っすよ。あとで実家に手紙だけ送っておきます」

 ガルガインが受け取りながら言った。

「では明日、朝の六時にここに来なさい。それから学校へは当分行けなくなるからそのつもりで。手続きは私がしておきます」

 え? 学校にいけねえ?
 泊まり込みで修行?
 しかもさっき『シールド』と同じ訓練って言ってたよな。
 やべえ……嫌な予感しかしねえ…。

「エイミーはコバシガワ商会にしっかり言っておきなさいね。モデルの仕事があるでしょう。撮影スケジュールをきちんと組んでおかないと皆様に迷惑がかかります。もうあなた一人の身体ではないんですよ? それをきちんと肝に銘じなさい、いいわね」
「はい、お母様。ありがとうございます」
「それからはっきりと言っておきます。あなたたちの今の実力で『旧街道』を行ったら生還率は一割でしょう。私がゴーサインを出さなければ旅のパーティーからはずしますから、そのつもりで」
「はい!」
「うっす!」
「おう!」


   ○


 朝六時きっかりに俺とガルガインはゴールデン家の門前に集合した。

 秋に入った朝の空気は冷たく、もうちょい厚着でもよかったかなと思う。
 まあ、鞄の中から洋服を出して着るのはめんどくせえ。

「おはよー」

 そう言って家から出てきたエイミー・ゴールデンは、やはりゲロ可愛くてクッソ美人だった。エリィ・ゴールデンと同じ色をした金髪は絹糸のようにさらさらと朝日に反射し、顔面がまじでちいせえ。縦幅に関しちゃオレの二分の一ぐれえだ。

「うっす」
「ういす」

 オレとガルガインは彼女に敬語を使う気になれず、エリィ・ゴールデンと同じような感じで接する流れに自然となっていた。

「う~っす。うふふ」

 エイミー・ゴールデンは面白がって同じような挨拶を返してくる。美女がそんなふうにくだけた言い方をすると、なんかすげえ反則的に可愛い。
 これはグレイフナー魔法学校で人気があることもうなずける。ファンクラブまであるらしいからな。
 ま、オレはもっと釣り目で性格がビシッとしている女が好みだが。
 爆炎のアメリアさんなんかはまさにどストライクなんだけど、あんだけ気が強くて戦闘もつええと絶対に尻に敷かれるな。
 あ、そういや、ゴールデン家の当主ってそんなに強くねえよな?
 アメリアさんはなんで魔闘会に出ねえんだろうか?

「おはようございます」
「おはよー」

 そんなことを考えていると、角刈りで背の低いずんぐりした男と、黒髪ストレートで細身の女がやってきた。

「これからアメリアさんの特訓に無理を言って参加させて頂くことになったテンメイ・カニヨーンです。グレイフナー魔法学校の六年生で、スクウェア。コバシガワ商会の専属カメラマンをやっています」

 真面目そうな角刈り男が、ずんぐりな身体を三十度折って、きっちりと礼をした。

「サツキ・ヤナギハラよ。六年生でヘキサゴンね。ああ、キミがスルメ君……たしかにスルメっぽい」
「誰がスルメだよ誰がッ!」

 くすっと笑うサツキとかいう女にオレは思いっきりツッこんだ。
 失礼な野郎だ。

 だが、見た目はオレのどストライクだった。黒髪が胸のあたりまで伸び、茶色の瞳が凛々しく真横に引かれている。生意気そうな感じがたまらなくいい。これは久々にキタ。

 つーかヤナギハラって領地七百超えの六大貴族じゃねえか!!
 しかもあの大冒険者ユキムラ・セキノと共に冒険し、名字を命名された仲間の末裔とかオヤジが言ってた気がする。変な響きの名字だな。

 てかこいつ、グレイフナー魔法学校六年生の主席だったよなたしか…。
 入学式の在学生代表とかでしゃべってた気がする。
 噂だと上位が二つできるとか…。
 やべえ、クソつえーじゃねぇか。

「私も参加するから。よろしくね、スルメ君」
「だから誰がスルメだよ誰が!!」
「キミのことよ。ねえエイミー、エリィちゃんが言ってただけあって面白いねこの子」
「でしょ~」

 よし、エリィ・ゴールデン。あとで覚えてろよ。
 きっちりと文句言ってやる。


 とりあえずこの中で一番強くなってやる。
 砂漠で待ってやがれエリィ・ゴールデン!!


   ○


 こうしてオレ、ガルガイン、エイミー・ゴールデン、サツキ・ヤナギハラ、テンメイ・カニヨーンは爆炎のアメリアさんのしごきをみっちり二ヶ月間受けることになった。思い出しただけでゲロが出そうになるしごきをな…。
+注意+
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