挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

119/123

第43話 魔闘会でショータイム!⑪


 ジョン・リッキーとの試合後、選手控室で普段着に着替えた。

 ショーパンで観客席をうろうろするのはさすがにまだ早い。生足を出すファッションを浸透させ、グレイフナーに流行を作ってからだ。

 ゴールデン家一同が陣取っている観客席へ戻ると「わああああっ!」という歓喜の声が聞こえ、エイミーが真っ先に抱きついてきた。

「エリィ! ああん、すっごくカッコよかったよ!」

 彼女特有の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

「エリィ、頑張ったわね! 途中ヒヤヒヤしたわっ」

 めずらしく興奮した様子のエリザベスがエイミーごと俺を抱きしめてきた。ああ、すっごい。姉ちゃんズの胸の圧力がすっごい。

「エリィ、あなたいつからあんなに動けるようになったの?!」
「最後のビンタが素晴らしかったわ! 私が若い頃にハワードを叩いたときと動作がそっくりだったわ。血は争えないのかしらね?」

 エドウィーナが驚きと喜びの声を上げながら俺をねぎらい、母アメリアが感慨深げに首をかしげている。

「あれは痛かった。浮気の濡れ衣を着せられたんだっけな……」

 父ハワードが当時を思い出したのか頬を撫で、アメリアの肩を抱いた。いまだ熱々カップルの二人は熱っぽい視線を絡ませる。

「おじょうざばぁ! わたくし、感動しました! パンチパンチ! キック! シュッシュッ! とどめのビンタでございます!」

 クラリスは顔面を涙で濡らしながらヒーローものの映画を見終わった子どものように興奮し、十二元素拳の真似をしている。俺とジョン助の戦いを楽しんでくれたみたいでよかった。あと、顔が近い。

「おどうだば! ばべばほうがばばったぼび、おどうだばがばらべべじばったがどぼぼびわだぐじじんぼうがびっかいぼばりばじだぁ!!」

 コック帽のバリーはゾンビのように這いつくばり、泣きながら匍匐前進でこちらに向かってきた。こええ。こええよ。応援しすぎで喉が枯れて、何言ってるのか分からねえよ。

 これは……つかまれたら例によってスカートをズリ下ろされるやつだ。

 いやいや、デブっちょだったエリィがパンツ一丁になるのはまだギャグ路線として許容できるが、今のエリィがスカート下ろされたらタダの事案にしかならんぞ。

 てか、デブでも痩せててもエリィのパンツを周囲に見られるのはダメだろ。

 近くにいたアリアナがバリーのゾンビ化に気づき、小さな“サンドウォール”を作って匍匐前進を防いでくれた。
 アリアナはスカートをズリ下ろし事件の詳細を知っていたので、エリィの身の危険を察知してくれたようだ。話しておいてよかったわ。

 バリーは……何かを言いながらゾンビのごとく、ズリズリと土壁に頭を擦り付けている。しばらく放っておかないと鎮静しないパターン。

 エイミーとエリザベスが離れると、応援に来ていたコバシガワ商会の一団とミラーズの社員らが次々にねぎらいの言葉をかけてくれた。

 ウサックス、ミサ、ジョーもえらく興奮した様子で観客席から見た試合の様子を説明してくれる。

 時間稼ぎをしていただけあって、かなり見応えのある試合になったみたいだな。これだけみんなが喜んでくれたのはいいことだ。エリィも楽しいのか、彼女の心が弾んでいるように思える。

「エリィお疲れ様。ジョン・リッキー、杖が消えるとき変な顔してたよ…。こーんな…」

 周囲がある程度落ち着いたところでアリアナが近づいてきて上目遣いで見つめ、そして人差し指を自分の両目の端に添えて、ぐいと引っ張った。

 大きな目が真横に伸びた。
 なんだろ……ジョン助の真似でもしてるってのか……?
 真似どころか、ただ可愛いだけなんだが……。

 いつもどおり狐耳をもふもふとゆっくり撫で、戦いの疲労を回復させる。

「ん…」

 アリアナは俺に狐耳を揉まれ、人差し指を顔から離して気持ちよさそうに目を閉じた。

 あ〜癒されるこれぇ〜。
 やっぱアリアナの狐耳には精神疲労、肉体疲労、肩こり、目の疲れなど、温泉ばりの効能がある。

「握手を!」「エリィ嬢ーっ!」「お嬢様こっち向いて〜っ」「遠くから見ても可愛い!」「顔ちっさ、おっぱいでかっ」「あの靴が欲しいですぅ」「見て見て、アリアナちゃんもいるわよ!」

 しばらくすると、エリィを一目見ようと野次馬が押しかけた。

 コロッセオの客席は一般人と貴族で分かれておらず、金さえ払えば誰でも観戦できる。貴族は人海戦術と金で席を確保するが、こうして野次馬気分で一般人が貴族に近づくのはルール上問題ない。垣根の低さもグレイフナーらしいところだな。

 ゴールデン家使用人達が壁を作って丁重に追い払った。

「ハワード・ゴールデン殿! 以前王宮で挨拶をしたミニティア家のピーターだ! 我が娘の結婚式でエリィ嬢に浄化魔法を唱えてほしいんだがどうだろう?! 金なら1000万ロンまで出せる!」
「あいやお待ちくだされミニティア殿っ。それがしのほうが先にハワード殿に話をしようとしていたところですぞ! どうかエリィ嬢に我が妻の分娩に立ち会ってくれるよう言ってもらえないだろうか?! あの神々しい浄化魔法の中から生まれてくれば、我が子に幸運がもたらされること違いなしじゃ!」
「なにを仰る! カッソプサー殿はサウザンド家の浄化魔法師を雇っておいででしょう?! よくもまあ傲慢にもそのような申し出ができたものですなぁ!」
「今しばし待ちたまえっ! アシル家が婉美の神クノーレリルのごとき美貌を持つエリィ嬢を雇おうじゃあないかっ!」
「お待ちを! 我がピャルラルラ家が——」
「いや、我がバブリー家が——」

 一般人の勢いが収まると、今度は貴族のおっさん達が押し合いながら人垣をかき分けてきた。
 当主ハワードを説得し、エリィを浄化魔法師として雇いたいらしい。

 縁起ものの魔法として重宝される浄化魔法は各所に人気の魔法で、習得している魔法使いは貴重だ。また、若い女性の浄化魔法師は見栄えがいいので結婚式で珍重される傾向にあり、売れっ子歌手並に人気があって呼ぶことが難しい。

 しかも、エリィのように可憐で美人で可愛くて、おまけに清楚。使える魔法も下級ではなく超難易度の中級浄化魔法。となれば、報酬金額はとんでもないことになる。

 稼いじゃう?
 浄化魔法でがっぽりいっちゃう?
 ピュアリーホーリードリームで中目黒のマンション一棟買いしちゃう?

 そうこうしているうちに、さらに貴族が集まってきて鬼の形相でハワードに詰め寄った。
 全員が声高に浄化魔法の使用を求めている。

「皆様申し訳ございません! あいにく、うちの娘は多忙です! どうしてもという方は我がゴールデン家に正式な書面をお送りください! その際に返答させていただきます!」

 父ハワードが集まってきた貴族達をどうにか押しとどめ、保留案でこの場を凌ぐ。

 ハワードとむさ苦しい男どもの攻防など全く気にせず、母アメリア、長女エドウィーナが喜色を浮かべて楽しげに話し、こちらにやってきた。

「エリィのお小遣いを奮発しないとね」
「名案ですわ、お母様」

 この二人、俺に賭けてがっぽりと稼いでいるからな。

「お母様、お姉様、私はミラーズで稼いでいるからお小遣いはいりません。賭けの配当金は領地経営の資金に使ってください」
「まあ……。昔から優しい子だとは思っていたけど、あなたは本当に無欲ね」

 アメリアが顔を綻ばせて俺の顔を優しく撫でる。
 エリィは無欲だが中の俺はバリッバリ金儲け考えてまっせ。

「そういうことなら、新しい学校の設立と手付かずだった地方のインフラ関係に力を入れましょうか」
「素敵ですわ。わたくしのお金も是非使ってください」

 母の言葉にエドウィーナが提案する。

 なるほど。二人は領地のために私財を賭けたわけか。
 優しくて金持ちで美人で胸がでかくてスタイルがいいとか、都市伝説級のイイ女だな。

「それなら、次の試合でさらに私に賭けてください。負けませんから」

 エリィらしからぬ強気発言を投下する。

「そうね」
「そうね」

 二人、即答。

「手に汗握るのがたまらないのよね!」
「まったくですわ、お母様!」
「次も賭けるわよ」
「もちろんですわ」
「オーッホッホッホッホッホ!」
「ウフフフフフフフフフフフ!」

 すぐにギャンブラーの一面を覗かせ、怖い笑顔で高笑いする母と長女。
 さっきのイイ女という分析に、「ギャンブラー」と「狩人」という言葉を加えておこう。まあ何にせよ、ほどほどに魔闘会とギャンブルを楽しめばいいと思う。

 それからほどなくして閉会の挨拶が実況者二人からあり、魔闘会の一日目は無事に終了した。



      ◯



 ゴールデン家に帰るとクラリスから報告が入った。

「モンタージュ照合をした突入部隊は『フランダースの十二酒場』『甘い社交場』『ホテル・パラダイス』の三ヶ所に突入場所を絞りました。その内、『甘い社交場』が“当たり”でございます」
「突入は成功?」
「はい。スルメ殿、ガルガイン殿も活躍したと諜報部員から聞いております」
「まぁ、それは素晴らしいことね! あとでお礼を言わなくっちゃ」

 スルメ達は「そんな面白そうなことに参加しない手はねぇ」と言って部隊に加わってくれた。ワイルド家の戦力も貸してくれたので礼は必要だろう。

「グレンフィディック様が大量の魔薬バラライと人魚三名を確保し、ヤナギハラ家のニンジャ部隊が逃げたリッキー夫人を捕縛。その場にいた関係者どもは一人残らず捕まえたそうで、突入は大成功でございますっ」

 クラリスが興奮ぎみに言葉をつなぐ。
 確かに、敵の収入源である魔薬バラライや、それに関係する客などすべてを捕縛とは大戦果といっていい。捕縛者を尋問すればさらなる取引先やバラライの栽培場所など炙り出せるはずだ。

「ジョン・リッキーは医務室で目を覚ましたあと、全身を拘束されて城へと護送されました。これだけ証拠が揃っていると弁解の余地がございません。曲がったことが嫌いな国王様の性格を考えると、問答無用でお家取り潰しになるかと存じます」
「跡取り息子が粗相をした後とあっては心象も悪いでしょうしね……」

 はい来ました、リッキー家終了のお知らせ!
 スカーレットに続き、エリィをイジメてきた悪の根源への仕返し完了!

 やっとだぞ、やっと!
 こっちに来てどれぐらいになる?

 いやぁ……ホントに………長かった………!

 イケメンからおデブに転生し、エリィの日記を見て復讐を誓ってから一年以上が経っているのか……。

 もう日本の空気の匂いを忘れるほどこっちの生活にも慣れてきたし、エリィの身体に入っていることにも何ら疑問を抱かなくなった。

 ダイエット、魔法、オシャレ、金儲け、色々とやってきたなぁ。

 砂漠にいた記憶も未だに色褪せることなく俺の心に残っている。

 紆余曲折を経て、大きな目標であった『スカーレットへの意趣返し』と『ボブへの仕返し』はついに達成された。
 小目標を掲げて一つずつ潰してきたことが、ここまでの成果を上げた要因となっているだろう。もし報告書を提出するなら、成功理由は”小目標の達成”という形にしたい。

 改めてグレイフナーに転移してきた軌跡を脳内でたどると、思うことはアレだ。

 あまり考えないようにしてきた……おそらく彼女の身体に乗り移ってなければ俺は完全に死んでいたんじゃないだろうか、という一点だ。

 六本木交差点に突っ込んできた黒塗り高級車はかなりのスピードだった。
 思い出すだけで身の毛がよだつ……。

 どう考えても自分の肉体はもう日本にないように思えてしまう。
 でも……それでも……自分の身体をあきらめたわけじゃない。

 なんたってこの世界には人智を超えた魔法の存在がある。

 不可能を可能にするのが魔法だろ?
 もし俺が映画の主人公だったら、きっとハッピーエンドになるはずだ。

 まあ、なんで自分が映画の主人公だって話だが、そこはやっぱり持ち前のポジティブさでそう考えている。正直なところ、前向きに考えていないと自分の精神がやばいってのが本音だ。

 とにかく、エリィのおかげで俺は生きている。
 そう思うようにしている。

 それに、彼女という人間に出会えて俺自身が救われている部分が大いにあった。
 エリィの優しさやひたむきさには何度も心を打たれた。
 過去に傷ついた俺の心を癒やしてくれる。

 でも、これからはそうだな……自分自身のために時間の比重を置かせてもらおうか。

「お嬢様……?」

 長く考え込んでしまっていたらしく、クラリスが遠慮がちに声をかけてきた。
 我に返って彼女を顔へ視線を向ける。

 心配げに見つめてくる彼女の顔にはところどころ苦労皺が浮かんでおり、それを見ると安心感が心を満たした。

 やっぱりクラリスにはずいぶん精神的に助けられているなぁ。

「クラリス、いつもありがとね」
「何をおっしゃいますか。わたくしはお嬢様のために生きておりますから。それより、お加減でも悪いのでございますか? ずいぶんと長い時間考えていましたね」
「ううん、どこも悪くないわ」
「それならいいのですが……」

 クラリスは診断するような目でこちらを見ている。

「お嬢様がどこか遠くへ行ってしまわれるような気がします。本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。まだ魔闘会は始まったばかりだし、ちょっと気持ちの整理をしていただけ」
「本当に?」
「ええ、本当よ。クラリスに何も言わず私がどこか遠くへ行っちゃうなんてあり得ないわ」
「そうでございますね」

 クラリスはやっと安心したのか、ほっと胸をなでおろした。

 彼女を元気づけるため、紅茶を持ってきてもらって二人でしばらくおしゃべりに興じた。
 話題はもちろんリッキー家についてだ。
 クラリスはリッキー家に相当ご立腹だった様子で、ジョン・リッキーが捕まったことを言うたびに真夏に晴れ渡る青空ような清々しい顔をした。結構顔に出るよね、あんた。

 やがてクラリスは仕事があると言ってエリィの部屋から退室した。

 一人になり、何となくエリィの部屋をぐるりと見回し、立ち上がってクローゼットを開けた。備え付けの全身鏡で自分の姿を眺める。

「エリィ……聞こえているかしら? エリィ?」

 俺がしゃべるとエリィの口が動く。
 輝く碧眼がじっと自分を見つめ、形のいい唇が小気味よく言葉を紡ぐ。

「そろそろ、自分を取り戻す方法について本腰を入れて調査してもいいかしら?」

 そう言うと、胸の奥がズキリと傷んだ気がしたが、すぐにほんのりした温かさに包まれた。
 彼女も俺と同様に寂しいらしいが、このままではいけないとも思っているようだ。

「あ……そういえば……」

 クローゼットを閉めて、勉強机に近づく。
 机の上に置いてある日記を開き、久々に『やることリスト』のページを見てみた。

—————————————————————
『やることリスト』
 最優先、ダイエットする。
 その1、ボブに復讐する。
 その2、孤児院の子どもを捜す。
 その3、クリフを捜す。
 その4、怪しげなじじいを捜す。
 その5、日本に帰る方法を探す。(元の姿で)
—————————————————————

 おお、こう見ると残りの目標は「その3、クリフを捜す」「その5、日本に帰る方法を探す。(元の姿で)」の二つか。
 我ながらよくやったもんだな。

 クリフ捜索は帰還方法と同時並行でやるべきだろうな。
 羽ペンを手にとってリストに丸をつけた。

—————————————————————
『やることリスト』
◯最優先、ダイエットする。
◯その1、ボブに復讐する。
◯その2、孤児院の子どもを捜す。
 その3、クリフを捜す。
◯その4、怪しげなじじいを捜す。
 その5、日本に帰る方法を探す。(元の姿で)
—————————————————————

「いいわね」

 最初に書いたリストが埋まっていくのは気持ちがいいもんだ。

 クリフの件に関してはセラー神国まで行って捜索するしか方法がない。
 シチュワード家に訪問してクリフと面会を希望するのがまっとうなやり方だ。

 召喚魔法と転移魔法の研究は国をあげてスタートしているため、時間が経てば開発の是非が分かる可能性はある。
 知識が豊富なポカじいだっているし、どうにかなるだろう。

 いよいよ俺がエリィの中に入っていることを告げて、ポカじいに全面的協力を依頼するか。

「魔闘会が終わったら真実を伝えましょう」

 そう言い切ってうなずき、それ以上は何も考えないようにして布団にもぐりこんだ。



      ◯



 チュンチュン、チュンチュンガチュン。
 ヒーホー、ヒーホー、ヒーホー。

 朝になった。
 庭先にいる小鳥とヒーホー鳥が気持ちよさそうに鳴いている。

「お嬢様、おはようございます。ぐっすりお休みでございましたね」

 クラリスがウキウキした笑顔で布団をめくり、カーテンを開けて回っている。

 魔闘会二日目。
 よし、前日の疲労もすっかり取れているな。これなら他貴族に指名されたとしても問題なく戦える。

「掲げていた目標が達成されたかしらね。何だかすごく気分がいいわ」

 今後の行動方針が明確になったからか、心が晴れ渡り、精神と気力がいつになく充実している気がした。

「寝起きで大変申し訳ございませんが、本日の対戦表が発表されました。ご覧になってください」
「あら? いいわよ、見せてちょうだい」

 起き上がってエリィのサラサラな金髪を後ろへ流し、乱れたパジャマを直してクラリスから羊皮紙を受け取った。
 広げると、文字が朝日に照らされた。

—————————————————————
魔闘会二日目・日程
『一般トーナメント・2』
『一騎討ち/指名戦・2』

対戦表
『一騎討ち/指名戦・2』

◯領地数1〜99個 ※親が左、子が右。括弧内が賭けた領地数
      ・
      ・
      ・

◯領地数100個以上
【サウザンド家 (1001)→(倍返し10)リッキー家】
【テイラー家  (822)→(3)サークレット家】
【サークレット家(420)→(2)ゴールデン家】
【ウォーカー家 (340)→(2)ヤングマン家】
【シュタイガー家(238)→(1)マウンテン家】
【ワイルド家  (150)→(倍返し10)リッキー家】
【ショフス家  (111)→(2)ギャリック家】
【ギャリック家 (103)→(1)ゴールデン家】
—————————————————————


 おっと、まさかの二家からご指名が入っている。
 ゴールデン家は領地数では格下なわけだし、狙われやすいってのは自明の理だ。

 ただ各家々さん、残念なことに、対戦相手が魔力保有量桁外れのカンフー少女エリィです。勝てません。はい。

 よく見たらサークレット家が指名してきているな。
 これは超ドリルヘアーのスカーレットの姉ちゃんが対戦相手って可能性もあるぞ。

 サウザンド家の倍返し10個賭けは、リッキー家が権利を一回だけ有している『対戦拒否権』で拒否される可能性が高い。わざわざ負ける戦いをするほど、リッキー家もバカではないだろう。

 そもそも、リッキー家は誰が舵取りをしているんだろうか?
 親戚筋がやっていると考えるのが妥当か? まあ、すでにどうでもいい話ではあるが。

 あとは……落ち目だと思われているサークレット家への指名数が圧倒的だな。

「んああっ! 早くお嬢様の対戦が見たいですね! ねっ?! ねっ?!」
「顔が近いわよ、クラリス」

 クラリスが対戦表を爛々と睨みつけ、接近して同意を求めてくる。

 朝からオバハンメイドのどアップは起き抜けにうな重特上を食べるぐらい重い。とりあえず興奮を鎮めてくれないかね。

 五分ほどかけてクラリスを平常運転に戻して身支度を手伝ってもらい、軽くシャワーを浴びて、一家団欒の席に加わった。

 その後、領地が30個増えて上機嫌なゴールデン家の優雅な朝食を済ませてミラーズに向かい、本日の戦闘服をミサから受け取った。昨日がカジュアル系だったから、今日は新開発したメイド服だな。

 実は以前からクラリスに新しいメイド服をデザインしてもらえないか、と依頼を受けていた。俺も首都グレイフナーには貴族や金持ちが多く、メイドという職業の需要の高さから、その作業服も売れるだろうと目を付けていた。

 クラリスの要望が通り、メイド服が新開発された。
 どうせなら防御性能を魔闘会でお披露目してしまえ、ということで俺が着る運びになったわけだな。

 ちなみに、昨日俺が履いていたハイカットスニーカーは予約が殺到。女性客だけでなく冒険者や警邏隊からも問い合わせが相次いだようだ。

 じわじわとファッション界がミラーズによって侵食されている。
 この世界には独禁法がないため、コバシガワ商会独占市場も夢ではない。
 ぐふふ……いいね。

 まぁ、他者と競わないと企業成長が止まる可能性もあるんだけどな。その辺は悪い兆候が見える前ぐらいで対応すればいいだろう。



     ◯



 魔闘会二日目はつつがなく進行し、細かい対戦表が発表された。

 第1試合がゴールデン家になっていたので全員のねぎらいもそこそこに、選手控室へ向かう。今日はメイド服の着付けがあるのでクラリスにも同行してもらった。
 選手控室には一名のみ同行が可能となっている。

「クラリス、対戦表をもう一度見せてちょうだい」
「かしこまりました」

 少し冷える選手控室でクラリスがメイドとして完璧な一礼をし、恭しく羊皮紙を差し出した。

 —————————————————————
領地数100個以上対戦表
一日目
『一騎討ち/指名戦・2』
 ※親が左、子が右。括弧内が賭けた領地数

第1試合
【サークレット家 →(2)ゴールデン家】
 ヴァイオレット・サークレット ☓ エリィ・ゴールデン

第2試合
【ショフス家 →(2)ギャリック家】
 スティーブン・ショフス ☓ ホウ・ギャリック

第3試合
【サウザンド家 →(倍返し10)リッキー家】
 ☓☓ リッキー家が拒否権を発動 ☓☓

第4試合
【テイラー家 →(3)サークレット家】
 ☓☓ サークレット家が拒否権を発動 ☓☓

第5試合
【シュタイガー家 →(1)マウンテン家】
 グレイト・シュタイガー ☓ ロー・マウンテン

第6試合
【ウォーカー家 →(2)ヤングマン家】
 エアリ・ウォーカー ☓ ワンダー・ヤングマン

第7試合
【ギャリック家 →(1)ゴールデン家】
 ハーナ・ギャリック ☓ エリィ・ゴールデン

第8試合
【ワイルド家 →(倍返し10)リッキー家】
 ワンズ=スルメ=ワイルド ☓ コリー・コーラゲン
 —————————————————————


 ふむ、やはり俺の対戦相手はスカーレットの姉ちゃん、超ドリルヘアーのヴァイオレットか。普通、初日の試合に出ると手の内がバレるから二日目以降は出ないもんなんだけどな。余程、エリィと戦いたいらしい。

 第7試合のギャリック家は領地数103で、ゴールデン家と似たり寄ったりの家だ。といっても、すでに領地30個ゲットしているからこっちのほうが格上になる。

 あと……スルメの名前がひどいッ。
 本名のワンズ・ワイルドの間に『スルメ』ってついちゃってるじゃねえか。リングネームっぽくてまったく違和感がないっていうね。

 これ絶対選手表を提出したワイルド家のメイドの誰かが適当に書いただろ。てかスルメ、大事な倍返しの試合に出場するとかすげえな。ワイルド家は名前通りワイルドな選択をするな……。


 ワンズ=スルメ=ワイルド——顔のニヤニヤが止まらないハリケーン。

「ハーナ・ギャリックの情報はある?」

 気を取り直し、俺にメイド服をせっせと着せ始めたクラリスに聞いてみる。
 彼女は手早くエリィを下着姿にし、布地のアンダーシャツを着せ、エプロンドレスを広げる。

「はい。ギャリック家はもともと大砲を作っていた鍛冶屋でございます。土と火の適性が多く、今もその傾向は変わっておりません。ハーナ・ギャリックは冒険者同盟で『奈落』を目指す優秀な女性魔法使いでございまして、得意魔法は“馬炎車輪フレアチャリオット”と“球炎スフィアフレア”でございます」

 炎魔法中級派生“馬炎車輪フレアチャリオット”か。
 巨大な炎の車輪が自動で追尾してくる魔法で、撃たれると厄介だ。
 身体強化した拳打で破壊できるがせっかくのメイド服が焦げるかもな。

 ゴールディッシュ・ヘアを編み込んだ特注メイド服なら一発ぐらい耐えてくれるか……?
 上位魔法の魔力に耐えてくれればかなりの宣伝効果が見込めるぞ。あとでジョーとミサに上位魔法の耐久実験をしたかどうか確認しておくか。

「お嬢様、御髪を直しますので椅子におすわりください」
「ありがとう」

 気づけばメイド服をすっかり着込んでいた。
 クラリスやっぱすごいわ。

 トレードマークになりつつあるツインテールを黒リボンで結い直し、ヘッドドレスは小さめのものを付ける。

 おお、実用性を重視した黒ロングスカートのメイド服は正統派のメイドって感じだな。
 メイドカフェのエロいミニスカートメイド服とは一線を画す、貞淑さと清楚な雰囲気がいい。

 そしてなにより………


「似合いすぎね、これは………」
「まったくでございます………」


 全身鏡でメイド服を着るエリィを見て、俺とクラリスは愕然とした。
 似合う。似合いすぎている。

 金髪のツインテールに控えめな白のヘッドドレス。
 正統派ながらも袖と襟の切り返し部分をやや大きめにし、凝ったボタンを付けてオシャレにキメている。真っ白なエプロンは汚れが落ちやすい『ピーチャンの尻尾』を10%織り込んでいる。

 腰をしっかり紐で結んでいるため、エリィのくびれが強調され、これでもかと胸元が盛り上がっていた。

 貞淑に見えて逆にエロいパティーン!
 エロい目で見てきた男は目潰しの刑に処す。

 あ、俺じゃん。俺考えたじゃん。これは心の中でセルフ目潰しの刑——ああああああっ、目がっ、目がああぁあぁぁあっ!

 と、冗談はさておき、何よりこだわった部分はスカートだ。

「はっ!!」

 ロングスカートで大上段の蹴りを素振りする。

「お嬢様! いかがでございますか?!」
「依頼した通り軽いわね。蹴りやすいわ」

 そう。スカートにゴールディッシュ・ヘアを90%織り込んだことにより、現行のメイド服より3倍軽いメイド服に仕上がっている。

 クラリスやゴールデン家のメイドによると、メイド服はスカートがとにかく重いらしい。ロングスカートでありつつも防御力を重視しているため、布を重ね合わせて重量が増すという弊害が起きている。

 そこを改善したのがミラーズ別注『メイド服・クラリスモデル』だ。

 スカートとエプロンに隠しポケットがあり、杖やナイフを仕込んでおける。ポケットには小さなボタンと紐がついているので激しく動いても得物が固定されて落ちることはない。

 売れるな。これは売れる。
 既存のメイド服から逸脱せず、細部にこだわりを持たせて性能を上げている。
 売れないわけがない。

「仕事が捗りそうですねえ!」

 クラリスが目をキラキラさせて食い入るように新しいメイド服を見つめている。ミラーズが忙しいためクラリスが着る分まで手が回っていないのがもどかしい。この試合が終わったら自分用が届くまでこれを着てもらうか。

「それじゃあ行ってくるわ!」
「いってらっしゃませ! ご武運を!」

 時間が迫っていたので、選手控室を出て廊下を歩き、門兵のいる大きな門に向かう。

 白マントの門兵二人がエリィのメイド服を見るやいないや、持っていた槍から手を離して倒してしまった。
 ガランガラン、という音が冷えた廊下に響く。

「し、失礼致しました!」

 あわてて槍を拾い、げふんごほんと咳払いを何度もして白マントは直立不動の状態に戻った。

 何か聞きたそうな顔をしているが、選手に話しかけるのはあまり推奨されないため、時々こちらを見ては顔を赤くしている。門の右側にいる白マントはエリィの胸をじっと見て鼻の下を限界まで伸ばしている。

「えい」

 十二元素拳の歩行技で素早く近づいて、白マントに軽い目潰しをお見舞した。

「ぴぎゃっ!?」
「女の子の胸ばかり見ないでちょうだい、門兵さん」
「す、すみません! 以後おっぱいを気をつけます!」

 こらっ。直す気ないだろ。

「エリィ嬢、誠に申し訳ございません。こいつは腕も立つし正義感もあるのですが、いかんせんスケベで……」

 左側の白マントが丁寧に頭を下げる。
 まあ、男なら抑えきれない衝動だよな。

「しょうがないわねぇ。“治癒ヒール”」
「ありがとうございます! 一生ファンになります!」

 初戦はスカーレットの姉ちゃん、ヴァイオレットだ。

 得意は風、空魔法。身体強化もでき、治癒魔法も使える。
 魔法重視のオールラウンダーって感じだな。

『それでは皆さんお待たせ致しました! 選手の入場! 契りの神ディアゴイスコーナーよりぃぃぃぃっ! グレイフナーに突如として舞い降りた、めぇぇぇぇがぁぁぁぁみぃぃぃっ! 浄化魔法と特殊体術を操る金髪の美少女ぉぉぉ、エリィーーーーーーーーーーー・ゴォウルデェェーーーーーーン!!!!』

 わっ、と一気に湧く会場。
 熱気とともに門が開き、コロッセオの闘技台へと足を進めた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ