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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第9話 イケメン、商店街、七日間戦争・前編


 砂漠の国で一番楽しかったことは? と聞かれたら、俺は間違いなく『商店街七日間戦争』だ、と答えると思う。

 あまりに凝縮された七日間プラス五日だったので、俺は東と西の商店街勝負のことを、『商店街七日間戦争』と呼んでいる。俺とアリアナ、ポカじい、コゼット、ジャンジャン、そして獣人三人組のギラン、ヒロシ、チャムチャムなど、商店街の面々のことを思い出すたび、あの一週間は怒濤だった、と笑みがこぼれてしまう。大きなイベントや商談準備をしているビジネスマンみたいだったな、と日本がちょっとばかし懐かしくもなった。

 商店街七日間戦争の序章は、勝負開始日の五日前から始まった。


  ○


 商店街七日間戦争・五日前――


 俺たちは改装をした治療院に集合していた。

 ステンドグラスが新しくなり、ボロボロだった床がしっかり修繕されている。中は教会を彷彿とさせる造りになっていて、映画で見たことのある古い教会とほぼ一緒の内装だ。違う箇所はオルガンや天使の像がなく、代わりに診察台や治療器具があることだろう。

「ということで、今日から商店街勝負終了の日まで、治療院を格安でオープンします!」

 ジャンジャンを筆頭に、準備に携わってくれたメンバー十二名が拍手を送る。

「受付さん、準備オーケーね」
「はい、エリィちゃん!」
「会場整理さん!」
「オッケー!」

 受付嬢は機転が利いて愛想のいい、クレームを起こさないであろう二十四歳、服屋の新妻。
 会場整理には芯が強くて頼りになり、どんなことにも全力で立ち向かう二十六歳、桶屋の息子。

「治療士さんたち!」
「いいわよ~」
「いいぜー!」
「まかしとけ!」
「頑張りますエリィしゃん!」
「ほっほっほっほ」

 治療士は俺を含めて全部で六名。

 まず、スーパーイケメンの俺こと最近痩せて可愛くなってきたエリィ。
 使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“治癒ヒール”』
『光魔法・下位の上級“癒発光キュアライト”』
『白魔法・上位の下級“再生の光”』

 次に、コゼットにベタ惚れのC級冒険者ジャンジャン。
 使用可能魔法は
『水魔法・下位の上級“治癒上昇キュアウォーター”(水魔法。対象者一人の自己治癒力を高める。風邪や腹痛、毒に有効)』

 冒険者協会からは、俺たちに散々いちゃもんをつけてきたときの悪さはどこへやら、唇がめくれ上がったビールことよい子のクチビール。報酬はいらないからエリィしゃんとデートがしたいでしゅ、とのこと。C級冒険者。
 使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“治癒ヒール”』

 商店街で唯一光魔法が使えるお調子者男女ペア、マッツーニとボックル。二人会わせてマツボックリ。
 使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“治癒ヒール”』

 最後に砂漠のスケベ賢者、ポカじい。
 彼にはスーパーバイザー的なポジションにいてもらい、俺や他のメンバーの補助に入ってもらう。どうしようもない時だけ魔法を使ってもらう予定だ。
 使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“治癒ヒール”』
『光魔法・下位の上級“癒発光キュアライト”』
『白魔法・上位の下級“再生の光”』
『白魔法・上位の中級“加護の光”』
『白魔法・上位の上級“万能の光”』
『水魔法・下位の上級“治癒上昇キュアウォーター”』
『木魔法・上位の下級“緑の微笑”』
『木魔法・上位の中級“緑の浄化”』
『木魔法・上位の上級“緑の慈愛”』
『木魔法・上位の超級“緑の豊穣”』
 その他、治療に使えそうな派生系魔法数十種類。どんだけすげえんだよ…。

「あとは“アリアナ遊撃隊”ね。まずは治療院の宣伝よ。東西南北を練り歩いて噂を広めてちょうだい。人が集まってきたら、たこ焼き屋と治療院のサポートに入ること。タイミングは私から指示を出すわ。私がいないときや手が離せない場合、遊撃隊リーダーであるアリアナが指揮を取ってちょうだい」
「まかせて…」
「了解エリィちゃん!」
「がんばるニャ!」
「よろしくお願いします。エリィちゃん、アリアナリーダー」

 “アリアナ遊撃隊”はアリアナを含めた四名。
 アリアナと獣人三人組の娘達だ。
 狐、虎、猫、豹、四種類のケモノミミが勢揃いするという、キュートすぎて可愛さがインフレーションし、俺の脳内ケモノミミ株価が爆裂に上昇するという訳の分からない状態で、もう本当にどうにかしてほしい。しかも全員、背が百五十センチ前後とちっちゃい。四人が集合すると、きゃいきゃい、というか、きゃぴきゃぴ、というか、なんか見ているだけで顔がほころぶ。
 年齢は十四歳から十七歳だ。
 全員が薄手のヴェール法被を着てねじりハチマキを巻き、ギャザースカートにサンダルを履いた時点で俺の自制心は大恐慌を起こした。とりあえず我慢できなかったので全員の耳をもふもふしておく。

 あー癒されるわーこれー。

「と、和んだところで作戦開始よ!」
「エリィ…耳のうしろもうちょっと触ってほしい…」
「エリィちゃん私の左の耳撫でてないっ!」
「撫でるよりつまんでほしいニャ」
「あ、あの…できればでいいのですが…もう少しだけお願いします」

 なぜがおねだりをされ、狐娘、虎娘、猫娘、豹娘に囲まれる。

 もふもふもふもふ。
 もみもみもみもみ。
 つんつんつんつん。
 さわさわさわさわ。

「ん……」
「ひあっ!」
「ニャニャニャッ」
「わっふぅ」

 あーこれ世界平和だわー。
 癒されるー。

 一日中こうしていたいが、今日から大事な決戦だ。
 アリアナ遊撃隊が満足したようなので気を取り直して俺は口を開いた。


「…今度こそ作戦開始ッ!」

 オウッ、よっしゃ、了解、など全員が気合いの入った返事をしてくれる。
 いよいよ作戦がスタートした。


 と、まあ勢いよく号令したものの、急に客が来るわけもなく、俺は治療院と路面販売をしているたこ焼き屋を行ったり来たりして様子を見ていた。

 アリアナ遊撃隊の話を聞いて治療院に来る客はほとんどが軽傷者で、簡単に“治癒ヒール”で治った。

 怪我人たちは半信半疑でやってきたようだったが、ちゃんと格安料金で治療を受けられて喜び、宣伝を約束して帰っていく。北東にある治療院は“治癒ヒール”三時間待ち、“癒発光キュアライト”とその他治療魔法が四時間待ち、という状況で、皆並ばずに“治癒ヒール”で治る程度の傷なら我慢しているそうだ。しかも料金を通常の五割増しにしているようで、割引している西の治療院との料金差がやばい。

 両者の料金表の看板はこういう表記になっている。

―――――――――――――――――――
 北東の治療院
 「光」
 “治癒ヒール”→1500ロン
 “癒発光キュアライト”→3000ロン
 「水」
 “治癒上昇キュアウォーター”→2250ロン
 「白」
 “再生の光”→75000ロン
 “加護の光”→300000ロン(ジェラで使える魔法使いはいない。なぜか表記をしている)

 ※3倍の料金を払って頂ける方、優先致します。
 ※診断状況によって順番が前後する場合がございます。
 ※治療士不足のためお並び頂いても治療できかねる場合がございます。
 ※院内での犯罪行為は即刻警備兵に通報致します。
―――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――
 西の治療院
 「光」
 “治癒ヒール”→500ロン
 “癒発光キュアライト”→1000ロン
 「水」
 “治癒上昇キュアウォーター”→1000ロン
 「白」
 “再生の光”→20000ロン
 “加護の光”→使用できません(重傷患者が来た場合のみポカじいにやってもらう)

 ※重傷・重体・危篤状態の方を優先させて頂きます。
 ※診断状況によって順番が前後する場合がございます。
 ※この格安料金は西の商店街の協力とご厚意により成り立っております。
 ※現在、正規の治療士は従軍しており一人もおりません。治癒は有志の方々によるものですので突然終了する場合がございます。
 ※上記を守れない方、納得できない方は利用をお控え下さい。
 ※院内で暴れる方には強制退去して頂き、その後キツイおしおきを致します。
―――――――――――――――――――


 とまあこんな感じで、“再生の光”については五万五千ロンもの差額が出ている。あと、表示金額の三倍の金を払えば優先してやる、という北東治療院は一般人からは批難轟々だろうが、金持ちからしたら素晴らしいシステムだ。必要悪とまでは言わないまでも、治療士が少ないこの状況では必要なシステムなのだろう。

 ちなみに後から文句を言われないよう、ルイボン14世から「何をしてもいいわよ。どうせ勝てないから」というお墨付きを、領主のサイン付きで書状でもらっている。なので、勝手に治療院を割引しても問題なしだ。
 あの自信と豪快さはある意味すげえよ。まじで。

 治療院格安解放なんてやるとは微塵も思っていないだろうな。ルイボン14世のびっくりする顔が楽しみだ。


 この日と次の日は合わせて五十名ほどを治療して終わった。


   ○


 商店街七日間戦争・三日前――


 超プリチーなアリアナ遊撃隊がオアシス・ジェラをプリチーに練り歩きながら、町中の人に噂を広めてくれたおかげで、治療院には客がぼちぼち集まり始めていた。外を見ると開院前なのに十名が並んでいる。

 聞くと、先日治療を受けた人から噂を聞いた患者が五名、アリアナ遊撃隊の呼びかけを聞いた患者が四名、アリアナが可愛くて我慢できず抱きつこうとしたら虎娘に噛まれたという男が一名、という内訳だ。

 変態男は俺が“電打エレキトリック”でよい子にしてから治療してやった。

 口コミとアリアナ遊撃隊の効果は少しずつ出てきている。そしてたこ焼き組も、売り上げは計画通りで上々の滑り出しだ。ただ、たこ焼きを担当している獣人三人組は相変わらず仲が悪く、お客さんの前で取っ組み合いの喧嘩を二度したという報告を受けている。次やったらお灸を据えてやろう。

 今のところ白魔法を使うほど重傷な患者は来ていない。
 切り傷、擦り傷、軽い症状の患者は“治癒ヒール”で治るのでマツボックリの二人組とクチビールへ。腹痛や風邪はジャンジャンへ。
 それ以上の傷を負った患者はすべて俺の担当だ。

 魔力循環を乱さない訓練をしながら患者と話し、魔法を唱えていく。一人診察するたびに、魔力循環が途中で途切れる、魔力の入れすぎ、イメージを明確に、相手に親和させるように、発動が遅い、などの細かいポカじいのダメ出しが入り、いい勉強になる。

 治療院をスタートして一番驚いたことは、患者の俺に対する態度だ。

癒発光キュアライト
「おお…」
「はいおしまい」
「全然痛くねえ…。ありがとよ、お嬢ちゃん!」
「お仕事頑張るのはいいけど寝不足は危険よ。今回は捻挫で済んだけど、大きな事故に繋がるわ」
「わーってるよ」
「ほんとにわかってる?」
「今日は早く寝る」
「おじさん一人の身体じゃないんだから。絶対よ。ね?」
「…かなわねえなぁ」

 土木関係の仕事をしているらしいおっさんは苦笑いを作って頭をかいた。

「お前さんみたいな可愛らしいお嬢ちゃんにお願いされちゃ従うしかねえな。かみさんに言われるよりよっぽど効く」
「おじさん…お世辞はいいのよ」
「お世辞なもんか。お前さん、名前は?」
「エリィよ。あらこれは失礼を…。ゴールデン家四女、エリィ・ゴールデンと申します」

 俺は立ち上がってレディらしく裾をつまんでお辞儀をした。
 おっさんも、名前を名乗って礼をする。

「こりゃ丁寧にわりいな。俺はここらじゃ有名な工事会社のもんだ。他の連中にも怪我をしたらここに来るように言っておくからな」
「まあ! ありがとう」
「可愛い子ちゃんが治療してくれるって宣伝しとくからよ」

 そういっておっさんは日に焼けた顔を崩して豪快に笑った。
 身体のほうが反応し、俺の意に反して顔が赤くなってしまう。

 ちょっ! 待て! 顔めっちゃあつい!

「顔が赤けえぞ。治療士さん」
「もう! からかわないでちょうだいッ」
「はっはっはっは。いいもん見せてもらった。それじゃありがとよ、可愛い治療士さん」

 そうして颯爽とおっさんは治療院から出ていった。


「まったく…」


 まったくもう。


 あのおっさんてば。


 いやぁ………


 可愛いってよ。俺のこと。


 見る目があるじゃねえか。



――――ほっ!!!!!!



 褒められるの全然慣れねええええ!


 エリィィィィ!
 可愛いって言われたぞぉーーー!


 いつもデブだのブスだの言われてたから、可愛いとか男に言われるとびっくりするわ。つーかエリィが反応しすぎて困る。勝手に顔が赤くなるし。

 てか六十キロ台になってから周囲の反応がかなり変わったんだよな。
 特に男が俺の顔をよく見てくるようになった。

 デブだった頃は俺を見て陰で笑ったり、まずい物を食べたあとみたいな不愉快な顔をされたが、今は確実に女の子として見られている。顔の肉が相当落ちたからなぁ。ついに、ゴールデン家の遺伝子が表面に現れてきたか。昨日ジャンジャンの家で鏡を見たら、あんなに細かった目が倍ぐらいの大きさになってて正直まじでビビった。まだ顔の肉は落ちそうだから、もっと変わるだろう。

 鏡をまじまじ見て思ったけど、エリィは目が綺麗だ。
 光に当てたサファイアみたいに青く輝いていて、見ていると不思議な気持ちになる。
 俺、エリィ本人なのに。

 このまま痩せたらめっちゃ可愛くなるんじゃね?
 ちょっと焦るレベルだな、これ。

 顔の肉が落ちて輪郭がすっきりして、ニキビが消えて、髪がもっとさらさらになったら、とんでもない究極美少女になるかもしれない。

 これはあれだな。
 いまのうちから誘ってくる男どもを振る練習をするべきだな。
「お仕事できる人じゃないとイヤ」とか「年収おいくら?」とか「恋させてくれるの?」とか、考え出したらきりがない。ふっ、面白くなってきたな。

「エリィしゃんは可愛いでしゅよ」

 担当の治療を終えた、よい子のクチビールが隣にやってきて嬉しそうに言う。
 でかい図体とイカつい顔でこの口調。慣れるのに時間がかかった。

「あら、ありがとう」
「商店街勝負が終わったらデートでしゅよ?!」
「もちろん忘れてないわよ」
「さっきの男じゃなくてぼくちんと行くんでしゅよ?!」
「ええそうね。約束だもんね」
「わーい」

 ぶっとい腕を突き上げてクチビールは飛び跳ねた。
 世紀末みたいな刺々しい鎧がガチャガチャ音を立てており、他のメンバーがキャラのギャップに失笑している。
 うんうん。よい子になったな。

 ちなみにこのクチビール、最近じゃ冒険者の中で誰もやりたがらない面倒な依頼をこなしているので、冒険者協会内の評価が良くなっているらしい。やっぱり人のために何かするってのは評価に繋がり、自身の存在意義にもなり得るな。いいことだ。
 この調子で頑張れクチビール!
 デートはしてやるからな!


 この日の来院者数は97名。


 八個入り四百ロンのたこ焼きが90パック売れた。


   ○


 商店街七日間戦争・二日前――


 もうすでに三十人が並んでいる。

 聞くと、治療を受けた人から噂を聞きつけた患者が十六名。アリアナ遊撃隊の呼びかけを聞いた患者が十二名。アリアナが可愛くて我慢できず、勝手に尻尾を触ろうとしたら猫娘に引っかかれた、という男が一名。アリアナのお尻を触ろうとしたのがアリアナにバレて、彼女が最近習得した黒魔法“重力グラビトン”で動きを封じられ鞭で叩かれる、という凶悪コンボを食らった男が一人、という内訳だ。

 変態二人には“電打エレキトリック”でよい子になってもらってと。

 その後、特に変わったことも起きず、粛々と患者を癒し、休憩を挟みつつ業務にあたる。治療組にはまだ余裕があり、魔力枯渇になるメンバーは出ていない。

 一つ気になったのは患者の一人が教えてくれた『北の方角でデザートスコーピオンが大量発生した』という情報だった。デザートスコーピオンが大量発生した場合、討伐ランクBのクイーンスコーピオンも一緒にいる可能性が高く、その凶暴性と防御力の高さで、かなり厄介な魔物に分類される。だがオアシス・ジェラの護衛兵と冒険者が討伐に行く準備をしているので大丈夫、とのこと。なんでも今現在のジェラには『竜炎のアグナス』の二つ名を持つ、ランクAのイケメン冒険者がいるから問題ないらしい。

 まあ大丈夫だよな。
 いざとなったら俺の落雷魔法で木っ端微塵だ。


 この日の来院者数は130名。


 たこ焼きは182パック売れた。


 たこ焼きめっちゃ人気出てるッ。
 たこ焼きは持ち帰りもできる優れた商品だ。買って食べてよし、持ち帰って家族と分け合ってもよし、作っているのを見て楽しんでもよし。たこ焼きのいいところしか思いつかん。


 相変わらずギラン、ヒロシ、チャムチャム、獣人三人組の仲は悪い。
 客の前で怒鳴り合うという失態を犯している。
 アリアナ遊撃隊の、虎娘、猫娘、豹娘が「オヤジがバカでごめんエリィちゃん!」「あちしのお父ちゃんがごめんニャ!」「本当になんとお詫びをすればいいか分かりません…。娘として恥ずかしいです」と報告しつつ泣きそうになりながら謝ってきた。


 あのさぁおっさん達……娘に謝罪させるとか……そろそろエリィちゃん怒っちゃうよ?


 お客さんの前で喧嘩とか……それでもビジネスマンなの?


 娘っ子たちに免じてチャンスはあげるけど……。


 これ以上は堪忍袋の緒がもたないからね……?


   ○


 商店街七日間戦争・前日――


 午前九時半。
 開院前、五十人が並んでいる。

 聞くと、治療を受けた人から噂を聞きつけた患者が二十八名。アリアナ遊撃隊の呼びかけを聞いた患者が十七名。アリアナが可愛くて我慢できず、デートに誘ったら豹娘に回し蹴りを食らった、という男が一名。アリアナに告白しようとしたところ、同時に三人の男が鉢合わせになり、アリアナは渡さないなどたわけたことを言って勝手に決闘をし、三人で相打ちになって血まみれ、というアホなのが三名。この五日ですっかりアリアナファンになった輩がこともあろうにアリアナの食べていたシャケおにぎりを奪おうとして逆鱗に触れ、黒魔法“重力グラビトン”で動きを封じられて鞭で叩かれ、“混乱粉コンフュージョン”“視覚低下ロスヴィジョン”“聴覚低下ロスヒアリング”“食欲減退アノレクシア”“腹痛アブドミナルペイン”と闇魔法をしこたま食らうという凶悪フルコースを受けた男が一名、という内訳だ。
そんだけ食らってよくこの治療院に来れたな…。

 一人目の変態は“電打エレキトリック”でよい子にしてから治療し、決闘した三人は治療後にアリアナにそっけなくフラれて精神ダメージを負い、最後の一人は一日経てば治るので治療院の隅っこに毛布を引いて転がしておいた。

 患者の数がかなり増えてきている。

 会場整理の桶屋の息子が次々に患者を選別して列に並ばせる。
 列は全部で三つ。

 治癒ヒール組、クチビール、マツボックリの列。
 内科担当、ジャンジャンの列。
 中傷、重傷者担当、俺の列。

 最初に魔力枯渇で悲鳴を上げたのはジャンジャンだった。
 治癒上昇キュアウォーターは水の上級なのでかなりの魔力を使う。
 ちょうど患者が捌けたところだったので、コゼットに連れられてフラフラしながら奥の休憩室へ入っていった。

 続いて午後三時にマツボックリの二人組が脱落。
 クチビールが「エリィしゃんとデート」と呟きながら奮闘し、閉院までに一人で残りの三十名を捌ききった。

 俺は平気だった。
 ポカじいにしごかれながら“癒発光キュアライト”を三十七回、“再生の光”を七回唱えた。まだまだいける。
 じいさんに聞いたら、俺は人の十倍ぐらい魔力があるらしい。むしろじいさんよりも多いかも、とのこと。そうでないと落雷魔法を何度も使えんのぉと言われた。


 この日の来院者数は219名。


 たこ焼きは253パック売れた。


 そして―――


 獣人三バカトリオはまたしても店頭で喧嘩をした。
 そのせいで二十分ほどお客さんを待たせてしまったとの報告を受けた。

 具の分量を、間違えた間違えてない。
 釣り銭が百ロン、合う合わない。
 たこ焼きを作っているときに、邪魔だ邪魔じゃない。

 そんなくだらないことで喧嘩……。
 あのバカ虎、アホ猫、ジミ豹め………。

 俺は怒りのあまり魔力を高速で循環させ、電撃発動の準備をした。

「あ…エリィが怒った」
「エリィちゃん、髪の毛が逆立ってるけど?!」
「普段怒らないエリィちゃんが怖い顔してるよ!?」

 アリアナがつぶやき、休憩室から出てきたジャンジャンとコゼットが俺を見てギョッとした表情になった。

「止めないと…」
「エリィちゃんからパチパチした音がきこえるけど…あっ! まさか?!」
「アレを使うかも…」
「ままま、まずいよそれは!」

 落雷魔法だと理解したジャンジャンがあわてて俺に駆け寄ってくる。

 俺は獣人三バカトリオがビジネスをないがしろにし、私情を挟んで喧嘩ばかりしていることに、はらわたが煮えくりかえった。
 この勝負で負けたら商店街がつぶれるんだぞ?
 みんなの家もなくなるんだぞ?
 お前らの間で過去に何があったかは知らないが、そんな事はこの状況ではどうでもいいちっちぇえことなんだよ。もっとプロ意識もってやれよ。それでも商店街でずっと店をやってきたのか。どうなんだよ。

 俺は怒りにまかせて治療院を飛び出そうと走り出した。

「いけないエリィちゃん!」
「エリィ…ダメッ!」

 ジャンジャンとアリアナが後ろから追いかけてくる。
 それと同時に入り口から虎、猫、豹の獣人三人娘が治療院に入ってきた。
 俺はかまわず三人をすり抜けて入り口から出ようとする。

「エリィちゃんを止めてくれ!」
「止めて…!」

 獣人三人娘はハッとした表情になり、小柄な体であわてて俺に飛び付いた。

「うああっ!?」
「ウニャニャッ!?」
「痺れますッ!」

 放電していた俺に触ったので、ほんの少しだけ感電したらしい。
 それでも三人は俺を放そうとしなかった。

「放してちょうだい! あなたたちのお父さんをオシオキするわ!」

 追いついたジャンジャンとアリアナが俺の両腕をつかんだ。

「エリィちゃん落ち着いて! まずはあの三人から話を聞こう」
「エリィ、おしおきするなら冷静に…」

 二人の必死な声色に俺は冷静さを取り戻した。怒りは収まらないが……なんかこっちの世界に来てからちょっと感情的になることが多い気がするな。いや、表現方法が違うだけで日本でもこんなもんだったか。

「エリィちゃーん…きゃっ!」

 事態をよくわかっていないコゼットが鈍くさそうな走り方で俺たちに追いつき、俺の目の前で転んだ。かぶっていたドクロがはずれて床を転がっていく。
コゼットが恥ずかしそうに立ち上がってドクロを拾ってかぶり直し、俺を見てにっこり笑った。

「怒ってるエリィちゃんも可愛いね」

 何を言うのかと思ったら、そんなことを言った。
 いかん。天然だ。
 すっかり毒気を抜かれちまったぜ。

「もう大丈夫だから放してちょうだい」

 俺の言葉で獣人三人娘が手を放した。
 すぐコゼットに駆け寄り“治癒ヒール”を唱える。

「ごめんねドジで」
「あなたはずっとドジでいいわ。いつでも治してあげるから」
「いつでも? うれしいなぁー」
「そうよね、ジャンジャン」
「え? ああ、そうだ。コゼットは今のままでいいぞ」
「えー、私だってしっかり者になりたいよ」
「まあいつかはなれるわよ……多分」
「きっとなれる………多分」
「エリィちゃんアリアナちゃん、その顔は絶対なれないって思ってるよね?!」
「あら鋭いわね」
「…バレた」
「ひどいひどい~」

 すっかり場が和んでしまった。これが天然で素直な性格の威力か。

「エリィちゃん何があったの?!」
「あんなに怒るニャんてただ事じゃニャい!」
「もしかしてまた父のことで…?」

 虎、猫、豹、の三人娘が聞いてくる。

 ジャンジャンとアリアナが、獣人三バカトリオが喧嘩をしたことに俺が腹を立てておしおきしに行くところだった、という事情を話した。
三人は悔しさで泣き始め、床に正座をして俺に謝罪をした。
 いやいやいや、謝られても困る!
 つーか娘に正座までさせて泣かせた獣人三バカトリオに対してまた怒りが沸々と……いかんいかん。

「三人とも顔をあげて! レディが床に座るなんてダメよ!」
「だって…」
「でもニャ…」
「しかし…」
「いいから立ってちょうだい。お父さん達を叱りに行ったりしないから」
「本当ッ!?」
「よかったニャ。尻尾が縮み上がったニャ~」
「ありがとうございます。広いお心に感謝します」
「あのー三人とも? どうしてそんなに安堵しているのよ?」

 三人娘は立ち上がると、目配せをし合った。どうやら猫娘が話すようだ。

「アリアナリーダーから聞いたニャ。エリィちゃんは優しくて頼りにニャるけど、怒ったら尻尾が勝手に逆立つほど怖いってニャ…。自分のミスを言わずに人のせいにしたり、他人を騙したり、お仕事を途中で放棄したり、デブとかブスとか言ったりすると、強烈な大目玉が落ちるニャ…」
「今さっき確信した!」

 元気のいい虎娘が激しくうなずく。

「だってエリィちゃんの髪、こおんなふうになってた!」

 こおんなふう、のジェスチャーをして俺の髪が静電気で浮いている様子を表現した。虎耳をつけた女の子が動物の真似をして、ガオーってやってるみたいで微笑ましい。

「私は雷神がこの世に顕現したと思いました…それほどに怖かったです」
「そんなに?!」

 ちょっとショック。
 あと落雷魔法のことを言ってないのに「雷神」とは、なかなか鋭い表現をするな、豹娘よ。

「それでエリィちゃんどうする? あの三人に話を聞きに行く?」
「いえ、やめておくわ。今見たら多分怒ってしまうからね」
「そ、そう。それなら見ないほうがいいね」
「あの人達には猶予をあげることにしましょう」

 ジャンジャンが心底安心したのか胸をなで下ろし、三人娘も息を吐いた。

「お父さんに伝えてちょうだい。明日から商店街勝負の開始だから気合いを入れ直しなさいって。今後ちょっとでも喧嘩したら三人にはキツイおしおきをするわ。あと仲が悪いからってメンバーの入れ替えはしないわよ。具の材料の仕入れ先である三人がたこ焼き組から外れると面倒だし非効率的だからね。最悪、ポジションのチェンジをして三人がかぶらないようにもできるけど、あくまで最終手段ね」
「分かったよエリィちゃん!」
「了解だニャ!」
「しかと承りました、ボス」
「ちゃんと伝えておいてね」
「うん! できればずっと今のままにしてあげてほしいんだ!」
「そうなのだニャ! お父ちゃん家でたこ焼きの話ばっかりするニャ!」
「そうなのです…父はたこ焼きに夢中です。これからも父をお願いします、ボス」

 豹娘が俺をついにボスと呼び始めた…。

「エリィ、いつでもオッケーだから…」

 アリアナがたこ焼きを作る動作をする。アリアナ遊撃隊にはたこ焼きの作り方もしっかり教えてあり、治療院とたこ焼き、両方ともサポートできる。

 ちなみにアリアナ一押しのたこ焼きに併設しているおにぎり屋もちょこちょこ売れているようで、ちょっとして副収入的な存在になっていて調子がいい。

 ポイントカードはじわじわと浸透しているようだ。より効果を望むならポイントカード説明所のような場所を作ったほうがいいかもしれない。今は商店街の真ん中あたりに景品引換所があるだけで、利用客が少ない。治療院とたこ焼き屋で『西の商店街』入り口に集まったお客さんを奥へと誘導する大事なツールなので、いっそのことたこ焼き屋の隣に景品引換所を持ってきてしまうのもアリだな。
 明日、景品引換所組に相談してみよう。


 そんなこんなで治療院で俺たちは解散し、明日に備えることにした。
 獣人三人娘は尻尾をふりふりしながら仲良く帰っていき、俺とアリアナ、ジャンジャン、コゼット、ポカじいは『バルジャンの道具屋』へ戻った。


 明日からいよいよ勝負の一週間だ。
エリィ 身長160㎝・体重62㎏(-2kg)



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
いやー乱世乱世。

時は戦国。
数多の国々が勃興しては衰退し消えゆく群雄割拠の非情な世界。

そんな乱世の荒波に揉まれたひとりの男がいた。
男はある重大なことを心の中でつぶやいたのだった。



“小生、風邪を引いたでござるッッ”


・・・ということで更新が少し遅れました。
商店街編を書ききろうと思ったのですが長くなってしまうので、前編後編に分けました。続きは早くアップしますのでよろしくお願い致します。皆さん風邪にはお気をつけ下さい。
+注意+
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