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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第一章 エリィとイケメンエリート

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第3話 どうすんのこれ

 ブスだ。

 あとデブ。

 ブスでデブだな。うん。間違いない。デブスだ、デブス。

「くそっ!!」

 俺は手鏡を思い切り地面に叩きつけた。

「どうなってやがる!」

 手鏡で自分を見た俺は何時間か失神していたようだ。

 何度も何度も確認した。間違いではなかった。手鏡の中にはぽっちゃりと丸い顔をして、肉の厚みで目が陥没している少女がいた。不摂生をしていたのか脂物ばかり食べていたのか、ニキビ面だった。そんなブスが申し訳なさそうな顔で手鏡に映っているのだ。一ヶ月契約を取れなかった営業マンのような、本当に申し訳なさそうでうちひしがれた顔だった。

 年齢はおそらく12~15才ぐらいだろう。いまいち外人は外見から年齢はわからない。

 まあそんなことはどうだっていいんだ。

 なぜ、俺が、デブで、ブスで、ニキビ面の、外人で、女で、少女になってるんだ!

 おかしいだろこれ。
 くそ、顔を引っ張っても痛いだけだ。

 おー神よ!
 我を救い給え!!

 神様信じてないけど。

 あーもうなんなんだよこれは!
 このデブ! くそ! どうなってやがる!

 自分の腹をパンチしても、ぽよん、と小気味良い弾力で押し戻される。

「誰か説明してくれ!」

 あれ、しゃべれる。つーか声、女の声じゃん……。

「あーあーあー」

 なんだこの可愛い声は!
 きゃわいい声は!
 デブのくせに。

「わたしの名前は小橋川デス」

 自分の名前を言ってみるが、なんつーんだろ、違和感しかない。

 あれ、そういえば身体が動くな。

 俺は試しに思い切り力を込めて起き上がった。そしてその巨体に驚いた。たぶん起き上がれなかったのは身体の具合がよくなかったせいもあったが、それより単純に身体が重かっただけだろう。

 ベッドから下りるだけなのに、転びそうになる。
 俺は必死に絨毯にぶっとい足を伸ばして立ち上がった。軽い立ちくらみがしたものの、すぐに平気になったので、ゆっくりと歩いてみる。

 なんだろう。すんげー重い。

 本当の俺の身体機能は素晴らしかった。全身筋肉だったしそこまで体重は重くなく、運動神経も悪くなかった。大股で早歩きをすれば小さい女子が走るのと変わらないぐらいのスピードが出た。

 だがこれはなんだ。
 歩く度にどこかしらの肉がぽよんぽよん上下に揺れて邪魔。身体全体にバーベルがついたように重い。乳と腹が出ているせいで真下が見れない。俺は何度か転びそうになり、タンスや壁にもたれかかった。

 ふらつきながら部屋のうろうろしていると小さなドアがあった。開けると、そこは小さなクローゼットになっていて、ドアの裏側が全身鏡になっていた。不意に映った姿を見て、口を開けて、完全に放心してしまった。

 身長は160センチほど、体重は100キロあるであろう金髪の少女が、ぽかんと口を開けていたのだ。

 そう、俺だ。

 いや、俺、なのか?

「まあエリィ様! いけませんまだ歩いてはお体にさわります!」

 ドアを開けて入ってきたクラリスと呼ばれていたメイドが、俺にしがみついてくる。
 どうやら、俺の腕らしい、白いぷよぷよをつかんだオバハンメイドは、顔を覗き込んできた。

「どうされたのです?」

「…これは、誰だ?」

「なにを言っているのです。エリィ様に決まっているじゃないですか」

「エリィ……」

「はい。由緒正しきゴールデン家四女のエリィ・ゴールデン様でございます」

「ゴールデン……ヨンジョ?」

「はい。そうでございます」

「ゴールデン……ゲキジョウ?」

「はて。私物の劇場などございましたか?」

「いや、なんとなく…」

「そうですか。それではベッドに戻りましょう」

 オバハンメイドが言い終わるか終わらないかのタイミングで、この現実についていけずに、俺は卒倒した。


   ○


 俺は降りしきる雨の中、空中をさまよっていた。
 身体にあたる雨粒は、透明な俺の身体をすり抜けて地面で弾け、吸い込まれていく。天空では見ているだけで焼け焦げてしまいそうな巨大な稲妻が走り、大音を轟かせ、世界を丸呑みにしようとしていた。

 大木を中心にした池のほとりに誰かがいる。

 金持ちが屋敷のついでに道楽で作った池であろうか。まわりを見ると、池のちかくには洗練されたあずまやがあり、大理石のようなテーブルがしつらえてあった。さらにその奥には屋敷に繋がる通路が続いていた。

 俺は気になって池のほとりへとふわふわ漂いながら進んだ。

 そこには、全身鏡に映っていた、デブでブスでニキビ面の少女が、ずぶ濡れになって突っ立っていた。その悲壮感たるや言葉では言い表せないものであった。見ているこっちまで辛くなるような、絶望した顔でうつむいたまま、動こうとしなかった。

 どれぐらいそうしていただろう。

 彼女は時折、くちびるをかみしめ、眉をひそめ、自嘲気味に笑ったりしているが、注視していないと見逃してしまうような些細な表情の変化であった。俺はその様子を空中に浮いたまま、見つめていた。磔にあったように目が離せないでいた。

 やがて少女は泣いた。

 すすり泣きだったそれは、時を待たずして号泣に変わった。

 すべてをあきらめたかのような、鬱憤をぶちまける号泣であった。
稲妻を飲み込むかのように天をあおいで大口を開けて、絶叫していた。

 俺は胸が苦しくなった。
 息もできずに両手で心臓を押さえ、身もだえた。身をよじることで何とか平静を保ち、少女の悲しみを全身で受け止めないようにした。そうでもしていないと、悲しみに押しつぶされそうになった。

 少女はひとしきり泣くと、風呂にでも入るかのような手慣れた仕草でサンダルを脱ぎ、服を着たまま池の中に入っていった。

 俺は止めようとした。

 だが身体がびくともしないのだ。
 動かない。

 そもそも今の俺は透明で、身体がある状態でなかった。動けても彼女を止める事なんてできない。それでも、池に入ることを止めなければ。

 俺がもがいているうちに、彼女は胸のあたりまでどっぷり池につかり、両手を組んでお祈りをした。何かをつぶやいているようだ。俺にはそれが何なのかわからないが、早く彼女を池から引きずり出さなければいけないことだけはわかった。

 天空では稲妻が雷光を放つ。

 デブでブスでニキビ面なんてことはどうでもいい。俺は彼女を助けたかった。事情はわからないが、おそらく彼女は死のうとしている。目の前の女の子ひとり助けられず、男を名乗る資格があるであろうか。

 俺は無理矢理に身体を動かして、彼女のもとへ走った。
 空中に浮いていたので、飛んだ、といったほうが正しいかも知れない。がむしゃらに前に進んだ。

 しかし、間に合わなかった。

 彼女はつぶやきをやめると、両手を目いっぱい広げて、笑顔になった。

 鼓膜を突き破る凄まじい破裂音と同時に、目の前が雷光で真っ白になり、髪が逆立ちになるほどの爆風が巻き起こる。池の真ん中にあった大木がメキメキと音を立てて倒れ、炎が舞い上がった。

 彼女は大量の電流を浴びて、ショック死した魚のように、池にぷかりと浮かんでいた。

 俺は彼女を真上から見下ろし、いつの間にか意識を失った。





 俺はそれが夢だったと気づくのに五分ほどかかった。

 横を見ると心配そうな顔をしたオバハンメイドがうちわで風を送り、隣では伝説級の美女が俺の手を握っていた。

 彼女は死んだのだ。あのとき、雷に自ら撃たれて死んだ。あれはたぶん、夢なんかじゃなく現実なんだろう。というか、俺の記憶なんだろう、きっと。

 そして俺も、六本木で酔っ払って、ふらついてるところを黒塗りの高級車に轢かれて死んだのだ。

 きっとそうに違いない。

 それで魂みたいな状態になっていたものが少女に乗り移った。そういうことではないだろうか。

 ということは、俺と彼女はふたりともあのとき死に、そして身体だけエリィ、中身は俺、という新しい状態で復活した。

 そうか。
 そうだったのか。

 なるほど……

 これが神様のいたずらか。

 いたずらオブゴッドか。

 って、ずぇんずぇん納得できねえええ!

 なぜイケメンの俺が、ブスで、デブで、ニキビ面で、外人で、女で、少女になってるんだ!

 くそ! このデブ!

 腹をパンチしても小気味良い弾力で、ぽよんとはじき返されるだけだ。

 頼むから誰か俺を元の姿にもどしてくれえええええぇ!
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