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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第四章 グレイフナーに舞い降りし女神

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第39話 魔闘会でショータイム!⑦

 カーテンを開ける音で目が覚めた。
 窓際へ顔を向けると、朝の柔らかい光が室内に降り注いでいる。

 エリィの部屋は俺好みのシックでモノトーンな家具で統一されているが、多少なりとも女の子感は出さなければいけないので、ベッドだけは天蓋付きのオシャンティで可愛らしいものにしている。

 取引している布屋特性“ピンクの六芒星マーク生地”で作られた布団を脇へよけて身体を起こして振り返ってみれば、カーテンを開けて朝の準備をするクラリスが鼻歌交じりに一礼してきた。

「おはようございますお嬢様っ。本日は見事な快晴で魔闘会日和でございますねぇ! ああもうウキウキが止まりませんねぇ!」

 朝っぱらからオバハンメイドのテンションが高い。
 今日も絶好調だ。

「おはよう、クラリス。そんなに浮かれても魔闘会の開始時刻は早くならないわよ」
「お嬢様。そんなおすまし顔をしていてもわたくしにはしっかりと分かります。エリィお嬢様は昔から魔闘会を観戦するのがそれはもう大好きでございました。この五日間は、大人も子どもも犯罪者も浮かれて楽しむのでございます。お嬢様もウキウキが止まらないのでございますよね? ね? ねっ?」
「犯罪者は楽しんじゃダメだと思うけど……。あと顔が近いわ。近いというより密着してるわ」
「そうですね! お嬢様の仰るとおりでございますね!」

 クラリスのテンションがぶち上がり過ぎていて、何も言ってもあかんパターン。

「さ、準備でございます、お嬢様」
「そんなに急がなくってもいいじゃない。まだ時間があるわよ」
「この昂ぶっている気持ちを抑えきれません」

 急かすクラリスにされるがまま、浴室に移動してシャワーを浴び、身体を乾かして室内着に着替えた。ミラーズ特注、ピンクの半袖オールインワンだ。

 ダイニングルームへ行くと、父ハワード、母アメリア、エドウィーナ、エリザベス、エイミーがすでに席に付いており、何やらいつもより興奮して歓談に興じている。

 使用人も料理人をのぞいて全員が集まっており、壁際にビシッと整列していた。

『おはようございます、エリィお嬢様っ!!!』

 俺が入室すると一斉に唱和して使用人達が頭を下げた。
 なぜか全員、頭にハチマキを巻いており、手にはグローブを付けている。

「お、おはようみんな」

 ただならぬ熱気に気圧された。
 テンション上がりすぎだろ、これ。

「おはよう、エリィ。よく眠れたかい?」

 父ハワードがゴールデン家特有の垂れ目をさらに下げ、優しげな顔でこちらを見てくる。

「はい、お父様。万全の体調ですわ。今なら戦いの神パリオポテスにも勝てると思いますわ」

 おおおおおおおおおっ!!!

 ちょっとしたリップサービスにも関わらず、ゴールデン家の面々から歓声が上がる。
 俺もこういうお祭り騒ぎとかテンションが高いのは大好物なので、徐々に気分が高揚してくる感覚が楽しい。

 席につくと、美人な姉達が代わる代わる話しかけてきた。

「エリィ、絶対に勝つのよ。わたし、負けるの大嫌いなのよ」と、いつになく強気な長女エドウィーナ。

「頑張りなさい。あなたがいつも一生懸命練習してきたのは知っているわ」と、厳しい顔付きで言いつつも内容は優しい次女エリザベス。

「戦ってる最中に旗が見えたら手を振ってね! 手はウサックスサインね!」と、右手でピースを作って何度も曲げてみせるお気楽な三女エイミー。

「あなた達、まだ朝食も済んでいないのよ。今からそんなことを言ってエリィを困らせてはいけません」

 母アメリアがテーブルをわずかに乗り出す三人の美人姉妹をたしなめ、やれやれと軽い溜め息をついた。父ハワードは全員を目に入れても痛くないと相好を崩し、娘と妻を温かい目で見つめ、しばらくするとバリーに目配せをした。

 それが合図となり朝食タイムになった。

 昨晩、バリーには「何でも作ります!」と言われたが、いつも通りバランスのいい献立で、と頼んでおいた。やはり特別な日ほど変わらぬルーティーンを守りたいと思う。

 どこか興奮した雰囲気の中、和やかな朝食の時間が流れていく。
 すると、全員が食べ終わる頃合いで、ダイニングルームに執事が駆け込んできた。

「で、出ました! 魔闘会の時間割と一日目の対戦相手です!」

 がたり、と椅子を鳴らして父ハワードが立ち上がり、執事から羊皮紙を受け取った。

 彼は素早く羊皮紙に目を走らせると、内容に驚愕して眉間に皺を寄せる。その顔を見て、母アメリア、三姉妹、使用人らは「まずい相手か!」と息を飲み、ハワードの周囲にわらわらと集まった。

 せっかくなのでエイミーの後に続いて、彼女と顔をくっつけるようにしてハワードの持つ羊皮紙を覗き込んだ。邪魔にならないようツインテールを押さえるのも忘れない。


—————————————————————
第403回グレイフナー王国魔闘会日程表

一日目
『一般トーナメント・1』
『団体戦』
『一騎討ち/指名戦・1』

二日目
『一般トーナメント・2』
『一騎討ち/指名戦・2』

三日目
『個人技』
『既存魔法研究発表』
『新魔法発表』
『新武器発表』
『新防具発表』
『魔獣披露』

四日目
『一騎討ち/くじ引き戦・1』
『一騎討ち/指名戦・3』

五日目
『一騎討ち/くじ引き戦・2』
『一騎討ち/指名戦・4』
—————————————————————


 なるほど。一騎討ち・指名戦はまとめてやらずに、少しずつ消化していくのか。
 確かにこうして花形の一騎討ちを日程の最後にしておけば、魔闘会がその日その日で盛り上がる。タイムスケジュールを消化していくごとに、対戦カードが領地数の多い貴族——すなわち派手で迫力のある戦いになっていく仕様だろうな。

 三日目は休憩日のようなもので戦闘行為はなく、毎年恒例の学術発表会みたいなスケジュールとなっている。クラリスに聞いた限りでは、この日は学者や研究志向の魔法使いが命を賭けて一年行ってきた自分の研究成果を発表するらしく、この魔闘会三日目で過去様々な新技術が生まれたようだ。

 コバシガワ商会とミラーズが協力して作製した新素材『ゴールデッシュ・ヘア』もここで簡単に発表する予定だ。まあ、ファッションショーに注力しているから軽くになるが、やっておかないよりマシだろう。

 四日目と五日目は一騎討ちのくじ引き戦と指名戦のみになるから、大会で一番盛り上がるはずだ。

「えっ?!!」

 俺の横でエイミーが素っ頓狂な声を上げた。
 彼女の目線は日程表の下、対戦相手へ向けられており『一騎討ち/指名戦・1』の一点を見つめている。

 すぐに目線を下へと滑らせた。


—————————————————————
対戦表

一日目

『一騎討ち/指名戦・1』

◯領地数1〜99個 ※親が左、子が右。括弧内が賭けた領地数

【シャベルクリン家 →(1) オゥイエ家】
【サンシャイン家 →(1) ジャスティス家】
【ショボン家 →(1) ビロッサ家】
【パッシリー家 →(1) グランティーノ家】
      ・
      ・
      ・
      ・

◯領地数100個以上
【ストライク家 →(3) サークレット家】
【ジュウモンジ家 →(3) サークレット家】
【ササイランサ家 →(倍返し10) リッキー家】
【リッキー家 →(倍返し10) ゴールデン家】
—————————————————————


「倍返しですって!!?」

 うぉい!
 リッキー家もゴールデン家に倍返しだと?!
 しかも10個賭けかよ!
 これ、勝ったほうに領地30個プラスか?!

 敵さん、どんだけ強気なんだよ。
 戦力のである『焼肉レバニラ』はあえなく御用となってるから、ゴールデン家に残りの『カリカリ梅』を当ててくるってことか?

「うふふふふふふふふ……」
「あらあら……ホホホ………」

 俺とハワードが倍返しの意味を考えていると、背後から恐ろしげな笑い声が聞こえてきた。

 振り返ると、母アメリアとエドウィーナが黒い笑みでリッキー家の文字を睨んで額に青筋を浮かべていた。

 気の弱いメイドはその禍々しいオーラに尻もちをつき、新米らしきコックは「ひぃぃぃっ」と声をもらしながら生まれたての子鹿のように足を震わせ隣の先輩にすがりついた。

「リッキー家は髪だけじゃなくて頭の中もすっかりオレンジ色みたいねぇ」
「そうでございますね、お母様。負けたら領地が30も減りますのにねぇ」
「元シールドで“爆炎”と恐れられたわたくしに勝ったエリィがいるとも知らずにねぇ」
「まったくですわねぇ。格下だと思って舐めてますわねぇ」
「本当に、オツムの弱い家ですこと」
「オホホホホ、お母様ったらお言葉が過ぎますわよ」
「あらあら。それでは“脳みそが果実オレンジ”と言い直しましょうか」
「その呼び方が妥当だと思いますわオホホホホホホホホ」
「ありがとうウフフフフフフフフフフ」

 ひぃぃぃぃぃっ!
 マミーと姉ちゃんが怖ひぃぃっ。

「エリィッッ!!!」

 くわっと猛禽類のように両目をかっ開いてマミーが大声を出した。
 全員が思わずビクゥッ、と肩を震わせた。

 気の弱いメイドは気絶し、執事らは反射的に膝をついて頭を垂れていつでも叱責を受けれる体勢になった。いや、君たちは何も悪いことしてないからそんな畏まらないでいいんだぞと言いたいがとても言える雰囲気ではない。

「叩き潰しなさいっ! あそこの息子といい当主といい、調子に乗りすぎよ!」
「イ、イエスマムッ!」

 母のあまりの剣幕に、思わずシールド式の敬礼で返答した。
 なぜか使用人とハワードも冷や汗を垂らして敬礼をし、すぐさま軍隊のごとく応援の準備をし始めた。

「アメリアの言う通りだ! 今からエリィを鼓舞する応援練習をするぞぉ!」
「応っ!!!」

 父ハワードの号令でメイド、執事、自宅警護兵、料理人らが庭へと駆けていく。

「エリィ、応援の手旗をコバシガワ商会に配りに行くけど一緒に行く?」

 ハワードと使用人が去った後、何事もなかったようにエイミーがテーブルの下から手旗の入った大きな袋を引っ張り出して、にこにこ顔で聞いてきた。
 エイミーのマイペースさがすごい。

「行きますわ!」

 このままここにいたらマミー&エドウィーナの気合い入れ直し訓練を受けそうだったので、素早く手を挙げた。

「私も行くわ。応援用の洋服を確認したいし」

 エリザベスが言いながら荷物を運んでもらうためにメイドを呼ぶ。

「気をつけていってらっしゃい。と言っても、エリィは出場選手でシールドの護衛がつくからいつもより安全よ。逃亡とみなされないように、その方にも声を掛けてから出かけなさいね。玄関口にいらっしゃるから」

 母アメリアが厳しい口調で助言してくる。
 わかりましたわ、と返事をしてエイミー、エリザベスと部屋を出ようとすると、エドウィーナが声を上げた。

「エイミー、エリザベス、あなた達は金貨何枚がいいかしら」
「うーんとね、200枚!」
「私は150枚でお願いしますわ」
「手続きは私がしておくからね」
「はーい」
「お姉様におまかせしてしまい申し訳ございません」

 エイミーとエリザベスが嬉しそうにスカートの裾をつまんでレディの礼をした。

 金貨が200枚に150枚?
 何の話だ?

「まったく、勝ちが分かっているからつまらない賭けになるわね」
「あらあらお母様。そう言いつつも口元がほころんでおりますわよ」
「いやぁねぇ、昔は鉄仮面なんて呼ばれていたんだけど歳かしらねぇ」
「領地財政の足しになるんですもの、無理はないですわ」
「そうねぇ。ゴールデン家の評価は低いでしょうから倍率は最低でも3倍は見込めるわね」
「ご慧眼ですわ。わたくし、この日のために個人的な蓄えをすべて金貨にしましたの」
「まあまあ、怖い子ね。いくら賭けるつもりなの?」
「1500枚……1500万ロンほど。お母様はおいくら賭けるのですか?」
「わたくし? わたくしはね——」

 母アメリアがそれはもう爽やかな笑顔でパンパンと両手を叩くと、メイド長のハイジとメイド二名が重そうな手押し台車を押してダイニングルームに入ってきた。台車にはこんもりと何かが乗っており、白布がかぶせられている。

 アメリアは台車を一瞥し、パチンと指を鳴らした。

 ハイジ達がバサッと勢いよく白布をめくると、ぎっしり積まれた金貨の山が姿を現し、朝の太陽を浴びてキラキラと輝いた。

「エリィの勝ちに2億8500万ロン賭けるわ」

 俺が見た中で一番のドヤ顔を浮かべるマミー。

 賭けぇっ?!
 賭け金の話?!!
 マミーどんだけ強気ッ?!!!

 エドウィーナがお淑やかに右手で口元を隠し、声を上げた。

「お母様には敵いませんわね」
「エドウィーナもそのお金は研究で稼いだものでしょう? 可愛い子ねぇ」
「お母様の特別指導があったからこそ、ですわ」
「オホホホホホホホホホホホホホ」
「ウフフフフフフフフフフフフフ」

 二人は笑い合うとハイジから魔闘会一日目の対戦表を受け取り、ギャンブル予想をし始めた。

 ……これはあれだ。関わったら話が終わらないやつだ。

 エイミーとエリザベスも察したのか、いい笑顔で「さぁ行きましょう!」と言った。
 俺達三人は登録選手を護衛する筋肉……もといシールド団員とともに、バリーの運転する馬車へと乗り込んだ。

 ゴールデン家の庭からは応援練習の声が響いていた。



      ◯



 コバシガワ商会とミラーズに応援手旗を届けてファッションショーの打ち合わせを簡単にし、宣伝を兼ねる魔闘会用の出場衣装を選んで、いよいよ会場であるコロッセオへ向かう。

 魔闘会一日目ということもあり、首都グレイフナーは日本でも見たことがない空前の盛り上がりを見せていた。

 グレイフナー大通りは完全交通規制がかかり、馬車は登録選手しか使用できず、普段は四車線ある道路が二車線に変更されている。

 馬車の窓からはお祭り騒ぎの様子が見えた。
 旅行者やお上りさんは一番街の冒険者協会兼魔導研究所に飾られた巨大ポスターがめずらしいのか、『王国劇場でファッションショー開催!』の文字と一緒に笑顔で写るエイミーを見上げていた。

 いいねいいね、どんどんミラーズで洋服を買ってくれよ。魔闘会に合わせて大量に在庫確保したからな。おかげさまで財布が重くなりますなぁ〜。

 馬車がグレイフナー大通りを越えて王宮の手前で右折すると、前方に観客収容数十万人を誇るコロッセオが見えてきた。

 ユキムラ・セキノが施したと言われる固定魔法で建造物が強化されており、その石造りにはまったく傷がついていなかった。

 ファンタジー映画に出てきそうな神やら精霊が石で掘られていてめっちゃカッコいい。
 はぁ……スマホあったら写メ撮るんだけどね。

「お嬢様、コロッセオを見て溜め息をっ?! どうされました! お腹が痛いのでございますか?!」
「クラリス、さっきから心配しすぎよ。あと顔が近いわ」
「これは失礼をいたしました」
「お嬢様大丈夫ですかっ!」
「ひっ……バリー、前を見て運転してちょうだい!」

 御者席からガラス窓に顔を張り付けるな。リアルホラーだよ。

 まあ、いつものやりとりのおかげで緊張がほぐれた。
 その点だけは感謝だな。

 コロッセオに入ると、選手待機室へと通された。
 受付の魔闘会実行委員は俺の顔を見て驚き、エリィの可愛さに完全に固まっていた。何度も本当に出場するんだな、と念を押されて、やめておいたほうがいいんじゃないか、私と食事に行ったほうがいいんじゃないかと話が長かったので、軽く“電打エレキトリック”しておいた。

 領地100個以上の貴族は控室が完全個室になっており、お供を一人連れていけるルールのようだ。

 当然、クラリスに同伴してもらい、ミラーズで用意した洋服を着替える準備だけしておいて、選手出入り口から内へと入った。

 選手でもシールドの護衛付きだが闘技場と控室を自由に移動できる。
 受付に選手ゾーンから抜けるわ、と言って客室への階段を上がった。

 外の空気に触れた途端、わっという声と熱気が全身を覆った。

「すごい人ね……」
「一日目のこの時間でほぼ満席。アリアナお嬢様が出場するからでしょう」
「そういうことね」

 十万人を要するコロッセオは人で埋め尽くされていた。
 客席の構造は地球にあるスタジアムとよく似ていて、石の椅子がずらりと等間隔にならんでいる。なぜか背もたれが分厚い鉄板になっていて、どの椅子の背もたれもいびつに歪んでいた。

 中央には闘技台が二つあり、どうやら交互に試合が行われるようだ。

「あ、エリィ! こっちだよぉ!」

 エイミーの声が背後から聞こえた。
 振り返れば、最前列を確保しているゴールデン家の面々が食い入るように試合を見て、叫んだり雄叫びを上げたりしている。

 俺とクラリスは階段を上がってゴールデン家が確保している席へと移動した。

「時間がかかったね。もう第1試合が始まっちゃったよ」

 エイミーは楽しそうに手旗を振って、がんばれー、と声を出している。
 会場の北側には古代アーティファクトの超巨大映像出力魔道具が設置され、動画転送魔道具の映像を映し出していた。

 巨大モニターにカメラ……話には聞いていたけど本当に動くとは思わなかった。
 莫大な魔力を使うから祭事や重要イベント以外での運用は厳しいらしい。

「アリアナちゃん、下剋上のおかげですっかり注目選手だよ。どこもかしこもアリアナ・グランティーノがどんな魔法使いなのかって話題で持ち切りだね」
「そうなんだ」
「初日にこんなに人が集まることって滅多にないんだって」
「じゃあみんな第4試合【パッシリー家×グランティーノ家】を見にきているの?」
「そうそう。ガブル家に下剋上した選手に興味があるんだよ」

 エイミーが言うと、アリアナの弟妹達が会場の人混みをかき分けてこちらに走ってきた。長男のフランクが先頭になり、狐耳がもふもふなちびっ子がわーと言いながら近づいてくる。

「エリィお姉ちゃん、こんにちは…」

 アリアナよりも無口なフランクがボソッと言って頭を下げた。

「エリィお姉ちゃん、ハロー!」「こんにちは!」「今日お姉ちゃんも出るんでしょ?!」「お姉ちゃんの出番まだ?」「うにゅにゅっ」

 明るい弟妹達が俺の周囲に集まってぎゅうぎゅうと押してくる。
 仕方ないのですべての狐耳をこれでもかともっふもっふ撫でて、一番の年下を抱っこしてわしゃわしゃと尻尾を触りまくった。
 癒やしだな……これは……。

 またガブル家がグランティーノ家の誰かを誘拐しないとも限らないので、サウザンド家から護衛を出してもらっている。弟妹達は全員無事だ。

 クラリスがアリアナの弟妹にお菓子を配るのを見届け、背もたれが鉄板の座席に着席して観戦に加わった。

「“サンドウォール”!」
「“エアハンマー”!」

 下位貴族ということもあり、闘いのレベルはそこまで高くない。
 それでも楽しいのは大きな会場で魔法使い同士が真剣に戦っているからだろう。一般人からすれば、下位上級魔法を連発している姿を見れるため、非常に楽しい見世物になっているといえる。

 そうこうするうちに第2、第3試合が終了した。

 すると会場のどこかから、ガン、ガン、ガン、と鉄板を叩く音が響き始め、次々に音が増えていく。隣を見ると、ゴールデン家の面々が手に持った棒や武器で自分の前の背もたれを叩き出した。

 およそ十万人の出す音がうわーんと反響して会場全体を包み込む。

 背もたれが鉄板なのは叩くためね。なるほどね。物騒だね。
 使用人達が手袋してたのは手に豆ができないようにね。なるほどね。物騒だね。

 コロッセオ全体にマイク音が響き、軽快なテンポで女性が実況を始めた。

『レディィィィス&ジェントルメェェェン! わたくしが魔闘会でお馴染み、実況者のレイニー・ハートでございまぁぁす! 注目の試合のみをお送りするわたくしの実況、本日は皆さんが大注目している第4試合【パッシリー家×グランティーノ家】の一戦を本気でアナウンスしたいと思いますわッ!』

 アーティファクト巨大モニターに、パーマ頭で真っ赤な口紅をつけたオバハンがマイクっぽい形の杖を握りしめている姿が映し出された。

 会場が雄叫びと狂騒の渦になり、途方もない歓声が上がる。

『オーーーッホッホッホ! それでは選手の登場でございますわ! 戦いの神パリオポテスコーナーよりぃぃぃッ、パッシリー家当主ぅ、ジャミロォォォッ・パッシリィィィィッ!!!』

 ワッ、と歓声が上がった。
 どこか日本で聞いたことのあるような格闘技の入場っぽいコールとともに、どこにでもいそうな茶髪のおっさんが両手を上げて登場した。顔には冷や汗が浮かんでおり、もうどうにでもなれという表情をしている。

『それでは皆さんお待ちかね、契りの神ディアゴイスコーナーよりぃぃぃッ、グランティーノ家長女ぉ、アリアナァァァァァ・グランティーーーーーノォーーーーーッ!!!』

 レイニー・ハートの巻き舌コールで爆発せんばかりの歓声が起こる。

 歓声と一緒に反対側のコーナーからクールプリティな狐美少女が尻尾をふりふり登場し、大画面にアリアナのどアップが映し出されると、周囲が静まり返った。

 彼女の服は“ミラーズ特別戦闘服モデル”の赤色ライダースジャケットに黒色ミニワンピース。靴は彼女お気に入り、蹴っても叩いても壊れないくるぶし丈シールドモデル・レディースバージョンの軍靴だ。ポニーテールをリボンでまとめていて可愛らしい。
 ワンピースとライダースジャケットは当然、ゴールデッシュ・ヘアで編まれているため相当頑丈にできている。

 アリアナは直径百メートルの闘技台に上がってきょろきょろと客席を見回すと、俺と弟妹を見つけたのかこっちを見つめてにっこりと微笑み、長いまつげでパチリとウインクをした。

 巨大モニターに彼女のプリティさが投影され、静かな会場が再度爆発した。
 とんでもない大歓声だ。

『現れたのは狐のプリンセスと見まごう美少女! 放送席にたった今入った情報によると、彼女は超大人気雑誌Eimy正式モデルのお嬢様っ! 可愛いだけじゃないと言いたげな鋭い視線を対戦者へ向けているわ!』

 歓声が止まない中、茶髪のおっさんとアリアナが向かい合った。

 審判はシールド団員。
 戦いで死者が出ないように四方から高位白魔法師が魔力を練って杖を向けている。魔闘会は本気の魔法合戦にも関わらず、死者を過去一名も出していない。安心と信頼の白魔法師協会、とか言っているグレンフィディックじいさんのドヤ顔が脳裏をかすめる。

 半分負けたような顔をしている茶髪おっさん、ジャミロ・パッシリーが右手に杖を構え、左手に短剣を構えた。短剣ウエポン、サウスポータイプらしい。

 対するアリアナは鞭を腰のベルトから外し、パァンと一振りして腕をだらりと下げた。

『アリアナ選手、まさかの鞭装備!』
『これはめずらしいですねぇ』
『皆様っ! ほとんどしゃべらない解説のイーサン・ワールド氏が口を開きましたわっ』

 巨大モニターに瓶底メガネのオッサンが映し出され、すぐに闘技台へと映像が戻った。どうやら瓶底メガネは解説者らしいな。

『鞭がウエポンだと杖の取扱いが非常に難しくなる。アリアナ嬢の戦闘スタイルは身体強化メインの可能性が高いですな』
『あの年齢で身体強化を?!』
『ガブル家に下剋上をするほどの実力です、当然でしょう』
『たしかにそうでございますわ! ますますアリアナ嬢の強さに期待が膨らみますわね』
『鞭で距離を取りつつ制限時間15分で判定勝ちを狙う戦い方ですかな。過去の鞭使いはアウトファイターが多かったと記憶しております』

 一騎討ちは15分の制限時間内に『気絶』『戦闘不能』『負けを認めさせる』の三つどれかで勝利。勝負が制限時間内でつかなかった場合、判定審査にもつれこみ、そこで勝敗が決する。

 そうこうしているうちに審判が両手を上げ、一気に振り下ろした。
 ゴォン! という銅鑼の音が響いて第4試合が始まった。

『さあ始まりました第4試合、パッシリー家×グランティーノ家!』

「いてまえアリアナお嬢様ぁっ!!!」
「ぶちかませゴラァァッ!!!」

 クラリスとバリーが耳を塞ぎたくなるほどの叫び声を上げた。
 急にびっくりするわ! 心臓飛び出るかと思ったぞ?!

「重力魔法でひねりつぶしなさいっ!!!!」
「やっておしまい!!!!」

 マミーとエドウィーナが魔界の魔獣を指揮するがごとく右手を振りかざした。
 こっちはこっちでこええよ。

「アリアナちゃん頑張って〜!」
「集中ですわよ!」
「おねえちゃ〜ん!」

 エイミー、エリザベス、弟妹達がまともな応援をしているのでホッとした。

「GO!」「GO!」「GO!」「GO!」「アリアナ、GO!」
「GO!」「GO!」「GO!」「GO!」「アリアナ、GO!」

 ゴールデン家応援団がアリアナのために作った『GO!』と描かれた特大看板を掲げ、『アリアナ、GO!』の声に合わせて看板を引っくり返すと、彼女が流し目を送る特大の絵柄に切り替わる。

 俺も応援団に合わせて「GO!」の掛け声を送った。

「“ウインドソード”!」

 茶髪オッサンの対戦者が杖を振ると、風の刃がアリアナへと飛んだ。
 様子見の魔法といったところか。

 パァン!

 鞭打一閃。
 アリアナの一振りで“ウインドソード”が掻き消えた。
 身体強化“上の下”の一振りだ。

『アリアナ嬢の目にもとまらぬ鞭さばきぃ!』
『これは速いですね』
『風魔法上級を一撃で消し去る威力ですわ!』
『狙いが正確ですな』

 解説者が冷静に状況を伝え、対戦相手の茶髪オッサンが苦い顔を作って杖を地面へ向けた。

「“サンドウォール”!」

 土魔法上級“サンドウォール”。
 闘技台の地面から高さ三メートルの土壁が現れた。

 茶髪オッサンが飛び退いて距離を取り、魔力を練り上げて杖を土壁に向かって掲げた。

「我が技を受けよ!」

 大声で茶髪オッサンが宣言すると杖の先に魔力が集まっていき、風とともに“ウインドソード”が10連射され、遠隔操作された風刃がブーメランのように土壁を迂回してアリアナへと殺到した。

 おっ。あの茶髪オッサン、魔法の軌道を途中で変えるとはなかなか技量がある。ある程度魔力操作が上手くないとできない芸当だ。さすが貴族の魔法使いと言える。

「ひっ」「よけろ!」「あかぁん!」「いけぇぇ!」「おでの金貨が!」「かわせぇ!」「風でパンツが……見えないっ」「おあああっ!」「まずいぃぃっっ!」

 各所から声が上がった。
 誰も彼も魔法賭博チケットを握りしめ、歓喜やら悲痛をがなりたてる。


 パパパパパパパァン!


 そんな観客のリアクションとは真逆のアリアナは冷静に鞭を操り、魔法をすべて迎撃して空中に霧散させた。

 相変わらずの高速鞭さばき。
 アリアナの腕が残像を起こす様が視認できた。

『なんてことですの?! アリアナ嬢すべて鞭で迎撃っ!』
『速い……ですな』

 ああああああっ、という悲鳴。
 うおおおおおっ、と観客席からすぐさま歓声が上がる。

「GO!」「GO!」「GO!」「GO!」「アリアナ、GO!」

 ゴールデン家応援団が後押しする。
 アリアナが身体強化を施したまま前方へと飛び出した。

 土壁を鞭であっさり破壊し、空中で一回転して一気に距離を詰める。
 狐の尻尾とワンピースがふわりとなびく。

「GO!」「GO!」「GO!」「GO!」「アリアナ、GO!」

「“重力グラビトン”…」

 さらにアリアナがノータイムで重力魔法を行使した。

 茶髪オッサンは上位魔法の準備をしていたのか、突然の黒魔法に驚愕した。足元にどす黒い重力場が出現してずるずると地面へ身体を引っ張られ、重力場に足を捕らわれ片膝をついた。

『杖なしですって?! アリアナ嬢、超レアな無杖魔法使いですわぁぁあっっ!』
『これは……私も初めて見ました』
『信じられませんわっ!』
『杖なしならば戦術が大幅に広がりますな』

 実況二人の驚愕と分析。
 さらに盛り上がる会場。

 重力魔法は持続性のある魔法なので一度唱えれば魔力操作から解放される。
 そのため、唱え終わればすぐに身体強化が可能だ。

「終わり…」

 アリアナはオッサンに近づくと右足を前方へ出し、独楽を投げるように鞭を真横に振り抜いて引き戻した。
 重力魔法で動きを封じて鞭で叩くという凶悪コンボが炸裂する。
 パンツが見えそうで見えない。

 ドパァン! と激しい鞭音が響くと、身体強化による鞭の一撃が茶髪オッサンの腹部付近で破裂し、衝撃で後方へと吹っ飛ばした。

 直撃を避け、鞭のしなりと引き戻しのパワーを利用した衝撃波による攻撃だ。
 直撃だと確実にオッサンの腹が真っ二つになるからな。


———ゴベキャッッ!!!


 オッサンが山なりに飛んで闘技場の壁に激突し、土偶みたいなポーズで壁にめり込んだ。
 そして白目になると杖と短刀をぽろりと落とし、そっと意識を手放した。

『アリアナ嬢の鞭攻撃が決まりましたわッッ!』
『あれは痛いですね』

 審判のシールド団員が身体強化で駆け寄りオッサンの安否を確認し、両手を交差させる。

 ゴォォォン、という決着の銅鑼が鳴り響いた。

『ノックアウトォォッ! 勝者はプリティ狐ガールゥゥゥ、アリアナァーーーーー・グルルルルランティーーーーーノォォォォォォォォッ!!!!!』

 レイニー・ハートによる巻き舌のコールがされ、あまりの実力差に会場から歓声が弾けるように上がった。
 魔法賭博チケットが宙に舞い、ガンガンガンガンという背もたれを叩く音が周囲に反響する。

 アリアナはこちらを向くとピースマークを作り、人差し指と中指を二回折り曲げた。最近、エイミーが考案した“ウサックスサイン”だ。意味は特にない。

 俺、エイミー、エリザベス、アリアナ弟妹全員で“ウサックスサイン”を返す。

「よっしゃああああああ!!」
「見たかゴラァァッ!!」

 クラリスとバリーが鉄板に拳を叩きつけながら野太い声を上げた。
 後で痛くなるからやめなさいって。

「オーッホッホッホッホッホッホ!!!」
「オホホホホホホホホホホホホホ!!!」

 相変わらず怖いマミーとエドウィーナが勝ち誇った高笑いを上げて、束になった魔法賭博チケットを団扇代わりにして顔をパタパタと扇ぐ。
 あの顔はぜってー高額をアリアナに賭けたな。とりあえず目を爛々とさせた笑顔がリアルにこわい。

 ハワード率いるゴールデン家応援団は諸手を挙げて勝ちを喜び、抱き合っている。

 すげえ熱気だな、魔闘会。
 会場が一体になってこのお祭りを楽しもうという気概が見え、グレイフナー王国の名物であり一大観光イベントだって理由がよく分かる。

 にしてもさ……。
 アリアナの戦いでこれだろ?

 俺んときどんだけ盛り上がるんだよ………。
 絶対やべえぞ……。
 クラリスとバリーが発狂しないか不安でしょうがない。

 余裕の表情で退場するアリアナと、救護班に救出される対戦相手の茶髪オッサンを見つめながら、自分の戦いが楽しみであると同時に周囲の応援はっちゃけ具合が心配になった。



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グレイフナー王国貴族所有領地数

 1.バルドバット家(1002)
 2.サウザンド家 (1001)
 3.テイラー家  (822)
 4.ヤナギハラ家 (746)
 5.ササイランサ家(600)
 6.ガブル家   (550)
――――――――――――――――――――
 7.ジャクソン家 (470)
 8.サークレット家(420)
 9.ピーチャン家 (402)
10.クラーク家  (367)
11.ウォーカー家 (340)
12.ヤングマン家 (322)
13.ジュウモンジ家(285)
14.エヴァンス家 (252)
15.シュタイガー家(238)
16.ツ家     (220)
17.ストライク家 (209)
18.ワイルド家  (150)
19.リッキー家  (150)
20.マウンテン家 (124)
21.シルバー家  (119)
22.ショフス家  (111)
23.モッツ家   (106)
24.ギャリック家 (103)
25.ゴールデン家 (100)
――――――――――――――――――――
26.フィッシャー家(96)
27.ムーフォウ家 (92)
      ・
      ・
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332.グランティーノ家(2)
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魔闘会終了後、獲得領地が反映されます。
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