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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

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第19話 イケメンエリート、恋の舞踏会

皆さんご愛読ありがとうございます!
評価&ブックマークありがとうございます!

大変お待たせ致しました。
今回は予告通り、恋の旋風巻き起こる舞踏会の話になります!
 朝日も昇りきらぬ澄んだ空気の中、俺たちはグレイフナー通り一番街にある七階建ての『冒険者協会兼魔導研究所』を見上げていた。そこには特大の布製ポスターが飾られている。真下からでは全貌を確認できない大きさのため、よく見える通りの真ん中辺りに俺たちは佇んでいた。

 ポスターには皆と協力して作った洋服に身を包んだ、咲き誇る花のようなエイミーの笑顔があった。

 キャッチコピーは、
 『防御力よりオシャレ力』
 『私を守ってくれますか』

 ポスター右下には、
 『グレイフナー王国初のファッション誌“Eimy”創刊!!』
 『○月×日オハナ書店にて限定500部発売!』
 『仕掛け人“ミラーズ”店主ミサ、独占インタビュー付き!』

 まさに最高の出来映え、渾身の力作であった。誰一人欠けてもここまで辿り着けなかっただろう。

「明日ね…」

 俺は感無量でつぶやいた。
 他のメンバーも口々に肯定の言葉をつぶやき、ポスターを見上げたままうなずいている。
 そう、明日が雑誌の発売日なのだ。その日の売り上げが運命を握っている。新しいファッションが流行するか否かのスタートラインなのだ。

 俺は夜から舞踏会があるため、皆に無理を言って全員が集まれる早朝に集合してもらった。全員でこのエイミーポスターを見たかったのだ。横を見れば皆、一様に疲れていたが、達成感で表情はこの上なく明るかった。

 俺は一人ずつ顔を見ていく。


 ミラーズ店主のミサ。自ら新しいデザインの服を着て方々へ奔走した。


 デザイナーのジョー。俺の無理なデザインを実現させたやり手の新鋭デザイナー。


 スピード・ワイルドこと黒ブライアン。責任感から副編集長を任せ、俺の意図を汲んで書店とのやりとりをしつつ火の上級魔法“複写コピー”を昼夜唱え続ける。


 スギィ・ワイルドことおすぎ。四十歳。“複写コピー”を休まず唱え続け、魔力切れになること十五回。


 テンメイ・カニヨーンことエロ写真家。エイミー専属カメラマンの他、無理難題をすべて聞き入れ最終ページのためにグレイフナー王国初であろう魔物撮影を敢行。


 マックス・デノンスラートことウサックス。三十九歳。ハイスペックな事務処理で全員分の食事代から給与まですべて一ロンも間違わずに計算し、全員分のスケジュール管理までやってのけた。


 パイン・オーツィンことボインちゃん。元武器屋のバイト娘。十七歳。攻撃力コメントが面白かったので強引に勧誘。『私を守ってくれますか』のキャッチコピーは彼女が考えた。今では彼女自身がこの雑誌とファッションの虜になっている。


 フランキー・グランティーノことフランク。アリアナの七人兄弟、上から二番目の弟。十一歳。勉強ノートをチラッと見たときに文章が面白かったのでなんとなく採用。的確な取材と不確かなことは探求する性格がマッチし、記者能力を発揮。


 あとは臨時で雇った“複写コピー”魔法使いが三人。マルオ、そば屋、オチョウ婦人。


 俺の背後には、すべてにおいて支えてくれた専属メイド、クラリス。顔に刻まれた苦労皺も今日は和らいでいるようだ。


 そして雑誌専属モデル、エイミー。彼女はでかでかと自分の写真が飾られていることに恥ずかしさを隠しきれないようだ。いつ見ても可愛い。


「ミサ、ジョー。ここまでありがとう」
「何をおっしゃるんですお嬢様!」
「そうだぞエリィ! 感謝しているのは俺たち姉弟のほうだ!」

 二人は嬉しそうに言う。

「印刷班! 本当に辛かったでしょ…あのポスター何度も失敗したの知ってるのよ」
「へへっ、あれぐらいは大したことないですよ!」
「エリィ俺たちのこと誰だと思っているんだ、ワイルド家だろう?」

 黒ブライアンとおすぎ、それから“複写コピー”魔法使いの三人が感無量だ、と言う。

「エロ写真家! あなた最高よ!」
「すべては被写体の美しさ…妖精であるエイミー嬢、そしてエリィ嬢のおかげだ」

 エロ写真家はあの日から片時もカメラを離そうとしない。
 いつでも背中にしょっている。

「ウサックス、いろいろ雑務ありがとう!」
「光栄の至りですな! あの退屈だった日々は一体何だったのか…。私はエリィ嬢に出逢えて幸せですぞ!」

 昨日は俺とエリザベスを深夜まで指導していたせいで寝不足だったが、ウサ耳が天に向かって真っ直ぐと伸びている。

「ボインちゃん、サンキュー!」
「私だけ軽ーい! でもエリィちゃん愛してる! あとそのあだ名変えない?」

 推定Hカップを派手に揺らして新作のワンピースを着たボインちゃんがボインをボインボインさせる。

「フランク! あとで耳触らせて!」
「別にいいけど…」

 アリアナと似たぱっちりお目々をしているフランクはそこいらの女の子より可愛かった。子どもっぽさが抜けたらさぞかしイケメンになるだろう。記者能力と共に成長が楽しみだ。

「クラリス…」
「お嬢様…」

 目配せでわかり合うってすごくいい。

「エイミー姉様…。本当にありがとね。姉様は世界最高の姉様よ」
「私もすごく楽しかったよ! 色んな洋服着れるしミサさんが全部タダでくれるし、お礼を言わなきゃいけないのは私だよ」

 エイミーの笑顔は今日も光り輝いている。彼女抜きでこの雑誌は思いつかなかっただろう。他のメンバーもエイミーのことは特別だと思っているようだった。

「ということでみんな、明日は『Eimy』発売祭りよ! オハナ書店に集合! いいわね!!」

「はいですわ!」「ああ!」「よし!」「おう!」「ついに!」「了解!」「いえーい!」「わかった…」「はい!」「はい!」「はい!」「お嬢様ッ」「エリィかっこい~!」

 各々、好き勝手に返事をしたあと、成功を信じて疑わないと言わんばかりに右手を挙げて親指を立てた。
 やはりチームってのはこうでなくっちゃな!


   ○


 俺は鏡を見て深いため息をついた。

 時刻は放課後の夕方。朝のテンションはどこへいった。
 雑誌騒動で睡眠不足になり、ニキビが二つも増えていたのだ。二つもだぞ!
 ショックを隠しきれない乙女でおデブな俺。
 明日から慎ましい生活に戻ろう。

 はぁーニキビって消えないんだな。
 もし男に戻れたらニキビ女子にエールを送る。
 つーかニキビ消す魔法とかないわけ。白魔法の超級をぶち当てればお肌つるつるになったりしないか。しないよなー。白魔法の超級使えるのは噂によるとセラー神国の教皇だけっていうし、ニキビのために魔法使ってくれないよなー。

「お嬢様、そんなにため息ばかりついては可愛い顔が台無しですよ」
「ブスだしニキビ増えたし困ったわ」

 あまり聞かない俺の弱音に、ミサはボブカットを揺らしてくすっと笑った。
 ミサは空き時間を使って舞踏会のヘアメイクをしてくれている。

「それに髪の毛だってぱさぱさでしょ?」
「根本はしっかりしてるので、すぐに艶がでますよ」
「本当? ねえミサはいつも何使って洗ってるの?」
「ええっと私はですね……」

 とまあこんな感じで、すっかりガールズトークにも慣れたもんだ。
 そうこうしているうちにヘアメイクは終わった。アップした髪に紺色のバラが添えられ、うまいこと髪型が崩れないようにヘアピンで留めてある。特注したよそ行き用の、黒いシックなワンピースと合っている。さすがミサ。ほんのりと化粧もしてくれ、二点が五点ぐらいにアップした。点数はもちろん千点満点ね。うふ!

「お嬢様、アリアナ・グランティーノ様がいらっしゃいました」
「お通ししてちょうだい」

 折良くアリアナがやってきたので巻き添えにしてミサにヘアメイクしてもらい、くるぶしまで隠れる丈の白襟がついた紺のクレリックワンピースを着せた。これも俺が特注していたもので、いつかアリアナにあげようと思っていた。うまくアリアナの細すぎる線を隠したコーディネートで、お尻に開けた穴から出ている狐の尻尾がなんとも可愛らしい。ミサが興奮して何度も「まあ! まあ!」と声を上げている。

「エリィ……似合う?」
「ええとっても」

 そう言って頭を撫でると、尻尾をぶんぶんと風を起こさん勢いで振っていた。

 エリザベスとエイミーも仕事と学校から帰ってきたのか、舞踏会の準備をはじめた。ミサと三人できゃいきゃいと言いながら準備を進めている。女って集まるとほんと元気になるよな――――!!


 はっ、俺も女だった! デブだけどッ!!


   ○


 俺とアリアナ、エイミー、エリザベスはゴールデン家の馬車で会場まで向かった。
 会場はグレイフナー魔法学校の講堂と裏庭だ。三千五百人の生徒を収容できるマンモス校らしい大きなもので、シャンデリア付きの多目的ホールのような造りになっている。裏庭には池になっていて、空中に浮かんで光を発する魔道具のおかげで幻想的な雰囲気になっていた。会場には至る所にバイキング式の移動キッチンがあり、ボーイかメイドに頼めば好きなときに好きなだけ食べて飲める仕組みになっている。パーティー、お祭りが好きな俺にはたまらない。
 心、踊るッ! ダイエット中だから食べれないけどッ!!
 なんてこった…。

 すでにパーティーは始まっていた。会場内は人で溢れ、講堂のステージで演奏されるダンスナンバーに合わせて幾人もの男女が中央の赤絨毯で踊っている。うわーリアル舞踏会だよ、と思ったのは俺だけだろう。

「みんな踊ってるね…」

 俺だけじゃなかった。アリアナも初めて見るようだった。
 ちなみに貴族のアリアナがなぜ舞踏会を初めて見るのか、俺には理由がわかる。アリアナの家は没落寸前なのだ。領地があと二つしかない崖っぷち貴族で、父は死に、母は宮殿の侍女として家には帰って来られない。アリアナを含めて兄弟が七人もいる限界の生活を送っている。魔闘会であと二回敗北すれば領地が二つ剥奪され一般市民に格下げされてしまうので、アリアナは強くなるために必死だ。
 彼女が痩せているのも、学校から配給される食堂のご飯を食べずに家に持ち帰っているからで、自分の食べる分を節制しているためだ。俺は泣いた。その話を聞いたとき、くっそ泣いた。こんな可愛い女の子が戦いで勝たなければならず、尚且つ一家の命運を双肩に担っているのだ。できる限りの事をしてあげたいと思っている。
 そしてできることならば俺の脂肪分をアリアナに譲渡したい。“脂肪譲渡魔法”を図書館で探したけど、なかった。あるわけねーか。

 しっかしあれだな、服装が本当に舞踏会なのか疑うほどにおかしなことになってるな。
 男はとにかく強そうに見せている。胸にプレートは当たり前、人によっては全身を覆うフルアーマーの輩もいる。全身鎧でパーティーって仮装かッ。唯一許せるのは異世界のパーティーっぽさが出ている魔導士風の男だな。高級そうなローブにブーツという出で立ちだ。まあそれでも野暮ったいことには変わりない。

 女性は、まあいつもの感じだ。茶色のぼてーっとした革ドレスに白シャツ、髪型は頑張って変えているようだ。でもやはり防御力重視。腕にガントレットを付けている女子なんかも多い。中には鎖帷子に黒い皮のロングパンツ、なんて人もいる。
 これはこれで見ていて異世界っぽくて面白いんだが…ちょっとダンスパーティーではないな。

 俺たちが会場に入ると、瞬く間に注目された。

 それもそのはず、伝説級美女エイミーとデキル系美女エリザベス、ロリ好きにはたまらないアリアナがいるのだ。しかもその服装が俺とミラーズが丹精込めて作った、最高に可愛いものだ。

 エイミーは裾の辺りにひだがついている赤のペプラムスカート、長袖ボタンシャツ、その上からセーターのベストを着て、いかにもフェミニン女子大生という仕上がりになっている。足元はポスターと同じパンプスで、すぐ飛び付きたいぐらいに可愛い。タイツがあれば完璧だったのだが、この世界の技術ではまだタイツの作成は無理らしい。ジョーに頼んで早急に作ってもらう必要があるな。

 タイツは男のロマンと言っても過言ではない。

 本日の主役であるエリザベスは俺とジョーがラフ画を百回ほど描き直したであろう、ひらひらが何とも女性らしいブルーのフレアスカート。純白のサマーニットは袖を切り落としたノースリーブで、エリザベスの美しい細腕がまぶしい。腕には魔力結晶で作ったという母からプレゼントされたブレスレットをつけている。前髪のない髪型は上品に中分けして耳にかけられ、討伐ランクBのヒメホタテからしか採れない、輝く真珠のピアスが見る者を釘付けにした。

 女性には怪訝な目と嫉妬のため息、男性陣からは獲物を見るような目を向けられる。

 ちなみに完全なドレス仕様にしなかったのは絶対に浮いてしまうと思ったことと、どうせなら洋服の宣伝をしてしまえという下心にあった。

 気づけば、すぐに人だかりができていた。

「あなたはポスターの君!!」「美しい…」「そのような防御力の低い格好で…」「お名前を!」「明日お茶をしませんか?」「なんていいにほひなんだ」「守りまぁす! あなたを守りまぁす!」「ぼくは死にましぇん!」「絶対に本買います!」

 俺はマネージャーのようにエイミーに群がってくる男共を「ご用があるならこちらから誘いますので!」と言って百人ぐらいを蹴散らした。このデブ、といった殿方には“電打エレキトリック”で感電してもらった。つーか誰だ、にほひって言った奴。

 エリザベスのほうもすごい。二十人ほどが集まって、彼女を質問攻めにしている。異世界の男は積極的でいいね。日本の健全な男子諸君も見習うべし。こっちに来る機会があればいつでも俺が相手をしよう。デブでよければな!
 って俺は誰に言ってんだよ…。

 そしてエリザベスの困った顔。たまらなく可愛い。
 これはしばらく放置しておこう。

「エリザベス嬢、飲み物は何がよろしいですか?」
「む、わたくしめが持って参りましょう」
「いえいえ俺が」
「あ、あの…自分で取りに行くから結構ですわ」

 違う違うエリザベス姉様!
 そこはお願いしちゃえばいいんだよ。
 ちらちらと俺に目線を投げてくる彼女に、俺はうなずいてウインクした。
 すると彼女は顔を赤くしてうつむいた。
 三秒ほどして意を決したように顔を上げると「で、では…軽めのシャンパンを…」と言った。

 うおおおおお、よく言えた、よく言えたよエリザベス!
 俺はいま巣から飛び立つ雛鳥を見ているようだ!

 彼女の言葉を聞いて男達は我先にとシャンパンを求めてダッシュする。俺はすかさずエリザベスのもとに駆け寄った。

「どう、いい男いた?」
「エリィ…わたし人生で初めてモテてる」
「姉様当たり前のことよ! なんたって姉様はキレイで優しい人ですから!」
「ありがとうエリィ。あなた本当に変わったわね」
「いいえ、変わったのは姉様ですよ」
「まあ、あなたってば口が上手いわ」
「で、どの男がいいの?」
「まだわからないわ…」
「そうよねー。でも姉様のこと全部好きになってくれる人がいいわね」

 俺は事実そう思っていた。短いつきあいではあるがエリザベスがいい子であるとわかったし、俺が乗りうつる前のエリィに厳しくしていたのも彼女を思っての行動であったようだし、そのせいでエリィが家に少しばかり居づらかったことはそこまで気が回らない彼女の不器用さだと思っている。不器用で恥ずかしがりだけど真っ直ぐなエリザベスを愛してくれる人を見つけて欲しいものだ。

 横にいるエイミーを見ると、会場内にいた同じクラスのメンバーと盛り上がっている。女性陣はとにかく彼女の服が気になるようだ。ふっふっふ、いいぞいいぞ、防御力なんて捨ててしまえ。そのやぼったい革のドレス、訳の分からないごついブーツなんてすぐ物置に放り込め。その足でミラーズに駆け込め。

「じゃあ姉様頑張ってね」
「え、え、ちょっと待って! エリィ近くにいてくれないの?」
「うふふ、コツは気に入った男とだけ話すこと。簡単でしょ」
「エリィ~~ッ」

 置き去りにされる子どものような声を出したエリザベスの回りにシャンパンを持った男達が戻ってきた。がんばれ、姉様!


   ○


 さてアリアナを探そうと思って振り返ると、すぐ後ろにいた。

「あ、エリィ…もぐもぐ」
「アリアナ?」

 アリアナは両手にお皿を持って、口にトマトソースを付けている。食べるときは器用に片手で皿を二つ持ち、フォークを動かしていた。白襟がついたクレリックワンピースを着ているのでよく食べる可愛いお人形のようだ。

「アリアナちゃん、春巻きすごくおいしそうだろう?」
「ほら珍しいゴブリンプリンセスのゼリーなんかどうだろう」
「僕の持ってきた熱々の大きいソーセージを食べてみて」

 なんかめっちゃハァハァしている中年男三人に囲まれてる。
 ソーセージの男、確信犯だな。

「うんありがとう。お皿戻してくれる?」
「ああ、もちろんだよ」

 そして平然と下僕として扱っているアリアナ…。
 あかん、汚い大人に騙されちゃあかん!

「アリアナ、料理はあとで包んでもらうことにして会場を回ってみましょうよ」
「うんわかった。これいらない…」

 うなだれる変態中年を振り返らず放置し、アリアナとシャンデリアを眺めたり、ステージの近くまでいって生演奏を聴いたりして会場の雰囲気を楽しんだ。中央で踊っている男女はみな快活そうに笑い、ダンスに興じている。
 曲が激しいものに変わると、活きの良さそうな若者達が腕を組んで颯爽と現れ、タンゴのような足さばきの華麗なステップを踏んだ。
 シャンデリアの輝きにステップの影が舞い、グラスのぶつかる音と女の嬌笑が響く。異国の不思議な音色の楽器が俺の心を捉えて離さない。

 雑誌の疲れもあってか酒に酔うような気分を味わっていると雑音が聞こえてきた。

「お、黒ピッグーがいるぞ」

 俺とアリアナの前に現れたのはボブ・リッキーとその取り巻き連中だった。


   ○


「おいデブ、てめえよくそんなツラで舞踏会に来れたな」
「行きましょアリアナ」
「デブとガリ女が一緒とは傑作だ」

 俺が手を取った逆の手で、アリアナが素早くクレリックワンピースをたくし上げ、腿に括りつけていた杖を出した。
 目にも止まらぬ速さで闇魔法の初歩“ダーク”を唱える。

 ボブの生意気そうな太い眉毛ごと、闇が視界を遮った。

 闇の基礎魔法は
 下級・「ダーク」小さい闇を作り出す。
 中級・「ダークネス」一メートルほどの闇を作り出す。
 上級・「ダークフィアー」精神に干渉する闇を作り出す。

 というもので、上級まで習得しないとなんら使えない魔法種として認識されている。
 アリアナはそんな“下の下”の魔法を相手の視界にのみ集中して発生させたのだ。

「このガリ女! てめえ何しやがった!」

 ボブが三年生、十四歳にしては大柄な体躯をぶんぶんと振って視界を取り戻そうともがいた。取り巻きにいる三バカトリオ、そばかす、デブ、真四角メガネが右往左往している。なんだろうこの小物感…。

「私のことはいい……エリィのことをこれ以上悪く言うなら容赦しない…」

 アリアナは杖を一振りして魔法を解除し、無表情でボブをじっと見つめた。
 ボブは怒りで顔を歪めている。自分の思い通りに事が運ばないと納得できないお坊ちゃんなのだろう。

「てめえ名前は」
「お前に名乗る名前はない」
「闇魔法を使ったな」
「さあ…」

 何がおかしいのか、ボブはにやっと笑って子どもが動物をいたぶるような目線を向けた。

「…そこのデブみたいに大事なモノを壊されたくなければ大人しくするんだな」

 大事なモノ……?

「ちょっとあなた、私のモノに手を出したってどういうことよ」
「んん? ああ~どうだったかなぁ…」

 ボブが短く切りそろえた髪をわざとらしく掻いて、首をかしげる。三バカトリオがにやにやと下卑た笑みでこちらを見ている。

「大変だったなデブ。おまえがせっせと点数稼ぎで手伝いに行ってた孤児院、あんなことになってなぁ~」
「…どういうこと?」
「ん? いやーそのままの意味だ。うちの管轄だから後処理が面倒だったんだぞ」
「後処理って……あなたは何もしてないでしょ。どうせ誰か大人が後始末をやったに決まっているわ」
「しかもあのガキ共、どっかにさらわれちまったしなぁ~」

 ぎゃはははは、と三バカトリオが合いの手を入れるように笑う。

「そこのガリ女もそうなりたくなければ言うことを聞くんだな」
「あなたね……」
「てかさぁ、黒いワンピースって黒ピッグーで呼んでほしくて着てきたんだよな?」
「……」
「お前ら足して二で割ったらどうだ? ちょうどよくなる……いや、黒ピッグーがデブすぎてデブにしかならねえか!」

 ぎゃーっはっはっは、とまた取り巻きが笑った。

 俺の怒りなのかエリィの怒りなのかわからない。
 生演奏の激しい楽曲と共に両手が小刻みに震え、脳天が弾けそうなほどに熱くなる。こいつがやりやがったんだ。やはりこいつがあの孤児院をエリィの居場所をぶちこわしたんだ。くそ、くそッ!
 クールになれクールになれと言い聞かしているのに、怒りが全身から、ありとあらゆる場所から込み上げてくる。自分を抑えられない。

「このゲスが…」

 エリィの声色に似合わない、汚い言葉が口から出てしまう。
 パチッ、という放電音が体のどこからか鳴った。

「別に俺がどうこうしたわけじゃないぞ? お前がもっとデブじゃなかったら孤児院も助かったかもな~、俺の家の管轄だからなぁ~、いやぁすげえ残念だったなぁ」
「意味が…わからないわ…」
「バカだなおまえ。お前がデブじゃなかったら、俺が口利いて孤児院の警備を多くしたりさぁ~、さらわれたガキの捜索隊を増やしたりできたんだよなぁ~。ま、するわけないけど」

 ボブの嫌味と三バカトリオの笑いが怒りで遠くのほうで響いているような、遠くでサイレンが鳴っているようにくぐもった音で聞こえてくる。ステージの演奏音だけがやけに生々しく聞こえた。

 もう、ダメだ……。

 パチパチッ、と俺の目の前で電流が走る。可視できる電気が目の前を通りすぎて空中に消える。
 こいつらを、今ここで…。

「連れ去られたガキ、どこに行ったか………ごめぇんわからねえわぁ!」
「ぎゃははははははっ!!!」


 ステージ上で演奏される楽曲が最高潮に盛り上がり、壮大な重音と一緒にフェードアウトではなくフィーネで決然と一気に終わった。


―――――こいつらをッ!!!!!


 俺が限界にきて右手を振りあげようとしたそのときだった。


「エリィダメ!!」


 アリアナが咄嗟に俺の右腕をつかんできた。

エリィ 身長160㎝・体重86㎏(±0kg)


次話は明日or明後日に更新致します!
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