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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

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第15話 イケメンエリート、筋肉と会話をする


「私はグレイフナー王国筆頭魔法使いリンゴ・ジャララバードだ」

 数あるファンタジー映画の常識を覆す魔法使いの姿がそこにはあった。
 俺の通っていたジムのボディビルダーを彷彿とさせる筋骨隆々な体躯。胸板はその辺に生えている木よりも厚く、予想するにベンチプレス250キロぐらいは上げれるんじゃないかと思われる。切りっぱなしの半袖シャツから出ている腕は、丸太に血管が浮かんでいるようで、おデブの俺の腕が細いと思ってしまうほどに太い。下半身も太い。ゆったりめのズボンがはち切れんばかりの筋肉の主張で限界まで張り詰めている。本気でスクワットしたら400キロぐらいは上げれそうだ。ここが地球であるならば是非とも一緒にジムにいって記録に挑戦してほしいところだな。

「わたくしはゴールデン家四女、エリィ・ゴールデンですわ」

 俺はレディらしく制服の裾をつまんで頭を下げた。

「ほほう、お前がエリィ・ゴールデンか」

 しげしげと俺を見つめる眼光は、値踏みする、というよりも魔力と強さだけを計っているように見えた。強さこそすべて。筋肉至上主義。全体的に無骨な顔と、冗談が効きそうもない灰色の瞳が、冷徹な印象を与える。筆頭魔法使いというより職業軍人という表現がしっくりくる。そして名前はリンゴじゃなくてプロテインのほうが合っている。

「アリアナ・グランティーノ…」
「ワイルド家長男、ワンズ・ワイルドです!!!」
「鍛冶屋の息子、ガルガイン・ガガ」
「アシル家次男、ドビュッシー・アシルですジャララバード様!!」
「サークレット家次女、スカーレット・サークレットでございます」

 合宿メンバーが一人ずつ挨拶をした。
 全員心なしか頬が上気している。スルメの話だと筆頭魔法使いリンゴ・ジャララバードは歴戦の勇者で、『魔物五千匹狩り』の異名を持ち、グレイフナー王国最強魔法騎士団『シールド』の団長だそうだ。王国内のファンは数知れず、こうして会えるだけでもすごいことらしい。俺にはただの筋肉狂の暑苦しいおっさんにしか見えない。

 それよりも隣にいるスカーレットがくせえ。
 未だに発情犬煙玉ラブリードッグの臭いがする。
 臭いが落ちなかったんだろうな…。

「ここからは王の御前だ。粗相のないように」
「みんないいね。くれぐれも失礼なことを言わないように」

 引率者であるハルシューゲ先生が一番緊張しているように見えた。

 荘厳な扉を兵士二人が開けると、赤絨毯が敷き詰められた床の奥に王座があり、柔和な笑みを浮かべた中年の男が座っていた。茶髪をオールバックにし、赤いマントにブルーに輝く胸当て、やたらと分厚い紫色の膝当てを装備している。デザインより防御力を重視しているのは色合いのちぐはぐな組み合わせからすぐにわかった。玉座の横では、高さ五メートル、先っぽに緑の宝玉がついた杖を侍女が二人がかりで持っていた。あんなでけえ杖で魔法唱えられるのか?

「朕が第五十二代グレイフナー王国国王バジル・グレイフナーだ!」

 一人称が朕!!
 ちん、キターー!
 映画の和訳でも滅多にない呼び方。
 実際に聞くとうけるーっ。
 王様が二人集まったらやべえな。朕と朕……。
 いや、やめよう。俺は素敵なお洒落おデブだ。こんなアホなこと考えていたらエリィに申し訳が立たない。

「この者達が封印されしボーンリザードを倒した学生です」

 リンゴ・ジャララバードが膝をついた。
 俺たちもそれに倣う。

「大儀ッ!」

 国王はバッっと立ち上がると、ババッと近衛兵が持ってきたお盆から小さなメダルのついた勲章を掴み、ササッと玉座から降りてこちらに来ると、俺たちの首に勲章をかけて手を握る。サッ、ガシ、うむ! サッ、ガシ、うむ! サッ、ガシ、うむ! サッ、ガシ、うむ! サッ、ガシ、うむ! サッ、ガシ、うむ! サッ、ガシ、うむ!

 なんか素早い。
 この国王すげえ素早い。つーかめんどくさがり?
 俺の知ってる国王のイメージと違えぇ。

 俺が首をひねっていると、他のメンバーは喜びで声も出ないほど感動し、口々に感謝の意を伝えていた。てかさ、亜麻クソとスカーレットなんもしてねえよな。
 おっかしいなー納得いかねえー。

 国王はササッと音もなく玉座に戻ると口を開いた。

「それで、誰が倒したんだ?」

 勲章を見て顔を赤くしていた面々が固まる。
 すぐさまハルシューゲ先生が、恐れながら、と膝をついた体勢で一歩進んだ。

「封印を解かれたボーンリザードはリトルリザードの群れを呼び、我々は防戦一方でした。ここにいる優秀な生徒と力を合わせ、ボーンリザードの強烈な攻撃をしのぎつつ、リトルリザードをすべて倒したところで――」
「長い! 結論を申せ!」

 国王は耐えきれなくなったのか苛立ちを隠そうともせず先生の話を遮った。ハルシューゲ先生は国王に咎められ、慌てに慌てて何度も額に落ちる冷や汗をハンカチで拭き、なんとか言葉をひねり出す。

「運良く落雷がありました」
「落雷?」
「はい。それが偶然にもボーンリザードに当たり、跡形もなく消し飛ばしました」
「リンゴ、それは本当なのか?」
「はい。報告の通りでございます。現場には爆発系の魔法でない痕跡が残っておりますので間違いないでしょう」
「そうか……」


 さすがは国王、何かに気づいたようだ。


「ふむ………」


 俺は落雷魔法がバレないことを祈った。


 ここでバレたら絶対に面倒なことになる。まず伝説の魔法と言われている落雷魔法をどうやって習得したのかを根掘り葉掘り聞かれ、王国のためと言って軍事利用される可能性が高い。戦力として王国に組み込まれ、特殊訓練を施される可能性だってある。海外ドラマとかエスパー系映画定番の話だ。ストーリーとして見ている分には面白いけど自分がいざ渦中の中心になり、自由がなくなって行動に制限をかけられたらたまらない。俺はエリィとしてまだやることがたくさんあるのだ。


 国王は渋い顔で腕を組み、俺たちを見下ろしている。


 俺はごくりとツバを飲み込んだ。


 ――くわっ!!!


 すべてを理解した、といった感じで国王は目ん玉をかっ広げた。


「おぬしらラッキーだったなぁ!」


 前言撤回。国王アホだ。
 威厳もクソもねえよ!

「してエリィ・ゴールデンは?」
「この女子学生でございます」

 すぐさまリンゴ・ジャララバードが俺を立たせた。

「おぬしがそうか! 最後まで全員を守ったそうだな! 大儀ッ!」
「ありがたきお言葉」

 俺は裾をつまんでお辞儀をする。

「特別に何か褒美を与えよう!」
「エリィ・ゴールデン、欲しい物を言え」

 リンゴ・ジャララバードがいかつい顔をこちらに向けた。

「金か領地か?」
「早く言え」

 せっかちな国王を待たせるな、ということらしい。
 俺はどうせなら、と頭に描いていた計画で、もっとも厄介そうな問題をここで解決しようと思った。それはボブに復讐することでもスカーレットをけちょんけちょんにすることでもない。そのふたつは自力でやらないと意味がないからな。

「では恐れながら申し上げます。グレイフナー大通りのメインストリート一番街の建物の壁面をお借りしとうございます」
「ん?」
「…どういうことだ」

 リンゴ・ジャララバードが冗談ならタダで済まさないと言った目で睨んでくる。そして筋肉が凝縮した胸板を、ぴくぴくっと動かした。

「広告に使うのでございます」
「広告?」

 国王は興味が湧いてきたのか身を乗り出した。

「特大の布に書いた洋服の広告を飾るのです」
「ほほう…」
「なんと面妖な…」
「エ、エリィくん……!!」

 国王が頬をさすり、リンゴは理解できないと上腕二頭筋に力を込め、ハルシューゲ先生が大量にかいた汗を拭きながら小声で諫めようとする。

「おもしろい! 許可する!!」
「ありがとうございます!」

 前言撤回。国王最高ッ!
 勲章よりこっちのほうが嬉しい。イエス!

 今のミラーズに圧倒的に足りない物、それは宣伝力だ。
 この世界には、テレビもねえ、ラジオもねえ、車もぜんぜん走ってねえ。口コミで宣伝するぐらいしか方法がねえ。
 そこでだ。エイミーをモデルにしたどでかいポスターを大通りに飾って、ブランド力アップと市場拡大を狙う。それこそ渋谷のビルみたいに空いているスペースを広告に使うのだ。くっくっく、グレイフナーの国民は度肝を抜かれるだろうよ。

 ササッと国王が素早く右手を挙げると、ローブに身をつつんだ神経質そうな犬耳の男がらしくない前転で御前に登場し、「書類を!」と一言だけ言われ、残像を残すほど素早い後転で消えた。

 全員、国王のせっかちに合わせてるんだろうなぁ。上司が特殊だと大変だ。

「それから縦巻きロールの女子生徒!」

 国王の声を聞いてリンゴ・ジャララバードが素早くスカーレットを立たせた。

「は、はいっ!!!!」

 唐突に指名され、かちこちに緊張した面持ちで直立不動になるスカーレット。その顔には国王に呼ばれた優越感がにじみ出ている。
なんだと、この足手まといにも褒美か?
 それはおかしいんじゃねえか国王。
 あげるならアリアナだろ。

「おぬしレディとは思えぬ臭いだ! くさいぞ! 特別に宮殿の風呂の使用を許可する!」
「え……?」

 に、におい注意されとるーッッ!!!

「ぷぷっ」
「ぷ…」
「ぶー」
「ひぃっ」

 俺、アリアナ、ガルガイン、スルメは吹き出しそうになるのを寸でのところで堪えた。スルメの奴が小声で「犬合体…」と呟くもんだから、昨日の犬合体スカーレットが脳裏に浮かぶ。ここは耐えろ! 耐えるんだ俺! これより辛かったこと、何度もあったよな! ここで噴いたら負けだ!

 褒められると思っていたスカーレットは完全に涙目だ。
 俺たちは膝をついた状態で下を向き、歯を食いしばって笑いをこらえた。

「どうした。国王様に礼を」
「あ、あ、ありがたき…幸せでございます」
「よい! 気にするな!」

 なんて素敵な国王なんでしょ!
 スカーレットは屈辱で顔を上げられないみたいだ。
 ぷぷーっ、ざまあねえぜ。
 俺は心の中でぐっと親指を立てて笑った。

 国王はバッと立ち上がると、大きな声で「大儀ッ!!!」と叫んで、俺たちに向かってババッと右手を水平に振った。これにて謁見終了、ということだろう。



   ○



 俺は謁見の間を出たところで、神経質そうな犬耳でローブのおっさんが高速回転の前転で現れ、一枚の書類を渡してきた。『王国許可証』と題が打ってあり、グレイフナー通りの建物の壁面を三つまで使用していい、と書かれている。

「場所が決まったら教えなさい」

 そう言うと犬耳のおっさんはつむじ風を起こすほどの速さで走って消えた。
 俺は大事に折りたたんで胸ポケットにしまいこむ。
 書類作るの早すぎだろ。日本の市役所も見習え、まじで。

「エリィ・ゴールデン。お前は俺と共に来て貰おう。他の者は帰れ」

 やることがいっぱいだぜ、と意気込んだ俺はボディビルダーのような筆頭魔法使いに声を掛けられ、やる気を削がれた。

「後日ではダメでしょうか?」
「今すぐ来い」
「レディを誘う言葉ではありませんね」
「エ、エリィ君!!」

 ハルシューゲ先生は王宮に来てから心配してばかりだ。おそらく頭のサイドに残ったわずかな毛が何本か抜けたに違いない。伝えるかどうか迷うところだ。

「いや、これは俺が悪かったようだな」

 ボディビルダー、じゃなくてリンゴ・ジャララバードはにやりと笑って、丸太のように太い左手を、分厚すぎる胸に当てて一礼した。

「お嬢さん、わたくしめにお時間を頂戴できますかな」
「ええ、喜んで」

 エリィはデブでブスだが、高潔で優しいレディだ。
 これくらいの扱いは当然だ。
 リンゴボディビルダーはなぜか嬉しそうに笑うと背を向けた。ついてこい、ということだろう。

「エリィわたしも…」

 アリアナがついてきたそうな顔をして見てくる。ああ、連れて行くとも。だからそんな潤んだ目で見ないでくれ。

「リンゴ・ジャララバード様、私の友人もご一緒してよろしいですか?」

 彼は筋肉でできた体をこちらに向け、アリアナをじろりと睨んだ。
 アリアナは特に怖じ気づくこともなくじいーっとリンゴ・ジャララバードを見つめている。

「いいだろう」

 このやりとりを無視して、国王から貰った小さい勲章に「んんーまッ」と何度もキスをする亜麻クソがすげえうるさい。うぜえ。
 スカーレット以外と軽く挨拶をし、亜麻クソに汚いからやめろと言い、踵を返した筋肉のあとに俺とアリアナはついていく。

 王宮はとにかく広かった。防衛のために内部構造を複雑にするという話を聞いたが、これがまさにそうなんだろう。右に行ったり左にいったり、さすがの天才の俺でも憶えきれない。まあそれはいいんだが、廊下に飾られている調度品、絵画は意匠を凝らして作られ、イギリスの博物館で見たことのあるような完成度の高い物が多い。なぜなんだ。なぜ建物や調度品の技術が高いのに、服はあんなにダセぇんだ。おかしいだろ。ミニスカートとショートパンツがないのはおかしいだろ。どうして。なぜ。なぜなんだッ。

 王宮の端に位置しているであろう簡素な扉をリンゴ・ジャララバードは開いた。部屋の中は武器が並べられ、この国の地図が壁に貼られている。地図には赤い印がしてあったり画鋲の旗が刺さったり、何か作戦を練っていたのだろうと思わせた。窓の外からは訓練をしている男共のかけ声が聞こえてくる。

「わざわざすまんな」

 皮のソファに腰をかけ、俺たちにも勧めてくる。しつれいしまぁす! と気合いの入った鎧姿の青年が、お茶を持ってきて、すぐに出て行った。
 俺とアリアナはいかつい軍人にしか見えないリンゴ・ジャララバードの前に座った。

「ボーンリザードはお前が殺ったんだろう?」

 間髪容れず、刺すような視線を俺にぶつけてくる。
 随分とストレートに聞いてくるな。ここでバレるわけにはいかねえ。
 落雷魔法が使えるなんて知られたら面倒事に巻き込まれるに決まっている。

「いいえ、違いますわ」
「その魔力量、ボーンリザードを塵にできるのはあのメンツでお前ぐらいだ」
「大した魔力じゃありません」
「ほほう…グレイフナー王国筆頭魔法使いに匹敵する魔力を保有して、大したことがない、か」
「それに私はスクウェアになりたての魔法使いです。Aクラスの魔物など到底倒せません」

 Aクラスはヘキサゴン以上の魔法使いが十人がかりで倒す魔物らしい。そんな化け物みたいな魔物をスクウェアの学生が倒せるはずがない。化け物みたいなっていうか、実際に化け物だったんだが。

「まあいい。奥の手を隠すのは当然だからな」

 リンゴ・ジャララバードはコップをつかんで、お茶を一口で全部飲んだ。

「要点を言おうエリィ・ゴールデン。王国最強魔法騎士団『シールド』に入団しろ。お前のその魔力、放っておくのはもったいない。俺が直々に鍛え上げて歴戦の戦士にしてやる」
「あのリンゴ・ジャララバード様」
「リンゴでいい」
「じゃあシュワちゃん」
「…急にあだ名か」
「ダメでしょうか」
「ダメだ」
「リンゴ様、『シールド』に女性はいますか?」
「一割だな」

 アリアナがお茶をぐびぐび飲みつつ俺の裾を引っ張った。

「エリィ、『シールド』は魔法使い憧れの職業、すごい…」
「おまえはグランティーノと言ったな」

 リンゴが上腕三頭筋をぴくつかせて前のめりになった。
 顔と体のでかさをアリアナと比べると、大人と五歳児ぐらいの差がある。

「あの『漆黒のグランティーノ』の娘か?」
「そう…」
「わかった」

 リンゴは目を閉じ、体中の筋肉を動かして考えている。
 なんだ? 筋肉と対話しているのか?

「卒業まで猶予をやろう。グランティーノにも入団試験の資格をやる」



   ○



「で、どんな話だったんだよ」
「ペッ」

 王宮の入り口で待っていたスルメとガルガインが俺たちを見つけると駆け寄ってきた。なんだかんだこの二人、つるんでるよな。

「エリィはすごい…」
「アリアナ・グランティーノ、お前が言うと不吉な事案にしか聞こえねえ」
「しつれい…」
「だからあんたはモテないのよ」
「ぐっ……その件はまただ。あのグレイフナー王国筆頭魔法使いリンゴ・ジャララバード様はなんて言ってたんだ?」
「なんかね、入団しろって」

 俺はむきむきの筋肉とテカテカしたリンゴの顔を思い出してため息をついた。

「騎士団にか?」
「ええ『シールド』ってとこ」
「はあ!? 『シールド』にぃ!?」
「わたし入る気ないわよ。あんなむさ苦しいところ」
「お、おまえさっきもそうだったけど大物だな……」
「そう?」
「グレイフナーの憧れだぞ『シールド』は! それにリンゴ・ジャララバード様にレディがどうだこうだって盾突いたとき俺は自分の玉が、ヒュン、てなったぜ!」
「おめえすげえな……ペッ」

 王国最強魔法騎士団『シールド』は入団試験を受けるのに他の団員の推薦が必要であり、試験が過酷すぎてほとんど入団できないそうだ。試験期間は二ヶ月。その間に様々な拷問に近い訓練兼試験をさせられ、最後まで残った強靱な精神と肉体の持ち主のみが入団できる世界屈指の最強軍団らしい。『シールド』の団員というだけで尊敬され畏怖される存在になる。どんな任務も必ず遂行するグレイフナー王国の誇りだそうだ。

 というスルメの力説を聞きながら、ガルガインの知り合いが経営している魔道具店へ俺たちは向かった。

 魔道具屋はグレイフナー通りメインストリートから一本奥に入った、ディアゴイス通りにあった。この通りは雰囲気でいうと吉祥寺とか下北沢とちょっと似ている。雑貨屋や知る人ぞ知る店がひしめきあい、路地は人であふれていた。道幅が狭くて、四人で横並びに歩くのがやっと。デブの俺もいるからぎりぎりってところだろう。

 俺はきょろきょろと通りを見ていた。
 さすが異世界。さすがファンタジー。

 普通のオープンテラスの店からスライムのように液体化している建物、ドアがななめに曲がっている入り口、“浮遊レビテーション”を習得していないと入れない魔道具屋、番犬がケルベロスの食器屋、ゴーレムに腕相撲で勝たないとダメな薬草屋、奥行き三センチで入店するとなぜか体育館ぐらいある建物になる杖専門店。
 魔法使いがそこらじゅうで飛んだり、魔法をぶっぱなしたり、魔法陣を描いたり、客引きと一悶着したりと、実に騒がしい。大通りとは違った喧噪が奥まで続いている。みなそれぞれの買い物を楽しんでいる。杖で店主を脅して一ロン単位で値切ろうとしている奴なんかもいる。

「ここだ」

 ガルガインがツバを吐いて、鉄格子のドアをつかんだ。
 今まで見た店の外観でトップクラスにやべえ。

 その店はSMクラブ、と言われてもなんら疑問を抱かないだろう。鉄格子の窓には蝋燭、鞭、革のパンツ、棘のついた金棒、拘束具、太いロープなどが飾られている。

「ちょっと待て」

 スルメがたまらずガルガインの腕をつかんだ。

「なんだよ」
「この店であってるよな?」
「ああん? あたりめえだろ」
「お前がそういう趣味があってこの店を選ぶんじゃねえよな」
「何バカなこと言ってんだよ。バカは顔だけにしろ」
「さらっとひでえこと言うな!?」
「平気だよ。最初は俺もびびったけど大丈夫。心配するな。誰にでも初めてはあんだからよ」
「信用できねえ説明だよそれぇ!」
「おめえの言うことは意味がわかんねえ。ま、新しい世界への扉ってとこだな」

 ガルガインがニヒルに口角の片方を上げる。

「だから全然安心できねえ口ぶりなんだよッ!! なんだよ新しい世界への扉って!」
「ペッ。おまえは黙ってついてくることができねえのか? ああっ?」
「誰がスルメだよ誰が!!」
「いや言ってねえよ」
「あそうか、言ってねえか」


 ガルガインはやれやれとドワーフ特有のごつい肩をすくめて鉄格子の扉を押す。


 ギギギィという無機質な音を出し、扉がゆっくりと開いた。


 俺とスルメ、アリアナは思わず喉をならしてツバを飲み込んだ。
エリィ 身長160㎝・体重86㎏(±0kg)
+注意+
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