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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第10話 イケメン、商店街、七日間戦争・中編

お待たせ致しました。

次は後編だよーんというお話だったのですが長くなってしまい、中編・後編に分けることに致しました。
一気にアップしようと思っていたのですが無理でした。アハッ☆
もう後半はほぼできているので二日以内にはアップできると思います。

一気読みしたい方はもう少しだけお待ち下さい!
よろしくお願い致します!

(増加率が間違っていたので修正致しました)
(冒頭のギランの説明を少し付け足しました。流れには全く支障ありません)
 商店街七日間戦争・一日目――


 ついに戦いの幕は切って落とされた。
 西と東の商店街七日間戦争ここに開戦ッ。

「全員いいな! これから一週間が勝負だ! 治療院とたこ焼き屋のおかけで集客は先々週の倍以上になっている。549人から1302人。集客増加率は137%、まだまだ集客は伸ばせるぞ。ポイントカード景品交換所の場所はエリィちゃんの提案で商店街の奥の方ではなく、治療院とたこ焼き屋の間に移動することにした。受付は先週と同じ、各店のローテーションで行うので順番を再度確認してくれ」

 まとめ役のギランが虎人らしく、戦場に出掛ける武人かくやと言わんばかりの勢いで獰猛に牙をむいて交換所のローテーション表を掲げた。

 商店街の全長は百五十メートル。
 まず商店街の入り口に『治療院』と『たこ焼き屋』があり、五十メートル奥に『ポイントカード景品交換所』、もっと奥へ進むと『バルジャンの道具屋』で、終点が『西門』という一直線の作りだ。

 『ポイントカード景品交換所』を人目のつきやすい商店街の入り口ど真ん中に移動することによって、ポイントカードの存在を印象づけ、消費者に訴求する作戦だ。

 開院前の治療院に集まっている西の商店街五十二店舗の全店主、その家族、従業員、約三百名は真剣な面持ちでギランの話を聞いている。

「敵である『東の商店街』も本日から大々的にセールを行い、集客増加を狙ってくる。だがその実情は脆い! 連携が取れていない! 先々週の集客は8114人。先週は8233人で集客増加率はたったの1%! セールは所詮、付け焼き刃の攻撃にすぎん! 一時的に客は増えると思うが良質な商品が売れてしまえば客足は途絶える! 俺たちの団結力と情熱を見せれば必ず勝てるッ! 勝てるんだ!」

 集まったメンバーから威勢のいい雄叫びが上がる。

「体調管理はしっかり行ってくれ! 最近特に暑くなってきている。外に出る機会が多くなるから水分はきっちり摂るように。一週間で熱中症になった、なんて洒落にもならんッ。うちの店とたこ焼き屋は常時水を飲めるよう開放しているので、つらくなる前に水分補給をしてくれ! いいな!」

 再度、返答の雄叫びが響いた。
 これからが本番なのだ。全員が、領主の小娘ごときの思いつきで自身の家と大切な商店街を潰されてたまるか、と瞳にぎらついた炎を宿している。

 開店三十分前。
 気合いも充分。ギランの演説は良かった。全員がこれで気持ちを一つにして一週間戦えるだろう。最高の士気だ。

 その後、猫人のヒロシから簡単な伝達事項があり、決起朝礼会は終了した。
 三百人が治療院から自分の持ち場に移動しつつ、互いに挨拶をしたり肩を叩き合って激励したり、綿密にポイントカードの内容を確認し合ったりと、三々五々入り口から外へ出て行く。

「ギラン、ヒロシ、チャムチャム、ちょっといいかしら」

 俺は別々に出て行こうとする獣人三バカトリオを呼び止めた。
 何を言われるのかわかっているのか、三人はバツの悪そうな顔をして互いに顔を背けながら俺の前にやってきた。

「わかってるわよね?」

 あえて言葉少なに俺は三人の目をじっと見つめた。
 すべての伝えたい事柄とビジネスマンとしての魂をエリィの美しいサファイヤの瞳に込めた。

 ギランはたじろいで一歩後ずさりし、ヒロシは電撃を浴びたように尻尾を逆立て、チャムチャムは俺の瞳から目を逸らして瞑想するかのようにまぶたを閉じる。

 しばらくの沈黙。

 ほとんどのメンバーが治療院から出ていく中、アリアナ、獣人三人娘、ジャンジャン、コゼットが心配そうにこちらを見つめていた。端から見れば獣人のおっさん三人を金髪少女が叱っているという不思議な光景だろう。
 沈黙に耐えきれなくなったギランが深く首肯して口を開いた。

「わかった…。エリィちゃん。それから、ぐっ………すまなかった、二人とも」

 拳を握りしめ、ギランは小さく頭を下げた。
 ギランがぎこちなく謝る姿をみて、虎娘が驚愕したのかぽかんと口を開けた。

「父ちゃんが…謝った?」

 突然の出来事にヒロシ、チャムチャムも驚きを隠せないのか、床を見たり、頭を掻いたり、耳をさわったり、動揺が隠せない。
 どんだけ動揺してんだよ…。

「い、いやぁ、俺も……悪かった」
「すまなかった………この一週間、心を入れ替えて協力しよう」

 ヒロシとチャムチャムがギランの誠意に折れて、謝罪を表明した。

「お父ちゃん、やればできるニャ」
「それでこそ豹人です、お父様」

 猫娘、豹娘がホッとしたのか笑顔になってうなずいた。
 ギランは商店街のためによくプライドを捨てられたな。すげーじゃねえか。これでプリティーな三人娘も心配せずに済むな。


   ○


 開院十分前になった。

 もうすでに六十名ほどが並んでいる。

 これから始まるであろう商店街七日間戦争、開戦の狼煙はそのうち来ると思っていたルイボン14世の罵声ではなく、会場整理の桶屋の息子から発せられた。


「ハァハァ……エリィちゃん大変だ!」

 彼は院内に駆け込んできて、肩で息をしながら叫んだ。
 開院前なので治療組は精神統一をしたりリラックスをしたりと各々で準備をしているところだった。全員が一斉に桶屋の息子へ注目する。

「南門近くの工場で火事があった。建物は全焼。今から怪我人がここに来る!」

 うお! それはやべえ!
 オッケーオッケー。こういう時こそ冷静にいこう。

「落ち着いてちょうだい。会場整理がそんなに慌てたらダメよ」

 俺はあえてにっこりと笑い、余裕の表情を作った。
 タフな精神を持っているので彼をこの役職に抜擢したのだ。桶屋の息子はすぐ冷静になった。

「まず人数を。それから症状を教えてちょうだい」
「怪我人の人数は五十人から七十人ほど。軽傷者が半分ぐらいで、中傷者と重傷者がもう半分だ」
「わかったわ。桶ヤンは入り口で待機。アリアナ遊撃隊は今並んでいる患者さんで辛そうにしているひとを見つけて先に通してちょうだい。選別しつつ軽傷の患者さんに事情を話して待ち時間が延びる旨を伝えて。火事の負傷者からは受付でお金を取らなくていいわ。あとでまとめて請求しましょう」
「よっしゃ!」
「うん…」
「やるぞぉ!」
「いくニャ」
「行きますっ!」

 桶屋の息子とアリアナ遊撃隊が飛び出していく。

「みんな治療の準備をしてちょうだい! ジャンジャンとコゼットは患者用の水を!」
「はいよ!」
「オッケー!」
「はいでしゅ!」
「オーケーエリィちゃん」
「がんばるねっ!」

 全員が急いで準備に入る。
 アリアナ遊撃隊が連れてきた、並んでいて尚且つ症状が重い患者五名、捻挫、打撲、深い切り傷、裂傷、骨折、を“癒発光キュアライト”と“再生の光”を連続詠唱して治した。

「ほっほっほ、いい集中じゃ。発動もなかなかに速い」
「ありがとポカじい」
「失敗したらわしが治してやるからの、気楽にやれぃ」
「わかったわ」

 じいさんはまじで頼りになる。スケベだけど。

 そうこうしているうちに桶屋の息子が、バァンと治療院の扉を開いて「来たぞ!」と大声を上げた。

 続々と患者が搬入される。
 入ってきた全員が煤だらけだ。担架で運ばれる患者は火傷でうめき声を上げ、両肩を支えられて何とか歩ける者たちが苦しそうな顔をし、動けない患者は力持ちらしき屈強な男達におぶられて運ばれる。

 指示を出したとおり、会場整理である桶屋の息子が手際よく重傷患者を俺の列へ並ばせ、軽傷な者を治癒ヒール組の列へと移動させる。コゼットとジャンジャンが喉の渇きを訴える患者に水を配る。
 瞬く間に治療院は戦場になった。

「いてえ! いてえよぉ!」
「おい治療士! 早く魔法を! こいつは俺をかばって火の中に飛び込んだんだ!」
「そこに寝かせてちょうだい!」
「お嬢ちゃんが治療士だって?! 冗談はよせ!」
「おだまりッ! いいから早く寝かせないさい!」

 必死に友人の助けを求める男を一喝し、俺は即座に魔力を循環させる。
 全身を火傷して腕と両手がただれている。これは相当量の魔力を込めた“再生の光”でないと治らない。

「ぐああ! いてえッ。いてえよぉ!」
「寝かせたぞ! 頼む!」

 対象者の全身が生まれたての素肌になるようイメージして、俺は魔法を解き放った。

「“再生の光”!!!」

 俺の身体から神々しい光が漏れ、患者が淡い白光に包まれる。
 火傷した肌の上から絵の具を塗っていくように新しい皮膚が再生され、みるみるうちに傷が消えた。

「い……いたくねえ?!?!」
「おおおおおおっ…詠唱なしで……」
「しばらくは安静に。あっちにベンチがあるわ」
「わかった…」

 安心させるように男の目を見て笑顔で言う。火傷が治った彼はゆっくりした足取りで奥のベンチへ移動した。

「お嬢ちゃんありがとう! ありがとう! ほんとにありがとう! あいつは昔っからの悪友でよぉ!」
「お礼はあとよ! あなた、手伝ってちょうだい! どんどん私の前に患者を寝かせてッ」
「おう! まかせとけ!」

 元気そうなその友人に協力を要請し、次々に患者を治療していく。ポカじいに患者の重症度のアドバイスをもらうと、“再生の光”で全員治せるレベルの傷だったので、重傷者はすべて俺が担当することにした。ポカじいが後ろに控えていてくれるので、思い切り魔法が使える。ありがとよじいさん。

「すごい! 一瞬で“再生の光”を詠唱したぞ!」
「ぎゃあああぁぁ………って治ってる!?」
「なんだあの子は!? 杖なしだぞ!」
「あんな子この町の治療士でいたか?!」
「いかん! あの子が女神に見えてきた!」
「北東の治療士は“再生の光”十回が限度だと聞いたが?!」
「よくわからんけど重傷者をあの子の前へ運べ!」

 ジャンジャン、コゼット、桶屋の息子、受付嬢が獅子奮迅の働きで会場内を動き回り、火事現場から患者を運んできた元気な男共が治療に協力する。アリアナ遊撃隊に呼ばれた商店街で手が空いているメンバーも駆けつけ、全員で負傷者の治療に当たった。


 そんな緊迫した雰囲気をぶちこわす声が入り口から響いた。


「おーっほっほっほっほっほ! ニキビ小デブ! やっと見つけたわよ…………って何この惨状はッ?!」
「邪魔…」
「どいて!」
「どくニャ」
「失礼ッ」

 満を持して登場したルイボン14世は大量の水とタオルを運んできたアリアナ遊撃隊によって奥へ押しやられた。
 ちらっとルイボン14世を見ると、バカにしていい雰囲気でないことをさすがに悟ったのか言葉が何も出てこないようだ。付き人らしき四人も治療院の奥へと追いやられる。

「“再生の光”!!」

 火事の崩落によって右半身に大けがを負っていた患者が、癒しの白光に包まれ回復していく。

「す、すごいわね…」

 思わずルイボン14世が呟く。

「暇なら手伝って…」
「このタオルは向こう!」
「水をコゼットのところに持っていくのニャ!」
「よろしくお願いします」

 アリアナ遊撃隊はルイボン14世とその付き人にタオルと水の入った壺を押しつけて、外へ飛び出していった。

「な、なんで私が!」

 そう叫ぶルイボン14世だったが、周囲から「領主様の娘ルイス様だぞ」「手伝いに来てくれたらしい」「跳ねっ返りのお転婆が?」「なんにせよありがてえ!」という声を浴びてしまい「しょ、しょうがないわねえ!」と大声で言って手伝い始めた。

 基本いい奴のルイボン14世に俺は思わず笑ってしまった。

「あの子が笑ったぞ!」
「まだ魔力が尽きないらしい!」
「誰なんだあの子は! 垂れ目が可愛いッ!」
「うあぁ! からだが熱くっ……………ないッ!?」
「もう二十人は治療してるってのにまだいけるのか!?」
「頑張れみんな! あの女神みてえな子が治してくれる!」
「あんなに発動の早い“再生の光”は見たことがないッ!」

 ルイボン14世を含めた全員が事態を収束させようと駆け回っている。ポカじいがこっそりと動き回っている連中に木魔法の下級“精霊の森林浴キュール”をかけていた。疲労軽減の効果がある魔法だ。

 それから十五分ほどで重症患者は治療し終わり、続いて中傷者の治療をする。治癒ヒール組も奮闘している。まだ魔力は切れていないようだ。桶屋の息子が周囲の状況を確認し、並んでいた患者を院内へ案内し始めた。治癒ヒール組の列がすぐに行列へと変わる。

「まだいける!」
「やるわよ!」
「エリィしゃんとデート!」

 お調子者マツボックリペアとクチビールが奮闘する。

 そこから二時間ほど経過して、ようやく院内が落ち着いてきた。俺はベンチやベッドに寝ている重傷だった患者の様子を見てまわり、治療漏れがないかを確認していく。様子を尋ねると「ありがとう」や「助かった」などの感謝の言葉をもらった。いやー人の為になることってやっぱ気持ちいいね。誰かの役に立って、エリィも喜んでる気がするぜ。

「ハァハァ……言い遅れたけどねッ! 今日から一週間が勝負だからね!」

 煤で汚れた治療院を掃除していたルイボン14世が山盛りパーマをゆさゆさ揺らして、思い出したかのように指さしてくる。

「わかってるわ。絶対に西が勝つけどね」
「ふふん、私にはとっておきの秘策があるから負けないわよ!」
「どうせあれでしょ、有名な吟遊詩人でも呼ぶんでしょ?」
「………………………………ち、ちがうわ」

 俺がスパイから得た情報を披露した。
 動揺を隠せないルイボン14世。

「へーそうなの、へー」
「ち、ち、ちがうわ」
「へぇ~。そうなのぉ~」
「むきーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 彼女は腹に据えかねたのかタオルを床にたたきつけた。

「そうよ! 超有名な吟遊詩人様が東の商店街で演奏してくださるのよ! 集客はうなぎのぼり間違いなし!」
「それはそれは……」
「な、何よ」
「頑張ってね」
「きぃーーーーーーー! バカにしたような目で見ないでちょうだい!」
「別にバカにしてないわよ。財力で集客するなんて当然の戦略でしょ」
「ま、まあ、そうよね。ふん」
「それからルイボン14世……治療を手伝ってくれてありがとね。あと付き人の人も」

 俺は心から礼を言った。顔が勝手に微笑むのはエリィのせいだろうか。
 ルイボン14世は熱に浮かされたようにぼーっと俺の瞳を見つめて顔を赤くし、振り切るように首を振った。

「領主の娘として当然よ! 礼なんていらないわ!」
「そう。何にせよ助かったわ」
「ふん! 一個貸しよ、貸し!」
「いいわよ」
「忘れないでちょうだい!」

 ルイボン14世は念を押すように何度も俺の顔を指さした。
 こらこら、そんなに人を指さすのは失礼だぞ。

「それにしてもあなた…白魔法使いだったとはね……さすがに驚いたわ」
「頑張って練習したから」
「そうなの、偉いのね」
「ルイボンの適性魔法は何なの?」
「私は……土。でもダメ。魔法の才能が全然なくって」
「へえ。でも練習はしっかりしておかないといざってとき対応できないわよ」
「そうね、家庭教師にもう一度言って練習しようかしら」
「それがいいわよ。たまになら練習に付き合ってあげるし」
「本当に?!」
「私も自分の修行があるから、たまによ?」
「いいわよたまにでも! 絶対に約束よ!?」
「ええ、別にかまわないわ」
「本当の本当に忘れないでよね!」
「わかったわよ…そんなに大声を出さなくても…」

 そこまで言って自分が何を念押ししているのか気づき、あわてるルイボン14世。
 余程恥ずかしかったのか、ルイボン14世は立ち上がって「勝負は勝負だからね!」と言ってつむじ風を巻き起こさん速度で去っていた。
 あれか? ルイボン、友達いないのか?

 その後、特に大きい事故などはなく、患者が散発的に来院してきた。
 他のメンバーが早くに魔力枯渇になってしまったので、後半は重軽傷者関係なく俺がすべて治療をした。


 この日の来院者数は339名。


 たこ焼きは301パック売れた。


 ポイントカード景品交換所を商店街のど真ん中に持ってきたおかげで、カードに興味を持ってくれるお客さんが増え、商店街には過去最高数の人が集まった、と報告を受けた。


   ○


 商店街七日間戦争・二日目――


 午前九時五十分。
 開院前だというのに百五十人が並んでいる。


 ちょ! まじ並びすぎっしょ?!
 何が起きた?!


 聞くと、治療を受けた人から噂を聞きつけた患者が八十八名。朝のアリアナ遊撃隊の呼びかけを聞いた患者が二十五名。アリアナが可愛くて我慢できず、上半身裸になって飛び付こうとしたら虎娘に噛みつかれ、猫娘に引っかかれ、豹娘に回し蹴りを食らった、という男が一名。アリアナに告白しようとしたところ、ライバルと鉢合わせになり勝手に決闘をして、相打ちになって血まみれ、というアホなのが四名。アリアナに「……いやッ」と一言でフラれ、心の傷を癒して欲しく来院したのが六名。俺に感謝の花束を持ってやってきた昨日の患者が二十六名。

 なんか、すごいことになってるな…。

 治療の前に、花束を持った二十六名を中に通した。
 彼らは“再生の光”に感動し、これから俺のことを『白の女神』と呼ぶ、と口を揃えて言った。
 待ってくれ。ちょっと待ってくれ。すげえ恥ずかしいんだが!

「それはやめて…!」
「はっはっはっは、恥ずかしがる白の女神もかわいいね」
「君には感謝してもしきれないのさ」
「呼ぶくらいはいいだろう?」

 ということで押し切られてしまった。
 デブでブスだった俺がいつの間にか『白の女神』かよッ。

 急展開すぎてついていけないんだが…。
 ニキビだってまだ半分ぐらいしか消えてないし…。
 まだそんな女子としての自信がないんだけど、俺。

 うろたえている間に、大量の花束が治療院に飾られた。
 赤、白、黄色、水色、色とりどりの花で埋め尽くされ、治療院が一気に華やかになった。甘い香りが院内を包み込む。

 まあ、こうなったらもう期待に応えるしかねえな。よし、妥協せずに精進し、スーパー魔法使いアンド超絶美少女を目指すぞ。天才的なプラス思考を今ここで発揮するべきだ!
 俺、超かわいい。白の女神。イエーイ。


 それから患者が来るわ来るわで大盛況だ。
 なんでも昨日の火事の対応が良かったとの噂が一気に広まり、北東の治療院からわざわざこちらへ患者が来ているようだった。女神のような白魔法使いがいる、という声が聞こえ、俺を探す視線が痛い。好奇の目、というか、尊い者を見るような目線を向けられた経験はさすがの俺にもなく、どういう反応をすればいいのかわからなかった。
 人気者って結構困るな。いや、まじで。

 なるべく視線を気にしないように患者を捌き、魔力ポーションや、マンドラゴラ活性剤などで体力を維持しつつ全員でなんとかその日を終わらせた。アリアナ遊撃隊がお昼とおやつにおにぎりとたこ焼きを持ってきてくれたのはまじで助かった。下手したら飯抜きだったぜ。


 この日の来院数は520名。


 たこ焼きはなんと400パック売れた。


 アリアナ遊撃隊が上手く立ち回ってくれ、治療院とたこ焼き屋を行ったり来たりして不足分を補充してくれたようだ。後半はたこ焼き屋にかかりきりだったみたいだな。向こうも行列ができてやばいらしい。たこ焼き器を三機追加しても捌ききれず、閉店時間で並んでいる客を帰してしまうほど、人員が間に合わなかったそうだ。閉店した今も材料をギラン、ヒロシ、チャムチャムが必死にかき集めている。喧嘩してないみたいだし、えらいえらい。

 あれからちょこちょこルイボン14世が治療院に顔を出すようになった。彼女から聞いた話によると、明日からデザートスコーピオンの討伐作戦が開始されるようだ。『竜炎のアグナス』というA級冒険者を筆頭に、B級が七名、C級が二十名、オアシス・ジェラの兵士が八十名、計百八名という大規模な作戦だ。

 ちなみにルイボン14世は『竜炎のアグナス』というイケメン冒険者にお熱らしい。語り口調がやけに情熱的だった。あなた恋してるんじゃないの、と聞くと、かつてないほど狼狽して治療院から走り去っていった。初心うぶだなー。

 なんだか、魔力循環が日に日に上手くなっている気がする。
 ポカじいに、これならすぐにでも“身体強化”できる、と言われた。修行したいのも山々だったが、疲れすぎてアリアナと風呂に入ってすぐ寝てしまった。


   ○


 商店街七日間戦争・三日目――


 午前九時五十分。
 開院前だというのに二百人が並んでいる。

 どうしてこうなった!?
 並びすぎいいい!!
 オアシス・ジェラ中の患者が西の治療院に来ているんじゃねえの? まじで!

 聞くと、治療を受けた人から噂を聞きつけた患者が百二十五名。朝のアリアナ遊撃隊の呼びかけを聞いた患者が三十名。アリアナが可愛くて我慢できなかったが、アクションを起こすと怪我をするとようやく学習した野郎共が集団で告白したところ「………いやッ」と一言でフラれ、心の傷を癒して欲しく来院した、という同情していいのか笑っていいのかわからない患者が十五名。そして、実に真剣な面持ちで俺に感謝の花束とラブレターを持ってやってきた元患者が三十名。

 何が起きてるッ!
 一体何がッッ!
 俺の理解の範疇を超えて事態が動いてるぞ!!

 アリアナはわかる。ちっちゃくて可愛くて、まつげが長いつぶらな目で見られたら男は一撃でノックアウトする。おまけに狐耳がその可愛さを増幅させてるからな。あれは反則だ。別に小さい子が好きじゃなかった俺ですら、もうアレだ。あかんのや。刑事さん、白状するで。俺ですら………あかんのや。
 それに、グレイフナーの家族が平気だとわかってから益々元気になったからな。見た感じ、またちょっとアリアナの体重が増えた気がする。もうちょい太って筋肉がつくと細身でバランスのいい体つきになるな。そうなったら………いや、やめよう。妄想だけで結構やばい。鼻血出そう。俺、女だけど。
 エイミーとは真逆のベクトルの美人になるな。

 エイミーが“綺麗”に“可憐さ”と“可愛い”を内包させた『伝説級美女』だとすると、アリアナは“可愛いは正義”を地でいく“可愛い”を極めし『アルティメット狐美少女』って感じか。つーか日本でもあそこまでの美人、美少女はみたことがねえ。

 って何の分析してんだよ。
 アホかッ。

 そういや昨日、治療院の端っこで、コゼットがアリアナにフラれた男たちを懸命になぐさめていたな。あれはもはや恋の精神科だった。男達の晴れ晴れした表情が印象的で、みんな吹っ切れたみたいだ。コゼットすげえな。今日もフラれた男達の心のケアはコゼットにまかせよう。

 にしても急に『白の女神』とか呼ばれてラブレターたくさんもらっても本気で困るんだが…。全員フッて、コゼットに丸投げするのがいいかもしれねえ。さすがに尊敬されるような眼差しで見られて「おとといきやがれですわーおっほっほっほ!」とかふざけた対応できねえ……。ちょっとやってみたいが。
 何にせよ、真摯に対応しよう。営業時代とその辺は同じだ。

 とりあえず俺へのラブレターと花束を持った男達を院内へと通した。

「皆さん、花束をありがとう」

 両手で抱えきれないほどの花束を受け取った。
 つい色とりどりの花がきれいでうっとりと微笑んでしまう。
 男だろうが女だろうが美しい物を見ると自然と口角が上がるもんなんだな。俺、前からきれいなものとか美しいもの好きだし、ついね。

 我に返って前を見ると、男たちや治療院のメンバーが俺のことをぼーっとした顔で見つめていた。何? 何なの? なんか問題あるなら言ってほしいんだけど!

 花束を持ってきた男たちの代表っぽい豪奢なターバンを巻いた初老の男性が、厳かに一歩前へ出て胸へ右手を当てた。咄嗟に裾をつまんでレディの挨拶を返す。

「南の商店街代表、エゲレンタ・ボンテミーノと申します。先日は火事の際、助けて頂きありがとうございました。運悪く私は現場にいて巻き込まれたのですが、幸運にも女神の助けを得られました。すべての被害者を代表して心からのお礼を申し上げます」
「グレイフナー王国ゴールデン家四女、エリィ・ゴールデンと申します。グレイフナー王国のレディとして当然のことをしたまでですわ」
「エリィさん……いや、白の女神エリィちゃん。私たちは君に感謝と尊敬を送ると共に、突然現れた君に対してどう接すればいいのか気持ちを持て余している、ということを伝えなければなりません。あなたの治療を受け、白い光で身体が包まれたとき、何か大事な気持ちを思い出したような気がするのです。この気持ちを砂漠の男として表現しない、という選択肢はありません。我々砂漠の男は常に情熱的で行動的であれ、と先祖から教えられております。ですのではっきりと言います。私と友達からでいいので付き合ってくださいッッ!!!!」
「じじいてめえ偉そうなこと言って抜け駆けすんじゃねえよ!」
「エリィちゃん初めまして!」
「俺と付き合ってくれ」
「あ、てめえ! 俺も君が好きだ! 惚れたッ!」
「その瞳に負けた……もう好きにしてくれ」
「優しげな瞳に宿した情熱の炎に身を焦がされたい!」
「毎晩“治癒ヒール”を唱えてくれ。俺はケバーブを作ろう」
「んんああッ! すべては君の瞳の中にッ!」

 男たちが右手を差し出して一斉に頭を下げる。ワイシャツを広げて乳首を見せつけている訳のわかんねえ奴もいる。こんなシチュエーションどっかのテレビ番組でしか見たことねえよまじでッ。

 何が起きてるッ!?
 一体何がッッ!!
 もー何が何だかよく分からん!

 当然、こんな男たちの一斉攻撃を受けたら顔が赤くなるわな。
 熱ッ。己の意に反して顔が熱いぜ。
 そして可愛らしい女の子みたいにきょろきょろしてしまう俺。

 だぁーーっ!
 もう何なの?!
 やだこれもう!!!

 力を振り絞って、声を出した。

「あ、あ、あの皆様? 私はそんな美人でも可愛くもないんだけれど…。最近ちょっと痩せたとは思うけど…それはほんのちょっとっていう話で…」
「何を言うか!」
「その所作、行動、微笑み、あんたは白の女神だ!」
「そんな大きな垂れ目、見たことがない! かわいいっ!」
「それにエリィちゃんのその肩の下についているおっぱ――ぐぎゃあ」
「てめえエリィちゃんをそんな目で見るんじゃねえ!」
「ふつくしいぃ」
「魔力枯渇寸前まで何度も何度も治療魔法を唱えてくれたあんたの姿、この目に焼き付いてるぜ…」
「アリアナ、アリアナ、助けてちょうだい」

 俺は精神安定剤であるアリアナに助けを求めた。
 思えば助けてくれと言ったのは初めてかもしれない。

 彼女は待ってましたと言わんばかりの勢いで飛び出してきて、俺をかばうように両手を広げた。

「エリィが困ってる…やめて」

 男たちが、ぐうと唸って一歩引いた。

「アリアナ、ちょっといいかしら」
「ん…?」
「耳を触らせて」
「ここで…?」
「自分が自分でないぐらい動揺してるのよ。お願い!」
「別にいいけど…」
「ありがと」

 もふもふもふもふもふ。

 あー癒されるーこれ。
 精神錯乱、情緒不安定、肩こり、リウマチ、悪寒、すべてに効能がある“アリアナの狐耳”があって本当によかったー。一家に一人、アリアナの狐耳って感じだー。

「ん…エリィ、もうちょっと下」
「この付け根のところね」

 気持ちよさそうにアリアナが目を細めるので、つい微笑んでしまう。

「南の商店街代表、エゲレンタ・ボンテミーノはここに宣言するぅ! 我々は、いま、ここに、人類の楽園を見たと!!!」
「何なんだよあの狐娘はッ! 反則的な可愛さだろ…」
「超可愛い狐娘の耳をこれでもかといじる白の女神……生きててよかった」

 やいのやいの言っている男たちの言葉が聞こえてきたので夢中になっていた狐耳から手を離した。
 すると、獣人三人娘がすり寄るように集まってくる。

「リーダーだけずるいぞ!」
「そうニャそうニャ!」
「できれば…お願いしますボス」

 虎、猫、豹の娘っ子にあっという間に取り囲まれた。
 よーし、こうなったら――

 もふもふもふもふ。
 もみもみもみもみ。
 つんつんつんつん。
 さわさわさわさわ。

「ん…」
「うああっ!」
「ニャニャニャッ」
「わふぅ~」

 アリアナはいつも通りに、虎娘は全体的に、猫娘はつまむように、豹娘は撫でるように、これでもかといじり倒してやった。

「ケモノミミに囲まれる女神…」
「あちら側とこちら側には隔絶した差がある」
「むこうは楽園だ…」
「あの輪に入りたいッ」
「なんてこった、なんてこった…」

 そうこうしているうちに開院の時間になってしまった。
 告白してきた男たちはコゼットが行う『恋患い(こいわずら)セラピー』の特設ブースへ移動させ、いつも通り治療を開始する。


 この日の来院数は557名。


 たこ焼きは428パック売れた。


 治療院も昨日同様大混乱で大忙し。たこ焼き屋のほうは阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたそうだ。商店街から出せるギリギリの人員で水を配っていたが、熱中症で倒れるお客さんが続出。そのまま治療院に運ばれるというなんともよくわからない事態になった。

 ポイントカード効果が功を奏しているのか他の店舗の売り上げも上々だ。商店街のメンバーは疲れてはいるものの、一様に表情が明るい。

「ねえアリアナ。私ってそんなに変わった?」
「うん…」
「どの辺が?」
「目がおっきくなった」
「それって顔の脂肪が取れたって事?」
「うん…先週より痩せたと思う」
「え?! 先週と全然違うの?」
「エリィの目、エイミーと似てるよ…」
「まあ! まあ! 姉様と?!」
「似てる……でもエリィのほうが少し大きいかも?」
「ええーっ! それはないわよ~」

 俺は全力で否定した。
エイミーの目はでかい。そして顔が小さい。まじで小顔だ。

「それはどうでもいいこと…。私はエリィのほうが可愛いと思う」

 語気を強めてアリアナが言った。
 いやーそれこそないと思うよ。うん。
 ニキビあるし、髪もまだまだ綺麗じゃないし。


   ○


 商店街七日間戦争・四日目――


 開院前だというのに百二十人が並んでいる。
 前日より随分少なくて、正直ホッとした。

 西の商店街情報担当の話によると、今日はルイボン14世が言っていた『超有名吟遊詩人』が演奏を披露する日程になっているそうで、明日も講演が組まれているらしい。二日連続ステージか。悪くない作戦だ。そうこなくっちゃ面白くない。

 だがいいのかルイボン。呼ぶだけじゃダメなんだぞ。商店街を利用してもらわないとカウント魔道具が動かない。つまりはコンサートを開いても、その帰りなり途中で買い物をしに店を使ってもらわないといけないのだ。

 もう一つは『東の商店街』の大店『バイマル商会』がたこ焼きのレシピを盗みに来ているそうだ。絶対渡すな、と伝えてある。せいぜい自分たちでレシピを解明するんだな。調理法は見えているんだし、そんな時間はかからないだろ。
 だが、元祖たこ焼き屋はゆずらねえぜ。

 いつもの流れで開院した。

 治療をしつつ、俺とアリアナにフラれた男をコゼットセラピーに送り込んでいく。みんな疲労が蓄積しているのか魔力の枯渇が早い。本来だったら一日は休みを入れているはずだ。それを無理して全員に出勤してもらっている。クチビールとマツボックリペアは弱音一つ吐かずに自分の限界まで魔力を使い、患者を治していく。健気で献身的な姿に俺はちょっと感動を覚えた。


 この日の来院数は333名。


 たこ焼きは325パック売れた。

エリィ 身長160㎝・体重60㎏(-2kg)


次回、商店街七日間戦争・後編です!
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