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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第8話 イケメン、コゼット、静かな夜に

「待ちくたびれたわよ小デブ……ってあんた痩せたわね!?」

 ルイボン14世が俺を見て驚きの声を上げた。

「そうかしら?」
「頬の辺りとか、目元の肉とか落ちてるじゃない!」

 最近、忙しすぎてちゃんと鏡を見ていない。いつもアリアナに髪型と顔のお手入れをしてもらってるからな。じいさんがニキビに効きそうな薬を買ってきてくれるし、肌の調子がいいのはわかっていたが……まさかルイボン14世に痩せたわね、と言われるとは思わなかった。

「私、痩せた?」
「うん…」

 アリアナがこくりとうなずく。

「お目々が前より大きく見える……かわいい」
「まあ! ありがとう!」

 俺は嬉しくてアリアナを抱きしめ、これでもかと狐耳をもふもふした。
 気持ちよさそうに目を細めるアリアナ。

「ま、まあそんなことはいいわ」

 仕切り直し、とルイボン14世がわざとらしく咳払いをする。

「よーく聞きなさい小デブ! 見たところ西の商店街はちょっとばかし小綺麗になったようだけど私たち東の商店街には勝てないわよ!」
「ふぅーーん」
「な、なによその余裕の表情は」
「知っているのよ、あなたたちがどういうキャンペーンをやるのかね」
「きゃんぺーん?」
「当ててあげましょうか? あなたたち東の商店街がどうやってお客さんを集めようとしているのかをね!」
「ばかおっしゃい! 私の崇高な作戦があんたごとき小デブニキビに分かるわけないでしょ!」
「髪型トルネードの考えることなんてお見通しよ」
「きぃーーーーーっ! 誰が髪型トルネードよ! じゃあ当ててご覧なさいよ!」
「どうせあれでしょ、一週間のセールでもやるんでしょ」
「……………………ち、ちがうわ」

 動揺を隠せないルイボン14世。マスカラをたっぷりつけたまつげが何度も瞬き、小さなお口がへの字に歪む。後ろに控えていた付き人の一人から扇子をふんだくって激しく扇ぎはじめた。
 そういやルイボン14世は何歳なんだろうか。みたところ十七、八ってとこだが…ま、いいか。

「んん~? 違うのぉ?」

 俺はわかっていない振りをしてわざとらしく聞いた。
 別に嫌味ではなく、相手の心を乱す作戦だ。

「一週間のセールを商店街全体でやるんじゃないのぉ?」
「きぃーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 ルイボン14世が悔しそうに歯がみして扇子を地面に叩きつけた。
 後ろにいた付き人の女性があわてて拾う。

「私ぐらいの経験があれば簡単に予想がつくわ」
「ふ、ふん! まぐれ当たりでしょ…騙されないわ! 私だってお父様から東の商店街を任されているんだからね! 最初やれって言われたとき全然できなかったけど、いまは色々考えて――」

 実は『東の商店街』に親戚がいる我が商店街の宿屋店主に頼んで、情報を吸い出してもらっていた。簡単にいうとスパイだな。

 宿屋店主の話によると、『東の商店街』の面々はルイボン14世のわがままでセールをやることに辟易しており、できることならやりたくないらしい。それもそのはず、戦争の最中に商品の割引をするなど店にとっては自殺行為だ。流通が戦争のせいで変わり、仕入れ先や物量、輸送費など様々な差異が出て、赤字の店舗もあるだろう。商品の入荷に苦労している店舗も多いはずだ。値段を上げこそすれ、下げるのはいかがなものかと。
 オアシス・ジェラの住民にとってはありがたいかもしれないが、まあそれも一時の喜びにしかならない。

 セールをやるって作戦なら領主権限で補助金を出し、大店を中心に恩を売っておくのがベターだと思う。その頭はルイボン14世にはないようだ。セールをやりなさい、の一言だけを伝え、あとは『東の商店街』の大店である『バイマル商会』の当主にすべてを丸投げしたらしい。

 まとまった権限を与える丸投げ行為は悪い事じゃない。ただ、それはしっかり経営側に意図があってこそ成り立つもので、今回はただの思いつきだ。『東の商店街』が今回の勝負で一週間セールをやることは、悪手、だな。もっと違うタイミングでやるべきなんだろう。
 そう、それこそ戦争がもっと長引いて国が疲弊したときにやれば、好感度の急上昇を狙える。商店街の慈善事業だ。後々、国に功績が残るように演出すれば、町民からの信頼も増すであろう。だがその場合リスクヘッジのコントロールが難しいな。一時的なダメージは避けられないだろうし、その後、施策のせいで会社、いや、店が資金難になる可能性がある。好感度アップのイメージ戦略よりも実利を取った方がいいのかもしれない。となると――

「エリィ、エリィ…」

 袖を引っ張られ、我に返った。
 久々にビジネスモードになっちまった、いかんいかん。
 見るとアリアナがコンブおにぎりを食べながらルイボン14世を指さしていた。

「あんたねぇ! 人の話聞いてるの?!」
「ごめんなさい聞いていなかったわ。続けてちょうだい」
「何を偉そうに!」
「あらいけない。もうお店に行く時間だわ。それじゃルイボン14世、ごきげんよう」
「ちょーっと待ちなさいよ! まだ話は終わってないわ!」
「セールをやるんでしょう? お互い頑張りましょう」
「ぐぅっ…………」
「あ、そうだ。大事なことを忘れていたわ」

 俺は西門の付近に集まり始めていた野次馬の中にいた、ギラン、ヒロシ、チャムチャムの獣人三人組に書類を持ってきてもらった。そこには先週の『西の商店街』集客数が書かれている。集客増加率勝負なのだから、現在の集客数が必要だ。

「はいこれ」
「私としたことがニキビに気を取られて忘れていたわ。アレを出してちょうだい」

 ルイボン14世が付き人に言うと、ギャザースカートにヴェールを羽織った砂漠っぽい服装の女が用紙をこちらにもってきた。
 受け取って、アリアナと一緒にのぞきこむ。

―――――――――――――――――――
『東の商店街』集客数

 月 7023人
 火 7689人
 水 6875人
 木 7111人
 金 7980人
 土 9566人
 日 10560人

 平均 8114人
―――――――――――――――――――

 この人数は商店街を訪れたひとではなく、商店街の店舗を利用した人数だ。
 ただ商店街を通過した人はカウントされていない。

 風魔法の上級に“計数カウント”という地味で使えない扱いをされている魔法がある。その応用で作られた『計数計算ボックス』という、設置すると通過した物や人を感知して“計数カウント”してくれる魔道具を各店舗に置いた。不正がないよう東と西の代表者が立ち会いのもと行っている。

 店がむきだしになっている持ち帰り専門の露店にも『計数計算ボックス』は設置できる。一定時間立ち止まった人間の魔力を探知し、カウントするように設定できるらしい。
 めっちゃ便利っしょこの魔道具。
 地球にあったらバカ売れする。間違いない。

「おーっほっほっほっほっほっほ!」

 ルイボン14世が『西の商店街』の集客平均を見て高々と笑った。
 人数が少ないから笑っているらしい。
 彼女は渡された用紙をこちらにわざわざ見えるように突き出し、ふふんと得意げに笑った。

―――――――――――――――――――
『西の商店街』集客数

 月 523人
 火 501人
 水 476人
 木 609人
 金 599人
 土 679人
 日 460人

 平均 549人
―――――――――――――――――――

 日曜が少ないのは冒険者が西門から狩りに出かけないからだ。
 さすがに異世界でも日曜は休もうぜって感じか。

「こんなに少ないんじゃどう頑張っても勝てないわね! 西の商店街の取り潰しはもう決まりかしら!」
「…いちお言っておくけど集客増加率だからね」
「え? なぁにそれ?」

 やっぱりわかってなかったか…。
 全然あかん!

 俺は親戚の子どもに数学を教えるように、懇切丁寧に増加率をルイボン14世に教えてやった。理解が進むにつれて顔がゆがむルイボン。どうやら彼女も不利な勝負になっていることをやっと悟ったらしい。

「ま、まあ! こんなね! さびれた商店街に! 人なんてこないわよ!」
「勝負は勝負だからね。逃げないでちょうだい」
「この私が逃げるわけないでしょう! このデブ! 小デブ! デーブデーブ!」
「ふん、何とでも言うがいいわ」
「ニキビデブ! ニキビ小デブ! お肉ぜい肉ッ!」
「せいぜい頑張るのね…」
「ニキビピッグー! ニキビおもち! ニキビスコーピオン! ニキビコヨーテ! ニキビオーク! ニキビゴブリン! ニキビスプラッシュ!」

 ルイボンは俺がそこそこ痩せてしまったので、デブコールからニキビコールへシフトしたらしい。
 いや、だからって……
 言い過ぎだろ?
 どんだけこのニキビを俺が気にしてるか知ってんのか?
 ああん?

「ニキビケバーブ! ニキビニキビ! ニキビニキビニキビ! ニキビ小デブ! このニキビーーム!」

 もー我慢の限界だッ!

「これでもねぇぇぇぇ! 半分減ったのよぉぉッ! この人間砂上の楼閣ッッ!!」
「なんですってぇ! 私のどこが砂上の楼閣なのよぉ!」
「全部よ全部! その髪型とまぬけさとお金かけただけのメイクと、ぜんぶッ!」
「私の専属メイドはメイクすんごい上手いんだからねえぇ!」
「それでその顔っ!? 涙が出るわ!」
「濃いのが好きなのよ私は! あんたなんかただのすっぴんでしょうが!」
「うるさいわね! メイクはお肌に良くないのよ!」
「ニキビを気にしてるんでしょ! このニキビ魔神ッ!」
「なによ髪型一発屋!」
「うるさいニキビだんごむし!」
「脳天ハッピー!」
「ニキビチェインメイル!」
「失敗パーマバイオレンス!」
「ニキビシャークテイル!」
「ヅラ?! それはヅラなの?!」
「ヅラなわけないでしょ!」
「ってぐらい変な髪型ッ!」
「むきぃーーーーーーーーーーっ!」
「なによぉーーーーーーーーーッ!」
「せいぜい自分の勝利を信じておくのね! 絶対に負けるけど!」
「今のうちに負けた言い訳を考えておくのね!」
「うるさいうるさい! あんたのニキビ見てると胸焼けがするわ!」
「あなたの髪型見てると汗が出てくるわよ!」
「きぃーーーっ!」
「なによぉーー!」
「ぷん!」
「ふん!」

 俺とルイボン14世は顔を背け合った。気づけば周囲に野次馬がわんさか集まっている。
 彼女は群衆を蹴散らし、大股で去っていく。

 途中振り返って「ニキビばら肉ーーーーーっ!」と叫んできたので「おバカ髪型ボンバイエーーーーーッ!」と叫び返す。ついでに「私が勝ったら髪型変えてもらうわよーーー!」と言うと「やれるもんならやってみなさぁーーーい!」と返事がきた。
 よし、俺が勝ったらラーメ○マンみたいな髪型な。


   ○


 沈静、沈痛、解熱、肩こり、リウマチ、関節痛など人類すべての症状に効果がある“アリアナの狐耳”をもふもふして怒りを鎮め、コーディネート最後の店舗『魔道具・ポーションの店カッちゃん』に来た。

 店主は人の良さそうな人族のおっさんで、にこにこ笑っている。魔道具や薬草の匂いが混ざった独特の臭気が鼻につく。だがそれも不快ではなく、店の演出になっていた。この匂いを嗅ぐとこの店に来たんだな、って思わせるような心地のいい香りが漂っていて、店内になんともいえない雰囲気が充満している。こだわりの品々を置いた小綺麗な雑貨屋、と言えば分かりやすいかもしれない。

 ちなみに店主の名前がカッチャンなのだそうだ。覚えやすい。

 俺はまず店を褒めて、店主の説明をひたすら聞く。
 自分の店にこだわりがない店主などいないのだ。相づちや合いの手、上手く質問を挟み、どんどんしゃべってもらう。相手がどうしたいのか、ニーズを引き出し、それに見合った内容のアドバイスをするため、とにかく俺は話を聞いた。

 商品の説明から、どうして店をオープンしたのか、奥さんとの馴れ初めまで聞いたところで、冒険者らしき三人組が店内をちらっと覗いて、店には入らずそのまま素通りしていった。おそらくこれから砂漠へ魔物狩りに行くのだろう。何も買わなかったのはすでに道具が揃っているからに違いない。

 俺はそれを見てピンときた。

「いま、店の入り口には何を置いてるの?」
「入り口には良く売れる魔力ポーション、疲労回復剤、マンドラゴラ強壮剤、あとはランタンの魔道具なんかだよ」
「定番といえば定番って感じよね?」
「そうだね。どこの店でも売れる商品さ」
「ねえ、冒険者はだいたいいつも朝、西門から出て行くのよね。そのときって何を買っていくの?」
「うーん、さっき言った必需品だよ」
「ということは、行きはたまに売れるけど、狩りから帰ってくるとき必需品はほとんど売れないわよね」
「そうだねぇ、帰りに魔力ポーションやランタンを買っていく冒険者はいないね」
「じゃあ朝と夕で、入り口の商品を替えましょう」
「替える?」

 開店から三時までは冒険の必需品であるポーション、傷薬、疲労回復剤、消耗品など。
 三時から閉店までは冒険後に必要である、汚れ落としの魔道具、疲労蓄積防止剤、すぐに飲める冷えた栄養剤など、魔物との戦いで疲れた冒険者達が欲する商品を置く。魔道具や便利グッズの置いている店を通過する際、ちらっと見てしまうのは危険な冒険者家業なら当然だろう。その、ちらっ、と見たときにニーズに合った商品があったら買ってもらえる確率が大いに上がる。

「それはいいアイデアだエリィちゃん! ああ、どうして気がつかなかったんだろう!」

 カッチャンは大いに興奮し、早速準備を始めた。
 あとは地球と違って店頭に商品を置くと高確率で盗られてしまうため、オススメ商品を目にとまるよう手書きポップで説明し、さらに新商品入荷リストを黒板に書いて毎日更新する、というアイデアを二人で出し合い、それも実行することにした。

 そうこうしているうちにお昼を過ぎていた。
 てっぺんにのぼった太陽が砂漠の町を照らしている。この時間が一番暑い。

「エリィちゃん、お昼ご飯食べていくかい?」
「うーん嬉しいけどコゼットとポカじいが用意してくれているの」
「そうかい。僕にも子どもがいれば君ぐらいの年だったんじゃないかと思ってね…。じゃ、また店の様子を見に来ておくれよ!」
「ええ、もちろん!」
「あと狐のお嬢ちゃんにはこれをあげよう」
「なに…?」

 俺にくっついて話を聞きながらずっと魔力循環の訓練をしていたアリアナが首をかしげる。カッチャンが渡したのはペロペロキャンディーみたいなお菓子だった。

「セラー神国のお菓子なんだって。この前来た冒険者がくれたんだ」
「くんくん。甘いにおい…」

 アリアナはちっちゃい口でキャンディーをぺろぺろしはじめる。
 狐耳の美少女が一生懸命アメを舐める。
 癒しだな。癒し効果抜群だ。

「あまい……エリィも舐めてみる?」

 こてん、と首をかしげてアリアナがキャンディーを俺の口元に寄せる。
 そんな可愛くされたら誰も断れないよな、うん。もちろん俺も舐めた。

 これは………ペロペロキャンディーの味とまんま一緒じゃねえか。


    ○


 ルイボン14世に遭遇する事件はあったものの、商店街すべて、五十二店舗のコーディネートは終わった。いやー三週間みっちりかかったもんなー。やりきったぜ!
 あとはどのぐらい効果が現れるか経過待ちだ。

 俺とアリアナは暑い陽射しの中『バルジャンの道具屋』に戻った。

「おかえり~」

 気の抜けたのほほんとしているコゼットの声がし、エプロンをはずしながら玄関にやってきた。その後ろからジャンジャンもやってくる。

「新婚の夫婦みたいね、ふたり」
「え、え、え、え…」
「なはぁっ! 急に何を言うんだよエリィちゃん!」
「見たままを言っただけよ。ね、アリアナ」
「うん…」

 赤い顔をしたコゼットとジャンジャンを食い入るように見つめるアリアナ。

「そんなことあるわけないよぉ!」
「そ、そうだぞぅ!」

 コゼットがにやにやを隠しきれず、丸めたエプロンで俺の肩を叩いた。ドクロのかぶり物がカタカタと揺れる。
 対するジャンジャンは長いもみあげをいじくりまわして、がっかりした顔で叫んだ。

 ジャンジャンどんだけ恋愛ベタなんだよ。気づけよ。この反応、もうオールオッケーじゃねえか!
 表面の言葉に踊らされるな! コゼットは恥ずかしがっているだけだ!

 もうずっとこんな調子だもんな。ちょいちょい二人をくっつけようと商店街での役割分担が被るようにしてあげているんだけど…ジャンジャン、男を見せろやまじで。

「はあ、まあいいわ。ご飯食べましょ」
「うん…」


   ○


 俺とアリアナ、ポカじい、コゼット、ジャンジャン、ガンばあちゃんのいつものメンバーで昼ご飯を食べた。
 ちなみに『バルジャンの道具屋』だけは店のコーディネートを一切していない。コゼットが泣くほど嫌がったからだ。あれはちょっと普通じゃなかった。絶対このほうがいい、と言い張っていたが、あれは何か他に理由がありそうな様子だった…。

「ねえねえエリィちゃんこれ見てッ」
「なあに?」
「じゃーん」

 コゼットが得意げな笑みを浮かべて、手に持っていた服を広げた。

「それはッ!」
「どう? これをみんなで着るの」

 服に袖を通し、コゼットはくるりと一回転する。
 かぶり物のドクロがカタンと鳴り、服がふわっとなびいた。

 それはまさしく……。

「法被じゃないの!」
「はっぴ?」

 コゼットの着ている上着は、縁日なんかでよく着ている祭の定番アイテム「法被」を薄手のヴェールで改良したものだった。普通、法被は綿の生地でしっかりと縫製されているが、コゼットの作ったものは砂漠らしい透けるような白の薄い素材を縫い合わせた物だ。

 これ、いいね。異国情緒あふれるハッピ、いいね。
 商店街全員で着たらええんじゃないの?
 統一感出るし、お祭りみたいだし。

「採用ッ!!」
「ふえ?」
「すごいわねコゼット。これどうやって思いついたの?」
「あのね、なんかね、商店街のみんなと話してたら同じ服を着るのがいいんじゃないかって話題になって、全員サイズとか気にせず着られて簡単に脱いだりできる服、って言ってたらこういうのになったの。わたしが作ってみたんだよ。すごいでしょ~」
「へえーー」
「なんかおもしろい…」
「コゼットは器用だなぁ」
「尻が隠れるのが残念じゃのう」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ」

 俺は感心し、アリアナは好奇の目を向け、ジャンジャンはコゼットの顔と胸ばかりを見、じじいはやっぱりスケベじじいで、ガンばあちゃんは笑っている。

「もう商店街の女の子たちで作り始めてるんだよぉ。エリィちゃんとアリアナちゃんの分もあるからね」
「まあ!」
「うん…!」

 はっはっはっはっは!
 見よこの西の商店街の団結力を!
 東の商店街など敵じゃない!

「まだ全然足りないから頑張って全員の分を作るよ。わたし、この商店街が好きなの。絶対になくなってほしくないの」
「コゼット…」

 ジャンジャンが思い詰めたような表情を一瞬し、そしてすぐ笑顔になった。

「そうだな! 俺だってこの商店街が好きだ!」
「うん! ジャンが帰ってきてくれて本当によかった。ジャンがいなかったらわたしきっと今頃つらくて泣いちゃってたと思う……あれ?」

 ぽろりとコゼットの瞳から涙がこぼれ落ちた。

「おい…なんでこのタイミングで泣くんだよ」
「ごめんね。ジャンのことずっと待ってたから」
「悪かったよ急に家を飛び出したりして」
「ううんいいの。ジャンにはジャンの考えがあったって今は思えるから」
「ごめんな……謝るから泣き止んでくれよ。なっ?」

 そう言ってハンカチを出すジャンジャン。
 見つめ合う二人。しばらくの沈黙。

「うん…。もうだいじょぶ」
「そうか……」

 完全に二人の世界入ってない?
 もう付き合ってるってことでいいんじゃねえかな。
 と思ったらジャンジャンが恥ずかしがって目を逸らした。チキンーッ。

「そういえばジャンジャン。治療院の改装は大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ。かなりキレイになった」

 気を取り直して俺はジャンジャンに聞いた。

「あと“癒発光キュアライト”を使える人、見つかった?」
「いや、それがね…」
「やっぱり。まあ仕方ないわ。上級の“癒発光キュアライト”が使える人はなかなかいないし。わたしとポカじいで頑張るわ」
「俺、水の上級“治癒上昇キュアウォーター”はできるから、内科系の患者さんなら見れるよ」
「もちろんそのつもりよ。ちゃーんとジャンジャンも頭数に入っているわ」
「さすがエリィちゃん。それから賢者様、ありがとうございます」
「ほっほっほっほ。わしは師匠として弟子を手伝ってやるだけじゃよ。それにのぉ、まだ始まってもいないんじゃ。礼はあとにしてくれぃ」

 ちなみにポカじいは誰にも砂漠の賢者だとバレていない。俺とアリアナの師匠で、ちょっとスケベで面倒見のいい白魔法使い、というのが商店街の認識だ。ジャンジャンが賢者と呼んでいる事も、それぐらいすごいじいさんなんだな、程度にしか思っていないようだ。

「じゃあ俺は最後の確認で治療院に行ってくる。あと治癒系が得意な冒険者がいないか探してくるよ」
「ええ。もし雇ったら、お金はしっかり払うと伝えてちょうだい」
「わかったよ」
「気をつけてねジャン」
「ああ。コゼットも」

 いそいそとコゼットがキッチンから水の入った水筒をジャンジャンに渡す。笑顔で受け取るジャンジャン。もうどっからどう見ても完全に夫婦なんだけどなぁ。


「相思相愛…」


 アリアナがぽつりとつぶやいた。


  ○


 その翌日。
 治療院格安解放大作戦の前日だ。

 俺とアリアナは『バルジャンの道具屋』で針仕事をしていた。コゼットに教わりながら商店街で着る法被を縫っている。もう時刻は十時を回っており夜遅い。“ライト”で部屋を明るくして、俺とアリアナとコゼットは黙々とヴェールに針を通していた。

「エリィちゃん」
「なあに?」
「今日は泊まっていけば?」
「そうね…そうしようかしら。明日早いし」
「そうしましょ!」
「なんでそんな嬉しそうなの?」
「ええーだってお泊まり会って楽しいよ!」
「ふふっ、そうね」

 コゼットの無垢な笑顔がなんとも可愛らしい。ジャンジャンはコゼットのこういう素直で可愛らしいところに惚れたんだろうな。

「アリアナもいいでしょ?」
「ん…」

 アリアナは針仕事に夢中だ。細かい作業が好きみたいだな。
 つーかアリアナのまつげながっ。“ライト”で影になるくらい長い。下を向いて作業しているから余計に目立つな。いやほんと可愛いこの生物。針を通すたびに狐耳がぴこぴこ揺れるの反則だってばよ。

「あとポカじいにも泊まるって言っておかなくちゃ」
「実はもう伝えてあるの」
「あら、気が利くのね」
「こういうことは手際がいいのですッ」

 えっへんとコゼットは針を持ったまま胸を張った。いい胸だ。うん。ジャンジャンが食い入るように見るのも無理がない。

「じゃあコゼット。女子らしく恋の話をしましょう」
「ええーっ! エリィちゃん恥ずかしいよぉ」
「そうねえ。でもそろそろ教えてほしいわ…」

 俺は真剣な表情を作ってコゼットを見つめた。
 初めて両親に挨拶に行く男ぐらい真剣な顔になっていると思う。

「あなたたち、何があったの?」

 俺の問いかけにコゼットは時間が止まったかのように、針仕事をする手を止めた。

「…………何って?」
「この前言っていたじゃない。私はジャンジャンに好かれていないって。どういうことなの? それにコゼットが変な服装をしていることにも何か理由があるんじゃない? 変な感覚の持ち主がこんなまともなデザインをするとは思えないわ。だからあなたはわざと変な格好をしているんじゃなくって?」
「エリィちゃん……」
「どうなのかしら?」
「これは私の好きでやってる服装だよ」
「ごまかさないでちょうだい」

 コゼットに対して初めて俺は強めの口調で言った。
 この子は危なっかしくて放っておけない。俺がグレイフナーに帰るまでに、ジャンジャンとくっつけてあげたい。例えそれがおっせかいだとしても、これは必要なおせっかいなのではないだろうか。
 付き合うことが無理であれば、せめてきっかけぐらいは作ってここを出て行きたいと思う。そうでもしないと二人は永遠に幼なじみをやっていそうだ。

 彼女は無理に笑おうとしたが上手くできず、取り繕うように自分の短い三つ編みを握り悲しげにうつむいた。

「うん………当たり。エリィちゃんの言っている通りだよ。私は理由があってこんな格好をしてるんだ」
「そ…。わかったわ。ごめんね問い詰めるような聞き方してしまって」
「ううん、エリィちゃんが心配してくれているのは知ってるから、平気だよ」
「これ以上は無理に話さなくていいわ。すごくつらそうな顔になってるもの」
「いつかはどうにかしゃなきゃって思ってるんだけどね…ダメだね、わたしって」
「そんなことないわ。可愛いわよコゼットは。さっきだってジャンジャンの奴、あなたの顔と胸ばっかり見ていたわよ」
「え、え、え…?」

 ぼん、と効果音がつきそうなほど急激に顔が赤くなるコゼット。

「頑張って。わたし応援してるから」
「コゼット、好き…」
「エリィちゃんアリアナちゃん……」
「気持ちの整理がついたら話してほしいわ。私とアリアナはいつでもあなたの味方だから力になりたいのよ。誰かに話してすっきりすることだってあると思うしね」
「うん……ありがとうエリィちゃん」
「コゼットがんばれ…」
「ありがとアリアナちゃん。……商店街の勝負がついたら、きっと話すね」
「オッケー約束よ。でも、無理しちゃダメよ」
「コゼット好き。エリィ大好き…」
「え?」

 急にアリアナに言われて、柄にもなく慌てる俺。

「真顔でそういうこと言わないでちょうだい! わたしだってアリアナこと好きなんだから。好きすぎて困ってるんだから!」

 だぁーーーっ!
 俺は何言ってんだッ。
 小っ恥ずかしい! 小っ恥ずかしいぜよ!
 この好きって意味はあくまでも友人として、妹的存在としてなんだ!

「エリィ……」

 今度はアリアナが顔を赤くして下唇を噛みしめた。
 やだそれ…、可愛いんですけど。

「ふたりはほんと仲良しね」

 コゼットが嬉しそうに笑う。
 彼女が笑うとなんか今までの雰囲気とか全部帳消しになるからずるい。

「コゼット、ファイト!」
「わたし、がんばる!」
「エリィ……」
「コゼットはジャンジャンのどこに惚れたんだっけ?」

 俺はアリアナに好きと言われて動揺している照れ隠しのために、コゼットにジャンジャンの話題を振った。

「あのねあのね、色々あるの。まだ話してないこと」
「聞きたいわ」
「気になる…」
「いいよ!」


 こうして小っ恥ずかしくて甘い空気の中、ガールズトークと共に夜は更けていった。
エリィ 身長160㎝・体重64㎏(±0kg)
+注意+
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