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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第45話 魔闘会でショータイム!⑬


 ゴォォン、と銅鑼が鳴り響き、スルメ対リッキー家の試合が始まった。

『ワイルド家スルメ選手、バスタードソードを振りかぶって一気に駆け寄ったぁ!』

 スルメは身体強化をかけてバスタードソードを大上段に構えて突撃する。

 完全に防御無視、一撃で決めるつもりか。

 対するお肌に良さそうな名前の対戦者、コリー・コーラゲンは色白で目つきが悪く、全身に投げナイフや棒手裏剣、爆発する手榴弾っぽい魔道具、杖数本、短刀などを身につけている全身武器庫みたいな人間だ。

「らあっ!」

 スルメがバスタードソードを振り下ろす。

「———!!」

 コリー・コーラゲンは胸元の丸い玉を地面に叩きつけ、剣が当たるか当たらないかの絶妙なタイミングで後ろに下がった。

 ぼわぁん。

 比喩抜きでぼわぁんという間の抜けた音が鳴って丸い玉から煙が噴出し、周囲十メートルが瞬時に白くなる。

 ビュン!!

 スルメの振ったバスタードソードが観客席まで聞こえる風切り音を響かせ、剣圧で煙を切り裂いた。

 真っ白く広がった煙に一筋の亀裂が走り、その中に身を潜めて棒手裏剣を放つコリー・コーラゲンの姿が見えた。

 スルメはバスタードソードを片手持ちにし、素早く杖を抜いて「“ファイアウォール”!」と叫ぶ。

 赤々とした火の壁が出現し、飛んできた棒手裏剣をかち上げるようにして燃えてコリー・コーラゲンの攻撃を防いだ。さらに熱で煙を上空へと巻き上げる。

 スルメはこれも計算に入れて火魔法上級“ファイアウォール”を唱えたのか。
 あいつ、冷静に戦えてるみたいだな。

「“火蛇ファイアスネーク”!」

 徐々に晴れていく煙を睨みつつ、スルメが火魔法上級、追尾魔法を唱えた。
 スルメの左右に体長十メートルの“火蛇ファイアスネーク”が生み出され、うねうねと空中にとどまる。

 “火蛇ファイアスネーク”は術者が敵を視認しなければ追尾しない。
 一度発動すると普通は勝手に前方へ飛んでいってしまうのだが、スルメは魔力操作で二匹の蛇を待機させている。あれは結構難しいぞ。

 すると、薄くなった煙幕の中から投げナイフ、棒手裏剣、チャクラムが飛んでくる。

 キンキンキィン!!

 形状の違う投擲武器をスルメがバスタードソードの腹で防いだ。
 おお! スルメらしからぬ華麗な剣さばき!

 わっ、と会場が沸き立った。

 本日の最終試合。しかも領地10個賭けの倍返しということもあり、会場のボルテージは最高潮だ。ワイルド家の応援席は「ファイアボウッ」「ファイアボウッ」「ファイアボウッ」とむさ苦しい男どもが肩を組んで絶叫し、「坊っちゃんが負けたら全財産がパァだ!」と口々に魂の叫びを上げている。

 こちらゴールデン席も負けていない。

「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」

 俺の号令で使用人が叫び、応援に駆けつけたガルガインがハンマーで椅子の背もたれをリズミカルに叩く。

「いてまえやぁぁっ!」
「ぶち殺せゴラァァッ!!」

 クラリスとバリーは平常運転。

「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」

 掛け声に合わせてアリアナ、エイミー、エリザベス、エドウィーナ、先ほど合流したサツキが手旗を左右に合わせて振る。

 贅沢すぎる美女と美少女の声援はスルメにはもったいない。
 間近で見ている俺、特等席すぎる。みんなの笑顔がまぶしい。

『両者とも珍しい武器を使っているぞぉ!』
『スルメ殿の使用しているバスタードソードは両手持ちと片手持ち、両方が可能な両刃剣ですな。取り回しが難しく、運用に失敗すると武器性能が引き出せずにかえって使用者の足手まといになる剣ですぞ』
『コリー・コーラゲン氏は投擲武器を使っておりますわね?!』
『さようですな。初手から煙幕を使っているところを見ると近接戦が苦手なようですぞ』

 実況者二人の声が風魔法拡散マイクによってコロッセオ中に響き渡る。

 そうこうしているうちに、じっと煙幕を見つめていたスルメが相手を見つけたのか、“火蛇ファイアスネーク”を二匹解き放った。

 うねりながら火の蛇が飛び、右前方に着弾して火柱を上げる。

 敵に当たったか?!

『待機させていた“火蛇ファイアスネーク”が発射されたぁ!』
『スルメ殿も飛び込みますな』

 左手に杖、右手にバスタードソードを持ったスルメが一気に駆ける。

 煙幕が消えて姿を現したコリー・コーラゲンがあわてた様子で飛び退き、また丸い玉を地面へ叩きつけた。

「させっかよ!」

 左下から右上へバスタードソードを斬り上げるスルメ。
 煙幕玉が半分に切られて不発に終わり、ぼわんと少量の煙を発生させる。

「っらあ!!!」

 スルメは杖を腰のホルスターにしまい、素早くバスタードソードを両手持ちに切り替えて振り下ろした。

 コリー・コーラゲンは短剣を腰から二本引き抜き、交差させて受け止める。

 ガギィン!

 バスタードソードが短剣にぶち当たり、二本を粉々に破壊した。
 さらに勢いは止まらずコリー・コーラゲンの腕へと殺到する。

 ガギッというイヤな音を響かせて腕を守っていた鉄板らしきものが折られ、その衝撃でコリー・コーラゲンの右腕も折れた。

『スルメ選手の強烈な一撃ぃぃぃっ!!!!』
『鋭い剣撃ですな』

「———ッ!!」

 コリー・コーラゲンはたまらず身を仰け反らせ、なぜか目をつぶってつま先を踏み鳴らした。

 カッ!!!!!

 刺さるような閃光が放たれた。
 今度はスルメが身を仰け反らせた。

『まばゆい光! 目眩ましのライト閃光魔道玉だぁ!』
『あれはまぶしいですな』
『スルメ選手、たまらずバックステップで距離を取る〜!』
『コリー・コーラゲン氏、つま先に閃光魔道玉を仕込んでいたようですな』

 コリー・コーラゲンは腕をだらりとさせて顔をしかめつつ、跳躍して距離を取り、左手のみをビデオの早送りのように素早く動かして棒手裏剣を投げ始めた。

 動作のスピードから身体強化“下の上”ってとこか。
 ベルトにぎっしりとささっていた棒手裏剣が彼の右腰から次々に消えていき、高速で撃ち出される。

 スルメは目くらましで目を開けれず、バスタードソードを構えたまま立ち尽くしている。

『スルメ選手目が開けられないぃぃぃっ!!』
『当たりますな』

 コリー・コーラゲンの不敵な笑みがモニターに映し出されると同時に、スルメのバスタードソードがゆらりと動いた。

 キキキキキキキキキキンキキン!

 スルメは目を閉じたまま棒手裏剣を剣の腹でさばいていく。

『なんんんんと、目を閉じながら棒手裏剣を防いでいるぅぅ!』
『これは、すごいですな』

 わあああああああっ、という歓声が巻き起こり、場内にスルメコールが巻き起こる。

 これがポカじい直伝“命閃流”の実力か!
 身体強化で感覚を研ぎ澄まして一撃で相手を屠る剣術と聞いていたが、危機察知能力も向上するみたいだぞ。スルメのくせにカッケぇな。

 スルメはコールの名前が不服なのか剣を操りながら、「誰がスルメだよ誰がっ!」と叫んでいる。

 キキキン、キキキキキキン!

「ってぇ!」

 さすがに防ぎ切れなかった棒手裏剣がスルメの肩に突き刺さった。

『スルメ選手の肩に棒手裏剣が刺さった!』
『よくここまでしのぎましたな』
『コリー・コーラゲン氏、雄叫びを上げながら跳んだぁ!』

「しぇぇぇっ!!」

 コリー・コーラゲンが短剣を抜いて器用に片手で二本持ち、スルメに飛びかかった。
 と思いきや、飛びかかる振りをして空中で一回転して全力で投擲した。

「ちいっ!」

 スルメがようやく目を開け、投げられた短剣を半身になってかわし、二本目はバスタードソードで打ち払う。

 ギィン、と金属同士がぶつかり合う不協和音を奏でて短剣が地面に突き刺さった。
 無理な体勢で剣を振ったため、スルメの身体が一瞬泳ぐ。

 コリー・コーラゲンはスルメが無防備になる瞬間を狙っていたのか、この戦いで初めて杖を抜いて、木魔法下級“樹木の魔蔦(ティンバーアイビー)”を唱えた。

 闘技台から太い蔦がしゅるしゅると現れてスルメの足に絡みつき、がっちりと捕縛した。

『“樹木の魔蔦(ティンバーアイビー)”がスルメ選手の動きを封じたぁ!!』
『まずいですぞ』

 あれじゃあ完全に投擲の的だ!
 抜け出せスルメ!

「スルメ君逃げて〜〜っ!」
「スルメぇぇ! 気合いで抜け出しなさぁぁい!」

 エイミーとサツキが手すりから身を乗り出して叫び、俺も「スルメ! 根性みせなさい!」と鼓舞する。

『ゴールデン家応援席から美女達の声援が響いている〜っ!』
『羨ましい限りですな』
『コリー・コーラゲン氏、水色に輝く投げナイフを取り出し、大きく振りかぶって………投げたぁ!!!』
『魔法ナイフですぞ』

 スルメの腹めがけて輝く投げナイフが飛んでいく。
 身体強化してギリギリ追いきれるようぐらいの凄まじいスピードだ。
 あのナイフ、風魔法が付与されているらしい!

「クソったれ! “炎弾フレアバレット”!!」

 スルメはこともあろうに頭上に上位炎魔法を出現させ、自分の足元目掛けて撃った。

『ああああっとスルメ選手これは自爆かぁ!?』

 ぎゃあああああああっ、とクラリス、バリーが叫び、ワイルド家応援席からも悲鳴が上がる。

 ドンッ、ゴオオオッ!!!

 強力な“炎弾フレアバレット”がスルメの足に着弾にして弾けて火柱を上げ、飛んできた投げナイフを巻き込んでふっ飛ばした。
 火炎でスルメの身体が焼かれ、真っ赤に燃え上がる。

「っらあああああっ!!!」

 スルメが焼けて日本酒のおつまみになっちまう、と思った瞬間、炎の中でスルメがバスタードソードを振り抜いた。

 高速で何かが通り抜けるような空気音が聞こえ、ビシリと闘技台にヒビが入る。
 それと同時に追撃しようとしていたコリー・コーラゲンの右肩から左腰に剣撃が走り、噴水のごとく血が噴き出した。

「なん………だ……??」

 コリー・コーラゲンはなぜ自分が斬られているか分からずに、そのまま後ろに倒れた。

 しん、と静まるコロッセオ。

 炎魔法が収まるとボロボロになったスルメが現れた。
 命に別状はなくピンピンしている。

『研ぎ澄まされた斬撃が飛びましたな。おそらく命閃流、もしくは波岸流の剣術かと思いますぞ』

 実況者イーサン・ワールドが丸メガネをくいっと上げて淡々と解説をする。

 おおおっ、斬撃を飛ばしたのか?!
 スルメすごっ!
 渾身の剣撃は射程範囲を越えて対象を斬り裂く、というポカじいの言葉通りだ。

 命閃流は名前の通り、己の生命力を極限まで高めて相手に勝つ、一撃必殺を至上とした流派だ。スルメは最大のピンチを作り出して自分を追い込み、今できる究極の一発をバスタードソードに込めたってわけか。そのおかげで斬撃が飛んだ、ってことだろうな。
 今は無理みたいだが、飛ぶ斬撃が連発できるようになったらめちゃくちゃ強いぞ。

 数秒して、審判のシールド団員が両手をクロスさせ、すぐさまコリー・コーラゲンに白魔法を唱えた。

 ゴォォンと、試合終了の銅鑼の音が静かなコロッセオに響き渡った。

 うおおおおおおおおおおおっ!
 うわああああああああああっ!
 歓声が爆発し、ガンガンと鉄の背もたれを叩く音が周囲に反響する。

『ま……まさかの逆転勝利ぃぃぃぃっ! 勝者は、自らに炎魔法を撃ち込み、強引に木魔法の拘束を破壊して剣撃を飛ばす剣士、ワンンンンンズ! スルルルルルルルルメッッ! ワイイイイィイィィィィィルッ、ドーーーーーーーー―ッ!!!』

 実況のレイニー・ハートが絶叫すると、観客がさらに声を上げ、魔法賭博チケットが宙を舞い、背もたれを叩く音が一段と大きくなる。

 横を見ると、きゃーっ、と可愛い歓声を上げてエイミーとサツキが抱き合った。

 その横でガルガインが「うおおおおおおおおおっ!」と雄叫びを上げる。

 アリアナは戦いを見て興奮したのか狐耳をせわしなく動かしているので、捕まえて抱き寄せ、もふもふの刑に処した。

 もふもふもふもふもふ。

『これでリッキー家は領地10個を失い、ワイルド家は10個領地を増やしましたわっ! リッキー家はもともとあった150の領地からマイナス50! 次の試合に負けると三桁を切ってしまう大ピンチですわよっ!』
『一回の魔闘会で領地マイナス50個とは……グレイフナーの歴史が始まって以来初ですぞ』
『イーサン・ワールド氏。わたくし気になっているのですが、スルメ選手は先ほどの炎魔法を身体強化で防いだのでしょうか?』
『いかにも。“炎弾フレアバレット”を上空から打ち出し、着弾するわずかな時間で身体強化、そして耐えた。火魔法適性の家系ワイルド家ならではの脱出法でしたな。実に素晴らしい勇気と決断力でしたぞ!』

 解説が入ったことによりスルメの凄さに気づいた観客から拍手が巻き起こり、スルメコールがコロッセオを包んだ。

 ゴールデン家応援席が率先してコールを変える。

「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」

 俺達のコールに周囲がつられていき、段々とコールがまとまっていく。

 三十秒もすればコロッセオ全体から「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!」のコールが響いていた。

 スルメは焼け焦げた服のまま、カメラを指差して、大きく息を吸い込むと口を開いた。

『おっとぉ?! スルメ選手から何か一言あるようですわ!』

「だーーーーかーーーーらーーーー! だっっっっっっっっっっっっっっっっれがスルメだよ誰がぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 もちろん出てくるのはお決まりのセリフであった。



      ◯



 スルメの試合が終わり、観客は興奮冷めやらぬ様子で三々五々散っていく。

 俺が二戦二勝して大満足なゴールデン家は、好き勝手に抱き合って喜びを表現しながらコロッセオの貴族専用口から馬車に乗り込んだ。エリィ両親に加え、俺、エイミー、エリザベス、エドウィーナの四姉妹が四頭馬車に乗り込み、アリアナも乗せて出発する。

 父ハワードが盛んに俺のことを褒め、そして全員で揃って馬車に乗っていることが嬉しいのか相好を崩した。イケメン外人の垂れ目がさらに下がり、のほほんとした空気が漂う。

 母アメリアは長女エドウィーナと賭けで勝った資金の運用法を話し合い、ハワードもそれに加わり、エイミーはエリザベスの腕を取って楽しそうにおしゃべりしている。

 窓の外を見れば、人でごった返す首都グレイフナーの様子が見えた。
 そこかしこで魔闘会の話題が繰り広げられているみたいだ。

「エリィ、明日のファッションショーが楽しみだね」

 向かいに座るエイミーが座席から身を乗り出して笑顔で言ってきた。

「そうね! ファッションショーも楽しみだし、オーディションもワクワクするわ」
「ジョー君がやっとデザイナーが増えるって泣いて喜んでたよ」

 ジョーがほとんどのデザインを一手に引き受けていたからなぁ……。
 さすがに手が回らない状態だから泣くのもうなずける。

 オーディション前にデザイナーを雇おうという話も出たが、やはり話題性が重要だと思うのでここまで増やさずに我慢してきた。

「モデルの子も増えるんでしょう?」
「ええそうよ。エイミー姉様ぐらいカリスマ性を持った女の子が発掘されることを願うわ」
「んも〜やめてよエリィ、私そんなんじゃないから。服のおかげだよ〜」
「姉様ったらいつまでも謙虚よね」

 ファッションショーの話題になると皆が会話をやめてこちらを見た。

「エリィ。私もファッションショーを見学します。いい席を用意しておいてちょうだい」

 母アメリアが真剣な表情で言ってくる。もとよりそのつもりなのでゴールデン家関係者席は確保してあった。

 関係者席はゴールデン家、サウザンド家、ヤナギハラ家、ピーチャン家、ワイルド家の分を用意しており、特別席として王族の関係者の席も用意している。

 ゴールディッシュ・ヘアの開発には王国側がバックについてくれており、他国への技術流出を防ぐために情報規制をかけているのが現状だ。国王はゴールデン家とコバシガワ商会が新素材で儲けて一人勝ちすることを気にしている様子であったが、革新的な素材を国中に流通させたいとも考えているので、しばらくはこちらが稼いでも文句は言わないだろう。

 そんなこんなで、イケメン皇太子が王国代表としてファッションショーを見に来るそうだ。
 てかねぇ……あの皇太子、まだエリィとの結婚をあきらめてないんだよなぁ……。手紙が週一回ゴールデン家邸宅に届くので返信がめんどくさい。王族だから邪険にできないところなんか特にね……。

 馬車内がファッションショーの話題で盛り上がると、時間があっという間に過ぎてゴールデン家に到着した。

 さすがに二戦して疲れたのですぐ風呂に入り、食事をして自室のベッドに寝転がった。

 お泊りしたかったのか、アリアナが一度家に帰ってからゴールデン家やってきた。
 彼女はエイミーと風呂に入り、そのあとエリィの部屋に来て、今は『躍る騎士人形の修業ボックス』を両手に抱えて何度もチャレンジしている。

「お休みのところ失礼いたします」

 ドアがノックされ、クラリスが入室した。
 彼女は完璧なメイドの一礼をするといくぶん緊張した顔つきで口を開いた。

「明日、セラー神国の大使が首都グレイフナーに到着するようです。気になることがあるとのことで、ポカホンタス様が先行して偵察に出ておいででございます」
「セラー神国の大使……ねぇ」
「明日、国王と謁見。迎賓館に宿泊し、四日目、五日目の魔闘会を観戦なさるそうでございます。おそらく明日の謁見で先のミスリル事件の釈明があるかと存じますので、どのような対談が国王とセラー神国大使の間で行われるのか気になるところでございます」
「ねえクラリス。グレイフナー王国はミスリルを盗まれたままなのかしら?」
「と、言いますと?」
「“武の王国グレイフナー”と名高い我が国が賊を取り逃がして、見つかりませんでした、なんて泣き寝入りするとは思えないんだけど」
「何かしらの手は打っているかと存じます。ただでやられるグレイフナーじゃあありませんよ。ええ。もしセラー神国が犯人であれば、屈辱は千倍にして返しますとも」

 クラリスは鼻息荒く拳を振り上げ、すぐさま貞淑なメイドに戻って一礼をした。

「あと、パンタ国からも大使がおいでになるそうです。『くじ引き戦』の余った一枠はパンタ国の大使自らが参戦されるとのことです」
「まぁ、そうなのね。私が当たったらどうしましょう」
「確率としては低うございますから、気にしなくてもいいかと。ただ、勝てば領地1個と報奨金が国から出ますので、条件としてはおいしい戦いでございますね」
「とは言っても敵の前情報がないから不利は不利よねぇ」

 まあそうそう当たるもんでもないし、気にする必要もないか。

「くじ引き戦…楽しみ…」

 アリアナが修業ボックスから顔を上げてつぶやいた。
 サイズの大きいタオル地のパジャマを着ていて、めたくそに可愛い。

 魔闘会四日目の予定は『一騎討ち/くじ引き戦・1』『一騎討ち/指名戦・3』となっている。

「私は五日目のアリアナ対ガブガブが楽しみだわ」

 なんといっても今魔闘会の目玉。
 グランティーノ家による下剋上、アリアナVSガブリエル・ガブルの試合がある。

「アリアナは明日、明後日、ポカじいに最終稽古をつけてもらうんでしょう?」
「そうだね…」
「修業ボックスはどう?」
「うん、二体までは倒せるようになった。もう少し頑張れば、三体いけそう…」
「まあ! 頑張っているわね」
「エリィは?」

 アリアナがこてんと首をかしげる。
 彼女はカンフー修業の麻袋叩きのことを聞いているようだ。

「七割ぐらいかしら。おかげでだいぶ魔力操作が向上したわ。この勢いなら身体強化しながら魔法を使うのも夢じゃないわね」
「うん…」
「何にせよ、この魔闘会は手持ちの武器で頑張るしかないわ。いまのところ余裕だけど、上位魔法を連発してくるような相手に当たると私もつらいわね」
「そだね」

 アリアナが修業ボックスを机に置いてトコトコと近づきベッドに上がった。
 小さな顔を俺の肩に擦りつけ、じいっと上目遣いで見つめてくる。

 これは……もふもふしてよの合図ッ。

 頭の中心に手を置いて左へ右へとゆっくり動かす。
 狐耳がつぶれてすぐにピンと立ち上がり、またつぶれる。

 もふもふもふもふもふ。

「ん…」

 艶めいたアリアナの吐息がエリィの部屋に響く。

 やはり気になるのはセラー神国だな。
 ポカじいが偵察に行くほどの何かがあるのだとすれば、こちらもそれ相応の気構えでいる必要がある。魔闘会四日目、五日目で何も起きなければいいけどな。

 しばらくもふもふを楽しむと、頃合いを見計らってクラリスが頭を下げた。

「エリィお嬢様。明日は朝からファッションショーでございます。お休みになられたほうがよろしいかと存じます」
「そうね。ありがとう、クラリス」
「とんでもございません」

 そういってクラリスは部屋のランプを消して回り、一礼して部屋から出ていった。

 俺とアリアナはベッドにもぐりこみ、何か話そうとも思ったがお互い疲れていたらしく、すぐに眠ってしまった。
 —————————————————————
領地数100個以上対戦表
二日目
『一騎討ち/指名戦・2』
 ※親が左、子が右。括弧内が賭けた領地数
 ※◎勝ち

第1試合
【サークレット家 →(2)ゴールデン家】
 ヴァイオレット・サークレット ☓ ◎エリィ・ゴールデン

第2試合
【ショフス家 →(2)ギャリック家】
 スティーブン・ショフス ☓ ◎ホウ・ギャリック

第3試合
【サウザンド家 →(倍返し10)リッキー家】
 ☓☓ リッキー家が拒否権を発動 ☓☓

第4試合
【テイラー家 →(3)サークレット家】
 ☓☓ サークレット家が拒否権を発動 ☓☓

第5試合
【シュタイガー家 →(1)マウンテン家】
 ◎グレイト・シュタイガー ☓ ロー・マウンテン

第6試合
【ウォーカー家 →(2)ヤングマン家】
 ◎エアリ・ウォーカー ☓ ワンダー・ヤングマン

第7試合
【ギャリック家 →(1)ゴールデン家】
 ハーナ・ギャリック ☓ ◎エリィ・ゴールデン

第8試合
【ワイルド家 →(倍返し10)リッキー家】
 ◎ワンズ=スルメ=ワイルド ☓ コリー・コーラゲン
 —————————————————————


=====================
グレイフナー王国貴族所有領地数

 1.バルドバット家(1002)
 2.サウザンド家 (1001)
 3.テイラー家  (822)
 4.ヤナギハラ家 (746)
 5.ササイランサ家(600)+10
 6.ガブル家   (550)
――――――――――――――――――――
 7.ジャクソン家 (470)
 8.サークレット家(420)−8
 9.ピーチャン家 (402)
10.クラーク家  (367)
11.ウォーカー家 (340)+2
12.ヤングマン家 (322)−2
13.ジュウモンジ家(285)+3
14.エヴァンス家 (252)
15.シュタイガー家(238)+1
16.ツ家     (220)
17.ストライク家 (209)+3
18.ワイルド家  (150)+10
19.リッキー家  (150)−50
20.マウンテン家 (124)−1
21.シルバー家  (119)
22.ショフス家  (111)−2
23.モッツ家   (106)
24.ギャリック家 (103)+1
25.ゴールデン家 (100)+33
――――――――――――――――――――
26.フィッシャー家(96)
27.ムーフォウ家 (92)
      ・
      ・
      ・
332.グランティーノ家(2)+1
      ・
      ・
=====================
魔闘会終了後、獲得領地が正式に反映されます。
+注意+
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