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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第3話 イケメン、特訓、砂漠の賢者

つ・・・ついに・・・・・!!


ということで地図を作成致しました。
位置関係の参考にしてください。


挿絵(By みてみん)

「冗談はさておき、じゃ」
「さておきじゃないわよ! なんでそんなすぐ復活するのよ! レディのお尻を触るとか淫行罪よ!」
「まあまあ、柔らかい尻で固いことを言うでない」
「ちょいちょい下ネタ入れるのほんとやめて」

 懲りずに俺の尻を触ろうとするじいさんの手を、ベシッと叩いた。

「証拠…証拠を見せて…」

 アリアナがスケベじじいに鋭い目線を向ける。

「あなたが砂漠の賢者だっていう証拠…」
「ほう、証拠、ねえ」

 確かにアリアナの言うとおり、落雷魔法の呪文メモを持っているだけで、砂漠の賢者ポカホンタスだ、という証明にはならない。

「そうだ! 貴様のようなスケベなじいさんが賢者ポカホンタスなはずがない!」

 ジャンジャンが怒り狂って杖を向けた。
 伝説がスケベだった、とか悲しいよな。

「そうじゃのぉ……まあとりあえずおぬしら全員本気になってもわしに勝てんよ」
「な、なんだと!」
「若いのぉ」
「よしわかった。その言葉、後悔させてやる!」

 いきり立ったジャンジャンが飛び退いて杖を構えた。
 そしてなんの躊躇もなく水の上級“鮫背シャークテイル”をぶっ放す。
 水の刃が地を這い、じいさんに迫る。

「あぶない!」
「あっ……!」

 さすがにやりすぎだ!
 俺とアリアナは思わず両手で口を押さえた。

 亜麻クソの得意技と同じだが、威力は断然ジャンジャンのほうが上だ。魔力が相当に練り込まれている。でかい岩ぐらいなら簡単に真っ二つだ。

 スケベじいさんは朝刊を読むおっさんのようにあくびをして“鮫背シャークテイル”をよけようともしない。
 鋭利な水の刃がじいさんの身体を切り裂く――!


―――ボシュッ


 そう思ったが、“鮫背シャークテイル”はじいさんにぶつかると同時に水泡となってかき消えた。

「えっ?」

 唖然とするジャンジャン。
 魔法が固い物質にぶつかったかのように霧散した。
 どうなってんの?

「ほれほれどうした。そんなもんかい」
「くっそぉ!」
「ほっほっほっほ、若いのぅ」
「水に潜む邪悪なる牙よ、敵を穿て“鮫牙シャークファング”!!」

 ジャンジャンの杖から、鮫の牙に似た、回転する水の弾丸が発射される。
 前方へ“鮫牙シャークファング”が滑るように飛んでいく。

 じいさんは寝起きのおっさんみたいにぽりぽりと尻をかいて動こうとしない。

 下位の上級。下位魔法では最強クラスの魔法だ。
 あんなのを食らったら散弾銃で撃たれたみたいになっちまう!


―――ボボボボボシュゥ


 “鮫牙シャークファング”はじいさんに当たるとただの水になり弾け飛んだ。


「へっ?」
「青年よ、ちと修行が足りんのぉ」
「ば……化け物か。高ランクの魔物ならまだしもただのじいさんが…」
「ほれ、そんなことで動揺しとったら腕利き冒険者にはなれんぞ」

 そう言って、じいさんは右指をジャンジャンへ向ける。
 するとバスケットボールほどの“サンドボール”が出現し、撃ち出される。

「何を偉そうに! ただの“サンドボールじゃ――!?」


 ―――ドドドドドドドッ!


 うおおっ! すごっ!
 数が尋常じゃねえ。じいさんの指からは絶え間なく“サンドボール”が撃ち出される。機関銃さながらの波状攻撃。
 ジャンジャンは初撃を魔法で防いだが、あとは砂漠を全力で走って “サンドボール”から逃げる。

「ちょっと! なぜ! 連続! で! 魔法を!」
「ほれほれ。よけるだけじゃ倒せないぞぉ」
「いや! 待ってくれ! あの! ちょ! あっ!」
「よく見てよけるんじゃ。あーだめじゃのぉ~」
「タンマ! ちょい! あっ! あああああッ!」

 発射のスピードをさらに上げるじいさん。しかも、たまに“ファイヤーボール”を混ぜるおまけつき。ジャンジャンはついによけきれず、高速で飛ぶ岩の塊“サンドボール”にぶち当たり、五メートルほど吹っ飛んだ。

「……どうやって……そんな連射」
「それでも冒険者かのぉ。“サンドボール”ぐらい気合いでなんとかせい」
「うっ……じいさんあんた……」
睡眠霧スリープ

 突然、アリアナが魔法を唱えた。じいさんの顔面が“睡眠霧スリープ”の霧で覆われる。
 彼女の得意魔法“睡眠霧スリープ”の直撃。
 じいさんはすぐに夢の中だな。

「あれくらいなら私たちも練習すればできる…」
「じいさんのことちょっと見直したのに」
「あっけない…」

 アリアナが、魔法の連射は修行次第で会得できる、と言っている。実際に魔闘会であれぐらいの連射をする貴族を見たことがあるらしい。

 俺とアリアナはじいさんを一瞥する。
 そろそろ眠りの効果で倒れるだろう。

「ほっほっほっほ…」

 だがじいさんは倒れるどころか、黒い霧の中で笑い出した。
 不気味に思い、俺とアリアナは咄嗟に飛び退く。

「そんな弱い魔法はきかんぞぉ」

 そう言ってじいさんが腕を一振りすると“睡眠霧スリープ”が一瞬のうちに消え、老人とは思えない軽快な動きでバク宙をし、俺たちと距離を取った。

「たまには人と闘うのも悪くないのぉ」
「どうやって…!」
「わからない! わからないけどタダ者じゃないわ!」
「ただのスケベじゃない……?」
「アリアナ、ジャンジャンの敵を取るわよ。あとお尻のうらみッ」
「オーケーエリィ…」
「お、やる気になったかの。ええのぅええのぅ。強気な女はええのぅ」

 俺たちとじいさんの距離はざっと十メートルある。これは“落雷サンダーボルト”の的にしてくれと言っているようなもんだ。

「アリアナ、足止めを」
「うん…」
「ほれ、早く仕掛けてこい」
「後悔するわよ!」
混乱粉コンフュージョン


 アリアナの杖から鱗粉に似た闇魔法“混乱粉コンフュージョン”が大量に吹き出す。消火器から出る煙の十倍ぐらいの勢いと量だ。


 俺は一気に魔力を練り上げ、スケベじじいに照準を合わせ、指を振りおろした。


落雷サンダーボルト!!!」


――バリバリィィッ!


 空気が切り裂かれ、強烈な落雷がじじいを襲う。
 先ほどまで彼が立っていた砂地が“落雷サンダーボルト”の衝撃で四散する。


 これじゃいくら強くたって助からないだろう。
 まあ所詮こんなもんだ…。


―――え!!!?


「ほっほっほっほ、さすが複合魔法。だが遅い」


 “混乱粉コンフュージョン”を吸いながら、じいさんは飄々と笑っている。近所のスーパーに買い物に来て偶然会いました、みたいな緊張感のなさだ。
 なんなんだよこのじじいは!
 普通なら混乱で正気を保てないはずだ!


浮遊レビテーション


 じいさんが気球のように、ふわっと浮き上がった。


「ほい“竜巻トルネード”」


 右腕を振ると、俺たちとじいさんの間に直径五メートルほどの竜巻が突如として現れ、“混乱粉コンフュージョン”を巻き上げながら地面の砂をすべて吸い込まん勢いで回転し、ゆっくりとこちらに向かってくる。おそらく上位魔法だ。

 突風で動けねえ!

 アリアナが俺にしがみつく。
 このときばかりは体重が重くてよかったと思う。
 少しでも気を抜けば吹っ飛ばされる。

 アリアナをかばいながら、俺は“竜巻トルネード”に向かって“電衝撃インパルス”をぶっ放した。
 ギャギャギャギャギャ、という悲鳴のような真空から起こる摩擦音。
 地面と水平に“電衝撃インパルス”が突き進み、“竜巻トルネード”とぶつかると、割れ物を満載にしたトラックが壁に激突するような破裂音が響いて両者が霧散した。

「ほっほっほっほ、オリジナル魔法じゃな。おもしろい」
「くっ……」
「もう終わりかの?」
「まだよッ!」


 もう一発“電衝撃インパルス”!!!!


 ギャギャギャギャギャ!


 けたたましい音が周囲をつんざく。雷光が一筋の軌跡を描き、じいさんに直撃して放射状に電流がはじけ飛ぶ。
 刹那の轟音。砂漠に訪れる静寂。
 さすがにアレを食らってただで済むはずがない。


「……ほっほっほっほ。さすがに効くのぉ」
「は?」


 ちょっとちょっとこのじいさんまじでやべえ!
 雷が直撃で無傷とかどうなってんだよ!
 おかしいよこいつ! 変態! 変態じじい!


落雷サンダーボルト!!」


 俺はすぐさま魔法を唱える。
 稲妻が砂漠に轟き、じいさんを狙ってまっすぐに落ちた。


「当たらんよ」


 ドッヂボールの球をよけるかのような気軽な仕草。
 老人ということを疑う反応速度でじじいは落雷を回避する。


落雷サンダーボルト! 落雷サンダーボルト! 落雷サンダーボルト!」
「あ・た・ら・ん・よ」


 俺がやけくそになって連発する“落雷サンダーボルト”はかすりもしない。
 アリアナも同時に魔法を唱える。


「ほっほっほっほ、これはいい運動じゃ」
落雷サンダーボルト!」
「ウインドストーム」
「ほい」
落雷サンダーボルト!」
「ファイヤーボール」
「もっと速く」
落雷サンダーボルト!」
腹痛アブドミナルペイン
「もっと魔力を循環させい」
落雷サンダーボルト!」
狂戦士バーサク
「遅いぞぉ」
落雷サンダーボルト…」
「ウインドカッター……」
「どうしたどうした」
「はぁはぁ……」
「ふぅふぅ……」


 俺とアリアナはいったん距離を取った。
 ふたりとも完全に息が上がっている。
 このじじい、中身は全然じじいじゃねえ。息一つ切らしてねえぞ。
 まじで化け物だ。


 こうなったら唱えるのは“雷雨サンダーストーム”っきゃねえ。
 当たらねえなら範囲攻撃で逃げられないようにすればいいだけの話だ。このじいさんなら死にはしねえだろ。

 俺は自分の目の前に雷が無限に落ちるイメージで魔力を練りこむ。
 アリアナが詠唱を援護するため呼吸を整えてから“ウインドカッター”を連発した。威力より手数だ。

「ほっほっほ、ぬるいぬるい」

 じいさんは不可視の刃を食らってもびくともしない。そよ風にあたっているかのようだ。

「はぁ…はぁ……エリィこれ以上は…」


 アリアナが魔法の連続使用で息が上がって膝をつく。


「いくわよッ」


 俺たちは力を振り絞って、飛び退いた。


 いっけえええ!


雷雨サンダーストーム!!!!!!!」


 ガガガガガガガガガッバリバリバリィィィッ!!!!!


 じいさんを中心とした半径二十メートルに一発で人を黒こげにする威力の雷が入り乱れ、強烈なエネルギーで範囲にあるすべての物体を破壊しようと周囲を蹂躙する。地形が変わるほどの衝撃と破壊が起こり、砂埃で完全に視界がふさがれた。

「はぁ…はぁ……これで終わったでしょ」
「ん……」

 静かになった砂漠に風が吹き、砂をゆったりと押し出していく。
 やがて“雷雨サンダーストーム”の被害にあった地点が、徐々に見えてくる。


―――――――!!!!!!


「ほっほっほっほ、普通の魔法使いなら死んでおるのぉ。あぶないあぶない。ほっほっほっほっほ」
「へっ?」
「うそ…」

 俺とアリアナは驚愕し、魔力切れ寸前でがっくり膝をついた。

「だらしないのぉ。ほれ“再生の光”」

 俺たちを淡い光が包み込む。
 魔力がほんの少し戻った感覚があり、体が軽くなった。

 続いてすっかり存在を忘れていたジャンジャンの体を白く美しい光が包み込む。

 光の上位、白魔法だ。
 初めて見た白魔法はきらきらと輝き、神々しかった。
 つーかじいさん、鼻歌交じりに上位魔法を使うとかやべえ。

「お、おお…。全然痛くない。アバラが何本か折れたはずなのに」

 ジャンジャンが起き上がり、神妙な顔をしてこちらにやってくる。まるで上司に叱られた部下のようだ。

 俺とアリアナは、落雷魔法をあれだけ食らってピンピンしているじじいに尊敬の目を向けざるを得なかった。
 いや、まじで人間じゃねえよ?
 どういう原理なんだよ。教えてくれ。
 まじで教えてくれッ!

「あなた本当に砂漠の賢者……なの?」
「だから言っておるじゃろ、砂漠の賢者ポカホンタスじゃと」
「さ、さ、先ほどは大変失礼をいたしましたァッ!」


 きれいなジャンピング土下座を決めるジャンジャン。


「ポカホンタス様! 俺を、弟子にしてください!」


 彼は決意を固く、顔を上げる。


 じいさんは重々しくうなずき、ウム、と声を出す。
 ジャンジャンは歓喜の表情を作った。


「やじゃ」
「え?」
「やじゃよ男の弟子なんて」
「え、え? 今さっき……ウム、と…」
「しかしもヘチマもない。弟子にするのはエリィとそこの狐人のお嬢ちゃんじゃ」
「えっ!?」
「ん……?」

 がっくりうなだれるジャンジャン。
 急に弟子入りさせる、と言われて俺とアリアナは驚いた。
 是非とも弟子入りはしたい。アリアナを見ると、こくこくとうなずいている。

「ちなみにわし、今まで弟子を取ったことないぞ」
「そうなの?」
「ん…?」
「おぬしらとてつもない魔力を内包しておるくせに魔力制御が下手すぎる。これは放っておけん。特にエリィ。おぬしには落雷魔法を授けた責任もある」

 ちょいまて。
 急に週刊少年誌のテコ入れ回みたいなこと言われても困るんだが…。

「エリィは魔力の循環が下手。狐人のお嬢ちゃんは――」
「アリアナ・グランティーノ…」
「いい名じゃな。アリアナは杖に頼りすぎじゃ」
「今なんて? 魔力の循環が下手?」


 エイミーにもちょろっと言われたが、俺ってそんなに魔力循環がへたくそなのか?
 自分じゃ全然わからない。
 あんだけ複合魔法使えるし、結構うまいほうなんじゃねえの、俺。


「おぬしが太ってるの、魔力のせいじゃからな」
「―――ッッ!?!?」

 な、な、な、な、な、な、なんだとォォッ!
 どういうことだじじい!
 突然、核心に触れるようなこと言うなよ!
 心の準備ぜんぜんしてなかったよ!
 一刻も早く説明プリーズ!

「どういうことなの!!!?」
「魔力が御しきれず、細胞に吸収されてしまうんじゃよ。一般的に知られていないようじゃが世の中の太っちょはほとんどこれが原因じゃ。わしが落雷魔法を教える前、何度ダイエットをしても痩せなかったじゃろ?」
「…た、たしかに」
「ほっほっほっほ、やはり年頃の乙女は皆ダイエットをするんじゃな」

 クラリスが、エリィお嬢様はダイエットを三百回ぐらい失敗してる、とか言ってたよな。俺はてっきりエリィの意思が弱かったから痩せれなかった、と思っていたんだがどうやら違うらしい。まじかー。

「落雷魔法を憶えて魔力がある程度循環するようになったからここまで痩せたんじゃよ。わしと会ったとき、もっと太っていたもんのぉ。あれほど強力な魔法を何度もぶっ放せばいい感じで魔力が消費されるからの」
「じゃ、じゃあ魔法を使えば使うほど痩せれるってこと?!」

 それはいい!
 俺は昼夜問わず“落雷サンダーボルト”を使い続けよう!
 はっはっは! 何て簡単なんだ!

「“循環”と“制御”が下手なのじゃ。上手くならない限り、自らの魔力を自由自在に操れんし、一生痩せんの」
「一生!? 一生痩せないっていうの!?」
「おぬしこのままダイエットしていてもずっと今と同じままか、痩せてもほんのちょっとじゃったぞ。よかったの、わしに出逢えて。ほっほっほっほっほっほ」
「どさくさに紛れてお尻を触らないでちょうだいッ!」
「けちけちするんじゃないわい。減るもんじゃあるまいし」
「減るのよ! レディのお尻は減るのよ!」
「えっちぃのはダメ…」

 アリアナがわりと本気で怒っている。
 じじいはそんな突き刺さる目線を気にせず話を続ける。ついでに尻を触ろうとする。マイペースすぎるだろ。

「ジャージャー麺とか言ったなおぬし」
「ジャン・バルジャンです賢者様!」

 ジャンジャンが嬉しそうに名乗る。

「そうか。ではジャンよ、この子たちは今からわしが預かる。基礎ができるまでは会えんものと思ってくれ」
「け、賢者様! 俺も弟子入りを!」
「だめじゃ。おぬし普通すぎ。わし、興味なし」
「ぶひいいいいぃぃっ」

 あまりのショックで豚のように吼えるジャンジャン。
 キャラ崩壊してるじゃねえか。

「ねえ賢者ポカホンタス。基礎ができるまでってどれぐらい?」
「エリィ、アリアナ、わしのことはポカじいと呼んでくれい」
「わかったわスケベじい。で、どのくらいのスパンになりそうなのよ」
「ポカじいじゃ! ポ・カ・じ・いッ!」
「わかったわエロじい」
「おしりさわっちゃダメ…」
「呼んでくれんと弟子入りはなしじゃ」
「ええ~っ」
「むぅ…」

 子供のようにじいさんはそっぽを向いた。
 くっ、ここは交渉の余地がない。完全にイニシアチブを取られてしまっている。
 アリアナを見ると、どうする、という目をしていた。
 俺は観念して口を開いた。

「………わかったわよ、ポカじい」
「ポカじい……」
「ウム! ウム! それでこそ我が弟子たちじゃ!」
「だからどさくさにまぎれてお尻さわらないでぇぇぇぇぇ!!」
「別にええじゃないか」


 お尻から“電衝撃インパルス”!!!!!


「減るもんじゃジャンババババババババッバババラバラバヤァッッ!」


   ○


「とまあ冗談はさておき」
「さておきじゃないわよこのスケベ!」
「めっ……お尻さわっちゃめっ……」
「あ、ジャン、おぬしもう帰ってええぞ」
「そんなああああああッ」
「ポカじい、あまりジャンジャンをいじめないでちょうだい」

 そんなこんなでスケベじじいの家に向かうことになった。今日から棲みこみで稽古をつけてもらえるらしい。

 ジャンジャンにはサンディとパンタ国の戦争の経過を伝える連絡係になってもらい、戦争が終わった場合すぐさま知らせてくれる手筈になった。じじいの話では二カ月は基礎訓練になるそうで、しっかり魔力の土台を作らないと強くなれないと言われた。

 二か月…二か月か。
 なげえな。グレイフナーがどうなっているか心配でしょうがねえ。
 それに孤児院の子供たちがめっちゃ気になる。
 ついでに、ジャンジャンとコゼットの恋もな。

 でもまあ、強くならないとな。
 強くなきゃすべての計画、報復は成り立たない。
 伝説の賢者に弟子入りとか滅多にないチャンスだし、ここはこの機会を最大限に活かそう。グレイフナーに帰るのも、孤児院の子供たちを探すのも、ひとまずはお預けか。


「ねえ、どうして“落雷サンダーボルト”が直撃しても平気だったの?」


 じいさんの家へ行く道すがら、俺は疑問を口にした。


「直撃はしとらんの」
「え? どういうこと?」
「よけたのじゃよ。オリジナル魔法はちょっと食らったがの」
「雷をよけるって人間業じゃないわよ…」
「木魔法の中級“豹の眼(レパードアイ)”という魔法のおかげじゃな。動体視力と反射神経を増幅させる支援効果で反応スピードを上げ、“身体強化”で素早く動く、というタネじゃ。こんな風にの」

 じいさんはつま先で地面をトントン叩くと、一気に右足を踏み込んだ。
 砂が後方へ蹴られ、じいさんが一瞬にして十メートルほど前方へ跳んだ。そしてバックステップし、すぐ元の位置に戻ってきた。

 はやっ!
 人間の動きじゃねえええ。

「こんな感じでの、“身体強化”をしながら反復横跳びをすると…」

 じじいが残像して三人に見える。
 これはじじいの残像祭りッ。

「同じ事をできる魔法使いはグレイフナー王国にもいるじゃろうの」
「上の中……詠唱が必要……」
「まあわしぐらいになると詠唱などいらん。ほっほっほ」

 アリアナが心底驚いたのか俺の裾を引っ張ってくる。

「上位魔法は使えるだけでもすごい…」
「たしかにそうよね。エイミー姉様も使えるのかしら」
「使えると思うけど長い詠唱が必要…」

 エイミーすごっ。
 そういや木魔法の中級までいけるって言ってたっけ。

「しかしおぬしら“身体強化”すらできておらんじゃないか」
「できるわけないじゃない。高レベルの魔法使いがやっと使える技でしょ?」

 難易度が相当高いため、グレイフナー魔法学校でも教員で数名が使える程度だ。生徒たちは“身体強化”を率先して憶えるぐらいなら別の魔法を練習したほうがいい、と思っている。就職では身体強化より魔法の数や質のほうが優先される。それが原因だろう。
 にしても学校でちょいちょい“身体強化”の話題があがっても、全く気にしてこなかった。なんとなく流されちまったな。つーかやり方がわからんかったし。

「“身体強化”が使えれば多少の無茶がきくぞい。さっきみたいに落雷魔法が当たってもダメージが軽減されるからのぉ」
「えーっ。それだったらずっと“身体強化”していれば最強じゃないの」
「そういうわけでもない。“身体強化”は魔力を体内で活性化させるから消費が激しい。常時発動していたらすぐ魔力枯渇じゃな。それこそ“落雷サンダーボルト”を食らっても耐えられる強度の“身体強化”なぞ維持は相当の負荷じゃわい」
「使いどころが重要ってことね」
「そうじゃのぉ、使いどころ、というよりどのくらいの魔力を込めるか、が重要じゃな。微弱に流しておけば“サンドボール”や“ファイヤーボール”ぐらいびくともせんよ」
「そういうことね」
「どうしてもよけられん強力な魔法を受ける際に、魔力の出力を上げるのじゃ」

 悔しいが、スケベじじいの話はとてつもなくためになった。
 身体強化は魔法の中で唯一どの属性にも属さない技だ。魔法、というより魔力操作の発展型といったほうがいいかもしれない。身体強化しながら魔法の行使はもちろん可能で、じじいいわく、それができなきゃ話にならないそうだ。

「“身体強化”は『シールド』の必須技術…」

 アリアナが目を輝かせて呟いた。
 よーしよしよしよし。
 とりあえず狐耳をもふもふして癒される。

「ん……入隊試験中に習得させる訓練をするらしい……」

 彼女の話では、身体強化ができれば打撃攻撃に参加でき、不意の一発をもらっても死ぬ確率が低くなる。グレイフナー王国最強魔法騎士団は全団員、身体強化が可能だそうだ。
 団長のリンゴ・ジャララバードはすごそうだな…。

「ということで“身体強化”も会得してもらうからのぉ」
「のぞむところよ!」
「楽しみ……」
「あっ」

 じいさんは何か嫌なことを思い出した、という顔つきになって立ち止まった。

「どうしたの?」
「イカレリウスの奴が黙ってなさそうじゃのぉ……面倒くさいわい……」
「イカレリウス?」
「何でもない。ただの独り言じゃ」
「あ、そうだポカじい。家に着いたら手紙を書いてもいいかしら?」
「国の両親宛かの?」
「そうよ。みんな心配していると思うから」
「ええぞええぞそれくらい。その代わり、尻をひとなでさせてくれぃ」
「いやよスケベ! せっかく尊敬しかけていた気持ちがぶち壊しよ!」
「めっ……」




   ○




 一ヶ月半が経過した。


 俺とアリアナはじいさん特製『深緑草』のベッドから出て、顔を洗う。じいさんの家でくみ上げる地下水は冷たいが、顔が引き締まって美容によさそうだった。


 じいさんの家は居心地が良かった。


 砂漠の蜃気楼に隠された別荘のようなオアシス。二階建てのログハウスの周囲にだけ草が青々と茂り、十メートル進むと何の前触れもなく地面が砂漠になる。砂漠にでかい草のカーペットを引いたみたいだ。


 魔力結晶を原動力にした氷魔法の結界が張られており、じいさんの許可がないとログハウスを見つけることすらできない。一度、許可なく来ようとしたジャンジャンが遭難しかける、というハプニングがあった。


 外に出ると、熱線のような砂漠の陽射しの中、じいさんが水晶片手にランニングをしていた。年寄りの朝が早い、というのは異世界でも通例らしい。


 俺とアリアナは軽く目配せをすると、じいさんのランニングに加わった。

エリィ 身長160㎝・体重71㎏(-10kg!!!)
+注意+
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