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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

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第16話 イケメンエリート、編集長になる

 ガルガイン紹介の店は、実に普通だった。いや、日本に比べたらそりゃ色々ファンタジーだったけど、想像していた海パン一丁のもっこりしたドワーフとか、亀甲縛りされた女性店員とかはいなかった。まじでよかった…。

 店内にはところせましと魔道具が置いてある。
 拷問具のような武器が半分を占めているので、店のSM的外観はあながち間違いではない。

 いらっしゃい等の来店の感謝など一切告げず、身長百五十センチぐらいの髭面で堀が深いドワーフがカウンター越しにぎろりと睨んできた。

「誰かと思えばガガんとこの小せがれか」

 ドワーフの店主はそう一言つぶやいて視線を手元に戻した。見ると、細かい部品のようなものにペンで魔法陣を描いている。

「おっさん『記念撮影具』あるか」
「…おめえが買うのか?」
「いや、エリィ・ゴールデンが買う」

 俺は一歩前に出て、懐に忍ばせていたボーンリザードの魔力結晶をカウンターに出した。こぶし大の赤い結晶は、中で激しく火花を散らしている。昨日試しに魔力を注いだら、魔力切れ寸前まで魔力を持っていかれた。相当量の魔力が内包された状態だ。

「まずこれを買って欲しいの」

 ドワーフの店主はつまらなそうに目線を上げ、魔力結晶を見ると鼻で笑って手元の作業に戻った。だが二度見すると、持っていた魔道具を放り投げて、サヨナラ逆転タイムリーツーベースで頭から突っ込む走者のようにカウンターに飛び付いた。

「こここ、これぇ! てめえどこで手にいれたぁ!!」
「きゃ! びっくりさせないでちょうだい!」
「そんなこたぁどうだっていい! てめえこいつをどこで手に入れたんだ!」
「ボーンリザードを倒したのよ」
「…はあっ!?」

 そう驚くドワーフ店主に俺はさっき国王からもらった小さな勲章を見せた。
 金色のコインに狼のようなマークが入っている。スルメが聞いてもいないのに、これは在学中の魔法使いが武勲を立てた際にもらえる『大狼勲章』で、未成年しか受勲できないため希少価値が高く所持している貴族は非常に少ない、と力説した。ありがたいけど説明してるときの声がでかくてうるさかった。

「てめえ、そりゃあ…」

 大げさに驚くドワーフ店主。ガルガインといい店主といい言葉遣いがラフなのは、ドワーフ共通らしい。まあ妙にかしこまってるよりは全然いいが。

 そういや魔力結晶を見せたときのガルガインとスルメも店主と同じような反応をしていたな。二人とも腰を抜かして大声を出していた。うん。そろそろリアクション王決定戦を開いたほうがいいと思う。

「おっさんほら」

 ガルガイン、スルメがドヤ顔で胸に下げた大狼勲章を店主に見せつける。ドワーフ店主は、おおっと声を上げてカウンターを飛び越えてくると、ガルガインの肩を音が出るほどに叩いた。

「ガガの小せがれ! よくやった!! ドワーフの誇りだてめえは!!」

 ぐわーっはっはっは、と笑いながら、よくやった、すげえじゃねえかと連呼する店主を見て、ガルガインは少しバツの悪そうな顔をした。だがまんざらでもないようで人差し指で何度も鼻をこすっている。

「で、そのボーンリザードを倒した話はあとで聞くとして、お嬢ちゃんはこれを俺に売ってくれるのか?」
「ええ」
「本当にいいのか? こんなでけえ魔力結晶滅多にお目にかかれないぞ。俺が鍛冶屋になってから数回見た程度だな。しかもこれよりやや小ぶりだ」

 店主はしげしげと壊れ物を扱うように店内のランタンにかざして魔力結晶を観察している。

「すでに相当な魔力が入ってるじゃねえか。これはお前たちで入れたのか? 何日も大変だったろう」
「いえ、昨日私が魔力を込めたわ」
「は? お前さん一人でか?」
「そうよ」
「がっはっはっは! バカ言っちゃいけねえ! 一日でこの魔力を入れるなんてお前さんどこの『シールド』だよ!」
「おっさん、エリィ・ゴールデンはさっき筆頭魔法使いリンゴ・ジャララバード様に『シールド』入団の勧誘を受けたばかりだ」
「………え?」
「うそじゃねえぜ、まじだ」

 ガルガインとスルメが悔しそうに言う。

「おいおい嘘だろう…。こんな年端もいかねえぽちゃーっとした女の子が『シールド』に?」
「ぽちゃーっとは余計よ!」
「余計もクソも本当のことじゃねえか!」
「エリィはすごいの…ぽちゃとか言わない」

 静かだったアリアナがドワーフのおっさんに杖を向けた。

「お、おお、わかったわかった。狐人のお嬢ちゃん、目つきがちょっとアレだから杖をしまってくれ」
「わかればいい…」

 アリアナは静かに杖をしまって、よしよしと俺の腕をなぐさめるように触ってくる。
 く、なんていい子なんだ。俺が男だったらお付き合いしてるところだ。

「それで、いくらで買ってくれるの?」
「一億ロン……いや近頃は魔力結晶不足で値段が高騰しているからな…。一億二千万ロンぐらいまではいけるんじゃねえか?」
「知り合いのエルフにも見せているのよ」
「ほほうエルフに…?」

 店主の視線が細められる。言葉の意味がすぐわかったようだ。

 このグレイフナー王国は大冒険者ユキムラ・セキノの功績により、四百年前から多種族交流が盛んで近年ではほとんど人種差別などはない開けた国だ。どんだけすげえんだ大冒険者ユキムラ・セキノ、というツッコミをいれたい。その影響か、友好国で獣族が多く住むパンタ国、隣接国である水の国メソッド、自由国境を挟んで莫大な領地を有する砂漠の国サンディも、多種族交流が盛んである。巨大山脈の向こう側にあるセラー神国はばりばりの人族主義ということだが、一種族主義を謳っている国はこのご時世セラー神国ぐらいだ。

 多種族交流は複雑怪奇だ。種族間には“因縁の仲”が存在する。例えば狐人と熊人は仲が悪いとか、エルフと兎族は千年前から親交があるとか、ドワーフはどの種族でも強ければ婚姻を結ぶとか、まあ理由は様々で、過去の戦争や文化によるものらしい。

 ちなみにドワーフとエルフの友好関係は良好であるものの、ことに物作りに関しては譲れない「何か」があるらしく、その技術力を敵同士のように見せつけ合って争っている。切磋琢磨していると言えば聞こえはいい。魔道具展覧会で罵声を浴びせ合うのは毎年の恒例行事だそうだ。

 当然、今回俺が持ち込んだ魔力結晶がエルフの技術者に渡ることはドワーフにとって面白くないだろう。
 俺は値段を釣り上げるためにエルフの名前を出した。
 もちろんエルフに知り合いなんていない。

 まあ何ということでしょう。
 俺ってばちょっぴりワルでおしゃまなおデブさん!
 うふ!
 ……ちょっと自分で言って気分悪くなってきた。

 気を取り直してドワーフ店主に向かって口を開いた。

「エルフは一億三千万まで出すと言っているわ」
「で、おめえさんはどっちに売ろうってんだ」

 剣呑な声でドワーフ店主がずいとこちらを睨んでくる。背は小さいのに身体がでかくみえるのは気のせいじゃないな。これはあまり怒らせない方がよさそうだ。

 にしても一億超えの取引かよ。胸が高鳴るな。
 でもってイニシアチブは完全に所有者の俺にある。たまらなく楽しいね。

「もちろんこちらで売るつもりよ。ガルガインの紹介もあるし、値段は多少エルフより低くてもいいわ」
「おい頼むぜエリィ」
「わかってるわガルガイン。でも貴重な商品だから私もほいほい売りたくはないのよ。売らずに自分で使ってもいいんだし」

 魔力結晶は好きなときに貯めておいた魔力を取り出せる。戦闘の際は有用だ。

「……商会の連中に掛け合ってみよう。一億ロンなんて即金で払えねえからな」
「おっさん何としても買い取れよ。こんなにでけえ魔力結晶、他にねえぞ」
「わあってるボケぇ! 俺に任せとけ!」
「わかったわ。それじゃあ値段が決まり次第、売ることにするからね」
「おう! ありがとよ!」

 店主は嬉しそうに手を出してくる。俺も手を出して握った。分厚い手のひらだ。
 魔道具の性能がよければ今後贔屓にしたい。

「それで話は戻るけど…」
「ああ『記念撮影具』な」

 店主は奥の部屋に引っ込むと、物をひっくり返しつつ、どこいきやがったと叫んで、見つけた木箱を両手で持ってきた。

「こいつだ」

 蓋を開けて中を確認する。
 見た目は巨大望遠レンズがついたカメラに近い。
 カメラの本体部分が地球のカメラの倍ほどはあるので、手に持っての移動撮影は無理だろう。現に箱の中には金属製の三脚があった。据え置きタイプだ。

「持っていっていいぞ。三百万ロンだが二百五十万ロンにまけてやる。金は魔力結晶を売った中からさっ引いておくからな」

 先に商品を渡して魔力結晶の売買を確約させるとはなかなか商売が上手い。
 俺はおっさんを信用して魔力結晶を手渡した。

「ん? まだ買い取ってないが…?」
「物がなければ売るのも難しいでしょ」
「おめえさん…剛毅だな……おれぁ猫ババするかもしれねえぞ」
「あなたはそんなことしないわよ」
「あたりめえだ! 誰がそんなこと言った!」
「いや自分で言ったんでしょ…。とにかく! 商会とやらにこの特大魔力結晶を見せつけて高く買い取ってもらってちょうだい!」
「やっぱりエリィはすごい…」

 アリアナが尊敬の眼差しを向けてくる。いいぞ、もっと俺を褒めてくれ。俺は褒められて伸びるタイプだ!
 もしドワーフ店主が魔力結晶を猫ババしたら“落雷サンダーボルト”でSM風の店を消し飛ばして塵に還す予定です。ええ。
 まあそんな事態にならないと思うけどね。



   ○



「カメラはゲット。あとは印刷班ね」
「カメラ? 印刷?」
「スルメ、早く“複写コピー”ができる若い衆を紹介してちょうだい」
「へいへいわかってるよ」
「約束はちゃんと守るからね」
「そこまじで忘れんなよ! モテる方法の伝授な!」

 グレイフナー通り一番街に巨大広告を出す。
 広告作戦を第一計画とすれば、連動して第二計画であったファッション雑誌創刊に着手するべきだろう。

 ミラーズ宣伝のために俺が考えていたのは二つ。
 第一に巨大広告。
 第二にファッション雑誌の創刊。

 この世界には雑誌の概念がない。
 連続小説のような書籍はあるが、本のほとんどが魔法関連のものに偏っている。それもこれも強さこそすべて、という風潮があるからだろう。この考えに俺は風穴を開けようと思う。

 アイデアはあったものの、カラー印刷なんて無理じゃね?
 コピー機ないしカメラもないし、と思っていた。
 そんな根本を解決してくれるのがやはり魔法だ。エイミーと特訓中に学術書から火の上級魔法で“複写コピー”を見つけたときは興奮した。クラリスにカラーコピーが出来るのか何度も確認してしまった。

 グレイフナー王国初のカラー雑誌を作る。

 上級魔法を使って作成するから魔法使いを雇うコストがめっちゃかかるのが難点だ。
 プラスしてカラーのインク代金とカラーに耐えうる用紙の代金。製本の方法や料金。おそらく一冊、五千ロンぐらいになってしまうだろう。
 日本円にして五千円の雑誌。うけるな。
 一冊にプレミア感を出せば、裕福層にぼちぼち売れるだろうと楽観視している。アイデアがいいからな。売れるだろう。万が一売れ残ったらどこかの貴族に営業かけて押し売りするから大丈夫だ。ふふふ、楽しみだ。

 ガルガインとはディアゴイス通りで別れ、俺とアリアナはスルメに連れられスルメの実家に向かっている。

「あなたの家の“複写コピー”が使える魔法使いは使用人なの?」
「一人は分家でおれの家臣。もうひとりは俺の弟だ」
「結構きつい作業になるけど大丈夫かしら?」
「たかが“複写コピー”だろ。大丈夫に決まってる!」

 豪快に笑うスルメによく考えてみなさいと言いたい。
 例えば二百冊の雑誌を作るとして、表紙を含めて二十ページとすれば全部で四千ページ。ふたりで二千回“複写コピー”を唱えることになる。魔力切れで何度もぶっ倒れることになるだろうよ。まあ、人はもっと雇う予定ではあるが。

 ちなみにこの計画と実行の日付はクラリスに言って、ミラーズのミサとジョーに伝えてある。金はあるからとにかく服をできるかぎり量産しろとお願いしておいた。ミシンや裁断機などの便利な機械はこの世界にないので、ほとんどが手作業になってしまう。早めに作っておかないと人気が出たときに在庫がない、なんて最悪の事態になる。営業マンは在庫にも気を遣わなければならない。
 俺はその辺、あまり得意じゃないからなぁ。日本でも得意な奴にぶん投げてたし。店がでかくなったら事務関係が得意な人が必要だ。

 とにかく人材集めだ。
 “複写コピー”を使える魔法使い。
 事務が得意な奴。
 雑誌編集ができそうなセンスのいい担当。
 文章が得意な記者に向いているやつ。
 そしてカメラマン。

 王宮から歩いて二十分ぐらいの場所にスルメの家があった。がっしりとした石造りの家で、ちょっとした美術館のような趣がある。三メートルほどある風神雷神みたいな厨二病全開の石像が入り口の門に飾ってある。聞いたら、戦いの神パリオポテスと契りの神ディアゴイス、らしい。ちょいちょい出てくる神シリーズは日本でいうところの、七福神みたいな扱いなんだろうと勝手に解釈している

 スルメのワイルド家はそりゃもうワイルドだった。

 家中の人間は色黒で顔がとにかく濃い。三分の一がしゃくれている。俺とアリアナは五十人ぐらいに囲まれて、暑苦しく勲章について褒められ、むさ苦しくスルメを治療したことについて礼を言われ、鬱陶しいぐらいに決闘を申し込まれた。

 めんどくせえから決闘は全部断った。

 ついでに、君は太すぎだアッハッハッハ、と言ってきたスルメの親戚にはビンタと“エアハンマー”で視界から消えてもらった。

「ワンズの家臣、スギィ・ワイルドだ」
「弟のスピード・ワイルドです」
「……」

 もう名前にツッコミを入れるのはやめよう。偶然だと思いたい。俺を笑わせようとする罠じゃないよね。立派な名前だよ二人とも。笑ったら怒られるよ。

 スギィ・ワイルドはシャツを腕まくりして真っ黒に日焼けしたおっさん。
 弟のスピード・ワイルドはストリートレーサー映画の碧眼のイケメン主人公ブライアンを気弱にして色黒にさせたような少年だ。ちなみに弟、といってもスルメの腹違いの弟らしく、年は一つしか離れていない。グレイフナー魔法学校の二年生だ。二年生で火の上級が使えるとはかなり優秀だな。

 俺は「おすぎ」「黒ブライアン」とあだ名をつけて二人を臨時で雇うことにした。二人ともちょうど金が必要だったらしく、冒険者協会にいって魔物狩りに行こうとしていたところだったので快諾してくれた。
 報酬は出来高制で、どのくらいの質で“複写コピー”が唱えられるかで決めようと思っている。

「おすぎ、黒ブライアン、よろしくね」

 俺はレディらしく裾をつまんで礼をした。

「おすぎ……俺? 俺の名前はさっきも言ったがスギィ・ワイルドだろう?」
「あのエリィさん! 黒ブライアンって僕のことですか!?」
「またてめえは変なあだ名つけやがって……」

 おすぎはワイルドに腕を組んで、まあ仕方ないかとうなずいた。
 黒ブライアンことスピード・ワイルドは悲鳴に近い抗議の声を上げる。

「どこからどうなるとブライアンになるんですか!? 誰なんですか! 黒は家系が地黒なんで仕方ないにしても!」
「ワイルドスピードって映画、観たことない?」
「僕の名前はスピード・ワイルドです! えいがって何のことです! 観たことなんてありませんよ! 知りもしません知りたくもありません!」
「ほら、早く馬に乗ってストリートバトルしてきなさいよ」
「馬? ストリートバトル?」
「血が滾るような速度で曲がれるかどうかギリギリのカーブに突っ込むんでしょ?」
「いや僕そんなふうに乗馬したことないです!」
「嘘おっしゃい! スピード狂なんでしょ!? というか今からスピード狂になりなさい黒ブライアン!」
「兄さん何なんですかこの人!?」
「俺に聞くなよ! 俺だってこいつには困ってるんだからな!!」

 黒ブライアンの反応が面白すぎてつい調子に乗ってしまった。
 悪ノリとスピードはほどほどにね。アハッ。
 ……自分で言って気分悪くなってきたパート2。

「兄さんもあだ名を!?」
「くっ………そうだ」
「なんてあだ名なんです?」
「ぐっ…………それは………」
「スルメよ。ス・ル・メ」

 俺がにっこり笑って黒ブライアンに言った。

「スルメ?」
「なんかスルメ顔じゃない?」
「そ……それは…」
「ほら、噛めば噛むほど味が出てきそうな。ねっ?」

 黒ブライアンはスルメの顔を何度か見て、顔を引き攣らせて自分の腹をパンチし始めた。笑わないようにしているんだろうが、口元がしっかりと笑顔になっている。

「てめえ! おいエリィ・ゴールデン! 黒ブライアン! 表に出ろ!」
「兄さんまで僕を黒ブライアン呼ばわりですかッ!?」
「おめえが俺のことをスルメと呼んだらぶっ殺すからな」

 そのあと中庭で決闘騒ぎに発展。俺はデブが四人に見える残像魔法“幻光迷彩ミラージュフェイク”で攪乱し、“ライト”で目つぶしをして、“エアハンマー”で二人を吹き飛ばして事は収拾した。終わったあとに、ちょっぴり悪かったな、と反省した。

 まあ使用人と親戚、スルメの母親までもが即席の賭けに興じていたのでお互い様だろう。スルメに賭けていた使用人のむさ苦しい男共は、坊ちゃんのせいで大損だ、と言いながらスルメにファイヤーボールをぶつけようとしているし。隅から隅まで騒がしい家だ。

「エリィ…」

 終始大人しかったアリアナが、俺に有り金ありったけを賭けて、二十万ロンをゲットしてほくほく顔だったことに笑った。いつも通りの、口角をほんのちょっぴり上げる笑顔で、金貨と銀貨でいっぱいになった財布を見せてくる。
 俺はアリアナの狐耳を撫でて、金貨を渡そうとしてくる彼女の手を優しく押さえた。そのお金でいい物をたくさん食べなさい。君はもうちょっと太ったほうがいいよ。俺と違ってね。



   ○



 おすぎと黒ブライアンにはまた連絡すると言い残して、俺はバリーが御者を務める馬車に乗り込んで、『記念撮影具』……もうめんどくさいからカメラでいいや。カメラを乗せた。

「お嬢様そちらは?」

 バリーが窓に顔をへばりつけて質問してくる。
 こええよ。いつ見てもこええよ。

「バリー顔が近いわ。これはカメラよ」
「カメラ?」
「記念撮影具とも言うわね」
「そのような高価なもの、どうされたのです?」
「買ってきたのよ」
「…失礼ですがお金はどうされたのですか」
「ボーンリザードを倒したときに見つけた魔力結晶を売ったわ」
「ほお! さすがはお嬢様です!」
「一億二千万ロンぐらいになると思うのよね!」
「………ほ?」

 金額に度肝を抜かれたバリーを尻目に箱を開けると、カメラと三脚と用紙がきれいに収納されていた。用紙はA4サイズの厚紙で特殊塗料が塗ってあるらしく、光に当てると七色に変化する。これをカメラの上部に刺して魔力を込めるとシャッターが下り、見えている情景が写される仕組みだ。正直、仕組みがさっぱりわからない。魔法バンザイということにしておこう。

 俺とバリーは町中を馬車で回ってカメラマンを探した。
 だが、これだ、という人物がいない。

 カメラマンはただ情景を写し出せばいいものではない。モデルの喜びや悲しみまでも抽出できるような、乾坤一擲の一枚を写せるであろう己の内側に鬱屈した何かを溜め込んでいるような人間がいい。モデルはあのエイミーなのだから、そんじょそこいらのやつにお願いする気はこれっぽっちもないんだよ。俺は完璧主義だから。

 翌日もその翌日もカメラマンを探し回った。

 アリアナはアルバイトがあるのでカメラマン探しには参加できなかった。捨てた子犬のような顔をしていたからなぐさめるのに時間がかかった。
 俺はクラリスとグレイフナーをぐるっと時計回りに散策する。方々で聞いた噂を頼りに移動した。

 泣く子も黙る芸術家、記念撮影具のプロ、グレイフナー王国一の魔道具師、七色の声色を持つ吟遊詩人、センスがありそうな奴は片っ端から尋ねた。だがどいつもこいつもダメ。結局はすでにできあがった世界観があるのだ。
 違う! 違うんだ! 今そこにある物、人間を、無心で撮影できる奴がいいのだ! 被写体の最高の状態を逃さない目を持っている人間がいいのだ!

「わたくしにはお嬢様の深慮はわかりかねます。正直、腕っぷしが強いその辺の男ではダメなのでしょうか。こう、勢いで、でええいっ! とシャッターを切るような」
「ダメよ! ダメに決まっているわクラリス!」
「左様でございますよね…」

 はぁ、とため息をつくクラリスは自分が役に立てないことが悔しいようだ。
これは俺がこだわっていることだから、きっちり自分で探し出さないといけない。
 見つけられなければクラリスがもっと落ち込んでしまう。

「では見つかるまでどこまでもお供致します!」
「ありがとうクラリス!」


 さすがはクラリス。前向きだ。


 俺たちはうなずきあって、グレイフナーの中心部へと歩き出した。
エリィ 身長160㎝・体重86㎏(±0kg)


イケメンさん、雑誌と洋服に夢中です。
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