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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

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第14話 イケメンエリート、王様に呼ばれる

更新が遅くなりました!
読者の皆様のおかげで更新20回までこれました。

PV7000アクセス越えありがとうございます!
いつもお読み頂きありがとうございます!
評価&ブックマークありがとうございます!

ハゲみになりますッ。
ご意見感想等、いつでもお待ちしております。
「きゃーーっ! なんなんですの!? なんなんですのこの犬は!?」

 おすまし縦巻きロール女、スカーレットはパグに似た子犬五匹にまとわりつかれていた。逃げようとするたびに跳びつかれ、両腕、頭、両足に一匹ずつがへばりついて、犬は尋常でないよだれを垂らして荒い息をつきながら腰をカクカク振っている。

「破廉恥ですわよ!! 離れなさい、この、発情犬ッ!!!」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」

 犬はベロを出して激しい呼吸をする。意地でもスカーレットを放さねえ、と意気込んでいるように瞳が輝いていた。

「このっ! このっ! このぉーっ!」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」

 スカーレットは犬がくっついている腕をぶんぶん振り回している。
 やべっ、ちょーうけるんですけど!


 俺とスルメとガルガインは腹を抱えて笑っていた。


 救難信号の発情犬煙玉ラブリードッグはパグに似た犬のオスを瞬間的発情期にさせて呼び寄せる魔道具だった。グレイフナー魔法学校の合宿管理小屋に飼われているこの犬は、救難信号を匂いで察知し、目標に向けて欲望のまま休憩なしでひた走る。五十キロほど先まで匂いが届くというこの発情犬煙玉ラブリードッグの効力は凄まじかった。

 煙を数時間、もろに浴びたスカーレットは気の毒なほど犬に大人気だ。

 教師と上級生の混合チーム七名はモンスターを蹴散らしながら、草原入口からここまで五時間、犬と一緒に休憩なしで走ってきてくれたらしい。このメンツの体力も凄まじい。大半が息も絶え絶えであったが、救援チーム七人全員が脱落せずに到着している。

「見てないで! 早く! なんとか! してちょうだい!!」

 スカーレットは金切り声で叫ぶ。
 だが、もはや誰も助けようとしない。

 引きはがそうと救援チームがチャレンジしたものの、発情した犬達は引きはがした先から追尾ロケット弾のようにスカーレットに跳びつくのだ。

 ぱっと見、新しく開発された犬の防護服だった。頭にへばりついた犬がヘルメット、両腕の犬がガントレット、両足の犬がすね当て。しかも全部の犬が腰を振っている。スカーレットは突っ立っているだけで、己の意思に反して常に揺れている。

 スルメなんかは笑いすぎて仰向けでひーひー言いながら、地面を這いずりまわって呼吸困難を起こしている。アリアナは鼻で笑い「ぷっ」とスカーレット犬合体バージョンを見ないように顔を逸らした。

「ちょっとあなた達! 笑ってないでどうにかしてちょうだいッ!!」

 羞恥と怒りで顔を真っ赤にした犬合体スカーレットが俺たちに指を差す。
 だが上げた右手にはパグに激似の目が飛び出ているまぬけな顔の犬が恍惚とした表情で腰を振っている。犬合体スカーレットの指先は定まらず、カクカクゆらゆらハァハァしている。

「ぎゃーっはっはっはっは!」
「やめてくれー! ごほっごほっ……俺を笑い殺さないでー!」
「ぶーーーーーーっ」
「ぷぷっ…」

 俺たちの瞳と、腰を振るパグのつぶらな瞳が交錯する。
 スカーレットの腕が小刻みに揺れている。

 ガルガインが四つん這いになって右手を地面にバンバン叩きつけて笑い、スルメが地面をのたうち回って笑い死に寸前、俺は我慢しきれず落ち着くために飲んでいた水を吹き出し、アリアナが肉のない頬をにやりと釣り上げた。

「あ、あ、あ、あなた達おぼえてなさいよぉーーーーーッ!!」」

 犬合体スカーレットが古今東西の脇役とまったく同じ捨て台詞を吐いて、涙を流しながら大草原の奥へと消えていった。スピードに乗ったパグ似の犬はスカーレットに振り落とされないように前足だけで器用にしがみついている。風を受けるバスタオルのように犬がなびく。犬は空中でも腰をカクカク動かしている。

「ぎゃーっはっはっはっはっは!!」

 俺はレディらしく笑っていたが、もう耐え切れず、ガルガインと一緒に地面をバンバン叩いて笑った。

「ひーっ、ひーっ……もう…ぶひゃひゃっ…無理っ。ふぎゃっ!」

 スルメは笑いすぎで腹筋が攣ったらしい。

「今世紀最大級…ぷっ…」

 アリアナはツボに入ったらしく、にやっとしては真顔に戻る、を繰り返している。

 さすがに見るに見かねたハルシューゲ先生が、苦笑いで俺達に声を掛けた。

「君たち、そろそろそれぐらいにしてあげなさい。彼女は結婚前の乙女なんだからな」
「ひーっ、ふーっ……ごめんなさい先生。レディらしく我慢しますわ」
「そうだよエリィ君」
「あれを見せられたら誰だって笑う…」

 アリアナが横からもっともな意見を言う。
 その通りだ。でも俺はおしゃまでおデブな可愛いレディ。
 水でも飲んで心を落ち着かせよう。


 しかしその決意はすぐに打ち破られた。


――ァァ……


――ァァァア………


――ァァァァァアアア…………


――キャーーーーーーーーッ!!!!


――魔物ですわーーーーーーーーっ!!!!!!


 走り去ったはずの犬合体スカーレットが、ウルフキャットに追われて出戻りしてきた。小柄であるが獰猛な牙をもっている魔物に追われ、スカーレットとパグ五匹は必死の形相になっている。もちろんパグはその体をなびかせながら、恐怖の形相で腰をへこへこ動かしている。その滑稽さたるや何にも形容できない。
 いぬ! フィニッシュ寸前の顔にしか見えねえーッ。

「ぶぎゃーっはっはっはっはっはっはははッ!!!!!」
「ぎゃはははははははッッッ?! ぷげっ!」
「ぶぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!!!」
「………くっ」

 ついにガルガインは自身のたんそくとアイアンハンマーを地に投げだし、じたばたもがいて笑い出した。
 スルメは腹筋が崩壊してぴくりとも動かない。
 俺は口に含んでいた水を盛大に吹き出した。
 アリアナは苦しそうに立膝をつく。

「き、君たち……笑っちゃ…可哀そうだよ……ぷっ」

 ハルシューゲ先生は顔を引き攣らせて笑いを堪えながら、なんとか教師らしいことを言って“ウォーターウォール”でウルフキャットを退治した。


   ○


 救援チームが笑い出したので収拾がつかなくなった。アリアナが仕方なく睡眠霧スリープでスカーレットと犬を眠らせ、何とか場を収める。合宿の冊子に『興味本位で使うな』と書かれていた理由がよくわかった。

 時刻は夜の七時。救援を待っている間、魔物が出なかったのは発情犬煙玉ラブリードッグの臭いが強烈で魔除け代わりになっていたから、と救援にきた火のクラスの担任教師が言っていた。確かに服を嗅ぐと、わずかながらクサヤと硫黄を混ぜたような独特の異臭がまだ残っていた。

 時間的には野営をするべきであったが、これだけの人数がいればそうそう何があっても対処ができるということで、俺たち十四人は移動を開始した。

「別に救援を呼ばなくても僕がボーンリザードを撃退していたのにね!」

 痺れ状態と疲労から復活したイケメン風で全くイケメンに見えない亜麻クソが、長い前髪をふわぁさ、とかき上げて、ズビシィッと杖を構えた。俺たちは犬合体スカーレットのせいで笑い疲れ、数時間前の魔力枯渇で精神的にも疲労が溜まっていたのでガン無視する。亜麻クソに唯一反応してくれるスカーレットは、救援チームで一番ガタイのいい熊人の六年生の背中で眠りこけていた。五匹の犬も熊人が腰に付けたロープに引っ張られて移動する小さいソリの中で眠っている。

「僕の奥義を使えばボーンリザードなんてイチコロだったのにね!」

 俺、アリアナ、ガルガイン、スルメ、ハルシューゲ先生は大草原を黙々と歩く。光魔法の初歩、光を出すだけの魔法“ライト”で照らしながら、救援チームが俺たちを護衛するように左右に分かれて進む。周囲の警戒をしてくれているので、気持ちが楽だ。

「ぼ、ぼくの奥義を使えばボーンリザードなんて一撃でボーンだったのにね!」

 やはり夜の大草原は星がきれいだ。背負ったバッグを担ぎ直して、俺は夜空を見上げる。白、赤、黄色、満天の星空が俺たちを見つめている。風が吹けば草がざわめき、遠くの方で獣とも動物とも判断がつかない鳴き声が聞こえる。

「ぼ、ぼくの奥義で、きっと……倒せたんだ! はははっ!」

 俺はアリアナに水の入った水筒を渡した。「ありがと…」と言って彼女は蓋を開けて一口水を飲んだ。後ろを歩いていたガルガインが「ほし肉食べるか」と一切れちぎってくれた。俺は「それじゃあいただくわ」と礼を言って口にほし肉を放り込む。しょっぱさと肉の臭いが口いっぱいに広がっていく。

「ぼくのおうぎ、見たくないのかい!? リーダーのおうぎだぞぅ!!」

 スカーレットを背負っている熊人に俺は近づいた。バッグから小さく切ってある止血用の布を取り出し、丸めて彼の鼻に詰めてあげる。スカーレットは未だに発情犬煙玉ラブリードッグの異臭を放っているのだ。熊人の六年生は丸い鼻をずるずる吸って「ありがとよ。これは助かる」と言った。試しにだらしなくよだれを垂らして眠りこけるスカーレットのスカートを嗅いだら、鼻が曲がった。まじでくせえ。

「ぼくのぉ! おうぎをぉ! 見たくはないのかいしょくん!!!」

 そういえば、といった具合でハルシューゲ先生が顔を上げた。
 “ライト”に照らされる額には若干の青筋が浮かんでいる。

「私が魔力切れになる寸前、私のことを“ハゲ先生”と呼ばなかったかい?」
「え………? なんのことです先生?」

 くっ!
 なんてこった!
 切羽詰まって略して叫びました、なんて口が裂けても言えねえ!

「いや聞き間違いのはずはない。私は最後、ドビュッシー君に“癒発光キュアライト”かけて魔力切れになりそうな朦朧もうろうとした意識の中で確かに君の声を聞いた。ハゲ先生ーッ、と叫ぶ君の声をね」
「せ、先生…それは意識が朦朧としていたのでそう聞こえてしまったのではないですか?」
「ぼくの、さいしゅうおうぎ、それは水魔法ッ」

 ハゲへの執着か!?
 これはハゲへの執着なのか!??

「私は記憶力に人一倍自信がある。君の声は聞こえていた」
「魔力切れで上手く頭が働いてなかったんだと思います」
「魔力切れは何度も経験している。限界まで冷静な意識を残しておくのは造作もないことだ」
「そ、そうだとしても私は先生のことを“ハゲ先生”などとお呼びしていません」
「ところがどっこい先日の適性試験で呼んでいるじゃあないか」
「ぐ……それはそうですが私は過去を乗り越えたのです」
「ぼくの、おうぎ、それは水魔法のアノ魔法だ…」

 俺とハゲ……もといハルシューゲ先生は言った言わないの押し問答を小一時間ほど続け、この件はまた改めて真偽を確かめたいと思う、という言葉を何とか引き出して事なきを得た。危なかったー。


 まだまだ大草原は続いている。
 俺たちはひたすら歩いていた。
 途中、遠巻きに現れる魔物は火クラスの教師が面倒くさそうに放った魔法の圧倒的な火力で消し炭にされる。
 静かになると、夜の湿った空気が顔に当たった。


「しっかしエリィ・ゴールデン。てめえはやればできるじゃねえか」

 ハルシューゲ先生と俺の熱きハゲ問答のあと、スルメが暑苦しいしゃくれ顔をこちらに向けた。

「レディに向かっててめえはないんじゃないの?」
「別にいいだろ。俺たちゃ戦友だ。あのボーンリザードとリトルリザードの群れに遭遇して生き残った戦友だぜ」
「ぽ………ぽくの…………おうぎぃ………………」
「はあ……あなたそんなことだからモテないのよ」

 スルメは俺の言葉に戦慄し、思わず立ち止まった。隊列の後方へと流れていく。
 しかしすぐさま猛ダッシュで俺の横まで来て、急き立てるように声を上げた。

「ど、どうして俺がモテねえって!? どうしてそう思うんだよ!?」
「どうしてって……ねえ?」

 目線を受け取ったアリアナがダルそうに口を開いた。

「がさつ…」
「が、がさつ? 俺ががさつだと!?」
「あと暑苦しい」
「なにぃ!? それはてめえの体型もじゃねえ――ぷべらッ!」
「乙女心がわかってない」
「そんなもん知るか!」
「総合的に見てモテないと一瞬でわかるわ。ねえアリアナ」
「モテるはずがない…」
「そ、そ、そんなぁ……」
「ぽ……ぽくのおうぎぃ……みじゅ……みじゅ…………」

 その場で四つん這いになってうなだれるスルメ。前進する隊列の後方へとまた流れていく。だが立ち直りが早い。短距離走選手のようなきれなフォームで走ってきて俺とアリアナの間に割り込んだ。

「どうすれば! どうすればモテるんだ!」
「どうって言われてもね」
「頼むエリィ・ゴールデン、教えてくれ!!」
「そういう空気読めないところがダメ…全然ダメ…」

 心底嫌そうにスルメを押しのけて、アリアナが俺の横を陣取って並んで歩く。

「え? え? どういうことだ? さっぱりわからん!」

 スルメは頭を抱えて必死な顔で、うおおおお、とうなり声を上げた。
なんつーか、非常に残念な奴だ…。

「そんなにモテたいの?」
「あたりめえだろッ。うちの家系は代々自由恋愛なんだよ!」
「スルメの口から恋愛とかないわー」
「ない…」
「ちょ、おめえら俺の精神を地味に攻撃するのやめてくれねぇか」
「でも事実だし、ねえ?」
「仕方ない…」
「……だれかはぁ…………おうぎぃ…………みてへぇ……」
「んなこと言ったらおめえらだってモテねえだろうがよ!」
「あらそんなことがいつまで言えるかしらね。私とアリアナはすぐ綺麗になるわよ。それで将来あなたが私とアリアナにデートを申し込んでも絶対に断るからね。よろしく」
「どっからその自信がくるんだよこのデブげらッッ!!!」

 俺のビンタでスルメは上半身だけひねらせて後方へ飛んだ。

「レディにデブって言わないでちょうだい」
「エリィはすごい人なの…バカにしないで」

 アリアナが心配そうに上目遣いで俺にすり寄ってくる。
 くっ…なんて可愛いんだ。
 彼女の頭を撫でて狐耳を堪能し、ふといいことを思いついた。

「スルメ、モテるようにアドバイスしてあげてもいいわよ」
「まじかッ!?」

 速攻で復活するスルメ。
 ガルガインが面白そうだとツバを吐いて、救援チームとの会話を切り上げてこちらにやってくる。

「で、で、どうすりゃいいんだ俺は!」
「その前に条件があるわ」
「条件?」
「“複写コピー”ができる魔法使いを捜してきて欲しいのよ。火魔法の上級でそんな魔法があったわよね?」
「……………ぽくちんの…………ぉぅぎぃぃ……」

 “複写コピー”は見た風景を白い紙に複写できる、という文字通りただのコピー機能だ。しかもインクが近くにないと魔法が発動しないという残念な仕様になっている。使った分だけインクが減るので、俗に言う『使えない魔法』の部類に入っており、使いどころは国から出す発行証などの複写のみだ。上級魔法ということで扱える人が一般人に少ないのと、攻撃的な性格の多い火魔法適性者がこんな地味な魔法を習得している確率が低いのとで、使用者を探すのは一苦労だった。

「まあ下の上にそんな魔法があるはあるがよ、あんなクソの役にも立たない魔法何に使うんだよ」
「乙女の秘密」
「なーにが乙女だよ」
「ふーん。いいのよ別に。私はあなたがずっと女子にモテなくて一生独身のまま生涯を終えてもなんにも損はしないし悲しくもないし。きっとあなたはどうして自分がモテないかもわからずに悶々と苦悩しながら生きていくんでしょうね…」
「おい…」
「ああなんて悲しいスルメ。女子からはスルメと呼ばれて友達にはなれるけど絶対に恋仲まで発展せずただいたずらに時間とお金を浪費するだけ。そして女の子たちはそれぞれの想い人と結ばれてスルメにはおこぼれ一つも落ちてこないのよね…」

 俺の言葉にスルメは顔面を蒼白にさせた。ボーンリザードと対峙したときより悲壮感が漂っている。

「わかった! わかったから頼む! うちのわけえ奴で“複写コピー”できるのが二、三人いるからそいつらでいいだろ!?」
「ありがとうスルメ!」

 俺は心からの礼を言った。
 口ぶりからしてスルメの家は結構でかいみたいだな。
 これで例の計画が一歩進んだ。魔力結晶を売れば金も足りるだろう。

「おめえ本当いい性格してるよな……。他の奴らにはおめえのことただの落ちこぼれだって聞いてたけど、ありゃ真っ赤な嘘だったな」
「能ある鷹は爪を隠すっていうからね」
「自分で言うのかよ。ま、お前が優秀だっていうのは認めるがな」
「…………ぽく…の…………ぉぅ…………ぎぃ……」

 ちなみにボーンリザードは、たまたま落ちた局地的な落雷で死んだことにしている。そんな都合良く、とハルシューゲ先生は疑っていたが、伝説の複合魔法を俺が使えるとも思えず、渋々信じてくれた。スルメはアホだから、すげえラッキー俺って幸運すぎぃと叫んでいた。まじでアホだ。ガルガインは、助かってよかったぜ、とだけ言っていた。

「そういえばガルガインの実家って鍛冶屋だったわよね」
「ペッ。なんか売って欲しいのか?」
「カメラってないの?」
「カメ……?」
「風景とか人を紙にそのまま写すことができる道具なんだけど」
「ああ、『記念撮影具』な。俺んところの実家から取り寄せると時間がかかるぞ。それに、かなり高い」
「いくらぐらいするの?」
「三百万だな」
「えっ!?」

 予想以上にたけえ。

「誰か結婚でもすんのか?」
「しないわよ」
「じゃあなんに使うんだよ」
「まあ、色々とね」
「……みてよ…………ぉぅ…………ぎぃ……」

 買うしかないな。
幸い俺の懐には一億ロンの魔力結晶が眠っている。
背に腹は代えられない。

「どうしてもっていうなら知り合いの魔道具屋に口きいてやるよ」
「ほんと! ありがとうガルガイン。あなた男ね」
「それくらいなんでもねえよ」
「ちょーーっと待った!」

 スルメが俺とガルガインの間に入ってきて、しゃくれ顔を突き出した。

「男気があるのは俺のほうだ」
「はあ? 何言ってんだよスルメ」
「おぉぉぉい! おめえも俺のことスルメって呼ぶのかよ!?」
「呼びやすいからな」
「エリィ・ゴールデン! てめえは変なあだ名を浸透させてんじゃねえよまじで! ガルガイン、てめえのあだ名はたんそくだ! 今、俺が決めた!」
「その発言はドワーフすべてを敵にまわすぞ……」

 ガルガインが剣呑な声色でアイアンハンマーを構えた。

「スルメを撤回しろ! 今すぐ!」
「ペッ。たんそくを撤回しろ。今すぐな」
「お前が先に謝罪しろ」
「お前が先だ」
「いいやお前だ」
「お前だ」
「謝れば許してやるよたんそく」
「ペッ。てめえのしゃくれ面を矯正してやる、スルメ」
「んだとぉたんそく!」
「うるせえぞスルメ!」
「ちょっとあなた達こんなところで喧嘩はやめなさいよ」
「………………ぉぅぎぃ………みてへぇ……」

 俺の声はもはや二人の耳には入っていない。
 スルメがバスタードソードを抜いて構える。
 両者が睨み合い、何事かと救援チームが前進を止め、ハルシューゲ先生が喧嘩の仲裁に入ろうと杖を構えた。それと同時に二人が叫び声を上げて飛び掛かった。

「うおおおおおおおお!」
「うおりゃあああああ!」

 バスタードソードとアイアンハンマーぶつかり合い、鈍い金属音をまき散らして勢いが止まる。力はガルガインが有利ではあるが、スルメは身長差にものを言わせてバスタードソードに体重を乗せた。
 二人は武器に入れた力を抜かないまますり足で前進し、お互いの体が接触するほどに睨み合う。

「撤回してもらおうか、アアッ!?」
「調子に乗るなよスルメェ!」

 つばぜり合いは拮抗していた。ギリギリギリ、とバスタードソードとアイアンハンマーが金属の不協和音を奏でる。埒があかないと思ったのか、二人は同時に相手を押し返し、一気に距離を取り、素早く杖を抜いて構えた。

「ファイアボール!!」
「サンドボール!!」

 スルメの杖からはバスケットボール大の火の玉が勢いよく飛び出し、ガルガインの杖から同じ大きさの土の塊が空中に出現して高速で飛んでいく。
 下位魔法の中級ではあるが限界まで魔力を練り込んであり、近くで見るとかなりの迫力だ。スルメの“ファイヤーボール”は大草原に焦げ跡を残しながら突き進み、ガルガインの“サンドボール”は草を引きちぎって前方へすっ飛んでいく。


 ぶつかる!


 俺は咄嗟にアリアナを抱き寄せて余波に備える。


 両者の魔法がぶつかると思った、ま、さ、に、その瞬間!



「ぽくの…ぉぅぎゃああああああああ!!!」



 “ファイヤーボール”と“サンドボール”はその辺をふらふらしていた亜麻クソの尻に当たった。


 ちゅどーんというアホみたいな音をさせて亜麻クソが空中に放り出され、尻を突き出した状態で地面に、ぼとっ、と落ちる。


「あ」
「あっ」


「………ぉぅぎぃ………かんせいだはぁ……」


 亜麻クソはつぶやいて、静かに意識を手放した。



   ○



 ボーンリザードに襲われた、という話は俺が帰宅する前にゴールデン家に伝わっており、家に戻ったら深夜にもかかわらず一家総出で出迎えてくれた。クラリスとバリーは涙を流しながら俺がボーンリザードを倒したと信じて疑わない。いや、実際そうだけど俺の評価どんだけ高いんだよ…。

 心配してあちこち触ってくる家族の対応もそこそこに、自分の部屋にもどり、疲労で泥のように眠った。


 翌日、俺はグレイフナー城に呼び出された。


 Aクラス判定がされている厄介なボーンリザードをどうやって倒したのか、なぜ封印が解けてしまったのか、どうやら王様に会わなければいけないらしい。

 日本だったら大体こういう呼び出しはバッドなことが多く、事後処理を押しつけられる可能性大だ。ため息をつきながら「感謝状がでますねぇ! 勲章かも!」とうきうきしているクラリスと共に、そうだったらいいんだけどな、とあれこれ考えながら着替えをすませた。
エリィ 身長160㎝・体重86㎏(-1kg)
+注意+
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