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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第三章 砂漠の国でブートキャンプ

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第1話 イケメン、砂漠、オアシス

新章スタートです!
 俺はごとごと揺れる馬車の中で寝転がっていた。
 ポケットに入っているよい子のポチャ夫からもらった手紙を取り出し、広げてみる。手紙の右端に、十字に落ち葉のようなマークが焼き印で押されており、内容は素っ気ないものだった。


『トクトール領主へ

 例の団体を雇ってほしい。
 場所、要件は使者に口頭で伝えさせる。

      ガブリエル・ガブル』


「アリアナ、ガブリエル・ガブルって知ってる?」
「ガブル…!?」

 起き上がって何気なく聞くと、普段めったに感情を出さない彼女がひどく嫌そうな顔をした。大きい目が細められ、小さな口がゆがむ。
 ごめん、アリアナにそんな目で見られたら俺もう生きていけない。

「ガブルはグレイフナーで五百五十の領地を持つ大貴族…」
「五百五十ッ!?」

 グレイフナー王国は完全実力主義で、魔闘会で勝てば領地が増え、負ければ減る。また武力だけでなく、領地を良く治めている貴族も評価の対象に入り、評判が悪ければ容赦なく領地が剥奪された。あのせっかちな国王だったらすぐに「剥奪ッ!」って言うだろう。
 クラリスに聞いた話だと、千の領地を持つ大貴族が二つ。五百以上の領地を持つ貴族が四つ。その六つの貴族がグレイフナー王国六大貴族と言われていた。

 ちなみにゴールデン家の領地は百個だ。
 数が百を超える辺りから、家名が有名になる傾向がある。ゴールデン家がグレイフナーでかなり有名なのは、武よりも、美男美女を代々輩出してきたことが大きいらしい。俺が美人の遺伝子を持っているのは間違いない。デブだけど。

「ガブリエル・ガブルは……わたしの父を殺した張本人…」
「ええっ!?」

 アリアナは苦しそうな顔でそう言った。
 それは初めて聞く話だ。

「狐人の里…グレイフナーの南東にある領地……それを魔闘会で取られた…」

 俺はそっとアリアナの手を握って、うなずいた。
 彼女はちょっぴり頬を緩める。
 だが、すぐ辛そうな表情に戻ってしまった。

「ガブル家は狼人族…。狐人と仲が悪くて、みんなひどい扱いをされた…」
「うん…」
「父は領地を取り返すために…生死不問の『戦いの神パリオポテスの決闘法』で決闘して、負けたの……」
「そうだったの…」
「あの男は……卑怯にも………お母さんを人質にした…………それで、お父さんは……得意の黒魔法を使えずに………」
「なんてひどい…」
「お母さんは妾にされる前に……宮廷の親戚を頼って後宮侍女になった…」

 気づけばアリアナはぼろぼろ涙をこぼしていた。長いまつげが涙で濡れて、しっとりと光る。
 俺は思わず彼女を抱きしめた。
 アリアナはずっとそんな悔しい気持ちを溜め込んでいたのだろう。

「後宮侍女になると四年に一度しか宮殿から出られない…。もう随分お母さんと会ってない……お母さんの手料理…弟と妹が悲しまないように……わたし…頑張って真似した………。でも…本当は…………わたしが……わたしが…………食べたかった………ッ」
「アリアナ、あだじ……」

 うおおおおおっ!
 ちくしょう。涙が止まらねえ。
 ガブリエル・ガブル!
 てめえは俺のアリアナをこんなに泣かせたな!
 ガブ野郎、てめえだけはぜってーけちょんけちょんのギッタギタにおしおきだッ。

「アリアナ、聞いて頂戴。私、絶対にガブガブを許さないわ」
「エリィ……」
「それに平気よ! 弟妹たちはコバシガワ商会とクラリスがどうにかしてくれているわ。実はね、私、常々クラリスに話していたのよ。二人でアリアナの家を助けましょうねって。商会の利益はゴールデン家とアリアナのために使うつもりだったの」
「エリィ…?」

 アリアナはぽかんとした顔になり、顔をくしゃっとゆがめて俺に飛び付いた。

「エリィ…エリィ…!」

 ぐりぐりと俺のふくよかな腹に顔をこすりつけるアリアナ。
 俺は狐耳をやさしく撫でた。

 もっと強くならなきゃな。盗賊に捕まるなんて論外だ。もう二度とあんな失敗はしない。大切な友人のために、俺は強くなる。

「エリィ…」

 にしても……アリアナは可愛いなぁ。
 よーしよしよしよしよし。
 このね、狐耳のもふっとした感じがいいんだよ。
 柔らかくて優しい感触。
 いや~役得役得!
 狐耳、最高! ガブガブ、死刑ッ! 狼人、滅殺!

「アリアナ、何としても早くグレイフナーに帰りましょう!」
「ん……!」


   ○


 そんな誓いをした一時間後、冒険者の兄ちゃん、ジャン・バルジャンがとんでもないことを言った。彼は縮れ毛を短く刈り込んでおり、もみあげが長い。誠実そうなブルーの瞳が、難しい試験問題を見たかのように険しく動いた。

 ジャン・バルジャン、略してジャンジャンだ。

「これは当分、東側へはいけないな…」
「え?! どうして?」
「ほら馬車の外を見てみな」

 御者席に向かい、外を見る。
 物々しい甲冑姿の兵士が長い隊列を作っている。その列は前方の遙か先まで続いており、右側が兵隊、左側が避難民、という流れになっていた。兵隊は東へ、避難民は西へ移動している。

「砂漠の国サンディとパンタ国が戦争をするのは知っているわ」
「奴ら今回はどうやら本気みたいだ。あの荷馬車を見てみろ、戦利品を入れるための空の馬車だ」
「本気だとどうなるのよ?」
「情報封鎖だろうな。サンディとパンタを結ぶ『赤い街道』には通行規制が入るだろうよ。おそらく猫一匹通れない完全な封鎖になる」
「ということは、グレイフナーに帰れないってこと?」
「ま、そうなるな」
「それは困るわ!」

 俺は立ち上がって叫んだ。
 八十キロ越えの俺が急に立ち上がったから、馬車が揺れる。

「雑誌の編集をしなきゃいけないし学校にもいかなきゃいけない、ダイエットも特訓もしないとダメなのッ」
「んー? よくわからないけど、戦争が終わるまではやめたほうがいいぞ」
「ジャンジャン! 他に道はないの?!」
「あるのはサンディと湖の都メソッドを結ぶ『旧街道』ぐらいだ。でもあそこはヘキサゴンクラスの魔法使いが十五人で小隊を組んでやっと通れる道だから、利用するのは現実的じゃない」
「どういうことよ」
「自由国境のど真ん中にある街道だ、魔物の数が半端じゃない。Aランクの魔物もちらほら出現するらしい。あの辺は魔物の吹きだまりみたいなもんだからな」
「全部蹴散らせばいいんでしょ?」
「エリィちゃん、君がグレイフナー魔法学校の生徒なのは知っているがやめておけ。あの街道を通過したいって酔狂な魔法使いが集まるとは思えない」

 ジャンジャンは傷のある顔を険しくした。
 見た目は若いが、歴戦の戦士だと思わせる雰囲気を身に纏っている。
 俺は太い肩をすくめてうなずいた。

「とりあえず二人は俺と一緒に実家へ避難するんだ」
「今ってジャンジャンの実家へ移動しているの?」
「ああそうだよ。落ち着いたら家に帰ってこい、というのが祖母との約束だったんだ」
「へえーーーーーっ、そうだったの。てっきり好きな女の子を待たせているのかと思っていたんだけどぉー」
「な、何を急に! べ、べつにそんなんじゃあないよ!」
「えーっ。だって怪我したわけでもなくまだまだ現役でやっていける強そうな冒険者がひとりで帰郷するって、ねえ?」

 俺がアリアナを見ると、彼女は車内から御者席へ顔を出し、こくこくとうなずいた。ついでに狐耳がぴこっと動く。
 ジャンジャンは顔を赤くした。どうやら予想通りらしい。
 くぅーっ。青春じゃねえか!

「い、いやぁ……ははは…まいったな」
「恋の相談なら私にまかせなさい」
「ん、まあ、そういう、わけじゃないんだけど…」
「認めちゃいなさいよ。こういうのはまず自分の気持ちを整理する事が大事なのよ」
「いやぁ、まあ、そういうわけじゃ……」


   ○


 ジャンジャンが幼なじみの町娘コゼットに恋をしている事を、ついにゲロった。
 周囲がすっかり暗くなる頃だ。「好きなんでしょ?」「いいやそんなことは…」というやりとりを五時間ほど繰り返し、やっとのことで「まあ…そうなんだ」とだけ言った。幼なじみだから仲はいいが、デートすら行ったことがないらしい。
 どんだけ奥手なんだよ…。そんなんで恋人とか無理だよまじで。

「とにかく! 君たちはしばらく俺が保護するからな!」
「あなたほんといい人よね。コゼットもきっとそう思っているわ」
「ちょ! エリィちゃん! あんまりその、コゼットのことは言わないでくれるか?!」
「はぁ~いいわね~。冒険者として一人前になったら告白すると決めて町を飛び出したんでしょ。まるで甘酸っぱい青春映画の世界ねぇ」
「えいが?」
「そう、映画。そんなことより、私たちはすぐにでもグレイフナーに帰りたいんだけど」
「そうはいかないよ。アリアナちゃんが元気になってから帰れる方法を考えよう。まずは健康第一だ」
「それは……そうねぇ…」

 俺はすっかり痩せてしまったアリアナを見た。彼女は眠っている。

「ジャンジャン、またお願いしてもいい?」
「ああ、いいぞ」

 そういって、ジャンジャンは手綱を片手でつかみ、空いた右手でポケットから杖を出し“治癒上昇キュアウォーター”を唱える。アリアナの身体を、光る水泡が包み込んだ。

「もう二、三日すれば良くなるよ。あとはいっぱい食べさせないと」
「ジャンジャンが水の適性でよかったわ。本当にありがとう」
「いいんだよ。女の子を助けるのが男の務めさ」
「あなた…それをコゼットに言いなさいよ」
「なはぁッ! いやぁ…ははは、そうだねえ…」

 こりゃあかん。
 アリアナを助けてくれたし馬車に乗せてくれたお礼もしたいし、しばらく一緒にいて恋のアドバイスをしてあげようかな。

 いつ『赤い街道』が通れるようになるかわからないなら情報集めだ。
 砂漠の国に売られた孤児院の子どもたちの事もかなり気になるし、そっちの情報も集めたい。


   ○


 それから一日して馬車は自由国境を抜け、砂漠の国サンディに入った。荒涼とした平地に赤レンガの『赤い街道』だけがまっすぐ続いている。じりじりと天から陽射しがふり注ぎ、太陽の光が地面に反射して気温を上げる。
 とにかく暑い。まじで暑い。これは痩せる。

 俺は暇だったので馬車内で魔力循環の練習をした。
 暑さで、すぐに大量の汗が出てくる。
 これはいいシェイプアップ。

 道すがら魔物がちょくちょく出てきたが、ほとんどが無視していいレベルの雑魚モンスター。『赤い街道』の赤レンガは魔物が嫌がる土でできており、虫除けならぬ魔物除けの効果が多少なりともあるそうだ。この街道の周辺は魔物が少ないので安全な旅ができる。

 途中、小さな宿場で一泊し、さらに二日ほど野営をすると、ジャンジャンの実家がある『砂漠のオアシス・ジェラ』が見えてきた。着く頃にはアリアナの体調も良くなり、俺と彼女は馬車の外に出て、荒野に出現したオアシスを見ていた。

「きれいね」
「うん…」

 幻想的、と言いたくなるほど美しい景色だった。丘の上から見える町は海に浮かぶ孤島のように茶色い砂漠の世界にぽっかりと浮かび、緑の木々と青い豊かな泉をたたえている。オアシスの町は碁盤目模様に広がり、小さく人々が動き回っている様子が見えた。

「どうだ。すごいだろ」

 ジャンジャンは誇らしそうに胸を張る。
 確かに、この町の出身というのは胸を張りたくなるかもしれない。

「じゃあ行くぞ。ふたりとも、馬車に戻ってくれ」
「いよいよコゼットと再会ね」
「楽しみ…」
「ちょっと! 二人とも会話の端々にコゼットを挟むのをやめてくれないか?!」
「サンドウィッチと一緒よジャンジャン。旅、食事、コゼット、時々魔物。どう?」
「どうって言われても…」
「あなたがコゼットのことを好きじゃなかったらこの旅は味気ないものだったでしょうね」
「たしかに…」
「グレイフナーに行けるようになるまで私が恋の相談役、恋のアシスタントマネージャーとしてあなたについてあげるわ」
「え? アシスタ…?」
「あなた、私が帰る前に絶対告白しなさいよ」
「ふえっ?!?! ……いやぁ、それは、まあ、なんというか…」
「じゃあいつ告白する予定なのよ」

 俺の言葉を聞くと、アリアナがふんす、と鼻息を吐いて激しくうなずく。どうやら彼女も恋の話が好きらしい。

「いやぁ……折を見て…」
「あなたが折を見てたら十年ぐらい経ちそうなのよ! そのときにはコゼットはもう誰かに寝取られてるわ! これは完全なる寝取られパティーンなのよ!」
「パティーン…?」
「ぼくはいつか告白するよ…そう寂しげに言う青年達が幾度となく寝取られる様子を私はつぶさに観察してきたの。ジャンジャンはその典型とも言っていいチキン体質。ここで私と出逢えたことは神のお導きとしか思えないわ」

 ちなみに寝取っていたのは俺だッ!

「いいわね! 絶対よ! 私のアドバイスに従って行動すれば万に一つも負けないわ!」
「あのーアリアナちゃん…エリィちゃんはいつもこうなの?」
「たまにこうなる…」
「着いたら紹介しなさいよ。絶対!」

 俺はジャンジャンに詰め寄った。
 彼は逃げるようにして馬車の御者席へ乗り込む。

「ああ、わかってるよ」
「絶対絶対ずえーったい紹介するのよ!? いいわねッ!」


   ○


 砂漠のオアシス・ジェラは周囲を防壁で囲んでいる。魔物と砂嵐対策だろう。
 東門に着くと、ジャンジャンは冒険者のカードを見せ、俺とアリアナは短期滞在ということで十日間のパスを三千ロンで買った。

「パスをなくすと再発行に三千ロンかかるから気をつけてくれ」

 仏頂面の門番に言われ、町の中に入る。

 町は活気に満ちあふれていた。男はターバンを巻くか帽子をかぶっていて、長袖シャツにズボン。女性は砂漠の国らしいギャザースカートにヴェールを羽織っている。綿のような絹のような、その中間の素材が使われており、魔法陣に似た模様の服を着ていた。なんだか不思議な服だ。見ていると目が回りそうな柄だな。
 そんな一般人に、獣人や冒険者が紛れて行き交っている。

 陽射しが強いため、白の生地が多い。全体的にさっぱりした印象だ。

 俺とアリアナは旅の途中で食べられなかった濃い味の料理を露店で買い食いしつつ、歩く。食べ過ぎは太るので、半分ぐらいでやめて残りは全部アリアナにあげた。

 途中で入るジャンジャンの説明がいかにも観光っぽい。

「町には東西南北の門がある。で、あそこに見える三角の建物が冒険者協会だ。ジェラには凄腕の冒険者が集まっている」
「へえーさすが物知りね」
「当然だろ、地元なんだから」

 満更でもないと言った顔でジャンジャンが答える。

「クノーレリル神降祭のときは町が観光客でごったがえすぞ。縁日が出て大道芸に武術会。演劇に歌唱大会。すごいんだからな」
「楽しそうね!」
「見たい…」

 俺とアリアナはすっかり観光気分になっていた。
 どうせなら楽しんでいこうぜ、というのが俺のポリシーだ。
 いいじゃん砂漠の町!
 戦争が終わったらすぐ帰るけどね!

 しばらく西へ歩くと閑散となり、さびれた商店街が見えてきた。西門はほとんど使わないそうなので、なんとなく落ち着いた雰囲気だ。というより、全く活気がない。

「ジャンジャンの実家って確か道具屋よね?」
「そうだ」
「…これじゃ儲かってないでしょ」
「まあ、ちっちゃい店だから仕方ないさ」

 ちっちゃいというよりこの商店街に問題があると思うんだが…まあいい。

 西門の近くにある『バルジャンの道具屋』が、ジャンジャンの実家だ。見た目は、まあなんというか、その、言葉に表すのも憚られるほどに統一感がない。

 店の前にトーテムポールのような置物が置いてあり、その横には特大の壺。屋根から剣と弓がぶらさげてあり、すぐななめ前には可愛らしいウサギのぬいぐるみらしき商品。ついでにと言わんばかりに一メートルほどあるガマガエルみたいな魔物の剥製が鎮座している。

「なんなのこれ?」

 俺は若干の怒りを覚えた。
 数多の店舗を見てきた俺にとって、この店は破壊衝動を感じるほど最低のデキだった。
 日本だったら即刻店長と担当営業を呼びつけて、なぜこんな商品の展開をするのか問い詰めるところだ。

 ヒュウウウ――

 風が吹くと、どういう仕掛けなのか、ガマガエルの置物が、ゲッゲッゲッゲッゲと笑いだし、道ばたに汚らしい粘着性のある液体を飛ばした。その上に飛んできた砂漠の砂がくっつき、さらに汚らしい物体になる。その間もガマガエルの置物は笑っていた。

「今すぐ……いいかしら?」

 俺が指を向けると、アリアナが飛び付いて「ダメッ」と言う。
 オッケーオッケー。
 ふう…落ち着け俺。こんなことでいちいち“落雷サンダーボルト”をぶっ放していたらこの異世界の道具屋が減ってしまう。
 だが……これはあまりにも…ひどい……。
 激昂するレベルだぞこんなもん。店長出せ! 店長!

「いらっしゃ―――ジャン?!?!」

 店から出てきた若い女の子が、持っていたハタキを驚きで取り落とした。
 上から下へとジャンジャンを見つめると、近づいて彼の身体をぺたぺた触り出す。

「ほんとに、ジャンなの?」
「…ああ。ただいまコゼット」
「ジャン!!!!」

 コゼットはすごい勢いでジャンジャンに飛び付いた。彼は頬を染めながら目を白黒させ、彼女を抱きしめるかどうか必死に考えているのか、両腕を開いたり閉じたりさせる。

 おまえは壊れたクレーンゲームかッ。

 いけ、抱きしめろ!
 ぎゅっといけ、ぎゅーっと!

 アリアナがこっそりジャンジャンの後ろに回り込んで手を伸ばし、一気に彼の腕を内側へ巻き付けようと迫る。
 ゴー! いけアリアナ! ゴーゴーッ!!

「えい…」

 ジャンジャンの腕がコゼットを抱きしめた。
 突然の出来事に全身を硬直させるジャンジャン。

「ふぅあ!」

 だがチキン野郎はすぐに両手をバンザイにした。
 どんだけー。
 もう。
 どんだけー。

「あらこの子たちは?」

 コゼットがジャンジャンから離れて首をかしげた。途端、悲しそうな顔するジャンジャン。いやいやだったらぎゅっと抱きしめておけよ。ぎゅっと。まじで!

「エリィ・ゴールデンですわ。この子は友人のアリアナ・グランティーノ。ジャンジャンに助けてもらって馬車で送ってもらったの」
「あら、ご丁寧にありがとう。私はコゼットです」

 お互いにレディのお辞儀をした……んだが……。

「あのコゼットさん。ひとつ質問いいかしら」
「なあに?」
「あなたの着ている服? それは何なのかしら?」
「これのこと?」

 これのこと? じゃねーよ。それしかねえだろうがッ。

 なぜ頭蓋骨を真っ二つにしたブツを帽子代わりにしてんだ!?
 どうしてポシェットを三つも付けてるんだ!?
 黄色とか青とかのレースをなぜ腕に巻き付ける!?
 靴がネズミの剥製?
 なんでヘソのとこだけシャツがハートにくりぬいてある?!
 意味がわからん!! ぜんっっっぜん意味がわからん!!!!

 彼女はくりっとした目を俺に向けて自信ありげに口を開いた。

「お洒落でしょ?」
「お洒落なわけないでしょッ!!!!」


   ○


 店に入ると、よぼよぼのおばあちゃんが店番をしていた。ちんまりと座布団の上に座っている姿が招き猫みたいでかわいい。ジャンジャンの祖母、ガン・バルジャンばあちゃんだ。名前は頑張って店番をしてるからツッコまないでおこう。くれぐれも「頑張るじゃん!」とか言わないように! 特に俺!

 ジャンジャンが帰ってきた事を知ると、ばあちゃんは涙をぽろぽろ流して喜んでいたので、感動の再会についうるっときてしまった。泣いてない。俺は断じて泣いてないッ。

 服のセンスゼロのコゼットが、ばあちゃんの面倒を見ながら店番を手伝ってくれていたらしい。好き勝手に陳列していたらこんな店になってしまったそうだ。ハリセンがあったらコゼットを思いっきりはたきたい。ちなみにコゼットの家は隣のバー『グリュック』だ。

 コゼットの服装はあとで直すとして、俺とアリアナは夕食もほどほどに案内された空き部屋のベッドにもぐりこんだ。数日、馬車に揺られていたせいで疲れがたまっている。

 ベッドは二つあったが、アリアナは俺の布団にもぐりこんできた。

「今日は一緒…」
「そうね」
「ん…」

 俺は寝る前に、ジャンジャンからもらった紙とペンでやるべきことを記入していった。何事も目標を決め、目で確認することが大事だ。
 アリアナが狐耳を動かしながら覗き込んでくる。


――――――――――――――――――――――
砂漠でやることリスト

 最優先、ダイエットする。
 その1、強くなる。
 その2、グレイフナーに帰るための情報収集。
 その3、ジャンジャンとコゼットをくっつける。
 その4、孤児院の子どもを捜す。
 その5、砂漠にあるいい生地を探す。

――――――――――――――――――――――


 ダイエットと修行はもちろん、ジャンジャンの恋路をサポートし、孤児院の子どもたちが売られたという特殊な工作員を養成している場所を見つけ出したい。ついでに洋服の生地になるような面白い物がないかどうか調査をしようと思っている。やることはいっぱいだ。

「わかりやすい…」
「そうでしょ。ひとまず今日は寝ましょう。明日から忙しくなるわ」
「うん、そうだね…」
「おやすみアリアナ」
「おやすみエリィ…」

 俺とアリアナは早めの就寝をした。


   ☆


 その数日前。
 エリィが誘拐された当日、グレイフナーのゴールデン家では大変な騒ぎになっていた。

「お嬢様はわたくしが救出します!!!」
「私はぁ! お嬢様方を守れなかったぁ! 切腹致します!!!」

 クラリスは青竜刀を左右にぶら下げマントを装備し、出陣の準備は万端。一方、バリーはコック服を脱ぎ捨て短刀を腹に当てている。

「賊をぶっ殺しましょう」
「賊をぶっ殺しましょう」
「賊をぶっ殺しましょう」

 きれいなハミングで料理人らとメイド隊が宣言し、バスタードソードやらメリケンサック、パルチザン、グレートアクス、キラーボウなどを持ち、各々が完全武装でエントランスに集合していた。

「エリィ、今頃つらくて泣いてるよね」
「あの子ってばほんと世話の焼ける妹ね…」

 エイミーが階段の隅っこで体育座りをし、エリザベスが杖を片手に旅支度を済ませている。
 長女のエドウィーナは「おいき!」と言って、使役している小鳥の使い魔を窓から解き放つ。

「落ち着け!」
「静かになさい!」

 父、ハワード・ゴールデンと『爆炎のアメリア』こと母アメリア・ゴールデンが面々を諫めた。

「これから指示を出す。一度しか言わない」

 普段、温厚そうなハワードは怒りを何とか抑えている、といった表情だ。

「まずは敵を見つける。クラリス、例の情報屋のところにバリーと行け」
「かしこまりました」
「はっ! この命に代えても賊を見つけ出します!」

 クラリスとバリーは忍者のように素早く消えた。

「メイド隊は二人を選抜して警邏隊と近隣住民から情報収集をしろ。金に糸目はつけるな」
「かしこまりました旦那様」
「承りました旦那様」

 見目麗しいメイド二人がお辞儀をしてエントランスから出て行く。

「エイミーとエリザベスはコバシガワ商会の面々にエリィが誘拐されたことを伝え、協力要請をしろ。その後の判断はそちらで決めなさい」
「ぐすん…わかりました!」
「はい、お父様」

 エイミーがなんとか気を取り直し、エリザベスが優雅にうなずく。

「エドウィーナは使い魔の索敵範囲を徐々に広げてくれ。まずはグレイフナー周辺だ」
「わかりましたわ」

 エドウィーナは集中しているのかその場で目を閉じた。

「料理隊は精が付く料理をたっぷり頼む。ある意味お前達が一番重要だぞ」
「サーイエッサー!」

 なぜか軍人言葉で敬礼する料理人達。

「俺はこれから宮殿に行ってくる。なんとかして『シールド』の特殊部隊に渡りを付けるぞ」
「私は家で待機し、集めた情報を取り纏めます」
「うん、そうしてくれ」
「あなた……」

 ハワードはアメリアを優しく抱きしめた。

「あの子、大丈夫よね?」
「ああ、エリィなら平気さ。もう一人前のレディさ」
「心配だわ……。あの子はあなたに似て妙に優しいところがあるから…」
「大丈夫だよ。僕たちの子どもじゃないか」
「あなた…」
「アメリア…」

 なぜかいい感じの雰囲気になり、熱い接吻をする父と母。
 だがその空気は二人の身体が離れると嘘のように消えてなくなり、ピリッとした雰囲気に戻った。

「ではいってくる」
「いってらっしゃいあなた。吉報をお待ちしております」
「ああ、可愛い娘のためだ。手段は選ばん」
「ええ。お願い致します」



 その後、調査は何度も空振りに終わり、賊の足取りはつかめなかった。数日後にようやく西に逃げた、との情報をクラリスが得たところで、サンディとパンタが戦争になり、調査が難しくなる。それでもゴールデン家の面々にエリィ捜索を諦める様子はなかった。


 その頃『砂漠のオアシス・ジェラ』では―――


   ○


 もふもふもふもふ。


「ん……あ……」


 もみもみもみもみ。


「んん………あ………」


 さわさわさわさわ。


「ひぅ………あっ…………」


 俺は寝ぼけてアリアナの狐耳を揉んでいた。
エリィ 身長160㎝・体重82㎏(-2kg)やっと痩せた・・・



▼▼▼▼▼▼▼▼
いつもお読み頂きありがとうございます!

読者の方からエリィちゃん画像をいただきました。
あとがきにURLを貼っていいかわからなかったので活動報告のほうに掲載致しました。

このページ左下の作者ページ→活動報告
からチェケラできます!
屋外閲覧と食事中のチェケラ注意です!笑

ということで次話も是非ご覧下さい!
+注意+
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