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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第42話 魔闘会でショータイム!⑩

またまたお待たせいたしました・・・・!

       ☆



 紳士淑女が集う四番街の『甘い社交場』の表看板には“本日貸切パーティー”という張り紙が貼られていた。

 魔闘会効果で大いに賑わっている首都グレイフナーは雑多な種族が往来しており、中心部に近いほど賑わいを見せている。
 四番街はダンスホールや絵画展示場など芸術関係に強い区画であるため自然と人が集まっていた。

「オレ、四番街初めて来たわ」
「俺もだよ」
「クッソ興味ない店ばっかだな」
「ちげえねえ」

 しゃくれ顔に浅黒い肌。ぶっきらぼうでありながらどこか男気のありそうな雰囲気を有している、グレイフナー魔法学校四年生火魔法クラスに所属する青年、ワンズ・ワイルド——スルメは、派手な装飾の店を見て眉をひそめた。

 彼の隣りにいるドワーフ族、グレイフナー魔法学校四年生土魔法クラス、ガルガイン・ガガも太い首を縦に振って同意を示す。

「ハハッ! まったく君たちは芸術というものが分からないんだねぇ。このぶぉくは四番街なんて目をつぶって歩けるよ。ふっ」

 その後ろに陣取って、長い前髪をふっ、ふっ、と息で拭き上げて格好をつけているキザな青年はグレイフナー魔法学校四年生水魔法クラス、ドビュッシー・アシル……もとい、亜麻クソ。
 彼は相変わらず空気を読まず、ずびしぃ、っと人差し指を天高く上げて緊張感のないポーズを取っている。

 スルメとガルガインは後ろにいるアホを放っておいて、顔を見合わせた。

「エリィの話だと、ここが本命ってことらしいが……ガルガイン、てめえどう思う?」
「ああ。魔薬バラライの取引場所としては申し分ねえと思う」
「人が集まっても不信感を抱かれず、格式もそこそこ高え。なおかつ、グレイフナー王国の目を欺きやすい」
「魔薬の副作用でおかしな動きやテンションが高い連中がいても、芸能の一環とか言っておけば煙に巻けそうだからな。この近辺は昔あった地下道にもつながってるらしいからよ、緊急逃走用の脱出路にも事欠かねえ」

 たしかに『甘い社交場』は地下に広大な設備があり、表向きはダンスホールとして客が出入りしているため疑いを持たれにくい。集客ターゲットを中流から上流階級の資産家に絞っていることもあって、スルメの言う通りそこそこの格式も有している。

 事実、『甘い社交場』はリッキー家の重要な取引場所の一つとして大いに活躍していた。過去一度だけあった警邏隊の家宅捜索でも証拠を一切掴ませていない。

「敵の脱出を予想して、地下道にはヤナギハラ家の『ニンジャ』とかいう部隊が押さえているみてぇだ」
「サツキんとこの例の黒装束か」
「まかせとけって自信満々にあいつが言ってたぞ」
「おうスルメ。最近、サツキと仲がいいじゃねえか」

 ガルガインがドワーフ特有のからりとした言い方でスルメを茶化し、バシリと背中を叩いた。

「そうかぁ? あいつとは会ったときからこんなもんだった気がするぞ」
「は? かなり打ち解けてるだろうが」
「オレはちっともそう思わねえけど? サツキはオレにだけズケズケと物を言ってくるから、そういう対象として見てねえと思うぜ」
「………まあ………おめえがそう言うなら否定しねえよ」

 残念なものを見る目をスルメへ向け、ガルガインは軽く溜め息をついた。
 普段から「モテてぇ」と言っているくせにこの鈍感さだ。

 自分で話を振ったものの、ガルガインは恋愛にさして興味がないのでこれ以上口出しするのをやめた。説明が面倒くさい。

「ハハッハァッ! さぁて、ぼくの活躍の場はどこだい?!」
「うるせえぞ亜麻クソ。てめえ勝手についてきやがって」
「何を言っているんだいスルメ君。なんたってこのぶぉくは合宿のリィダァだからねえ!」
「誰がスルメだよ、誰がっ」

 スルメがカッコつけている亜麻クソにツッコミを入れる。

 彼らは現在、『甘い社交場』から道路を挟んだ民家の屋根上に陣取っており、突入部隊の一班として潜んでいた。

 部隊は総勢で七十名。
 やたらと張り切っているグレンフィディック・サウザンドとサウザンド家一団、ゴールデン家の腕利き連中、コバシガワ商会で雇っている諜報部員、スルメ率いるワイルド家家臣団とガルガイン、オマケで亜麻クソ、という部隊構成になっている。

 位置は『甘い社交場』の正面にサウザンド家一団。その後ろにスルメ達。
 スルメ達から見て店の左側にゴールデン家、右側に諜報部員、といった具合に布陣していた。

「おやおや、前方の班に動きがあるようだね」

 人の話をまるで聞いていない亜麻クソが声を上げた。

 スルメは灰色の髪をしたグレンフィディックの出すハンドサインを見て、バスタードソードを握りしめる。

「合図、ってことは当たりかッ!」

 総勢七十名からなる突入部隊が一斉に身体強化をかけ、武器や杖を構えた。

「そいつの使い心地をあとで教えろよ」

 ガルガインはスルメに持たせた自信作のバスタードソードを見つめ、興奮気味に笑う。

「華麗なる水魔法をご覧に入れよう!」

 亜麻クソは両足を広げて九十度折り、両手を前方へズバシィッっと突き出した。
 誰も見ていない。

 さらにサウザンド家一団からから光魔法“ライト”が放たれ、五回点滅した。


——突入のサイン


 部隊が一斉に動き始めた。
 スルメ、ガルガインも身体強化をかけ、亜麻クソは尻にのみ身体強化を施して屋根を駆け出す。

 ちなみにどうでもいい話だが、亜麻クソの“尻だけ身体強化”についてはスルメとガルガインが「尻しか強化できてねえよ」と言ったが、彼が一向に信じなかったため放置されている。

「はぁはぁ……か、身体が軽いね! はぁ……はぁ……身体強化とはかくも素晴らしきかなっ!」

 勘違いしている当人がドヤ顔で叫ぶ。
 身体が軽いのは訓練による賜物であって“尻だけ身体強化”はほぼ関係ない。尻回りの筋肉強化によって踏み込む力がわずかばかり補助されているものの、彼が周囲のスピードに並走しているのは基本的にただの根性である。

 そうこうしているうちに先頭の突入班であるグレンフィディックが屋根を飛び降りて『甘い社交場』へ突入した。

 スルメ、ガルガイン、亜麻クソ、ワイルド家家臣団もあとへ続いて建物内へと飛び込み、豪奢な待合室を越え、地下ダンスホールへの階段を一段とばしで下りていく。

「ほとんどサウザンドが倒してるじゃねえかよ!」

 店のボーイやウエイトレスが気絶させられそこかしこに倒れており、用心棒らしき人間は魔法攻撃で昏倒させられ捨て置かれている。

 せっかくの大捕り物だ。
 二、三人はぶった斬って自分の実力を確かめたい。

 スルメは逸る気持ちを抑えつつ、バスタードソードを構えたまま階段を下りきってダンスホールに飛び込んだ。

 大理石に似た石で作られた広いダンスフロアでは、魔法の光が飛び交い、悲鳴と怒号が協奏曲のように折り重なって響いていた。

「敵襲だッ!」「こっちに火魔法を!」「待っ——ぎゃあああっ!」「“ウォーターウォール”!」「炎矢フレアアロー!」「人魚を逃がせ!」「舞台の幕を下ろすんだ! 早くしろぉ!」「“樹木の猛獣(ティンバービースト)”!」

 敵味方の怒号が入り乱れ、密売の客らしき仮面を付けた者どもが逃げ惑う。
 ミラーボールのように魔法が色とりどりに明滅し、襲撃者と防戦者によって物騒な音が幾重にも奏でられる。

 ダンスホールの奥は大きな舞台がある。
 巨大水槽が置かれ、中にいる見目麗しい人魚が三人で隅に固まっていた。

「まじで人魚の密売やってんじゃねえかよ!」
「あの水槽、作んの大変だろうな」
「なんと可憐な人魚レディだろうっ!」

 スルメ、ガルガイン、ついでに亜麻クソは乱戦の中へと切り込んで行く。

 応戦してくるのは『甘い社交場』の従業員とおぼしき黒服とリッキー家配下のガラの悪い連中だ。

 強襲に成功した突入部隊、応戦してくる敵、逃げまどう客が入り乱れた。
 生死を賭けたなりふり構わないダンスが興じられ、ダンスホールはさらなる熱気と阿鼻叫喚に包まれる。

 スルメとガルガインは身体強化を“下の中”まで引き上げ、逃げようとしている仮面の客を昏倒させた。

「っらあ!」
「吹っ飛べ!」
「美しき水よ、“ウォーターボール”ッッ!」

 スルメはバスタードソードの柄で仮面男の後頭部を死なない程度に叩き、ガルガインはアイアンハンマーを振り上げ「まぁ死なねぇだろう」という皮算用的な力加減で目の前にいた輩を豪快に吹っ飛ばす。ついでに亜麻クソは水球を生み出し、一番弱そうな小男にぶつけた。

「降伏するならば杖と武器を捨てて地面に平伏せ! 光線魔法……“裁きの白光ジャッジメントスナイプ”!!!」

 先頭集団にいるグレンフィディック・サウザンドがサウザンド家に伝わるオリジナル魔法“裁きの白光ジャッジメントスナイプ”を行使した。

 じいさんの身体が白く発光して杖の先に光が収束していく。
 それを見た敵達がギョッとした顔をし、ダンスフロアに身を投げ出した。

 瞬間、白魔法唯一の攻撃魔法が猛威を振るう。

 ビュギギギギギッ!!!

 不穏な高音が発せられると白いビーム砲が杖から照射され、リッキー家のゴロツキを一人焼き焦がした。グレンフィディックは杖を振って光の角度を変え、次々と敵を焦がしていき、一回の詠唱で二十人を無力化した。

 光線魔法を眼前で見れば下位魔法使いなど瞬く間に戦意を喪失する。
 グレンフィディックは威嚇効果も計算に入れ、ビシバシと光線魔法を放つ。
 張り切っているのは決して可愛い孫に褒められたいからではない……と思いたい。

「相変わらずやっべえ魔法だな!」
「あんなのよけれねえ」
「合宿リィダァのぼくなら余裕で躱せるね。ヨ、ユ、ウっ!」

 スルメ達はグレンフィディックが味方であったことに感謝しつつ、攻めあぐねている突入班のほうへと駆けていく。

 近づくと、長剣を持った剣士、筋骨隆々な人族、ローブ姿の犬人族の三人組が、不敵な笑みを浮かべてコバシガワ商会の諜報部員と交戦している姿が見えた。

 諜報がメインの彼らには荷が重い敵だ。
 決定打を見つけられずにじりじりと輪を作って後退している。

 スルメは剣士があの中で一番強いと見切り、身体強化を三段階目“下の上”まで引き上げて輪の中に飛び込んだ。さらに勢いのまま、横薙ぎにバスタードソードを一閃した。

「らぁ!!」
「ぬっ?!」

 ギン、と火花が散って剣戟が防がれる。

 スルメはすぐさま距離を取り、大上段にバスタードソードを構えた。

「ケガ人を後ろへ運べ! こいつぁはオレがやる!」

 スルメの言葉に諜報部員らは素早く呼応し、重傷者を後方へと運んだ。
 動ける者はスルメの援護に回る。

「……まだ若いな」

 剣士はスルメを見てそれだけ言い、長剣を構えた。

 杖を片手に持っていないため剣技に自信があるらしく、身体強化“下の上”で打たれても平然としている。
 身体強化に通じている相手だとスルメは判断し、油断なく相手の全身を見た。

「らッ!!」
「超カッコいい“ウォーターボール”ッ!!」

 あとから飛び込んできたガルガインが人族の男へアイアンハンマーを叩きつけ、亜麻クソが効きもしない水魔法を犬人族へ放って輪の中に入ってきた。

 スルメは仲間に他の敵を任せて剣士に睨みをきかせる。

「ふぅ———」

 呼吸を整え、剣と一体になるイメージを広げていく。

 人間はどんな動きにも必ず無駄を作ってしまう。
 例えば紅茶を飲むという動き一つを取っても、指の動かし方や筋肉の動き、腕の軌道など、コンマ数秒の無駄が発生する。

 スルメが砂漠の賢者ポカホンタスから伝授された“命閃流”は人間の無駄な動きを極限まで削り、重心移動、腕の振り、剣の軌道、魔力循環など、すべてを最適な動きに修正して最高の斬撃を放つことを目指す剣術であった。

 単純にいうならば、剣を最速で振り下ろすにはどうしたいいかを突き詰めた分かりやすい剣術だ。

 速く振り下ろし、斬る。

 スルメは“命閃流”を習った瞬間に、この剣術は自分の性に合っていると思った。
 その直感は正しく、スルメはメキメキと命閃流を吸収していき、極意の六割ほどを掴んでいる。

 また、ポカホンタスの訓練を受けてから思考に幅が出てきた。

 “命閃流”は自分の心を強く保つ必要があり、スルメは自分自身と向き合う必要性が大いに生じた。今までは勢い任せだったところが多かったが、剣術を通して周囲の考えている物事が見えてきたといえる。

 そのため強敵である剣士を冷静に分析できた。

 身体強化“下の上”で、剣技に自信があるタイプ。
 冒険者協会試験点数予想は750〜800点。多様な魔法が使えれば点数はもっと上——

 どんな隠し玉が飛び出してくるか分からない。乱戦になったら諜報部員に多くの被害が出てしまうため長期戦は避けたい。


 一撃で決める。


 スルメはそう心の中で決め、神経を研ぎ澄ました。

 剣士とスルメが無言のまま対峙する。

 独特の空気が流れ、輪の外にいるコバシガワ商会の諜報部員らが無言で杖を向ける。

 先に動いたのは剣士だった。

 流れるような飛び出しで長剣を袈裟懸けに振り下ろす。
 身体強化は“下の上”。
 予備動作の少ない動きに周囲は驚き、すぐさま魔法を発動しようと魔力を杖へと込めた。

「っら!!!」

 スルメがバスタードソードを振り下ろした。


———ゴキャッ!


 刹那、バスタードソードが剣士の両腕に吸い込まれて金属と骨を砕く音を響かせた。


———カラァン


 ミスリルの篭手が破壊され、剣士の手から離れた長剣が行き場を失ってくるくると宙を舞い、ダンスフロアに落ちる。

 諜報部員はスルメが攻撃したことに気づかず、振り下ろされたバスタードソードを見て、ようやく剣が振られたと知覚した。

 剣士は砕かれた腕と突然の痛みに狼狽する。
 完全に自分の攻撃が当たったと思った瞬間、腕を斬られたのだ。何が起きたか理解できない。

 スルメは素早く剣士の背後へと回り込み、バスタードソードの柄を後頭部に叩きつけた。

「ぐっ……」

 剣士は意識を失い、どさりと倒れた。

「おおおおおっ!」「手練の剣士を一撃で!」「我々の魔法では歯が立たなかったのに!」「やったぞ!」

 周囲からは歓声が湧く。

 しかし、ポカホンタスの「身体強化と魔法を同時使用する“魔法剣”が最終奥義じゃ」という言葉を思い出し、スルメはまだまだだな、と気を引き締める。

 続いて、横で戦っていたガルガインが人族の男を倒した。

「こっちは終わったぞ」

 ドワーフ族らしくぶっきらぼうにガルガインが言う。
 彼の相手はそこまで強くなかったようだ。

「効かないッ! このドビュッシー・アシルには効かないぞぉう!」

 さらにその横、どういう攻防があったのか分からないが、亜麻クソが四つん這いになって相手の土魔法“土槍サンドニードル”を尻で受け止めていた。

 バキンバキンバキン!

 土でできた鋭利な槍が亜麻クソの尻に幾重にもぶつかり、粉々になった。
 足でも滑らせてあの体勢になったのだろうと当たりをつけ、スルメは笑いを噛み殺しながら杖を取り出してローブの犬人族へ“火蛇ファイアスネーク”を撃ち込んだ。
 亜麻クソの意味不明な強運と命知らずなところがたまらなく爽快で面白い。

 自動追尾する火の蛇が三匹、犬人族へ飛んでいく。
 敵は防御しようと“サンドウォール”を唱えて土壁を前方へと展開するが、スルメの“火蛇ファイアスネーク”の一匹目があっさり破壊した。

 残り二匹が直進する。

「ぐうっっ——!」

 敵は防魔ローブでどうにか防ぐ。
 だが二匹目であっさり焼け焦げてしまい、三匹目が身体に直撃した。

「食らいたまへっ、鮫背シャークテイル!!」

 四つん這いから立ち上がった亜麻クソが、ここぞ、と水魔法上級を発射した。

 顔面をこれでもかと上方へ逸らし、左手を真横へ伸ばして杖を持つ右手を相手へ向け、右足だけ前に出してつま先立ちするという最高に格好をつけたものだ。
 ただし尻で魔法を受けたため、ズボンが尻の部分だけ盛大に破れている。

「があっ!!」

 ダンスフロアに鮫の背びれのような水の刃が走り、犬人族に直撃して鮮血が舞った。

 そして彼は心底悔しそうに「あんなアホな奴に……」と言って意識を手放した。

「諸君っ! このぶぉくの研ぎ澄まされた刃を見たかいっ?!」

 髪を掻き上げてポーズを決める亜麻クソ。
 全員、尻に気を取られて水魔法を見ていない。

 そうこうしているうちに突入部隊の先頭にいるグレンフィディックとサウザンド家一団は舞台へと取り付いており、人魚をどうにかして確保し逃げようとしている集団との戦闘になった。

 スルメとガルガインは相手をすると疲れる亜麻クソをいつものように無視し、コバシガワ商会諜報部、ワイルド家家臣団と連携して周囲の敵を無力化していく。

 時間にして十五分程度。
 ダンスホールの制圧が完了した。

 グレンフィディック一団が『甘い社交場』の支配人を縄で縛り、人魚三人の安全を確保した。

 次にこの取引を取り仕切っていたリッキー家の人間をまとめて縛り上げ、尋問を繰り返しながら魔薬を購入した客と人魚の競売に参加していた者とを分けていく。

 途中、答えない者はグレンフィディックが容赦なく光線魔法を撃ってサウザンド団が回復するという恐ろしい精神攻撃をしたので、尋問はスムーズに終わった。

 瞬く間に、リッキー家、魔薬購入者、人魚競売関係者に分かれた三つの集団が完成した。

 全員杖を取り上げられ、魔力妨害の縄で縛られており、死なないよう重傷者はサウザンド家から最低限の回復魔法を施されている。グレイフナー王国に差し出して正式な裁きを受けさせるためだ。

「サウザンド家とは事を構えたくねぇなあ」
「だな」
「光線魔法は反則だろ。あんなもん避けれねえよ」
「賢者のじいさんに対処法を聞いたらどうだ?」
「ああ、それもそうか。……ま、すぐ答えを聞かないで自分で考えてみるわ。てめぇの頭で考えないと強くはなれねぇからな」
「………スルメよぉ。……いや……なんでもねえ」
「ああん? 言いよどむなんて、らしくねぇな」

 スルメの言葉にガルガインは肩をすくめてみせた。

 友人のスルメが目に見えて成長していることを嬉しく感じると同時に、少しばかりの焦りが全身を這い回った。

 ガルガインは魔法や身体強化の才能があるわけではなく、このまま訓練を続けてもごく一般的に強い、と呼ばれるほどの実力にしかならない。自分でもそれを強く感じていた。

 魔法の才能への限界——

 突きつけられた事実に悲しくなったが、その事実が鍛冶職人への道を後押ししているように思えた。規格外の強さを誇るエリィやアリアナ、メキメキと実力をつけている友人スルメの『武器』や『防具』を作って、彼らが活躍する。
 そう夢想すると、身体の芯がじんわりと火照ってくるような昂ぶりを感じた。

「おいクソドワーフ」

 スルメがにやりと笑って、バスタードソードをガルガインの前へ突きつけた。

「おまえの剣、めっちゃ使いやすいぞ。重心が安定してる。新作ができたらオレに寄越せ」

 ガルガインはしゃくれ顔の友人が嬉しそうに言っている顔を見て、自分の胸のうちにあった熱いものが迫り上がってきた。

 おそらくスルメは自分が悩んでいることを知っていて、魔法より鍛冶のほうに才能があるぞと伝えてくれている。無駄に悩むならさっさと鍛冶修業に集中しやがれ、と急かしているようにも見えた。

 ガルガインは負けじと不敵に笑い、アイアンハンマーで軽くバスタードソードを叩いた。

 カン、という金属音が響く。

「オレに寄越せ、とはずいぶん偉そうじゃねえか。次はタダじゃねえからな」
「ああ、もちろん金は払うぜ」
「いずれてめえの財力じゃあ買えねえぐらいデキのいい剣と杖を作ってやる」
「期待してるわ」

 スルメがバスタードソードを振って鞘に収め、ガルガインもアイアンハンマーを肩に担ぎ直した。

「……地道に行くか」

 ドワーフ族は気が長い。
 粘り強さと根気だけは誰にも負けない自信があった。

「何をだよ」

 スルメが面白そうにツッコミを入れてくる。

「うるせえ。おまえは黙って剣だけ振ってろよ」
「人のことを剣バカみたいに言うんじゃねぇ」
「ハッハハ! スルメ君は剣バカだからねぇ!」

 亜麻クソが会話に割り込んで楽しげに髪を掻き上げ指摘する。

「おまえにだけはバカって言われたくねぇえぇぇっ!」
「照れることないじゃあないか。それだけ真剣ということさっ」
「くっそ! まじくっそ! たまに良いこと言うから腹立つんだよなぁ!」
「ちげえねえ」

 スルメの叫びにガルガインが神妙にうなずき、亜麻クソは得意げにふっ、ふっと前髪を吐息で吹き上げる。
 なんだかんだ相性のいい三人組であった。

「きいぃぃっ! その汚い手を離しなさいっ!!」

 舞台から女の金切り声が響いた。
 地下道を押さえていたヤナギハラ家のニンジャ部隊が、『甘い社交場』の隠し通路から出てきて、中年の女を引きずって舞台上へと足を進めたようだ。

 他にも捕らわれたリッキー家の主要人物が多数。

 目元だけを出した黒頭巾に身体にフィットした黒い洋服にみを包んでいるニンジャ部隊は、無言で逃亡者を引きずりグレンフィディックの前へと放り投げた。

 すでに魔力妨害の縄が両手にされているので抵抗の意思はない。
 ただ一人、女だけは叫んでいる。

「離しなさいっ! こんなことをしてただで済むと思っているの?!」
「お久しぶりですな、リッキー夫人」
「あ………あ、ああ、あなたは……!」

 恭しく紳士の礼を取ったグレンフィディックを見て、叫んでいた女は顔を青ざめさせた。

 勝ち気で傲慢そうな太い眉毛はハの字になり、薄い口元をわなわなと震わせている。
 彼女はエリィとは真逆の人相をしている、いかにも自己中心的で嗜虐趣味がありそうな女——ジョン・リッキーの妻にして、ボブの母親である、キャシー・リッキーであった。

 キャシー・リッキーは人や動物を傷つけて愉悦を感じるサディストだ。
 夫と一緒に年頃の女を魔薬漬けにして娼館に売り飛ばすことにハマっているどうしようもない人間である。

 息子のボブが真人間に育たなかったのは母であるキャシー・リッキーの立ち振舞いを見て育ったことが原因で、遺伝なのかは定かではないがボブにも強い嗜虐趣味が根付いてしまった。むしろ彼女は、息子に嗜虐を推奨している節があった。

「さて、リッキー夫人。ここに存在している大樽十個の魔薬バラライと人魚の人身売買について、説明していただけませんかな?」
「あ……ああ……あの………そ、それは………」
「貴方とジョン・リッキー殿がこの取引を進めていた、と聞いておりますが?」

 グレンフィディックの強い語気にあてられ、ボブの母親キャシー・リッキーは突破口がないかと周囲を見回す。

 背後にはニンジャ部隊、前方にはサウザンド家一団、舞台には保護された人魚、その脇に押収された魔薬バラライ。ダンスホールには縄で縛られたリッキー家の護衛団と密売の客ども約百名が、うなだれて沈黙している。言い訳のしようもない状況であった。

「そろそろ来る頃合いだろう」

 グレンフィディックがそう言ったので、キャシー・リッキーは夫であるジョン・リッキーが交渉に来てくれると思い、光が差したかのように錯覚した。

 しかし現実は違った。
 今現在、ジョン・リッキーはコロッセオの医務室で眠っている。

 エリィとの戦いで魔力枯渇を起こしており、加えて強烈なビンタで気絶状態。医務室の白魔法師は全員サウザンド家の息がかかっており、最低限の治療しか受けておらず目を覚ます気配はない。

 やがてダンスホールの入り口が騒がしくなり、軍靴を響かせてハンチングをかぶった警邏隊とシールド団員五名が飛び込んできた。

「こっちが当たりか!」「現場を押さえられるとは素晴らしい!」など感嘆の声が上がる。
 別の取引候補地へ行っていた部隊のようだ。

 キャシー・リッキーは警邏隊とシールド団員を見て絶望の表情を作った。

「これでエリィをいじめてたらしいボブのリッキー家も終わりだな」
「ああ」

 舞台上の一幕を見てスルメとガルガインが溜め息混じりに言った。

 スルメはポケットに手を突っ込み、ガルガインはアイアンハンマーを無造作に肩に担ぎ直す。亜麻クソは「成敗ッ」と小声で叫んで、両手を胸元でクロスさせて片足を上げる成敗ポーズを取った。意味が分からない。

「ボブは魔石炭坑十年送りで、このままいけばリッキー家は取り潰し。人間、悪さってのはするもんじゃねえな」
「身の丈にあってねえことをするからだよ。ドワーフの格言にも『酒は財布を出してから飲め』ってのがある」
「いや意味わかんねえよ?」
「先に財布を出しておきゃあ酒場の店主が金額に見合った分だけの酒を持ってくるだろうが。後払いだと金もないのにがぶがぶ飲んじまって、財布の金と飲んだ分の代金が合わなくなるんだよ」
「いや、金の分だけ飲めよ。我慢しろよ」
「リッキー家は一家で処理しきれない荒事を抱えこんじまったから破滅したんだわ」
「要は風呂敷広げすぎってことだろ」
「そういうことだな」

 ガルガインがドワーフ特有の髭を撫でながら首を縦に振った。

「ま、遅かれ早かれこうなっていたってわけか」
「だな。あとは……ガブル家がどう動くかだな」

 ガルガインが腕を組んで難しい顔をした。
 彼はエリィやスルメ、サツキから情報を得ておりこういった話が好きなため事情に精通している。

「ガブルが動くか?」
「リッキー家の親玉はガブル家だろ? 子分がやられて黙っているとは思えねぇ」
「オレの予想じゃ、あいつらは飛び火すんのがイヤでリッキー家のことを見捨てるぜ」

 スルメが舞台上でわめいているキャシー・リッキーを顎でしゃくった。
 ガルガインが少し驚いた表情でスルメを見て口を開いた。

「まあ……考えてみれば、沈んでいく泥舟をすくい上げようって殊勝な奴はいねえか」
「だろ? ガブル家は元からどの家ともツルまねぇ一匹狼な家だ。家風がガブリエル・ガブルの代で簡単に変わるとは思えねぇ」

 スルメとガルガインが没落していくリッキー家と革ドレスを乱れさせたキャシー・リッキーの姿を重ね合わせ、ああはなりたくないと互いに目配せのみで確認し合った。
 やがて興味をなくし、二人は無造作に踵を返した。

「どうしたんだい二人とも? このぼくの情報網の凄さを知りたいのかい?」

 先ほどから話に割って入ろうとしていた亜麻クソが鼻の穴をふくらませる。

「ふふっ、よかろう! このドビュッシー・アシルの持つ、貴重かつ希少な情報を特別に開陳しようじゃあないかっ!」
「いや、いらね」
「来世の酒場で頼むわ」

 スルメとガルガインは素っ気なくあしらって亜麻クソの脇を通り抜け、要件はすべて済んだと家臣団を引き連れてダンスフロアから出ていこうとする。

「チミ達ぃ、そんな態度でいいのかい? ぼくはグレイフナー魔法学校一の巨乳と名高いジュウモンジ家の五女、ミーヤ・ジュウモンジ嬢のスリーサイズを知っているぞッ!!」

 亜麻クソが左腕を顔の輪郭をなぞるように巻きつけ、右手の杖で自分の乳首付近を差し示し、スノーボーダーのごとく半身になって、ぎゅぱぁん、と腰を突き出した。
 何度もしつこい確認ではあるが、ズボンの尻の部分は盛大に破れている。

 その言葉に、ぴくり、とスルメとガルガインが肩を震わせた。

「そしてなんと! グレイフナーで今もっとも人気のある! エイミー・ゴールデン嬢のスリーサイズも入手したッッ」

 さらなる亜麻クソの重大発言。
 二人は足を完全に止め、至極真剣な顔つきで亜麻クソへと振り返った。

「おい」
「てめえ」
「なんだい?」
「………その話、詳しく聞かせろ」
「……行くぞ。教えなかったら火炎酒を樽ごと飲ませる」
「ハッハハハッ、いいだろう! このぶぉくについてきたまへっ! 諸君、フォローミィッ!!」

 スルメ、ガルガイン、亜麻クソは男子学生らしい団結力でダンスホールの出口へと向かう。

 気づけば、新手の警邏隊が次々に『甘い社交場』へと集まっていた。

 この先はサウザンド家とグレイフナー警邏隊、シールド団員に任せればいい。
 『甘い社交場』にとどまっている理由は特にないため、他の突入部隊とともに作戦成功をねぎらいながら帰還していく。

 三人組がダンスホールから出る頃には、キャシー・リッキーの叫び声は泣き声に変わっていた。

 スルメは振り返ってボブの母親の姿を一瞥すると、国の目を盗んで犯罪行為に手を染めていた者の末路は無様だと感じ、こういった連中に食いものにされる王国民が多くいることを知った。

 そして本当の悪というものは、こんな簡単に消滅しないだろうとも同時に感じた。

 単純にリッキー家は弱かった。
 本物ならもっと強えはず、とスルメは独自の理論を展開し、ガブル家がリッキー家の騒動に関わっている匂いをわずかも出さないことを不気味に思う。

 『甘い社交場』を出ると外は騒がしかった。

「リッキー家が負けたっ!」「領地30はゴールデン家が獲得したぞ!」「ゴールデン家の選手は四女らしいっ」「しかもめっちゃ美人」「金貨50枚スッたわ……」「今年の最大領地獲得家はゴールデン家で決まりか?!」

 周囲は魔闘会一日目・最終試合の話題で持ち切りになっており、聞けばエリィがジョン・リッキーに勝利して領地30個を獲得したようだった。

「……本気で戦いたくねぇのはエリィだな」

 ぼそりとスルメがつぶやくと、隣にいたガルガインが力強く首肯し「ちげえねえ」と相槌を打った。

「諸君、すまない。エリィ嬢のスリーサイズは入手困難だ」

 亜麻クソが何を勘違いしたのか、ふっと髪を拭き上げてお手上げのポーズをキザったらしく取る。

「いやいやいや、入手しようとすんなよ?!」
「おめえそれだけは本気でやめとけ!」

 スルメとガルガインがお手上げポーズをする亜麻クソの腕を取って無理矢理下ろした。

「どうしてだい?」
「知られたら……アリアナにぶち殺されるぞ」
「酒を鼻から飲むほうがマシだ」
「てかエイミーのネタだけでも亜麻クソ、死ねるぞ」
「ちげえねえ」

 自信満々の顔をしていた亜麻クソは、アリアナにおしおきをされる図を想像したのか徐々に顔が引き攣っていく。

「諸君ぅぅん! このことは他言無用で頼むよっ!」

 ずばしぃ、とポーズをキメて亜麻クソは冷や汗をかきながらふっ、ふっ、と髪を吹き上げる。

 普段は亜麻クソのアホ発言など完全スルーだ。

 しかし今回ばかりは身の危険を感じ、スルメとガルガインは顔を見合わせて深くうなずいた。



     ☆



 その頃、リッキー家当主ジョン・リッキーが目を覚まし、自身のベッドを警邏隊が取り囲んでいる光景を見て呆然としていた。

 彼はこの後、魔力拘束具を全身に装着され、シールド団員と警邏隊によって城へと召し出されることになる。

 リッキー家に待っている未来は“没落”の二文字だけであった。







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ドビュッシー・アシルの華麗なる女の子メモ
ぼく
「魔法学校一のイケメン」
ミーヤ・ジュウモンジ嬢
「159cm/B100 W64 H89」
パンジー・サウザンド嬢
「162cm/B80 W55 H80」
スカーレット・サークレット嬢
「158cm/B79 W58 H82」
エイミー・ゴールデン嬢
「169cm/B88 W58 H83」
エリザベス・ゴールデン嬢
「171cm/B86 W60 H86」
エリィ・ゴールデン嬢
「164cm/B8◼◼◼◼◼◼◼
アリアナ・グラ◼◼◼◼◼◼◼
「151cm/B7◼◼◼◼◼◼◼
◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼
◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼
     (血が滲んでおり読めない)
     (鞭で叩かれたかのような跡がある)

エリィ嬢と愛しのアリアナ嬢のスリーサイズが思い出せない。
でもぼくはあきらめない。
桃源郷を求める恋の冒険者にして三つの数字を求める探求者。
ぼくの名前はドビュッシー・アシル。
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グレイフナー王国貴族所有領地数

 1.バルドバット家(1002)
 2.サウザンド家 (1001)
 3.テイラー家  (822)
 4.ヤナギハラ家 (746)
 5.ササイランサ家(600)+10
 6.ガブル家   (550)
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 7.ジャクソン家 (470)
 8.サークレット家(420)−6
 9.ピーチャン家 (402)
10.クラーク家  (367)
11.ウォーカー家 (340)
12.ヤングマン家 (322)
13.ジュウモンジ家(285)+3
14.エヴァンス家 (252)
15.シュタイガー家(238)
16.ツ家     (220)
17.ストライク家 (209)+3
18.ワイルド家  (150)
19.リッキー家  (150)−40
20.マウンテン家 (124)
21.シルバー家  (119)
22.ショフス家  (111)
23.モッツ家   (106)
24.ギャリック家 (103)
25.ゴールデン家 (100)+30
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26.フィッシャー家(96)
27.ムーフォウ家 (92)
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      ・
      ・
332.グランティーノ家(2)+1
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      ・
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魔闘会終了後、獲得領地が正式に反映されます。
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