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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第6話 イケメン、ルイボン、商店街

後書きにイケメンが書いた『かんたん魔法早見表NEW』を載せました。
物語の参考にしてくださいッ。
「このデブッ。小デブッ!!」
「ぬわんですってぇ! 誰が小デブよ!」
「あんたのことに決まってるでしょ! むちむちして暑苦しいわ!」
「それを言うならあなたのそのルイ14世みたいな髪型どうにかしなさいよ! 暑苦しいったらないわよ!」
「だ、だ、誰がルイ14世よ! 誰だか知らないけどバカにされている気しかしないわッ」
「ファイヤーボール百発撃たれたってそんな髪型にならないわ! 何なのその巨大おにぎりみたいな天然パーマは!」
「あんたァ! 髪型のことは言わないでちょうだい! これはボンソワール家の由緒と伝統のある髪型なのよ! 私はね、これっぽっちもこの髪型が嫌だって思ったことはないわ! デブ! このデブッッ」

 ルイス・ボンソワールは変な髪型を振り乱して叫んだ。
 俺はデブデブと連呼されてカチンときた。

「だれがデブよ! 私はぽっちゃり系よ! ぽっちゃり女子の進化形よ!」
「ぽっちゃり系?! 笑わせないでちょうだい!」
「それはこっちのセリフよ! 変な髪型!」
「デブ!」
「ルイ14世!」
「デーブデーブッ!」
「おにぎり頭ッ! 富士山盛りッ!」
「意味がわからないこと言ってバカにしないで!」
「おバカ髪型事件簿ッ!」
「贅肉肉体サウナ!」
「じっちゃんの名にかけてッ!」
「きぃーーーーーーッッ!!!」
「髪型活火山!」
「おデブ行進曲!」
「鳥の巣ッ!」
「駄肉製造器!」
「あんたねえぇぇぇぇぇーーーーーッ」
「なによぉぉぉーーーーーーーーッ」
「私たちに勝ってから言いなさいよ!」
「いいわよ! 勝ってやるわ! 楽勝よ!」
「そっちの商店街とこっちの商店街で集客の勝負よ!」
「のぞむところよ!」
「こっちが勝ったら商店街、孤児院、治療院の取りつぶしはなしよ! いいわね!」
「こっちが勝ったらあんたは一年間わたしの従者になってもらうわ!」
「ふふん。いいでしょう。私たちが負けることなんて絶対にありえないけどね!」
「言ったわねぇぇ!」
「それじゃここにサインしなさい!」
「やってやろうじゃない!」

 俺が『東と西の商店街・集客増加率勝負。西が勝ったら取り潰しなし。東が勝ったら一年従者』という用紙を殴り書きした。
 ルイ14世みたいな髪型のルイス・ボンソワール、ルイボン14世が勢いでその用紙にサインする。

 俺とルイボン14世が言い争いを始めてから、かれこれ体感で三十分は経過していた。『西の商店街』のど真ん中で罵倒し合っていたため、人がかなり集まってきている。

「ルイボン14世! 負けて悔しがるあなたを見るのが楽しみだわ」
「誰がルイボン14世よ! 変なあだ名つけないでちょうだい!」
「いいたいことはそれだけよ」
「準備期間は一ヶ月ッ。そこから一週間勝負! いいわね!」
「いいでしょう!」

 ジェラの領主の娘、ルイス・ボンソワールはこちらを一睨みすると、ぷん、と言って群衆を蹴散らし、ルイ14世みたいな珍妙な山盛りパーマの髪型をゆっさゆっさと揺らしながら『西の商店街』から姿を消した。

 散々バカにされて今頃怒り狂っているだろう。ふふ。俺がわざと怒らせたとも知らずにな。

「それにしても…」

 俺はやれやれとため息をついた。
 なぜこうも問題ばかり起きるのだろうか。
 早く帰りたいのにこんなことになっちまうなんて…。
 ま、恩人であるジャンジャンのピンチだしな、一肌脱がずして男が語れるか。否、語れない。ここは全力で問題を解決しようじゃねえか。

 犬も歩けば棒に当たる。イケメン歩けばアクシデント。
 ことわざ完成。イエーイ。


 ――やはり天才ッ!!


「エリィちゃん…あんなこと言って大丈夫なのか?」
「大丈夫よジャンジャン。問題ないわ」
「ルイス様にあんなこと言うなんてすごいわね」
「コゼット。相変わらずドクロの帽子がお似合いね」
「ありがとう~」

 ジャンジャンがポカじいの家に転がり込んできて言われた通りついてきてみれば『西の商店街』を潰して冒険者協会の訓練場にする、というとんでもない事態になっていた。商店街がなくなればジャンジャンの実家もなくなる。その陣頭指揮を取っていたのが領主の娘ルイボン14世だった。

 俺とアリアナとポカじいが着いた頃には、取り潰しが決定しており、何の打開策も見出せないまま商店街の人々はただ抗議を繰り返していた。ジャンジャンが俺たちに泣きついたのは、どうにかしてくれそう、だったからだろう。
 そして俺は商店街のど真ん中でルイボン14世に喧嘩をふっかけた。

 次第にヒートアップして最後のほうは何を言っているか自分でもよく分からなくなったが、何とか条件付きでの勝負に持ち込めた。ルイボン14世が、親から『東の商店街』の運営権利をもらっていることを引き合いに出してきたので、それを逆手に取ったのだ。
 そうでもしなければ今すぐに取り潰しを着工しそうだったから仕方がない。つーか商店街を潰しても住民たちの生活は保障をしない、ってどんだけ専制政治なんだよ。やべえよ。

「その女の子は誰だ?!」
「あんなこと言ってタダで済むはずがない!」
「ぼくたちの家が…」
「この商店街を守ろう!」
「ぽっちゃり進化形女子とは?」
「勝てる見込みはあるのか?」

 商店街のメンバーから悲痛、対抗、疑問など様々な声が上がる。商店街に五十強ある店舗の店主たちが俺を取り囲んだ。どのみち勝つしか存続の道はない。やるしかないだろう。

「わたくしはグレイフナー王国ゴールデン家四女、エリィ・ゴールデンと申します。皆さんまずは落ち着いてお話を致しましょう」

 俺は営業の基本である挨拶から入った。


   ○


 西の商店街で一番大きな店『ギランのケバーブ』という店に店主一同が集合した。
 現状の把握と、事の経緯が説明され、会議が進行する。


 会議を聞いた結果、俺の頭の中に問題点がいくつも浮上した。


 まず東門がオアシス・ジェラの玄関口になっており、北門へと街道が続いているため、人の流れが東から北へと流れる傾向がある。よって西門を通る人間はほとんどいない。しかも、青々と水をたたえたオアシスが町の真ん中にある。わざわざオアシスを迂回して西側には来ない。
 商店街に人気がないのは外的要因が大きかった。

 『西の商店街』に来る客層は、近隣住民と西の危険地帯へ魔物狩りに行く冒険者、この二種類だ。それ以外の住民や旅行者は、西に来る必要性が全くない。

 続いて『東の商店街』は冒険者協会が角地に建っており、頻繁に人々が行き交っている。通りにはジェラ有数の大店おおだなが多数あり、単純に、何もせずとも人が集まる。

 西の商店街の面々は絶望的な顔をしている。
 普通に考えたら絶対に勝てない勝負だ。みなが暗い顔になるのも無理はない。
 中には俺を憎悪の目で睨んでくる輩もいる。

 だが、俺は可笑しくて仕方がなかった。あまりのちょろさに笑いが込み上げてくる。アホだ、アホすぎる。ルイボン14世のまぬけさが愛すべきものにすら思えてきた。

「皆さん。勘違いしているようだけど、この勝負は西の商店街が圧倒的に有利だわ」
「エリィちゃんどういうこと?」

 ジャンジャンがすぐさま聞いてくる。
 集まっていた面々が半信半疑な視線をこちらへ投げた。

 俺は立ち上がり、その目線をすべて受け止めた。

「集客数勝負ではなく、集客増加率勝負なのよ?」
「ん?」

 俺は勢いで書いたふうを装った、ルイボン14世のサインつき用紙を掲げて見せた。

「純粋な商店街の集客人数ではなく、どれだけ増加したかってことが重要なの。つまり、現在の集客を五百人とすると、その倍の千人を呼び込めば、増加率は百パーセントになるわ。対する東の商店街の集客を一万人とすると、倍にするには二万人。今より一万人も人を呼ばなければいけないのよ。集客を倍にするには相当の施策……作戦が必要になるでしょうね」
「てことは一時的に客を呼び込めれば勝ち目があるってことか?」
「ええ、そうよ。むしろこんな好条件の勝負、他にないわ」

 俺は『西の商店街』で一番の大店『ギランのケバーブ』の店主を見た。彼はギランという名前の大柄な虎の獣人で、虎の耳が頭についており、獰猛な牙を口元からのぞかせている。
 文字通り砂漠の国でポピュラーな、ケバブに酷似したケバーブを店で販売している店主だ。商店街メンバーからの信用が厚く、会議の司会進行を務めている。
 その彼が口を開いた。

「何かいい案でもあるのかよ」
「あるにはあるけど、まずはみんなでアイデアを持ち寄りましょう。準備は一ヶ月。勝負期間は一週間よ」
「ま、それがいいか。ここでしゃべっていても埒があかない」

 ギランが立ち上がった。

「では明日、朝の八時に集合だ。それまでに全員集客のアイデアを考えておいてくれ」

 こうして二時間ほどの会議が終わった。
 各店の店主が挨拶やこの先の展望を話しながら三々五々消えていく。
 俺とアリアナも会議場である『ギランのケバーブ』から出て行こうとした。

「お嬢ちゃん、ちょっと残ってくれ」

 声をかけてきたのはギランだ。難しい顔をして腕を組んでいる。俺はうなずいて、会場である店から人がいなくなるまで待った。


   ○


「ジャンの小僧からお嬢ちゃんが凄腕魔法使いだと聞いて会議に参加してもらった。そしてルイス・ボンソワールに対しての機転には商店街一同感謝している。あのとき君が割って入らなければ、誰も打開策を見いだせず商店街は取り潰しになっていただろう。だが……俺は自分の目で見ないと信用できないタチでな。お嬢ちゃんが凄腕だという証拠をどうしても見たい」
「別にかまわないわよ」
「ほう、随分と肝が据わっているのだな」
「グレイフナー王国のレディとして当然よ」
「なるほど…ジャンが言うだけのことはあるようだ。凄腕魔法使いなら君が若い女の子だとしても、敬意を払って商店街へのアイデアを聞こう。だがジャンの言うことが嘘ならば、商店街には関わらず、客人として過ごしてほしい」

 虎人のギランが気むずかしそうな人物だとは思ったが、やはり、といったところか。ジャンジャンの奴、余計なこと言いやがって。黙っておいてくれれば俺のほうで勝手に関係値を高めたものを。
 ま、こういうことはよくある。誰かが余計なおせっかいをしたり、不利な発言を気づかないうちにしたり。こういうのがおもしれえよな、営業って。

 とは言うものの、ここは最終手段を使うしかない。
 証拠ってアレだよなぁやっぱ。

「町の中では使えない魔法だから外に出ましょう」
「む…。いいだろう」

 俺たちは暑い陽射しの中、西門を通り、外に出た。
 ちなみにポカじいはバー『グリュック』で酒を飲んでいる。俺たちとの基礎訓練中、酒が飲めなかったからどうしても飲みたかったらしい。じいさん、酒を飲まずに特訓してくれてありがとな。スケベだけど。いつもご飯作ってくれてありがとな。スケベだけど。


 移動しているときも魔力循環を忘れない。


 ポカじいには常に循環させるように言われている。俺もアリアナも、かなりできるようになってきているが、会話をしたり、別の行動をすると循環が途切れがちになってしまう。こうした何気ない移動などは絶好の練習機会だ。

 ついてきたメンバーは、アリアナ、ギラン、ギランの隣に店を構える猫人、その向かいで野菜を売っている豹人。この獣人三人だ。

 俺は猫人にはヒロシ、豹人にはチャムチャム、とあだ名をつけた。
 ヒロシは背が低くてマラソンが得意そうだから。
 チャムチャムは取引先の社長夫人が飼っていた豹の名前から拝借した。

 どうやらこの三人、相当に仲が悪いらしい。歩いている最中、口をきこうともせず、目が合うと睨んで威嚇し合っている。

「猫と豹と虎は仲が悪いの?」

 こっそりとアリアナに聞いた。
 彼女はショルダーバッグから『ササの葉』にくるまれたおにぎりを取り出し、一口食べてから首を横に振った。

「もぐもぐ。聞いたことない…」
「じゃあ種族間の問題ではないってことね」
「うん」
「凄腕魔法使いのお嬢ちゃん、一体どこまで歩けばいいんだ」

 ギランがあまりの暑さからか、批難めいた口調で言ってくる。
 俺は町から充分な距離があることを確認し、足を止めた。

「ここでいいでしょう」
「で、証拠、見せてくれるんだろうな」
「もちろんよ」
「それじゃあ頼む。時間がおしい。早くやってくれ」
「わかったわ。それじゃみんな、大きい音がするからびっくりしないでちょうだいね」
「ああ」

 俺はせっかくなので、呪文を詠唱することにした。


「やがて出逢う二人を分かつ 
 空の怒りが天空から舞い降り 
 すべての感情を夢へと変え
 閃光と共に大地をあるべき姿に戻し 
 美しき箱庭に真実をもたらさん」


 へそのあたりから湧き上がる魔力の本流。
 詠唱のせいか思ったより魔力を込めてしまう。
 砂漠だし、どれだけ強力でも問題ないだろう、と俺は結論づけて、一気に魔力を解放した。


落雷サンダーボルト!!!!!!」


 バババリィィィッッ!!


 焼き付けるような鋭い閃光が不規則な線を描いて乾いた地面へ突き刺さる。高熱のエネルギーを受けた地面がえぐり返され、熱風と共に四方八方へと爆散し、砂塵を巻き起こした。あれ? 前より少ない魔力なのに威力が上がっている?

「……は?」
「………ひ?」
「…………ほ?」

 ギラン、ヒロシ、チャムチャム、獣人三人組が“落雷サンダーボルト”の威力に愕然とする。

 驚きすぎて声が出ないのか“落雷サンダーボルト”が落ちてえぐられた地面を呆けた顔でじっと見つめていた。
 やがて、現実に戻ってきたギランがゆっくりと口を開いた。

「で、で、で、伝説の落雷魔法……………?!」
「ユキムラセキノの………」
「使ったと言われるあの………???」

 仲が悪いと言いつつ会話のコンビネーションは抜群だ。

「お、お嬢ちゃん……もう一回、いいか? まだ目の前で起きたことが信じられん」
「いいわよ」

 俺は段々面倒くさくなってきて詠唱なしで“落雷サンダーボルト”を高出力でぶっ放し、“電衝撃インパルス”を巨大なサボテンへぶち当て、ついでにギランに微弱な“電打エレキトリック”をお見舞いした。修行の成果なのか、どれもこれも流れるように発動する。

「アババババババババ」

 その場で痙攣するギラン。

「どう、これでわかったでしょう」
「こ、これが落雷魔法…!!」

 三人は相当に興奮した様子で詠唱呪文の内容やどうして使えるようになったかなど質問をさんざん俺に繰り返し、教えてくれと懇願してきたので、呪文のメモを渡してやった。当然、使えない。三人は失敗のせいであっという間に魔力枯渇寸前まで追い込まれた。急激な疲労で、ギラン、ヒロシ、チャムチャムは立っていられない。虎と豹と猫が四つん這いになって並んでいる姿は結構面白かった。

 こんな堅物そうなおっさん達が子どもみたいに魔法を試すんだから、やっぱ落雷魔法ってみんなが憧れる魔法なんだな。猫人のヒロシなんかは気絶ギリギリまで試したのか、フルマラソンを走ったみたいに疲れて顔を真っ青にしていた。


 そんなこんなで少し休憩をしてから俺たちは商店街へと戻った。


 三人の態度がだいぶ軟化しており、今後の話がしやすくなった。俺が営業について詳しいってことは、実家のゴールデン家の領地管理をしているから、ということにしておく。

「三店舗合同で屋台を出したらどう?」

 俺は会議の最中からずっと考えていたアイデアを伝えた。
 しかしすぐ三者から悲鳴があがる。

「なにっ?!」
「なぜこいつらと!」
「合同?! やなこった!」
「まあまあ。これには理由があるのよ」
「どういう理由だ?!」

 ギランが虎っぽくグルルルと唸りながら聞いてくる。

「ギランのお店はケバーブでしょ? ヒロシのお店は肉屋。チャムチャムのお店は八百屋。ということは?」
「いうことは?」
「なんだ?」
「全然接点はないぞ?」

 俺はアリアナに目配せをした。
 彼女が会議の前に見つけた特殊な形をした鉄板を三人の前に置いた。

「エリィがおにぎりより美味しい物を作ってくれる…」
「おにぎり?」
「狐っ子よ、さっきから気になっているんだが」
「その食べものはなんだ?」

 ギラン、ヒロシ、チャムチャムの視線が一斉にアリアナの右手に集まる。
 アリアナは小腹が空いたらすぐにおにぎりをかじっていた。ずっと気になっていたらしい。

「やっ…ぜったいあげない…」

 瞳をうるませるアリアナ。
 そんなに?!
 そんなにおにぎりが好きか!?

「あと一個しかない…」

 可愛い子が泣きそう。
 こうなると男は狼狽えるか焦るかのどちらかしかない。獣人三人組も例外に漏れず、わたわたと両手を動かして必死に否定する。

「お嬢ちゃんの物を取り上げたりしないよナァ!」
「お、おうとも!」
「おじさん達はそんな悪い獣人じゃないよ!」

 肩を組んで苦笑いに近いむさ苦しい笑顔を作り、妙なことで一致団結する三人組。

「ちょっと見せてくれるだけでいいんだ」
「お、おうとも!」
「食べたりしないよ!」
「ほんとう…?」
「当たり前だ。ナァ!?」
「お、おうとも!」
「そうだそうだ!」
「………はい」

 アリアナが渋々、食べかけのおにぎりを三人に見えるように差し出した。
 ギラン、ヒロシ、チャムチャムは顔をくっつけておにぎりを覗き込む。

「ほお、米の真ん中に味の濃い食べものを入れているんだな」
「うまそうだ」
「しかも持ち運べる」
「これは私が考案した料理よ」

 驚く三人におにぎりとはなんぞやを熱く語った。
 おにぎりは日本人の魂だからな。米なしでは生きていけない。
 俺の解説に感動した三人が、一ヶ月後の勝負でおにぎりを露店販売することに決め、いよいよ本題の鉄板へと目を向けた。

 鉄板は三十センチ四方の大きさで、直径五センチほどの丸いくぼみが等間隔についている。そう、完全にたこ焼きの鉄板と一致しているのだ。どうやらこの鉄板、半球状のクッキーを焼くための物らしい。

 俺はたこ焼きについても熱く語った。
 ギランのケバーブからはソースと小麦粉を、ヒロシの店からはタコに似た肉を、チャムチャムの店からは野菜を仕入れれば、異世界バージョンのたこ焼きの完成だ。

 いまいちピンときていないのか、俺は実演することにした。

 たこ焼きをひっくり返す棒の代わりになるアイスピックを『グリュック』から二本借りてきて、記憶を辿りながら具を作る。タコは味と食感が酷似しているパラインコヨーテという魔物の肉で代用する。ついでのようについてきたポカじいはかなり酔っていて、一緒に様子を見にきたコゼットの尻を触ろうとしていたので電気ショックを与えておいた。

 大学時代に下宿先でさんざんたこ焼きパーティーをした経験がまさか異世界で活きるとはな。何が人生で役に立つかわからないもんだ。

 鉄板を熱し、いよいよたこ焼き作りに取りかかる。
 熱くなりすぎないよう火加減を調整し、小麦粉と具の入った液体を鉄板に流し込む。油が跳ねる音と、美味そうな匂いが『ギランのケバーブ』に充満する。

 手際よく液体の入ったくぼみへアイスピックを入れる。ぶつ切りにしたパラインコヨーテの肉である偽タコを入れて、さらに形を作る。ひっくり返すたびに、おおーっ、と歓声が上がり、俺は調子に乗ってどんどんたこ焼きをひっくり返した。

 くるくるとひっくり返す動作がなんとも楽しい。
 たこ焼きが丸くなっていく様子を全員が食い入るように見つめていた。

「おまちどうさま!」

 アイスピックでたこ焼きを刺して皿の上にキレイにうつし、ソースをかけて青のりに似た調味料を振りかければ、異世界たこ焼きの完成だ。

 うおおおおお、懐かしい!
 まじでなんか感動した。
 もうこっちに来て四ヶ月か五ヶ月ぐらい経ってるもんな。
 つーかホームシックにならない俺ってまじで鋼の精神。天才すぎる。自分の才能がこわい…。

「エリィエリィエリィ」

 俺の袖を引っ張るアリアナの目がキラッキラ輝いている。
 もふもふっと狐耳を撫でて、俺はみんなに言った。

「さ、食べてちょうだい!」


   ○


「うまっ!」
「これはうまい!」
「な、なんだこの美味さは!」

 もはや三人組だろとツッコミを入れたいほど息がぴったりな獣人の三人が、たこ焼きの美味さに驚嘆する。

 アリアナと、ドクロをかぶった天然系女子コゼットがたこ焼きを頬張っている。美味いもの食べてる女子ってほんと幸せそうな顔するよな。

 ポカじいもたこ焼きがお気に召したようだ。

「ほほう。これはまた一風変わった料理じゃな。この形がなんともいえんのぅ。そうこの柔らかくて丸い形、まさに若いおなごの――」
電打エレキトリック!!!」
「オシシシシシシシシシシシシシシシシシシシリィィィッッ!!!」
「ちょいちょい下ネタ挟むのほんとやめて」
「エリィ、美味しいね…!」
「そうね。よかったわねアリアナ」
「うん…!」

 アリアナの尻尾が臨界点を突破せん勢いでぶるんぶるん揺れている。
 彼女は自然体でスケベじじいの残骸を踏んづけていた。


 食べ終えて落ち着いたところで、俺はみんなを見た。


「ということでこれが商店街の呼び込みのメイン商材ね」
「なるほどな。これだけで客は来そうだな」
「ギラン。あとは呼び込み用のフックが必要よ」
「フック?」
「消費者を惹きつけてメイン商材を買ってもらう、補佐のような役目ね」
「ほほう。ダテに領地経営はしていないようだな。で、そのフックとやらは一体なんなのだ?」
「ずばり、治療院ね」
「んん? あんなさびれた治療院でどうにかなるのか?」

 現在、サンディは戦争中で治療ができる白魔法士が圧倒的に不足している。会議の際に確認したら、案の定この町でも白魔法士が不足し、怪我人があぶれている状態らしい。町の北東にある治療院には連日長蛇の列ができているそうだ。怪我人をさばききれていない。

 この政治事情を使わない手はない。
 つぶれかけている『西の商店街・治療院』を普段より安価に解放し、客寄せを行う。治療に来た怪我人が元気になり、目の前で売っているたこ焼きを買う。美味いから噂になる、という寸法だ。

「仕掛けるのは勝負の五日前あたりからがいいでしょうね。集客勝負開始の当日からでは口コミで店の情報がうまく広がらないわ」
「口コミ?」
「噂よ。う、わ、さ」
「どうしてだ?」
「初日に噂が広がっても、広がりきるのに四日、五日かかるでしょ? そうしたら最終日前後でようやく集客が爆発するって案配になっちゃうじゃない」
「ほほう。早めに仕掛けておいて集客を前もってしておく、ということか」
「別に今から何かしちゃダメってルールじゃないからね。あくまでも集客のカウントが一ヶ月後スタートってだけだから」
「お嬢ちゃん、なかなかのワルだな」
「勝負とは非情なものよ」
「だが治療院には肝心の治療士がいないぞ」
「ここで伸びているじいさんと私が治療するわ」
「このスケベじじいが?」
「この人、こう見えて白魔法士なのよ」
「なんと!?」

 白と黒はレア適性。驚くのも無理はない。ましてや人の尻を触って下ネタを言うじいさんだ。
 じじいよ、キリキリ働いてもらうからな。
 治療魔法の修行にもなるし、もってこいだろ。

「さらにポイントカードを作るわよ」
「ポイントカード?」

 今度はコゼットが首をひねった。

「商店街で買い物をするとポイントが貯まるようにするの。スタンプの数で景品が交換できるわ。たこ焼き店でポイントカードをもらった客が、商店街の奥へと足を運ぶ理由づけね。景品交換所をこの店かヒロシの店の前に設置しましょう」
「おもしろい! エリィちゃんは天才か?!」

 ギランが高々と笑った。

「そうなの。わたしって天才なの」
「はははっ!」
「それでね……。三人とも仲が悪いのはわかるけど、この勝負期間だけは休戦ってことにしましょうよ。ねッ?」

 俺の言葉を聞いた、ギラン、ヒロシ、チャムチャムはお互いを睨みつける。

 この三人がどうして嫌い合っているかはわからない。会話を聞いていると、きっと昔は仲が良かったのではないだろうかという予想がつく。これをきっかけに関係が修復すればいいと思う。
 見かねたアリアナが、喧嘩はめっ、と言い、その言葉を合図に三人はぎこちなく握手をかわした。

「休戦だ」
「おうとも」
「この勝負期間のみ、だ」


   ○


 そのあと、俺は商店街を見て回った。客としてではなく、営業として、ビジネスマンの目で視察する。
 一言で言うならば「ひどい状態」だ。

 アイキャッチがなけりゃ商品陳列にまったく意味を持たせていない。
 ただ並べて、売れそうな物を前面に出すだけ。
 これは店舗ごとにテコ入れが必要だな。

 たこ焼きとおにぎりの準備にポイントカード、商店街のテコ入れ、あとは治療院の改装。やることがありすぎる。人員の分配はギランにまかせ、細かいことは商店街の大人たちに丸投げし、俺は最小限の動きで済むようにしよう。修行を投げっぱなしにはしたくない。

「ポカじいしか白魔法が使えないのは痛いわね。重症患者がきたらどうしましょ…」
「ほっほっほっほ。エリィ、おぬしもう使えるぞぃ」
「え?」

 酒を片手についてきたポカじいが、あっさりとそんなことを言う。

「白魔法じゃよ」
「何言ってるの。使えないわよ」
「基礎が終わってからまだ一度も試してないじゃろうが」
「それはそうだけど……」

 グレイフナーで何度詠唱しても魔法が発動しなかった。
 それが今ならできるって?

「おそらく白の中級までいけるじゃろうな」
「中級までッ?!」
「上位の中級使用者は魔法学校でも一握り…」

 アリアナが真面目な顔でおにぎりを頬張る。

「ちなみにアリアナ。おぬしも上位の黒魔法までいけるぞい」
「えっ………?」

 驚きのあまり彼女がおにぎりを落としそうになり、俺があわててキャッチする。

「ほんとに? ポカじいウソついてないよね…?」
「ほんとじゃ。尻は触るが嘘はつかん」


 俺たちは日が落ちて暗くなってきた西門から急いで外に出る。
 門番が「夜はあぶないぞ」という警告をくれたので「すぐ戻るわ」と叫んだ。


 俺とアリアナは早速、上位魔法の詠唱を開始した。
エリィ 身長160㎝・体重70㎏(-1kg)


『かんたん魔法早見表NEW』

      炎
白     |     木
  \   火   /
   光     土
      ○
   風     闇
  /   水   \
空     |     黒
      氷

下位魔法「光」「闇」「火」「水」「風」「土」
 下級→初歩
 中級→一般人・五人に一人は使える
 上級→魔法学校四~六年レベル
上位魔法「白」「黒」「炎」「氷」「空」「木」
 下級→魔法学校六年生で十人に一人
 中級→才能がないと習得できない
 上級→できたら天才
 超級→名前が文献に載るレベル
上位複合魔法
 下級・中級・上級・超級複合→使える奴はこの世界にいないらしい。なんか他にいそうだけどな。それと、俺が使ってる落雷がどのレベルの複合なのかわからねえ。



次回は新しい魔法を習得する予定です!
+注意+
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