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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第5話 エリィの手紙~砂漠から愛を込めて~

 私は手紙を持って家に転がり込んだ。
 私についてきてくれたサツキちゃんとテンメイ君も玄関から駆け込んでくる。

 優秀なゴールデン家のメイドの一人が、何事かとスカートの裾をからげてエントランスにすっ飛んできた。
 私はあまりの興奮から、レディとしての帰宅の挨拶もせず、息も絶え絶えにこう言った。


「エリィが……エリィが生きていた!」と。


 私の声は思ったより大きく、家中に響き渡った。
 するとキッチンから皿や鍋を落とす音が聞こえ、家のそこかしこから悲鳴のような驚きの声が上がり、バタバタと足音を隠そうともせずに家中の人間がエントランスに飛び込んできた。

「エイミーお嬢様!」
「お嬢様どういうことです?!」
「エリィお嬢様はどこにッ!!!」
「本当なのですか?!」
「何があったのです!?」
「べびぃじゅぼうずびぃ! びっばいっばびぼぼにッッッ!!!」

 みな口々に思ったことを叫び、バリーにいたっては顔中から液体を出してよく分からない言葉を叫んでいる。
 気づけばゴールデン家の使用人すべてがエントランスに集合していた。
エドウィーナ姉様とエリザベス姉様はお仕事で、お父様は宮殿に行っている。クラリスはいまアリアナちゃんの家にご飯を作りにいっている頃だろう。クラリス、この手紙を見たら喜びのあまり泣き叫ぶだろうな。

 エリィ捜索本部、として使っていた二階の一室から、仮眠を取っていたお母様が普段絶対に見せないような焦った足取りで階段を下りてきた。

「エイミー、どういうこと!? 説明してちょうだい!」

 お母様の言葉で水を打ったように静まる使用人達。
 爆炎のアメリアとしてグレイフナーに名を馳せたお母様の凛とした雰囲気が、場の空気を一気に引き締める。
 私はお母様に手紙を見せた。

「あの子から手紙が届きました!」
「場所は!? 場所はどこなの!?」
「砂漠の国サンディ、オアシス・ジェラというところです」
「サンディ……また随分と遠くね」
「戦争があるから帰って来れない、と書いてあったけど…」

 お母様は私から封筒を受け取ると、消印を見て眉をひそめた。

「日付が二ヶ月前になっているわ」
「サンディの封鎖線のせいだと思います」

 あれから私も色々とエリィの行方を追って調べた。その中で知ったのが、サンディとパンタ国をつなぐ『赤い街道』が軍隊によって完全封鎖されている、ということだった。

「エリィはオアシス・ジェラに住んでいる、ジャン・バルジャンさんと、お婆様のガン・バルジャンさんの家にご厄介になっているそうですよ」
「では安全ということね…。エリィを誘拐したであろう盗賊団は?」
「お母様がおっしゃっていた『ペスカトーレ盗賊団』のことですか?」
「ええ。そうよ」
「そのことも書かれてありました。お母様の調査された通りでしたね」
「グレイフナー王国から人攫いをするほどの凶悪で大きな組織。ある程度予想はついていたのよ」

 お母様はだいぶ疲れた様子で、ゆっくりと指で眉間を揉んだ。
 すぐさまメイドの一人がお母様の肩を揉み始めた。

「エリィがおしおきしたから大丈夫って書いていたけど…」
「おしおき?」

 お母様は肩を揉まれながら大きく首をひねった。
 確かに、冷静になって考えてみると上位魔法が使えるほど凶悪と噂される盗賊団を一人で倒せるはずがない。エリィお得意の冗談かもしれない。

「とにかく見てみましょう。ハイジ、みなにも聞こえるように読み上げて頂戴」
「かしこまりました奥様」

 クラリスの娘、ハイジが手紙を恭しく受け取り、おもむろに開いた。
 彼女は何をやらせてもそつなくこなす、凄腕メイドだ。この若さでゴールデン家のメイド長を任されている。


「ハローみんな! 心配かけてごめんね!」


 ハイジの澄んだ声色がエントランスに響き渡った。


「……ハロー?」


 さっそくお母様のツッコミが入る。


「たぶんエリィ語だと思うよお母様」


 私はつい敬語を忘れて、訝しげな顔をするお母様に言った。


「エリィ語、とはなに?」
「あの子、たまに自分で考えた言葉を使うんです。昔からお茶目なところがあったから」
「そうかしら? たしかにそうかもね」
「でしょう?」
「まあいいわ。ハイジ、続けて頂戴」
「かしこまりました」

 気を取り直してハイジが手紙に目を落とした。

「ハローみんな! 心配かけてごめんね! 私はいま砂漠の国サンディ、オアシス・ジェラにいるわ。優しい冒険者のジャン・バルジャンという青年に助けられ、彼の実家にお世話になっているのよ。砂漠の国というだけあって陽射しが強く、じっとしているだけでも汗が流れ落ちてきてげっそり痩せてしまいそう。サンディとパンタ国の戦争のせいで、しばらくグレイフナーに帰れないと思うわ」

「…随分と元気そうね」
「そうみたいですねお母様!」

 お母様はほっとしたのか笑顔になった。
 私はうなずいて、ハイジに続きを読むようお願いした。

「あの日、ペスカトーレ盗賊団という悪い連中に誘拐されてしまったんだけど、色々あって盗賊団におしおきをしておいたわ。やっぱり悪はこらしめないとね。怪我も病気もしていないから安心して。ジャン・バルジャンはすごくいい青年で、お婆ちゃんのガン・バルジャンはよぼよぼだけど店番を頑張っている優しい人。不自由はしてないわ。しばらくこの家で封鎖の解放を待つことが最善だと思うの。友達の狐人、アリアナも無事だわ。彼女は手紙が恥ずかしいと言っていたので、家族に彼女の無事を伝えてほしいわ。家の場所はクラリスに聞いてちょうだい。いつになるか分からないけど必ずグレイフナー王国に帰るから、みんな体に気をつけて元気でいてね」

 ハイジは呼吸を整えると、次のページへ手紙をめくった。

「クラリス、心配かけてごめんなさい。すごくびっくりしたでしょう? でももう大丈夫。私は元気よ。エイミー姉様。お姉様の素敵な笑顔を早くみたいわ。帰ったら新しい洋服を着てまた街へ遊びに行こうね。バリーは泣きすぎ。もう泣かないでちょうだい」
「べんばごどびっだっで! ぼじょうずびぃ!」

 バリーは相変わらず何を言っているかわからない。涙でぐちゃぐちゃになった顔を白エプロンで拭いている。

「エリザベス姉様、恋は順調かしら。エドウィーナ姉様、お母様、二人の洋服はミラーズに置いてあるから是非着てみてください。お母様、お父様にはあまり根を詰めないように言って下さい。肺の持病が心配です。メイド、使用人のみんな、心配かけてほんとごめんね。ゴールデン家のみんなの顔を見るのが楽しみだわ。それじゃあまた! 近いうちに必ず戻るわ! エリィ~砂漠より愛を込めて~」

 ハイジが顔を上げて手紙をめくった。
 エントランスにいる全員が、よかった、とか、お嬢様、とか、エリィ様、などつぶやいている。

「エイミーお嬢様、続きはお読みしたほうがよろしいでしょうか?」
「その必要はないと思うな」
「あら、どういうこと?」

 お母様がハイジの持っていた手紙を覗き込んだ。
 さっき冒険者協会で読んだとき、この手紙が全部で四部構成になっていることを知った。このあとは『ミラーズへ』『コバシガワ商会へ』『スルメへ』となっている。

 そのことを説明し、内容を簡単に話すと、お母様はざっと中身を見てすぐ手紙を分け、メイドに配達させた。
 『ミラーズへ』と『コバシガワ商会へ』という手紙は経営に関わることだったので早いほうがいいと思ったのだろう。

「エイミー、あの子は本当に立派になったわね」
「そうですねお母様」
「それで、スルメ、というのは誰なの?」
「エリィのお友達みたいです。ワイルド家の長男だそうですよ」
「ワイルド家? 領地が百五十の超名門貴族じゃないの。お付き合いしているのかしら」
「きゃっ。そうかもしれませんね!」

 私はまさかと思ったが、二人が付き合っているのかもしれないと思った。だって、ねえ。わざわざ彼にだけ手紙を宛てるなんてよっぽどよ。しかも絶対にこの先は読んではダメ、と書いて便せんの四方にのり付けまでしていたものね。

 でも私はミラーズのジョー君が怪しいと思っていたんだけどなー。
 舞踏会で楽しそうにダンスしていたし、いつも洋服の話をしているしお似合いだと思ったんだけど。

 ふふっ。エリィったらしっかり男の子のハートを射止めちゃって!

 帰ってきたら恋の話もしなきゃだよね。

 よかった。本当によかった。
 エリィが生きていてくれてよかった。
 無事でいてくれてよかった。

 灰色に見えていた世界が、手紙をもらった今では輝いて見えるよ。
 エリィ、すぐに会おうね!
 戦争が終わったら真っ先に迎えにいっちゃうんだから!


   ☆


 私はマックス・デノンスラート。
 エリィお嬢様にはこのウサ耳からウサックスの愛称で呼ばれている。

 ゴールデン家の美しいメイドがグレイフナー二番街に居を構えるコバシガワ商会にやってきて、手紙を渡してきた。私はこなしていた仕事の書類から顔を上げた。

「ウサックス様ですね? エリィお嬢様からお手紙です」
「な、なんですとぉ!!?」

 私は歓喜した。
 生きておられた! お嬢様が生きておられた!
 生きているとは信じていたものの、やはり確証が得られて心の底から嬉しい!
 さすがお嬢様! ただ者ではない!

 メイドが礼をして出て行くと、事務所にいた商会のメンバーが叫びながら集まってきた。みな、一様に笑顔だ。創設者にして出資者のエリィお嬢様が生きている。その事実に両手を挙げて喜んでいる。
 黒ブライアン、おすぎ、ボインちゃん、印刷部隊のメンバー、新しく雇ったスタッフ十数名はグレイフナー王国民らしく、テンション高めに万歳三唱をした。

 だが私は手紙を見て、笑顔を引き締めた。

「みな、静かに。お嬢様からの手紙だ。これはコバシガワ商会への指示書になっているであろう。心して聞くように」

 気持ちのいい返事をして、全員がうなずく。
 私ははやる気持ちを抑えて手紙を開いた。


「やっほーみんな! 元気ぃ!?」


 お嬢様は、どこに行ってもお嬢様だった。


 皆、くすくすと笑っている。


「いや違う! 手紙にこう書いてあるのだ!」


 私は咳払いをして続きへと目を落とした。


「やっほーみんな! 元気ぃ!? 私はいま砂漠の国サンディにあるオアシス・ジェラという町にいるのよ。いずれ帰るから心配しないでね。さて、早速で申し訳ないんだけど、本題に入るわ。ごめんなさい、ここから先は仕事モードで書くわよ」

 私は集まっているメンバー全員に目配せをした。皆が黙ってうなずく。

「私がいなくなったことでコバシガワ商会は運営の方針があやふやになっているはず。現在の商会は『雑誌制作会社』という名目で『ミラーズ』の洋服の販売サポートをする、という位置づけになっている。雑誌が売れる→服が売れる→雑誌のブランドが上がる→また雑誌が売れる、というのが好循環の簡単な流れ。今ここで雑誌の最新号を作らなければこの流れは完全に途切れてしまうわ。簡単な骨組みを書いておくので、いますぐ第二弾の作成にとりかかってちょうだい!」

 うおおおおっ! 全員が叫んだ。
 この手紙が来るまで、我々はミラーズのサポートばかりしていたのだ。
 自分たちの手で何かを作りたくてうずうずしていた。

 次のページに雑誌第二弾の骨組みが書かれていた。


――――――――――――――――――――――

 表紙
 『Eimy』秋の増刊号
 (秋っぽいフレーズとエイミー姉様の可愛い写真)

――――――――――――――――――――――

 1、2ページ
 目次と広告

※広告とは他店の宣伝をする代わりに費用をもらうこと。
 今後はこの広告料が莫大な利益になる。
 口外禁止。
 載せる広告は我々が売りたい化粧品がいいと思う。
 ウサックスは良さそうな化粧品店を買収して子会社化しておいて。
 実験的に目次ページと背表紙に入れるわ。

――――――――――――――――――――――

 3、4ページ
 今期一押しの服。

――――――――――――――――――――――

 5、6、7、8ページ
 着回しコーデ特集。
 ジョーが知っているから詳しく聞いて。

――――――――――――――――――――――

 9、10、11、12ページ
 今期流行る服。(流行らせる服)
 タータンチェック特集。
 モデルをかえてちょうだい。
 エリザベス姉様にお願いして。恥ずかしがってダメなら他を当たって。

――――――――――――――――――――――

 13、14、15、16ページ
 防御力が高く、なおかつ可愛い服特集。
 ジョーが知っているから聞いて。
 無理そうならなしで。

――――――――――――――――――――――

 17、18、19、20ページ
 恋愛特集。
 ボインちゃん、フランク、頑張って。

――――――――――――――――――――――

 20~26ページ
 靴、小物、アクセサリ、便利な日用品などの紹介。

――――――――――――――――――――――

 27、28ページ
 エイミーの日常という題でインタビュー。

――――――――――――――――――――――

 あとはみんなのアイデアにまかせるわ!
 齟齬がでたり順序で違和感があればどんどん変えてちょうだい。
 これはあくまでも骨組みよ!

――――――――――――――――――――――


 私は次々に湧いてくるインスピレーションと、費用やそれに対する効果を瞬時に計算し、雑誌が創刊されるまでの具体的な時間を脳内で逆算する。

 この手紙が書かれてから二ヶ月が経過していることから、秋の増刊号ではなく、秋冬号にしたほうがいいのではないか、という発想が頭をかすめる。だが、徹夜でやれば二週間でいけるのではないか?

 夏服の雑誌が出て、秋服が出ないなどおかしい。
 世の女性は雑誌を待っているはずだ。よし。


 私は突貫で秋の増刊号を制作することを決断した。


 指示書にはこんなことも書かれていた。


――――――――――――――――――――――

 ウサックスとクラリスやることリスト(優先順位なし)

 1、グレイフナー六年生の火魔法、上級の使い手をコバシガワ商会に就職させること。(“複写コピー”不足のため)
 2、優秀な人材を確保(多岐にわたる。使えそうな人間は採用)
 3、年齢層が高めの女性誌の制作着手。ジョーと連携すること。
 4、武器防具雑誌の制作着手。合わせて魔物写真の掲載。
 5、男性誌の制作着手。
 6、各社の反応を見つつ、上記掲載をした際の広告収入の予想を立てる。(どのくらいの効果があるか予想が付かないため、調査し、具体的に数字で報告)
 7、他商会への牽制。(方向性が合えば契約を交わして引き込む)
 8、すべてを迅速に。内容よりスピード。真似される前にすべての雑誌創設がコバシガワ商会であることを世に見せつける。

――――――――――――――――――――――


 いやはやこれはまた……とてつもない分量の仕事だ。
 クラリス殿に手伝ってもらわなければ到底無理だな。

 雑誌第二弾を今か今かと待っていた面々は、すでにせわしなく行動を開始していた。全員が持ち場へと消えていく。

 忙しくなる。これは忙しくなるぞぉ!


    ☆


「ミラーズ専属デザイナーのジョー様ですね?」
「いま、忙しいからあとにしてくれない?」

 あまりの忙しさから、勝手に作業場へ入ってきた誰かにそう言った。
 仕事がまったく終わらない。どんどん新作を作って販売する。秋物、冬物、靴、小物、バッグ、手袋、帽子、とにかく頭にあるデザインを現実の物にしていく。

「エリィお嬢様からお手紙です」
「え? 誰からって?」
「エリィお嬢様からです」
「え……エリィからッ!!?」

 ウソだろ、と思って俺はペンを放り投げて素っ頓狂な声を上げてしまった。
 それもつかの間、エリィが生きているとわかると、身体が熱くなり、全身が喜びに反応して歓喜に変わる。

 連絡が遅いぞ、あのおてんばめ!

 俺は自分が感じている喜びが小っ恥ずかしくて、心の中でエリィに向かって毒づいた。

「こちらです」
「あ、どうも」

 メイドが手紙を渡して帰ると、俺はすぐ手紙を読んだ。


『ハロハロー! ジョー、ミサ、元気してるぅ!?』


 ……あのおてんばお嬢様はどこに行っても変わらない。
 俺はそっとほくそ笑んだ。
 相変わらず変なやつ。なんだよ、はろはろーって。

『私はいま砂漠の国サンディにあるオアシス・ジェラにいるわ。ジョー、ミサ、心配かけてごめんね。ということでミラーズの今後について書いていくわ』

 説明が少ない!
 これだけ心配したのにこれはない気がする。あ、でも俺とミサだけに書いてるわけじゃないもんな。色んな人に手紙を書いているから仕方ないのか。

『ミラーズは今、攻めの一択。商品を真似た二番出しの店が続々と出てくるわ。グレイフナー大手の布屋や裁縫店はミサが独占契約をしているからある程度の時間はかせげるでしょう。たぶん、あと三、四ヶ月ってとこかしらね。どこまでブランド力を高めるかが重要よ。ミラーズに必要な行動はおおざっぱにこんな感じね。
 1、店舗拡大(急務!)
 2、生産ライン拡大
 3、秋物、冬物作製
 4、姉妹ブランド立ち上げ
 5、男性ブランド立ち上げ
 6、防御力が高いお洒落服の開発
 こんな感じかしらね。やっぱり近くで見ていないと流通とか売れ行きがなんともいえないけど、この六つは最高速度でやりとげないといけないわ。コバシガワ商会にも簡単な指示書を送っているから、私が帰ってくるまで頑張ってね。もっと書きたいことがたくさんあるけど、時間がなくなってきたわ。配達の便がいっちゃうのよ。あとジョー。他の商会から引き抜きやちょっかいが入ると思うけど、気にせず我が道を突き進むのよ。ミサ、変な奴に騙されないで。最後に信じるのは自分の直感と相手の人となりよ。それじゃあ会える日を楽しみにしているわ。チャオ』

 エリィはすごいな。遠くにいてもみんなのことを心配していた。俺も頑張らないとな。

 それにしても、チャオってどういう意味があるんだろう。
 帰ってきたらエリィに聞いてみないとな。

 店舗拡大はミサが奔走しているから問題ない。秋物はいま俺がバリバリ作っている、大丈夫だ。あとは男性ブランドかぁ…。ついにこの日がやってくるとはな。アイデアがたくさんあってやりたかったんだ。

 俺は今までエリィのことを忘れるために仕事に打ち込んでいた。
 休んでいると、思い出してしまうからだ。彼女が死んでいるかもしれない、という悪い予感が頭を何度もよぎってしまった。

 でも今は違う。彼女のために俺は仕事をし、デザインをし、洋服を作ろう。
 エリィが帰ってきたとき、だらしないわね、と笑われないようにこのミラーズを大きくし、グレイフナーに新しい流行の風を最高速度で吹かせてやる。そして再会したら言ってやるんだ。

 あの舞踏会で言えなかった、あの言葉。
 ずっと胸の内にしまいこんでいた自分の気持ちを。
 だから俺はもう忘れるためなんかに仕事はしない。


   ☆


「お坊ちゃま、お坊ちゃま」

 オレは庭で振っていたバスタードソードを止め、ああん、と振り返った。

「お客人です」
「あとにしてくれ」
「いえ、火急の用だと」

 使用人が連れてきた奴はやたら美人のメイドだった。オレを見て一礼すると「スルメ様ですか」と言いやがる。

「誰がスルメだよ誰が!!」
「お名前が違いますか?」
「ちげえよ! 盛大に間違ってるよ!!」
「ですがエリィお嬢様がワイルド家の長男様がスルメ様だと…」
「なにっ?! エリィ? ひょっとしてエリィ・ゴールデンのことか!」
「はい。ゴールデン家のメイド長、ハイジと申します。今日はお嬢様からの手紙をお渡しに参りました」
「なんだぁ!? てえことはあいつ、生きてんのか!」
「はい。もちろんでございます」
「……………はっはっはっは! やっぱりな! あいつはこんなことでくたばるようなタマじゃねえ」

 オレはなんだか可笑しくなって大笑いした。ガルガインやハルシューゲ先生、ついでに亜麻クソたちとエリィ・ゴールデンがどこでどうなったか話し合ったりもしたが、結論は「ま、生きてるっしょ」ということで片付いた。みんな心配はしていた。でもどう考えてもあいつが死んだとは思えなかった。当然、一緒にいるであろう細っこいアリアナ・グランティーノも無事だろう。
 あのデブっちょ……おっと、レディには禁句だったな。あいつ、今頃どこかで知らねえ誰かに変なあだ名でもつけているんだろう。

「では私はこれで」

 美人のメイド長は手紙を手渡すと、そっけなく帰って行った。
 愛想のねえメイドだな。
 だが…めっちゃ可愛い。あいつが帰ってきたら紹介してもらおう。

「で、なぁんであいつがオレに手紙を?」
「スルメ坊ちゃま、恋人ですか?」
「ちげえよ! 全然そんなんじゃねえよ! つーかさらっとあだ名使うなまじで。次言ったらクビだ!」
「ですがこのあだ名、言い得て妙、です」
「料理評論家みてえにドヤ顔でうなずいてんじゃねえ! ったく…」

 オレが猛烈なツッコミを入れたらさっさとどこかへ行ってしまった。うちのメイドも愛想がねえ。

 気を取り直してオレは手紙を読むことにした。バスタードソードを庭の地面にぶっさして、四方をのり付けされた手紙を丁寧にやぶる。細けえ作業は苦手だ。


『開封厳禁・スルメのみ閲覧可』


「なーにがスルメのみ閲覧可だよ」


 オレは独りごちて次のページをめくる。


『ボンジュール、スルメ! 私がいなくて寂しいでしょ。大丈夫、私は元気よ。いまオアシス・ジェラという町にいるわ』

 ボンジュール? 何語?
 意味がわからねえ。
 あいつの言うことにいちいち反応していたら疲れるだけだな。

『戦争のせいでグレイフナーへ帰れないのよ。終わり次第そっちに帰るから安心してちょうだい。それで本題に入るけど、あなただけに手紙を送ったことには理由があるわ。ほら、憶えてる? あなたにモテる方法を教えるって話。あれを簡単にここに書き記しておこうと思うの。もし私がいない間に運命の相手が現れて全然ダメでしたーってなったら嫌でしょ? 恋愛の師匠としてその辺はきっちりしておきたいの』

 オレは手紙に力を込めた。
 あいつ憶えていやがった!
 最高だ! やはり持つべきものは友だな!

『まずあなたがどうしてモテないか、それにはいくつか理由があるわ。言っておくけど別にあなたのことを卑下したりしていないわ。大貴族の長男だし、顔は味のある顔だし、魔法も結構上手いしモテないほうがおかしいのよ』

 オレはにやっと笑った。
 まあな。オレはいい男なんだよ。

『ずばり言うわ。あなた、人の話を聞かなすぎるわ。特に女の子と話しているとき、一方的にしゃべっているの。あとは会話の際、次に話す言葉を決めているでしょう? あれもよくないわ。会話が成立しているようでしていない感じ、女の子はああいうのすごく敏感なのよ。学校とか舞踏会であなたのことちょこちょこ気に掛けていたんだけど、実は結構緊張しているんでしょ』

 ギクッ。
 な、なぜバレている。それにオレが緊張して次の言葉を決めていることをどうして…。こ、こいつ天才かッ!?

『もっと自分に自信を持ってちょうだい。あなたはやればできる男じゃない。女の子がしゃべっているとき、全部話し終わるまで待ってやるか、ぐらいの大きい気持ちでいればいいのよ。すごく簡単でしょ? あと言いにくいんだけど、友人として言っておくわ。あなた舞踏会のとき……その……ちょっと鼻毛が出ていたわ。すぐに言えばよかったんだけどごたごたしていて言いそびれてしまったのよ』

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 オレは恥ずかしさのあまり手紙に顔をうずめて地面に叩きつけた。

「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール! 火矢ファイアアロー! 火蛇ファイアスネーク! ファイアボール!」

 これでもかと庭にある的に魔法を撃ち込んだ。
 なんてこった。まさかそんなことが!
 確かにしっかり処理したはずが! くっそ! なんて恥ずかしいんだ!
 ぐおおおおおおおおお! 時間よ! 時間よ舞踏会の日に戻ってくれ!

 バスタードソードをめちゃめちゃに振り回して、なんとか心を落ち着ける。
 オレは手紙を拾って皺を伸ばし、続きを読むことにした。

『誰にも言っていないから安心してちょうだい。今後、そんな致命的なミスがないように、私のほうで確認と心構えのリストを作っておくわ。時間がないから簡易版だと思ってね』

 なんだ、あいつは女神なのか?
 優しさを、温かさを感じる……。
 オレはしわしわになった手紙のページをめくった。

『スルメおでかけチェックシート(オッケーだったら印をつける)

 □女の子との待ち合わせ場所と時間に間違いがないか
 □シャワーを浴びたか
 □歯を磨いたか
 □鼻毛は出ていないか
 □財布は持ったか
 □ハンカチは持っているか
 □女の子が好きそうな話題を三つ準備しておく
 □しゃべりすぎない
 □自分が楽しくなければ無理をしてデートを継続しない。時間は大事
 □ドンと構える
 □何かあったら守ってやるという気持ちでいる
 □女の子を最低一回は褒める(できたら)

 とまあ簡単に書いたわ。黒ブライアンに“複写コピー”してもらって使うか、書き写して使ってちょうだい! いい女、ちゃんとつかまえるのよ。それじゃシーユーアゲイン~』


 なんだよシーユーアゲインって。意味がわからねえ。


 そんなツッコミを入れつつ、オレはこのチェックシートと手紙を大事にポケットにしまった。






 ―――その頃、オアシス・ジェラでは…。



   ○



「はいあーん」
「あーん…」
「どう?」
「おいひい……」

 新しいおにぎりの具『ツナマヨ』の完成だ。
 アリアナの尻尾がぶるんぶるん揺れている。

「ほっほっほっほ。これはなかなかに美味いのぉ。してアリアナ、メインウエポンは決まったかの?」
「うん、これにする」

 おにぎりを頬張りながら、彼女はタンスの奥のほうに入って埃をかぶっていた鞭を持ってきた。

「鞭? どうしてそんな使いづらそうな物にするの?」
「ポカじいをおしおきするの…」
「え、わし?」
「エリィのお尻さわるから…触ったらこれで…」

 そう言ってアリアナは思い切り鞭を振る。
 パシィン、と床が叩かれていい音が鳴った。
 なぜだろう、もうすでに様になっているんだが…。

「ほっほっほっほっほ、どうやらおぬしに合っているようじゃの」

 じいさん、余裕ぶっこいているが冷や汗が出てるぞ。
 アリアナが強くなればなるほど俺の尻が触れなくなる、という魔の方程式だ。


「エリィちゃーん! アリアナちゃーん! 賢者さまぁーっ!」


 夕飯を食べているとジャンジャンが血相を変えて家に飛び込んできた。


「一緒に町まできてほしいんだ!」


 俺たちは顔を見合わせて、ジャンジャンの話を聞いた。

エリィ 身長160㎝・体重71㎏(±0kg)


日にちが経過していないので体重は変わっていません。
+注意+
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