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エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~ 作者:四葉夕卜/よだ

第二章 異世界ダイエット

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第5話 服飾とイケメンエリート

 ミラーズの店主ミサは爽やかな営業スマイルで出迎えてくれた。茶色のボブカットがふわりと動いて、腹の前で合わせている両手がなんとも美しい。ただ、どことなくスマイルには陰があるように見えた。そう、営業職にしかわからない、悪い売上げが頭にこびりついて離れない、という焦燥が垣間見える。

「店内で長話も何ですから、奥の応接室へどうぞ」
「お嬢様よろしいですか?」
「いいわよ。バリーには少し遅くなると伝えてちょうだい」
「かしこまりました」

 クラリスは御者をしているバリーのもとへ行くと、すぐに戻ってきた。

「エリィ、これなんてどう?」

 店内をうろうろしていたエイミーが、心底嬉しそうに洋服を広げた。
 新作、と値札に書かれている。

 言われてみれば、茶色のやぼったい皮のドレスが細身に合うシルエットで作られていて、大きい丸襟になっている。首もとや背中をすべて覆うような従来の防御力重視のデザインではない。これはデザイナーのセンスが光るな。

「姉様はなんでも似合うと思う」
「もうちゃんと考えてよエリィ」

 ちょっぴりふてくされて眉を寄せるエイミーが可愛い。

「後ほどご試着されてはいかがですか?」

 店主のミサが笑顔でエイミーから皮のドレスを受け取り微笑んだ。

「ええ、そうします!」
「ではこちらへどうぞ」

 俺とエイミーとクラリスは店の奥へと通された。中は採寸途中の洋服や、デザイン用の厚紙、定規やはさみなどが作業台に散乱している。さらに奥には応接室があり、簡単な話し合いや取引に使用するであろうソファと机があった。机は入り口と同じ白亜の木製であった。

「あの服のデザイナーはミサさん?」
「いえ、あれは私の弟が作った物です。まだまだ半人前ですが才能はあると思います」

 座ると、エリィと同い年ぐらいの青年が、紅茶を持ってきた。

 なかなかの美青年だ。頭の部分が大きいハンチング帽をかぶって、紺色のシャツとグレーのズボンを履いている。形はいまいちだがオシャレに見えないこともない。ちらっと目が合い会釈をする。

「弟のジョーです」

 ジョーはハンチングを大ざっぱな手つきで取って無愛想に挨拶をした。栗毛が帽子から飛び出して彼の額を隠す。好奇心が強いのか俺たちをよく観察していた。

「愛想がなくて申し訳ありません」
「ええ、それは構いません。それよりあの新作はどういった意図でデザインをしたの?」
「ほらジョー、黙ってないで答えなさい」

 めんどくさそうにハンチングをかぶり直し、ジョーは両手を広げた。

「最近の服は全部でかい。だから細いラインの服がいいと思ったんだ。それだけだよ」
「人気が出るかしらね?」
「いいって感じる人がいると思う」
「どの年齢層に向けて作ったの?」
「若い女性向けだよ」

 このジョーという青年は今の流行がどこかおかしい、と勘付いている。

 どう考えたってバリエーションが少なすぎる。チェック柄もストライプ柄もドット柄もないなんて、普通に売れる服を考えていたら必ず出てくるデザインだろうよ。地球の百年前のファッションでも存在するよ? おかしいよまじで?

 異世界のファッションにかなり期待してたんだよな。
 なんかこう、ぶっとんだデザインとか、胸だけを隠すきわどい鎧とか、色々と妄想してた。

「で、話は終わり? 仕事があるからもういいかな」
「ジョー! 世間知らずで誠に申し訳ありませんお嬢様」
「ううん、かまわないわ。仕事中に呼び止めてしまってごめんなさいね」

 ジョーは俺をちらっとみると、不愉快そうに眉をひそめて首だけで会釈して部屋を出て行こうとした。

 分かるよ。仕事中に余計な話されるとほんと迷惑だよな。それも集中してる仕事ならなおさらだ。うん、しょうがないしょうがない。

 だが去り際に聞こえてきた言葉に、俺は一瞬思考が停止した。

 小声で「すげえデブ」と言ったのが聞こえたのだ。

 ジョーはドアの前で一礼して出て行こうとする。

 おいこらくそガキ。
 調子に乗ってんじゃねえぞ。
 初対面でデブなどふざけているにもほどあがる。しかもこちらは客。ちょっといいデザインができるのか何だかしらねえが営業がまるでなってない。

 俺は無言で立ち上がった。
 皆が何事かと俺を見上げてくる。

「待ちなさいあなた」

 俺の声にびくっとしたジョーはこちらを向いた。

「客に向かってデブとはよく言ったものね」
「い……いや、俺はそんなこと…」
「聞こえていたわよ」
「ええっと……」
「正直に言ったらどうなの」
「いや………」

 やっちまった、という顔をしている。

「本当のことを言うなら許す機会をあげるわ」
「……」
「男らしく言ったらどうなのよ!!?」
「あの、ごめん!」

 おぼんを下げて青年は謝った。

「ジョー! あなた何てことしてくれるのッ!!」

 ミサは顔を真っ赤にして飛び掛からん勢いで怒鳴りつけた。

「だ、だってさ、あまりにも…」
「もう向こうに行ってなさい!」
「いいんですよミサさん」

 俺は立ち上がって、うなだれる彼に向き合った。

「ジョー。こっちを見なさい」

 顔を上げた瞬間に、俺は彼の頬をかなり強く張った。

 ばちん、という音が響く。

 全員言葉を失った。
 一見すると虫も殺せないような少女が怒って強烈なビンタをしたのだ。無理もない。

「年頃の女にそういうこと言うのは冗談でもやめて。すごく傷つくから」
「……悪かったよ」
「デブって本人に伝えてどうするの?」
「どうするって言われても」
「言って誰かが得するの?」
「いや……しないよ…」
「身体のことは本人が一番気にしてることなんだから言うべきじゃないわよ。たとえどんなに気になったとしてもね。あなたはそれを思ってしまったとしても、胸にしまっておくべきなの。わかる? そんなことすらできないの?」
「で、できるよ!」
「じゃあこれからはそうして」

 俺は言いたいことを言ってさっさと椅子に座った。
 クラリスは神妙にうなずき、店主ミサは何度も頭を下げる。
 エイミーは驚いて口をあんぐり開けている。
 ジョーは俯いたまま部屋を出て行った。

 やりすぎたか、と思ったがあれぐらいやっとかないと気がすまない。エリィはデブでブスでニキビ面ではあるが心優しきレディだ。エリィをデブと言っていいのは俺とエリィだけだ。

 それに、相手の失策から優位に立つのは営業方法として悪くない。
 優位性が霧散しないうちに、俺は切り出した。

「お話というのは?」

 店主ミサはどうやら気を取り直すためか、ボブカットを二、三度かき上げた。

「エリィお嬢様が先日お話ししていたスカートのフリルの件です」
「別にあなたの店の物が悪いと言っているわけじゃないわよ」
「それはわかっています。ただ、どの辺がおかしいのか教えてください」
「ええっと、どの辺というと?」

 俺はわざと分からないふりをした。

「お嬢様がもっとスカートの生地を薄くした方がいいと。それはなぜです?」
「だってやぼったいじゃない」
「ですがあの形が現在の流行ですよ」
「流行、流行ねえ……」

 逡巡し、言葉を選んでいく。

「ミサさんはどうしてこの店をやろうと思ったの? 若いのにこんな素敵なお店の店主さんになるのは大変だったでしょう」

 話を逸らし、俺はにっこり笑った。ミサは弟の失敗があり、あくまでも教えを乞う側なので俺の世間話にもすんなり付き合ってくれた。

「昔からの夢だったのです」
「そういえば……ここは以前肉屋でした、お嬢様」

 クラリスが静かに合いの手を入れる。

「そうです、父が代々肉屋をやっていました。十年前メインストリートに大きな肉屋とステーキ屋が併設してできたことで徐々に客足が遠のいていき、売り上げと経営維持のストレスで父が病気になりました」

 それから家族総出で店の立て直しを計ったが、結局、素人同然の母やミサだけではうまくいかず、借金をする前に肉屋を閉めることにしたらしい。その跡地をどうするかと言う話になったところで、有名貴族の侍女をしていたミサが貯めていたお金を使って、個人服飾店を作ったそうだ。母親にはかなり反対されたが、絵師を目指していた弟のジョーの説得もあり、押し切って開業、なんとか一年間店を潰さずにやってここまできた。

 だが、経営は苦しい。経営で貯金を崩すほどではないにしろ、ぎりぎり黒字というありさまで、結局は生活費で貯金がなくなっていくという状況だ。新しい服を開発しようにも資金がない。借りるにしても、この店と土地を担保にする必要があるそうで、失うことを考えると怖くてできない。ジョーが出稼ぎに行って貯めた金でちょこちょこ新作を出す程度。八方塞がりってやつだ。まあ、俺からすれば全然塞がってないけどな。

 涙もろいクラリスはハンカチで涙を拭いている。

 ここまでの話を聞くために、俺は様々な営業技術を使っていた。

 俺の営業スタイルはシンプルで『聞くのが上手い』それに集約している。
 『聞くのが上手い』この技術でトップ営業にのし上がった。

 どんな業界の営業でも基本はこの三つ。

 挨拶する
 聞く
 提案する

 営業はこの三つが長い会話の中で常に入り交じって完成するものだ。同僚に話しても、もっと魔法のような売れる言葉を教えてくれ、と言われるが、はっきり言ってそんなものはない。話を聞いて、何が欲しいのか聞き出し、相手に見合った自社の商品やサービスを提案していく。話に具体性があるとさらに理解してもらいやすい。

 九割方の営業マンは聞くのが上手くない。下手ではないんだが、相手との距離感だったり、会話のテンポを考えていない。考えなさすぎる、といってもいい。何が欲しいのか分からないうちに商品の提案をしたって、響かないのは当然だろう。一方的に押しつけられるようで、まったく納得できない。

 あとは質問攻めになるパターンもよく見る。論外だ。

 今回は単純に多く相づちして、大きなリアクションを取り、話しやすいように自分の悲しい話を間に挟んであげた。話しすぎないように短めに伝えるのがコツだ。こっちの話を聞きたがったら少し話せばいい。俺がいじめで肩身が狭い、でも頑張ってるよ、という話題で随分警戒心を解いてくれたようだ。主導権はこちらにあるので至極簡単だな。

 親身になって話を聞いてくれる人に、誰でも自分のことを話したくなるものだ。

 俺は嘘をつかないようにしている。嘘くさい相づちや合いの手もしない。常に真剣に、誠実に相手の話を聞こうとしている。できていなくても、やろうとする。これを心に決めて実行しはじめてからめきめき営業成績が伸びて、給料が気づいたら三倍ぐらいになっていた。それに加えて商品知識や業界の流れ、業界で起きた昔の出来事、話題にことかかないよう勉強をしていた。

 何だか遠い過去に感じる。
 ……あのプレゼン、どうなったかな。

「経営挽回のアイデアが、先日のお嬢様の言葉に隠されているのではないかと思ったのです!」

 語り尽くしたのか、クラリスに続いて店主ミサまで泣き出した。現状が相当きついんだろう。

 藁にもすがる思いだな。

「最初の話に戻るけど、ミサさんはどうしてこの店をはじめたの?」
「え? ですからこの店がなくならないように…」
「違うわよ。夢だったんでしょ、服屋を開業することが」
「あっ…」

 ミサは顔を上げて、驚いたような顔をした。

「それは忘れちゃいけないんじゃない?」

 俺は彼女が何を欲しいのか『聞き出す』ことに成功した。欲しい物が分かれば、こちらの持っているカードを上手く見せていくだけだ。

 彼女は目を伏せて黙り込み、やがてくすくすと笑い出した。

「私、そんなことも忘れちゃってたみたいですね」
「いいじゃない。いま思い出したんだから」
「そうですね!」
「エリィが立派になってる……わたし感動した…」
「お嬢様! 素晴らしきお考えでございます!」
「おどうだば! おどうだば!」

 いつの間にか部屋に来ていたバリーが号泣している。
 入ってきたの全然気づかなかったよおっさん!

「それでさっきの話なんだけど、オーダーメイドで私の服と、エイミー姉様の服を作ってくれないかしら。仕上がりを見れば、良いかか悪いか、流行るかそうでないか、分かるでしょう」
「はい! ありがとうございます!」

 よしよしうまくいったぞ。これを最初からオーダーメイドで新作を作ってくれ、と言っても作成はしてくれなかっただろう。デザイナーは個人で独特のこだわりがあるし、素人のデザインなんかを受け付けてくれるとは思えない。

 最後のダメ押しといこう。

「この店が流行の発信地になったら……すごいと思わない?」

 俺は目を輝かせて身を乗り出した。

 店主ミサは電撃に打たれたようにハッとした表情になり、やる気に満ちあふれた目をこちらに向けた。

「それは、すごいですね…。そんなこと考えたこともなかった。いえ、昔はもっと考えていたのよ! そうだったじゃない。色んな服を作りたいって考えていた!」

 まあミサに才能があるかは賭けだな。

 それから俺たちは作業場へ行き、細かいデザインの指示を出した。できるできないは関係なく、とにかくアイデアを出していく。あとの采配はミサに任せればいい。正直、デザインの細かい所まではわからない。だが日本のファッション雑誌を読み漁り、最先端の服を着る人間に囲まれてきたのだ、自分のセンスには絶対の自信がある。このダサい国をまともにするのは急務だ。見ていてげんなりする。まあ見た目がデブの少女にどこまでできるかはわからないが、面白いし、やりたい放題やってやろう。

 ミニスカートがばんばん見れるようにするぞ!
 ホットパンツがどんどん流行るようにするぞ!

 えいえいおーッ!

「エリィ、えいえいおーってどういう意味?」

 いかん口に出てた。興奮しすぎた。

「よしやるぞ、っていう意味」
「えいえいおー?」
「違います姉様。えいっ、えいっ、おーッ!」

 俺は拳を空中に突き出した。
 エイミーも真似して拳を上げる。

「エリィは面白いね」

 にこにこしている伝説級美女のエイミーにもいい服を着せたい。今の服じゃ彼女の良さを一割も引き出していない。俺の横ですごいすごいと連呼している優しい美女を、お洒落ガールにしてやろう。ふふふ…。

 俺の指示に従って紙にラフ画を描いていくジョーは、目を白黒させていた。
 この世界で見たことのないデザインを見て、狐につままれたような気分なのだろう。

「あんた……何者?」
「こらジョー!」
「あいたっ」
「あんたじゃないでしょうエリィお嬢様でしょう」
「ぐっ……エリィ、お嬢様…」
「エリィでいいわよ。ジョー」

 先ほどの失態は気にしてないと前面に出して俺は笑った。
 相当ビンタが利いているのか、やけに従順だ。

「エリィ、これはどこで考えたんだ?」

 ジョーはオーガンジースカートのラフ画を指さした。
 丈は膝上で細かいプリーツが入った、透けるぐらい薄いふわっとしたスカートだ。柄はお上品なスミレ柄にしておいた。これを実現できる縫製の技術があるかはわからない。

「あとこれ。縦線がいっぱい入ってる服。こんなのが似合う人いる? 花瓶とか調度品でした見たことないんだけど」
「ストライプ柄ね」
「スト……?」
「私が名付けたの。ストライプ」

 これはエイミー用だ。膝上スカートは恥ずかしいから、膝下まであるロングワンピースで、防御力を完全に無視した綿生地で作る予定だ。染色はミサが知り合いの職人に頼んでどうにかするらしい。色は白地に紺のストライプなので、落ち着いた「お嬢」な雰囲気になるだろう。

「それになぜカーディガンを首で結ぶんだ? 邪魔じゃないか?」
「アクセントになるでしょ。遊び心よ」

 日本で流行っている、肩にカーディガンを掛けて胸元で結ぶ、例のアレだ。
 薄手の生地で色は薄黄色。エイミーに似合うこと間違いなし。

「ねえエリィ。なんで靴はサンダルなの?」

 エイミーがラフ画の足を指さした。

「サンダルは防御力が最低ランクですよ?」

 クラリスが大きく首をかしげる。

 どんだけ脳筋!?

「ねえ、防御力ってそんなに大事?」
「それはもう! 有事の際には防御力! そして攻撃魔法! 武の国グレイフナー王国の伝統でございます!」
「クラリスが言う有事っていうのは年に何回あるのよ?」
「ええっとですね……最近じゃ平和なので、数十年とんとありませんね」
「でしょう!?」
「ですがお嬢様! わたくしにはこのデザインの服が流行るとはとても思えないのですが…」
「やってみないとわからないわよ」

 交渉の結果、服の原価のみでオーダーメイドをやってもらうことになったし、懐はそんなに痛くない。流行らなくても俺とエイミーがいいならそれでいい。文化も思想も違うから確実に流行るとは言えない。流行ったらめっちゃ面白いけどな!

 まさにローリスクハイリターン。

「エリィは天才だから大丈夫よ! えいえいおーっ!」

 エイミーはかけ声の使い方が微妙に違う。

「サンダルだと足下がすっきりして爽やかに見えるでしょ。それに最近暑くなってきたし、過ごしやすいよ」
「言われてみればそうかも…」
「サンダルなんて家でしか履かないと思ってたわ」

 ジョーは鉛筆を口にくわえて腕を組み、ミサはラフ画を広げて唸った。

 サンダルは足下が木製でかかとを少し底上げし、細い革ベルトを使う。

「ねえエリィの服はこんなシンプルなのでいいの?」
「姉様、私デブだからワンピースしか似合わないよ」
「そんなことないと思うけど」

 エイミーは本気で疑問、と思ったのか顔中にはてなマークを浮かべている。

「そんなことあるの! 黒にしておけば引き締まって見えるから多少ましになるわ」
「色にそんな効果が?」

 ジョーが身を乗り出して聞いてくる。好奇心が先行してビンタの件はもはや頭にないようだ。

「黒、紺、深い色は収縮して見える。ピンク、赤、パステルカラーは膨張して見えるの。例えば今私が着ている制服は紺色でしょ? これを脱いで…」

 ブレザーを脱いで、近くにあった薄ピンクの布を体に巻き付けた。

「どう?」
「確かに言われてみれば…」

 今度は椅子に掛けてあった黒の膝掛けを巻き付ける。

「ほら」
「うん、そうかもしれねえ……」

 ジョーは心底驚いたのか、ハンチングを取って頭をがしがし掻いている。

「おやいけませんお嬢様。もうこんな時間でございます」
「バリー、いたのね」

 部屋の隅っこにいたバリーが懐中時計を出している。

「いますぞお嬢様! 私はずっとお側におりましたぞ!」
「いけない~! 早く帰りましょ! お母様に叱られる!」

 エイミーがあわあわと慌て出したので、急いで帰り支度をした。

 夕食が遅いと美容にも悪い。
 これ以上ニキビが増えるのは困る。
 乙女は大変だ。つれぇー。

「では試作品ができたら伝えてちょうだい」

 そう言って俺たちは布やら裁縫道具が散らばる工房から出て、ミラーズのドアを開けた。外にいたガタイのいいドアマンが剣をしょって頭を下げる。彼はエイミーの横顔をちらちらと見ていた。

「エリィ……!」

 ジョーが鉛筆を持ったまま走って追いかけてきた。
 何事かと全員が注目する。

 彼は思い詰めた表情をしたあと、くちびるを噛みしめて、俺の目を睨むように見つめた。

「さっきは本当にごめん!」

 猛烈な勢いで頭を下げた。心の底から反省しているようだ。

「他の女の子にはひどいこと言わないようにね」

 俺は微笑ましくなってお小言を言った。

「わ、わかってるよ!」

 ジョーはバツの悪そうな顔をしてから、何か言いにくそうに頭にかぶったハンチングを取った。

「俺……あんなすげえデザイン初めて見た。エリィはすげえよ!」
「ふふふ、そうでしょう」

 中身はスーパーイケメンエリートだからな!
 外見はデブだけど!

「次来るとき俺の考えたデザインを見てくれよ!」
「ええ、いいわよ」

 馬車が動き出して帰路につく。
 ジョーは路地を曲がるまでずっと馬車を見ていた。いい青年じゃないか。

「仲直りしてよかった」

 馬車の後部座席からジョーを見ていたエイミーが呟いた。

「ふふ、そうだね」
「エリィがあんな風に怒るところ初めて見たからびっくりしたよ」
「雷に打たれてから、思ったことはちゃんと言うって決めたの」
「それは…どうして?」
「人間言わなきゃ伝わらないことばっかりでしょ。あのとき死んじゃってたら、と思うとね……後悔しない生き方をしないと」
「エリィ…」

 エイミーは泣きそうな顔になって俺を抱き寄せ、やさしく頭を撫でてくれた。

 分かってもらえた、と思っていても相手には三割ぐらいしか伝わってないもんだ。だからみんな一生懸命、自分の思っていることや気持ちを伝えるんだ。いや、伝える努力をしなくちゃいけない。エリィはもっと自己主張をするべきだった。だから俺が代わりにやってやるんだ。

 そう、どんな偶然かはわからないが、日本の記憶を持ったままエリィという人間に俺はなったのだ。彼女のためにも恥じない生き方をしなくちゃいけない。何事にも妥協しちゃいけない。いやー俺ってめっちゃいい奴。

「新しい服、楽しみだなあ」
「うん」

 よし、服が売れたらがっぽり胴元としてデザイン料をもらうぞ。
 クラリスに頼んで契約書を作ってもらうつもりだ。この世界にもしっかり契約書は存在するみたいだしな。

「お嬢ざまっ!」
「おどうだば!」

 また涙腺が崩壊しているクラリスとバリーはスルーしておいて、俺はエイミーの胸の温かさをしっかりと堪能した。

 つーかバリー。泣きながら馬を操るのはほんと危ないからやめてくれよ。
エリィ 身長160㎝・体重106㎏(±0kg)
+注意+
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