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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第40話 魔闘会でショータイム!⑧


 対戦が終わってアリアナが狐耳をぴくぴくと動かしながら、選手専用の特別通路から階段を上がってこちらにやってきた。

「アリアナちゃーーん!」「こっち向いて〜!」「可愛いっス!」「まじ抱きしめたい」「生きる活力ぅぅ!」「どうしたらあんな可愛くなれますのっ?!」「んあああっ!」「ビュゥティフォウ!!」

 周囲の観客からは惜しみない拍手と悲鳴が送られ、新しいもの好きのレディ達はライダースジャケットを買いにミラーズへと走り出し、ギャンブル狂い達はアリアナを真剣な目で見つめながら対戦表に羽ペンで何やら書き込んでいる。

「おつかれさま」
「ん…余裕」

 アリアナは嬉しそうに尻尾を左右にゆらりと振り、隣の席にちょこんと腰を下ろした。
 彼女の弟妹達が集まってきてアリアナに抱きつくので、彼女は優しげな目で一人ずつ頭と狐耳をなでていき、長いまつげをこちらへ向けた。

「領地1個ゲットした…」
「おめでとう。グランティーノ家再興への第一歩ね」
「うん。全部エリィのおかげ…」
「そんなことないわ。アリアナが頑張って魔法の修業をしたからよ」
「ううん…、エリィがいなかったら私は今の私になっていなかった」
「そうなの?」
「そうなの」

 彼女は真剣な顔で何度も瞳を瞬かせて、こちらをじっと見つめてくる。
 この目で見られると弱いんだよなぁ。
 ま、アリアナがそう言うなら、全部じゃないにしろ俺とエリィのおかげってことにしておくか。

「そう言ってもらえるなら友達として嬉しいわ」
「ん…」

 うなずいて、少し恥ずかしそうに下唇を噛んじゃうアリアナさんね。
 最近どうも可愛すぎる。いかんなこれは。

 アリアナと話しているとゴールデン家の面々も集まってきて、彼女を胴上げしかねない勢いでねぎらい、ウサックスサインを交換していく。

 エイミーの嬉しそうな顔といったらなかった。
 癒やし効果抜群すぎて、是非とも残業帰りで疲れきったリーマン達に見せてやりたい。田中とか大喜びするだろうな。……あいつ、元気かな。

 やがて第5試合が始まり、全員の視線が闘技台へと向いた。



     ◯



 昼食を挟み、試合が消化されていく。
 領地数1〜99個貴族の対戦が終わると楽器隊による華麗な演奏ショーが行われ、続いて各国より有名な役者が集まって寸劇が披露された。崩れた闘技台の準備や移動のための休憩時間ではあるが、楽器隊や役者を目的に来ている観客もいるのかずっと盛り上がった空気のままで、一度も弛緩していない。

「お嬢様。ご報告でございます」

 寸劇が終わってエリィの綺麗な手で惜しみない拍手を送っていると、クラリスが忍者のごとく近づいてきて俺の耳に顔を寄せた。

「準備完了でございます。予定通り、リッキー家の闇取引場所の候補地に集結しているとのことです」
「ご苦労様。ササイランサ家対リッキー家の戦いが始まったら、即座にモンタージュの照合ね」
「さようでございます」

 クラリスが神妙にうなずいたので、出場者の書かれた一騎討ち対戦表へ目を落とした。領地100個以上の貴族一騎討ちは早朝に対戦家が公表されるが、選手名までは発表されない。

 発表のタイミングは休憩ショーの前と決まっている。

 直前まで選手名が明かされないことは魔闘会賭博で勝利者を当てる難しい理由になっており、ショータイムが終わったコロッセオは対戦者名を目にしてギャンブル予想で大いに盛り上がっていた。

 ちなみに、対戦表をもらったあと休憩ショーをしっかり見るのが魔闘会を楽しむマナーとして浸透しているため、対戦表を手にしてすぐに騒ぎ出すことは誰もしなかった。

—————————————————————
領地数100個以上対戦表
一日目
『一騎討ち/指名戦・1』
 ※親が左、子が右。括弧内が賭けた領地数

第1試合
【ストライク家 →(3) サークレット家】
 ラッキー・ストライク × ヴァイオレット・サークレット

第2試合
【ジュウモンジ家 →(3) サークレット家】
 ヤズル・ジュウモンジ × イエロー・サークレット

第3試合
【ササイランサ家 →(倍返し10) リッキー家】
 ササル・ササイランサ × カリオ・ウェーメン

第4試合
【リッキー家 →(倍返し10)←ゴールデン家】
 ジョン・リッキー × エリィ・ゴールデン
—————————————————————

 第1試合、スカーレットの姉ちゃんであるヴァイオレットが出場することも驚きだが、第3試合でカリカリ梅が登場し、そして第4試合でリッキー家当主ジョン・リッキーが現れることにもびっくりしている。

 リッキー家は俺にこてんぱんのヘロヘロにされたいらしいな。

 そして何より、カリカリ梅の出場でついに奴の顔面が白昼のもとに晒されるため、サウザンド家とコバシガワ商会は裏取引の検挙準備をすでに開始している。

「リッキー家の裏取引場所は二十五ヶ所から七ヶ所まで絞っているのよね? 戦力は七分割しているのかしら」
「『焼肉レバニラ』が頻繁に出入りしていた四つの施設へ重点的に戦闘力と諜報力が高い人間を配置しております。また、諜報部が本日魔薬バラライの取引が行われるという情報を入手いたしました。よって、第3試合でカリカリ梅の面が割れ次第、取引現場を押さえようと思います」
「一気にいくのね。そういうの好きよ」

 本日をもってリッキー家がポシャる可能性大だな。

「そこで、突入部隊の指揮を取っておられるジャック殿とグレンフィディック様から伝言を預かっております」
「あら、何かしら?」
「お嬢様とリッキー家の対戦をできるだけ長引かせてほしい、とのことです」
「ああ……そういうことね」

 カリカリ梅とササイランサ当主の試合中にモンタージュの照合を行い、裏取引場所を割り出して人員の配置換えをし、その後に突入する。そのため、リッキー家当主がなるべく長く戦ってくれたほうが、向こうの対応が遅れるため成功率が上がる、という考えだろう。

「もちろんいいわよ。でもノックアウトは絶対にさせるから、制限時間少し前ぐらいに試合を終わらせるわね」
「ノックアウトは必須でございます。ええ。それはもう間違いなく。けちょんけちょんにしてください」
「分かってるわ。……クラリス、今日までご苦労様。あとはジャックとグレンフィディック様がうまくやってくれるでしょう」
「はい。わたくし、お嬢様の試合を見れなかったら熱で一年は寝込む自信がございました。この作戦がわたくしの手を離れてくれ、望外の喜びでございます」
「うふふ、良かったわね」

 エリィスマイルをクラリスに向けると、彼女は嬉し涙を流してハンカチで目元を覆った。
 試合を見れなかったら文句を一年間グレンフィディックに言ったんだろうなぁと思い、つい苦笑してしまう。

 クラリスは泣き止むとポケットにハンカチをしまって顔を上げた。
 その顔には真剣さが含まれていたので、こちらも気を再度引き締め直した。

「加えて伝言でございます。ジャック殿が、先日入国したセラー神国の者がガブル家に出入りしている情報を得ており、両者に関連性が見出だせないためひどく怪しげだ、とおっしゃっております。リッキー家滅亡への倍返し作戦が終わりましたら全面調査にあたるそうでございます」
「嫌な予感……セラー神国絡みなのね?」

 あの国は得体が知れない。
 サークレット家の貯蓄していたミスリル強盗はセラー神国が主犯だとされている。グレイフナー王国の諜報力は相当なものだとジャックが言っていたが、もし犯行がセラー神国主導であるなら完全に出し抜かれていないか?

 しかも魔闘会の観戦とかこつけて、セラー神国は親善大使を送ってくるふてぶてしいまでの態度を見せている。魔闘会の四日目、五日目を堂々と観戦するつもりらしい。

 自分達が犯人ではないと主張するにはいささか面の皮が厚すぎる。
 国の代表である教皇自らが来国するのであれば多少嫌疑がやわらぐであろうが、親善大使は向こうの国で国政を担う司祭という役職の者がほとんどで、教皇の血縁者は数名という話だ。

 そんな顔ぶれで来るなら自粛したほうがまだマシだろ。

 まぁ……怒りそうなグレイフナー国王がなぜか沈黙しているんだけどな。
 そこに関しても違和感が半端ではない。

 俺には分からない高度な政治戦略が繰り広げられており、水面下ですでに戦いが起きていてもおかしくはないぞ。

 グレイフナー王国はユキムラ・セキノが立案に参加した憲法に『領土戦争をするなかれ』とあるものの、国の資源を盗られて黙っているお気楽な国ではなく喧嘩をふっかけられたら徹底抗戦に打って出る国柄だ。むしろ殴り合い上等の国風だ。

「ともあれ、まずはリッキー家の者どもでございます」

 クラリスは完璧なメイドの一礼をし、両目を大きく開いて拳を突き上げた。

「な、なに?」

 何事かと思い、コロッセオの鉄板製背もたれに背中をくっつけて彼女から離れ、ついでに隣でおにぎりをもりもり食べているアリアナの手を握った。

 横目で俺とクラリスの話をずっと聞いていたアリアナはほっぺたに米粒をつけたまま、オバハンメイドを見て何度かまばたきをした。

「ああああっ! 他の試合などどうでもいいから早くお嬢様の試合をっ! 試合をおぉぉおおっ!!」

 真剣モードから一気にテンションをあげないでくれ。
 回りの使用人軍団も同意して叫ばないでくれ。

「エリィ、クラリスが興奮したね…」
「しばらく放っておきましょう」
「そだね…」

 俺とアリアナはそそくさと席を立ち、ゴールデン家三姉妹が話している前列の席へと移動した。



    ◯



 貴賓席に王族やお偉方が現れた。
 国王がグレイフナー王国の繁栄を宣言するとコロッセオは大いに湧き、第1試合のラッキー・ストライク対ヴァイオレット・サークレットは空前の盛り上がりを見せた。

 喫煙者が好きそうな名前のストライク家当主と縦巻きドリルのヴァイオレットはかなりいい試合をし、判定までもつれ込んだ。

 ラッキー・ストライクは冒険者協会定期試験777点。
 ヴァイオレットは758点。

 ラッキー・ストライクは空魔法派生“幸運の呼ぶ魔法(ラッキーマジカル)”というオリジナル魔法で有名な人物らしく、大した魔法は使わないくせにやたらと強かった。
 このオリジナル魔法はとにかく運が良くなるというもので、使用者のご都合主義になる。攻略法は、ラッキーでは抵抗できない圧倒的な魔法でねじ伏せるか、彼よりラッキーになるしかない。

 このように各家はオリジナル魔法を有していることが多く、詠唱呪文を門外不出にしており、秘術として独占している。ストライク家の“幸運の呼ぶ魔法(ラッキーマジカル)”もその一つだ。

 詠唱呪文を知るか魔法陣をそっくりそのまま記憶すればオリジナル魔法を盗むこともできるが、無詠唱か略式詠唱で唱え、魔法陣を消せば第三者は知ることができない。

 そんなこんなで、度々起こる都合の良いラッキーにヴァイオレットは焦り、もてる魔力のほとんどを使い切って制限時間十五分が経った頃には魔力枯渇で顔面を蒼白にした。

 結果はヴァイオレットの判定負け。

 ヴァイオレットは悔しそうに去っていったが、会場からは惜しみない拍手が送られた。
 根性と負けん気が強い。妹のスカーレットと全然違う。
 俺からも拍手を送っておいた。

 その試合を見届けたあと、観客席から立ち上がって選手控室へと続く階段を下りる。
 俺が「選手控室に移動するわ」と言った瞬間のゴールデン家といったら……もう全員目が血走った視線で駆け寄ってきてまじで怖かった。

 集中したかったのでクラリスの付き添いも断り、一人でゴールデン家専用の選手控室に入った。

 室内はひんやりとしていた。
 十畳ほどの部屋は隣からの攻撃を防ぐために魔力妨害の特別な壁てできており、ぼんやりと魔法陣が光っている。部屋の入り口はシールド団員が一名警護にあたってくれていた。

「着替えましょ」

 何となく独り言をつぶやいて、ハンガーにかけられている“ミラーズ特別戦闘服モデル”の上着を手に取った。
 そういえば、一人で着替えるのは久々かもしれない。
 いつも近くにはクラリスがいて、彼女がいないときは他のメイドやアリアナが手伝ってくれるからなぁ。

 トップスは『白いオーバーサイズロングTシャツ』
 ゴールデッシュ・ヘアで生地が作られており、下位中級魔法を七発、下位上級を二発防御してくれる高性能な一品。試作段階のため、特別価格30万ロン。高え。ゴールディッシュ・ヘアの加工技術が高まれば量産できるし値段を下げれるんだけどな。ミラーズではまだ販売はなく、先払いの予約のみ承っている。

 エリィが着ると……白Tシャツに金髪のツインテールがふんわり乗ってめっさ可愛い。やばい。

 ボトムスは『デニムショートパンツ』
 これはもう趣味と言えるぐらいエリィの着る服の中でお気に入りだ。デニム生地の防御力はいわずもがな、ゴールディッシュ・ヘアほどではないものの下位中級魔法を三発ほど防御してくれる。エリィの生足、最高。
 希望小売価格5万8000ロン。輸送費と加工費が高いのでこれでも割りと譲歩しているほうだ。ミラーズで絶賛販売中であり、雑誌に掲載しているので在庫は品薄。このあとの魔闘会で戦闘服として俺が穿けば、瞬く間に完売だろう。

 靴は『異世界初のスニーカー』
 パンジーが知り合いになった靴屋のおっさんに作ってもらった念願のローテクスニーカー! やっとお披露目だ。
 デザインは赤のハイカット。紐で結ぶ仕様になっており、靴底には女性物のパンツに使われていたゴムっぽい素材を使っている。かなり頑丈で、エリィが身体強化して誰かに蹴りを入れても壊れない。
 靴のサイドには星マークではなく、グレイフナー王国民に馴染み深い六芒星をデフォルメしたマークを入れている。

 ちなみに靴下は白にしており、ワンポイントの六芒星マークを入れておいた。
 ゆくゆくはデフォルメ六芒星マークのブランドを立ち上げるため、その布石になっている。ふふふ……儲かる未来予想図しか浮かばないぜ。

 Tシャツは当然デニムにinして、アクセントになる黒ベルトに杖もどきを差している。アリアナと違い、杖で魔法を唱える“ふり”をかなり練習してきた。ポカじいからは実戦に耐えうると言われているので、バレるまでは魔法を唱える際に杖もどきを使おうと思っている。

 着替えてしっかり靴紐を結び、ツインテールに乱れがないか据え置きの姿見で確認した。

 金髪ツインテールのカジュアル垂れ目ガールが鏡に映っている。
 白いTシャツに金髪がのってアクセントになり、デニムのショーパンからは美しいエリィの足が伸びていた。靴は赤いローテクスニーカー。シンプルな組み合わせだけに、エリィのスタイルと可憐さが引き立っていた。

 最後の仕上げにエリィの瞳と同じ、魔力結晶でできたブルーのペンダントを首から下げ、恋慕の神ベビールビルの絵姿が小さく彫られた銀色ブレスレットを装着した。

 ペンダントは六芒星の形で、真ん中に魔力結晶をはめ込んでいる。
 ブレスレットはさりげないワンポイントだ。

 こ、これは…………。

「めちゃくちゃ可愛いわね……」

 この格好で渋谷歩いたら一万人ぐらいにナンパされるぞ?!
 写メ勝手に撮られて「ゲロ可愛いパツキン美少女発見なう」とかSNSにアップされるぞ?!
 大丈夫かエリィ!! 行くときは俺と一緒に行くんだぞ?!

 ……とまあ冗談はさておき、カジュアル系も余裕で似合うから美少女はズルい。
 今日はこの服で決定だな。
 他のジャンルも準備しているので、それらは別日で使う計画だ。

 鏡の前でうんうんとうなずいていると、会場の方向から「わあああっ」という歓声がわずかに聞こえてきた。

『ノックアウトォォォッ! 勝者ぁ、ヤズゥゥゥル・ジュウモンーーーーーージィィィィッ!!!!』

 選手控室からでもアナウンスの声がうっすら聞こえるため、例の巻き舌コールが勝者を告げてくれた。

 ジュウモンジ家が勝ったってことはサークレット家が二連敗、領地マイナス6個か。ミスリルの件もあるし、グレイフナー中が予想していた通りサークレット家は今回で領地をかなり失うことになりそうだな。

 じっとしていられなくなり、選手控室で準備運動をして、十二元素拳の型を確認していく。

 まずは風の型。
 両手を手刀の形にし、右手を目の高さに合わせて左手を胸の前で構える。
 コンパクトな振りで右拳打、肘打ちなどをゆったりした動作で繰り返し、水の型へと繋げていく。水の型は防御に適しているので、風の型に織り交ぜていくことで効果を発揮する型だ。

 次は火の型。
 腰を深く落として右手を鉤爪の形にし、左手は握って腰だめにする。一撃一撃を確かめるようにしながら低い体勢で力強く拳を打ち込んでいく。洪家拳に似ているが、足技もかなり強力であり、決め技がいくつか存在する。
 相手の防護服を引き裂く、土の型へ繋げていく流れが今回の戦いではベストであろう。

 洋服に関しても大丈夫そうだな。デニムショーパンは生足のため下半身の動きを阻害されず、オーバーサイズロングTシャツもジョーと何度かやり取りして快適に動けるよう作り直しているので、十二元素拳を使うことにまったく問題はない。

「コンディションは抜群ね」

 忙しかったわりに体調がすこぶる良い。
 今なら身体強化“上の中”で一分は動けそうだ。

 理想は試合開始と同時に距離を詰め、猛ラッシュをかけて近接戦に持っていく身体強化メインのインファイト戦法だ。

 修業を長く続けて分かったのは、エリィは落雷魔法を除く才能のほとんどを光魔法と白魔法に使っていることだ。風魔法の上位である空魔法はどうにか習得してある程度使えるようになっているものの、それ以外の攻撃魔法を覚えていない。

 落雷魔法以外の攻撃魔法が極端に少ないんだよなぁ……。
 使えそうなのは風魔法中級“ウインドカッター”。
 上級“ウインドストーム”“ウインドソード”あと、“エアハンマー”だな。水魔法は操作が難しいからダメで、土魔法で得意な“サンドウォール”は防御って感じだし攻撃には使えない。あとは上位・空魔法の“空弾エアバレット”と“空圧エアプレス”の二つだ。

 緊急事態以外では落雷魔法を使わないと決めているので、近接戦こそ魔闘会で取るべき戦闘スタイルだな。

 風魔法、空魔法で牽制しつつ、身体強化と十二元素拳で距離をつめて戦うって感じか。

「あとは時間稼ぎね」

 頭の中で作戦を組み立て、型の確認をしているとあっという間に時間が過ぎてしまう。

 第3試合【ササル・ササイランサ対カリオ・ウェーメン】が始まった。

 会場からは強烈な歓声が響き、地下にある選手控室の壁が少し揺れるほどの振動が起きていた。

 今頃、『カリカリ梅』の顔が判明し、サウザンド家でモンタージュ照合が行われている。クラリスが報告に来ないところを見ると、万事うまく行っているのだろう。

 グレンフィディックのじいさんが突入部隊に加わると息巻いていたので、案外早く裏取引場所の現場を摘発できるかもな。

 クラリスが作った“対戦家リスト・対策ノート”に記載されているジョン・リッキーの資料を頭に入れ、時間稼ぎの対策を考えたところで大歓声が会場から聞こえた。

『ノックアウトォォォォッ! 勝者、ササルルルルルッ・ササイラァンサーーーーーーッ!!!』

 巻き舌コールが響き、リッキー家の敗北を知らせた。

 ふふっ、これでリッキー家は領地マイナス10個か。
 因縁があるササイランサ家は今頃、観客席で狂喜乱舞の大騒ぎをしているだろう。さすがササイランサ家当主のササル・ササイランサだ。

 コンコン、と控室の扉がノックされた。

「エリィ・ゴールデン嬢、準備はよろしいでしょうか」

 扉の外からシールド団員が声をかけてきた。
 靴紐がしっかり結んであることを確認し、杖もどきがベルトにささっているのを目視して、「はい、いつでも行けますわ」と答えてドアを開けた。

「………では、コロッセオの選手入場口までご案内致します」

 団員がエリィの生足を見て固まったがすぐに正気に戻って慇懃に一礼してきたので、レディの返礼をして歩き出した彼の後ろ姿を追う。

 選手通路は紫色の魔法陣が延々と描かれ独特の緊張感をはらんでおり、これから戦うんだな、と漠然とした高揚感を覚えた。

 高さ五メートルはある重厚な鉄格子の前にたどり着いた。
 その両脇には戦槌を持った真っ白いマントを着た門番がおり、エリィの美貌と生足に見惚れて戦槌を取り落としそうになったあと、すぐさま正気に戻って団員同様、静かに一礼した。

 鉄格子のあいだからは大きな闘技台と観客席が見える。
 ドクドクとエリィの心臓の鼓動が聞こえてくる。

『レディィィィス&ジェントルメェェェン! 魔闘会一日目、最終試合ッ! 魔闘会初の両家“倍返し・領地10個賭け”の超注目のカードォ! リッキー家対ゴールデン家の戦いが間もなく開始いたしますわっ!!!』

 ほどなくして実況者のレイニー・ハートの盛大な煽りが入った。

 うおおおおおおおおっ、という地鳴りのような歓声が響き渡る。

『勝ったほうが領地プラス30個! こんな試合、あとにも先にもお目にかかれなくってよ!』
『記憶している限りでは二十九年前、サウザンド家とバルドバット家が互いに倍返しを行っておりますな。そのときは互いに5個賭けでしたがね』
『またもイーサン・ワールド氏が口を開きましたわ!』
『ゴールデン家は大丈夫なのでしょうかね。首都で有名な美人姉妹の末っ子が出場とは……。グレイフナー魔法学校四年生で光適性クラスと手元の資料には書かれておりますが、どれほどの使い手なのか甚だ疑問ですな』
『エリィ・ゴールデン嬢は大人気ファッション雑誌Eimyのモデルでもありますわよ!』
『ほほう、午前中の試合で軽快な鞭さばきを見せたアリアナ・グランティーノ嬢と同じですな』
『言われてみればそうですわね! どんな試合を見せてくれるのか、わたくしワクワクで心臓が張り裂けそうですわ!』
『対するジョン・リッキー氏は魔闘会戦歴、15勝6敗と好成績ですぞ』
『おっと! ここでようやく入場の時間だ!』

 実況と解説者のやり取りで会場が否応なく熱気に包まれ、ざわつきが収まった。
 ピリピリとした緊張と興奮が空気に乗ってこちらに伝播してくる。

 鉄格子の両脇にいる門番の一人が杖を引き抜き、何か魔法を唱えると、ギギギギギッと猛獣の唸り声のような音を立てて鉄格子が開いた。

『それでは選手の登場でございますわっ! 戦いの神パリオポテスコーナーよりぃぃぃッ、リッキー家当主ぅ、ジョンーーーーッ・リッキーーーーーーーーーーーーッ!!!』

 とてつもない大歓声と鉄板を叩く音が響き渡る。
 オレンジ色の髪をしたボブの親父が対面の鉄格子から姿を現し、ゆっくりと闘技台へ登った。

『契りの神ディアゴイスコーナーよりィィィィッ、ゴールデン家四女ぉ! エリィィィィィッ・ゴーーーーーーーーールデンッッ!!!!!』

 門番二人と護衛のシールド団員に礼をし、コロッセオ闘技場へと足を踏み入れた。硬い地面を歩き、中央の闘技台を目指して歩く。

 会場は俺が姿を見せると沈黙し、すぐに実況のレイニー・ハートがその静寂を破った。

『なああああぁぁぁぁんんと! 現れたのは雑誌で見るより遥かに可憐なご令嬢っ! しかも超刺激的な洋服に身を包んでいるぅぅぅ!』

 瞬時に「ぎゃーー!」とか「うおおおおお」という声で実況がかき消された。

 ゴールデン家が陣取る応援席を見上げると、『ぶちのめせエリィお嬢様!!!』と書かれた横断幕が飾られており、使用人達が必死に叫びながら『エリィお嬢様最強!』『孤高のプリティガール!』と書かれた特大ボードを数人がかりで掲げている。

 クラリスとバリーは早くも号泣して最前列の手すりから乗り出し、頭をぶんぶんと上下に振っている。
 歌舞伎っ?! 歌舞伎の鏡獅子のごとく荒ぶってるな!?

 その脇ではエイミーが『エリィがんばれ! エリィがんばれ!』というド派手な応援旗を身体強化でばっさばっさと振り回していた。あまりに必死なので、エイミー目当てで近づいた観客を吹っ飛ばしていることにも気づいていない。無意識なのかゴールデン家の面々に応援旗を当てていないところがすごいぞ……。

 父ハワード、母アメリア、エドウィーナ、エリザベスが心配と期待をないまぜにした表情で見つめている。
 怪我しないようにしねえとな。

 応援団の後ろにはコバシガワ商会の面々約六十人、ミラーズの社員ら数十名が勢揃いしており、ジョー、ミサ、ウサックス指揮のもと、エリザベスお手製の手旗を皆で振っていた。

 アリアナが熱っぽい視線で俺を見つめている。

 オーケー盛り上がってきたぜ!
 悪くない。こういうのかなり好きだぞ。

 歩きながらゴールデン家応援席へ向かってエリィスマイルを送った。
 その様子が特大モニターに映し出されていたのか、さらに周囲の歓声が大きくなる。

 闘技台へ上がってジョン・リッキーと対峙すると、向こうが忌々しげに顔を歪めた。

 蛇のように鋭い目と病的に青白い顔をしている不気味な男だ。
 この親にしてあの子あり、と思わせるには充分な容姿と雰囲気をしており、彼らが後ろ暗い行為で金を稼いでいることが何となく臭ってくる。都内のクラブやバーにもこういった裏稼業に繋がっている連中がおり、そいつらと同じようなどことなく胡散臭い空気をジョン・リッキーは持っていた。

「貴様がゴールデン家の小娘か……。うちの息子が世話になったようだな」
「ごきげんよう。息子さんはお元気かしら?」
「ふん………学生の分際で魔闘会に出場したことを後悔するがいい」

 ジョン・リッキーはローブの内ポケットから長さ五十センチの杖を右手で取り出し、腰を落として左手を杖の切っ先に添えた。
 この構えは杖を得物として利用する“闘杖術”のごく一般的なスタイルだな。

 魔力を練っているところからすると、開始してすぐに魔法を唱えるつもりらしい。

「あら。自慢の息子さん、ボブ君はお元気ではないみたいですね」

 対するこちらは杖もどきを抜かず、十二元素拳“風の型”の構えを取った。
 戦い慣れているらしいジョン・リッキーが見たことのない構えに眉をひそめ、警戒の色を示した。

『エリィ・ゴールデン嬢! 何やら不可思議な構えを取っておりますわっ!』
『ジョン・リッキー氏の構えは闘杖術グレゴリウス流ですな。エリィ・ゴールデン嬢の構えは……正直、私にも見当がつきません。初めて見ます。杖を抜いていないところから見るに体術かと思いますが……』
『体術と言えば、“ストロングスタイル”やセラー神国の“セラー拳闘術”、“シールド護身術”などが有名ですけれど、そのどれにも当てはまらないのかしら?』
『そうですな。“シールド護身術”は杖を失った際の補助的な体術。最初から体術の構えを取るとなれば、“ストロングスタイル”と“セラー拳闘術”。あとはごく少数派ではありますが、パンタ王国の“腕相撲格闘術”が挙げられますな』

 二人の解説が会場中に響き、コロッセオにはどよめきが起きる。

 いいぞいいぞ、もっとやれ。ジョン・リッキーを疑心暗鬼にさせろ。精神的優位に立ったほうが戦いには勝つ。これはビジネスも同じだ。

「おまえごとき小娘が策を巡らせたところで私の勝ちは揺るがん。領地30個はもらうぞ」
「どうかしらね」
「抜かせ。子どものお遊びなどすぐに——」

 審判が「私語は厳禁だ」と注意をうながしてきたため、ボブの親父は口をつぐんだ。

『両者、睨み合っているー! エリィ・ゴールデン嬢は優しい顔のため全然怖くないぃぃぃっ!』
『しかし彼女の魔力はかなりのものですぞ』
『さあ、時間いっぱいですわ!』

 実況が場を盛り上げて会場がさらにヒートアップしたところで、審判が両手を上げて一気に振り下ろした。

 ゴォォンという試合開始の銅鑼の音が鳴り響いた。

 大歓声を背に感じながら全身を身体強化させて一気に前へ飛び出すと、ジョン・リッキーが杖を振って魔法を発動させた。
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