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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第41話 魔闘会でショータイム!⑨

大変・・・お待たせ致しました・・・
風邪や仕事で遅くなってしまいました。申し訳ございません・・・m(_ _)m


最新話です!!

 ゴォォンと銅鑼が鳴り、俺は前方へと突進し、ジョン・リッキーは杖を一振りした。

「“空魔分裂エアディビジョン”!」

 ジョン・リッキーの杖から風が吹き荒れ、オレンジ色の髪を後ろで束ねた顔色の悪い男が分裂していき、ジョン・リッキーが一人から五人に増えた。

 空魔法中級“空魔分裂エアディビジョン”。

 この魔法は実体が存在し、術者が分体を操ることができ魔法を唱えさせることができる。そして難易度の高さから、限りなく上級に近い上位中級魔法として魔法使いに認識されており、使用者はかなり少ない。

 ジョン・リッキーの得意技ってのはクラリスの資料通りだな——!

「やあっ!」

 開始位置から二十メートルの距離を数歩で縮め、一番近くにいたジョン・リッキーに右拳打を打ち込んだ。

 丸めた布団を殴ったような沈み込む衝撃が走り、痩身のジョン・リッキーが後ろに吹っ飛んで闘技台にバウンドすると、掻き消えた。

 やっぱ偽物か!

「小娘っ!」

 五人から四人に減ったジョン・リッキーが苦々しげに顔を歪ませつつ後方に下がる。

『エリィ・ゴールデン嬢の鋭いパンチッ!!』
『“空魔分裂エアディビジョン”が一体消えましたな』
『可愛らしい顔をしてとんでもないスピードですわねっ』
『ジョン・リッキー氏も分裂魔法を使いこなすとはなかなか器用ですな。白魔法の浄化魔法と同等レベルで難しいとされている魔法ですぞ』

 解説のアナウンスが入ると、会場がガンガンガンと鉄板を叩く音に包まれた。

 いったん距離を取って風の型を構え直す。

 ジョン・リッキーが持っているあの杖……何か不吉なものが込められているのが感覚で分かる。気のせいかもしれないが、あまり素手で受け止めたくない。

 時間稼ぎをする必要もあるし、まずは無難に魔法で牽制するか。

 素早くベルトから杖もどきを引き抜き、身体強化を切って魔法を唱えた。

「“エアハンマー”!」

 ポカじい直伝、風魔法上級“エアハンマー”の連射攻撃。
 さらに風魔法上級“ウインドソード”による攻撃を混ぜる。

 球体の“エアハンマー”と三日月型の“ウインドソード”が不規則にジョン・リッキーへと飛んでいく。
 さぁ、せいぜい頑張って防いでくれよ。

 四人のジョン・リッキーは各々が的確に魔法を使ってこちらの攻撃を防ぐ。

「“ファイアウォール”!」
「“エアハンマー”!」
「“ウォーターウォール”!」
「“サンドウォール”!」

 本体を悟らせないためにバラバラの系統の魔法を使って迎撃か。
 “空魔分裂エアディビジョン”は分裂した分体が意思を持つわけではなく、あくまでも本体が手動で動かすようなイメージになる。例えるならラジコンをあいつは三人分動かしてるってわけだな。

 かなり動きはいいものの、やっぱ分裂しているだけあって魔力が分散している。十二元素拳で本気出したらあっという間に終わるな、これ。

「あらあら、ずいぶんと必死ね」
「ふん。余裕の面がいつまでもつか見ものだな」

 とか言って結構辛そうなジョンさんね。

 杖にだけ注意だな。
 五本すべて、分体全員に持たせた実物だろう。どうにも俺とエリィの勘があの杖を警戒するべしと信号を送っている。

 息切れの直前まで風魔法を唱えていく。
 魔法を唱えるたびにツインテールがパッと風で跳ねる。

『エリィ・ゴールデン嬢、怒涛の風魔法攻撃! ジョン・リッキー氏はそれを相殺していますわ!』
『魔法の連続詠唱による“魔力息切れ”までこの攻防は続きますな』
『エリィ・ゴールデン嬢は風魔法が得意な様子!』
『ジョン・リッキー氏は胸中で驚愕している可能性が高いですぞ』
『それはどういう意味ですの?!』
『“空魔分裂エアディビジョン”で敵の攻撃を防ぎ、本体が大技を決めるという戦法がジョン・リッキー氏のスタイルですからな。これだけの連続攻撃は魔力が削られてキツイでしょう』

 こちらの連続風魔法とジョン・リッキーの防ぎっぷりに、会場が沸き立った。
 わあああああっ、という歓声と拍手が巻き起こり、ゴールデン家応援席の方向からはうっすら「お嬢様ぁぁああぁぁっ!!!」と魂の叫びが聞こえる。

 ちらりと見ると、エイミーが顔を真っ赤にして旗を振り、「がんばれがんばれ」と言っている様子が小さく見えた。

「くっ……」

 ジョン・リッキーは青白い眉間に皺を寄せる。
 魔法は同時に行使できない。
 そのため分裂した分体がいようとも、必ずタイミングはズレるし多く魔法を放てるわけではない。分体を操りながら魔法の種類を変えて連射するのは集中力が必要だ。

「舐めるなよ……」

 四人の中の一人が、苛立った顔で杖を振り下ろす。

「“空斬エアスラッシュ”!!」

 魔力が練り込まれた空魔法下級“空斬エアスラッシュ”が空間を切り裂いて、目にも留まらぬスピードで押し寄せた。

 上位魔法を入れてくるとはやるじゃねえか!

「えいっ!」

 風魔法の詠唱を中断して身体強化“上の下”を全身に施し、ガンマンのごとくベルトに杖もどきを収めて横一文字に放たれた“空斬エアスラッシュ”を両手で挟み込んだ。

「たあっ!」

 そのまま強引に““空斬エアスラッシュ”をねじ伏せて消滅させた。

『エリィ・ゴールデン嬢、空魔法を素手で受け止めたぁ!!』
『身体強化によほど自信がないとできない芸当ですぞっ』
『ジョン・リッキー氏、息切れか?!』
『両者、呼吸を整えておりますな』

「はぁ……ふぅ……」

 深呼吸しているフリをする。

 分裂魔法である“空魔分裂エアディビジョン”の効果が切れないところを見ると、ジョン・リッキーは魔力操作の熟練者と考えてまず間違いないだろう。本当にあのボブ郎の親父なのか? 結構強くねえか? 余裕で倒せるけど。

「ピギャゴフゥゥンンッ!」

 五分経過を伝える時計怪鳥ピギャレスの鳴き声が風魔法の拡声器で拡散された。
 初めてみたときは心の中で、どんな鳥やねん、とツッコミを入れたね。

『早くも五分経過ですわ!』
『いまのところ判定はドローと見受けられますぞ』

 いい時間稼ぎになっているな。
 今頃、コバシガワ商会の連中とサウザンド家、ゴールデン家の合同部隊がリッキー家の闇取引場所を摘発しているはずだ。

「遊びは終わりだ。小娘と違って俺は忙しい」
「レディに合わせるのが殿方の優しさというものよ?」
「少しばかり魔力操作が達者だからといって調子に乗るなよ」

 四人いるジョン・リッキーが一列に並んだ。
 なんだ。前にならえでもするのか……?


「死ねっ」


 身体強化したジョン・リッキーがこちらに飛び込んできた。
 “空魔分裂エアディビジョン”の効果中に身体強化って相当むずいはずだぞ。しかも分体にも身体強化がかかっている。

 四人一列になったジョン・リッキーは先頭が杖を振り下ろすと、後方の三人が一気にバラけて左右から攻撃を入れてきた。

『ジョン・リッキー氏、身体強化での攻撃ぃ!』
『これは勝負に出ましたな』
『果たして魔力はもつのか?!』

 先頭のジョン・リッキーが振り下ろした杖をかわして懐に入り込む。

「えいっ!」

 踏み込みを利用した“体当て”でジョン・リッキー一号を押し出すように吹き飛ばした。さらに二号の脳天振り下ろし攻撃は手首に狙いをつけて左手で払い、三号のみぞおち狙いの杖攻撃は右膝で腕を打って軌道を逸らす。

「やあっ!」

 そのまま跳躍し、両足を全開まで広げる脚技でジョン・リッキー二号、三号を攻撃。

 ドドッ、という鈍い音が響いて二人のジョン・リッキーが左右に飛んでいく。
 倒さないように加減するのも大変だ。

 おっと、後ろから魔法攻撃がくるな——

「“空烈衝撃ショックウェーブ”!」


 ドパァンッ!!!


 後方から敵による空魔法中級“空烈衝撃ショックウェーブ”が放たれた。

 即座に身体強化を“上の中”に上げ、身体をひねって両手を交差させ正面で受け止める。

「——ッ!!」

 強烈な空魔法で身体が弾け飛んでくるくると回り、景色が空の青色と闘技台の灰色に何度も切り替わる。

『あああああっ!? 空魔法中級“空烈衝撃ショックウェーブ”がエリィ嬢に直撃っっ!!!!』
『ジョン・リッキー氏、四位一体の攻撃ですな』
『エリィ嬢このままではコロッセオの強固な壁に激突してしまう!!』

 ゴールデン家応援席からは「ぎゃあぁぁあぁぁっ」という絶叫が響く。

 激しいアナウンスと叫ぶ会場の悲鳴を聞きながら、身体をひねって空中で体勢を立て直し、コロッセオの壁に両足で着地する。

「やっ!」

 そのまま発射台よろしく、ジョン・リッキーに向かって飛び出した。

 結構な衝撃だが、ポカじいと身体強化で魔法を受け止める訓練をしていたため全く問題ない。
 距離が開いたのも好都合だな。

 飛び出しの勢いを殺さないように着地し、その足で走り出す。

『無傷です! エリィ・ゴールデン嬢、無傷ですわッ!!!』
『魔法攻撃を予測していたようですな』
『上位中級魔法の攻撃にも耐えうる身体強化ッ! 相当の使い手ですわよ!』
『彼女が着ているペラペラの洋服が破れないことも驚きですな』

 コロッセオ中に歓声が爆発し、ゴールデン家応援席付近からは「ぶちのめせぇぇーーーっ!」という雄叫びがあがった。
 てか五割クラリスの声だな。どんだけ声でけえんだよ……。

『エリィ嬢が矢のように前方へ駆けていくぅ! ジョン・リッキー氏、迎え撃つためにまた縦一列の陣形を取ったぁ!!』

 魔法の連続使用は全力疾走と似ており、使い過ぎは息が上がる。
 分体全員に身体強化。さらに魔力消費の多い空魔法中級を一発使ったジョン・リッキーはまだ呼吸が整っていないはずだ。

 ジョン・リッキーが闘杖術の構えで睨んでくる。

『エリィ嬢、果敢にも四人のジョン・リッキー氏へ飛び込もうとするぅ!』
『手に汗握りますな』
『進路は一直線っ!』

 呼吸の整わないジョン・リッキー四人組に正面から突撃する。

「“火槍ファイアランス”!」
「“火槍ファイアランス”!」
「“火槍ファイアランス”!」
「“火槍ファイアランス”!」

 いやらしくタイミングをズラした火魔法上級の多重攻撃。
 ロングスピアのような火の槍がゴオオッと不吉な音を立てて飛んでくる。

 身体強化中の右足と左足の魔力循環を片方僅かに弱くし、強引に歩幅を変える十二元素拳の歩行技、“縮脚”で高速移動している身体の軌道を変えた。

『エリィ嬢に“火槍ファイアランス”が当たらないぃっ! 誤射かぁ?!』
『いや、ギリギリで避けてますぞっ』
『エリィ嬢がアタックをかけるぅ!』

 “火槍ファイアランス”を二つかわし、残りは跳躍して二段蹴りをする“二起脚”で迎撃する。

「はあっ!」

 バシュン、バシュン!

 赤いハイカットスニーカーが“火槍ファイアランス”を二本掻き消した。
 スニーカーを広告費なしで宣伝するチャンス!

『ダンスのようなエリィ嬢の体術で“火槍ファイアランス”が消滅!』
『目が離せませんぞっ』

 わっ、と周囲から一気に歓声が湧くと同時に、着地した足に力を入れてジョン・リッキーに迫る。

『エリィ嬢ついに懐に飛び込んだ!』
『ジョン・リッキー氏は魔法から身体強化に移行したようですなっ』

 特大のアナウンスが響き、ジョン・リッキー一号から四号までが一斉に顔をしかめて後方へとステップを踏む。

 どれが本体かは分からないが、全部に拳打をお見舞いしてやればいいだけの話だ。

 ステップをしながら呼吸を整えるジョン・リッキー。

 一秒、二秒、三秒、ちょっと待ってあげてから……手前にいた隙だらけの一号に強烈な上段蹴りを食らわせた。

「ぐっ!」

 赤いハイカットスニーカーがジョン・リッキーのこめかみを捉え、エリィの美脚が振り抜かれると、一号がダンプカーに激突したような勢いで闘技台を奥へとすっ飛んでいく。

『見た目からは想像できないエリィ嬢の爆裂キックゥッッ!!!』
『あれは痛いですな』

 うおおおおおおおおおおおおっ、と湧き上がるコロッセオ。

 一号は闘技台から飛び出してバウンドすると、煙のように蒸発した。
 あいつも偽者ね。

 ジョン・リッキー二号から四号の三人が額に脂汗を浮かべ、一斉に飛び込んできて杖を振り下ろした。そろそろ魔力枯渇か?

 蹴りの体勢からすぐ十二元素拳「風の型」へと構えを戻し、杖に触れないように最小限の動きでかわしていく。
 右へ左へ、あやしげな杖へ直で触れることをせず、確実にいなして避け、細かいカウンター攻撃も忘れない。

『とてつもなく速い攻防!』
『目で追いきれませんな』

 ツインテールがひらりと舞い、拳打が飛んでジョン・リッキーの着ているローブがばさりとはためく。

 はい、右。左。いいよ〜もっと攻撃してちょうだいな。
 踏み込みが甘いね。運動不足じゃない?

「ピギャジュプウゥゥンッ!」

 ギャグみたいな鳴き方で十分経過を伝える時計怪鳥ピギャレスが鳴く。
 いきなり鳴くとちょっとびっくりするわ。
 残りあと五分、ぼちぼち決めるか!

『エリィ・エリィ・エリィ・ゴールデンッ!』
『エリィ・エリィ・エリィ・ゴールデンッ!』
『エリィ・エリィ・エリィ・ゴールデンッ!』

 ゴールデン家応援席からは熱烈なエールが送られ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガガガンと背もたれの鉄板がリズミカルに叩かれる。リッキー家の集まる応援席からも当主を鼓舞する声が広がっていく。

 コロッセオは『エリィ・ゴールデン』コールと『ジョン・リッキー』コールで埋め尽くされ、耳が痛くなるほどの歓声が沸き起こった。

「“ウインドソード”!」
「“ウインドソード”!」

 二号がこちらの攻撃を受け止め、三号と四号が身体強化を切って“ウインドソード”を唱えてくる。

「たっ! はっ!」

 拳打二発で粉砕する。

 気の早いギャンブラーが魔法賭博チケットを投げている姿が目の端に映る。
 ジョン・リッキーは魔力が底を付きそうなのか、苦悶の表情を浮かべている。

「死ね小娘ッ!!!」

 平行線をたどる攻防に耐えきれなくなったジョン・リッキーが玉の汗を額に浮かべ、三人一斉の杖攻撃を仕掛けてきた。

 正面、二号の攻撃は囮——
 三号と四号が死角から杖を振り抜いてくる。

「やっ!」

 二号の振り下ろしを半身になってかわし、さらに伸びた腕をつかんで引っ張り、相手の身体をなぞるようにしてその場で素早く一回転する。

———!!?

 ジョン・リッキー二号が横顔で驚愕の表情を作る。

 十二元素拳の投げ技と歩行技の多重利用、“変り身”によって二号と俺の位置が一瞬にして入れ替わり、相手の背中が丸見えになった。

 もう時間稼ぎは充分だろ。

「たあああっ!!」

 背中丸出し、ジョン・リッキー二号の腰骨付近に右掌打を炸裂させた。
 ズム、という鈍い音とともに二号の身体が掻き消え、杖だけが闘技台の上に転がる。

 さらに追撃を仕掛けるため一歩足を踏み出すと、ジョン・リッキー三号が捨て身で四号の前に移動する。

 四号が本体か?
 それならこのまま二人同時にやってやる。

「“エアハンマー”!」

 後ろに隠れた本体らしきジョン・リッキー四号が最後の悪あがきで下位上級の風魔法を発射した。
 拳打一発で消せる俺には関係が——


「うぐぅ!!!」


 味方の背中を撃った?!

 ジョン・リッキー本体が三号の背中めがけて“エアハンマー”を唱え、その力でゴリ押しされた三号がつんのめった姿勢のまま滑べるようにこちらに迫ってくる。

 ちょっと待て!
 思った以上にスピードが乗ってるぞ?!

「はっ!」

 十二元素拳歩行技“縮脚”で強引に歩幅と進路を変えてわずかに動線をズラし、三号との正面衝突を避けてそのまま蹴りをお見舞いしようと足を振り上げた。

 が、三号は自爆覚悟らしいのか俺の蹴りを避けようとせず、持っていた杖をこっちに投げつけた。

「ッ?!」

 さすがに杖を投げてくるとは思わず三号を蹴り飛ばして消滅させると同時に、咄嗟に手で杖を払ってしまった。

 転がった杖を見れば、何か禍々しい魔力が揺らいでいるのがぼんやりと確認でき、先端からは無数の棘が飛び出していた。身体強化しているのでダメージは負っていないが……杖の棘に触れてしまった。

「あっ」

 途端、足に力が入らなくなった。

 なんだ?!
 魔力が妨害されている?
 うまく魔力が循環できない。

 くっそ、油断した。

 やっぱ……本気で戦わないのは性に合わないな。

『一瞬のできごと! エリィ嬢なぜか足を止めたぁ!』
『むっ。魔力切れですかな?』

 じわじわとイヤな感覚が腕から体内へと潜り込んできて、魔力炉のあるヘソ付近へと迫ってくる。

 これ、どうにかしないといかんやつだ。
 毒か?

「“再生の光”!」

 ベルトに差した杖もどきに触れる仕草をし、白魔法下級を唱えて回復をはかる。

『まばゆい光がエリィ嬢を包み込む!』
『白魔法ですな』
『エリィ嬢がダメージを負うようなシーンはなかったですわよ?!』
『何かあったのでしょうな。でなければあれだけ有利に事を運んでいたエリィ嬢が攻撃をやめるとは思えませんぞ』

 悪寒で身体が震える。
 立っていられない。
 やはりあの杖、ただの杖じゃなかったってことか。

『おおっとエリィ嬢、膝をついた!』
『ジョン・リッキー氏は急いで呼吸を整えておりますな。あの様子だともう魔力は残っておらんでしょう』
『エリィ嬢、何かの策にはまってしまったのか?!』

 会場がどよめき、ゴールデン家応援席からは、エリィコールが消え、「立て〜! 立つんだエリィィィィッ!!!」という悲鳴に近い怒涛のエールが送られる。

 悪寒はヘソ下の魔力炉まで到達していないので魔力はまだ練れる。

 これ……呪いの魔道具だな。
 ポカじいと解呪の訓練をしたときの感覚と似ている。

『なるほど。仕込み杖の可能性が高いですぞ。ジョン・リッキー氏の持っていた杖に何らかの毒が仕込んであったと考えると、エリィ嬢のダメージも理解できますな』
『立ち上がれるのかエリィ嬢ッ。ゴールデン家応援席からは希望と絶望が合わさった叫びが響いている!』

 本体のみになったジョン・リッキーがゆっくりと近づいてくる。
 ふらついている様子を見ると、魔力が尽きる一歩手前といったところだろう。

「“ウインド”」

 ジョン・リッキーは愉悦に満ちた表情で魔法を唱え、闘技台に散らばった杖を“ウインド”で手元に運んだ。

「残念だったな、小娘。おまえの触れた杖は俺のコレクションの中で一番の“ハズレ”だ」
「……ハズレ?」
「グレイフナーでも入困難な呪杖シリーズ。その内のNo.5『イパネマ婦人・魔力妨害の呪い』。ボタンを押すと棘が飛び出し、触れた魔法使いに呪いをプレゼントする素晴らしい杖だ」

 ジョン・リッキーが青い顔で杖の横についている小さな突起を押すと、棘が先端から現れた。

「ああ〜残念だったな〜小娘ぇ〜〜っ」

 息子のボブと同じような他人を小馬鹿にしたような顔を作り、気味悪く笑って自慢げに五本の杖を見せびらかすジョン・リッキー。
 完全に自分の収集物を見せたがるコレクターの顔だ。

『ジョン・リッキー氏、余裕の表情でエリィ嬢に歩み寄る!』
『エリィ嬢、このままでは負けますな』

 観客席からは「立てぇぇ、エリィ・ゴールデン!」とか「おれの金貨がかかってるーっ!」など多種多様な声が響き、騒然とした雰囲気になった。

「おまえにたまたま魔法の才能が備わっており、魔法の訓練を死ぬ気でしていれば“浄化魔法”を使えたかもなぁぁぁ………千億分の一ぐらいの確率で………なぁ〜?」

 ジョン・リッキーがいやらしく口元をゆがめ、杖をローブのポケットへしまい、一本だけ手に持った。

「制限時間はあと一分少々。種明かしも終わったところで楽にしてやろう」

 わざとらしくバッとローブをはね上げ、ジョン・リッキーが杖をこちらに向ける。

「領地30個は俺のものだ」

 狡猾にニヤリと笑い、ジョン・リッキーは魔力を循環させる。
 トドメをすぐ刺さずに言葉で相手を痛めつけようとする手口は実にボブの父親らしかった。

 いやいや、残念なのはおまえのほうだよ。
 状態異変を“呪い”だってなんで教えちゃうわけ?
 黙って攻撃魔法使うだろ普通は。虚栄心が強すぎるぞ。

「黒き道を白き道標に変え、汝ついにかの安住の地を見つけたり……」

 目を閉じて魔力妨害に負けないよう魔力を循環させる。
 このまま身体強化してワンパンで終わらせてもいいが、他に被害者が出ないよう呪杖シリーズとやらを俺とエリィで解呪してやろう。

『エリィ嬢が……魔法を詠唱しておりますわ!!!』
『このタイミングで詠唱ですと……?』
『そんな余力が?!』
『何の魔法を唱えているのかアナウンス席からは聞こえませんな』

「ガキの遊びか」

 ジョン・リッキーが吐き捨てるように言ってくる。
 向こうは魔力が少なく、循環に手間取っているらしい。

「愛しき我が子に聖なる祝福と脈尽く命の熱き鼓動を与えたまえ………“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”!」

 浄化魔法特有のド派手な魔法陣が闘技台に展開された。
 月の雫のような美しい光が俺の全身を包み込むと、銀色の星屑が踊るように跳ねて身体へと染み込んでいく。

 予想はしてたが十二元素拳でこれだけエリィが目立ったからな。
 “純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”を隠していてもエリィが注目されてしまうのは目に見えている。それならいっそこの場で披露して、貴族間の交渉材料として積極的に使わせてもらうとしよう。

 お披露目の場所を提供してくれてありがとう、ジョン・リッキー。

『エリィ嬢が魔法を行使! 美麗な魔法陣が闘技台に広がっているぅぅ?!』
『なんと?!』
『な、な、なんてことですの?! この魔法は……!』
『ま、まさか……!』

『『浄化魔法!!!!?』』

『『しかも中級ッッ?!!』』

 実況席二人の声が重なると会場がしんと静まり返り、息を飲むような吐息が各所から漏れた。

「な……バカな………い、今すぐ魔法を止めろ!」

 ジョン・リッキーが慌てふためいて杖をバタバタと振りかぶる。

 “純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”の星屑が銀色に煌めきつつ、まず近くにあったNo.5『イパネマ婦人・魔力妨害の呪い』とやらに降り注ぎ、コーヒーに入れてかき混ぜた角砂糖みたいにじわじわ消滅させていく。

「今すぐその魔法をやめろぉぉぉおぉっ!」

 怒りと焦燥からかジョン・リッキーが急いで杖を振り下ろす。

 しかし、ジョン・リッキーの持っている杖にも“純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”の星屑が降り注ぎ、魔法が発動する前に先端からボロボロと崩れ落ちた。

「ぐああああっ! コレクションNo.1『メルル乙女・魔力循環の呪い』がぁぁっ!!」

 宝物を奪われたような悲痛な顔でジョン・リッキーがボロボロと崩れていく杖を見て悲鳴を上げる。

 さらに、奴のポケットにも銀色のまばゆい星屑が集まっていく。
 ジョン・リッキーは気づいたのかすぐさまポケットに右手を突っ込んでまさぐると、崩れかけた三本の杖を取り出して絶叫した。

「No.2『ワルツ店主・悪酔いの呪い』、No.3『シリアル夫妻・絶叫の呪い』、No.4『ポイン先輩・麻痺の呪い』がぜんぶぅっ!!!」

 細い目をかっ開いて、崩れ落ちていく杖を見てわなわなと震え、頭を掻きむしるジョン・リッキー。
 名前を叫ぶな、名前を。アホ丸出しだぞ。

 やがて完全に消えた五本の杖から呪いの怨霊らしき幽体が現れ、各々『ありがとう』『み、水くれる?』『お尻ピチィィィッ!!』『しびれるぅ』『よかったよかった』と捨てゼリフを残して成仏していった……。

 って、No.3『シリアル夫妻・絶叫の呪い』って絶対にお尻ピチィの呪いだよな?!

 あれに当たらなくてよかったぞ!
 本気で!
 あっぶね! あっぶね!

 “純潔なる聖光(ピュアリーホーリー)”を止めると、地面に展開された魔法陣が小さくなって消える。

『なんんんと、ジョン・リッキー氏が持っていたのは入手困難と言われているレアアイテム、呪いの杖でしたわ!!』
『だからエリィ嬢は触れないよう戦っていたんですな』
『一本一億ロンとも言われている杖を失い茫然自失のジョン・リッキー氏!』
『氏の強さは魔力操作だけでなく杖にもあったんですな』
『対するエリィ嬢はまだまだ魔力がありそうな顔をしているぞぉぉっ』
『風魔法の連射、身体強化、白魔法二回、浄化魔法中級。これだけ使ってまだ余裕があるとは凄まじい魔力保有量ですな』

 ゆっくり立ち上がって魔力を回し、身体に異変がないか素早く確認する。
 よし、ちゃんと解呪されているな。

「こむすめぇ……こむすめぇ……こむすめぇ……こむすめぇ……!」

 え、おむすび?
 ジョン・リッキーさん、怒りのあまり小娘しか言ってないぞ。
 呪いの杖を浄化しちゃったのはちょっと悪いかなーとも思うけど、これ、真剣な戦いだから仕方ないよな。うん。

 そんでもって息子のボブとしっかり親子のコミュニケーションを取っていれば、俺が浄化魔法の使い手だって分かったのにな。白魔法師協会の実習で浄化魔法を披露しているわけだし、いかにジョン・リッキーとボブ郎が会話をしていないかが浮き彫りになったな。

 ま、今となってはどうでもいい話か。
 結果、ボブ郎は炭坑送りだし。

「許さんっ!!!!!」

 ジョン・リッキーがごく普通っぽいスペアの杖を取り出し、「“火槍ファイアランス!」と唱えるが、魔力の消耗しすぎで発動しない。

「っ……?!」

『ジョン・リッキー氏、魔力切れだぁあああぁぁっ!!!』
『形勢逆転ですな』
『エリィ嬢、ツインテールを右手ではね上げ、独特のポーズを取ったぞ!』
『本当にこの体術は興味深いですな』
『腰を落として左手を前にし、右手を腰に当てている! カッコいい! カッコいいですわよッ!!』
『マネしたいですな。一刻も早く』

 俺の勝利を確信したコロッセオからは今日一番の大歓声が巻き起こり、ゴールデン家応援席からは「グレイフナーに舞い降りし女神! その名もエリィ・ゴールデン!」という恥ずかしすぎるコールが響いている。

 バリーと使用人達が作った特製ボードが引っくり返っており、そこもコールに合わせて『グレイフナーに舞い降りし女神! その名もエリィ・ゴールデェェン!』という文字に切り替わっていた。

 ほんと恥ずかしいからやめてくれ!
 デェェンてなんだよ、デェェンって!
 ちょうど正面に文字が見える位置にいるから、エリィの顔がめっちゃ赤くなってる。

 ともあれ制限時間はあとわずかだ。
 ノックアウトで決めるぞっ。

「許さんぞ小娘ぇ! 貴様なんぞ魔薬漬けにして娼館に売り払ってやる!」
「親子揃って下品ね」
「ボブがお前に執着していた理由がいま分かった!」
「さ、おしおきタイムよ」

 ジョン・リッキーがふらつきながら飛び出し、こちらは身体強化“下の下”で迎え撃つ。

『ジョン・リッキー氏、飛び出したぁ!』

 ジョン・リッキーのなよっちい杖の振り下ろしを躱し、腰だめにしていた右手を思い切り開いて、散々悪行を重ねたリッキー家のせいで不幸になった人々の万感の思いを込めて———エリィちゃんビンタをお見舞いした。

「それだけでかい乳ならさぞ娼館で稼げ——」


 バチィィィン!!!


「ひぶぅっ!!!!」


 エリィのビンタがジョン助の頬にクリーンヒットした。

 飛び込みの勢いが完全にカウンターになっており、ジョン助はローブをバサバサとはためかせながらアイススケートのスピンみたいにくるくると回りまくった。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」

 か細い悲鳴とともに回転でつむじ風が起き、時間とともにスピンが弱くなって、ジョン助が止まった。

「ぃぃぃぃぃ…………いっ」

 そして、ぱたり、と白目を剥いて仰向けに倒れた。

 い、いかん……。
 ちょっと本気で叩きすぎたかもしれない………。


『きょ、強烈なビンタが決まったぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!』
『あれは痛いでしょうな』
『ジョン・リッキー氏、白目を向いて完全にノビているぅーーー!』
『エリィ嬢だけは怒らせたくないですな』

 ジョン助は悪に手を染めず、真っ当に魔法訓練をして善行を積んでいたら誰からも尊敬される素晴らしい魔法使いなれたのにな。親子そろって残念な人間になっちまって……。

「……治癒ヒール

 気休め程度にジョン助を回復しておく。
 このままだとエリィが泣きそうだ。

 即座に審判のシールド団員が両手を交差させて首を横に振った。

 それと同時に「ピギャジュウゴフゥゥンン!」と時計怪鳥が鳴き、試合終了を告げる銅鑼の音が盛大に鳴り響いた。

 ゴォォォォン。

 よし、時間稼ぎの役割は果たしたな。
 んでもって領地30個ゲット!!

『ノックアウーーーーーーーーッツ! 勝者ぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッ、閃光のごとく魔闘会に現れた浄化魔法と体術を操る金髪ツインテール美少女ぉ! グレイフナーに舞い降りし、めぇぇぇぇがぁぁぁみぃぃぃっ! エルルルルルルルルィィィッ・ゴゥゥゥゥゥゥルデェェェェェェェェン!』

 巻き舌最高潮の勝利宣言がレイニー・ハートから繰り出されると、コロッセオ全体から爆発せんばかりの歓声と拍手、鉄板を叩くガンガンガンという音が一斉に巻き起こり、鼓膜が破れそうな大音量が響き渡る。音が会場に反響し、ビリビリと地鳴りのごとく会場全体が揺れた。

 魔導カメラが近づいてきたのでサービス精神でバク宙を決め、笑顔で拳打するポーズを送ると、特大モニターの画面いっぱいにエリィスマイルが映し出された。

「うおおおおおおおっ!」「かわいいいいっ!」「素敵ぃっ!!」「女神降臨だぁ!」「あの体術習いたいですわ!」「おっぱい」「おれっち感動して脳みそパァン!」「もう大ファンです!」「結婚式に呼んで浄化魔法を! 金はいくら積んでも構わん!」「生足に朕パニックでおじゃる」

 各所から思い思いの声が聞こえるのは相も変わらずグレイフナー流だ。

 声援に応えて上品に手を振りつつ闘技台から下り、選手通用口へと入る。
 門番らしき白マントの二人が、熱っぽい視線を向けて敬礼してきたのでレディの礼を返した。

 さて、今頃リッキー家の裏取引先を襲撃している頃か。

 通路を歩いて控室へ向かい、裏取引の摘発にあたっているメンバーのことを考えながら、選手控室に入って一息ついた。



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グレイフナー王国貴族所有領地数

 1.バルドバット家(1002)
 2.サウザンド家 (1001)
 3.テイラー家  (822)
 4.ヤナギハラ家 (746)
 5.ササイランサ家(600)+10
 6.ガブル家   (550)
――――――――――――――――――――
 7.ジャクソン家 (470)
 8.サークレット家(420)−6
 9.ピーチャン家 (402)
10.クラーク家  (367)
11.ウォーカー家 (340)
12.ヤングマン家 (322)
13.ジュウモンジ家(285)+3
14.エヴァンス家 (252)
15.シュタイガー家(238)
16.ツ家     (220)
17.ストライク家 (209)+3
18.ワイルド家  (150)
19.リッキー家  (150)−40
20.マウンテン家 (124)
21.シルバー家  (119)
22.ショフス家  (111)
23.モッツ家   (106)
24.ギャリック家 (103)
25.ゴールデン家 (100)+30
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26.フィッシャー家(96)
27.ムーフォウ家 (92)
      ・
      ・
      ・
332.グランティーノ家(2)+1
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魔闘会終了後、獲得領地が正式に反映されます。
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