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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第一章 エリィとイケメンエリート

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第2話 伝説級

――どうなってんだこれ。

 俺はなんとか動くようになった両腕を顔の前にかざした。

 そこには俺の腕じゃない俺の腕があった。

 なんともだらしなく太い腕。異常、といっていいほど白い肌。毛なんかは一本も生えていない。よく見ると毛根すらないぐらい、つるっとしている。

 手のひらなんかはもっとひどい。

 俺の手はもっと男臭くて、ジムでかなりトレーニングしていたので血管が浮き出ていた。それがどうよ、この手は!

 ぷよぷよして関節が脂肪で埋まってやがる。

 デブだな。

 これはデブだ。

 人間ってこんなにすぐ太れるの?

 結果にコミットするトレーニングジムの逆バージョン?

 ぶーちゃ、ぶーちゃ! これであなたもぶよっぶよ!
 ひゃっふー! モテモテ間違いなし!

 ふざけるなよ……?

 どんだけトレーニングしたと思ってるんだ。
 仕事の合間を縫ってジムにいって、食事制限までしてたんたぞ。

 もちろんモテるために。

 あと俺は完璧主義なんだ。ぶよぶよのおっさんとか格好悪いだろ。来年で30だから健康には人一倍気を遣ってきたんだ。それに営業は見た目が大事だ。精悍な体つきのほうが信頼度も高くなるだろう。

 しっかしどうしたもんか。

 声は出ないし、身体は腕と頭しか動かない。

「失礼しますエリィ様、エイミーお姉様がお見舞いに来られました」

 そういうメイドオバハンの声と共にドアが静かに開いた。

「エリィ!」

 入ってきた人物はメイドオバハンと同じように俺に飛びついた。そして顔を上げると、はらりと悲しげに涙を流した。

 顔面が、どアップになった、パツキンの美女がそこにはいた。

 金色の髪にブルーの瞳、桜を散らしたような薄いくちびるは、嗚咽をこらえて揺れている。輪郭もほどよく丸く、しかし丸すぎない。垂れ目なのが、どこか保護欲をそそる。まぼろしでも見ているかのような、伝説級の美人であった。

 俺はなにを隠そう女好きだ。それも相当の女好きだ。追加してイケメンで営業力はトップクラス、趣味も多くて友達も多い。身長は180センチに少し届かないぐらい。最近でいうところの、リア充の完全体みたいな人間だ。まあ冷静に第三者の目で自分を分析しても、他人からかなり羨ましがられる容姿をしている。

 それもあり女性経験は普通の男より遙かにあると自負している。

 その俺が伝説級というのだ。

 間違いなく伝説級の美女だ。そして伝説級にいい匂いがする。

 とりあえず色々考えるのをやめて俺は深呼吸をした。肺のすみずみまで伝説がいきわたるように思い切り空気を吸い込んだ。

「どれだけ心配させれば気が済むの…。あなたは私以上に繊細で引っ込み思案で臆病で……」

 ぽかり、と俺の肩を美女は叩いた。

「あの、エイミー様」

「ごめんなさいクラリス。病人にわたしったらなんてことを」

 美女は叩いた肩にそっとくちづけした。

 おいおいおいおい、叩いたところにくちづけ?
 くせえ! 映画でしかみねえぐらいくせえ行動! 行動も伝説級! すげえ悔しいんだけど、なんかそこはかとなくうれしい!

「エリィ、今度こんなことをしたらわたくし、もうあなたとは二度と口をききませんからね。嫌いになっちゃいますからね……」

 そう言って美女はまた涙を流すのであった。

 メイドオバハンがハンカチを出してそっと美女の涙を拭こうとする。それを美女は押しとどめてハンカチを受けとり、自分でハンカチの角っこを使って涙を吸い取った。仕草までも伝説級だった。こんな所作ができる女は銀座の一見さんお断りのとある店ぐらいでしか見たことがない。その店にも負けてない。いやむしろ見た目補正が入って余裕で勝っている。

 しばらくの間、エイミーと呼ばれる美女は俺のぷよぷよになった手を握っていた。
 よほど心配だったらしい。オバハンメイドともろくに口をきかず、ベッドの脇にひざまずいたまま、かれこれ三十分ほどそうしていた。

「早く元気になってねエリィ。あなたの部屋にあったものはクラリスにもってこさせるから。なにか必要なものはある?」

 そうだな、とりあえずスマホ、持ってきて。

「あら、まだ声が出ないのね……よほどショックだったのでしょう」

 そうして美女は俺のぷよっぷよの手を握り直して、十分ほど自分の胸に抱いた。

 やわらかい感触を楽しみつつ、俺は嫌な予感を身体で感じていた。

 見ず知らずの伝説級美女が飲み過ぎて車に轢かれた男を、なぜこんなに心配しているのかわからない。陰謀に巻き込まれた、と冗談ながらも半分本気で推測する。そこまで重要な個人情報や会社の機密は取り扱っていないが、俺の営業力目当てで引き抜きにくる輩は他社に多数いる。まさかこの美女を使って俺をヘッドハンティングするつもりだろうか。

 こんな美女を雇って引き抜くメリット、費用対効果が俺にあるのか?

 いや、あるかもしれない。

 去年、派手に他社の契約を全部うちのモノにしたのは俺で、ライバル営業からは露骨な牽制をくらった。他社ライバルならかまわないだろうと、睨まれた営業の担当場所を狙って契約を正規の方法でぶんどった。それ以上はやるなと会社からは釘を刺されたぐらいだ。

 普段じゃ見られないほどの特別賞与をもらった。ちょっと同僚には話せないレベルだ。
 その年の年収はやばかった。今年の税金もやばいが。

 まあ俺の営業力なら他社に行っても相応の成果は出せるだろう。

 そうこうしているうちにクラリスというメイドオバハンが、部屋に女物の荷物を次々に運んできた。

「エリィ、わたしはあなたの味方だからね。なんでも言いなさい。出来る限りのことはするわ。学校が終わったらまた見に来るからね」

 エイミーと呼ばれていた伝説級の美女がいなくなると、メイドオバハンも姿を消した。

 くそ、声が出ればいろいろ聞けるものを。

 会社に連絡ができないのは心配だが、まずは身体を治すことに専念しよう。なぜ外人メイドなのか、なぜ金髪美女なのか、なぜ太っているのか、めちゃくちゃ疑問点はあるものの、現状ではなんにもできない。こういうときは図太く立ち回るのが俺流だ。

 ちらりとテーブルを見た。

 外人メイドオバハンが持ってきた物が整理されて置かれている。

 花柄の可愛らしいポーチ、化粧道具が入っているであろうこれまた可愛らしい両手大の箱、手鏡、雑多な本、ピンクとか白とか男の俺からしたら絶対着ないであろう女用の服がいくつか、あと皿の上に甘そうなお菓子類。

 俺はギリギリ手の届く場所にあった手鏡を持った。

 そしてなにげなく覗き込んだ。

 ファッ!?!?!?!?

 そう、俺は何気なく覗き込んだのだ。


 フェッ!?!?!?!?!?!?


 そうなのだ、俺は何気なくのぞきヒィィッ!!!!!!!!!
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