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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

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第6話 エリィお嬢様の素敵な日常

今回はクラリス、エイミー視点での話です。
 エリィお嬢様の一日は大変忙しいのでございます。

 朝の六時に秘密特訓場へ向かいトレーニングを致します。

 ウォーキングをたっぷり一時間。
 そのあとに魔法の練習。
 かわいいお身体で腹筋を百回。
 膝立ちの腕立て伏せを百回。
 最後に柔軟体操。

 トレーニングが終わるとシャワーを浴びて屋敷へ戻ります。

 朝食と夕食は必ず全員で取る、というのがゴールデン家のルールでございますから遅刻は許されません。

 お嬢様はご自分で決めた食事制限をしっかりと守り、わたくしは献立をノートに記します。

 本日の朝食は――
 クロワッサン一つ。
 サラダをお皿で一杯(ドレッシング少々)
 茹でた鶏もも肉を一ピース(旦那特製)
 リンゴを三切れ。

 ダイエットをすると宣言をしたお嬢様の決意はなかなかに固いご様子。お腹がすいて倒れやしないかとわたくしはいつも心配しております。お嬢様にその旨をお伝えすると決まってこうおっしゃいます。「クラリスは心配性ね」と。

 あの雷雨の事故以来、お嬢様はまるで別人になったかのように明るくなられました。わたくしは旦那のバリーといつもそのことばかりを話しています。お優しくありすぎるお嬢様が学校で損をしていたことも知っております。

 わたくし達は近頃、妙に涙もろくなってしまいました。朝、お嬢様を見る度に目元が涙でにじんでまいります。お元気なお嬢様がまぶしくて仕方がないのです。

 お嬢様がまだ十歳だった頃、右手に怪我をしたわたくしを心配して泥んこになりながら四つ葉のクローバーを持ってきて頂いたこと、今でも忘れておりません。あのクローバーは魔導具店にお願いして風化防止付きのしおりにしてもらいました。わたくしの宝物でございます。

 お嬢様は、頬に傷があるうちの旦那のことを怖がったりしません。美味しいご飯を作ってくれるから好きだと旦那にいつも言っております。うちの旦那もすっかりお嬢様に骨抜きにされてしまいました。何かにつけてお嬢様はどうした、お嬢様は元気か、お嬢様はどこにいる、と聞いてくる始末でございます。

 さて、朝食を終えたお嬢様は制服に着替えてエイミーお嬢様と仲良く登校致します。本当に仲良し姉妹でございます。目元がそっくりなお二人が楽しそうにお話をしているご様子を見ると、心の真ん中がほっこりとあたたかくなるのです。

 以前はエイミーお嬢様の美しさに引け目を感じていたお嬢様でしたが、最近そんなご様子は少しもございません。伏せがちだった目も、今では真っ直ぐと前を見ております。なにやら達観したご様子でございます。エリィお嬢様はひたむきで優しく美しいレディでございますから、自らを卑下する理由なんてどこにもございません。そんな本当のご自分にようやくお気づきになったのかもしれません。

 奥様にエリィお嬢様のご様子を報告し、わたくしはお嬢様にお願いされていた情報収集をするべく町へと繰り出します。

 まず孤児院の件。楽しそうにお手伝いをされていた孤児院があんなことになってしまい、お嬢様の心痛は計り知れません。少しでも手がかりがないか、足がつかないように調査をしております。

 そちらが終わると次はクリフ様の件。セラー教の教皇のお孫様で、何の前触れもなく姿を消してしまったそうです。エリィごめんね、という書き置きだけを残して消えてしまったあの方は、何かの事件に巻き込まれたと考えるのが妥当でございます。お嬢様とは図書館で逢瀬を重ねたタダならぬご関係であったそう。別れの挨拶をしないようなお人ではないとのこと。

 なにやら孤児院の件と関係がありそうで、きな臭いことこの上ないのでございます。

 孤児院はリッキー家の領地内ですから、第一容疑者はリッキー家で間違いございません。他家の事情を嗅ぎ回るのは得策ではございませんし、あの家はどうもガードが堅く何の噂も出てきません。火のないところに煙は立たぬ、という名言を残した大冒険者ユキムラ・セキノが言っている通りシロなのかと思いましたが、わたくしの勘がリッキー家はクロだ、と警鐘を鳴らしております。挑戦的かつ好戦的なあの家のことです、いつか尻尾を出すでしょう。

 リッキー家は今年の魔闘会一騎打ちで旦那様が惜敗した相手でございます。二年前も戦い、敗北してございます。あの家とは遠からず因縁が存在しているのかもしれません。

 そうこうしている内に下校のお時間です。わたくしはグレイフナー魔法学校へお嬢様をお迎えに上がります。ほぼ百パーセントの確率で、うちの旦那が自分の仕事を部下に任せて馬車でやってきます。来るんじゃないと何度言っても聞く耳を持たないので、あきらめております。

 馬車でお嬢様は洋服店のミラーズへ赴き、あれこれと指示を出し、お貯めになっていたお金を出し惜しみせずに店主に渡しております。お嬢様に失礼なことを言ったジョーという青年とも仲良く、ああじゃないこうじゃないと、デザインについて熱く語っております。本当にお洋服が好きなご様子。そろそろエイミー様へのお洋服が完成するとのことだったので、わたくしも非常に楽しみでございます。

 ミラーズへ行かない日は、秘密特訓場へと向かいます。ここでもお嬢様はストイックにトレーニングを致します。ウォーキング、魔法練習、筋トレ、をみっちりと行います。「風」魔法も習得し、楽しげでございます。

 そうなのです。驚くことに「風」を習得せずに「雷」魔法を使えるようになってしまったのです。普通では考えられないことでございます。複合魔法を使うには、必ず上位魔法を二つ習得する必要がありますので、お嬢様は天才、と言うべきなのでしょう。

 わたくしが唯一使える「ウインド」の魔法にも大変興味を持たれており、特に「いけすかない貴族のヅラを飛ばす方法」を習得しようと躍起になっておられました。下の下、初歩の初歩「ウインド」を、的確に相手の額めがけてバレないように飛ばすだけでございますが、魔力制御がなかなかに難しく、わたくしも習得には大変苦労致しました。お嬢様はなにやらコツを掴んだのか、つい先日、完璧に習得致しました。

 ミラーズへも特訓場へも行かない日は、美容関係のお店を巡ります。ニキビを消す方法と髪をさらさらにするグッズをお探しになっており、未だに見つかっておりません。たまに、「マツモトキ○シはないの?!」「ビダル○スーンのリンスが欲しい」「資生○があればすべて解決する」など、謎のフレーズを呟いておいでです。何かのおまじないでしょうか。

 落雷サンダーボルトが使えると分かってから早三週間、お嬢様は目に見えてお痩せになりました。体重はなんと94キロ。入院中は110キロでしたから、16キロも痩せた計算になります。スカートのウエストを詰めないといけませんね。

 こうして放課後を満喫したお嬢様はお家に帰り、旦那様、奥様、エドウィーナお嬢様、エリザベスお嬢様、エイミーお嬢様と楽しくお話をし、十時には就寝致します。夜更かしは美容に悪い、と自分自身に、そしてわたくしにも口を酸っぱくしておっしゃいます。わたくしの苦労皺はもはやトレードマークですから、気を遣って頂かなくてもよろしいのですが。

 愛するお嬢様のためでしたら、どんな苦労だってちっとも辛くはございません。お嬢様専属メイドになってから、このクラリス、幸せでございます。毎日が薔薇の咲いたような満ち足りた時間で埋め尽くされてございます。

 ですが、どんな物語にもトラブルはつきものでございます。

 わたくしの、わたくし達のエリィお嬢様が、本日あのような姿で帰って来ようとは一体誰が想像したでしょう。

 わたくしは怒りで我を忘れてしまいそうになりました。
 誰がお嬢様を傷つけたのか。
 どこで、いつ、どうやって。
 犯人を見つけて厳罰を与えねばなりません。

 誰にやられたのでしょう。
 健気なお嬢様はわたくし達の問いにこうお答えになりました。

「ちょっと転んだだけよ」と。


   ○


 エリィは可愛い。引っ込み思案でちょっと人見知り。でも優しくて芯が強く、他人を思いやれる女の子。私の可愛い妹。

 あの雷雨でエリィが事故に遭ったとクラリスが血相を変えて部屋に飛び込んで来たとき、私は血の気が引いて気絶しそうになるほど気が動転してしまった。池のほとりで倒れているエリィに、私は持てるすべての魔力を使って「水」の上級・治癒上昇キュアウォーターと「光」の上級・癒発光キュアライトをかけた。あのときほど、上位である「白」魔法ができれば、と思ったことはない。

 駆けつけた白魔法士がエリィを治療し、どうにかして絶望的状況を脱した。白魔法士の話によれば、驚異的な精神力のおかげ、らしい。私からすれば、私の使った、「下の上」魔法と彼の「上の中」魔法には隔絶した差があったと痛感させられ、回復は「白」魔法が必要だと思い知らされた。

 目が覚めてからエリィはしばらくしゃべれず、怖い夢を見ていたようだったけど、すぐに元気になってくれた。そして何よりエリィは明るくてお茶目になった。あの子がなんだか別人になったみたいだった。

 でもエリィとお話をして、すぐにそんなことは忘れてしまった。やっぱりエリィはエリィで、優しさや心の強さは何も変わっていなかった。むしろ前よりも強くなっているような気がする。ときおり見せる真剣な顔は、我が妹ながら惚れ惚れするほどだ。

 最近じゃ、エリィにからかわれることがある。もう本当にひどいんだから。この前なんか、スライムの抜け殻ゼリーを顔に塗ると、空を飛べると言われ、エリィがまず顔中にゼリーを塗ってベッドからジャンプした。すると、エリィが三秒だけ浮いたのだ。私はそんなはずない、と思ったけど、ついうっかり信じてしまった。

 私も顔中にゼリーを塗ってベッドからジャンプした。ぴょんぴょん跳んでいるとエリィが楽しそうに笑い、「姉様、ゼリーで空を飛べたら今頃ゼリーは売り切れよ」と言った。近くにいたクラリスも笑っている。単純に、エリィとクラリスが同時に「ウインド」を唱えてちょっぴり空中に浮いただけだった。やっとそれがいたずらだと気づいてエリィに怒ったけど、姉様は可愛いわ、と言うだけで何の効果もない。エリィったらあんなに笑って……ひどいんだからッ。

 そのあと部屋に来たお母様が顔にゼリーをくっつけた私たちを見て、こっぴどくお説教をした。エリィは全然懲りていないみたいで、すまし顔でお母様のお説教を受けていた。

 エリィが元気になってくれて本当に良かった。

 私はエリィが笑っている顔を見ると時々涙が出そうになる。学校でいじめられていて、ここ二年間、エリィはすっかりふさぎ込んでいた。いつも肩を落として歩いていたあの子が、近頃は嬉しそうに私と肩を並べて学校に行ってくれる。前向きでひたむきなエリィが私は愛おしい。

 エリィの一日は忙しい。朝は特訓場に行き、魔法の練習をし、学校に行ってそのあとミラーズに行く。ミラーズに行かない日は、どこか別のお店を探索する。買い物をしているエリィは真剣で、あれこれと私に質問をしてくる。

 サツキちゃんと約束がない日はいつもエリィと放課後を満喫している。近頃の私の日課になりつつある。

 ミラーズのジョーというデザイナー志望の青年をビンタしたときは驚いて腰が抜けそうになった。あんなに怒ったエリィは初めて見た。でもあの青年も青年だ。年頃の女子にあんな失礼なことを言うなんて、乙女心がわかってない。あのあとエリィが「後悔しないように生きたい」と口にした事で、私は彼女が本当に変わったんだな、と思った。エリィが生きていてくれてよかった。神様には感謝してもしきれない。

 全世界の乙女を代表したようなビンタを見て、ちょっとすっきりしたのはここだけの秘密だ。

 そして、彼女があそこまで洋服が好きだとは知らなかった。すごく物知りだし、突拍子のないアイデアをいくつも持っている。わたし専用のお洋服をお小遣いで作ってくれると言ったときは、嬉しくてその場で飛び上がりそうになった。

 あの事故から三週間。エリィはダイエットを継続している。別にしなくてもいいと思うんだけど。それを言うといつも悲しい顔をして「デブは損なのよ姉様」と言い「デブでブスは年収が半分になるという統計もあるわ」「デブは自己管理ができないと見なされ出世に響くの」などの謎の言葉達を呟くこともある。難しいから私にはよく分からない。多分、何かの冗談だろう。

 今日の放課後、めずらしくエリィは一人で町を歩きたいと言っていた。早く帰ってくるように言って、私は家に帰った。

 エリィをひとりで町に行かせたことを後悔した。

 帰ってきたエリィは全身泥だらけ。服はところどころ破け、すり傷がいくつもある。

 私は急いで癒発光キュアライトをかけながら、どうしたのかを彼女に聞いた。クラリスが山火事から逃げるピッグーのように転がりこんできて、神に見放されたジプシーのように嘆きながらエリィを介抱した。

 するとエリィはこう答えた。

「ちょっと転んだだけよ」と。
エリィ 身長160㎝・体重94㎏(-12kg!)
+注意+
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